※この作品はR-18です。

拍手お礼文(小話集)   作:夢枕 七変化

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目次

ルフィ
ミホーク
ドフラミンゴ
ロー
マルコ
イゾウ
シャンクス
レイリー
クロコダイル
ベックマン

線で区切ってあるだけです。飛んだりは出来ません。予めご了承ください。


酔わされたのは

【ルフィ】

 

 冒険が1つ、また終わった。楽しそうに笑う皆を見て、宴の花を添えるように演奏したり歌ったりするのも1応は終えたし、今はブルックも居るのだからとそっと立ち上がる。

 いつもどんなに小さな島でも何かしら問題を発生させる天才に、私の心は蝕まれている。姉として、接していく事が最近時につらくなるの。

 子供だと思っていたのに……。時々男の顔をするから、対応に困るわ。

 

 「どこ行くんだ?」

 「ルフィ……?」

 「あァ……傍から離れんなって言ってんだろ」

 「……酔ったみたいなの。だから、1人になりたくて」

 

 暗かったから確証は無かったけど、本当にルフィみたいね。姉離れしなさいと笑う事が、今は出来ない。

 離れられたら、きっと……泣いてしまう。ルフィの幸せを今は、願えないの。

 

 「なら、帰るぞ。本当に様子可笑しいしな」

 

 そう言ってルフィは私を抱き上げるから、その腕力に驚かされる。身長も、体格も、それ程変わらないのに。

 ……男の人、なんだ。性別が違うのだ……と、気付かされる。

 部屋に入った所で降ろしてくれたから、ルフィの方を振り向いて笑う。……笑うのよ、私。

 

 「送ってくれて、ありがとう」

 

 そのままドアを閉めようとしたらルフィに抱き締められて、何事かと思っている間に部屋の中に入ったルフィがドアを閉めたのに気付く。そして、そのドアに抑え込まれる形となった私は、直後に重ねられた唇に息を止めてしまう。

 目的が分からない。理由が分からないの。

 勝手に流れ落ちる涙に、ルフィは唇を離すと指先でそれを拭って首を傾げる。それから困ったような、何処か大人びた顔で笑った。

 

 「好きだ。こういう事も、もっと凄ェ事もしたいくらい。……なァ、俺のクルーとか、俺の姉って立場の他に、俺の女になれよ」

 「ルフィ……」

 

 夢だろうか、それとも願望が聞かせる妄想だろうか。そう思いながらも、夢でも願望でも、幻でも良いからとルフィの首に腕を回す。

 

 「私も、ルフィが好き……大好き……!」

 

 勝手に震える体をルフィは強く抱き締めて、そのまま私をベッドへと移動させた。重なった唇が震えていたのは、どちらが震えていたのか。

 それさえも分からないまま、2人の影は重なる。宴の席から消えた2人にクルーは気付いていて、幸せを願いもう1度祝杯をあげていた。

─────*

【ミホーク】

 

 海軍の宴に招待されたミホークに付き合ってその場に居たけど、私には馴染めそうも無い。正直、この場に居るのが苦しい。

 海軍の全てが腐ってる訳じゃないと知ってるし、海賊の全てが正義でもない事を知ってる。だけど、私が出逢った大半の海軍は腐ってたし、海賊が正義だったのは間違いないもの。

 

 「傍を離れるなと、言っておいた筈だが?」

 「……ごめんなさい。少し、酔ったみたい」

 「ならば、帰るぞ」

 「え、でも……まだ宴は……!!」

 「顔さえ出せばよい。義務は果たした」

 

 そのまま抱き上げられてしまえば、私にはそれ以上は何も言えない。船内に戻れば、それだけで呼吸が楽になった気がしたのだから、不思議なものね。

 

 「部屋まで送ってくれてありがとう。シャワーでも浴びて少し休」

 

 言葉を最後まで紡げなかった。船内の、いいえ、部屋のドアの内側で身体を抑え込まれるのと同時に、唇を奪われてしまったのだから。

 何が起きてるのかわからない。私はただ、保護されて共に過ごしてるだけの……居候で……なのに、なんで突然!?

