サロンの会場として借りているのは、学園内にあるパーティ用の庭園付きハウスのひとつだ。
整備された美しい庭園のテラス付きの応接室とそれに付属する数個の部屋とキッチンなどで構成される独立した平屋の木造建築物であり、ここだけまるで英国式の庭園を切り取ったような感じがする。
多くの資産家や上流階級の子弟が多く所属するこの学園では、学生だけでなく、学園関係者が必要により利用できるように、こういう庭園付きのパーティハウスがあちこちに数箇所準備されてある。
もっとも、ひかりは、これまでただ一度も、私的な集まりなど主催してなかったので、これまでは一度もそういう場所に踏み入れたことはなかった。
だが、あの玲子さんに頼むと、数箇所あるハウスのひとつを金城家用に年度末まで貸切にしてくれたのである。
従って、ここは、ひかりがこの学園に所属する三月までは、金城家専用のパーティハウスということになる。
すでに金城家からアフタヌーンティのために必要な食器や食材、その他各種の必要なものをすべて運び込んでいる。やると決めたからには、金城家主催に相応しい一流のものを揃えるように指示したが、彼らは十分にひかりの期待に応えてくれた。
ひかりは、自分が主催するこの定期サロンを堅苦しいものにするつもりはないが、一方で、品の悪い集まりにもするつもりはない。
だから、全てを一流のもので囲ませた。品物だけでなく、接待をする執事役や侍女役もだ。彼女たちについても、しばらくのあいだ、定期サロンに応じて、学園に通ってもらっている。
サロンの真の目的は、あの真夫が十人の奴婢を集めるにあたり、それに相応しい人材に関する情報を集めることである。従って、サロンに招待するのは、家柄などには関係なく、一般家庭の子女も対象にする予定だ。そういう者たちにも、いわゆる一流のものというのを気軽に愉しんでもえらればと考えている。
「お疲れさまでした、光太郎様。本日は天気がいいので、テラスに場所を準備しております。茶葉は前回と同じものを三種類。本日のティフードは……」
執事役の男性は金城家の家人ではないが、金城家主催のパーティなどではいつもお願いしているサービス会社から派遣してもらっている者である。とりあえずは、三か月契約でこのサロンに専属だ。
これもまた、金城家もちである。
専用の個室として使っている小部屋に入ったひかりは、サロンの準備状況の報告を受けながら、問題なく支度されていることを確認して逐次に頷く。
「今日の招待客は五人の女生徒だ。そもそも、正式のマナーにも不慣れな者がほとんどだと思う。彼女たちが気後れしないように、侍女役の女性たちには言い聞かせておいてくれ」
ひかりは釘を刺した。
前回にも申し渡したことだが、集めている接待役の執事や侍女たちは、この手の会合に慣れている。
すると、マナー知らずのふるまいに対し、露骨に蔑んだり、そうでなくても柔らかくたしなめたりする態度を取ろうとするものが少なくないのだ。
ひかりは、それを一切禁止した。
マナー教室ではないのだ。気持ちよく会話をするのが目的である。あまりにひどい場合のみ集まってもらった者たちが気を悪くしない程度の誘導はするが、基本的にはマナーなど関係なしに気楽に過ごしてくれればいいと思う。
「かしこまりました」
「それと、次の水曜日のサロンの招待は、今回の試験で五傑に入った一学年の五人だ。招待状はこれからだけど、そのつもりで頼む。全員が一般家庭だ」
一年生の試験の五傑を次の招待にしようと決めたのは、たまたま一年生の上位五人が女子生徒だったからだ。
このサロンに男子生徒を呼ぶつもりはない。
これまで、ほかの生徒とほとんど交流をしようとしなかったひかりが、突然にサロンを定期開催し、しかも、女生徒だけを呼ぶことについては、早くもいろいろと取り沙汰されている気配だが、なにも気にするつもりはない。
真夫の奴婢にするのに相応しいような女生徒の情報を男子生徒から集められる気はしないし、不用意に男子生徒に近づくのも、真夫が嫌がりそうだ。
どっちにしても、ひかりが開くこのサロンは、すでに一回目でかなりの評判だそうだ。是非招待して欲しいという言葉はたくさん聞いた。
次の五人もおそらく、応じてくれるだろう。
五人の中には、奴婢仲間のあの双子従者もいることだし、ひかりはちょっと愉しみでもある。
「わかりました。では、人数がお決まりになりましたら、またご連絡をお願いします、光太郎様」
執事役の男が頭をさげて退出する。
ひかりは接待役なのでひと足先に来たが、この場所は学園の敷地内でも、ほかのどの場所とも離れているので、ゲストの女子生徒は、学園内専用の無人シャトルバスでやってくる。
