「んんんっ」
柚子が制服のスカートから出ている脚を擦り合わせるようにして、身体を屈ませた。
「立花さん──」
京子は握っていた柚子の腕をか抱え込むようにして、柚子を支える。
それでなんとか、彼女が道路に倒れ込むのを防ぐことができた。
さっきからずっと繰り返している行動だった。
「あっ、だ、大丈夫です……。あ、歩きます。で、でも、もうすぐ文化部棟に……」
「わかっているけど、このまま乗り込むわよ。今更よ。とにかく、あたしに任せなさい。その馬鹿げた淫具だけでも外させるから」
京子は股間のバイブレーターが切られたことで、脱力するような仕草をしている柚子を再び支え歩きさせながら、煮えかえる腹をぐっと我慢する。
こんなまだ幼ささえ残る一年生の下級生の女生徒になんということをするのだろう。
紛れもなく、いじめの範疇を越えて、完全なる破廉恥犯罪だ
京子はこれから会おうとしている坂本真夫という男子生徒に対する怒りをふつふつと沸きかえらせた。
学園のA級生徒寮のある生活地域から、教場棟や文化部棟のある教育施設地域に向かう学園内の道路だ。
夜の学園内道路上を照らす街路灯の下を京子と柚子は、遅々とした歩みで、SS研のある文化部棟に向かって進んでいた。
どうしても歩く速度が遅れるのは、柚子に仕掛けられている股間の淫具のためである。
彼女の股間には、あの坂本真夫という三年生の男子生徒が無理矢理に装着させたという革の下着があり、その内側には二本のディルドが股間とお尻の穴を貫いているのだという。
そして、柚子が坂本真夫に面会を求めたところ、まだ寮ではなくSS研の部室にいるという彼は、柚子に徒歩で部室まで向かってくるように求めたのである。
学園の敷地は広大であり、生徒寮のある居住地域と文化部棟のある学校地域とはかなり距離があり、本来であれば移動用の無人シャトルバスが使用できるのであるが、すでに夜の八時を過ぎていて、学園内の自動シャトルバスの運行は終わっている。
従って、歩いて移動するしかないのだが、どうやら坂本真夫は、柚子が徒歩で移動してくることを見越して、遠隔で操作できるらしいディルドを繰り返し振動させて遊んでいるようなのだ。
それで、柚子は振動意地悪く股間に振動を受けるたびに、脚をとられてたびたびに立ち止まったりしているということである。
どうにかしてあげたいが、無理矢理に外そうとすれば電流が流れる仕掛けだという貞操帯を外せる方法は京子には思いつかない。
携帯電話かなにかで連絡をとって、馬鹿なことはすぐに中止しなさいと怒鳴りつけてやろうとも考えたが、柚子が主張するには、坂本真夫は柚子を凌辱したときの映像データを保有していて、逆らえばそれをネットに公開すると脅迫しているらしい。
なんという卑劣な少年なのだろう思ったが、下手なことはできない。
本人に面しさえすれば、得意の京子の空手で屈服させ、貞操帯を外させて、映像データも取り上げることができると思うが、それには京子が坂本真夫と相対する状況を作る必要がある。
柚子は、自分が直接にSS研の赴かないと、用心して坂本真夫は京子に会わないだろうと口にしたので、可哀想な柚子に、仕方なくこうやって歩いてもらっているということだ。
明日になってから学校内で坂本真夫を捕まえるという手段もあるが、それだとこの柚子は明日の朝まで破廉恥な淫具を装着されたままということになる。
とてもじゃないが、京子には許せることではなかった。
とにかく、女生徒をこんな風に凌辱するような男子生徒はとっちめる──。
京子はそれしか考えていない。
生徒のすることとはいえ、許せない──。
「い、いま、何分ですか……?」
柚子が歩みを進めながら、虚ろな表情を京子に向ける。
股間の敏感な場所の三箇所を振動してはとまり、止まっては振動される仕掛けで、柚子はかなり朦朧としている感じだ。
口は閉じられず、唇が震え、口の端からは涎のようなものも垂れている。