 

 「ここまでされても伝わらぬか」

 「な、にを……?」

 「俺は、惚れてもいない女を傍らに置いて身を呈して迄、守り続ける趣味は無い」

 

 言葉を理解しきれない。待って、どういう事?

 都合のいい夢でも見てるのかな。でも、他にどういう事か分からなくて、でも期待するのが……怖い。

 

 「愛してる、俺のモノになれ。……さァ、頷け」

 

 傲慢過ぎる。そう思うのに、私はその言葉が嬉しくて、泣きそうになるのを耐えながら頷いた。

 だってその瞳にも、言葉にも嘘は無いから。ミホークは、私に嘘を言わないから。

 

 「私も、ミホークが、好き……ミホークのものに、して」

 「足りぬな。俺は愛してるのに、好き……程度とは。今宵は眠れぬものと思え」

 

 同等の想いを返すまでは、泣かれようとも辞めるつもりは無いぞと言われて思考が止まる。そのまま沈められたベッドで重なった影は、絡み合い離れようとはしなかった。

─────☆

【ドフラミンゴ】

 

 花火が打ち上がる。こんな盛大な事をしても捕まる事の無い海賊……か。

 多過ぎる彼の呼名は、即ち私との距離。どうやら私はドフラミンゴにとって好みのタイプらしいけど、私はお飾りの人形でいるつもりは無いのよ。

 不毛な片想いよね。相手が好きなのは、幻の私……そう、わかってるのだから。

 恐らく原作の私が好みだとか、原作の私に惚れる設定で、その影響を受けてるだけなのよ。そう思ったら泣きそうになって、宴の席を抜け出す。

 助けて貰えた時点で、原作の流れなんて大きく変わってるのは分かってる。でも……大筋は何も変わってないと知っていて〝私〟を見て欲しいだなんて……我儘にも程があるわ。

 

 「傍を離れるなと言った筈だがなァ?」

 

 草を踏み締める音と共に聞こえて来た声に反応して、肩が揺れる。泣きそうな今の顔を、見られたくない。

 

 「酔ったみたいで、風に当たってたの」

 「……お前が、酔う?……っ!なら、帰るぞ」

 「え?」

 

 驚いている間に抱き上げられてしまい、部屋へと連れ帰られる。その間に言われたのは、体調が悪かったなら言えという言葉で、妙に焦っているのが何だか可愛く思えてしまう。

 まだ宴は終わってないから、部屋の入口で降ろされると同時に、宴の席へと帰るだろうと思って笑いかける。シャワーでも浴びて寝れば、気持ちも落ち着くわよね。

 

 「送ってくれてありがとう。宴楽しんで来てね」

 

 ドアを閉めようと手を伸ばした時、私を抱えるようにして入室したドフラミンゴがドアを閉めて、鍵をかけながら私をそのドアに押し付ける形で唇を奪う。重ねられた唇からワインの味がするから、酔ってるのだろうか?

 戦いの後は気が昂るから、発散したいのだろうか。だとしても、私は……そんな風に使われるのは……嫌。

 そっと離れた唇により浅く呼吸を繰り返せば、目尻に溜まっていた涙を指先で拭いながら、ドフラミンゴは困ったような顔をした。苦しそうな、泣き出しそうな顔だ。

 

 「愛してる。いい加減、受け入れろ」

 「なに、言って……」

 「何を理由に俺から逃げ回ってんのか知らねェが、大切にしてるだろうが。お前は俺のモノだ。昔から……な」

 

 昔から、という言葉に胸がドクンと脈打つ。それの真意をはかりきれないの。

 

 「私……でも……」

 「誰かと比べた事なんかねェ。俺は、全ての時代、全ての姿のお前を愛してる。観念して、俺のものになれ」

 

