※この作品はR-18です。

拍手お礼文(小話集)   作:夢枕 七変化

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目次

ヒロイン視点
ルフィ視点
ミホーク視点
マルコ視点
ロー視点
ドフラミンゴ視点
クロコダイル視点
イゾウ視点
シャンクス視点
カタクリ視点

線で区切ってあるだけです。飛んだりは出来ません。予めご了承ください。


宝石(色々な視点)

【ヒロイン】

 

 この島には珍しい宝石が眠っているらしい。それは大切な人に贈ると、贈られたその人が幸福になれると聞いて、私はこっそりと船を抜け出した。

 その宝石をあげたら、喜んでくれたりしないかしら。いつも守られてばかりで、何も返せない私だから……少しでも……。

 そう思っていたのに、傷だらけの少年が走ってくるのが見えればそれらを全て忘れて咄嗟に抱き留めると木陰に少年を隠し、静かにするようにジェスチャーする。それに怯えた表情を見せながらも頷いてくれたから、私は少年の傷を簡単に対処しておく。

 クリマタクトのおかげで、衛生的な水には事欠かないのが治療では本当に役立つのだ。そんな時に足音が近付いてきて、少年をクリマタクトで隠して様子を伺えば人買い系だと分かりそれを倒して行く。

 単なる民間人のつもりだったけど、こうして見ると私も多少は強くなったのかしら?

 倒した男達を縛り上げてから少年の元に戻れば、嬉しそうに笑うから、後で海兵にでもあれを引き渡せば少しはお小遣いになるかもしれないわよと笑う。そんな私に少年は元気に頷くと、海兵さんが近くに居るから呼んでくると言って駆け出してしまった。

 これは不味いと船に戻ろうと足を進めたけど、その途中で海兵よりも怖い人に見つかってしまった。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 地を這うようなその声に背筋が凍る。怒ってる、怒ってるよぉー!

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 出来てない!出来てないから!

 いくら心で叫んでも無駄な事。怒ってるこの人を宥める方法が分からなくて、私はとりあえず怖い顔を見ないですむようにその体に抱き着いた。

 それに動揺を見せたから、これしかないと秘めてる想いを乗せてその頬にそっとキスをする。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 反省したから、そんなに怒らないでと思いながら強く抱きつけば、溜息を落としつつ私の体を支えるように抱き締め返してくれた。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 何を言われたのか分からずにその顔を見上げれば、まるで当然のように私の唇は塞がれて……。苦しいこの片想いは、いつまで続くのだろうと思いながらもその唇を私は歓びを持って受入れていた。

─────☆

【ルフィ】

 

 海兵のいる島だから騒ぎを起こさないでねと言われていた俺だけど、折角新しい島に着いたんだから冒険したい。そう思って説得しようと部屋に向かったのに、居ない。

 誰に聞いても知らないと言われれば、嫌な予感がする。そうして慌てて駆け出した俺が見付けたのは、服に血の跡をつけた幼馴染で……。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 俺の声にビクリと肩を震わせて、怯えを見せる。無言で震えるだけのか弱い印象を与えても、ここで甘い顔をしたらまたやると確信して言葉を続ける。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 今は本当は怒る権利なんてねェと分かってる。でも多分誰かを庇って戦ったんだろう事も分かるから、心配で怒りが溢れ出す。

 弟じゃなくて、幼馴染じゃなくて、船長でも無くて……俺を男として、見て欲しい。いつかは、恋人になりたい。

 そう思いながらも伝えられない俺が悪いのか、それとも……鈍すぎるお前が悪いのか。

 そんな事を考えながら手を伸ばそうとした時、震える体で抱き着いてきたその温もりに俺は身動きを封じられる。細く頼りない柔らかな体で、俺に抱き着きそのまま頬にキスして来たと思ったら、耳元に囁くように言葉を告げられる。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 それからまた抱き締められてしまえば、それ以上怒る事なんか出来やしない。そっとその体を抱き締めれば、力を抜かれる。

 無防備で、甘い。それでも、いやだからこそ、俺は……。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 驚いたような、呆けたような顔で俺を見たから、その唇を俺の唇で塞ぐ。俺の想いが伝わればいいと願いながらのキスは、何故か抵抗される事は無くて……。

