ヒロイン視点
ルフィ視点
ミホーク視点
ドフラミンゴ視点
ロー視点
マルコ視点
イゾウ視点
シャンクス視点
レイリー視点
クロコダイル視点
ニューゲート視点
線で区切ってあるだけです。飛んだりは出来ません。予めご了承ください。
【ヒロイン視点】
動かしていたペンを止めてしまったのは、カレンダーに気を取られたから。そこにあるのは、彼の誕生日を示すマーク。
花丸をつけたそれが、私を現実に引き戻す。何かお祝いしてあげたいな。
本人に気付かれないようにお祝いの準備なんて出来るかなと、少し不安になるけど、やるならサプライズが良いわよね。部屋を彼が喜びそうな感じに模様替えでもするかと考えて……現実的じゃないわねと溜息が落ちる。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
変な声をあげたからか、彼は微かに声を震わせている。それがなんとも言い難い気分にさせてくるけど、確かに変な声出したものねと思って適当に誤魔化す。
とりあえずレシピ考えて、当日までに何かプレゼントも用意しよう。リボンはあるから、とりあえずラッピングには困らないわよね。
考え出せば楽しいばかり。想いは伝えられなくても、せめて……産まれてきてくれた奇跡に、傍にいてくれる優しさに、感謝の意は伝えたいの。
再び机に向かった私に、彼がどんな反応をしてるのかなんて、既に私には分からなかった。彼の誕生日は目前に迫っている。
─────✿
【ルフィ視点】
サンジに渡されたトレイを手に図書室へと向かえば、相変わらず黙々とペンを動かす後ろ姿が見える。窓の前に陣取って、意識は紙に全て向けてる癖して、時々天候とかだけはチェックしてるらしい。
澱みなく動いていたペンが突然止まり、顔を上げたと思ったら何か考え始める。海図じゃなくて、小説でも書いてたのかな?
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
そんなに驚かれるとは思わなかった。あまりにも無防備なそれにより、笑ったら怒られるかなと思うのに、笑いが抑えきれない。
「確かに変な声出したものね」
そう言って苦笑してから、また何か考え始める。けれどもその直後、幸せそうに、愛おしそうに微笑むその表情に息を飲む。
トレイを隣の机に置いたのに気付きもしないで、また机に向かっちまった後ろ姿。真っ赤になった顔を見られなくて良かったと思いながら、俺はその場を逃げるように立ち去った。
その数日後、俺の誕生日パーティーを開いてくれるなんて知らないままに。そして、あの時の表情が俺を想ってのものだと気付いた俺が……我慢なんて、できる筈も無かったんだ。
誕生日おめでとうと言うのならば、お前をくれよ。俺が欲しいプレゼントは、お前自身だから。
─────❀
【ミホーク視点】
様子を見に行くと、いつもと変わらぬ様子で机に向かっている後ろ姿が見えた。今宵の食事について話し合いをしたかったのだが、と……思った所で動きが変わる。
何処か遠くを眺めて小首を傾げる姿は、珍しい。その後溜息を落とすから、まさか世に言う〝スランプ〟と呼ばれる状態なのかと近づいて行く。
「何を悩んでいる?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてた様子だから、聞いてみただけだ」
他意も悪意も無いのだと伝えようと口を開くが、可愛らしい〝きゃぁ〟と言う悲鳴で無かった事がツボにハマる。込み上げる笑いを押し殺していた為に、声が震えたのはご愛嬌だろう。
けれどもその後また何かを考え込んでしまい、こちらに視線も向けなくなってしまえば仕方ない。こうなっては、暫く言葉は届かぬのだからな。
仕方なしにその髪をそっと手に取り、軽く口付ける。それだけで今は我慢しておこうと思うのは、まだ己の想いも伝えてはいないからに他ならぬ。
それから二日後、時折姿は見ていたし、食事の支度もされてはいたが、本当に共に過ごせなかった謎に首を傾げれば、今はこちらを妙に気にしているのがわかる。何かあるのかと近付けば、手を取り食卓へと誘導された。