 ドフラミンゴの言葉の意味は半分位しか分からない。分からないけど、私は酔ってない酒の力を借りて本音を口にする。

 今本音を口にしなければ、絶対に後悔するから。そんなのは嫌だと思うから。

 

 「私、ドフラミンゴを「ドフィ、だろ」」

 

 矯正された言葉を受けて、私は言い直す。その首に腕を伸ばしながら。

 

 「私、ドフィの事が好きよ。諦めようと思ったのに、無理だったの」

 

 勝手に諦めようとするなと言いながら、ドフィは私を抱き上げてくれる。だから、漸く届いたその首に腕を回して深く互いの唇を貪り合う。

 酔わされたのは、きっと互いの存在だ。そう言わんばかりに重なった影が離れるのは、随分先になりそうである。

─────*

【ロー】

 

 宴の席で1人だけ浮いてる気がするのは、私の精神的なものだろうなと思う。手にしてた酒瓶を空にしてから立ち上がると、宴の会場となっている浜辺を離れる。

 助けて貰ってから現在まで、年の差がそれ程ある訳でもないのに、関係性は明らかに過保護な兄と無能な妹。……何も出来ない私に、そばに居る資格なんてない。

 宴の喧騒が小さくなって、風が髪の毛を揺らす。波の音が聞こえる中で、このまま海や風に溶けてしまえたら……なんて、そんな事を願ってしまう。

 

 「傍を離れるなと、言った筈だが?」

 

 突然のその声に驚き顔を上げれば、不機嫌そうなローの姿。それに慌てて言い訳するけど、その瞬間に変わる顔色。

 

 「酔った、みたいで……」

 「……お前が?検査するから帰るぞ」

 

 抵抗を許さないローのそれにより連れ帰られてしまう。でも、検査される訳にはいかないからと、女の子の日が近いのかもなんて言えば漸く検査するのは取りやめて貰えた。

 部屋の入口で降ろしてもらえたから、それに対して笑いかける。ローは、皆の所に戻らなくちゃね。

 

 「送ってくれてありがとう」

 

 そのままドアを閉めようとしたら、何故か中に押し入ってくるローに首を傾げる。その直後、いつの間にか立ち位置が入れ替わっていて入って来たばかりのドアに押し付けられていた。

 初心者にするには濃厚過ぎる口付けが、思考能力を奪うけど、されてる理由が分からない。僅かに離れた唇の隙間で、ローは言う。

 

 「俺のものになれ」

 「そんな、私、妹みたいなもので「女にしか、見た事ねェよ。俺は、お前が欲しい」」

 

 遮られた言葉の続きを紡げる筈も無く、私はただローに両手を伸ばす。抱きつくと同時に勝手に零れ落ちる涙を拭う余裕もないままに、言葉を口にした。

 

 「私も、ずっと……」

 

 そのままベッドに重なり合った二人は、ただひたすらに互いを求めて身を寄せ合う。宴の喧騒に紛れた2人が、その後宴の席へと戻る事は無かった。

 酔わされたのは酒ではなく、愛しい温もり。望み続けた相手の体温。

─────☆

【マルコ】

 

 楽しそうに歌ったり踊ったりしてる仲間達を眺めて、死人が出なかった事にホッと胸を撫で下ろした。それでも忙しそうに動き回り、時に楽しそうにお酒を口にしては家族にお小言を言って回る心配症で真面目なお兄ちゃんを見詰める。

 私は船縁から立ち上がるとそっと後甲板に移動した。喧騒から遠ざかるだけで、気持ちが随分楽になった気がしたのだから不思議なものよね。

 想われてるのはわかってるけど、同時に妹としてである事、下手をすれば娘としてである事をわかってる。でも、泣く権利さえ私には無い。

 波の音と潮風が気持ち良くて目を伏せる。そこに少し尖った声がかけられて、私はゆっくりと振り向いた。

 

 「突然消えるなぃ。目視できる距離にいろと言ってるだろぃ」

 「ごめんなさい。……少し、酔ったみたいで」

 「酔った?……なら、少し検査した方が「大丈夫、タイミングが悪かっただけだから」」

 

