1話 すべてを失った日
自分が他人より不幸だと思ったことは一度もない。
理不尽な仕打ちを受けたが、それはいまも同じ思いだ。
今回のことは、さすがにへこんだが、それでも、最高の不幸に比べれば、このくらいは「中くらい」の不幸にすぎないに違いない。
坂本
真夫は孤児だ。
しかし、物心ついたときから、なぜかガールフレンドに不自由したことがない。
いつも周りには、親切にしてくれる女性がいた。
顔がかっこいいというわけでもない。
また、性格が男らしいとか、スポーツの能力に秀でているということもない。
自分で言うのもなんだが、ひとりの少年としては極めて平凡だと思う。
いや、平凡というよりは、おそらく、ちょっとした異常性欲者かもしれない。
小学生の頃からひそかに「SM雑誌」を手に入れて、淫らな夢想に耽ってばかりいたし、付き合ったことのある女の子とは、SMの真似事もした。
もっとも、さすがに、叩いたり、傷つけたりということはしない。
縛ったり、目隠しをさせたりして抱くのだ。
ただ抱くよりも異常に欲情した。
十二歳で童貞を卒業したときも、三歳歳上の「姉ちゃん」を紐で縛ってから抱いた。
興奮した。
性欲も強い。
何発でも続けて射精できるし、一晩中勃起させたままでいられる。
もっとも、女の子との付き合いは、中学生までのことだ。
高校に入ってからは、男しかいない寮生活をしていたから、さすがに異性との付き合いとは無縁だった。
ただ、その高校生活も二年余りで終わった。
退学になったのだ。
天涯孤独の自分には、退学で寮を放り出されれば、住む場所も頼る親類もいない。
とりあえず、施設に戻るしかなく、全財産が入っている鞄ひとつを持って、電車に乗ろうとしていた。
だが、その前に是非とも、もう一度会いたい少女がいる。
ある女子高生だ。
名前も住所も知らない。
しかし、あのとき身に着けていた制服は、ここから少し距離のある山中にある寄宿舎制の私立高校のもののはずだ。
だから、真夫は、駅前のベンチに座り、駅から駅前バスセンターに向かう人の群れにじっと目を凝らすことにしたのだ。
真夫に痴漢の冤罪をかけた、あの女子高生を見つけるために……。
あれは、一箇月近く前のことだった。
寮からバイト先の夜間スーパーに向かう途中で、真夫と同じくらいの男子高生に痴漢をされている女子高生を見たのだ。
はっとするほどの美少女であり、同じくらいの年代の少年たち三人に電車の端に押し付けられるような感じで、身体のあちこちを触られていた。
その女子高生は、泣きそうな顔をして、必死に身体を手で庇っているだけだった。
ちょうど夕刻の帰宅ラッシュの時間であり、車両の隅で行われているその淫らな状況に気がついた者はいないようだった。
真夫は、痴漢だと大きな声で告発した。
車内がざわめき、少年たちはばつの悪そうな表情で少女から手を離した。
そのとき、ちょうど電車がホームに停車した。
それがこの駅だ。
少女は電車の扉が開くと同時に逃亡した。
駅員がやって来たときには、その少女はいなくなっていて、真夫とその三人の少年だけだった。
そのまま四人で駅員室に向かうことになった。
しかし、それからがまったくわけのわからないことだった。
駅員室に到着すると、いきなりその三人が痴漢をやったのは、真夫だと主張し始めたのだ。
自分たちは、そばにいただけだと……。
驚いたが、ほかの証人は、電車に乗ってそのまま去ったあとだ。
肝心の少女もいない。
お互いに相手が犯人だと主張し合う真夫と三人に、駅員が困惑した感じだった。
そこに、あの少女が戻ってきた。
ほっとした。
これで馬鹿げた話から解放される……。
痴漢を告発して、逆にその痴漢に冤罪をかけられるなど聞いたことはない。
だが、信じられないことに、彼女が蒼白な顔で駅員に痴漢だと告発したのは、真夫の方だった。
「痴漢はこの人です」
彼女は真夫の顔を見ずにそう言った。
横の三人が勝ち誇ったように声をあげたのをよく覚えている。
それからは、次々に事が起こった。
被害者の証言により、真夫の「痴漢」の犯罪は、警察に通報されることになった。
警察に対する真夫の無実の訴えは、一笑されただけだった。
真夫が、施設出身の孤児であるというのも、警察が真夫の主張を信じない理由のひとつになった。
それに比べて、あの三人とも、それなりの金持ちの子弟であり、この付近では有数の進学校で通っている新設の私立高の生徒だったらしい。
いまにして思うと、その女子高生も、三人の痴漢も同じ高校の制服だった。
示し合わせて、真夫を陥れたのか?
