※この作品はR-18です。

拍手お礼文(小話集)   作:夢枕 七変化

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目次

ルフィ
ミホーク
ドフラミンゴ
ロー
マルコ
イゾウ
シャンクス
レイリー
クロコダイル
ベックマン

線で区切ってあるだけです。飛んだりは出来ません。予めご了承ください。


揺れる世界

【ルフィ】

 

 やる事は終わりが見えない。でも、動いている方が何も考えなくて済むからと駆け回れば、1つずつ確実にやるべき事は終わって行く。

 

 「おーい!サンジがケーキ焼い……」

 

 途中で止まった声を不思議に思って首を傾げると、突然ルフィに抱きしめられる。抱き着いてきたってのとは違う。

 幼馴染とか、姉としてしか見てないなら、もう少し距離を取ってよと言いたくなる。誰にでも平等に降り注ぐ太陽光みたいに、平等な友愛だとわかってるの。

 その時おでことおでこを無造作にくっつけられて、昔私がやった事でそうやるのを覚えさせたのかと過去の自分を内心で呪う。そんな私にルフィは眉を寄せて言った。

 

 「寝てろ。今、チョッパー呼んでくるからよ」

 「は?……何言ってんの。大丈夫よ、私は何ともな」

 

 言いながらルフィの腕をすり抜けて進路を確認しようとした時、視界が歪んで平衡感覚を失ってしまう。揺れる視界の中、慌てた様子で抱きとめてくれたのに気付き、優しいなと内心で笑った。

 すると、ルフィは私を甲板に寝かせてどこかへ行こうとするから、思わずその腕を掴んでしまう。その温もりを、手離したくないの。

 

 「傍に、いて……」

 「お前……っ!回復したら、覚悟してろよ。もう、遠慮しねェからな……!!」

 「うん、わかった。あとでね……」

 「絶対……何もわかってねェ……」

 

 そう言ってルフィが女部屋に私を運んでくれる腕の中で、甘えるように頭を預けて笑えば小さくない舌打ちが聞こえたけど、どういう事かな。ベッドに降ろされて、ぎこちなく頭を撫でてくれるその手の感触に幸せだなと思いながら、私は深く眠りについた。

 揺れる世界の中で、揺れているのが身体なのか、心なのかも分からない。そんな中で、大切な人の温もりに包まれている。

─────*

【ミホーク】

 

 戦い以外は基本的に何もしてくれない人だから、私のやる事はいつも多い。それを不満に思った事は無いけど、やっぱり時間は有限なのだと思わされるのだ。

 洗濯をしようとカゴに伸ばした手を握られて、驚き視線を向けるとそのまま腰を抱かれてしまう。額と額をつけるようにして熱をはかるミホークに、私は呼吸の仕方さえ忘れてしまい、硬直する。

 

 「……寝ていろ」

 「なっ!?大丈夫よ!さっさと洗わないと服が腐っちゃうわ」

 

 そう言ってミホークから離れてカゴに手を伸ばし直した時、世界が歪んだ。平衡感覚が失われて視界が揺れる。

 それにより倒れて行く自らの身体をどうにも出来ずに、受け身さえ取り損ねて甲板に転がればその物音で戻ってきたらしいミホークの声が微かに聞こえて来た。抱き上げられたのは何となくわかるけど、他が分からないの。

 

 「聞こえているか!?何故貴様は無理ばかりする!!」

 「ミホーク……?」

 

 心配してくれてるのだと分かる。だから私は、嬉しくて、幸せでつい笑ってしまうのだ。

 それを確認してか、慌てたように離れていこうとするそれに、手を動かして触れた布を引っ張る。それはマントのように着ているコートだったらしく、動きを止めたミホークがこちらに視線を向けて来ているのが分かった。

 

 「行っちゃ、やだ……」

 「……回復した後、覚えておけ」

 

 よくわかんないけど、首でも閉めたかな?そんな事を思いながら頷けば、すぐ側に腰を降ろしたミホークが頭を撫でてくれる。

 揺れる世界の先で、ミホークが戸惑いながらも看病してくれるのが分かり、頬が緩む。その幸福の波に攫われるようにしながら、私の意識は、深く沈んで行った。

─────✤

【ドフラミンゴ】

 

