※この作品はR-18です。

拍手お礼文(小話集)   作:夢枕 七変化

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目次

ヒロイン視点
ルフィ視点
ミホーク視点
ドフラミンゴ視点
ロー視点
マルコ視点
イゾウ視点
シャンクス視点
レイリー視点
クロコダイル視点
ニューゲート視点

線で区切ってあるだけです。飛んだりは出来ません。予めご了承ください。


居場所(色々な視点)

【ヒロイン】

 

 『これ以上の迷惑はかけられないから、ひとり旅に出ます。今までお世話になりました。ありがとう』

 

 それだけ書いて、傍を離れたのは半月程前。今は実家に帰り着いて、蜜柑の世話をしている。

 自分で決めて、勝手に帰って来たのに……寂しい、なんて。笑顔で迎えてくれた二人は、けれども荷解きはしない方が良いなんて意味の分からない事を言ってた。

 なんだと言うのかしら?

 そんな事を思う私は、間違いなく〝正しい〟筈よ。それにどう考えても、私の存在は彼にとってマイナスにしかなり得ない。

 だって、気付いてしまったから。彼の隣で、私では無い誰かが笑う姿を想像しただけで、胸を押し潰すような不快感。

 それに伴い襲いかかって来る吐き気。想像しただけで叫び出しそうになるこれは、独占欲。

 私は知ってる筈なのに、自分の欲望は誰も幸せにしない事を。だからこそ、私は傍を離れたのよ。

 なのに、草を踏む音が背後で聞こえて振り向いてしまえば、その場にいる人物を見ただけで涙が零れ落ちる。そんな私を見て困ったような顔をした彼が、無言で手を広げてくれた。

 

 「……っ!」

 

 それに何も考えられずに飛び付いて、縋り付いてしまう。そんな私の頭を、髪を撫でるようにしてくれる彼は静かな声で問い掛けてきた。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 そんな私を抱き締める腕が震えた。そのまま拒絶される未来が怖くて逃げようとしたら、それを許さないというように塞がれた唇。

 その後に続いた彼の言葉に、私は泣きながら頷く事しかできなかった。私の居場所は、ここしかないのだと痛感させられながら。

━━━━━❀

【ルフィ】

 

 それは突然の事だった。いつの間に出掛けたのか、気が付いたら居なくて……そのまま帰らない航海士に俺達は頭を悩ませる事となる。

 そんな時に、ロビンが机にあったと言って持って来たのは変な事が書かれた紙切れだ。それを読んで、細く息を吐き出すと同時に命じる。

 

 「……東の海まで、迎えに行くぞ」

 「いや待てよルフィ!ココヤシ村に帰ったって保証はねェだろ!?」

 「逃げ出したって事なら、足の着くところにゃ行かねェだろ。ロビンにゃ劣るが、賢いんだ」

 

 ウソップとフランキーの言葉に、けれどもゾロもサンジも無言で船を動かすように動き出す。それを受けて、ジンベエは小さく呟いた。

 

 「挨拶に、行かにゃならんかった。ちょうどいいわい」

 「迷子の子猫、引取りに行くだけだ。急ぐぞ」

 

 俺の言葉に、それ以上の否は無かった。ただ、航海士不在の船は遅遅として進まず、あの優しい微笑みを浮かべる少女がどれ程希有な存在なのかを思い知らされるばかり。

 苛立ちが募りそうになる度、音楽を奏でて気を紛らわせてくれるブルックに心から感謝する。チョッパーもいつもなら怯えているような時でも、迎えに行く為となれば恐ろしく果敢に海を相手にするのだから心強い。

 漸く到着した時、風車を付けなくなったオッサンが出迎えてくれた。そして顎で蜜柑畑へと視線を投げるので、俺は小さく頷いて歩き出す。

 仲間達は心配そうにしながらも、着いてくる事はない。俺もどうしたらいいのかなんて、答えはまだ出ていなかった。

 それなのに、蜜柑へと手を伸ばす女を見た時、怒りよりも、悲しみよりも、何よりも……胸を占める感情があると気付かされる。もう、手離したくない……と、それだけ。

 俺の足音に驚き振り向いたその瞳から、涙が零れ落ちたのを見れば、それだけで充分。本当に、俺を翻弄する天才だよな。

 手を広げる。それだけで泣きながら飛び付いてきた細くて軽い、か弱い存在。

 抱き締めてから、そっと頭を撫でてやれば震えてると気付く。こんなに俺を求めてるのに、どうして離れた?