連中に陥れられる覚えもないが、そんな風にも考えたくなる。
いずれにしても、あの少女が警察に訴えることなく、あのまま再び駅から逃げたため、警察は事件として処理できずに、最終的には「説教」されただけで真夫は解放された。
だが、警察からの通報により、真夫が痴漢をしたということになり、学校は退学に決まった。
通学にあたって、真夫は奨学金と孤児に与えられる国からの補助金を使っていたが、それも取り消しだ。むしろ、二年間の分の返金をしなければならない。
生活費にするためにやっていたバイトも首になった。
孤児とはいえ、それなりに順風満帆だと思っていた人生が暗転するのは、あっという間だった。
養護施設出身の奨学金生徒とはいえ、成績優秀だった真夫は、高校でも寮でも、よくしてもらっていた。
それが手のひらを返したように、誰も彼もが軽蔑の眼で真夫を見るようなった。
やっぱり、孤児はクズだと、面と向かって罵声を浴びせられもした。
親しいと思っていた同級生や大人が一斉に真夫に冷たく接し始めた。
自分は無実だという主張は、誰ひとりとして相手にしてくれなかった。
真夫は、改めて、この世の理不尽を知った思いだ。
そして、退学の手続きが終わり、寮を出されることになり、こうやって出てきたのだ。
孤児の真夫に、行くところがあるわけがなく、とりあえず、生まれ育った養護施設に戻るしかない。
本当は、四月の誕生日で十八歳になった真夫は、施設にはいられない年齢なのだが、施設の園長が孤児である真夫の身元保証人になっていて、とりあえず保護してくれることになったのだ。
まあ、すぐに新しい居住場所を見つけて、すぐに出ていかなければならないとは思うが……。
だが、駅に入ろうとして、真夫は、この駅が、あのとき痴漢に仕立てられた駅だということを思い出し、もしかしたら、ここで待っていれば、あの女子高生に会えるのではないかと思ったのだ。
もちろん、あのときは、ただ痴漢に遭った恐怖で、とりあえず停車した駅に逃亡しただけかもしれないが、万が一ということもある。
いまの時間は、あのときと同じ夕刻だ。
駅からバスセンターに向かう人の群れを観察していれば、あの少女にもう一度遭える可能性もあるかもしれない。
だから、真夫は駅前広場の隅のベンチで、駅から出てくる人の群れを観察することにした。
夜まで待ち、会えなかったらそのまま施設に戻る。
そのつもりだ。
どうせ、ほかにすることがあるわけでもない……。
いまさら、なにかの償いをしろとか、あるいは、ひどい目に遭わせたことを罵るつもりはないのだ。
ただ、どうして、本物の痴漢ではなく、痴漢を告発した自分を駅員に痴漢だと訴えたのか、その理由を知りたかった。
ついでに、彼女が嘘を言ったために、自分は高校を退学させられ、住んでいた暮らす場所を失い、さらにバイトも首になってしまったのだと言いたかった。
それが、せめてもの彼女への仕返しだ。
坂本
真夫は、生れてからずっと、「まお」という女のような名が好きではなかった。
養護施設、つまり、孤児院に預けられる子供というのは、実際にはどちらかの親がちゃんと生きているのがほとんどだ。
ただ、親の虐待だったり、経済的な事情だったりで、親と一緒に生活することができず、かといって、ほかに育てられる親族とかがいなくて、養護施設に預けられるのだ。
だから、ちゃんと親からもらった名がある。
しかし、真夫は、完全な孤児だった。
父親は知らない。
母親は、真夫が乳幼児のときに、突然に真夫を抱いたまま心臓麻痺で道端で死んだのだという。