到着すれば多くの食べ物が用意されていて、成程何かの祝いであるらしいと気付く。照れたように笑うその顔に、今日が何の日だったかと思い……何も思い浮かばぬ自分がいた。
「今日は、ミホークの誕生日だから……料理も砂糖使った物を選んだのよ。おめでとう」
言われてみればパイ系や和食系が並び、果物が入った物も目に付く。しかし、それだけでは誕生日の贈物としては不足だろう。
「消え物だけか?」
「形の残るものは、邪魔になるかと思って……何か欲しい物でもあった?」
「ああ、欲しい物がある」
俺の言葉に首を傾げて、それから頷く。無防備な子兎が鷹の前で笑った。
「私に用意できるものなら、なんでもあげるわ」
「言質は取った。取り消しは効かぬぞ」
ならば今宵、主を寄越せ。俺はその言葉を今だけは飲み込み、先に用意された食事を共にと笑いかける。
狙いを定めた鷹の速さは、兎が逃げるには困難。今宵のみとなるかは、約す事もできぬがな。
─────✿
【ドフラミンゴ視点】
規則的に動き続けるペンの音に、人間業じゃねェなと思う。何どうするとペンが休みなく動くのか。
思考する時間さえない事を示すそれに、書類仕事や単調作業は任せてしまいたくなるというファミリーの言い分に頷きたくもなる。だが、俺も書類を片付け無いとな……と視線を戻した時、音が止んだ。
何が起きたのかと見てみれば、カレンダーを見て唸っていた。珍しい事もあるもんだ。
立ち上がり歩み寄る。そのまま少し身を屈めて、覗き込むようにしながら声を掛けてみた。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
驚かせすぎたのだろうが、その奇声はなんだと言う言葉を飲み込めば代わりに声が震えた。笑わなかっただけでも、良しとして欲しいな。
そんな俺を適当にあしらって、結局何を考えていたのかは教えて貰えなかった。その背を見詰めて、さっさと襲って俺のモノにしちまえばこんな焦燥感に襲われる事も無いのだろうかと嘆息する。
だがそもそも、そんな事ができるならとっくにやっている。失いたくないから、嫌われたくないから、何も出来ないのだ。
「情けないもんだな」
落ちた呟きは誰に拾われる事もなく、空に溶けた。それから数日後、ファミリーが突然俺の誕生日を祝うと言い出してパーティを開かれる。
だが……何故、俺の誕生日を知ってるのか。そう言いかけて、答えに思い至る。
俺の事をなんでも知っていて、その癖何も知らない存在は1人だけだ。発案者は案の定で、俺はファミリーからの祝いを受ける事になった。
その終わりに1人ずつ贈物を持って来る中で、蜜柑の香りを放つ女だけが俺に何も寄越そうとはしない。俺の祝いの席を用意だけして、何も寄越さないつもりなのだろうか。
「何も無いのか」
「……決まらなかったの。ドフィって、何でも持ってるから」
明らかに落ち込んでる様子を見せるから、つい悪戯心が刺激されてその腰を強く抱き寄せちまう。潤んだ眼差しで俺を見上げる様子は、既に悪魔に捧げられた生贄のそれだ。
俺が何でも持ってる……か。本当に欲しい物だけは、いつも手に入らねェってのによ。
「ドフィ……欲しい物があったら、教えて。私にできるものなら何でも用意するわ」
「危険な台詞だと自覚しろ」
「危険なの?」
「……俺が本当に欲しいものは、お前にしか用意できないからな」
俺の言葉を即座に理解したファミリーは退出し、残った本人だけが通じてないが……くれると言うなら遠慮はしねェ。骨の髄まで、貰ってやるよ。
今更あげられないとは言わせない。何も分からない様子の子兎の頚椎に噛み付くようにして、俺は本当に求めるものを漸く自分のモノにできそうだと自覚した。
─────❀
【ロー視点】
互いに無言のまま、ペンを動かす音だけが響く。俺はクルーのカルテチェックを含む書類を、参謀殿は海図を描いている。
それはベポに頼れないからでは無く、自身の夢を叶える為であり、ベポの勉強資料作りも兼ねているのは周知の事。その上ある程度溜まると本にして販売して、その売上で医療機器を購入してくれるのだから頭が下がる。
