トイレに立つ素振りをして、ひかりは
果たして、お茶会をしていた部屋の外の廊下で待っていると、すぐに梓が部屋から出てきた。
「ふうん……。なにか用事ですか?」
梓がにやついた顔でひかりを見てきた。
ちょっとむっとした。
用事があるもなにもない──。
すぐに文句を言おうと思ったが、次いで執事も出てきたので口をつぐんだ。
このお茶会のために雇っている執事だが、彼については、ひかりが突然に部屋を出たので、なにかあるのだろうかと気を使って追いかけてきたのだろう。
「ちょっと彼女と話があるから場を外すよ。それまで接待を頼む……。すぐに戻るから」
ひかりは、その執事に声を掛けてから、このハウスの中でひかりの私室として使っている小部屋に、梓だけを連れ込んだ。
だが、こうやって動くだけでもつらく感じる。
意識して不自然にならない程度に脚は閉じているが、するとどうしても、股間とアナルに挿入されているディルドを締めあげる恰好になるのである。
かといって、男子生徒の格好をしているといっても、がに股で歩くわけにはいかない。だから、我慢するしかないが、それ加えて、こうも遠隔操作で悪戯を繰り返されては堪らない──。
「い、いい加減にしてくれ、梓君」
「いい加減にしろって、なんのことですか、金城様?」
部屋に入ってすぐのところで、ひかりは梓と向かい合って立つかたちになる。
さっきから、いくらなんでも悪戯が過ぎる。
これ以上やられると、まともに喋ることもできなくなる。お茶会を仕切ることができなくなりそうだ。
「しらばっくれるんじゃない──」
「もしかして、これのことですか?」
だが、詰め寄ろうとしたらいきなりディルドの振動のスイッチを入れられた
「うくうっ」
ひかりはズボンの前に両手を当てて、その場で膝を折ってしまった。
ずっと渦巻いている猛烈なむず痒さが、この振動によって一瞬にして癒されていく。この快感がいたたまれなくて、ひかりは振動を受けるたびに、頭が真っ白になってしまうのだ。
「……や、や、やめ……ないか……」
ひかりは股間を両手で抑えるような恰好になりながら、顔をあげて梓を睨んだ。
だが、梓はにやにやと微笑むだけだ。
しかも、なかなかスイッチを切ろうとはしない。
股間とアナルでディルドが振動を続ける。
「マゾのひかりは、そんな風におまんことアナルを苛められてよがる姿がぴったりよ……。それに、これは真夫様の命令よ──」
言葉つきも変わった。
しかも呼び捨て……。
だが、もしかしたら、それも真夫の命令……?
「ま、真夫君が……なんて……?」
「たっぷりと焦らし抜いてから、SS研に戻せってっね……」
「だ、だから、こ、これも真夫君の指示……?」
「ええ、そうよ──。それに、真夫様に掻痒剤のローションを塗られたんだよね? だったら、感謝して欲しいくらいですよ。こうやって振動を受けないと、痒みで狂っちゃうんじゃないですか。だから、真夫様はあたしに操作具を渡したんですから……」
「と、とにかく、いまはスイッチを止めてくれ……」
ついに、ひかりは哀願した。
午後からずっと痒みに襲われている股間とアナルをディルドでかきまわされるのだ。四肢につんと鋭い愉悦が響き渡り、全身に快感のうねりが襲い掛かる。
もう立っていられない……。
しかし、梓はスイッチを止めない。
それどころか、操作具を出して、両方のディルドを最大振動に変えてしまった。
「ひゃん──」
腰が砕けてしまい、ひかりはその場にしゃがみ込んでしまった。
ひかりは、股間を手で押さえたまま、お尻をあげるような恰好でぶるぶると身体を震わせる。
すると、突然に振動が止められた。
「ふふふ、可愛いですね……。ひかり様のご主人様は真夫様ですけど、この場では、あたしがご主人様です。真夫様に指名されたひかり様の調教係なんです。次にくだらない不満を口にしたら、みんなの前で大恥をかかせますよ。わかりましたか──?」