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 拐われたんじゃない。脅されたんでもない。

 なのに、生命より大切な仲間から離れてまで逃げ出した。その理由を、教えて欲しい。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 呼吸が、止まるかと思った。ずっと、俺の片想いだと思って、踏み出せずにいたのに。

 俺は仲間達の船長だから、仲間と気不味くなる訳にはいかない。……と、関係を壊す事に怯えていたのに。

 けれど、言い逃げでもするかのように暴れて駆け出そうとするその身体を強く抱き締めれば、身体は正直に動く。……こんな曖昧な関係なんて、壊れて構わねェ。

 重ねた唇から蜜柑の甘味を感じて、心がその甘さに囚われる。もう、離れるなんてできそうもない。

 

 「俺の所に帰って来い。……居場所は、俺の腕の中だろ」

 

 俺の言葉に涙を拭う事も忘れて、何度も頷く。そんな妙に幼い姿に笑みが零れるのを自覚しながら、海賊らしく連れ去ろうと決めて抱き上げた。

━━━━━✿

【ミホーク】

 

 妙にヒヒが騒がしいと思えば、大量の惣菜を残されている他は何も無い事に気付いた。在るべき笑顔が無い事に、怒りより戸惑いが強くなる。

 残されている手紙がある以上は、本人の意思なのだろう。それが分かるからこそ、俺はその手紙を見詰めたまま身動きを取れなくなった。

 それから半日……耐えられなくなった。その意思を尊重してやろうなどと考えていたが、今まである事が当然だった存在の不在は惣菜があったとして埋まる筈もない。

 棺桶船に乗り込み目指したのはアレが育ち、守ろうとした村のある島。航海術を持たぬ訳では無いが、流石に天候を操る勢いで当てる存在の不在は移動を阻む要因となる。

 漸く到着したのは、俺が1人となって半月程が経過した時だった。船を海岸に泊めた時、出迎えてくれたのは追い求める少女の姉。

 

 「蜜柑畑よ」

 

 その言葉に頷けば、どうやら俺が迎えに来ると分かっていたらしくそっと視線で目的の存在を示された。導かれるまま足を進めれば、少し離れた所の草を踏み締めた瞬間に振り向くその姿。

 長い髪が風に揺れて、驚きと切なさをその表情に浮かべて、記憶と変わらぬ蜜柑の香りを振り撒きつつ、涙を……落とした。それ程永くは離れていなかった筈なのに、永く独りでいたような気持ちになっていたのは、どうやら互いに変わらぬものだったらしい。

 それが分かり手を広げれば、息を詰まらせながら駆け出す小さな身体。飛び付いて、縋り付くようにされれば頭を撫でてやる他何ができるだろう。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 抱き締める腕が震えたのは、歓喜からか。怒りも悲しみも、虚しさや切なさも、全て即座に霧散した。

 だが、そのまま俺の腕から抜け出して行こうとするその様子により抱いた感情は焦り。逃がさぬと唇を塞ぎ、抵抗の様子が消えた時紡いだのは何処か懇願に近い色を含んでいた。

 

 「主の居場所は、俺の傍らだろう。……もう、勝手に離れるな」

 

 泣きながら頷くその頬に触れて、涙を拭いつつそっと視線を合わせる。それからこの鈍い阿呆にも分かるように、最大限に甘い睦言を囁いたのはもう離れて行かせない為の苦肉の策だ。

━━━━━❀

【ドフラミンゴ】

 

 疲れた身体を引き摺る様な心持ちで部屋に帰り、残されていた手紙を見付けた。街に買物でもしに行ったのかとそれに手を伸ばし、硬直したのは当然の成り行き。

 慌てて声を出した俺に、逆らう声等ある筈も無かった。久しく使う事など無かった船を整備させ、国内にいるかをヴァイオレットに調べさせる。

 もしまだ国内にいればピーカに足止めするように命じて、既にいない場合の対応としてラオGに脱走ルートを確認させる。それと同時に、何者かに脅迫されての置き手紙でないのかを確認する意味でベビー5にも仕事を命じた。

 そうしてわかったのは自分で出て行った事実。これが普通の男ならば、その意志を尊重して自由にさせたり逃がしたりしてやるのだろう。

 そう思った所で自嘲するような笑みが浮かぶだけだ。俺が、普通の男である筈も無い。

 ……俺から逃げようなんざ、許される筈もねェだろう。連れ戻して、今度はどこにも行けないように縛り上げておくしか無さそうだなァ?