 私の言葉で意味を理解したのか、マルコはその表示を緩める。それでもその手は私をヒョイと抱き上げるのだから、理解に苦しむ。

 近くなった顔が心配そうに私を見ていて、抵抗なんてできる筈がない。部屋に帰る事を告げられて、運ばれたのは私の部屋。

 入口で降ろされたので、私は今できる精一杯の笑顔を向ける。触れられていた所が、熱い……。

 

 「送ってくれて、ありがとう」

 

 言葉の直後に、ドアを閉めようと伸ばした手は空をかいた。そして何が起きたのか認識するより早く反転させられた身体は、今まさに閉めようとしていたドアに押し付けられて……。

 何故か重なっている唇、先程まで呑んでいたのはラムらしいなんて考えるくらいには現実感がない。え、マルコ、酔ってる?

 それとも、誰かと勘違いしてるのかな。マルコ、それともたまってるの!?

 

 「こういう意味で好きだよぃ。兄としてしか見てないとわかっちゃいるが、こう無防備だと……流石につらい」

 「それ、私、の……台詞……」

 「え?」

 

 ああ、そうだ。今の私は、お酒に酔ってる事になっているのよね。

 なら、良いかな、伝えてしまっても。この温もりを手離したくないと願っても。

 

 「私、マルコを……」

 

 その首に腕を回して抱き着きながら、その耳元で想いを吐露すれば強く抱きしめてくれるその腕。それが少し震えていたのは、私の願望だろうか。

 絡み合う二人の身体が離れる事は、暫くなかった。ただ、どちらからともなく重なった唇が、この先の二人の関係を示しているだろう。

 酔わされたのは、互いの色香か、体温か。兎も角……酒にでは無いだろう。

─────*

【イゾウ】

 

 何が理由なのかはわかってるけど、認めたくない。認めたくないから、私には分からないの。

 落ち着かない心を持て余して、サッチの手伝いをしてみたり、マルコに仕事が無いかと聞いて宴の途中で働こうとするなと叱られてみたりしてる。だけどじっとしてるのがつらい……心がザワつくのよ。

 誰にでも平等に笑いかけて、特別を作ろうとしてないイゾウに、その視線を向けられるだけで舞い上がりそうになるの。情けない自分に溜息落として、私は1人宴の席から離れて行く。

 喧騒から遠ざかれば、漸く呼吸が楽になった気がする。妹でも良いから、特別に想って欲しいとか……そんな情けない事を思ってる自分が卑しくて、苦しい。

 

 「こんな所で何してるんだね?」

 「イゾウ……」

 「1人で月見酒……って訳でもなさそうだね。俺は、傍を離れないよう言わなかったかい?」

 「ごめんなさい。酔ったみたいで……休んでたの」

 「……酔った?なら、部屋に帰るぞ」

 

 言葉と同時に抱き上げられて、有無を言わさずに部屋に連れ戻される。でも、隊長であるイゾウをこんな所に拘束は出来ない。

 

 「送ってくれて、ありがとう。……皆待ってるから、隊長は戻ってください」

 「……本当に、素直じゃないね」

 「え?」

 

 ドアを閉めようとした時にかけられた声に驚いて視線を向けるのと、身体が反転させられたのは同時。ドアに押し付けられる形で押さえ込まれて、そのまま重なる唇。

 驚きから抵抗しようとすれば、更に深くなるそれに呼吸の仕方さえ分からなくなる。そうしてやっと唇が離れる頃には、呼吸を整えるのに必死で他の事を考える余裕なんて失われていた。

 

 「俺はこういう意味で好ましく思ってるよ。……諦めて、俺の女になりな」

 「イゾウ……私」

 

 どうして突然とか、遊び相手が欲しいのかなとか、色々考えてしまう。けど、そうじゃない。

 だから私は、酔ってもいないお酒の力を最大限に利用して言葉を向ける。精一杯の想いを込めて。

 

 「私……の、方がずっと……!!」

 