 完成した小説や楽譜を確認して、クーちゃんへと託す。そろそろ海図も描きたいと言った私の為に、私を連れていけそうな仕事を進めてくれてる若様に、私は何を返せるだろう。

 とりあえず何か喜びそうな物をと考えて、先日空から眺めさせて貰った島の地図を書こうかなと思った時、ベビー5の悲鳴が聞こえて慌てて駆け出した。でもそんな私の腰に突然腕が回されて、勢いを押さえられなかった私の身体が少し浮き上がる。

 

 「様子が変だが、どうした?」

 「何もないと思うけど?」

 

 小首を傾げたら、若様は舌打ちして私を反転させる。もう人形かぬいぐるみにでもなったかのような気分にさせられるのは、致し方ないだろう。

 額と額を合わせる為に持ち上げられた身体は、不安定さがないという謎現象。すると若様は、こめかみに青筋立てて私をベッド迄運んでしまう。

 

 「寝てろ。今医者を「何も無いわよ。私は大丈夫だから、先にベビー5の所へ」」

 

 行かせて……と続く筈だった言葉は空気に溶けた。ベッドから降りようとしていたその姿のまま、身体が傾いでいく。

 視界が歪む不快感に襲われながらベッドから転がり落ちそうになった私は、不自然な形で静止する。どうやら若様が、糸で固定して助けてくれたらしい。

 

 「動き回るな。熱があるんだと自覚しろ」

 

 そう言って糸で身体を操りベッドに戻すそれに、けれども身体から力を抜くのと同時に去ろうとする背中。ふわりと近くに来たコートの裾を、掴んでしまった理由が自分でもよく分からない。

 

 「どうし「……こーと、貸して」」

 

 何だか心細くて、でもそんな事言えなくて、代わりに飛び出した言葉に自分が情けなくなる。でも、そんな私に若様は低く唸った。

 

 「回復したら、覚えとけ。絶対にドフィと呼ばせてやる」

 「……?うん、回復したら、そう呼べばいいのね」

 

 分かったわと頷けば、分ってねェと肩を震わせた若様は、私の寝てるベッドに腰を降ろした。コートをかけてから、電伝虫で連絡だけ取り、その後は私が眠るまで頭を撫でたりしながら傍に居てくれる。

 揺れる世界の中、嗅ぎなれたコロンの香りに包まれて、その温もりにホッとする。大好き、ありがとう、これを伝えた瞬間、その手が動きを止めたのを微かに不思議に思いながらも、私は静かに眠りに落ちていった。

─────*

【ロー】

 

 カルテの整理は終わったから次は、あ……ベポに海図を見てあげる約束してたわ。そう思って、航海日誌を手にして立ち上がる。

 すると甲板に出た所で声が掛けられて、首を傾げるのと同時に抱き締められてしまう。その体温が妙に心地好くて、でもまだやる事があるからと離れようとしたら額と額をくっつけられてしまった。

 

 「……寝てろ」

 「へ?」

 「薬を調合して持って行くから、大人しく部屋に戻れ」

 「何言ってんの。私は大丈……」

 

 言葉が終わる前に地面が歪んだ気がした。平行感覚を失った身体は、重力に逆らえずに落下する。

 それにより倒れた私を心配して駆け付けたローが、サッと抱き上げるから首を横に振る。私は大丈夫だから……そう言おうとして、けど無言のまま部屋に運ばれてしまえば抵抗は無意味。

 

 「忙しいでしょ」

 「……心配くらいさせろ」

 

 相変わらず甘いんだからと小さく笑えば、気分を害したのか傍を離れようとするその背中。引き止めておけないと思ってたのに、手は勝手に動いてその服を掴んでしまう。

 独りにしないで……と、言葉よりも雄弁に身体が動き、縋るように見上げてしまえば言葉なんて無くても同じ事だろう。私のそんな顔を見てローは唸ると、ギロリと睨み付けて来た。

 

 「お前な……!回復したら覚えてろよ……!!喰らい尽くしてやるからな!!」

 「うん、回復したら、何でも作るから……」

 「……違ェよ。くそ、本当に覚えとけよ」

 「うんうん、好きに食べてね」

 「言質は取ったからな」

 「はー……い……」

 