梓が上からひかりに声を掛けてくる。
ひかりは歯噛みした。
「くあっ、ああっ」
すると、再び、振動を与えられる。
しかも、今度は前後のディルドに加えて、ペニスを包んでいる革袋までも収縮を開始してきた。
根元から先端に向かって押し揉むような刺激を繰り返し加えられる。
「くうっ──、ああっ──」
ひかりは身体をのけぞらせた。
衝撃が快感となって、爪先と脳天に向かって突き抜けていく。
「返事よ──、ひかり──」
「わ、わかったから……」
「忘れたんですか。いまは、あたしがご主人様って言ったはずですけどね」
「わ、わかりました──。もう止めてええ──」
ひかりは声をあげた。
やっと全部の淫具の振動が停止する。
「じゃあ、先に行きますよ。四人には光太郎さんは、どこかから電話があって、それに対応しているって伝えておきますね。でも、なるはやで戻ってくださいね。そして、侍女ごときに躾られる屈辱を愉しんでください」
梓が手をひらひらさせながら部屋を出ていった。
ひかりは、口惜しさを呑み込んでその場に立ちあがる。
だが、身体の奥がドロドロになっているのを感じた。
あふれ返った恥ずかしい女の蜜は、革帯の隙間からにじんで、まるでおしっこを漏らしたかのようになっている。
ひかりは、ズボンを脱いで、タオルで股間を拭いてから、この部屋に置いてある着替えのズボンにはき替えることにした。
しかし、すでにひかりは苦悶に襲われている。
ディルドの振動による刺激が強烈であればあるほど、それが止まったときの焦燥感と飢餓感が大きいのだ。
痒い……。
真夫ではない梓に責められるのは屈辱であるのに、すでにひかりは、その梓がまたディルドを動かしてくれるのを待ち望む気分になっている。
とにかく、早くSS研に行きたい……。
だが、ひかりが新しいズボンをはこうとした瞬間に、またもやディルドのスイッチを入れられた、
遠隔操作の信号はかなり強いので、梓が部屋の壁越しに梓が気まぐれで操作したのだろう。
「うあっ」
ひかりは声をあげて、ズボンを片脚だけ突っ込んだまま転んでしまった。
それほどに響き渡る愉悦は峻烈だった。
すぐに振動は止められたが、ひかりの身体には股間から突きあげる疼きがふつふつと切なく沸き起こり、身体が異常な昂ぶったままになっている。
あいつめ──。
絶対に、いつか仕返しをしてやろうと決心した。
ひかりは、改めて服装を整えると、お茶会の会場に戻るために廊下に出た。
「あれ?」
すると、お茶会の会場である部屋の前の廊下で、
ほかには誰もいない。
雇っている執事や侍女たちも、部屋の中なのだろう。
ひかりを見て、柚子が姿勢をただしてから会釈をしてきた。
「あのう、お電話は終わられたのですか?」
柚子が言った。
そういえば、そういう設定になったのだということをひかりは思い出した。
軽く頷く。
「まあね。どうしてここに……? 中に戻ろうか。それとも、いまからお手洗いかい?」
ひかりは柚子に手を振った。
だが、柚子がすっとひかりの前に進み出て距離を縮めてきた。
しかし、その距離があまりにも近いので、ひかりはちょっと戸惑ってしまった。
「どうかした、立花君?」
「……金城様、あたし、SS研に入りたいんです」
柚子がひかりを見上げて小さな声でささやく。
「SS研に?」
ひかりはちょっと驚いた。
もともと、この柚子については、真夫に紹介する奴婢候補として目をつけていた。
だが、当初は柚子の見た目が幼いことと、セックスにはほど遠い童女体形であることを見て、見合わせようかとも思ったのだ。
だが、彼女が最近興味のある本として、官能小説の題名を堂々と口にしたことで再び迷いを生じている。
彼女がその気なのであれば、そして、真夫が気に入ったなら、別に拒む理由はない。
しかし、いま、柚子がSS研に入りたいと申し出てきたのは、ひかりが考えていることとは異なるだろう。