また、全身が汗びっしょりだ。
そして、スカートの下から出ている太腿はとまることのなくなって痙攣が続いていて、なによりも、密着している京子にははっきりと彼女から漂う愛液の香りが嗅覚を刺激している。
本当に可哀想……。
「時間……? 九時十分前ね」
京子は腕時計をちらりと見て言った。
「だめ……。さ、三十分過ぎてる……。は、走らなきゃ」
柚子が泣きそうな声になり、本当に駆けだすような仕草になる。
三十分というのは、あの坂本真夫との電話による会話で、彼が柚子に告げた制限時間だ。
そんなことを気にする柚子に、京子はかっと腹がたつ。
「走れるわけないでしょう。いいから、このまま進むわよ」
「で、でも、命令に従わないと別が……」
「なに罰よ──。そんなこと必要ありません」
京子は怒鳴った。
「だ、だけど……ひゃん──。ああっ、そこはだめええ──」
すると、突然に柚子が京子の腕を振りほどいて股間を押さえて蹲ってしまった。
「立花さん──」
これまでとは比べものにならないほどの大きな柚子の反応に、京子は狼狽えてしまった。
「どうしたのよ──。言いなさい──。また、電流──?」
柚子に装着されている貞操帯がディルドの振動だけでなく、どうやら電流を流せる仕掛けもあることは悟っている。
あまりにも激しい反応に、もしかして、淫具の振動だけじゃかく、電流でも流されたのかと思ったのだ。
それくらいの派手な悶絶ぶりだった。
「ち、違います──。い、いままで……こ、ここは動かなかったのに……。ク、クリトリスが……。あっ、あああっ、んんあああっ」
柚子が股間を押さえたままがくがくと身体を震わせる。
クリトリス──?
「いやああ、そこはもう許してええ」
すると、今度は蹲っていた身体をいきなり反り返らせた。
片手をお尻にやっている。
お尻も──?
唖然とする京子の前で、柚子ががくがくと身体を大きく震わせた。
「いくううっ──」
唖然とすることに、柚子はそのまま達してしまったようだ。
京子は呆然となってしまった。
やっと文化部棟に到着したときには、九時を少し過ぎていた。
ただ、各文化部が中心となって、学園内に部外者を招いて行う「文化部発表会」まで一週間を切っているので、その準備に追われる文化部も多く、それなりの生徒がまだ残っていた。
京子は柚子を伴なって、SS研のある二階に進んでいく。
「……いずれにしても、交渉はあたしに任せなさい。あなたは、坂本君も前まであたしを連れて行くだけでいいから」
京子は柚子を支えながらささやく。
「で、でも……」
「いいから──」
余程に怖い目に遭っているのか、坂本真夫に強硬手段をとることを仄めかす京子に、柚子はさっきから躊躇いがちだ。
京子はそのたびに、任せろ、心配ないという言葉を繰り返す。
そして、SS研の前に着いた。
まだ廊下に明かりが灯っていて、SS研の展示物のひとつである絵画のレプリカが幾つか並んでいる。
SS研の文化部発表会のテーマは、拷問と軽蔑の歴史ということであり、廊下にある絵画は、それに関連する絵画が並べられていた。
学園内でかなり話題になっていて、京子も一度ならず覗きにきた。
その中のひとつに自然に視線が向かう。
京子は知らず、口の中に溜まった唾液を呑み込んだ。
視線にうつったのは、大勢の男たちに見られる前で競りのようなものにかけられる美女が描かれている絵画だ。彼女は見世物のように公衆の前で服を剥されて全裸を晒させられている。
『戦利品』という題名らしい。
なぜか、その絵画を見ると、京子は心が魅入られたように動けなくなってしまう。
いまも、ちょっとだけ意識を奪われたような気持ちになった。
この絵画の中の女性は、男たちの前で裸に視線を浴び、どんな羞恥と屈辱を抱いているのだろう……。
想像する……。
すると、なぜか動けなくなるのだ。
かっと股間に熱くなる気がする。
どうして、ここにある絵にそんな感情を抱くのか……。
