※この作品はR-18です。

淫魔王のいる学園【完結】   作:ドン・ドナシアン

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164話 別人格たちの会話

 夜の十時を過ぎた。

 

 ナスターシャは、今夜は両手を後ろ手に縛られ、両足首に革枷を嵌められて別々に吊りあげられている。

 つまりは、逆さ開脚吊りだ。

 

 毎晩やらされていることであり、「反省」の時間だ。

 その日の反省を龍蔵か時子、あるいは、その両方に対して口にするのだ。

 反省事項がないということは許されない。「牝豚」としての自覚がないということで、それこそ、死に瀕するような罰を与えられる。

 それよりは、どんなことでもいいから、罰を受けるべき自分の失態を見つけて申告し、それに見合う罰を受ける方がましなのだ。

 

 今日の反省事項としてナスターシャが口にしたのは、今日の昼の調教のときに、股間で生卵を出しながら、フランス語でにわとりの鳴き真似をするという芸をさせられたのだが、そのときに三回ほど口惜しいと思ってしまったということだ。

 実際には、もはや彼らの理不尽な命令に口惜しさなど覚えることはないのだが、今日はそれくらいしか思いつかなかった。

 これに対する罰として、龍蔵が示したのは、鞭打ち十発だ。

 

 全部で十発ではない。

 尻、右脚の腿、左脚、左の脇、右の脇、背中……というように、龍蔵が気儘に定めた部位ごとに十発ということだ。

 それが全部で何か所となるかはわからない。龍蔵が鞭打ちしながら決めるのだ。

 だから、結局は何十発の鞭打ちを受ければ終わるのか、まったくわからないということなのだ。

 

 いずれにしても、この「反省」というのは、一日の終わりだけでなく、日に何度もやらされれる。

 問われたときに、一個も反省事項が出てこないと、「牝豚」の自覚が十分でないとして、懲罰に移る。

 毎日毎日続く、自己否定に次ぐ、自己否定……。

 気力は削られ、もう心はずたずただ。

 ナスターシャは、自分自身が目の前の日本人たちにすっかりと屈服し、逆らう気力を完全に喪失させられてしまったという自覚がある。

 

 彼らが怖い……。

 恐ろしい……。

 そして、こんな風に理不尽な虐待を続ける彼らが憎い……。 

 だが、それ以上に、彼らから与えられる拷問や屈辱的な行為に欲情している自分がいる。

 いまも、龍蔵から鞭の洗礼を浴びながら、ナスターシャは被虐酔いによって身体を熱くし、愛撫を受けているわけでもないのに、股間から蜜が溢れかえり、アナルまで濡らしているのを感じている。

 

「あがああっ、ひぐうっ」

 

 すでに五十発を超えている鞭が股間近くに真上から炸裂して、ナスターシャは呻き声を鳴らした。

 尻から始まり、太腿の裏表、腿の内側を打たれ、背中と胸まで鞭打ちされた。

 叩き方も容赦ない。

 鞭打つのは龍蔵だが、かなりの高齢にわりには、しっかりとした力で振り下ろしてくる。

 一日中、人格を否定させられる無慈悲な調教を受けて疲労困憊しているナスターシャには、この一日の最後の鞭の嵐はかなり苛酷である。

 

「残り十発じゃ。声を出すなよ」

 

 龍蔵が連続で打っていた一本鞭を一度引きあげて、部屋の隅に侍っている正人に手を出した。

 以前は、正人は、龍蔵の甥の木下秀也の付人をしていたが、いまはそれをおろされて、龍蔵に侍るようになっているようだ。

 その経緯は知らない。

 

 いずれにしても、ナスターシャがずっと監禁されているこの学園の一角の地下構造物を訪問する者は滅多におらず、ナスターシャが見るのも、龍蔵と時子と正人、さらに、時折、秀也の姿をみるくらいである。

 まあ、豊藤財閥の総帥の豊藤龍蔵といえば、国際的にも多くの組織から暗殺者を送られるような存在だ。

 そもそも、ナスターシャもまた、日本の国際的な大財閥である豊藤について探ることを目的として贈られた諜報員でもあった。滅多に他人を寄せ付けないのも、そんな境遇による龍蔵の用心深さだと思う。

 正人が無言で龍蔵にタオルを渡す。

 龍蔵がそれで汗を拭き、タオルを床に捨てると、最後の十発と宣言された鞭打ちが再開となった。

 

「んふうっ」

 

 股間の上からまともに鞭が炸裂した。

 さすがに声を口から噴き出さざるを得ず、ナスターシャはほんの少し声を出してしまった。

 

「堪え性のない異国の牝豚だこと。ちょっとくらい声を我慢するくらいできないのかい。それとも、声を出すなというのが聞こえなかったのかい、ナスターシャ」

 

 見学している時子が呆れたように言った。

 