 

 「フッフッフッフッフッ」

 

 笑いながら船の準備を待ち、飛び乗る。目的地は故郷一択。

 だが、天候を操るとさえ言われる程の気象センスを持つ女が不在では、如何せん航海に時間が掛かる。それ故に、到着した時には手紙を置かれてから半月もの時間が経過していた。

 船を泊めた時、駆け寄ってきた人の中に見覚えのある姿があった。俺が見ていると気付いたのか、腕を使い真っ直ぐに蜜柑畑を示すと唇の動きだけで言葉を伝えて来る。

 

 〝いじめないでね〟

 

 その言葉に頷いたものの、事実あの魚達よりも分かりやすく監禁しようとしているとは皮肉なもの。二度と勝手に動けないように、その足の骨でも砕いてやろうか。

 そう思いつつ近付き、草を踏む音で気が付いて振り向いたその顔を見た瞬間、怒りが霧散するのを感じた。涙を落とすその姿に、やっと想いが叶うのだと確信する。

 両手を大きく広げて、動きを止める。そんな俺に飛び付き、縋り付く小さな温もり。

 頭を撫でてやれば、取り戻せた安堵感と手に入れた幸福感が全身を包む。それなのに、言葉で聞きたいと願っちまうのは、強欲な海賊の性か。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 抱き締めている筈の腕が、震える。それを感じ取って、違う意味に解釈したらしい馬鹿猫が逃げようとするから、それを許す筈もなく捕らえ直し唇を塞ぐ。

 落ち着け、俺の言葉を聞け。そうキスで伝えると力の抜けて行く身体。

 

 「俺は昔から変わらず、愛して、求め続けてる。……俺の所に、帰って来い。お前の居場所は、俺の傍だろう」

 

 俺の言葉に泣きながら頷くその姿。これならば自由に羽ばたく羽根を折る必要も無いと安堵しつつ、精一杯の優しさで抱き締める。

 二度と、逃がすつもりは無い。俺だけの天使だ。

━━━━━✿

【ロー】

 

 そろそろ空気の入れ替えは充分だろうと、ベポに潜水の指示を出す。その時、シャチの情けない悲鳴が聞こえて、その直後にイッカクの怒号が聞こえて来た。

 どうしたのかと視線を向ければ、背を向け震えるイッカクと情けない顔で泣きそうになっているシャチが見えた。その二人が見ていたであろう物をペンギンが手に取り、眉間に皺を寄せてから俺の元に持って来る。

 それを受け取り、暫し硬直した。俺が嫌いになった……とか、では無い、よな?

 そんな事を考えて硬直した俺の肩を叩いたのは、コラさんだった。力強く頷くそれに促されるようにして、うちの参謀を取り戻す為に指示を飛ばす。

 逃げられたのならば、追いかけて捕まえれば良い。それでも逃げようとするなら、足を切り落とせば良いだけの話だ。

 俺には、逃がす気など無いのだから。普通ならば探すのに時間がかかるだろうが、うちの参謀は大切なものがわかり易すぎる。

 お陰で探すのには時間がかからなかったものの、うちの参謀が航海士としての能力を有しすぎている事を痛感させられた。ベポが頑張ってくれているのは分かるが、肌で天候を読み1度見た現象は全て把握し、甚大な被害となる前に回避してくれていた存在の不在は航海に多大なる影響を及ぼす。

 それでも何とか到着した島で、俺が船から出るのと同時に迎えてくれたのは……歩く練習をしていたらしい義母。……未来のだが。

 

 「うちの馬鹿娘なら、蜜柑と喋ってるわよ」

 「貰って行く」

 「返品不可よ。傷付けたら、呪い殺すから」

 「傷付けても、確実に治す。……俺は、医者だ」

 

 そんな些細な応酬の後、向かった先に居たのは蜜柑の妖精を思わす想い人。草を踏んだその音に反応して振り向いた愛らしい顔が、俺に向けられる。

 その直後、怒りや苛立ち、不安や不満が掻き消えた。頬を伝い流れ落ちる涙に、無意識で手を広げたのは俺の弱さか。

 何も言わず、ただ駆け出して飛び付く愛しい女。その頭をそっと撫でてやれば、縋り付くようにその手に力が入ったのに気付く。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 

 どうして、俺の傍を離れたのか。俺をまた、独りにするつもりだったのか?