 ずっと慕ってたのだと、その言葉は唇により遮られた。酔わされたのは、甘く危険なその香りにか、どちらが酔わされたのかは、永遠の謎だろう。

─────☆

【シャンクス】

 

 いつもと変わらない賑やかな光景。1人、私だけが異質に浮かんでる気がする。

 誰かが言っていた。この船に女を乗せないのは、シャンクスかベックに惚れていざこざを起こすからだと。

 ヤソップの時もあったらしいけど、それに関しては、妻帯者であり二言目には息子が妻に似ていて可愛いと繰り返されては、その心も萎み問題にならなかったらしいけど。私がここにいるのは、幼い頃にお世話になっていた事があるから……それだけ。

 こんな想いを抱いてると知られたら、それこそ傍に居る事さえ許されはしないだろう。そう思ったら胸が苦しくて、だけど無様に泣く事だけはしたくないとその場を去る。

 1人になれば、それだけで随分気持ちが楽になった気がした。この船の幹部から見たら、相手が誰でもそもそも私は娘枠よ。

 

 「傍を離れるなって、教えてなかったか?」

 「……シャンクス」

 「姿が見えなくなったら、心配……するだろう」

 「ごめんなさい。少し、酔ったみたいで」

 「ベッ「大丈夫!休んだら楽になったし、徹夜してたのが悪かっただけよ」」

 

 叫ばれるより先に言葉を遮り、その唇を掌で押さえればなんとか騒がれずに済んだ。折角の宴を、台無しにしたくない。

 そう思ってホッと息を吐き出したら視界が回った。気が付いた時にはシャンクスに抱き上げられていて、見慣れた顔が少し困ったような顔で前を見ている。

 その顔に見惚れそうになって小さく頭を振ってから、到着した部屋で下ろしてもらう。心配そうに見てくるシャンクスに、私は明るく笑った……つもりだけど、どうだろう。

 

 「送ってくれてありがとう。このまま少し休むわ。シャンクスは皆と宴を楽し」

 

 言葉を告げながらドアノブを握り、そっと閉ざしていた筈なのに、気が付いた時には私の手は空をかいていたし、ドアは閉められていたけどそのドアに私の身体は押さえ付けられていた。それと同時に、深く、重ねられている唇。

 お休みの挨拶にしては濃厚過ぎるそれに、混乱する。あ……最近陸に行ってないから溜まってるのかな?

 

 「こういう意味で、女として、愛してる」

 「……え?」

 「……船長命令だとか言って、襲うのは流石にしたくねェんだ。なァ、俺の事が、嫌いか?」

 

 本当は酔ってなんかいなかった筈なのに、真っ赤になってる自分を自覚する。視線を泳がせて、でも、これで素直になれなかったら死ぬ程後悔するのだけは分かってるの。

 だから両腕を伸ばして、その首に腕を回す。自ら重ねた唇が、その問い掛けの答えになる事を知っているから。

 そのまま離れようとした唇は、シャンクスの掌により妨害される。その唇の甘さに、いつも溺れそうになるのを自覚していた。

 酔わされたのは、唇の甘さか、シャンクス自身か。どちらにしても、この酔いがさめる頃にはもう、元の関係には戻れないだろう。

─────*

【レイリー】

 

 突然現れて、そして去って行く人。来てくれた時は驚くけど、そりゃ嬉しい。

 でも……でもね、去られた後どれだけ苦しくなるか。それなら、ずっと1人の方がマシな気がする時があるの。

 森の動物達と酒盛りしてる様子を眺めてたけど、苦しくなってさりげなく席を立つ。適当な木を見付けて登ると、枝に腰掛けて月を眺める。

 1人になったら、少しばかり冷静になれた気がする。勝手に、相手のいる人を想ってるのだから、この苦しみは自業自得よ。

 