 このキスが終わったら、伝えようと思う。愛してる事を、お前が欲しいと願っていると言う真実を。

─────*

【ミホーク】

 

 目覚めると横にいる筈の温もりがなく、嫌な予感に苛まれる。定期報告の為に人のいる島に寄ったが、間違いだったやも知れん。

 飛び起きれば食事の支度はされており、シャワーか甲板にいるかだと錯覚させられそうな程に普段と船内は変わらぬ。つまりは、つい先程まで居たのだろう。

 食事は帰ってから2人で取るべきだろうと船を降りれば、その瞬間に戦いの音を聞き取ってしまう。雷の音はないが、その戦いの渦中にアレがいるのはわかり切っている。

 舌打ちしつつ向かえば、足音を完全に消して駆けてくる女を見付けた。俺の顔を見て少し汚れた姿で、微かな怯えを見せる。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 お仕置きされたいから、そうしたのだろうに何故怯えるのか。想いは何故か伝わらずにいる為に、慰みにしていると思われているのは知っているが、その怯えた顔は……唆られるから辞めた方が良かろうな。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 問い掛けた俺に長い髪を風に揺らしながら飛び付いて来て、そのまま抱き着く。微かに震える腕で縋り付くようにされれば、流石にそれ以上叱れぬ。

 そう思った瞬間謝罪と共に頬にそっと口付けられれば、自然と溜息が落ちる。兄を慕うような感覚なのは分かっていても、嬉しく思うのだから重症だ。

 

 「……勝てる気がせぬな」

 「へ?」

 

 何もわからぬとその表情で伝えてくるそれに、そっと唇を重ねる。キスだけは拒まぬこの鈍い兎を、どう調理してやれば想いは伝わるのかと考えながら、甘やかなそれに溺れて行く。

─────☆

【マルコ】

 

 用があって部屋に行くと家主が居ない。珍しいなと思いながらも行き先を知っていそうなのに聞いて回るが、誰も知らないという。

 そこで思い出したのは、この島には宝石が眠っているという逸話だ。それ目当てに来たトレジャーハンターが、見つけられずに人攫い等になったケースも多いと聞いている為、俺は慌てて外へと飛び出した。

 すると空から確認した所変な形で木が燃えていたりする場所を見付けて近くに降り立てば、明らかにゴロツキと分かる奴等が感電している。だとするならばと飛び立ち、先回りして待機すれば案の定駆けて来た泥だらけの美少女。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 自分でも驚く程に低い声が出た。それにビクリと体を震わせ、怯えたような視線を向けて来る。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 ペタッとした耳と尻尾の幻覚が見えた気がする程に落ち込んでいる姿を見れば、1瞬許したくもなるがそれはダメだと自分に言い聞かせる。その直後に飛び付いてくる愛しい温もり。

 あァ……クソッ!片想いだよぃ、どうせ。

 分かってるが、こうして時に甘えたような行動を取られる度に、期待しちまう。分かってるのになぃ。

 微かに震える体で、俺に抱きついて離れないその姿に、怖かったのかと思えば許してやる他無い。どうせ誰かを庇って戦ったんだろうと分かるから、余計に。

 その時不意に頬にされたキス。それに息を飲み硬直した俺に小さな声が、落とされる。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 その後またギュッと抱き着いてくるその細く豊満な体。溜息の1つも落ちようというものだ。

 震える体を抱きしめて、内心で白旗を上げる。だが、これくらいは許せよぃ。

 

 「……勝てる気がしねェなぃ」

 「へ?」

 

 ぽやんとした顔で見上げてきたその瞬間を狙い、その唇に己の唇を重ねる。抵抗しないそれに、キスが終わったら想いを告げてみようかと、先程とは違う理由で震える体を支えながら思った。

─────*

【ロー】

 

 ベポには悪いが描かれている海図に解読不明な箇所があり、その師匠のような立ち位置にいる我等が参謀に話を聞きに行ったが、その姿が珍しく部屋に無い。残されている紅茶のポットに触れるとまだ暖かい上に、中身は半分程になっている所を見ればこの部屋を出て差程時間は経過していないと分かる。