 

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 心で問い掛けたそれに応えるように、首を横に振る。焦るその姿が、妙に痛々しい。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 腕が、震えた。驚きと歓喜で。

 なのに、何を勘違いしたのか逃げようとするから、今度こそ伝わるように、その唇を塞ぐ。それにより力の抜けた所を見計らって、静かな声で告げた。

 

 「お前の居場所は、俺の傍らと決まってるだろ。……もう、独りにしないでくれ」

 

 最後は哀願に近い俺の言葉を受けて、泣きながら頷き続ける大切な存在を、強く抱き締める。漸く取り戻せたと、自分のモノにできたと実感しながら。

━━━━━❀

【マルコ】

 

 机にあった紙を手にして、それを握り締めたのは覚えている。その後はサッチに殴られて、漸く意識が戻ったとも言える程だ。

 何故、迷惑等と考えた。今度は何を独りで耐えている?

 問い掛けたくても、消えたその姿にそれは出来ない。腑抜けのようになった俺に、親父が声を掛けてきた。

 

 「マルコ、お前ェはどうしたい?」

 「取り戻したい」

 「元々お前ェのもんじゃねェだろう。それで、迎えに行って拒まれたらどうする」

 

 親父の問い掛けに、迷い無く言葉がでる。まるで決まってる事であるかのように。

 なのに、拒まれる自分を想像して、少し声が出しにくくなった。拒まれたから、今傍に居ないのだから、その想定はできている筈なのになぃ。

 

 「……説得して、みるよぃ」

 「どうやって?それも拒まれたらどうするつもりだ」

 「……俺は、惚れてんだ。何もせずに諦めるつもりはねェよい」

 「なら、悩むな。止まってる暇はねェだろう。……お前ェ1人の為にこの船の家族全員が巻き込まれんだから……連れ去って来い」

 

 後半で通じてるクセに拗らせんなと呟いたそれを、俺は聞いてはいなかったけれど。親父達は俺の為に船を動かしてくれて、それでも移動にはそれなりの時間を要した。

 これだけの数、海に長くいた兄弟が揃っていて……たった1人欠けただけでこれだけの遅れが出るとは、正直誰も思っていなかった。それだけ自然に、いつも俺達をサポートしてくれていたのだと思い知らされる。

 何が……迷惑なんだよぃ。勝手に自己解決してんじゃねェ。

 俺達が満場一致で向かったその島は、遠目には変わらないように見えたが、船の到着を待てずに飛び立つ。そんな俺を誰も呼び止めず、ただ岬に立つ少女が困ったような顔で俺を手招いただけ。

 そっとその岬に降り立てば、静かに視線をその眼下に広がる蜜柑畑へと向けた。それだけで、言いたい事はわかったので、苛立ちと緊張を胸に足を踏み出す。

 下草と同時に枝を踏んでしまえば、蜜柑畑に埋もれるようにしていた少女が振り向く。人間からなのか、周りからなのか分からない程に蜜柑の香りが漂う。

 その香りに意識が奪われそうになった直後、表情を変えることなく眦から落ちる雫。それを見ただけで、怒りも緊張も溶けて消えた。

 残ったのはただ、愛しさのみ。そっと手を広げて、少し待つ。

 それだけで駆け出して、飛び付く小さな温もり。そのまま縋り付くようにされれば、頭を撫でながら問い掛けるより他に何が出来るというのか。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 慌てたように、上擦った声で、何も問い掛けてすらいない俺に動揺を隠せない。そんな状態だからこそ、嘘偽りは無いとわかるし、期待しちまう。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 抱き締める腕に、自然と力が籠る。だと言うのに、突然逃げようとするから思わずその唇を塞ぐ事で動きを止めさせていた。

 

 「愛してる。女として。……だから、俺を居場所にしろよぃ」

 

 俺の言葉を受けて、小さく頷く。その頬を止まる事の無い涙が伝い続けるから、それを唇で拭いながら泣き止むその時まで……腕の中で甘やかそうと決めた。

━━━━━✿

【イゾウ】

 

 弟達に射撃の訓練を付けて部屋に戻ると、ある筈の姿が無く代わりにあったのは一枚の紙。それに書かれていた文字を見て、心臓が嫌な音を立てるのを聞いた。

 その場で崩れ落ちなかったのは、武士としての矜恃か。はたまた、それ程ショックではなかったのだろうか?

