115話 二人だけの放課後
「坂本君、さようなら」
「じゃあ、また明日ね」
「坂本君は今日もSS研の活動?」
「あのう……、よかったら文化部発表会のときには、あたしたちの部にも遊びに来てね……。じゃあね」
ホームルームが終わって、クラスメートたちが帰り支度を始めだす。
真夫がこの学園に来てから、そろそろ一箇月半になろうとしているが、クラスメートたちとも普通に会話をするくらいは打ち解けたと思う。
三年生の五月という時季外れの編入で、しかも、孤児だという噂が立っていたせいか、最初はなんとなく真夫に対してはぎこちない雰囲気があったが、いまは至って穏やかな関係になってきた気がする。
いまのように、真夫が返り支度をしていると、声を掛けてくれるクラスメートも多くなってきた。
多分、真従者生徒ということになっているかおりちゃんだけでなく、生徒会長の絹香、学園双璧のひとりの金城光太郎ことひかりちゃん、女子サッカー部エースの明日香ちゃんなど、学園でも影響力のある者たちが、真夫と親しく接するようになったことも関係するのだろう。
もっとも、なぜか声を掛けてくれるのは、女性生徒が多い気がする。
彼女たちに特段になにかをしているわけではないが、最近はかなり頻繁に色々な女生徒から声を掛けられる。
「真夫、お待たせ。鞄を預かるわ」
「真夫さん、行きましょうか」
クラスメイトであるかおりちゃんと絹香が支度を終えたふたりが真夫のところにやってきた。
なお、真夫が所属するのは一組なのだが、もともと一組だったのは絹香だ。かおりちゃんについては、真夫が編入する前はほかの組だったそうだ。しかし、真夫の奴婢になるということで、玲子さんが強引に同じクラスにしたらしい。
ただし、本来は従者生徒が必ずしも同じクラスになるという決まりはないようだ。
いや、むしろ、従者生徒については、まとめて同じクラスに配置するのが通常とのことだ。
絹香の従者生徒の双子についても、一年生の従者生徒の集まるクラスに所属している。
だから、従者であるということで、わざわざ同じクラスにかおりちゃんが移動してきたことについて、ほかの生徒も、それほどの配慮を学園がするのはなんでだろうと訝しんでも不自然ではないと思うが、真夫にもかおりちゃんにも、みんな自然に接してくれる。
ありがたいことだ。
「ああ、かおりちゃん、頼むよ。じゃあ、気をつけてね」
真夫は鞄をかおりちゃんに渡した。
最初は女子生徒のかおりちゃんに鞄を持たせて、自分が手ぶらであるということには忌避感があったが、いつの間にか慣れてしまった。
かおりちゃんも、従者生徒なのに「主人」である真夫に荷物を持たせたら、むしろ周りが変な目で見るのだと言う。それで、いつも強引に荷物を預かっていく。
だから、いまでは、抵抗することなく渡している。
「今日はわたしの代わりに絹香がつくわ。ひとりにならないようにね。じゃあ、わたし、恵が待っているから──」
「頑張ってね、かおりさん」
絹香も声を掛け、かおりちゃんが教室を後にする。
先日、玲子さんが真夫の女たちに高額の入った口座のカードを渡し、自分磨きを示唆するということがあったが、それを受けて、かおりちゃんは早速、放課後を利用して語学教室に通うことに決めたのだ。
週三回であり、今日が初日になる。
学園外なので、移動についてはあさひ姉ちゃんが学園から借りている自動車で送り迎えをするそうだ。
みんな頑張りだした。
真夫も、なにかしなければならないと思うのだが、とりあえずは、龍蔵が示した後継者としての条件である十人の奴婢を見つけることが先だろう。
また、かおりちゃんの代わりに絹香がつくというのは、真夫を絶対にひとりにしないための処置らしい。
そこまでしなくてもいい気もするが、豊藤の後継者というのは、世界中の暗殺者から命を狙われるような存在らしい。真夫が豊藤グループの総帥の豊藤龍蔵の血の繋がった息子であることは秘密にしているが、どこから情報が漏れるかもわからず、ひとりにならないようにと、先日秀也に言われ、その後、時子婆ちゃんにも諭された。
だから、いつもそばにいるかおりちゃんの代わりに、今日は絹香が真夫と一緒にいるということなのだ。
絹香は絹香で、本来は生徒会の仕事もあるのだが、今日はかおりがいないということで調整をしてくれたらしい。
「じゃあ、俺たちも行くか──。ところで、そういえば、絹香の従者の双子は?」
真夫と絹香のふたりになったところで、一緒に教室を出ようとして気がついた。
真夫もそうだが、絹香もS級生徒であり、従者がいるのだ。梓と渚だ。
いつもは、一年生の授業が終わるとすぐに、絹香と合流しにくるのだが、今日はまだ来ていない。
「今日はひかりさんのところに……」