本当ならば、参謀なんかじゃなく、恋人になって欲しい所だが……。関係性はなかなか縮まる気配を見せない。
軽快に響いていたそれが突然途切れたのに驚いて顔を上げれば、カレンダーを見詰める姿。何か予定でもあったのかと、そっと立ち上がり様子を見に向かう。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
余りにも無防備なその反応に、吹き出しそうになった。だが、吹き出せば暫く不機嫌になるだろうと分かるから必死で耐えてみる。
その結果声だけが震えちまった。そんな俺に少しばかり気に入らない様子を見せたと思った直後、思考の海に陥った事に気付く。
こうなればもう、誰の声も何も届かない。そっとその旋毛にキスを落として、仕方ないなと俺もまた元の作業に戻って行く。
同じ空間にいて、近い作業をして、常に隣にいてくれるのに……。互いの心は絡まない。
その現実から目を背ける為に、仕事に溺れる。情けない俺は、想いを伝える事で今の関係を壊したくなくて、なぁなぁに過ごしてしまっているのだ。
そんな日々が過ぎて、数日後。突然背後からベポに持ち上げられ、そのまま担がれて運び込まれた食堂で揃って待っている俺のクルー達。
「ハッピーバースデー!船長っ!」
重なる全員の声。そして視線を動かせば、俺の席だと分かる花で飾り付けられたその場所の左右には、俺を地獄から救い出してくれたら二人がいる。手招かれる事が無くても、彼等が呼んでいるのは分かるので足を向ければ満面の笑みで迎えられた。
「おめでとう、ロー!俺からのプレゼントだ」
「私からは、ごめんね。何をあげたらいいか決まらなくて……欲しいもの、教えて」
コラさんからのプレゼントを抱き締めながら、無邪気な女にそっと囁きかける。俺が欲しいものは、ひとつだけだ。
幼い頃から想い続けた、喉から手が出る程に欲している相手。俺は、餓えている。
「教えたら、何でもくれるのか?」
「私に用意できる物ならね」
「なら、遠慮無く貰おう」
何でもくれると言うなら、お前が欲しい。もう俺は、我慢なんて辞めちまう。
俺が強く抱き締めた瞬間に、無言で部屋から消えるクルー達。察しの悪いヤツも強制的に引き摺り出されたから、もう大丈夫だろう。
俺が欲しいものは、昔から変わらずお前だけ。骨の欠片さえ残さず、食い尽くしてやるよ。
─────✿
【マルコ視点】
緊急性の高い書類を書き終えて軽く伸びた時、珍しくペンを止めている姿があった。その視線を辿れば、そこにはカレンダーがある。
今後の予定を脳内で立てているのだろうかと思えば、エースが予定を送らせている可能性に気付いて溜息が落ちる。……そういや、ハルタもまだ書類を持って来てなかったねぃ。
誰が理由か分からないなら、聞けばいい。必要なら発破かける位してやれるからなぃ。
「何悩んでんだぃ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだよぃ」
思いの外驚かせたらしい事を知り、けれども反応の仕方があまりにも……。そんな訳で笑いそうになるのを必死で耐えたが、どうやら伝わっちまってるらしい。
少しむくれた様子を見せるが、俺が吹き出した訳でも揶揄った訳でも無い為に何も言わない。それからふと息を吐き出したと思ったら、思考の波に攫われちまったらしく楽しそうにボーッとし始める。
こりゃダメだなぃ。後で、飯だけはサッチに用意させよう。
そう思いつつ、俺もまた書類整理に戻る。仕事は、いくらでもあるのだ。
そんな事があった数日後、食堂に行こうと珍しく誘われたのでついて行く。すると、ドアを開けた瞬間に鳴り響くクラッカーの破裂音。
「なっ!?」
「今月誕生日の人達を纏めてになっちゃうけど、お祝いしようって事になったのよ」
「お前ェの発案かい?」
「うん。……でも、何が欲しいか分からなくて、まだプレゼント用意できてないのよ。マルコの欲しい物、教えて」
可愛く小首を傾げる姿に、欲が出る。言い出したのは、俺じゃねェんだから権利は充分ある筈だろぃ?