 ショックではないとするなら、理由は……と考えて、いつか喪うと、心の中で覚悟していたからかも知れないと気付く。喪う事に慣れすぎて、何とも思わなくなっているのかもな。

 

 「イゾウ……?どうしたよい」

 「消えたんだ……」

 

 言葉にして、怒りより悲しみが胸をしめる。どうして、突然……。

 俺が傷付けたのか。何かに怯えている様子は気付いていたのに、それに何もしてやれなかったから……見捨てられたのだろうか。

 それからどうやって呼吸をしていたのか、よく分からない。気付いた時には、親父に殴られて甲板に転がっていた。

 

 「しっかり、ケジメ付けて来い。……海賊なら、本当に欲しいもんを見失って、手放すんじゃねェ!奪って来い、イゾウ!!」

 

 その言葉と共に海岸に投げ落とされて、反射的に体勢を整え着地すると、親父が俺を見て船の上でいつもの笑い声を響かせた。何をするんだと怒るよりも先に、自分のいる場所が分かり無意識で足を動かし始める。

 誰に聞かなくても、わかる。求める相手が、何処にいるのか位の事は。

 何が、別れに慣れてるだ。俺は今もまだ、諦めるなんてできてねェし、姿が見えなくなっただけで身動きも取れなくなっちまった。

 これが現実だろう。……想いを伝えて、それを拒まれても泣き落とせば着いて来てくれると知っているから、卑怯でもなんでも連れ戻してやると覚悟を決めて向かった先。

 蜜柑を鋏で収穫している後姿を見つけた時、足が勝手に距離を縮めていた。その音に驚き振り向いたその姿に、愛しさが込み上げる。

 こんなにも好きだったのかと自覚した時、その瞳から大粒の涙が溢れて落ちるのを見てしまえば、苦笑したのは自然な事。どうする事が正解なのか分からないまま、その場で両手を広げてみれば駆け出して飛び付いてくる小さな身体。

 縋り付くように抱き着く温もりの頭を撫でて、本当は俺の想いを伝えようと思っていたのに、違う言葉が飛び出してしまう。どうして、突然、俺の前から消えたのか……それを俺は聞きたかったんだ。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 何も言う前に違うとだけ言われてもわかる筈はない。だが、何か認めたくない事でもあるのだろうと言う事はわかる。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 俺だけではなかったのだと、漸く知る。初めての感情に戸惑い逃げたと分かれば、もう、この手を離す事なんざできる筈も無い。

 なのに、往生際悪く逃げようとするからその唇を塞ぐ。それにより固まったのでそっと唇を離して、想いを告げた。

 

 「俺のお姫さん……愛してるよ。だからどうか、俺を独りにしないでおくれな。お前さんの居場所は、俺の腕の中だろう」

 

 泣きながら何度も頷くその姿が弱々しくて、けれども愛しくて、今度こそ連れ帰れるのだと安堵する。二度と、手放すような愚行はすまいと誓いながら、細い身体を強く抱き締めた。

━━━━━❀

【シャンクス】

 

 宴の最中、俺の傍を離れる事はたまにあるからと気にしていなかった。しかし、夜部屋に戻るとその姿が消えていて、代わりに残されていたのは意味のわからないメモ書き。

 即座に連れ戻して縛り上げてやると意気込む俺を殴って正気に戻させたのは、いつもと同じように幹部達だった。そうして心を落ち着かせながらも、やはり迎えに行こうと決めたのは、メモの文字が震えていたから。

 

 「動揺が隠せてねェな。脅されたか、心を大きく揺さぶる何かが起きたと見るべきだな。どちらにしても……俺に解決できないと判断した分の説教と、事実確認はするぞ」

 

 俺の言葉に頷く仲間達。迎えに行こう、大切な仲間であり……鈍すぎる果実を。

 迎えに行く先は決まっている。到着までにはそれなりに時間も掛かったが、それは優秀過ぎる航海士の不在が理由だから諦めるしかない。

 船を岩場に着岸させた時、それを見ていた少女が静かに俺に視線を定める。その眼差しが、うちの馬鹿猫と似ていて……これが姉かと理解した。

 

