※この作品はR-18です。

淫魔王のいる学園【完結】   作:ドン・ドナシアン

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105話 芸術とエロス

 シャトルバスから降りたってきたのは、五人の女子生徒だ。授業終わりを待って、そのままこのハウスに来てもらっているので全員が制服である。

 女が三人寄れば姦しという言葉もあるが、明るく元気そうに挨拶をしてくれる彼女たちによって、いっぺんに周りが華やいだ気がする。

 

「お招きありがとうございます、金城様」

 

「ご招待ありがとうございます」

 

「とても愉しみにしてました。金城様、ありがとうございます」

 

「お茶会なんて初めてです。すっごく緊張します」

 

 さて、この中に、真夫の奴婢として推薦するに相応しい女子生徒はいるだろうか。

 ハウスの入口で出迎えをしたひかりは、シャトルバスから降車してくる彼女たちひとりひとりと言葉を交わしながら、彼女たちを観察する。

 一応は事前に選んでいるので、全員がそれなりの美少女だ。見た目であれば、十分に真夫の奴婢としては合格とは思う。

 そういう女の子を選んでいる。

 あとは、真夫が気に入るかどうかと、真夫の保護者であるという「魔王」こと、豊藤龍蔵氏が認めるかどうかだが、そのどちらも基準がわからないので、ひかりとしては単純に、自分が奴婢仲間となって欲しいかどうかの視点で選び、その後は真夫に任せようと思っている。

 

「お邪魔します……。ええっと……。君の招きを受けて嬉しい」

 

 最後にシャトルバスから降りてきたのは、今回の五人の中では本命だと思っている二年生の世良(せら)七生(ななお)だ。

 腰まである真っ黒なロングヘアが特徴の眼鏡のよく似合う美少女である。

 ほかの四人が一斉にひかりのそばに群がってきたことに対して、七生は距離を保ったまま近寄ろうとはしなかった。

 

 それにしても、“君”か……。

 ひかりは苦笑した。

 

 サロンの実施にあたり、招待する生徒のことは、それなりに調べている。

 この七生は、贔屓目に表現しても“変人”だ。

 絵画の腕については、学生コンテストを総なめするくらいの技量があり、美しく、そして、ひと目で誰もが心を奪われるような素晴らしい絵を描く。ひかりなど彼女の絵にひと目で魅了された。

 理屈ではない。

 心が奪われる。

 そして、とてもいたたまれない気持ちにさせる。

 そんな絵を描くのだ。

 彼女が十二歳のときから連作で描いている「少女」シリーズは、すでに芸術を好む好事家の中ではかなり有名なほどだ。

 

 しかし、半面、彼女のような一芸に秀でる人物によくあるように、彼女は性格が普通ではないのだ。

 なによりも、彼女は自分の描く絵以外のものに、ほとんと興味を抱かない。

 それは周りの人間に対してもそうであり、彼女は周りの人に声を掛けるときに“君”とよく呼び掛けるそうだ。

 周囲の者の中には、芸術家気取りの七生が偉ぶって名を呼ぶことを避けているのだと悪口を言う者も多いようだが、いや、単純に興味のない人物の名を記憶しないだけだと評価する者もいるようだ。

 ひかりの観察したところ、おそらく、後者が正解だろう。

 

 たったいまも、七生はひかりの名を呼ぼうと思ったと思う。しかし、思い出せなくて、“君”と呼んだのだと思う。

 いずれにしても、金城家の次期総帥ということになっているひかりのことを、名前も思い出せないというのは愉快に感じる。

 それゆえに、彼女があっさりとひかりの招待状に応じてくれたのは、正直以外だった。

 前回のサロンで名前があがった彼女と会ってみたいとは思ったものの、絵を描くこと以外に興味の薄そうな彼女が、わざわざサロンの参加に応じるとは予想していなかったのだ。

 

「金城様のことを、“君”って……」

 

「ちょっと金城様に失礼ではないですか?」

 

 ほかの少女たちが顔をしかめた。

 

「失礼って? なにが?」

 