これもまた、玲子さんが手配してくれたものであり、参加予定の女子生徒が都合のいい場所に立ち寄り、ここまで直接に送り迎えしをしてくれるのだ。
彼女たちを乗せたシャトルバスが到着するまでに、十五分ほどあるはずだ。
ひかりは、気怠い身体をリクライニングチェアにもたれさせた。
「……光太郎様……か……」
ここでは、金城の苗字ではなく、下の名前で呼ぶように指示しているので、彼らが“光太郎”と呼ぶのは当然であり、彼らに限らず学園のどの生徒や教員も、ひかりのことを“金城光太郎”として接する。
だが、真夫の「奴婢」となって今日で一週間……。
すでに、光太郎としての意識よりも、“ひかり”としての意識が強くなっている。
つまり、女である“金城ひかり”としての意識だ。
やっぱり、自分は女だった……。
それをこの一週間で徹底的に心に焼き付けられた。
男である金城光太郎として生きるつもりだったひかりは、女であるひかりとして生きることを決めた。
それで最初に思ったのは、婚約者のことだ。
男としての光太郎の婚約者だった九条あゆみという婚約者がいた。
祖父があてがった婚約者だったが、彼女には本当に申し訳ないと思った。
月曜日に祖父と連絡をとったとき、祖父からは、嫡男である後継者としての役割も演じてもらわないとならないので、九条家とも相談して婚約者としての建前は継続すると伝えられた。
だが、ひかりが男として生きるとか、女として生きるとかに関わりなく、すでにほかの男に心を奪われているひかりが、彼女の婚約を続け、いずれ形式だけの結婚をするというのは、さすがに不実極まりないと思った。
だから、ひかりは、個人的に婚約者の九条あゆみに連絡をとった。
しかし、彼女からの返事も、婚約の続行を希望するということだった。そして、ひかりの葛藤にはずっと以前から気がついていて、相手の男性とは婚姻としてのかたちにはならないが、ひかりが女性としての幸せを追求できそうなことに喜んでくれた。
ほとんど関与してこなかった彼女が、そんな風に思ってくれていたのは意外だったし、また、逆に彼女がひかりに向けるほどの熱量をひかりが彼女に向けてこなかったことを恥ずかしく感じてしまった。
いずれにしても、ひかりは真夫の女になった。
だが、真夫の愛し方は独特だ。
彼は当たり前には愛さない。
女を支配するのだ。
心も身体も……。
真夫にSS研に呼ばれて、罠に嵌って犯されたのが先週の金曜日──。
ギロチン台に繋がれて凌辱され、そのあと少なくとも五回は女の性器に精を注がれた。
さらに日が暮れると、バイブレータのついた下着を装着させられて、ほかの生徒のいる学園内で辱められた。
そして、S級寮の真夫たちの部屋でまた犯され、翌朝に校外の駅前一等地のホテルに連れ出されて、そこの最上階で、やはり、新しく奴婢になったという前田明日香とともに、強烈な体験をさせられた。
あれから一週間……。
とにかく、全てが変わった。
まず、ひかりを見張るために、祖父が学園内に同居させていた侍女役の花江がいなくなった。
もともと、祖父の若い頃からの愛人だという花江は、侍女だといってもひかりの見張りが本来の役割であり、成長するにつれて、男ではなく完全に女性の身体になっていくひかりのことを隠すため、とにかく、他生徒との接触を可能な限りしないように、徹底的にひかりを束縛した。
それを鬱陶しく思っていたひかりだったが、祖父の指示は絶対だ。
ひかりは逆らえなかったし、逆らおうとも思わなかった。
その花江が祖父の指示でいなくなったのだ。
あの玲子さんと祖父がどんな交渉をしたかはわからない。しかし、玲子さんは祖父を説得して、ひかりが真夫の将来にわたって愛人になることを条件に、真夫との関わりを許した。
いや、むしろ、関われと命令された。
新しい侍女を送ると言われたが、ひかりはそれは断った。
これについても、玲子さんと祖父とのあいだで、なんらかの取引のようなものがあった気配だ。祖父と玲子さんは、土、日、月と三日連続で会い、いろいろと話し合ったようだ。
とにかく、その結果、ずっと見張っていた祖父の手の者がいなくなり、ひかりは生まれて初めて、祖父の監視のない生活をすることになったのである。
そして、変わったといえば、なによりもS級寮での生活がそうだ。
先週の土日、ひかりは、真夫たちともに、豊藤の系列らしい駅前の一流ホテルのスイートルームに全員で宿泊した。
普通のスイートルームではなく、SMルームが隠し部屋として繋がっている部屋であり、そこでひかりは、特に明日香とともに、SS研の洗礼というものを週末ずっと受けたのだ。
そして、日曜日の夜に真夫たちと戻ると、ひかりの個室と真夫の個室が中で繋がっていたのである。
これには唖然とした。