 「アンタが、シャンクス?」

 「そちらは、ノジコだな」

 「うちの愚妹なら、蜜柑に甘えてるわ。……辛気臭いから、引き取って。でもね」

 

 言葉を切り睨むその様子が、少し離れていただけで妙に懐かしい少女の面影と重なる。それ以前に、蜜柑に甘えるってのはどういう事だと、突っ込む事の許されない空気。

 仕方なくて首を傾げる。それでも空気が緩くなる事は無い。

 

 「ん?」

 「泣けなくしたら、二度と使えないように切り落としてやるから覚悟しなさい」

 

 その凄み方がそっくりで……つい、笑って頷いちまった。だとしたら、それは母親譲りか。

 ずっと姉馬鹿だと思っていたが、姉の方も妹馬鹿だったらしい。顔立ちも、肌の色も、髪の色さえ違うのに良く似た姉妹だな。

 頷いてから奥へと足を進めれば、見付けたのは蜜柑を撫でている1人の女。サクサクと草を踏みながら進めば、驚いた様子で振り向き、泣きそうな顔をする。

 そして、流れ落ちた一筋の涙。それを見ちまえば、叱るなんてもう、できそうもない。

 両手を広げて待機すれば、無言のまま涙をポロポロと零しながら駆け寄り飛び付いてきた。そんな姿を見て、責める言葉は出てくる筈も無くて、その頭を撫でちまう。

 ただ、こんなにも俺を求めてくれるのに、頼ってくれるのに、どうして離れた。誰かに脅されたのか?

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 思っている事と違う言葉を紡ぐ俺の唇。それに対してただ、首を横に振る。

 誰かを庇っているのだろうか。動揺を隠せない幼い姿は初めて見るもの。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 誰が、何を、なんて、聞くまでもない。そうか、だから……離れたのか。

 俺の腕が反応して震えたのを勘違いてまた逃げようとするから、今は言葉よりもとその身体を抱き締めて唇を奪う。時に行動は、言葉よりも雄弁に想いを伝えてくれる。

 

 「俺も、同じ気持ちだ。信じられるなら、帰って来い」

 

 呆然とした顔で俺を見るから、そっとその額にキスをして、言葉を続ける。驚き過ぎて止まってる涙が妙に痛々しい。

 

 「お前の居場所は、俺の腕の中だ。帰る家は、レッド・フォース号以外にはもう無いんだと自覚しろ」

 

 俺の言葉に泣きながら何度も頷いて、俺の首に腕を回した。だからその耳元で小さく囁くのは、帰って来てくれないと眠れないだろうと言う情けない俺の本音。

━━━━━✿

【レイリー】

 

 島から出られないようにと、色々しておいた対策は全て無駄だったと思い知らされる。籠の鳥にはなり得ない存在だと分かっていたにも関わらず、それでも捕らえておきたいと願ったのはそれだけ溺れているからだろう。

 歳を重ねて、無欲になるなんて……そんな事は無い。残りの時間が短いからこそ、本当に欲しいものは欲しいし、要らないものはいらないのだ。

 大切なものを幾度となく失って来たから、欲しいものに対して躊躇う余裕も無ければ、得たものを簡単に手放す気もない。そんな私が全力で仕掛けた罠と策略を抜けて、手紙を残して消えたその実力。

 

 「実に……得難い」

 

 そもそも私にどんな迷惑をかけたつもりなのか。とりあえず迎えに行って、話を聞いてあげようかね。

 行先なんてひとつしかない。それくらいわかりやすく、彼女は自分の故郷と家族を愛しているのだから。

 それでも目的地への到着に時間がかかったのは、この海の面白さ故だろう。飽きさせてくれない変化の多い海は、天才としか呼べない彼女の力無くしてはそう簡単に進める筈も無いのだ。

 それでも迷わずに到着したその島で、待ち受けていたのは彼女の義父。私よりは随分若い彼は、私を認めようとしてくれないのが困り物。

 それでも、諦めるつもりはない。ただ、あの子を泣かせない為には彼を傷付けてしまう事もできないのだがね。

 

 「……泣かせたのか」

 「いや、勝手に離れて、寂しがって泣いてるから迎えに来たのだよ」

 「……あんな、子供に手を出さずとも、他にいくらでも……」

 

 絞り出すように言われた言葉。それはそのまま、ブーメランになると分かっているだろうに。

 