実のところ、このサロンを開くようになってから、SS研に入りたいと申し出てくる女生徒は多い。それは、ひかりがいるからである。
男子生徒ということになっているひかりは、金城家の御曹司の金城光太郎として知られていて、恋人として……、そうでなくても、縁を結んで関係を強める対象として、自分がかなりの好物件であることを、ひかり自身も認識している。
だから、金城光太郎としてのひかりに接近しようと、ひかりが所属することになったSS研に入ろうと申し出る者が後を絶たないのだ。
女子生徒どころか、男子生徒にもいるほどだ。
それほど、金城家との関係というのは得難いものらしい。
だが、SS研は実際には、真夫が奴婢の女たちとの性愛を愉しむ調教室だ。
当然のことながら、真夫が選んだ者しか入れないので、ひかりはそれらの申し出は片端から拒絶している。
しかし、この柚子についてはどうしたものか……。
さっき、有名なSM官能小説について話題に出したときも、あっけらかんとしていた。そもそも、倒錯した性行為を卑猥なものとして受け止めた感じはなく、柚子から受けたの彼女の内心にあるものの印象は、純粋な知的好奇心である。
つまり、中身も幼いのではないかと思う。
読書好きで、その手の本を読み漁っていて、おかしな性知識だけはあるみたいだが、まだ卑猥さのようなものを抱いていないので、逆に面白そうな性風習くらいに感じているのではないだろうか。
だとしたら、まだ早い?
「金城様がSS研への入部の申し出を全て断っているのは承知してます。でも、実際にはSS研の部長は、坂本先輩ですよね。言付けだけでもお願いできないでしょうか。あとは、あたしが直接にお願いします」
ひかりの沈黙を拒絶と判断したのか、柚子がさらに言った。
「真夫さん……、いや、坂本君に?」
ひかりは言った。
すると、柚子がにんまりと微笑んだ。
「坂本先輩のことを“真夫さん”とお呼びされるんですね」
「あっ、いや……」
誤魔化すべきか、気楽に認めるべきか迷った。
「これ、あたしの連絡先です。中身を読んでください。そして、ご連絡をお待ちしてます……」
すると、柚子がスカートのポケットから小さな封筒を出して、ひかりに押しつけてきた。
ラブレター ──?
……かと思ったが、そんな感じではない。
封書は女の子らしい四角いピンクの可愛らしい封筒だ。ただ封はしてない。
ラブレタ―は送られ慣れているが、直接に持ってくればその場で断るし、そうでないものも基本的には返事はしないことにしている。
だが、ひかりはこれについては受け取った。
「よろしくお願いします……。ところで……」
柚子が視線をひかりの制服のズボンに向けて、急に意味ありげに微笑んだ。
ひかりはどきりとした。
「……ふふふ、電話がかかってきて応じてるって、梓ちゃんが言ってましたけど、口実ですか? 本当はズボンをはき替えに?」
柚子が言った。
ひかりはびっくりしてしまった。
「びっくりしてますか? ふふふ、あたしって、結構目敏いんです。金城様のズボンがときどき揺れていたこと、実は気がついてたんですよ……。なんか、丸い染みのようなものがちょっとずつ大きくなっていたことも……。でも、そのズボンはその染みがなくなってますものね……」
柚子の言葉に、ひかりは絶句してしまった。
そして、かっと羞恥で自分の顔が赤くなるのも感じた。
まさか、気づかれてた──?
「封筒の中を読んでくださいね……。それと、よく勘違いされるんですけど、あたし、見た目ほど幼くないですから」
柚子が立ち去って、お茶会の会場に戻っていく。
ひかりはしばらく呆然としていたが、我に返って、さっき柚子に渡された封筒を開いた。
中身は紙一枚だ。
柚子のスマホへの連絡先が手書きで書いてある。
そして、一言、文字が添えてあった。
『私は金城様たちの秘密を知っています。』
そこにはそう書いてあった。