15話 露出ごっこ
どきどきしていた……。
わからない……。
玲子は、どうして、こんなに自分が興奮しているのか、理解できないでいた。
下着とストッキングを脱いで、ホテルのロビーを歩く。
ただそれだけのことなのに……。
普通よりも短い玲子のスーツのスカートの丈のせいはないだろう。
短いといっても、不自然に破廉恥なほどの短さではないし、普通にすごしていれば、玲子のスカートの中がノーパンであることなど、他人には、わかりようもないはずだ。
それでも、玲子は、ホテルの従業員や商談をするために来ている者たちの前を歩いていくことで、胸が締めつけられるような切ない気持ちと、妖しげな心の昂りを覚えていた。
「……エレベーターで最上階にあがります」
フロントの横にあるエレベーターの前に到着すると、玲子は内心の動揺を隠し、顔をあげて真夫に声をかけた。
そして、はっとした。
真夫はすでに立ち止まって、じっと玲子のことを見ていたいのだ。
その瞬間、まるで裸を眺められているような不思議な恥ずかしさに襲われた。
それがどうしてなのか、まったくわからなかったのだが、玲子がすでに欲情しかけているのをすっかりとこの少年に悟られてしまっているような、おかしな気持ちになった。
たかが、ノーパンにされたくらいで、こんなにも平静でいられなくなったことを気づかれるのは、玲子にとっては、堪らない羞恥なのは間違いない。
無論、そんなわけはないのだが、なぜか真夫にじっと見られると、なにもかも見透かされているような恥ずかしい気持ちになる。
やはり、この少年にはなにかある……。
そう思わずにはいられなかった。
そのとき、真夫が急に玲子に近づいてきた。
そして、まるで顔と顔を接するくらいに、玲子の耳元に口を寄せてきたのだ。
玲子の心臓は早鐘のように鳴りだした。
そして、さっきからの落ち着かない気持ちの正体をはっきりと悟った。
自分は、この出逢ったばかりの少年に恋をしている?
そう思って、愕然とした。
信じられないが、この感情はそれに間違いないだろう。
一目惚れなどということがあるとは知っているが、玲子は自分がそれに陥るとは思っていなかった。
ましてや、相手は、まだ十八歳の高校生だ。
あの龍蔵の血を引く息子とはいえ、玲子よりも八歳も歳下の少年なのだ。
だが、この感情は……。
玲子は自分自身の心に対して、半ば呆然とした。
そのとき、真夫が玲子の耳元で口を開いた。
「……随分と興奮しているんですね……。そんなに、ノーパンになったのが恥ずかしいですか? ちょっと、露出狂の気もあるんですね、玲子さんには」
真夫がくすくすと笑った。
玲子はびっくりした。
本当に見抜かれてしまっている……。
玲子は驚きといたたまれない気持ちに襲われた。
「そ、そんなことはありません……。と、とにかく、上に行きましょう。恵さんが待っています」
玲子はそう言いつつも、思わず顔を伏せた。
とても、真夫の顔を凝視できなかったのだ。
なんで……?
どうして?
こんなにも真夫に対して恥ずかしい気持ちに襲われるのかわからなかった。
しかし、自分がどうしようもなく真夫に気圧されることには間違いなかった。
「本当ですか? だったら、試してみます? ここじゃなくて、もっと奥にあるようなエレベーターはありますか? あまり、人がいないところがいいですね」
真夫が言った。
最初は、なにを言われたのかすぐにわからなかったが、すぐに、別のエレベーターについて訊ねられたということがわかった。
「……べ、別のエレベーターであれば、階段の横にありますけど……」
いくつかあるうちのエレベーターのうち、ここから少し離れた階段にある場所を真夫に教えた。
ただ、どうして、そんなことを訊ねられたのかはわからない。
いまから向かおうとしている最上階の部屋は、このフロントの前のエレベーターから上がった場所の正面だ。
ほかのエレベーターだと、最上階で廊下を歩くことになる。
そう説明した。
「ところで、俺にも不思議なんですけど、俺って、エッチなことについては、勘がいいというか……。なんか、相手の女の人の心が読めるような感じになるんですよ。だから、もしかして、玲子さんは、ちょっと露出狂の傾向があるんじゃないかと思って……。人に裸を見られたリ、外でエッチなことをされたりすると、玲子さんは異常に興奮するんじゃないですか?」
真夫がほかの者には聞こえないような小さな声で言った。
玲子はびっくりした。
心が読める……?