「所詮は、獣と変わらぬ山賊が文明人の土地を乗っ取って、猿真似をした蛮族が祖先の毛唐よ。文明人らしく十発は無理か。せめて、五発は耐えてみよ。十発耐えるのを待って、お前と朝まで付き合うつもりはないからのう」

 

 今度は龍蔵が横殴りに、乳房に鞭を炸裂させた。

 

「んぶふうっ」

 

 ナスターシャの乳房は、この地下施設に監禁されるようになってから、この龍蔵の気儘により、人の頭よりも大きく肥大化されたうえに、鋭敏な感覚器官として改良する施術を受けている。

 そこを叩かれて、脳天を貫くような激痛が走り、またしても、ナスターシャは悲鳴を迸らせた。

 

「この牝豚が──。お前はただの一度も、声を我慢できないのかい──。この馬鹿垂れがあ──」

 

 時子が激怒したような口調で怒鳴りあげた。

 

「ああ、ご、ごめんなさい──」

 

 その権幕に恐怖を覚え、ナスターシャは思わず謝罪の言葉を日本語で口にする。

 

「喋るなと命じておるだろうが──」

 

 もう一度乳房に鞭──。

 

「んんっ」

 

 息が漏れたが、今度は耐えた。

 すると間髪入れずに、再び股に上から鞭打ちされた。

 ここにおける調教のすえに、大人の男の親指大ほどに拡大しているクリトリスにまともに鞭先がぶつかる。

 

「ひおおおっ」

 

 ナスターシャは悲鳴をあげた。

 

「馬鹿垂れ──。あと五発からやり直しだよ」

 

 時子が怒鳴る。

 すぐに龍蔵が鞭打つ。

 今度は乳房に戻った。

 

「ふがああっ」

 

 衝撃で身体ががくがくと揺れ、左右の乳首から母乳が飛び出す。

 これもまた、特殊な施術を受けた結果であり、ナスターシャは妊娠しているわけでもないのに、肥大化させられている乳房から母乳を吐き出すのである。しかも、大きな快感を受けたときに、男が股間から射精をするように、乳首から母乳を吐き出すのである。

 鞭打ちで母乳を噴出してしまったのは、繰り返される鞭打ちは苦悶以外の何物でもないはずなのに、ナスターシャはそれを快感として受け取ってしまったということだ。

 恥ずべき身体にされてしまったということと、それを目の前の日本人たちに晒しているという恥辱に、かっと身体が熱くなる。

 

「また、乳汁を吐き出しおったわ」

 

 龍蔵が呆れたように笑った。

 

「切りがありませんよ、龍蔵様。残りはしっかりと、あたしが罰を与えておきます。龍蔵様はお休みください」

 

「そうじゃな……。まあ、わしの運動も十分か……。わかった。後は頼む、時子」

 

 龍蔵が床に鞭を投げ捨てた。

 それを慌てたように、正人が拾う。

 今度は時子が龍蔵の汗を拭くためのタオルを持って近づく。

 そのとき、ナスターシャは、時子が龍蔵の額の汗を拭きながら、龍蔵の耳元でなにかをささやいたことに気がついた。

 完全に脱力して、朦朧となっている素振りをしながら、ナスターシャは注意深く、時子の口元を注視する。

 

 その時子の唇の動きを読む。

 こいつらの誰も知らないと思うが、ナスターシャは日本語を読唇術で読み取る訓練も受けている。

 すっかりと、従順になっていると思い込んでいる時子や龍蔵は、ナスターシャの目の前で、最近はああやって、豊藤財閥の相談に関することを口にすることがある。

 もはや、彼らにとって、ナスターシャは、「人間」などではなく、「玩具」という「物」にすぎないのだ。

 

 「真夫」……、「奴婢十人」……、「もうすぐ」……、「地位の継承」……。そんな単語が読み取れた。

 真夫というのは、坂本真夫という龍蔵の後継者候補の少年のことか……。

 長く存在が不明だった龍蔵の血を引いた息子が発見されたというのは、耳にした。

 

 だが、地位の継承?

 おそらく、総帥の後継のこととは思うが、真夫という龍蔵の実の息子が発見されるまで、ずっと次期後継者としての立場にあったのは、木下秀也という少年だ。

 もともと、ナスターシャは、その秀也の秘書として豊藤に接触するために、来日したのである。

 つまりは、ついに、次期後継者は、坂本真夫に決まったということか?