 クラクラしながらも再び頷けば、心細い事を理解してくれたのか、ローはそっとベッドに腰を降ろして頭を撫でてくれる。それにホッとして力を抜くと、ローが今は寝てろと言うので素直に頷いた。

 居なくならないでねと小さく呟いてその手を握れば、ローはそれを振りほどかない。だから私は幸せに浸りながら、眠りに落ちて行った。

─────✤

【マルコ】

 

 積み上げた資料の中から、必要な物を手にして部屋を飛び出す。これがあれば多分、サッチが後は上手くやってくれるわ。

 渡したら次は親父様の所へ行って、書類の最終確認して貰ってからマルコに始動できる事を伝えに行かなきゃ。そうしたら少し時間が出来るから、蜜柑のお世話をしつつ少し楽器でも演奏しようかなとか考えながら私は船内を駆け抜けていたのに、突然声が掛かる。

 何かあったのかなと足を止めると、抱き寄せられた身体。その腕は力強いのに、妙に優しいから……抗えない。

 そのまままるで当たり前のように額をあわせて来たかと思えば、そのまま眉間に皺を寄せた。どうしたのかと首を傾げるのと同時に紡がれたのは、珍しくも怒りを滲ませた低い声。

 

 「寝てろぃ」

 「なんで?私は大丈夫よ、まったく……マルコは心配性ね。それに私は、まだやる事があるのよ」

 

 そう言って持ってる物を揺らせば、マルコは嫌そうな顔をするけどそんな場合じゃない。まずはサッチの所へ……と歩き出した時モビーが大きく傾いだ気がした。

 視界が歪み、足に力が入らなかったのだと気付いたのはマルコに抱き止められた直後。そのまま部屋に運ばれてしまえば、抵抗も何も出来ない。

 

 「ごめんなさい」

 「ちゃんと寝てろぃ」

 

 そう言って去ろうとする背に無意識で手を伸ばし、腰のサッシュを掴めば驚いた顔で振り向かれた。でも、私だって、なんでそんな事をしたのか分からないのよ。

 その瞬間、マルコが呻く。そのままベッドに戻って来て腰を降ろすから、甘えるようにその手に縋ってしまう。

 

 「回復したら、覚えとけよぃ」

 「さみしぃ……」

 「卑怯だろぃ……」

 「よくわかんないけど、回復しても、記憶はあると思うわ」

 

 答えた私にマルコは、とりあえず寝ろと言うので、揺れる世界から意識を遠ざける為、ゆっくりと目を伏せた。私の頭を撫でてくれる優しい温もりを感じ、幸福を感じながら落ちるように眠りに入る。

 その傍でマルコがもう遠慮はしないと言っていたその意味は、まったく理解できないままに意識は沈んで行く。優しい蒼い焔に包まれながら、幸せに頬を緩ませて。

─────*

【イゾウ】

 

 完成した作品を手にしてクーちゃんを呼べば、時を待たずして飛んで来た愛らしい子。それに作品を託せば喧嘩してるのか怒号が聞こえて来て、私は慌てて駆け出した。

 その時名前を呼ばれた気がして振り向けば、何故か嫌そうに顔を歪めたイゾウに強く抱き締められる。何だろうと思った時、綺麗すぎる顔がアップになって目眩がして来た。

 

 「……熱いな。寝てな」

 「イゾウの顔が近付きすぎて、驚いただけよ!もうっ」

 

 そう言って離れようとした時、先程よりも強く視界が歪んでその場に倒れ込んでしまう。揺れる視界の中でも、イゾウが心配してくれてるのは伝わってしまい、抱き上げられたそれに抵抗なんて出来なくされる。

 部屋で重病人を対応するように布団に埋めて来るイゾウに小さく笑うと、笑えるなら平気そうだねと呟いて去ろうとする。その動きが止まって訝しく思った時、自分がイゾウの服を掴んでるのだと漸く気付き……言葉を失ってしまう。

 動揺してる内心と、止まる思考。なのに、唇は勝手に言葉を紡いでしまう。

 

 「ひとりに、しないで……」

 

 その瞬間眉を寄せたイゾウは、深く息を吐き出してからベッドの端に腰を降ろした。そして私の方を睨むように見てから、ナース達よりも色気のある唇がゆっくりと動く。

 

