※この作品はR-18です。

淫魔王のいる学園【完結】   作:ドン・ドナシアン

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126話 女体育教師の訴え

「お時間を取っていただき感謝します、理事長代理」

 

 運動部出身らしいきびきびした動作で、上下ジャージ姿の伊達京子が玲子の座る机の前までやってきて深くお辞儀をした。

 体育教師である彼女は、確か大学時代の所属は陸上部であり、中距離選手だったはずだ。現在も陸上部顧問のひとりだ。

 胸が大きめな事を除けば、アスリートらしいいい身体をしている。

 

「名前でいいわ。玲子でいいわよ。わたしも京子さんと呼んでいいかしら」

 

 油断を誘う親しみを込めるために、玲子はにっこりと微笑む。

 京子は面食らった感じになった。

 

「あっ、はい、もちろんです。あたしのことはもちろん、なんとでも呼んでください。でも、あたしは、できれば理事長代理と……。名前呼びなど、恐れ多いですし……」

 

「いいのよ。年齢も近いんだし、ふたりきりのときには、少しお互いに砕けましょうよ。わたしも理事長代理といっても雇われだしね。本来は、本学校法人の専属契約の顧問弁護士よ」

 

 実際には、龍蔵から事実上の新理事長として指名されている玲子であるが、対外的には、そういうことになっている。

 なお、学園の専属契約の弁護士というのは、少し前の玲子の本来の肩書だ。

 少なくとも、真夫を編入させる直前は、学園とはそういう肩書で関係していた。

 

「もっと恐れ多いです……。あっ、でも、じゃあ、玲子さんと呼ばせていただきます」

 

「嬉しいわ、京子さん……。それで、どういう話なのかしら。秘密を要することと伝えてきてたけど」

 

 玲子は京子を室内にあるソファに促した。

 一方で、自分は奥の茶器準備のための設備がある衝立の奥に向かう。

 

「コーヒーでいい、京子さん。砂糖とミルクは?」

 

 準備をしながら声をかける。

 

「あっ、いえ、とんでもないです。なんでもいいです……。あっ、でも、あたしがします……」

 

 ソファー側から恐縮している京子の焦り声が聞こえた。

 

「いいから座ってなさい。それで、砂糖とミルクは?」

 

 そこには、ボタンを押せば幾つかの飲み物が抽出できる機器が置いてある。それを使ってコーヒーをカップに注ぐ。

 

「いりません──。ありがとうございます」

 

 衝立の向こうから京子の声が戻る。

 玲子は、コーヒーの入ったカップふたつを準備して、盆に載せて運ぶ。やって来た玲子に接して、慌てて立ちあがろうとする京子を制し、彼女の前にコーヒーを置くと、玲子は京子から見て、斜め向かいになるように腰掛けた。

 

「それで、要件は?」

 

 玲子は訊ねた。

 すると、それまで恐縮していたような表情だった京子の顔が急に険しくなった。

 

「……突然の話で申し訳ありません……。理事長代理……、あっ、いえ、玲子さんは、SS研という生徒の文化部についてご存じですか? 正式の文化部ではなく、生徒間の生徒会で認められた同好会なんですけど……」

 

 この学園における部活動は、大きく二つの区分に分けられ、学園として公認し顧問もいる正式の部活動と、生徒間で作る生徒会が認めた同好会活動になる。同好会はサークルともいい、必ずしも、顧問が必要ではない。 

 SS研は、“Social(社会) Sciences(科学) 研究会”として届けていて、この区分によれば、同好会活動となる。顧問はいない。

 それはともかく、体育教師であり、陸上部顧問のひとりの彼女から、全く関係のないSS研の話が出てきたことにはちょっとびっくりした。

 

「ごめんなさい。その同好会名のことしか知らないわ。来週の文化部発表会における活動発表のリストにあったから記憶はしているわ……。確か、“拷問と刑罰の歴史の企画展示”だったかしら……」

 