 監禁されているために、情報のないナスターシャには、その背景となるものが不明で判断ができないが、そういうことなのだろう。

 

「さて、牝豚──。そろばん責めで根性を叩き直してやるよ」

 

 龍蔵がいなくなると、時子がナスターシャの前に仁王立ちになり、冷たく声を浴びさせかけてきた。

 そして、ナスターシャは、やっと逆さ吊りから解放されて、床に足をつけることを許された。

 だが、それは電気鞭で脅迫されて、上面が連なった三角状の突起面になっている二本の材の上に正座をさせられるまでのことだ。

 両腕の後手縛りは解かれることなく、正座になった太腿の上に重たい鉄の板が置かれた。

 さらに三枚、重量のある鉄板を時子に指示された正人が載せていく。

 

「うああっ、あがああっ」

 

 ナスターシャは眼を見開いて、苦悶の呻きを吐た。

 

「お前の脚に、自分が牝豚だということを覚え込ませてやるよ……。正人、この牝豚の股をいじくってやりな」

 

 時子だ。

 そばにで無言で立っていた正人がちょっと顔を歪めた。

 この男は、完全なホモであり、女が苦手なのだ。それを知っていて、時子はナスターシャに対する色責めを正人に強要したりする。

 なにがあったのかわからないが、これもまた、正人に対する時子によるなんらかの懲罰のようなものである気配だ。

 正人が背後にまわってしゃがみ込むと、お尻越しに無防備な花芯をまさぐってくる。

 ちょうど、その場所だけは、手を差し入れることができるようになっているのだ。

 

「ああっ、くああっ、ああ……」

 

 ナスターシャは、激しい甘美感の衝撃に貫かれて、上半身を反り返らせた。

 両脚には苛酷な責め苦を与えられているが、それに関係なく、正人の股間への愛撫により、一気に快感が全身を包んだのだ。

 

「さすがは牝豚だねえ。痛めつけられて、気持ちがいいかい?」

 

 時子がナスターシャの太腿の上に乗せられている鉄の板の上に尻を付けて座った。

 

「ああああっ」

 

 叫んだのは、重みのためでなく、正人の指による股間への愛撫の気持ちよさからだ。

 そして、正人が指を股間から引いたが、脚に与えられる苦痛が快感に変わってしまい、ナスターシャは、太腿と脛に苛酷な苦痛を与えられながら、長く尾を引くような嬌声をあげながら、そのまま昇天してしまった。

 

「こんな責め苦のときに感じるのは、お前が牝豚になった証拠だよ──。ほら、言ってみな。お前はなんだい?」

 

 時子がそのナスターシャの痴態を眺めながら、大きな声で嘲笑した。

 

「わ、わたしは……牝豚です……」

 

 ナスターシャは言った。

 

「わかってきたじゃないかい。じゃあ、牝豚の飾りをしてやるよ。暴れたら承知しないからね」

 

 時子が膝の上の鉄板から降り、今度はなにかを手にして戻ってきた。

 そして、ナスターシャの横に立ち、手をナスターシャの乳房に近づける。

 すぐには、なにをしようとしているのかわからなかったが、時子がマチ針を手にしていることに気が付き、目を丸くした。

 そのマチ針が乳首に近い乳房の中に吸い込まれる。

 

「いぎゃああ──」

 

 ナスターシャは悲鳴をあげた。

 だが、拘束されたうえに、鉄板の重しを脚の上に載せられている身体は動かない。

 二本、三本と針が刺さっていき、五本ほど刺してから、マチ針で乳首を横刺しにされる。

 

『うああっ、お願い──、いやあ、いやあ──』

 

 ナスターシャは母国語で叫んでいた。

 

「豚はせめて、豚の声で哀願しな。そうすれば、許してやるかもしれないよ」

 

 だが、構わず時子は反対側の乳房にもマチ針を刺し始める。

 そして、そっちの乳首にも針が横刺しにされる。

 

「うがあああっ──。ブ、ブウウウ──。ブグウウウ」

 

 ナスターシャは絶叫し、さっきの時子の言葉を思い出して、慌てて豚の鳴き真似で情けを得ようとした。

 いまのナスターシャにできるのはそれくらいなのだ。

 時子がさらに大笑いした。

 

 気がつくと、ゆばりが脛の下の材を濡らしていっていた。

 一度漏れ出した失禁はとめようもない。

 ナスターシャの嗚咽とともに、激流となったおしっこを噴き出し続ける。

 

「この豚が──。人前で何回も小便を垂れ流すんじゃないよ──。罰として、一時間、いや、二時間、そのままだ。正人、見張ってな──」

 

 時子がナスターシャの左右の頬を一発ずつ平手で張ると、正人を残して部屋を出ていく。

 乳房の針も、そろばん責めもそのままだ。

 ナスターシャは、あまりもの苦悶と恥辱によって、急に頭が真っ白になっていくのを感じた。

 

 


 

 

 正人は、童女のように号泣するナスターシャをうんざりとした気持ちで眺めていた。

 龍蔵や時子の残虐性は、いまに始まったことではないが、このフランス女の不幸は、もともとのふたりの「玩具的存在」だったあの玲子が真夫のところに行き、新しい「玩具」を探していた時期に、生意気な態度で龍蔵たちの前に現れたことだろう。