ひかりは、金城光太郎として、S級寮の四号室をあてがわれている。真夫たちは五号室だ。それが壁の一部が壊されて、ひと繋がりの大きな部屋になっていたのだ。
ひかりたちが外に宿泊したわずか一日でやったはずだが、当たり前のようにつながっている部屋を見て、さすがに度肝を抜かれてしまった。
とにかく、生活空間こそ別だが、実際には一緒に暮らすという寮生活が始まった。衣食住に必要なことは、真夫の恋人の朝日奈恵がすべてしてくれる。あるいは、真夫もしてくれるし、玲子さんが手配するハウスキーパーもだ。
つまりは、ひかりの面倒を真夫たち側で全て看てくれるということだ。
月曜日の夜に連絡をとったとき、祖父はこの状況になることを承知していた気配だった。だから、新しい侍女を送るかという祖父の言葉にひかりが断っても、固執しなかったのだと思う。
そして、真夫たちとの事実上の共同生活は、同時に真夫によるひかりに対する調教の生活が始まったということにもなった。
真夫の部屋では、いまのところ、ひかりはほとんど着衣は許されていない。
着衣は、授業のために寮を出る直前に許される。
そのとき、授業のための学園の教場棟に向かう前に、必ずアナルにプラグを入れるということも強要されている。
お尻にたっぷりの媚薬を塗られて解され、真夫によってプラグを挿入されるのだ。そして、抜けないように革の下着を装着されてロックされる。尿道口の部分には穴が開いているので放尿はできるが、当然に排便は不可能だ。
排便は、毎朝、真夫から浣腸されて、彼の目の前で排泄させられる。
股間を愛撫されながらである。
一日が終われば、やっと寮に戻ってプラグを抜いてもらえる。
だが、それは夜の調教が開始するのと引き換えだ。
夜になにをするかは、その日によって異なる。
たとえば、昨夜であれば、効き目が弱めの掻痒剤をたっぷりと股間に塗られて、小型のバイブレータを挿入されて、緩やかな蠕動をされながら、夕食や入浴、夜の自習などをさせられた。
そして、最後に、ほかの女性たちと一緒に、真夫に死ぬほどに繰り返し犯されたのである。
趣向はその日によって違うが、終わりがないような甘美な責めを受け続けるということには変わりない。
自分でも日増しに、淫乱な身体に作り替えられているのがわかる。
一度もしたことがなかった自慰というものを、ついに授業を受ける日中にトイレでしたのは二日前だ。尿道口のところに穴があるので、そこから指を入れれば、なんとか自慰ができるのである。
しかし、そんなものは、火照りきった身体を慰めるための一時しのぎでしかなかった。
いや、むしろ、中途半端な満足は、かえって淫欲への苦悶を助長することになった。
真夫に女として犯されたい──。
夜になるのを待ち遠しにしている自分がいる。
真夫に与えられるのは、身体の快感だけではない。もっと心の奥底が甘く痺れ切り、恍惚となるような肉の悦びに酔うような感情の愉悦だ。
耐えがたい屈辱であるはずなのに、ひかりはそれを猛烈に欲している。
いまでも、身体に妖しげな戦慄が激しく駆け巡り続けている。
ちょっとだけ……。
女子生徒たちがやってくるまで、あと十分くらいか……?
だったら、五分だけでも……。
あまりにも時間がないので、服を乱すようなことはできない。
ズボンの前を緩めて手を差し込むとともに、制服のシャツを開いて乳房に手を添える。
今日は、真夫の決めた「下着なしの日」だ。
ひかりを含めて、奴婢の全員が上も下も下着をつけてない。プラグを押さえるためのひかりの革のTバッグは別ではあるが……。
まあ、男子生徒ということになっているひかりとしては、乳房でばれないが不安だったが、ひかりの胸は大きくないので、ブラジャーや晒しで押えなくても、上着を身に着けていれば、目立つことはないようだ。
とにかく、下着のない制服の下なので、すぐに肌に手が届く。
「くうっ」
手が秘部や乳首に触れた瞬間、思わず声を漏らしてしまうような甘美感が五体を席捲した。
その快感に強要されるように、さらに胸を乱暴に揉み、指を革の下着の中に突っ込んで快感の場所をまさぐる
すぐに峻烈な喜悦が襲い掛かった。
「んんんっ」
どうしても声が出る。
慌てて内ポケットからハンカチを出して口で噛む。
一気に絶頂に向かって快感が駆けあがった──。
いくうっ──。
ひかりは全身を突っ張らせた。
そのとき、ノックの音がした。
「光太郎様、シャトルバスが見えました。すぐに皆さまが、お着きになられると思います」
ノックの音に続いて、さっきの執事の声がした。
「す、すぐに行きます。入口で出迎えを……」
ひかりは扉越しに、執事に指示を送りながら、慌てて服装を整える。
そして、時間もないのに、寸間を惜しんで自慰に耽ろうとした自分の淫らさと慎みのなさに、激しい後悔を抱いてしまった。