「真夫ちゃん、あのね……。この部屋、すごいよ。まるで、家みたい……。部屋だけで三つもあるのよ……。あれっ……?」
部屋の前にあった呼び鈴を押してから、玲子さんから受け取ったカードキーで部屋に入ると、あさひ姉ちゃんが勢いよく入り口に出迎えにきた。
だが、真夫から少し遅れて、部屋に入ってきた玲子さんの様子に気づいて、少し驚いたように口をつぐんだ。
玲子さんは、真夫のちょっとしたエレベーターでの悪戯で、精根尽きたようになってしまい、真夫から見ても、ぐったりと脱力したような感じになってしまったのだ。
でも、疲れたというよりは、すっかりと肩の力が抜けた様子であり、かなり上気している顔やスーツの着こなしが緩んでいるところなんて、妙に色っぽい。
さっきのエレベーターで苛めたときなんて、泣きそうな顔をして必死に恥ずかしがる玲子さんの姿は、本当に可愛くて愛らしかった。
歳上であり、立派な弁護士さんの玲子さんをそんな風に思ってしまうなんて、ちょっとおこがましいかなと思わないでもないけど、玲子さんと接していると、なぜか、いやらしいことをしたくなるのだ。
だけど、下のロビーできびきびしている玲子さんしか見ていないあさひ姉ちゃんからすれば、玲子さんの雰囲気ががらりと変わったことに違和感を覚えたのも仕方ないだろう。
「……お、お待たせしました、恵さん。ま、真夫様には、わたしの提案を承知していただけました。その内容についてご説明したします……。中に入りますね」
玲子さんが息を吐きながら言った。
真夫には、玲子さんがさっきの羞恥責めでちょっと淫靡な気持ちになっているようだということがわかった。
どうやら、玲子さんも、あさひ姉ちゃんと同じでかなりのマゾっ子のようだ。
真夫は嬉しく思った。
だが、ふと、どうして、自分はそんなことがわかるのだろうという疑念が頭をよぎった。
「あ……、は、はい……」
あさひ姉ちゃんが、妙に色っぽい玲子さんの姿に気飲まれしたように、真夫と玲子さんが入るための場所を開いた。
三人で部屋に入る。
確かに、豪華な部屋だ。
真夫の目から見ても、室内の調度品がどれも最高級のものだということはわかる。
だが、なによりもびっくりしたのは、その広さだ。
入口に面した部屋だけで、あさひ姉ちゃんが暮らしているアパートの一室の三個分くらいありそうだ。立派なソファーセットも二組あり、部屋の真ん中と少し離れた端に置いてある。
それに、あさひ姉ちゃんの言った通りに、まだほかにも部屋があるみたいだ。
「すごいなあ」
真夫も感嘆して言った。
「ねっ、すごいよねえ、真夫ちゃん。あたし、びっくりしちゃった」
あさひ姉ちゃんも興奮したように言った。
すると、玲子さんが口を挟んだ。
「おふたりが学園に入るまでは、ここをお使いください。もちろん、料金は学園が負担いたします。食事などはホテル内に入っているすべてのレストランでとることもできますが、ルームサービスでも大丈夫です。すべて言ってありますので、お二人は無料です。それも学園がすべても持ちます」
「えっ、ふたり?」
「えっ、ここを?」
あさひ姉ちゃんと真夫は、ほぼ同時に疑問の言葉を口にした。
ただ、引っかかったのは、それぞれ異なるようだが……。
「と、とにかく、お座りください」
玲子さんがソファーを促した。
真夫はとりあえず、真ん中のソファーに腰をおろす。
すると、あさひ姉ちゃんが、すぐ隣にちょこんと座ってきた。
こんなにたくさん椅子があるのにと思ったが、あさひ姉ちゃんは真夫にくっつきたいというよりは、どこに座っていいかわからなかったみたいだ。
もしかしたら、この部屋で待っているあいだ、ずっと立ったままだったのかもしれない。
そういえば、入り口で出迎えてくれたとき、そんな感じだった。
「わ、わたしからご説明します、恵さん。恵さんの背負ったお父様の借金は、真夫様がすべて肩代わりをされることになりました。その代わり、真夫様だけでなく、恵さんについても学園に入っていただきます。真夫様の専属メイドとして……」
「えっ?」
玲子さんが語りだした。
あさひ姉ちゃんは、当然、驚いた顔になった。
「待って、玲子さん。まずは、俺が話すよ……。それよりも、玲子さんも座って」
真夫は言った。
玲子さんは「はい」と言って、真夫たちと向かい合うソファーに腰をおろそうとした。
だが、真夫はそれを呼び止めた。
「はい?」
玲子さんは座りかけた腰を真っ直ぐにして、真夫を見た。