 「回復した後は……覚悟しておきなよ」

 「うん、回復したら、仕事の穴埋めちゃんとするね」

 「……全くわかっちゃいない様子だが……もう、手加減はしてやらないよ」

 

 そう言ってイゾウは私の頭を軽く撫でて、クリマタクトを奪い取ると手拭いを器用に濡らしてから額にそれを乗せて来る。いつ扱い方覚えたんだろうとか、そんな事を思いながらも傍から離れないでいてくれるそれが嬉しい。

 揺れる世界の中に居ても、1人ではない現実が私を包む。私はきっと今誰よりも幸福だと思いながら、服の裾を強く握ったまま眠りに落ちていった。

─────✤

【シャンクス】

 

 ヤソップに届け物を終えて、ルーから受け取った飲み物をベックに届けに向かう。そろそろベックも休憩が必要な時間だもの。

 けれどもその途中すれ違ったシャンクスに声をかけられて、手招かれるままに近付けば持っていたトレイを奪われてしまう。シャンクスのいた樽にそれが置かれた直後、当然のように抱き締められてしまえばその腕から抜け出す事は難しい。

 温かさと安心感から力が抜けそうになれば、顔が近付いてきて……額と額が合わさる。そのまま至近距離で、呆れたように言われてしまう。

 

 「少し寝ろ」

 「やだ、過保護が過ぎるわ。別に重労働してる訳じゃないのよ」

 

 クスクスと笑いながら、樽の上にあるトレイへと手を伸ばし……船が荒波によって揺れたのだと思った。それくらい急に、足元が歪んだから。

 そのまま倒れた私を心配する声が聞こえて、どうやら船のせいではないらしいと気付く。揺れる世界の中、心配して抱き上げてくれるシャンクスの存在にホッとして笑ってしまう。

 それを余裕と思ったのか、シャンクスは私をベッドに寝かせると無言のまま立ち上がるから、そのコートを掴もうとして失敗する。離れるその背中に、思わず声が出てしまった。

 

 「やだ……シャンクス……行かないで……」

 

 振り向いたシャンクスは私の顔を見て、何故か天を仰ぐと大股で戻ってきてくれた。それが嬉しくて笑えば、苦虫を噛み潰したような顔をされてしまう。

 

 「回復したら、覚えとけよ」

 「うん、ちゃんと、コート洗って返すね」

 

 がっしりとコートを掴んでるからそれだろうと思って言ったのに、シャンクスは違ェよ……と言いながらもベッドに腰を降ろしてくれた。そのまま頭を撫でてくれるから、揺れる世界の中でも私は何も問題無く、静かな幸せに浸りながら眠りに落ちて行く。

─────*

【レイリー】

 

 蜜柑の様子を見に行けば、今日は毛虫も青虫も見当たらなくて気分は最高である。伝手を使って作って貰った二層式の洗濯機さんが、そろそろ洗濯を終えてくれた頃かなと、様子を見に行く。

 今日はいい天気だからシーツもよく渇くだろうと思えば足取りは軽くなるけど、突然伸びて来た腕が私を捕らえるから驚き動きを止める。すると無駄に整ったその顔が近付いて、額と額を合わせるからそれだけで顔が赤くなってしまう。

 

 「……熱があるね。少し休みなさい」

 「レイリーさんが、驚かすからよ!私は大丈夫!!」

 

 そう言って腕から離れると、数歩歩いた所で足が泥濘にでも嵌ったかのように身体が落下して行く。慌てて受身を取ったけど、倒れた所で動けなくなる。

 視界が歪んでいて、気持ち悪い。そう思うのと、誰かに抱き上げられるのは同時。

 部屋に運び込まれて、優しく泥を落としながら頭を撫でてくれるレイリーさんに、笑みが浮かぶ。心配かけてるのはわかってるのに、嬉しくて。

 

 「余裕そうだね」

 

 そう言って離れようとするから、私は咄嗟にそのコートを掴む。無言のままレイリーさんを見上げたら、何故が困ったように笑いながら戻って来てくれた。

 

 「小悪魔ちゃん、回復したら覚えておきなさい」

 「なにか、した?」

 「あァ……。どうしても食べたいものができてしまった」

 「なら、用意するわね。でも今は……」

 「わかってるよ。回復したら食べる予定だが、それ迄は気にしなくていい」

 

 よく分からないけど怒ってる訳じゃないとわかって、肩から力を抜く。そのまま優しく看病してくれるレイリーさんの温もりに包まれながら、私は幸福感に浸りつつ深く眠りに落ちて行った。

─────✤

【クロコダイル】

 

 今日は久々に傍にいてくれるとは聞いてるけど、やる事は山積している。傍に居ること自体が、奇跡だと分かるくらいこの人は忙しいから。

 こっちにいる時は私が秘書代わりだけど、やっぱりロビンみたいに上手くはできないなぁ。あら、インクが減ってるわ!