 七生がすぐに言った。

 心の底から金城家に興味がないのだな……。

 ひかりは思わず吹き出しそうになったが、外面用の柔和な微笑みに留める。

 

「いや、失礼なんてことはないよ。今日はマナーなんて気にせずに、愉しくやろう。短い時間だけど色々と話を愉しみたいんだ。ぼくのことは、光太郎と呼んで欲しい。ぼくも君たちを名前で呼んでいいかな?」

 

 ひかりが優しく声を掛けると、七生を除いた四人の少女たちから黄色い歓声があがった。

 彼女たちもか……。

 ひかりは、心の中でちょっと失望した。

 

 前回のときもそうだったが、真夫に相応しい者という意味で招待する女生徒を選び、前回のサロンでは、名家の子女の中で事前調査で婚約者も恋人もいない女生徒を五人選んで招待した。

 ところが、彼女たちは、男子学生ということになっているひかりに媚びを売り、気に入られようと愛想を振りまき、やたらに身体に触れようとしてきた。

 これには閉口した。

 考えてみれば当然であり、金城家の跡取りで嫡男の「金城光太郎」には、それだけ婚姻相手としての価値があるのだ。

 婚約者もいるのだが、金城光太郎がパーティなどでも婚約者の九条あゆみとは、まったく付き合いがないのは、社交界でも知られていることであり、疎遠だと認識されている。

 だからこそ、急にサロンなどを開いて、見た目のいい女子生徒を集めたものだから、そういう趣旨の集まりだと認識されてしまったのかもしれない。

 いずれにしても、前回の五人については、真夫に相応しいとは思わなかった。

 

 ただ、まったく収穫がなかったのかといえば、そうでもない。

 五人との会話を巧みに誘導して、魅力的な女性、能力の高い女生徒に関する話題にし、その中で出たのが、ひとりは女子高生モデルとして有名な「相場まり江」、そして、もうひとりが絵画コンテストの常連だという「世良七生」だったのだ。

 ふたりのうち、相場まり江については、すでに玲子さんの調査が入っているという話だったので、ひかりは、もうひとりの世良七生に着目した。

 それで、今日の招待状を送ったのだ。

 

 しかし、そのときのサロンでも、世良七生は変わり者だという女生徒たちの評価だった。

 あまり周りと口をきかず、話し掛けてもほとんど返事はしないし、語っても芸術論しか口にしない変人だという。

 そして、誰にでも股を開くビッチだとも言われた。

 ひかりは、逆に興味を抱いた。

 人と関わりたくないのに、男子とはセックスをするというのが奇妙なことに思ったのだ。

 

 もしかして、そういう噂をされているだけの潔白かとも思ったが、彼女がこの学園において複数の男子生徒と性的関係にあったのは事実だった。

 調べてくれたのは玲子さんであり、驚いたことに、この学園にはあちこちに隠しカメラがあり、生徒のプライバシーのほとんどを秘密裏に撮影をしていたのである。

 

 七生のセックス記録も存在した。

 全部で五人であり、すべて違う男子生徒であって、一度切りの関係だった。その五人の中には、あの加賀豊も含まれていて、彼女は彼のサロンに参加して処女を失っている。

 ところが面白いのは、彼女はどんなに誘われても、同じ男子生徒と二度の関係をもったことがないことだ。加賀についても同様だ。加賀は、七生との性交が気に入ったらしく、セフレのようにしようとしたが、七生は冷たく断っている。

 そんなことまで、玲子さんの調査によって判明した。

 

 どんな女生徒なのだろう?