 玲子は不自然ではない程度にしらばっくれた。

 そもそも、この伊達京子がなにをどこまで知っていて、SS研について玲子に言及してきたか……。

 しかも、彼女は職員会議ではなく、理事長代理の玲子に直接に話を持ってきたのである。

 

「言いにくいのですが、そのSS研という同好会活動を通じて、複数の女生徒が破廉恥な行為を強要されているという噂があるんです」

 

 京子は神妙そうに言った。

 真夫のことだと思った。

 ひそかに溜息をつく。

 まさか、SS研と玲子の関係までは知らないとは思うが、真夫も最近では結構好き勝手に奴婢になった女生徒たちと愉しくやっている。

 なにかが切っ掛けとなり、それが知られて、一部で噂になったとしても不自然ではない。

 

 まあいい……。

 それを揉み消すのは、玲子の仕事か……。

 

 実のところ、SS研で行われていることが学園内で噂になるのは、これが最初ではないのだ。

 以前の秀也時代には、もっと派手にやっていて、SS研が表向きのままの活動実態ではないことは、公然の秘密のようになっていた時期もあったようだ。

 しかし、秀也はそれを自分の操心術で強引に立ち消えさせ、さらに学園の職員会議などでSS研が話題になろうとしても事前に処置してしまい、さらにそれを議題にしようとした教師は、その口を封じる処置をしたうえに、学園から放逐するということをしていた。

 だから、秀也時代からSS研について教師が触れるのは、ご法度のように扱われているのだ。

 

 京子は、なにかによって、SS研の活動について知ったが、周りに相談しても、古参の教師や職員ほど、無視するように忠告するだけで取り合わなかっただろう。

 だから、思い切って、理事長代理の玲子に直訴しに来たのではないかと思った。

 

「破廉恥な行為とは……? つまり、淫行ということ?」

 

「弱みを握られて、繰り返し犯されているとか……。この学園は良家の子女も多いですし、万が一のことがあればと……。でも、周りに相談しても、なぜか相談に乗ってくれない先生たちがほとんどで……。だけど、万が一事実だとすれば、これは大変なことです。あたしは、一教師として許せなくて……。しかも、ほかの先生方のこれに対する態度も不自然で……。だから、同じ女性である理事長代理……玲子さんであれば、事態の深刻さもわかってもらえるのではないかと……」

 

 京子が言葉を選ぶように、玲子に訴えてくる。

 その表情は真剣だ。

 そして、純粋だ。

 おそらく、彼女は、そういう噂に接し、彼女の中の正義感を動機として動いているのだろうと思う。

 玲子からなにかを探ろうと思って接してきたのではなさそうだ。

 

「ああ、なるほど……。わかったわ。それで、具体的には? もしかして、調査のようなことをしてしまったかしら?」

 

「いえ、まだ。事が事だけに、動いていいかも迷ってしまって……。真実ならすぐに動く必要もあるでしょうが、そこまでの証拠もなくて……。さっきも言いましたが、この学園は良家の子弟も多いので、事実無根だとしても、学園側が動いたことが逆に信憑性を持たせることになるのではないかと……。まあ、実は数名の先生に相談したときに、そう言われて、確認のために動くのを止められたんです。でも、理事長代理の耳にだけは入れておくべきかと……」

 

「わかりました。よく聞かせてくれました。あなたの言う通りに、このことは慎重にする必要があります。わたしが直接に動きます。京子先生は何もしないでください。よろしく願します」

 

 玲子は頭をさげた。

 京子は明らかにほっとした顔になった。

 

「申し訳ありません。こんな信憑性の低い生徒同士の噂などを持ってきてしまって……。具体的な証拠もないのに……。だけど、ほかの先生方が妙に、あの同好会に触れたがらないのも気になってしまって……」

 

「いいのよ……。ありがとう。あとはこっちに任せて頂戴。必ず対処します。先生は念のために、このことは他言無用にしておいてください」

 