「ここだよ。こっちにおいで」
真夫が示したのは、真夫とあさひ姉ちゃんが座っている長椅子であり、あさひ姉ちゃんが座っている反対側の真夫の隣だ。
玲子さんは、あさひ姉ちゃんに説明するのに、ちょっと緊張しているようだった。
おそらく、玲子さんは、真夫があさひ姉ちゃんのことを恋人だと言ったから、その真夫とあさひ姉ちゃんのあいだに、玲子さん自身が入ることになることに、少し気が咎めているのではないかと思った。
なんとなく、玲子さんからあさひ姉ちゃんに対する後ろめたさの感情のようなものが伝わって来た。
だからそう言ったのだ。
すると、玲子さんは顔を真っ赤にした。
「あれ……?」
そのとき、あさひ姉ちゃんが呟いた。
もしかしたら、あさひ姉ちゃんは、真夫と玲子さんの特別な関係のようなものをなにか感づいたのかもしれない。
玲子さんは顔を赤らめたまま、真夫の隣に腰をおろした。
真夫は、玲子さんに言って、さっきの小切手を出してもらった。
「あさひ姉ちゃんの借金は、これで支払ってくれることになったよ。もう、どこにも行かなくていいんだ。この玲子さんがなにもかもやってくれるって」
真夫がそう言うと、あさひ姉ちゃんは、真夫と玲子さんと小切手に代わる代わる視線を動かして、目を丸くしていた。
真夫は説明した。
とりあえず、あさひ姉ちゃんに語ったのは、学園の理事長である増応院龍蔵という老人の道楽として、真夫が玲子さんというその老人の愛人を受け取ることになったということと、真夫が玲子さんを抱いたり、「調教」したりするところをその老人は、隠しカメラで覗くだろうということだ。
ほかにも、理事長の命令でなんでもやらないとならないと思うが、その代わりに、あさひ姉ちゃんの借金を支払ってくれることになったと説明した。
また、真夫が入るのは、メイド帯同で入らなければならない特別待遇生徒寮であって、あさひ姉ちゃんを自分のメイドとして連れていくとも言った。
だが、白岡かおりという女子高生をレイプしろとも言われたことは、まだ黙っていた。
それは、時機をみて、ゆっくりと説明しようと思った。
「……えっ……で、でも……そ、そんな……。だ、だって、そんなの……。あ、あたしのことなのに……。ま、真夫ちゃんだって……。そ、それに、玲子さんも……」
あさひ姉ちゃんは、なにをどう言っていいかわからないようだ。
それだけ喋って、あとは言葉がみつからないかのように口をまごまごとした。
真夫はわざと険しい顔をして、あさひ姉ちゃんの手をぐっと掴んだ。
「四の五の言うんじゃない、恵。これは決めたことだよ。恵は、もうどこにも行かない。どこにも行かせない。どんな方法を使えば、あさひ姉ちゃんと別れなくて済むのかと、昨夜からずっと思っていたけど、それが見つかった。俺はこれを受け入れることにした。これが、なにかの罠で、怖い陰謀に巻き込まれたりしたって構わない。俺にとっては、あさひ姉ちゃんのことを手放さないで済むことが最優先なんだ」
真夫は一気に言った。
そのとき、玲子さんががばりと立ちあがった。
そして、なにを思ったのか、いきなり身に着けているものを脱ぎ始める。
さすがに、真夫も驚愕した。
「れ、玲子さん?」
真夫は声をかけた。
横であさひ姉ちゃんも呆気にとられている。
しかし、玲子さんは、構わずに、どんどんと服を脱いで、反対側のソファーに置いていく。
やがて、玲子さんは生まれたままの姿になった。
さっきは、よく見えなかったけど、玲子さんの股間には一本の恥毛もなかった。ただの亀裂があるだけだ。
そして、その股間は少し……いや、たっぷりと濡れている。
とにかく、玲子さんの裸はとても綺麗だった。
真夫はごくりと唾を飲んだ。
玲子さんは、その場に跪いて、手と頭を床にぴったりとつけた。
全裸土下座だ。
真夫は度肝を抜かれた。
「恵さん、この通りです。わたしを受け入れてください。わたしは真夫様にこの身体を受け入れてもらわないと困るんです。その代わりに、真夫様が罠や怖ろしい企てに巻き込まれないように努力します……」
「ちょっ、ちょっと待ってよ、玲子さん」
真夫は口を挟んだ。
だけど、玲子さんは興奮状態みたいだ。
構わずに、口を開き続ける。
「……とは言っても、龍蔵様の力は偉大です。その龍蔵様から真夫様を守り抜いてみせるとは約束できません。でも、全身全霊で真夫様にお仕えます。だから、わたしを
「えっ、えっ、えっ?」