所持品のようなものは持っておらず、結局身元はわからなかったらしい。
真夫は親から名前すらもらえなかった。
ただ、母親の鞄に、「まおうへ」とだけ書きかけた手紙があったという。
名前のない孤児の姓名は、養護施設のある市町村長が名づけるのが決まりであり、名をつけることになった当時の市長は、母親の唯一遺した「まおう」という字から、その男の子に「
坂本という姓は、たまたま、その市長が「坂本龍馬」のファンだったからだという。
「坂本」はともかく、「まお」はないだろう。
どうせなら、もっと男らしい名にして欲しかった。
まあ、もう十八年前の話であるから、当時の市長はもう生存していないかもしれないし、名付け親の市長に会ったとしても、今さら不満をぶつけるつもりはないが。
養護施設で育った子供は、性的に早熟だという話があるらしい。
それが真実なのかどうか、真夫には判断できない。
確かに、真夫の初体験は十二歳だったから、同世代の少年に比べば早いようだった。
二年間の男だけの寮生活で、真夫は同学年の男たちの多くが、まだ性体験がないのがわかった。
なんの話でそうなったのかわからないが、やっと初体験を済ませたという男子生徒がいて、その男がそのときのことを自慢げに語ったのをほかの寮生徒たちが目を丸くして聞き入っていた。
そのときの、ほかの少年たちの顔から、ほかの者にはどうやら女性との体験はないというのがわかった。
「施設の子だから、もう同じ施設の女とはやってんだろう? お前はどうなんだ?」
そのとき、集まっていた者のひとりが真夫に言ったのが、その言葉だった。
真夫は、その言葉と、さらにそのことを当然のように興味あり気に頷くほかの者の表情で、施設の子はそんな風に思われているのだと悟った。
「いや、経験なんかないよ。童貞だよ」
とっさに真夫は答えた。
経験があると言えば、当然にそのことを話さなければならない。
「あさひ姉ちゃん」のことをあんな風に与太話のひとつとして語りたくなかったのだ。
あのとき、真夫は十二歳──。
あさひ姉ちゃんは、十五歳……。
あさひ姉ちゃんは、もうすぐ施設を出ていくことが決まっていた。
施設には、本当は十八歳になるか、高校を卒業するまでいられるのだが、中学校を卒業するときに残っている生徒は、就職して働きだすか、寮のある高校に通うことになって、施設を出ていくのが普通だった。
進学であれば、そのための奨学金や補助金も手続きしてくれる。
真夫もそうやって、いままでの高校に通っていたのだが、あさひ姉ちゃんも、寮にある高校に入って施設を出ていくことが決まっていた。
施設には、普段は誰も使わない物置になっている屋根裏部屋があった。
あさひ姉ちゃんが、もうすぐ施設を出ていくことが決まっていた三月──。
真夫は、あさひ姉ちゃんに連れられて、そこであさひ姉ちゃんと愛し合った。
真夫とあさひ姉ちゃんは、もともと特別の関係だった……。
初恋の人だ。
あさひ姉ちゃんの名は、
彼女が施設に入ってきたのは、あさひ姉ちゃんが十歳のときで、父親の虐待が原因だった。
詳しいことは知らない。
虐待されていたというのも、本人から聞いたわけじゃない。
あさひ姉ちゃんのことを養護施設の先生たちが語るのを盗み聞きしたというお兄ちゃんたちから、さらに又聞きしただけだ。
あさひ姉ちゃんは、とても可愛い顔をしていた。
また、入所してすぐに裸を見る機会もあったが、肌も真っ白でとてもきれいだった。