「わかりました。よろしくお願いします……。それと、あたしにできることがあれば、なんでもしますので……。でも、ほかの先生方に訊ねるのは慎重になさってください。なにかおかしいんです」

 

「わかりました……。ところで、この噂について、具体的に出ている生徒の名前はあるの? あっ、もちろん、SS研の所属生徒はすぐに調べればわかるんだけど……」

 

 玲子は言った。

 

「女生徒を脅迫して破廉恥なことをしていると噂がある男子生徒の名は、木下秀也という生徒です。でも、彼がどんな生徒なのかということは、なぜか記録にほとんどなくて……。そもそも、何組なのかもわからないんです」

 

「木下秀也──?」

 

 意外な名前に玲子は驚いてしまった。

 

「ほかに出ている名前は? 例えば、脅迫されている女生徒は?」

 

「それはないんです。もしも、名前があがっていれば、その女生徒に直接に訊ねるということも考えられたんですけど……。あっ、そうだ。現在のSS研の部長……同行会長ですね。その生徒の名は坂本真夫という三年生の生徒です。それだけはわかりました」

 

「坂本真夫……。編入生ね」

 

「ご存じだったのですね。ただ、ちょっと前には、生徒会長の西園寺絹香が同行会長になってました。最近になって交替したみたいです」

 

「彼らにも怪しい噂があるの?」

 

 玲子はかまをかけた。

 しかし、京子は首を横に振る。

 

「いえ、それについては別に……。もっとも、その坂本という男子生徒は随分と女子生徒に人気があるみたいで……。まあ、彼については別に……。ただ、SS研については、いい噂はありません。怪しいとしか……」

 

「そうなのね」

 

 どうやら、真夫についてまで、噂の的ではないみたいだ。

 だが、不思議な話だ。

 玲子と交代するように龍蔵の専属秘書となった秀也は、最近では学園における生徒としての活動はほとんどしてないはずだ。

 手続きはしてないが、ほぼ休学扱いだ。

 だから、所属クラスが名簿にないのだ。

 

 その秀也が今更、噂の対象になる?

 なんで──?

 真夫ではなく──?

 玲子は首を傾げたくなった。

 

 それから、玲子は京子といくらかの話をした。

 だが、それ以上の内容は彼女の口からは出てこなかった。

 玲子は、もう一度、この一件は玲子に預け、絶対に京子自身が動かないように念を押してから彼女を帰した。

 

 そして、すぐにもう一度理事長室の隠し部屋に戻る。

 まずは、学園内に潜入させている豊藤の手の者のひとりに連絡をする。

 

「わたしよ……。玲子です。体育教師の伊達京子……。しばらくのあいだ、A級監視対象よ。接触した相手、内容、時間と場所、すべて報告をあげてちょうだい……。うん、うん……。そうよ……。もちろん、SNSもメールもよ。完全に傍受しなさい。報告は一日ごとでいいけど、部外者との接触する動きがあれば、その都度連絡しなさい……。うん、うん、そうね……。じゃあ、よろしく頼むわ」

 

 電話での指示が終わると、玲子は次いで、京子に関する情報をホストコンピュータで検索する。

 学園の教師についても、女生徒同様にひそかに集められたデータファイルがある。

 伊達京子に関するデータを開く。

 

 大卒後二年目の女性体育教師……。

 身長165センチ、体重51キロ……。

 胸は結構大きく90センチ……

 

「へえ……」

 

 思わず声をあげた。

 学園の調査によれば、彼女は処女のようだ。敬虔なクリスチャンでもあるらしい。

 映像データを検索する。

 自慰の記録などを確認する。

 そっちはそれなりというところだ。だが、頻度は少ない。月に数回程度というところか……。

 

 性経験もない──。オナニーの頻度も乏しい──。さっきの感じだと、正義感の強い性格のようだ。性についてはかなりの潔癖性があるという気もする。

 玲子は、これから数日間、京子の飲食物に強い媚薬を混入させるよう指示のメールを送った。

 

「あとは、真夫様次第ね」

 

 玲子は小さく呟いた。

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