 「傍を離れないように……と、いつも言ってると思うんだがね?」

 「いつも私を独りにする人が、何言ってるのよ」

 「珍しい……寂しいのかな?」

 「……っ!違うの、ごめんなさい。酔ったみたいで、風に当たりたかったの。八つ当たりして、ごめんなさい」

 「酔った?君が?……部屋に戻ろうか」

 

 そう言うと枝ごと切り落とされて、落下する身体。それに悲鳴をあげるより早く抱きとめられて、その勢いのまま部屋へと運ばれる。

 既に、老人とは思えないというか、人だと信じられない領域。そんな人が心配そうに私を見てるから、期待したいと浅ましく訴える心を感じて目を伏せると、部屋の入口で笑顔を作った。

 

 「送ってくれてありがとう。もう、帰るでしょ?また来たらお茶でも……」

 

 言葉を最後まで紡ぐ事は出来ないままに、ドアの方を向いていた筈が、ドアに押さえ付けられる形になっていた。そして、唇はレイさんのそれで塞がれている。

 なんでこんな事に?シャッキーを、裏切りたくない。

女遊びが激しいと聞いてはいる。私は、遊びでも良いなんて思えないの!

 遅れて抵抗しようとしたら、それより少し早く唇を離されて真剣な眼差しに貫かれる。何事だろうかと顔を見れば、その蠱惑的な唇が動いた。

 

 「私は、君を愛しく想っているよ。私の女になりなさい」

 「だめ……よ。シャッキーが……」

 「私が女を何人作っても、アレは気にしないさ」

 「遊ばれるなんて嫌!!」

 「……遊びなら、こんなに耐えたりしなかったよ。誰にも渡したくない。妻には出来ないが、恋人になら出来る。私の唯一無二の恋人に、なりなさい」

 

 その言葉は、使い古された女をその気にさせる言葉なのかも知れない。そうは思うのに、逆らえない。

 ここで拒否出来る程、私も軽い気持ちで好きな訳じゃ無いの。だから私は、酔ってもいないお酒の力を借りて、言葉を口にする。

 

 「私……ずっと、レイさんに……恋してた……!好きなの、レイさんの事が好」

 

 言葉の途中で重なった唇は少しばかり乱暴で、けれども驚く程に官能的で……。酔わされたのはどちらが先か、そしていったい2人は何に酔わされたのか……そんな事はもう、些細な事だろう。

─────☆

【クロコダイル】

 

 アラバスタの王宮で王女の誕生日だからと呼ばれたそれは、宴と呼ぶよりはパーティなのだろう。私を同伴する意味なんて、見いだせないけど……。

 楽しそうにクロコに話し掛けるビビ王女は、私の知る限りではもうすぐここを飛び出す。そう思った時、私には向けられない紳士然としたクロコの笑顔を見て、胸が軋んだ音をたてた。

 シャンパンを呑み干してからバルコニーへ出ると、気持ちが少し落ち着いて来た。でも、羽根があればきっと何処かへ飛んで行っているでしょうね。

 

 「傍を離れるなと、言った筈だが?」

 

 言外に記憶力が悪いのかと告げられて、でもその瞳が僅かに案じる色を乗せているから怒る気にもならない。甘やかで、残酷な男。

 

 「酔ったみたいで、熱冷まし「酔った?お前が?」」

 

 怪訝そうに言葉を遮ったと思ったら、なら帰るぞと一言。制止するより早く所用だと中に告げたクロコは私のを抱き上げて飛び立つ。

 鳥系の能力じゃないのに、普通に空を飛ぶその姿は少し不思議。でも、本当に……闇に溶けてしまいそうで、美しいからこそ心配になる。

 部屋に押し戻されて、人の多い所に出たのは随分久しぶりだったと気付く。でも、あれもビジネスだから……早く戻ってもらわないと。

 

 「送ってくれてありがとう。もう少し宴に参加するんでしょ。大丈夫だとは思うけど気を付け」

 

 言葉は最後まで紡ぐ事が出来なかった。ラムの香りが、葉巻の香りと混ざりながら私の口内に広がる。

 いつの間にか反転していた身体はドアに押し付けられていて、抵抗する事も何も出来ない。どうして、こんな事に?