 甲板に出るとシャチがきな臭い噂を聞いたと言って報告して来て、その内容からアイツが船を降りた可能性が高い事に気付く。人を幸せにする宝石……か。

 俺かコラさんか、ベポにとかって考えて降りたんだろうと分かる。そういう、甘い奴だと言う事は分かっている。

 船を降りれば微かに聞こえてくる戦いの音に、何故かそれの犯人がウチの参謀だと直感して歩き出す。そんな俺のいるこちらに向かい駆けて来たが、少し泥等で衣服を汚した状態である為に胃がキリキリと痛む。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 心配していたのだとは言い難い。今はまだ、ただの船長とクルーでしか無い。

 それでもその姿を見れば戦いに巻き込まれたのだという事は分かるし、何よりもこれ程わかりやすいデマに参謀の役職にある者が騙されるとはどういう了見だ!甘いにも程があるだろう!と、叱るには充分すぎる理由もある。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 俺の問いかけに小さく震えていたその体で、突然俺に飛び掛ってきてそのまま震える腕で抱き締めてきた。なんだ突然と思い、だが正直嬉しく思っている自分が少し切ない。

 ただ、抱き着かれただけで喜ぶとか、ガキか俺はと自嘲した時そっと頬にキスをされて……思考が1瞬活動を停止した。そんな俺に謝る姿は、庇護欲を誘う程に弱々しい。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 言葉の直後抱き着いてくる腕に力が更に込められたから、そんなに怯えるなとの想いを込めて抱き締め返す。力を入れたら砕けそうな細いその体に、俺は自身の敗北を悟る。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 呆けたような顔で見上げてきたその唇に、自分の唇を合わせれば抵抗される事無く受け入れられた。それにより、どうやら想われているらしいとわかる。

 ……このキスが終わったら、想いを伝えよう。何かあった時には遠慮なんかいらねェから、俺に1番に頼れと言う為に。

─────☆

【ドフラミンゴ】

 

 無邪気に信頼を向けられて、だからと言って躊躇するなんざ自分らしく無いと分かっているが、嫌われたくねェという思いから結局触れる程度のキスしか出来ねェ。そんな自分の首を絞めたくなる。

 明らかに俺達を守り慈しんだ存在の癖に、同時にその過去としか思えないそれにどう対応したら良いのか答えが見えねェ。寧ろ娘だと言われた方が、納得出来る気がする時もある。

 とりあえず、この島は治安もあまり良くなさそうだから降りないように伝えようと部屋に向かい、誰も居ないその部屋を見て遅かったと気付く。そうだ、夢は世界地図を描く事なのだから、初めての島で大人しくしている道理等無かった。

 遅れて気付いた痛恨のミスに舌打ちして、慌てて船を降りる。ほぼ無意識で覇気で探している自分に、苦笑する余裕さえ無い。

 早く見つけなけりゃ、何が起きても不思議はねェ!

 その時晴れているのに轟く雷鳴にアイツに何かあったのかと全力で駆け出し、その直後に真正面から俺の方に向かい駆けてくる人影を見付けて足を止める。泥だらけのその姿に、誰に何をされたと問い詰めそうになる自分を諌めるように息を吐き出すが、怒りは収まりそうもねェ。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 無事で良かったと笑ってやる余裕さえねェ……。誰がお前をこんな姿にした?

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 俺の言葉に怯えを見せるが、許してはやれねェ。勿論お前にもお仕置きはしてやるよ。

 そう思った時飛び付くようにして俺に抱き着いた小さな生き物に、俺は動きを止めるしか選択肢が無い。そんな状態の俺の頬にそっとキスをしてから、震える声で謝罪されれば怒り等継続する筈も無かった。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 俺に抱き着くその力が強まり、俺はそろそろ本気でコレを手に入れてもいいだろうかと考えながら溜息を落とした。それと同時に答えなんて初めから俺の中では決まっていて、細いその体を強く抱きしめ返している自分に呆れてしまう。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 惚けたような顔で見上げてくるその唇を奪い、それに抵抗しない愚か者が他に奪われたりしねェように、このまま連れ帰って食ってやると誓う。……お前は、俺のモノだと言葉と行動で示すと決めて、だが今はもう少しこの唇を堪能したいと願うばかり。