それは、まさにあの増応院龍蔵の血を引く者である確証であるに違いなかった。
しかし、そうはいっても、自分が露出狂だと言われたのは心外だった。
龍蔵や秀也に限りない辱めを受けてきた玲子であるが、露出狂などということは断じてない。
「……わ、わたしは露出狂なんかじゃ……」
とにかく、それだけを言った。
別に腹立たしいという気持ちにはならなかったが、玲子にはそんな性癖だけはないということは、はっきりと説明しておいた方がいいと思ったのだ。
「いいですよ。とにかく、もうひとつのエレベーターに移動しましょう」
真夫が言い、玲子はそこに案内した。
玲子が次に連れてきたエレベーターは、フロントのずっと裏手にあたり、正面に階段のある場所だ。
フロントの前に十分な数のエレベーターがあるので、あまり、こっちを使う者はいない。
「あさひ姉ちゃんに、あとで悪戯して遊ぶつもりだったから、準備してあったんですよね……。玲子さん、両手を後ろに回して、親指と親指を重ねてください」
真夫がそう言って、玲子の背後にまわった。
「こ、こうですか……?」
玲子は鞄を背後で両手で持つかたちに変えて、なにも考えずに言われたようにした。
「あっ」
そして、次の瞬間、声をあげてしまった。
身体の後ろで両方の親指の付け根をまとめて硬い糸のようなもので縛られてしまったのだ。
これでは、両手が使えない。
「な、なにを……?」
玲子は狼狽えて、真夫に声をかけた。
だが、真夫は素知らぬ顔をして、エレベーターのボタンを押した。
すぐに扉が開く。
「……あさひ姉ちゃんがいるのは、最上階ですよね?」
さっきから、真夫が“あさひ姉ちゃん”と呼ぶのは、朝比奈恵のことだろう。
「え、ええ」
真夫は玲子を強引に押し込むようにして、エレベーターの中に押し込んだ。一方で自分は、扉が閉じるのを身体で押さえながら、エレベーター内の操作盤の最上階のボタンを押す。
そして、なにを思ったのか、二階、四階、さらに十二、十三、十四階のボタンも押した。
その上が最上階だ。
「こっちにきてください、玲子さん」
真夫が言った。
玲子が真夫に近づくと、真夫は玲子のスカートの腰に手を伸ばして、片手で器用にホックを取り外して、ファスナーを下ろす。
抵抗を失ったスカートが玲子の足元にぱさりと落ちた。
「いやああっ」
玲子は悲鳴をあげて、その場にうずくまった。
だが、それは途中で阻止された。
しかも、床まで落ちていたスカートを足首から抜かれて、真夫から取りあげられてしまった。
「な、なにをするんです?」
玲子はその場にしゃがみ込んで、片膝を立てて股間を隠すようにして真夫に抗議した。
なにしろ、玲子の下半身は、なにも身に着けていない素裸だ。
スーツの上衣はきちんと身に着けているのに、腰から下はすっかりと裸というのは、全裸よりも恥ずかしい気がした。
「なんか不思議ですね……。玲子さんを抱いていいと言われた瞬間に、なぜか無性に玲子さんを苛めたくなったんですよ……。それに、実際のところ、玲子さんもそういう遊びが悦ぶような気もして……。まあ、いいでしょう。さっきも言いましたけど、俺はエスなんです。こういうことが好きな変態だと知ってください。じゃあ、俺は別のエレベーターであがりますから、最上階で会いましょう」
真夫はにっこりと笑って、玲子のスカートを手に持ったまま、エレベーターの「閉」のボタンを押して、外に出た。
抗議する暇もなかった。
声をあげたときには、すでにエレベーターの扉は閉まり、上昇を始めた。
「……あ、ああ……」
思わず玲子は息を吐いた。
驚いたことに、あの少年は、下半身を露出させた玲子だけを乗せて、エレベーターに乗せてしまったのだ。
最上階以外のボタンを押した意味もわかった。
とにかく、玲子はあまりの羞恥に生きた心地もなく、床にしゃがみ込んだままでいた。