 「替えのきく相手など、この世の何処にもいる筈もない。……彼女達はどちらも、貴方の娘だろう?片方が居れば、もう片方はどうでもいいのかな」

 「そんな訳あるか!大切な、愛しい娘達だ!!」

 

 その言葉を聞いて足を止め、それから駆け出し飛びついた青い弾丸。本当に、この姉妹は良く似ている。

 

 「ゲンさん、ありがとう。大好き!!」

 

 その言葉に真っ赤になった男越しに、肩から視線で私に行けと告げる少女。それに頷けば、少女は男に甘えるように擦り寄り引き止め続けてくれた。

 蜜柑の香りを辿れば、蜜柑片手に俯く小さな影。草を踏みつつ進めば、驚いた様子で振り向くのだから大したもの。

 けれども、私を見ただけで泣かれてしまっては……叱る事もできそうにない。今の私には、抱きしめる他の選択肢が無いのだ。

 そっと両腕を広げれば、駆け出し飛び付く軽くて小さなその身体。縋り付くようにして来たそれの頭を撫でて、問い掛ける。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 子供のように、イヤイヤとするその姿は何かから逃げようとしているのがわかる。叱ったりするつもりは無いのだが……と、苦笑しつつ紡いだ宥める為の言葉に返されたのは予想外のもの。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 歓喜に、腕が震える。それをどう解釈したのか、逃げようとするから即座に奪ってしまったその唇。

 落ち着かせる筈が堪能してしまい、足から力が抜けたのを確認して漸く離れられた。本当に、この子は恐ろしい。

 

 「君の居場所は、私の腕の中だろう。帰って来てくれないか?……私が、寂しさで狂う前に」

 

 涙を流して頷く姿に、未来を約束出来もしない私は卑劣だろう。それでも私は、彼女を手放す気も無ければ、そんな選択肢そのものが想定外と言わんばかりに、抱き締める腕に力を増した。

━━━━━❀

【クロコダイル】

 

 グシャリとメモを握り潰し、そのまま砂へと変えた。オールサンデーがそんな俺に微笑ましそうな眼差しを向けるのがまた、苛立ちを加速させる。

 

 「ここは、任せる」

 「あら、迎えに行くの?」

 「当然だ。アレは、俺の物だ」

 「道具としてなら、行かないで。これ以上、あの子を苦しめないで」

 

 俺に意見するなんて珍しいと思うが、これ以上の押し問答は無用だ。俺は、どうでもいい相手を俺の部屋に閉じ込める趣味は無い。

 俺の言いつけを破りこの部屋を出たばかりか、海へ出たらしいその能力の高さに肩が落ちる。能力の無駄遣いだと心から思う。

 己の価値を知らない愚かな女が、それでも向かう先は分かりきってる。あれは、賢いのに馬鹿だから他に行く先は無いだろうと知っていた。

 それにも関わらず、久々の海である事を鑑みても移動には時間がかかっちまった。こうして見ると、本当にあの小娘が優秀であるのだと痛感させられる。

 それを、閉じ込めている俺は無駄にしていると言われてもおかしくはないだろう。だが、それでも、人は変わると知っているからこそ、変わらないでいてもらう為にも閉じ込めておきたい。

 常に居場所もわかり、知られる事無く過ごさせれば、危険に晒す事は減る。喪う事も無いだろう。

 そう思っていたが……まさか、これ程鮮やかに逃げ出せる程の能力を有していたとは。お人好しの甘ちゃんでしかないと思っていたのに、何とも複雑な気持ちにさせられる。

 到着した島には、追いかけて来た女と似てるようで似ていない女が待機していた。車椅子に腰掛けて、嫌そうに俺を見てから手招く。

 

 「家の馬鹿娘なら、蜜柑畑に居るわ。でも、泣かせるなら……連れて行かせない」

 「……さて、それは困ったな」

 「え?」

 「あいつの泣き所であるつもりだから、泣かせないと約束はできねェ」

 

 俺の言葉に肩を落として項垂れた女は、諦めたように俺を見た。どうやらマザコンなだけかと思っていたが、どちらも重度に愛し合っているだけのようだ。

 

 「次に、逃げ帰ってきたら、もう返さないから」

 「二度と、逃がさねェよ」

 