「なんでも、いいのかよぃ?」
「うん。私にできる範囲ならなんでも!!」
「……無防備過ぎるねぃ」
だが、言質は取った。撤回はさせねェよぃ。
俺が欲しいのは、無邪気に笑うお前だけ。誕生日プレゼントだと言うなら、リボンをかけて連れ去っちまおう。
他の皆が集まったらなんて呑気に笑う女に、親父から投げ寄越された箱についていたリボンを解いて巻き付ける。それだけで皆が納得した顔をしたから、問題はねェだろぃ。
「貰って行くよぃ」
「なにを!?」
当人だけがわかってねェけど、今更待ったもダメも聞いてやらねェ。祝いの席より、甘い果実が今は嬉しい。
─────❀
【イゾウ視点】
親父に最近俺のお姫さんを見てないと言われて、俺が偵察に行くたびに部屋に引きこもる癖を直させなければと痛感させられる。サッチに声をかけて後で部屋に何か運んでやって欲しいと言えば、過保護は駄目だと言いつつも請け負ってくれた。
さて、お馬鹿な俺のお姫さんの様子を見に行くかねと思いつつ部屋に入れば、蜜柑の香りとインクの匂いが襲いかかってきた。つまり……この部屋は誰にも開けられる事が無かった事が確定する。
……飲食だけは、して欲しいところなんだがね。困った子だよ。
そう思って見ていれば、珍しくペンの動きが止まった。何か考え事だろうか。
その内に溜息まで落とせば、気にしないなんて選択肢はない。そっと歩み寄り、背後から声をかけた。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
想定外の大きな反応につい肩を震わせれば、気恥しそうにしつつ誤魔化そうとするから本当に可愛いと思う。そんなんで誤魔化されるか……と思ったけど、今は未だ、追い詰めるには早いかと見逃してやる。
するとそのまま思考の海に沈んじまって、その様子に苦笑が漏れたのは当然だろう。後程サッチに叱られつつ食事をして睡眠を取らされるだろうと考えなが ら、俺は先に仮眠を取る事にした。
それから数日が経過したある日、朝っぱらからエースに絡まれたりしつつ向かった食堂。入ると同時に聞こえた発砲音に銃へと手を伸ばしたが、そこにあったのは家族の笑顔。
口々に伝えられるのは、俺の生誕を寿くもの。誰が、教えたのか……と思いつつ視線を動かせば、犯人と思しき女が困ったように微笑んだ。
「あの、ね」
「ん?」
「プレゼント、思い付かなくて……イゾウは、何が欲しい?リボンならあるから、私が用意できる物ならなんでもあげるから、教えて」
無防備にも、飢えを抑え込む獣にそんな言葉を向けるお姫さんに内心で嗤いつつ、そっと腕を伸ばした。もう、取り消しなんざさせやしねェ。
「なんでも?」
「うん!」
「なら……」
そのままお姫さんの腕を掴み抱き寄せる動力を用いて抱き上げれば、兄弟も親父も分かってると言うような、生暖かい眼差しを向けてくる。捕食されようとしている子兎だけが、意味がわからないと首を傾げていた。
俺の誕生日だと言うなら、ずっと焦がれていた相手を求めて何が悪いのか。……俺は、海賊だぜ?
─────✿
【シャンクス視点】
こいつがガキの頃から変わらないのは、この集中力だろう。こうなっちまうと、俺が何をしても気付かない。
髪を弄っても、項にキスしても、その手が止まる事は無い。……だからって、それ以上の事はできやしないんだが。
項から唇を離しても、髪の毛に絡めた指を離せずにいた時、珍しく意識がこちらに帰って来た様子を見せた。それでも、意識はカレンダーに向けられていて俺には反応しないのだが。
カレンダーを見て首を傾げたと思ったら、そのまま優しく微笑むその姿。そうかと思ったら眉間に皺が寄り溜息を落とすから、見ていて飽きない。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
まさかの反応に笑いを抑えきれずにいれば、少しムスッとした顔を見せる。こんな顔を見せてくれるくらいには、懐かれてんだよな……と思えば、先程とは違った意味で笑いが表面化しちまう。
そんな俺に気付かないままに、またもや自分の思考の渦へと囚われちまうその様子を眺める。後でベックに叱ってもらうかと部屋を後にしたのは、よくある日常のヒトコマに過ぎない。
それから数日後、夏島の気候なのか、甲板で寝ているのに耐えられなくなり水でもと思い艦内に移動した。その瞬間、向けられた物に咄嗟に反応してかわせばそれがクラッカーだったと気付く。
「何してんだ?」
「「「船長!誕生日おめでとう!」」」