やがて、エレベータが押してある最初のボタンの二階に止まった。
誰かに見られたら……。
ましてや、入って来られたら……。
恥ずかしさは頂点に達していた。
扉が開いて、もう一度閉じるまでの時間が、怖ろしく長い時間に感じた。
早く扉を閉めるために、立ちあがって、「閉」のボタンを押すことも考えたが、玲子にはその勇気はなかった。
いずれにしても、いまのように後手で拘束されていては、操作盤には届きそうにない。
やっと、扉が閉まり、エレベーターが再び上昇し始める。
次は四階……。
すぐに上昇がとまり、扉が開く。
今度も人はいない。
とりあえず、ほっとする。
また、扉が閉まり、エレベーターが上昇する。
だが、愕然とした。
次は十二階のはずだ。
しかし、エレベーターは、次の五階に停止したのだ。
つまりは、外から人が入って来るということだ。
「そ、そんな」
どうしていいかわからず、思わず、誰もいないエレベーターで助けを求める声を出してしまった。
扉が開く。
やはり、人がいる。
「ひっ」
玲子はしゃがんだまま、その場に顔を伏せて顔を隠した。
エレベーターの中にその人物が入って来た。
「俺ですよ、玲子さん」
声がした。
玲子は顔をあげた。
エレベーターに入ってきたのは、はあはあと息切れをしている真夫だった。
どうやら、真夫は一階から階段を走ってあがって先回りしたらしい。
玲子は安堵のあまり腰が抜けそうになった。
「ひ、ひどいです、真夫様」
玲子は声をあげてしまった。
だが、ほっとした。
置き去りにされたかと思ったが、そうでもなかったようだ。
おそらく、真夫は最初に止まった二階や四階でも人がいないことを確認しながら、この五階から入ってきたのだ。
鬼畜だが、優しいのだ……。
そう思った。
すると、なんだか、心がじんとなる感じがした。
「……さあ、立ってください、玲子さん。この時間なら、ほとんど客室には人はいませんよね。人が来たら、プレイだと言ってください。あとは俺は誤魔化しますから」
「ご、誤魔化すって……」
誤魔化すといっても、誤魔化しようもないだろうと思ったが、もう、真夫にはなにも口答えする気力もない。
すっかり圧倒されていた。
玲子は真夫に腕を取られて立たされる。
足を曲げて必死に股間を隠すようにするが、あまりの恥ずかしい姿に死にそうな気持になる。
結局、十二階、十三階、十四階と誰も人は入ってこなかったし、ほかの階で止まることもなかった。
だが、下半身を露出して真夫とエレベーターをあがるあいだに、玲子の身体は信じられないくらいに熱くなり、股間は気持ち悪いくらいに蜜で濡れていた。
感じている……。
そう思うしかなかった……。
そして、真夫の眼はしっかりと、玲子の剥き出しの股間に注がれていた。
きっと、感じてしまったことを見抜かれている……。
そう思うと、とてもいたたまれない感情に襲われた。
「どうですか、もっと続けますか? それとも、自分が露出狂だと認めますか、玲子さん」
最上階についたとき、真夫が玲子をエレベーターの外に押し出しながら言った。
そこにも誰もいなかった。
玲子の膝はがくがくと震えている。
どうやら、限界を越えた羞恥によるもののようだ。
「み、認めます……。わたしは、もしかしたら、恥ずかしいことをされれば、感じる変態なのかもしれません……」
小さな声で言った。
この真夫には逆らえない。
すでに、そんな気持ちに襲われている。
龍蔵や秀也に感じた恐怖とは異なる不可思議な感情だった。
とにかく、戸惑うほどの疲労感をたったこれだけで感じてしまっていた。
「……結構です。変態同士仲良くしましょう。俺の勘ですけど、玲子さんとあさひ姉ちゃんは仲良くできると思いますよ……。さあ、糸を解いてあげます。スカートも返しますよ。あさひ姉ちゃんのところに行きましょう」
真夫が明るい口調でそう言って、玲子の親指を縛っていた糸をさっと解いた。