 ひかりは大いに興味を抱いた。

 

 そして、もしかしたら、真夫は興味を抱くかもしれないと思った。

 根拠はない。

 勘だ。

 

 真夫のところに集まっている奴婢を見れば、真夫が女性の処女性にこだわっていないことは明白だ。

 それに、男子生徒とのセックスを繰り返すのだから、性愛には興味があるのだろう。才能を持つ彼女であれば、真夫の奴婢の資格としては十分な気がするし、引き合わせてもいいのではないかと考えている。

 

 彼女たちを案内して、執事や侍女が準備してくれたテラスの茶会席に向かう。

 準備したのは、丸テーブルに準備した六人の席だが、ひかりがホスト席に座ると、女生徒たちがまるで椅子取りゲームのように隣に来ようとひと悶着をした。

 前回は名家の子女だったので、自然と階級的なものがあって序列通りに座ったが、今回は文化部で功績をあげている子女や委員会の部長などから選んで、全員が上流以外の出身だ。

 生徒ランクも、幾つかの絵画コンテストの結果の報償として、Aランク生徒になっている七生を除いて、ほかはBランクだ。

 いずれにしても、結局、ひかりが座る席側にほかの四人が距離を縮めて座り、ひとり椅子取りに参加をしなかった七生がひかりの真正面の反対側に座るかたちになった。

 

「まあ、とにかく気楽にね……。ティ・フードは真ん中から自由にとってね。茶葉は三種類準備しているから、メニューを見て好きなのを選んでくれ。特に好みがなかったら、ぼくがお薦めのお茶を準備させる」

 

 ひかりは言った。

 七生を除く四人は、是非、お薦めを飲みたいを口にした。七生はなにも言わなかった。しかし、なぜか食い入るように、ひかりにじっと視線を向けてくる。

 その視線の強さに圧倒されるほどだ。

 ひかりは、侍女たち合図をして、お茶を配らせた。

 

 お茶会が始まると、最初こそぎこちない品定めのような雰囲気があったものの、ひかりが意識的に自由な会話をしてもらうように尽力したことで、あっという間に賑やかなお茶会になった。

 お互いの近況だとか、文化部や委員会の活動の内容などの話題から始まり、だんだんと打ち解けた感じになった。

 そして、いわゆる「恋バナ」の話になって、一気に盛り上がった感じになる。

 誰それと誰が恋人だとか、誰が誰を好きだとか、そんな会話だ。

 すると、右隣の席にいる女子生徒が急に、ひかりに話を向けてきた。

 

「ところで、こんなことをお聞きしたら叱られるかもしれませんが、光太郎様は、あのサッカー部の前田明日香さんとお付き合いをされているのですか? そんな噂があるのですけど……」

 

「前田君と?」

 

 意外な名前に、ひかりは面食らってしまった。

 そんな風な噂があるとは思いもよらなかったのだ。

 とりあえず、ひかりは首を横に振った。

 

「……彼女とは友人だね。それだけだよ」

 

「でも、最近、親しそうに話をされているのをよく見るという話ですよ。もしかして、お付き合いをされているのではないかと、皆さんがおしゃってます」

 

「それとも、いまは、お友達ということでしょうか?」

 

 ひかりが気安い雰囲気を作っているせいだろう。随分と打ち解けた物言いで話し掛けてくる。

 それはともかく、これまでまったく接触のなかったひかりと明日香が突然に会話をするようになったとすれば、そんな風に思う者もいるかもしれない。

 ただ、ひかりと明日香の親しさは、同じ時期に真夫の奴婢となり、同程度の調教を受けるようになった者同士としての連帯意識のようなものだ。

 

 それに、最近になって急に親しくなった関係といえば、誰よりも真夫のはずだ。

 だが、真夫とは噂にはならないのか……。

 まあ、男同士ということになっているし、そんなものか……。

 しかし、いまひかりが最も親しくしている相手は、間違いなく真夫のはずなのだがな……。

 ひかりは、いまもしっかりとお尻で存在を主張しているアナルプラグの感触を味わいながら、ちょっと相好を崩してしまった。

 

「SS研に入ったからね。前田君とも、それで一緒にいることが多いかもしれない」

 

 ひかりは言った。

 SS研に入部したことについては隠すつもりがない。表向きはあそこは、社会科学研究部ということになっている。真夫の愛人倶楽部のようなSMクラブだというのは、誰にも知られてない。

 

「まあ、SS研ですか? 入部されたというのは存じませんでしたわ」

 