 俺はそう言い捨てて、蜜柑畑でボーッとしている女に近付く。その足音に気付いて振り向いたその顔が、俺を見た瞬間に歪む。

 涙を落とすその姿が妙に幼くて、涙は苦手だと教えても治らないそれに苦笑する。俺も……認めるしか無いのだろう。

 そっと手を広げれば、愛しい女が駆けてくる。俺に飛び付くように抱き着くから、その頭を撫でてやった。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 叱られると思っているのか、頭を振って否定の言葉を紡ぐ。だが、いくらなんでもそれだけでは何も分からねェ。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 抱き締めている腕が、歓喜に震えた。認めたくなかった感情を認めた瞬間に訪れた歓喜。

 けれどもそれを勘違いしたらしい馬鹿が逃げようとするから、腰を強く抱いて唇を塞ぐ。落ち着いたのを見計らい、そっと唇を離した。

 

 「お前の居場所は、俺が作る。俺の用意した居場所で、好きに囀ってろ」

 

 俺の言葉に泣きながら頷き、俺から離れなくなった温もりを、壊さない程度に強く抱き締める。取り戻せた温もりを、俺は二度と手放さない。

━━━━━✿

【ニューゲート】

 

 さて、あのお転婆娘をどうしてやろうか。そんな事を考え、小さく笑ってから甲板に向かう。

 気付いていたが、あえて見ないようにして来た己の心。歳が離れ過ぎているのを言い訳にして、別れに弱い事を理由にして、己の心を偽り……結果的に逃げられた。

 残された手紙を手に、マルコに近付く。そうして目的地だけ告げれば、何かを察したような顔で頷かれた。

 

 「里帰りでもさせてやるつもりかよぃ?」

 「いや、逃げられたから迎えに行く」

 

 その会話を聞いていた息子達と娘達が騒ぐ。その様子から、誰にも気付かれずに出ていったのだと理解しちまった。

 昔は泥棒してたのよなんて笑っていたが……本当だったらしい。東の海では凄腕で有名だったらしいそれを、そんなまさかと思ってはいたんだが……まさかこれ程の実力者だとは。

 これ迄過小評価していたらしいと気付くのは、その先も多くあった。当然のように躱してくれていたサイクロンや、対処してもらっていた異常気象。

 簡単に対処されていたから、時に怒鳴るように指示を出す事もあったが、それでもそれが当たり前になっていた。楽園や東の海に行けばその苦労も減ったが、それでも時間がかかっちまったのは間違いない。

 目的地に到着すると待ち構えるようにしていたのは、車椅子の女で……少しばかり、やりにくい。嫌そうに俺を見て、それから視線を奥にある林のような所へ向ける。

 それを受けて目礼だけで通り過ぎれば、盛大な舌打ちと、宥める声が聞こえて来た。どうやら俺は、母親から歓迎はされていないらしい。

 蜜柑の香りが強くなり、樹に甘えるようにしている女を見れば声が喉に絡まるような、変な感覚に襲われる。それでも足を進めれば、草を踏む音で気付いて振り向くその姿。

 叱ろうと思っていた筈の心が凪いだのは、その瞳から落ちるものを見たからだろう。そっと両手を広げれば、声を詰まらせたまま駆け寄ってきて体当たりの勢いで飛び付くそれを、無意識で支えた。

 すると縋るように服を掴むその姿に、怒りは綺麗さっぱり霧散する。気が付けばその小さな頭を撫でながら、静かに問い掛けていた。

 

 「自分の言葉で、話してくれ」

 「ちがっ……ちがう、の……!」

 

 混乱していると伝わる。それを宥めようとしていたのに、そんな俺の思考を簡単に奪う言葉が紡がれた。

 

 「ゆっくりでいい。焦らなくていいから」

 「私、間違いなの、こんなの、ぜんぶ……!こんなに、好き、だなんて」

 

 抱いている腕が、身体が、心の揺れに便乗して揺れる。愛しさが、溢れて傷付けやしないかと臆病になる隙を見計らったかのように逃げようとする、細く小さな儚い女。

 慌ててその腰を抱き寄せて、拒絶も後悔もさせないとばかりに口付ける。俺から逃げるなんて、できる筈ねェだろうが。

 

 「お前が俺の安らぎで、居場所なんだ。帰るぞ……俺の……恋人として」

 

 最後に付け加えた言葉を受けて、泣きながら頷く姿が幼い。これは長期戦になりそうだと思いながらも、漸く取り戻せた愛しい温もりに頬が緩んだ。

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