「おう!そうか!ありがとう!」
この歳で祝われてもとは思うが、宴というなら理由なんざどうでもいいと言う範囲で大歓迎だ。それに、こんな事を思い付いて実行に移しただろう犯人を、悲しませたくはなかった。
俺への誕生日プレゼントを皆が渡してくる中で、犯人だけが持っている様子のないそれに、首を傾げる。すると、申し訳無さそうに俺の腕を軽く撫でるから、声をかける事さえ難しくなっちまった。
「シャンクス、あのね」
「ん?」
「シャンクスの欲しい物が分からなくて、だから、用意できなかったの。それでね、シャンクスが決めて」
「……は?」
「シャンクスが欲しい物、なんでもあげるわ!何が欲しい?」
……俺が欲しい物は決まってる。俺が欲しいのは、昔も今も変わらずに、ただ一人の女神だけ。
そっと小さな女神を抱き上げて、それだけで女神以外は察して肩を竦めた。そりゃそうだ。
女神本人が、無防備にもくれると言ったのだから。俺は、無欲な聖人ではなく、強欲な海賊だ。
「欲しい物を、何でもくれるんだな」
「うんっ!」
「なら、貰おうか」
首を傾げている幼い女神を部屋に連れ込み、その後どうなったのかは……ご想像の通りだろう。俺は1度手にしたモノは、死んでも手放さねェぞ。
─────❀
【レイリー視点】
久々に顔を出してみれば、案の定机を恋人としている幼子が1人。部屋の様子からそれ程長くそうしていた訳では無さそうだと気付くが、叱るべきかの判断はまだできかねる。
困った子だと思うのに、そんな所も愛しく手放せないと思わされるのだから、私もそろそろ覚悟を決めるべきなのかも知れないな。そう思い細く息を吐き出した時、珍しく自分から意識を現実に戻したその姿に内心驚かされる。
その視線を辿ればカレンダーに向けられているように見えたが、そのまま何やら悩み出す姿は本当に珍しい。何かを書く時に考えたり戸惑う姿を見た記憶が無いのだからある意味当然かも知れないが、無意識で凝視してしまう。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
声をかけた時は動揺から、その後の返事はその反応による笑いを堪えた為に妙なものになってしまった。それに対して不満を隠せない様子を返されるが、こればかりは仕方ないだろう。
「レイさんの、ばぁか!」
「すまないな。反応が余りにも無防備で、癒された」
喉で笑う私に少し膨れつつも、またもや思考の渦に飲み込まれてしまう。その様子に、本当に賢い子であると思わされるのと同時に僅かな寂しさを覚えた。
それから二日後、思いもよらない相手が尋ねて来て頬を引き攣らせる私とは逆に嬉しそうに迎え入れる少女の姿。どうやら、この子が呼んだらしいな。
「久しぶりだね、シャッキー」
「ええ、レイさん久しぶり」
その後二人で顔を見合せて、当然のように私に重ねられたのは祝いの寿。まさかと思ったのは、年齢が故か、己の職業が故か、答えは出そうにない。
そのままいつの間に用意されていたのか、テーブルに並べられる料理。それに舌鼓を打ちつつ時を過ごせばシャッキーから渡された小さな贈り物。
それに動揺した私に、囁くように声が落とされた。本当に、良い女だと思う。
「私は帰るから、大切にしてあげてね」
「約束はできかねるな」
思わず返した言葉に苦笑したシャッキーは静かに立ち去り、二人になった空間で兎は何も知らずに小首を傾げた。それは、余りにも無防備。
「私、レイさんにプレゼント用意する余裕無かったの。ごめんね」
「なら、私が欲しい物をねだっても構わないかな」
「うん。欲しい物があるなら良かった。私の持ってる物なら何でもあげるわ」
「言質は取ったよ」
狡猾な大人であり、海賊に言ってはいけない言葉もあるのだと教えてやるのも年長者の役目だろう。そう独りごちてベッドへとエスコートしたのは、自然の摂理だ。
─────✿
【クロコダイル視点】
海軍との面倒なやり取りを終えて部屋に戻れば、閉じ込めておいた筈の存在がそれを気にせず自分の時間を満喫していたと気付く。普通の女ならば、閉じ込められれば騒ぐだろうに……。
これで外が苦手とかならばまだ理解もできるが、外に出るのは好きな部類であるのだから理解に苦しむ。後は俺が怖くて言う通りにして……ねェな。
俺の言う事を素直に聞いて、怯えたりするような普通の女ならばそもそも傍に置いちゃいねェ。つまり、自動的に自我の強い我儘な女が傍にいるのが当然となる筈なんだが……。