「ええっと、社会科学についてはわたしも興味があるのです。是非、見学させてもらえませんか?」

 

「わたしも経済学や法学などをちょっと勉強してみようかと……」

 

 すると女子生徒たちが一斉に口を開く。

 

「いやあ、どうだろうねえ……。ぼくは部長ではないし、新入部員については募集してないんじゃないかなあ……」

 

 ひかりはとりあえず、お茶を濁した。

 入部希望があっても、誰も彼もとはいかないのだ。そのために、情報を集めているのである。

 

「SS研でいま廊下に展示している絵画群は、実に興味深い。実に面白いコンセプトだ。あのSS研のテーマはエロス……。しかも、囚われの女……。たとえば、ジェロームの絵の絵に描かれているのは、美しい女が見世物のように服を奪われて裸にされる羞恥が実にエロチックだ」

 

 すると、いままで全く喋らなかった七生が、突然に雄弁に口を挟んできた。

 ひかりは、七生に視線を向けた。

 

「ああ、あの奴隷市の絵だね。ほかにも色々と展示予定でね。興味があるかい?」

 

「エロスがテーマだということで興味がある。非常に猥褻で官能的な印象だ。ユニークな展示だと思う」

 

「まあ、猥褻とは失礼ですよ、世良さん……。SS研の展示テーマは、拷問と刑罰の歴史がテーマだと記憶しておりますわ。確かに、裸の絵が混ざっていることは間違いないですが、それをもって猥褻だと批判をされるのは失礼ではありませんか?」

 

 たしなめるように口を挟んだのは、ひかりの右側の女子生徒だ。

 喋りながらちらりとひかりの方を見たので、ひかりに気を使うための発言だろう。

 

「いや、勘違いして欲しくはないが、猥褻だというのは、非常に芸術的だということだ。芸術というのは突き詰めれば、エロティシズムに辿り着く。わたしには経験が少なくて、いまだにエロティシズムが理解できないのだが、SS研の展示には惹かれるものがある。集めている絵画にはなにか魅せられる。つまりは、エロいということだ」

 

「まあ、エロいだなどと、本当に失礼な……」

 

 別の女子生徒が非難する。

 だが、七生はまったく気にする様子はない。

 

「あそこに並べられている絵を見て、いままでわからなかったことがわかる気がするのだ。五人ほどセックスをしてみたが、残念ながら、わたしにはエロスが理解できなかった。だから、いき詰っていたけど、なにかわかるような気分になったんだ。エロスというものがね」

 

 七生はまったく表情を変えないまま淡々とそう語った。

 

「セ、セックス?」

 

 女生徒たちは唖然している。

 

「あなたの絵はヌード画が多かったと思ったけど、それは七生さんの持っている芸術論から来るものかい?」

 

 たが、ひかりはあえて水を向けた。

 七生がコンテストに出すのは、決まって少女の裸絵ばかりなのだ。それらは「少女」シリーズだと言われて、早くも顧客がついているほどだ。

 

「人間というのは裸に羞恥を感じる唯一の動物だ。そして、裸はエロスであり、愛であり、心だ。でも、わたしには、まだそのエロスがわからない」

 

「わからないとは?」

 

「エロスとはなんなのだろうね? セックスをすればわかるかと思ったけど、結局、無駄な時間だった。セックスとはエロスとは異なるようだ。セックスとは究極のところ、子を作る作業であって、エロスとは関係ないようだ。気持ちのいいものだと耳にしていたが、そうでもなかったし。実につまらなかった」

 

 突然の七生の赤裸々な言葉に、ほかの女生徒たちはすでに絶句している。

 

「つまらない……って」

 

 これには、ひかりも言葉に詰まった。

 ひかりにとって、セックスは真夫とだけだが、つまらないどころではない。

 あれは、いつもすごい……。

 

「ねえ、ところで、あなたは、金城……だったか? わたしに君の裸を描かせないか。やっぱり君はとてもエロいよ。だから、今日の招待はとても愉しみにしてたんだ」

 

 そして、さらに、七生がとんでもないことを言い出した。

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