いきなり、自分の名を呼び掛けられて、あさひ姉ちゃんは動転している。
「分は守ります。恋人としての恵さんの領分を侵したりはしませんので……。でも、とりあえず、わたしはここで真夫様に抱かれなければなりません。それが龍蔵様の申し付けなんです。龍蔵様はそれを隠しカメラを使って遠くで観察するはずです。それは許してください……。このとおりです」
玲子さんがまくしたてた。
真夫は驚いた。
だが、横のあさひ姉ちゃんは、真夫以上にびっくりしたようだ。
俄かに立ちあがるや、転がるように玲子さんの前に跪いた。
「そ、そんな……。あ、あたしなんて……。ちょ、ちょっと待ってください、工藤さん……」
あさひ姉ちゃんが狼狽えて言った。
「玲子さんだよ、あさひ姉ちゃん……。そう呼ぼうよ……。まだ、会ったばかりで、この玲子さんがどんな人なのかなんて判断できないかもしれないけど、この人はとてもいい人だよ。ただの勘だけどね……」
「ま、真夫ちゃん……」
あさひ姉ちゃんが真夫を見た。
「でも、それはわかるんだ……。そして、この玲子さんを信じれば、あさひ姉ちゃんは、俺とずっといられる。これが嘘でもいい。俺はあさひ姉ちゃんと一緒にいたい。どこの誰かもわからないような男たちに、あさひ姉ちゃんを渡すものか。渡すくらいなら、犯罪者でも、ポルノ男優にでもなってやる」
真夫も腰をあげて、ふたりが跪いている床に胡坐で座り直した。
玲子さんがまだ頭をさげたままだったので、それを起こさせる。
あさひ姉ちゃんは、まだ呆然としていて、しばらく思考停止状態になったかのように、じっとしていたが、やがて、ぽろりと涙をこぼした。
すると、それを皮切りに堰を切ったかのようにあさひ姉ちゃんがわっと泣き出した。
「……あ、ありがとうございます……。ありがとう……。ま、真夫ちゃん、あ、あたし、本当は嫌だったの……。娼婦になるなんていや……。それしかないと諦めていたけど……真夫ちゃんに会ってしまって……それで……それで……。それで、やっぱりどうしても嫌になって……。でも、でも……でも、どうしようもないし……。真夫ちゃんに迷惑かけるし……。でも、それでも真夫ちゃんと一緒にいたいし……。あ、あたしはどうしていいかわかんなかったの……。ほ、本当にいいの? このお金を受け入れていいの? こんなの受け取れない……。受け取っちゃいけないと思う……。でも、本当にいいの?」
あさひ姉ちゃんが泣きながら言った。
真夫は、あさひ姉ちゃんの肩にすっと手を回した。
「受け取ろう、あさひ姉ちゃん。そして、玲子さんに頼ろう。玲子さんは、あさひ姉ちゃんのお父さんのこともなんとかしてくれるって……。よかったね、あさひ姉ちゃん……。俺にもまだなにがなんだかわからないけどね。でも本当は、あさひ姉ちゃんのお父さんを殺そうかとまで思っていたんだ。そうしたら、あさひ姉ちゃんが身体を売ってまで守る人はいなくなるから……。俺はそれくらいに、あさひ姉ちゃんのことを誰にも渡したくないんだ」
真夫はあさひ姉ちゃんを引き寄せて抱き寄せた。
あさひ姉ちゃんの嗚咽がますます大きくなった。
だが、少しのあいだだけ抱いたところで、真夫はあさひ姉ちゃんの身体を離した。
そして、その場で正座に座り直すと、玲子さんに向かって土下座をした。
「俺たちは申し出を受け入れます。これで、あさひ姉ちゃんは助かります。ありがとうございます……。あなたのことは、まだよく知らないけど、俺はあなたを好きになると思います……。いえ、もう好きです。だから、あなたも、俺とあさひ姉ちゃんのことを受け入れてください。このとおりです」
真夫は頭をさげたまま言った。
あさひ姉ちゃんも慌てたように頭をさげる。
「や、やめてください。そ、そんなこと言わないで」
玲子さんは悲鳴のような声をあげた。
そして、なにを思ったのか、また真夫たちに向かって土下座をした。
しかし、真夫はそれで少し我に返ってしまった。
三人揃って、なにをしているんだろう……。
そう思と、おかしくなり、ぷっと噴き出した。
すると、玲子さんも頭をさげたままくすりと笑った。
顔をあげる。
真夫と玲子さんは、そのままくすくすと笑ってしまった。
あさひ姉ちゃんだけが、きょとんとしていた。
「俺の勘ですけど、俺たちはきっと仲良くなれますよ、玲子さん……。実のところ、あさひ姉ちゃんもすごくエッチなんですよ。そして、マゾっ子です。玲子さんと同じです」
「えっ? マゾっ子?」