─────*

【クロコダイル】

 

 海軍からの呼び出しから逃げる為、俺は久々に自分で船を出していた。その傍らには、天候を読める便利な女を侍らせていたが……いねェ。

 部屋から連れ出しただけでも驚いていた癖に、船をつけて少ししたら勝手に飛び出すとは、どういう了見なのか。そんなに俺にお仕置きされてェのか、あのガキは。

 ……そろそろ、叱るって意味じゃねェお仕置きをしたくなるような体つきになってきているのに、自覚の足りねェ馬鹿猫に思わず溜息が落ちる。どれだけこっちが耐えてやってると思ってんだかな。

 砂となり舞い上がれば、明らかにあいつの技としか思えない痕跡を見付けて何してんだかなと思う。俺の演技とは違い、アイツのそれは善意の塊だ。

 それでも、気に入らねェ。いや、だからこそ気に入らねェ。

 駆けて行くその進路に降り立ち、待っていれば怯えた顔で俺を見る馬鹿猫。自然と低くなる声を自覚しながら、俺はゆっくりと歩み寄る。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 耳や尻尾の幻影が見えた気がするほど、捨て猫を思わせる様子で怯えを隠せずにいる姿に、絆されそうになる。だが、許してやるには、その姿だけじゃ足りねェよ。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 その瞬間、飛び付いてきた小さな生き物に動揺する。いつも1線以上の何かを隔てていたと言うのに、突然俺の顔に唇を近付けたかと思うと、そのまま頬にキスをされた。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 勝てる筈がねェな。そう自嘲しつつその体を抱き締めれば、微かではない震えを強く感じる。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 何も分かってねェ顔で俺を見上げるから、その唇を奪い尽くすつもりで重ねる。そろそろ、本気で貰うとするか。

 そうすればもう、勝手に飛び出したりはしねェだろと、内心で呟きながら。俺は……大切なものは、守りてェもんは、しっかり守ると決めている。

─────☆

【イゾウ】

 

 人に贈る事で幸福を与えると言う、エンゲージリングの飾りに望まれる事の多い宝石を輩出していたその島も、今では多くの海賊に荒らされ当時の盛況ぶり等見る影も無い。その島の統治者は王と名乗る事なく、けれども領民からは慕われているらしいが、その王子行方不明だと言う。

 大方の見方としては、俺達がここへ来る直前に来ていた海賊に攫われたんだろうと言うもの。それもあり非戦闘員はくれぐれも船を降りるなとの厳命が下ろうとしたその時、お人好しな航海士が1人足りない事に気付きその場が騒然とした。

 直後に晴れているのに落ちた雷により居場所が分かり、飛び出そうとするメンバーに視線を向ける。それだけで開いた道に俺は微かに笑いつつ迎えに行く。

 船へと真っ直ぐに駆けてくる蜜柑色の猫は、泥に塗れていた。だからこそ、また誰かを庇ったか何かしたのだと分かる。

 そうでなければこの猫は身を汚す事無く逃げ切れる。それくらいは、分かっているからね。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 自然と低くなる声は、心配したからだ。我が身を簡単に犠牲にする事を知っているからだ。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 そう言って睨んだ俺に飛び付くように抱き着いた細いその体に、俺の思考と動きは停止する。そこへ追い討ちをかけるようにそっと頬に触れた唇。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 微かに震えるその体を溜息を落としつつ抱き締めた。鼻腔を擽る柑橘類のそれが、俺の胸を締め付ける。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 何も分かってねェ無垢な瞳を向けられて、もう限界だとその唇を塞ぐ。何処へも飛べないように、その足に愛という名の鎖を着けようと決意して。

 俺だけのお姫さんに、してやるよ。泣いても何しても、もう逃がしはしない。

─────*

【シャンクス】

 