 慌てて立ち上がりインクを取りに行こうとしたら腕を掴まれて、そのまま抱き締められてしまう。相手を誰何する必要さえない。

 腰に回された腕により身体が持ち上がり、顔が目の前に来る。精悍な顔が近付いて、額が合わされば声さえ出せなくなるのも当然だと思う。

 

 「……熱いな。もう良いから休め」

 「だっ!大丈夫よ!サーの顔が近くて、驚いただけ!!……今、インク持ってくるわね」

 

 そう言って腕から抜け出せば小さく猫かと呟かれた気がしたけど、それを確認するよりも早く視界が歪み身体が平衡感覚を失う。驚いてる間に、床に倒れてしまう身体は何とも切ない。

 ふわりと抱き上げられてベッドに寝かされてしまえば、心配してるらしいその顔が歪んだ視界の中でも確認できてしまう。それにより夢みたいと思って笑えば、不愉快そうに眉が寄ったのを確認してしまった。

 直後離れようとされてしまい、咄嗟に掴んだその服。怒られるかなとその顔を覗き見たら、目元を押さえて呻かれてしまった。

 

 「回復したら覚えとけ」

 「え……あ、ふく、シワ?」

 「そうじゃねェが……とりあえず、回復したらな」

 「はい。お望みのままに」

 「……言質は取ったぞ」

 

 揺れる世界の中で、私の頭を撫でてくれる温もりに二ヘラっとしてしまったのは許して欲しい。こんなのきっと夢だとわかっていながら、私は幸せに浸りつつ恐ろしく優しい手の温もりに誘われて眠りに落ちた。

─────*

【ベックマン】

 

 空は快晴、洗濯物がよく乾く。蜜柑も元気で、波は穏やか。

 さてそうなると次は……と考えながら歩いていたら、突然伸びて来た腕に腰を絡め取られる。それに驚いていたら、顔に影がかかりハッと気が付いた時にはベックの顔が焦点の合わなくなるくらい近くに来ていた。

 私の額と触れ合うそれは、なんと言えば良いのか分からないくらいの動揺を誘う。思わずギュッと目を閉じたら、ベックの溜息が頬を掠めた。

 

 「今日はもう休め」

 「な、何言ってんの?」

 「熱がある。倒れるぞ」

 「ベックが突然顔を近付けるから驚いただけよ!!」

 

 過保護にも程があるわと続ける筈が、ベックを押し退けた瞬間に揺れる世界に取り込まれてその場に倒れ込む。甲板に倒れるかと思った身体を支えてくれたのはベックで、そのまま抱き上げられて部屋に連れ戻されてしまえば落ち込むしかできない。

 でも、心配そうに覗き込む安定の兄を見れば、自嘲したくもなるというもの。だからと思い、そっと嗤えばベックが深い溜息を落とす。

 

 「大丈夫そうだな」

 

 くるりと身体の向きを変えられた瞬間、独りになるのだと自覚してしまう。でも、呼び止める事もできなくて声も無く落ち込んだのに、ベックはその場で動きを止めた。

 よく見れば、私は無意識でベックの服を掴んでいたらしい。それによりベックと視線が交われば、ベックはすぐ様天井を見上げて片手でその両目を覆うから、目眩でもしているのかと心配になる。

 

 「……回復したら、覚悟しろよ。もう、手加減はしてやらん」

 「手加減?」

 「俺も、海賊だと解らせてやる」

 「……海賊なのは知ってるけど……?」

 

 ベックの言葉の意味が全く分からなくて首を傾げたら、今は良いから早く休めなんて言われてしまう。眠るまで傍にいるからと手を握り、頭を撫でてくれる温もりにより私の意識は揺れる世界から簡単に離脱して、幸福に包まれながら沈んで行った。

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