声をあげたのはあさひ姉ちゃんだ。
一方で玲子さんは顔を真っ赤にしている。
「そして、あさひ姉ちゃん……。この玲子さんは、とっても恥ずかしがりやなエッチだよ。だけど、恥ずかしいことをさせると、とっても興奮するんだ。さっき、玲子さんはスカートの下に下着をつけていなかったでしょう。あさひ姉ちゃんと同じように俺が脱がせたんだ。それだけじゃなくて、エレベータの中でスカートも脱がせたんだよ。玲子さんは大興奮だったよ」
真夫は笑いながら言った。
「そ、そんなことばらさないで──。ああっ……。で、でも認めます……。わ、わたし、あんなことされて、怖いとか、嫌だとかは思ったことがあるけど、あんなにどきどきした気分になるなんて初めてです……。すごい洗礼でした。真夫様は、きっとすごい調教者になると思います」
玲子さんが「はああ」と甘い息を吐きながら言った。
そして、思い出したように、両手で胸と股間を隠した。
そのとき、あさひ姉ちゃんが立ちあがった。
今度はあさひ姉ちゃんも服をどんどんと脱いでいく。
玲子さんと同じように素っ裸になったあさひ姉ちゃんは、玲子さんの前に正座をすると再び土下座をした。
「ど、どうか、あたしをよろしくお願いします。そして、本当にありがとうございます。あ、あたし、玲子さんに頼ります。真夫ちゃんにも……。龍蔵様というお方にも……。感謝します。そして、さっきのことですけど、玲子さんが端女なんて、とんでもありません。あたしこそ、端女でいいです。だから、あたしも、このまま真夫ちゃんのそばにいさせてください」
あさひ姉ちゃんが言った。
「そ、そんな……」
玲子さんはびっくりして、また土下座をしようとした。
真夫は慌てて、それをとめた。
「もう、土下座ごっこはやめようよ。きりがいないよ」
真夫が言うと、あさひ姉ちゃんと玲子さんは、やっとほっとしたように笑いだした。
「……ところで、さっきの話ですけど……」
しばらく三人で笑ったあと、あさひ姉ちゃんが思い出したように口を開いた。
「なに?」
真夫は、裸のあさひ姉ちゃんに視線を向けた。
だが、あさひ姉ちゃんは、玲子さんに顔を向けている。
「玲子さんは、これから、真夫ちゃんに抱かれるんですよね? そ、そのう……。龍蔵様という人のご命令とかで……」
「え、ええ……。め、恵さんにとっては気に入らないのかもしれないけど……」
玲子さんは申し訳なさそうな顔になった。
しかし、あさひ姉ちゃんは慌てたように、首を横に振る。
「あっ、ち、違うんです。嫌だとか、そういうことじゃなくて……。つまり、さっきの話によれば、真夫ちゃんと玲子さんが愛し合うところを見られちゃんですよね。その龍蔵様というお方に……」
「そういうことになります……。実はわたしも詳しいことはわからないのですが、どうやら、龍蔵様が真夫様に要求されるのは、ご自分の代わりといってはなんですけど……。わたしのような女を真夫様が抱くのを覗くことのようなんです。お金を出す代わりに、真夫様にそんなことをさせたいとお考えになったようで……」
玲子さんはちょっと困ったような口調で言った。
そのとき、真夫はなんとなく、玲子さんの物言いに引っかかるものを感じた。
嘘をついているという気配ではないが、なにか大事なことを隠しているというような……。
根拠はない。
ただの勘だ。
まあいい……。
玲子さんはいい人だ。
それに関する思いは、少しも揺るぎはない。
だから、信じよう。
真夫はふたりを交互に見た。
「……俺は別に見られてもいいよ。さすがに、目の前で見物されるのは気になるかもしれないけど、隠れて覗くくらいなら……。まあ、これだけのものをもらうんだし」
真夫はあさひ姉ちゃんに言った。
「だけど、真夫ちゃんと玲子さんだけに、そんな恥ずかしいことさせるなんて……。だったら、あたしも参加させてください。玲子さんと真夫ちゃんが愛し合うのに……。も、もちろん、お邪魔でなければですけど……。おふたりだけに恥ずかしいことをさせるのは、なにか気が咎めて……」
「わ、わたしは問題ありませんが……」
玲子さんも当惑したようだが、三人で愛し合うというあさひ姉ちゃんの申し出そのものは問題ないようだ。
だが、判断を求めるように、玲子さんが真夫に視線を向けた。
「もちろん、問題ないよ、あさひ姉ちゃん。そして、玲子さん……。そうだね。最初は三人で愛し合おう……。もちろん、俺流のやり方でね」
真夫はにやりと笑った。