 この島に来たのはいつぶりだったか。前に来た時は、他に厄介な事があったからとルフィの元に置いてきたから、測量したがって居るだろうと思えば、早く迎えに行こうと思わされる。

 ベックからのお小言を適当に切り上げて部屋に向かうと、居るべき人物が居なくて首を傾げるが、即座に気付く。あの甘ちゃんは俺を男として見ても居ない癖に、俺の為にと宝石を手に入れる為に出かけたんだろうと。

 ……人を幸福にする宝石何かより、お前が俺を愛してくれる方がずっと……幸せになれるんだけどな。6歳の頃から成長のない中身と、見た目ばかり成長した肉体と、変なトラウマを抱えた現状に俺も色々と限界ギリギリなんだが、分かっては貰えない。

 それなのに、それを楽しんでいる自分がいるのだから、分からないものだと思う。船を降りて進めば落雷がありそちらへ足を進める。

 これはお説教コースだなと思いながら進めば、スカートの裾を泥に塗れさせた姿を発見する。泥まみれの可愛い子猫。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 怪我は無いようだが、何度言えば1人で無謀な事をしなくなるのか。そろそろ体に教え込むべきか。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 俺の問い掛けに、涙に潤んだ瞳を向けたと思った直後、俺に抱き着く無防備な肢体。その上そのまま俺の頬にキスをしてくるのだから、たまったもんじゃねェ。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 体を震わせながらそんな言葉を口にして、押し付けられた胸が俺の理性を試す。無意識でその体を強く抱き締め返して、己の理性が切れる音を聞いた。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 無防備に顔を上げたそれをそっと塞ぐ。それに抵抗せずに、だが、涙を流すから……じっくり楽しんだ後で、想いを伝えてやろうと思う。

 その後はもう、返事がどうあれ逃がしてやるつもりは、皆無だがな。……俺の女神だと、そろそろ自覚してもらおうか。

─────☆

【カタクリ】

 

 海図を描いていると思っていた部屋の主が居ない事に慌てたのは、1人で行動させると何かしらの問題を引き起こす天才だ揶揄も知れない。姿の見えない猫は、恐らくこの島の測量でもしに行ったのだろう。

 実力だけを考えれば心配等するだけ無駄だ。だが、お人好しが服を着てネギ背負って歩いてるような存在を心配しない等出来る筈もない。

 部下達を船に残し、見聞色の覇気で探りながらオレンジの猫を求めて歩き出すと少し離れたところで落雷があったのがわかり、自然と自分の口から溜息が落ちる。その内に真正面から走って来る泥にまみれた姿を見れば、どうしたって怒りに体が震えそうになるのは仕方の無い事だろう。

 

 「1人で、何も言わずに船を降りるとはな……」

 

 俺の声がいつもより低い事を自覚していながら、ゆっくりと足を進めれば泣きそうな顔で俺を見て来る。無い筈の耳と尻尾が震えているように見えるのは、その気配と表情のせいだろう。

 

 「覚悟は、出来てるだろうな?」

 

 それでも、今回は許してやらん。俺の片想いだとは分かっていても、毎度毎度、見知らぬ他人の為に傷付く姿を見せられる俺の気持ちを考えてくれと思ってしまう。

 その時、無鉄砲な子猫が突然飛び付いてきた。その小さな体が微かに震えている事に気付けば、何も反応する事等出来はしない。

 それから慣れた様子で俺の体によじ登り、そっと頬に触れるだけのキスをされれば声さえ出せはしない。お前は、分かっててやってるのかと叫びたいような衝動にかられる。

 

 「心配かけて、ごめんなさい」

 

 そう囁くように言って強く抱き着く体が、落ちたりしないようにそっと支えるように抱き締める。……どうして、こんなにも愛しいのか。

 

 「……勝てる気がしねェな」

 「へ?」

 

 何もわかりませんと言うように俺を見上げるその顔を見て、もう我慢は出来ないと自嘲する。それと同時に体は正直に動き、その唇を奪うように重ねていた。

 抵抗されなかった事をいい事にして、震えるその体を少し強めに抱き締める。このキスが終わったら、想いを伝えようと心に決めて。

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