京子は慌てて首を振って、邪念を振り払った。
いまは、そんな場合ではない。
「開けます」
柚子だ。
各部室の出入り口は、指紋登録による施錠の仕掛けになっていて、あらかじめ入力している指紋の者でないと開錠はできないようになっている。
金属音がして、入口の鍵が開いたのがわかった。
扉を開けて部室内に入る。
柚子が壁のスイッチで照明をつけた。
室内は拷問や刑罰具のレプリカや絵図が説明版とともに並んでいる。なんに使うのかわからない拷問具も壁際にあり、中央には首と手首を板に挟んで固定するギロチン台のようなものもあった。
「誰もいないわね」
京子は室内を見回しながら言った。
「こっちです」
柚子が奥の壁際の本棚に向かう。
そこで幾つかの本を出したり、戻したりすると、横の壁が開いてさらに置く進む隠し通路が出現した。
「なによ、この仕掛け──?」
京子は驚いて声をあげた。
「隠し通路です。ここからエレベータで地下に向かいます」
隠し通路に進むとエレベータがあり、柚子が操作してエレベータを開く。
「文化部棟にこんな仕掛けが?」
エレベーター乗り込みながら、京子は呆気にとられた。
まさか、こんなものが隠されているなど、全く知らなかったのだ。
エレベータがさがって扉が開いた。
扉の向こう側は大きな部屋になっていて、部屋の真ん中に椅子に腰かけているひとりの少年がいる。
見たところ、ほかには誰もいない。
「困るなあ、柚子。勝手にここまで部外者を連れてきちゃ」
部屋は薄暗かった。
だが、室内には拷問具を思わせるものがたくさんあり、天井には滑車のようなものもある。また、奥に棚があり、そこに箱がたくさんあるだけでなく、鞭みたいなものも掛けてあった。
なんだ、この部屋は……。
京子は鼻白んだ。
「柚子、まだ教えたばかりなのに、もう忘れたのか? ペットは許可がなく二本足で立つことは許されないんじゃなかったか? それと奴婢の挨拶もあったな」
少年は坂本真夫だろう。
受け持ちの授業がないので、会話をするのは初めてだが顔はわかる。
京子は柚子の前に行き、真夫を睨みつけた。
「立場さん、そんなことをする必要はありません──。坂本君、あなた、なんのつもりなの──。この立場さんに装着したものをすぐに外しなさい。これは教師として命令よ──」
京子は怒鳴りつけた。
「命令ねえ……。先生と話のは初めてだけど、先生のことは知ってますよ。SS研は先生を歓迎します。奴婢として先生にもSS研に入ってもらいます」
坂本真夫が言った。
奴婢──?
かっとなった。
「いい加減にしなさい──」
京子は真夫に詰め寄ろうとした。
坂本真夫は、いまだに椅子に座ったまま動こうともしていない。
「待って、先生──」
すると、柚子が後ろから京子の腕を掴んでとめる。
その直後、ずんという衝撃が全身に迸って脱力した。
「ああっ」
悲鳴とともに仰向けに倒れ込んだ京子の視界に、手にスタンガンを握っている柚子が視界に入った。
まさか、柚子が──?
京子は目を見張った。
「駄目ですよ、先生。真夫先輩に逆らっちゃ……。ふふふ、大丈夫ですよ。真夫先輩は先生を生まれ変わらせてくれますから……。調教で……」
「ちょ、調教……?」
身体が痺れて動かない。
それにしても、まさか柚子が?
もしかして、全部罠だった?
「ええ、調教です。真夫先輩はすごいですよ。先生もきっと恥ずかしいことやいやらしいことが大好きになります。問題ありません」
微笑んでいる柚子がしゃがみ込んできて、さらにスタンガンを押しつけて電撃を流し込む。
「ほごおっ」
身体が飛び跳ねる。
さらにスタンガンによる電撃──。
そのたびに、びくんびくんと京子の身体は飛び跳ねた。
身動きできなくなった京子の首筋に、なにかがちくりと刺さった。
柚子でも坂本真夫でもない誰かだ。
おそらく注射だ。
しかし、誰に注射をされたのかはわからなかった。
京子の意識はそれによりかきとられ、そのまま気を失ってしまった。