「だれしもが~美しい子供たちのおお~時がそれをうつろいに変えてもおお~」
京子は、彼女のクラスメートであり、京子が顧問をつとめる陸上部の部員でもある北条麻美と手拍子をしながら、なんとなくそれに耳を傾けている。
三人でやって来たAランク生徒用の寮に備え付けられているミニシアタールームである。
麻美の訴えで、目の前の立花柚子がなんらかの破廉恥な「いじめ」に遭っているのだと確信した京子は、彼女の求めに応じて、この防音設備の整っているこの場所にやって来たのだが、いつまで経っても、柚子は肝心の話を始めようとはしなかった。
それどころか、視聴覚資料の中にあるカラオケ用の映像を利用して、三人でカラオケ大会を始めだしたのだ。
当初は、柚子が場所を変えて相談を訴えてくれると思い込んでいたので、突然に歌を歌い出した柚子に対して、京子も呆気にとられてしまい、我に返って、柚子にSS研となにがあったのかを語らせようとしたのだが、その話題を持ち出そうとすると、柚子の顔から無邪気そうな笑みが消失して、なにかを訴えるように、かすかに首を横に振って、その話題を避けようとする態度を繰り返した。
京子は、それでそれ以上の話をするのを躊躇うとともに、柚子になにかの考えがあるのではないかと思ったのだ。
それで彼女の行動にとりあえず乗っかることにした。
だから、ミニシアタールームにおける三人でのカラオケというわけである。
柚子が最初に京子が自室にやってきたとき、「監視」という単語をひそかに伝えてきたことが記憶に留まっている。
もしかして、迂闊に話をできないというなにかがあるのかもしれない。
とにかく、京子はしばらく柚子に任せることにして、このシアタールームで始まったカラオケごっこに身を委ねてみることにしたというわけだ。
SS研で隠れていやっている破廉恥行為に、本当にあの理事長代理の工藤玲子まで関わっているとすれば、京子の想像以上に大きなものが背景にあることになるかもない。
もちろん、それで助けを求めている女生徒を見捨てるということは考えられないことではあるが……。
だが、なにも知らない以上、企みがあるらしい柚子の行動にとりあえず従うことが正解なのだえろう。
いずれにしても、なんとなくだが、柚子はなにかを待っているような気がしたのだ。
彼女が京子の手に密かに握らせた紙片にあったように、彼女が助けを求めていることは事実だ。
「~お墓に──はいるううう──。終わりました──。いえいっ」
柚子が歌っているのは、いま流行の洋楽を日本語訳したポップスだ。
ソファーに座りながらマイクで熱唱していた柚子は、歌い終わってVサインをこっちに向けてきた。
京子は拍手した。
「さあ、次は麻美ね……。あれっ、居眠り?」
柚子がけらけらと笑い声をあげた。
ふと見ると、京子の隣でソファに身体を沈めていた麻美がこっくりこっくりと舟をこいでいる。
いつの間にか眠りかけているようだ。
京子は麻美に手を伸ばして身体を起こさせた。
それとともに、テーブルの上に置いたままの飲みかけのジュースを彼女の前から離す。頭が垂れて、コップに当たりそうだったからだ。
飲み物は柚子が鞄に入れてペットボトルで持ってきたものであり、三人の前にそれぞれ紙コップに入ってジュースが置いてあった。
だが、さっきまで元気だった麻美が急に眠りだすというのは、ちょっと違和感を覚えた。
まだこのシアタールームにやってきて十五分くらいでしかない。
一曲前には、この麻美の元気に歌をうたったのだ。
そういえば、いま柚子の歌のあいだに、麻美が紙コップの飲み物に手を付けたのだが、その直後、急に彼女が眠り始めた気がするが……。
「もう、盛りあがっているのに──。先生、ちょっと待っていてください。一度、麻美を部屋に送ってきます。帰っちゃだめですよ。すぐに戻ってきますから。続きやりますからね──」
柚子は京子の返事を待たずに、すでにうつらうつらしている麻美の肩を抱えるようにして出ていった。
ちょっと呆気にとられたが、思い出して、京子は麻美が口にした紙コップの中のジュースの匂いを嗅いだ。
かすかだが刺激臭のようなものがある気がした。
「……飲んじゃだめですよ、先生、軽い睡眠薬が入ってますから」
ふり返ると、扉から戻ってきた柚子がそこにいた。
手にノートパソコンを抱えている。
柚子はテーブルにノートパソコンを置いて開いた。
そして、ソファに座り直すちと、すぐに凄まじい勢いでキーボードを打ち出した。
京子は圧倒されてしまった。
「二十分です。二十分のあいだ、さっきのカラオケ映像が監視映像に流れて、この部屋のモニターは遮断されてます。でも、それ以上は無理です」
柚子が顔をあげた。
その顔はさっきまでの無邪気そうな笑みはない。真剣そのものだ。
京子はいつの間にか口に溜まっていた唾液を呑み込んだ。
「監視……? 部屋の中でもそんなことを示唆したけど、あなたは監視されている?」
京子は言った。
すると、柚子は小さく首を振った。
「あたしだけじゃありませんよ。先生も監視の対象です。ありとあらゆる場所に、監視カメラが隠されてます」
「まさか」
「本当です。それと、あたしについては二十四時間監視がついてます。だから、場所を変えたんです。でも、さっきも言いましたけど、このシアタールームについても、誤魔化せるのは二十分が限界です。それ以上になれば、警報が流れてしまいます」
「警報って、なにを言っているの?」
「この学園はそういう場所なんです。監視カメラは、もちろん、先生の教員寮にもあるみたいですよ」
「教員寮?」
「事実です。見ますか?」
「見る?」
京子は首を傾げた。
「少しのあいだなら、学園内の隠しデータにアクセスできます。ハッキングです」
柚子が再びノートパソコンを操作し始めた。
画面にすごい勢いで記号を数字が表れて流れ始める。
柚子のしていることの半分も理解できないが、もしかして、無線LANで学園のシステムに入って、不正アクセスをしようとしている?