 娘のように想ってくれてるなら、それだって驚きで……私は都合のいい道具の筈で。なのに唇が離れたその時に向けられてる眼差しが、熱いのは……願望なのかな?

 

 「こういう意味で気に入ってると、何度も伝えたつもりだが……お前、鈍いにも程があるだろ」

 「え?」

 「こういう素直な言い回しは得意じゃねェ。二度は言わねェぞ」

 

 そう言って真っ直ぐに私を見るその眼差しは、獲物を狙う海賊らしいもの。飢えてると、訴えて来るその強い瞳。

 

 「俺の女になれ。愛してる」

 

 私はここで応えなければ、後悔するのだけは知っていたから、酔ってもいないお酒に力を借りて言葉を返そうと努力するけど、上手くいかない。だからその首に飛び付いて、私の方から唇を重ねた。

 きっとこれが応えになる。千の言葉を贈るよりも、きっと雄弁に想いを伝えてくれると信じて。

 その後暫くサーの姿を見かけた者は居なかった。酔わされたのは誰なのか、そんな野暮な話は不要だろう。

─────*

【ベックマン】

 

 酔っ払いの多いその場で、酔う事も出来なくて1人宴の喧騒を逃れる。間違いなく私は、シャンクスの次に愛されてるって、わかってるのに……。

 いつからこんなに我儘になっちゃったんだろう。いつからこんなに……情けなくなっちゃったのかな……。

 娘として……ううん、多分妹として、深く愛されてる。弟子としても気にかけて貰ってるのに、何が不満なのと自分を叱っても、その答えは分かりきってて、悔しい。

 情けなくも震える身体を強く抱き締める。すると聞き慣れた声が降って来た。

 

 「傍を離れるなと、何度言えば覚えるんだ」

 「あ……ごめんなさい。酔ったみたいで……熱気から離れたかったの」

 「……確かに顔色悪いな。なら、帰るぞ」

 

 その言葉に頷くと同時に抱き上げられて、そのまま歩き出されてしまう。顔が近過ぎて、その香りが、体温が、私から平常心を奪い熱を高める。

 そんな私に気付いてベックは少し早足になったんだから、過保護さの度合いが分かろうというもの。心配かけてる事に対する申し訳なさと同時に、嬉しくなってしまう。

 その罪悪感で溜息を落としてしまえば、ベックが心配そうに眉を寄せてから部屋の入口で私を降ろしてくれた。でもベックは宴に戻らないといけないとわかってるので、心配しないで欲しくて笑顔を作り言葉を向ける。

 

 「送ってくれてありがとう。皆の事、任せちゃってごめんなさい」

 

 お休みなさいの言葉を告げながらドアを閉め始めた時、私の視界が反転した。ドアノブを握っていた筈の手は空を舞い、目の前にあったはずの扉は背中に。

 その上で私の身体は慣れ親しんだ腕に押さえ込まれた状態で、何故か重なっている唇。何が起きてるのか、自分で分からない。

 どうして、何を目的に……と目を白黒していたら、ゆっくりと離れた唇の隙間で、ベックは言う。少しだけ掠れたその声が、緊張してるのだと教えてくれる。

 

 「こういう意味で、愛している。俺の女になれ」

 「ベック……?」

 「無理に笑う必要も、涙を我慢する必要も無い。素の姿を、見せてくれたらそれで良い」

 

 片想いだと思っていた。娘とか、妹とか、そんな枠で愛されてるのだと……。

 臆病で逃げてた私に、ベックはもしかしたら私と同じだったのかもと気付かせてくれた。そっとその太い首に腕を回して、酔ってもいないお酒の力を借りて返事をする。

 言葉ではなく、行動で……。自ら重ねた唇が、きっと想いを伝えてくれるから。

 そのまま離れる事を男が許すはずも無く、2人は寝台へと沈み込む。相手の存在に酔わされたのはどちらなのか、その答えは明らかだろう。

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