「ああ、今日は水曜日だったか」
真夫は思い出した。
毎週水曜日と金曜日はひかりちゃんの開くサロンの日であり、今日は水曜日だ。ひかりちゃんは、この学園内で真夫の奴婢に相応しい生徒などの情報を集めようと、先週くらいから週二回のサロンを開くようにしてくれたのだが、今日は先日の中間試験の上位成績者発表で、上位五人に入った一年生の女子生徒を招待すると言っていた。
梓と渚は驚いたことに、一年生の上位五人の中に入っているのである。
「……ということは、正真正銘、今日の放課後は、ひかりちゃんたちが来るまで、俺たちふたりか」
真夫は言った。
かおりちゃんは、あさひ姉ちゃんと外出──。
ひかりちゃんと梓、渚の三人はサロン──。
明日香ちゃんは、全国出場を決める地区大会の真っ最中であることからサッカー部の練習を最優先しているし、七生も学園内の自分のアトリエに閉じこもっている。
「そうですね……。じゃあ、行きましょうか、真夫さん」
従者の双子がいないので、絹香は自ら鞄を持つ。
だが、真夫はちょっと悪戯心が沸いてしまった。
真夫は、教室を出ようとする絹香の腕を掴んで、耳元に口を寄せる。
「……両手首を背中に回して」
まだクラスの隅には残っているクラスメートが数名いる。
だから、ほんの聞こえるか、聞こえないかの声でささやいた。
「えっ?」
絹香が驚いたように、真夫に振りむいて眼を大きくする。
しかし、真夫がなにも言わずに、じっと絹香を見つめると、だんだんと顔が赤くなり、かすかに身じろぎを始めた。
また、本人は無意識かもしれないが、スカートの中の太腿はかすかに擦り合わせるような仕草もする。
淫靡な悪戯をされるのだということは悟っただろう。
だから、絹香の中のマゾの火が灯ったのだ。
「それとも、拒否するか? どうしても嫌ならしないよ」
真夫は言った。
絹香は小さく首を横に振る。
「……い、いえ……。ご命令に従います……」
絹香が鞄を手に取ったまま、両手を背中に回す。
真夫は、操作具になっているスマホを取り出した。信号を送って、絹香の両手首に嵌っている腕輪を電磁ロックで密着させる。
これで、信号が解除されない限り、絹香の両手は背中から動かせない。
「行くよ。自然にしておけば、不自然には見えないさ」
真夫は絹香を促して教室の外に向かわせた。
その後ろからついていく。
「あっ、会長、さようなら──。坂本君も──」
「西園寺様は、今日はSS研の方ですか?」
クラスの隅に残っていた女子生徒数名が真夫たちが出ていくことに気がついて声を掛けてきた。
真夫と絹香がSS研に所属しているのは、みんな知っている。文化部発表会も近いので、その発表準備に忙しいことも承知している。
だが、声を掛けられて絹香は、目に見えて動揺した。
びくりと身体を震わせ、慌てたように身体を振り返らせて、拘束されている両手のある背中を彼女たちから隠す。
「いや、いまから図書館にね。発表準備のための調べものがあってね」
一方で、真夫は絹香に先んじて口を挟んだ。
「そ、そうなのよ……。じゃあ、また明日」
絹香は当惑した感じだったが、すぐに話し合わせて頷いた。
絹香が彼女たちに会釈をして、小走りで教室を出ていく。
真夫は小さく笑いながら、ついていく。
「自然にしろというのに」
追いついた真夫は、絹香に後ろから声を掛ける。
「そ、そんなこと言われても……」
絹香は後手拘束がばれないかと気になるのだろう。
緊張した感じで歩き進む。
そして、すぐにはっとしたように立ちどまった。
「そうだ。いま、図書館に向かうと言いましたか?」
真夫に振り返って言った。
「言ったね……。たまには、SS研でないところで調教しようか。図書館なら人は少ない。奥に資料室があったはずだ。そこに行くよ」
真夫は手を伸ばして、絹香の制服のブラウスのボタンを上からふたつまで外した。たまたま、廊下には近くに誰もいなかったのだ。
絹香の胸元が露わになり、乳房の谷間とともにブラジャーの上側が露出する。
「あっ、やっ」
絹香が身体を捻って、真夫の手から身体を避けさせた。
しかし、すでにボタンは外れている。後手に拘束されている絹香には直す手段はない。
「ま、真夫さん、これは許して──。こんな格好じゃ、図書館までは、とても行けません」
絹香が顔を真っ赤にして哀願してきた。
「逆らうなら、もっと恥ずかしい格好にするよ」
真夫は今度は絹香の制服のスカートの中に手を入れて、下着の後ろ側をお尻が全部出るまでさげた。
「あんっ」
絹香が腰を捩らせる。
「歩きながら下着が落ちないように支えるんだね。それとも、今度はスカートのホックも外すか?」
真夫は手を伸ばした。
「あ、歩きます。歩きますから」
絹香は泣くような声で小さくささやいた。