そういえば、さっきハッキングって……。
「ははは、ありましたよ。これって、先生ですよね。隠し映像です。そういう画像が学園の秘密データバンクにあるんです」
柚子がキーボードから手を離すと、画面に映像データが流れ出した。
京子は眼を見開いた。
紛れもなく、そこに流れ始めたのが、京子自身の映像だったからだ。しかも、教員寮の自室の浴室だ。
そこでシャワーを浴びている京子の裸身がそこにある。
音声はなかったが、シャワーを浴びていた京子が大きく前に突き出ている乳房の頂点に水流を悶えるような仕草をしている。
はっとした。
このところ、異常なまでに乳房と乳首が敏感になり、水流の刺激さえ震えるような刺激を覚えてしまい、数日続けて自慰のような行為をするのが習慣になりかけてきたのだ。
その映像が映っている。
「わっ、ちょっ、ちょっと待って──。消して──。消しなさい──」
京子は画面を手で押さえるとともに思わず叫んだ。
「消すって言われても、これはあたしが撮影したものじゃないですよ。先生が隠し撮りされたものです。こういうデータがこの学園内にはたくさん隠されてるんです。あたしも、先生も……。ほかにも大勢の女生徒の」
柚子が淡々と言った。
そのあいだもノートパソコンの映像は流れ続けており、画面の中の京子はシャワーを浴びる湯気の中で両手を乳房にしっかりと当てている。
そして、乳房をこねだし、身体をくの字に曲げて喘ぐような仕草を始めだしている。
画面の隅に日付と時刻のデータがあるが、やはり昨夜の映像であることは間違いなかった。
「いいから、画像をとめて──」
京子は声をあげた。
紛れもなく昨夜の映像だ。
そのあとのことも覚えている。
結局、我慢できなくなった京子はシャワーを浴びながら達するまで胸を愛撫し、淫らに自慰をした。
しかも、一度じゃ性欲が収まらずに、三度も続けて……。
「わかりました」
柚子がノートパソコンに手を伸ばして画像が消える。
だが、すぐに別の画像が現れた。
今度は別の女体だ。
画像が暗い。しかし、特殊なカメラで暗闇をしっかりとした映像として記録されていた。
寝台で掛け布団をかぶったひとりの女生徒だ。
顔を俯かせているので、誰なのかはわからない。
しかし、布団の中で手が動いていて、彼女がオナニーをしている姿であるのは明白だ。
「な、な、なにこれ……」
京子は画面を見て呆然となってしまった。
「別のも出しますね……」
画面が変わる。
昼間の教場棟の女子トイレだ。
ひとりの女生徒であり、友人とおしゃべりをしながらひとりで個室に入った。その映像が天井からのカメラで撮影されていた。
女生徒が便器に跨る。
すると画面が変わり、便器内から撮影されたと思われる映像になり、アップになった女性器から放尿が迸りだした。
「うわっ」
京子は声をあげた。
柚子が映像を消す。
「……先生、これがこの学園の秘密です」
柚子が顔をあげた。
京子は愕然となってしまっている。
「ど、どういうこと……」
まだ、頭の整理がつかない。
しかし、いまの映像は……。
「もしかして、同様の映像がまだ……。というか、いまのは本当に……」
「アクセスするのは大変でしたけど、現段階ではまだあたしが学園のデータに侵入できることはばれてません。でも、いつ発覚するかもしれません……。先生、本当に助けてくれるんですか?」
柚子が立ちあがった。
そして、いきなり制服のスカートをまくりあげた。
京子は柚子のスカートの中を見て驚愕してしまった。