親に虐待された子は少なくなく、親に虐待されたという子は、大抵は普段は見えない身体に虐待の痕があるのを知っていた。
しかし、あさひ姉ちゃんには、それがまるでなかった。
七歳ながらも、それがなんとなく不思議だったのを覚えている。
とても明るくて、陽気なあさひ姉ちゃんは、すぐに施設でも人気者になった。
当時に施設で流行っていた遊びに「銀行強盗ごっこ」というのがあった。
警察と立てこもり犯に分かれて、人質役になった子を犯人役の子が押し入れに監禁し、それを警察役の子供たちが包囲して交渉するのだ。
そのときは、人質役はあさひ姉ちゃんだった。
犯人役は、真夫ひとりだった。
小学生のごっこ遊びといえども、扮装などは本格的なものだった。段ボールで作ったパトカーもあったし、紙でこしらえた警察の服などもあった。テレビで見たものをみんなで作り合ったのだ。
犯人側も鉄砲そっくりに作った段ボール細工もあったし、人質になる子は、本当に猿ぐつわとか、浴衣の紐で縛ったりもした。
あさひ姉ちゃんも、ごっこ遊びが大好きで、愉しそうに縛られて、のりのりで怖がったふりとかした。
そのとき、寝転がって身体を動かしていたあさひ姉ちゃんのスカートがまくれて、真っ白い下着が見えたのだ。
どきんと鼓動が高鳴った。
あのときに自分がとった行動はいまでも自分でも信じられないし、どうして、そんなことをしたのかわからない。
だが、そのときの衝撃だけは克明に覚えている。
不思議な衝動に我慢できなくなった真夫は、あさひ姉ちゃんの下着の股間の真ん中の部分をぎゅっと指で押したのだ。
「んんんっ」
あさひ姉ちゃんがそのとき、いきなりぶるぶると身体を震わせた。
びっくりした。
慌てて手を引っ込めたが、絶対に叱られると思った。
怒られると覚悟した。
七歳ながら、やってはいけないことをやってしまったのだという強い悔悟の念が生まれた。
言い訳をするかのように、急いであさひ姉ちゃんの猿ぐつわを外した。
でも、あさひ姉ちゃんはなにも言わなかった。
ただ、悪戯っぽく笑っただけだ。
そしてそれは、真夫とあさひ姉ちゃんのずっと続く秘密になった。
あさひ姉ちゃんは、そのときのことを誰にも喋らなかったが、強盗ごっこをするときには、狙って真夫を犯人役にして、自分が人質役になった。
人質役になると、みんなにわからないように、あさひ姉ちゃんは、腰を動かしてスカートから下着が見えるようにした。
真夫は、その下着の上からぎゅっと指で押す。
それが決まりだった。
真夫とあさひ姉ちゃんの「秘密の行為」は、施設の子どもたちのあいだで強盗ごっこが流行らなくなってからも続いた。
あさひ姉ちゃんは、真夫とふたりきりになると、こっそりとスカートをあげて下着を見せた。
真夫はその下着をぎゅっと押す。
「んんっ」
決まって、あさひ姉ちゃんは、押し殺すような声を出して、腿をがくがくと震わせた。
そんな関係が続いた。
真夫が小学校の高学年になり、あさひ姉ちゃんが中学生になってもだ。
中学生になったあさひ姉ちゃんは、近所でも有名な美人になっていた。
そして、もうすぐあさひ姉ちゃんが施設を出ていくことが決まっていたある夜に、真夫はあさひ姉ちゃんに連れられて、屋根裏部屋に行った。
そして、あさひ姉ちゃんと愛し合った。
そのとき、あさひ姉ちゃんが準備していたのが、あのときと同じ浴衣の紐だった。
「手と足を縛って猿ぐつわをして、真夫ちゃん。あのときの強盗ごっこみたいに縛って欲しいの……。最初はそれがいい……。そして、今日はぎゅっと押すのをやめないで……」