基本的には仕事に忠実な所を抜かせば、単なるお人好しな甘い奴だ。その甘さが、気の強さと同居してる奇跡により俺は手放せなくなっているんだがな。
ふと気付けばカレンダーに視線を奪われているのか、ペンを止めているそれに珍しいと思う。今後の予定について、考えているのだろうか。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
想定外に良い反応をされてしまい、己でも知らぬ間に肩を震わせれば、少しばかりいじけた様子を見せる。こんなところばかり年相応だなと思いつつ、誤魔化すように言葉を重ねるそれに耳を傾けるが、いつの間にか声が聞こえなくなっていた。
視線を向ければ何かを真剣に考えていると分かり、これはもうどうにもならないなと小さく笑みを浮かべた俺は、海軍から渡された資料を読むためにその場を離れる。そんな他愛ない日常から数日後……。
パンパンという破裂音で目覚めた俺は、テーブルに用意されている食べ物と、これに協力しただろう黒髪の女に視線を向けてから溜息を落とす。確かに今日は、俺の誕生日だったな。
「この歳で祝うのか……?」
「生まれてくれて、出逢ってくれて、ありがとう」
「可愛い事を言ってくれる。で、贈物は何を用意したんだ?」
部屋から出られもしない癖にと嘲笑うように言えば、何故か俺の秘書は蜜柑にリボンをかけてその背を押してくる。それにより咄嗟に支えてやれば、ニッコリと微笑みを向けられた。
「私からは彼女を、この子からは本人を……ね?」
「……おい」
「なぁに?」
「その覚悟は、できてんだろうな?」
突き出されるようにして前に出た女へと、低く唸るような声で問いかければ、そっと頬を染めて小さく頷くその姿。脳内に色々な言葉は巡るが、ここまでされて手を出さないほど枯れてはいないつもりだ。
「二度と、他の男に触れられる事はないと……覚悟しておけ」
そのまま秘書の存在を意図的に忘れてベッドに連れ込めば、静かにドアが閉まる音を聞いた気がした。だが今は、そんな事よりも俺の為に用意された贈物を、大切に紐解かせて貰おう。
─────❀
【ニューゲート視点】
飽きる事は無いのかとその背に問い掛けたくなったのは、幾度目だろうか。問い掛けるだけ無意味……と分かっているというのに。
そんな時、突然止まったペンの動き。不審に思い見つめれば、カレンダーを見つめている事に気付く。
何か予定でもあるのかと記憶を掘るが、全船団で集まる予定も特にはなく、船内で宴をやる予定も今の所ない。となると、食料だろうか?
島に寄る予定を確認しているのだとするならば、俺に相談して欲しいが……まずはサッチに相談すると言う所だろうか。俺にかかる負担を減らそうとするその健気な行動に、心が軋んだ音を聞いた気がする。
「何悩んでんだ?」
「へぁ!?」
「……何か真剣に考えてたみたいだから、聞いてみただけだ」
まさかの反応に肩を震わせれば、少しムッとした表情をして見せるが、それには多大なる羞恥心が含まれているとわかる。それが可愛くて、いつまで俺は〝父親〟の皮を被っていられるかと不安になっちまう。
そんな葛藤をしている間に思考の海に沈んだ少女は、俺には余りにも眩しい。そっと俺の上着を肩にかけて何やら楽しそうに考えている姿を微笑ましく眺めちまったのは、俺だけの秘密だ。
それから数日後、最近息子達がバタバタと忙しないとは思っていたが、甲板に出ると同時に始まる宴には驚かされる。妙に楽しそうに楽士達が演奏して、それに釣られて来た海賊船を潰してるとは思っちゃいたが……。
「「「親父、誕生日おめでとう!!」」」
「グラララララ!!ありがとな、息子達!」
揃う声に笑えば発案者だろう少女が、遠巻きに俺を見て微笑んでるのが見える。その様子に小さく笑みを零せば、それだけで息子達が道を譲った。
「お前ェからのプレゼントは、無いのか?」
「考えたんだけど、何も思い浮かばなくて……だから、ね?」
「ん?」
「親父様が欲しい物、私の持ってるものならなんでもあげるわ!欲しい物を教えて」
その瞬間、俺は自分の理性が切れる音を聞いた。海賊にそんな事を言えば、骨の髄まで貪られるのだと教えてやるのは年長者の務めだ。
「……部屋に行くぞ」
俺の言葉で察した息子達が道開ける。俺はその道を小さな少女1人抱いて、歩いて行く。
もう二度と、俺から離れられない事だけは確定した。だが残る問題は難題だ。
なんと言ってこの想いを伝えてやろうか。鈍くて愛しい歳若い女に、俺の全力で対応しよう。