あさひ姉ちゃんは言った。
真夫は言われた通りにした。
あさひ姉ちゃんは、ミニスカートをずらせて、股間から下着を見せた。
約束の仕草だ。
真夫はいつものように、あさひ姉ちゃんの下着をぎゅっと押す。
いつもと違うのは、すぐにやめないことだ。
「んっ、んんっ」
押し続けると、だんだんと猿ぐつわをしていたあさひ姉ちゃんの鼻息がだんだんと荒くなり、声も少し大きくなった。
真夫は、声が洩れないように、あさひ姉ちゃんの口を手で押さえた。
すると、ますますあさひ姉ちゃんの悶え方が大きくなった。
そのあいだも、真夫の指はあさひ姉ちゃんの股を押し続けている。
だんだんと、染みのようなものが大きくなるのがわかった。
あさひ姉ちゃんも我慢できなくなったかのように、真夫の指に腰を押し付けるようにしてぐりぐりと動かす。
そして、いきなりだった。
「んんんっ」
あさひ姉ちゃんが縛られた身体をぐいを弓なりにしたかと思うと、がくがくと身体を震わせたのだ。
そして、脱力した。
いきなり死んだように動かなくなったあさひ姉ちゃんから、急いで真夫は猿ぐつわを外した。
「あ、ありがとう……。やっぱり、真夫ちゃんは凄いね。真夫ちゃんの指は特別だよ。とても優しい指……。本当にありがとう……。今度は、あたしが真夫ちゃんに身体をあげる。脚だけほどいて……。そして、下着は鋏で切って……。そこに持って来ているから……。ううん……。やっぱり、先に下着を切って……。それから脚をほどいて」
あさひ姉ちゃんが言った。
あさひ姉ちゃんが持って来た袋には、鋏のほかに、替えの下着が入っていた。
あさひ姉ちゃんは、最初から下着を真夫に切ってもらうつもりで準備していたのだと悟った。
そして、あさひ姉ちゃんを抱いた。
ちゃんとあさひ姉ちゃんの股の中で射精できたのは、一度外に出してしまってからだ。
「……い、いいのよ。中に……出して……。真夫ちゃんの……赤ちゃんなら、あたし……産んでも……いいかも……」
射精のとき、動物のように興奮して腰を前後させる真夫に、あさひ姉ちゃんは優しく言った。
そのときのあさひ姉ちゃんの顔は、まるで仏さまのようだった。
そして、あさひ姉ちゃんの身体の中に精を放った。
いくらでもやってもいいというので、さらに三回放った。
あさひ姉ちゃんは目を丸くしていた。
四度目のときには、あさひ姉ちゃんは、もう一度、おこりが起こったようにぶるぶると身体を震わせた。
あさひ姉ちゃんが、そのとき処女ではなかったと悟ったのは、もう少しして、真夫に性知識が増えてからだ。
それからも、あさひ姉ちゃんが出ていくまで、毎晩のようにふたりで抱き合った。
決まって、あさひ姉ちゃんは真夫に縛られて抱かれるのを好んだ。
やがて、あさひ姉ちゃんは施設を出ていった。
別れの前の夜、あさひ姉ちゃんは、次に最年長組になる少女の中からひとりを真夫の前に連れてきた。
「明日からは、彼女があたしの代わりをしてくれるわ、真夫ちゃん」
あさひ姉ちゃんはにっこりと笑って言った。
それから五年……。
それ以来、一度も、あさひ姉ちゃんと会ったことはない。
最年長組の女の子が真夫のセックスの相手をするという奇妙な「しきたり」は、三年間続いた。
そのとき、真夫は思念から覚めた。
いた……。
あの娘だ。
真夫に痴漢の冤罪を与えたあのときの少女だ。
駅から出てバスに乗ろうとしている。
同じ制服だ。
間違いない。
「待て」
真夫は大きな声をあげて、その少女に向かって駆けた。
その娘がぎょっとした表情になって立ち止まった。