 龍蔵と時子は、嬉々として、その生意気な態度を愉しみ、容赦のない調教を加え始めた。

 

 それから二か月足らず。

 いまのナスターシャは哀れなものだ。

 乳房を極端に大きくされる奇形施術を受け、クリトリスも肥大化された。薬物などを使った超敏感な身体に変えられ、いま見ていたように、このフランス女は、あれほどの激痛を伴なう拷問をしっかりと性的快感に変えて受け止めていた。

 そうなるように、人為的にマゾにされたのだ。

 すっかりと心も潰されてしまい、もはや、当初の日本人を差別的に見下す傲慢な態度など、まったく影もない。

 

「ん?」

 

 そのときだった。

 泣いていたナスターシャが突然に泣き止み、正座の格好をして膝の上に重しを載せられた格好のまま、突然に顔をあげた。

 そして、正面にいる正人を睨むように顔を向けてきた。

 

「“赤ずきんは白い谷の上で狼とコニャックを愉しむ。つまみはクラッカーとチーズ”……」

 

 ほんの聞こえるかどうかのかすかな声だ。

 だが、正人の耳はしっかりと、その言葉を耳にした。

 その途端に、正人は無意識に飲み込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『……正人、私の顔を見よ……?』

 

 ロシア語だ。

 しかも、ほとんどただの呼吸音と変わらない。

 だが、それで十分に意思疎通はできる。

 別人格を覚醒させた正人は、しっかりとナスターシャを……、いや、覚醒したスカーレットの顔を見る。

 

 その唇が動く。

 この部屋には、当然ながら隠しカメラがある。

 それにばれないかたちで、スカーレットは唇だけで、正人に話し掛けようとしているのだ。

 ナスターシャの人格の中に隠れているスカーレットという別人格が出現するときには、必ず、そうしている。

 いまのところ、スカーレットの存在に、龍蔵や時子が気がつく気配はない。

 

『はい……』

 

 正人もまた、唇だけで応じる。

 龍蔵たちが隠しカメラの映像で別室から見ていたとしても、責め苦を受けるナスターシャの前に正人が立って、無言で向き合っているようにしか見えないだろう。

 

『さっきの時子と龍蔵の会話……。どうやら、豊藤の後継者は、坂本真夫に決まったようだ……。予定通りに、その少年は抹殺する。だが、時を待つ必要がある。その後継者を始末できても、龍蔵が残っては報復の対象になる。全ては一度に片付ける……』

 

 スカーレットが唇だけで告げる。

 このスカーレットは、豊藤という人知を超えた能力を持つ豊藤の総帥を暗殺するために外国から送り込まれた諜報員だ。

 正人は、スカーレットを送り込んだ国に一度囚われ、逆らえない暗示をかけられて、スカーレット同様に、多重人格化されて、彼らの「道具」とされている存在である。

 だが、その真の正人の人格は隠れており、彼らの工作を手伝ういまの人格が表に出ることは滅多にない。

 こんな風に特別なキーワードを聞かない限り、絶対に表に出ない仕掛けをされているのだ。

 それもまた、人の心を操ると言われている豊藤の総帥に対する防衛策である。

 

『暗殺者として工作した少女を奴婢として少年に送り込んだことに、気がつかれている気配はないな?』

 

 スカーレットだ。

 正人は頷いた。

 

『その兆候はありません。あの真夫は甘ちゃんです……。女を信用しすぎる。だから、折角の能力なのに、操心術で支配しようともしない。女を支配したがるくせに、操心の力を使うことは嫌がっているようです。疑うこともしてない』

 

『それでいい……。豊藤に隠れている操心術の遣い手は全員を始末する……。ターゲットは、龍蔵、木下秀也、そして、坂本真夫……。しかし、龍蔵が本当に豊藤の総帥である確信が欲しい。やはり、あの男はずっとナスターシャに対して、操心術を使ってない。あくまでも、調教で支配しようとしている……』

 

『そういう趣味なのでは?』

 

 正人は言った。

 あの龍蔵が本物の豊藤龍蔵ではなく、スカーレットのような暗殺者から身を守るための影武者の可能性があると言ったのは、このナスターシャの人格に隠れているスカーレットだ。

 もっとも、正人はそんなことは考えられないと思う。

 正人が秀也の付人として、豊藤の中枢に係るようになってから、龍蔵を隠れ蓑にしている別の存在など感じたことはない。

 そもそも、正人にはそんな性癖はないが、嗜虐癖を持っていて、他人を調教して支配したいと思う者は、その過程を愉しむために、安易に操心術のようなもので簡単に支配を完成してしまうのは愉しくないと思うものなのかもしれない。

 真夫がそんな感じだ。

 正人は、龍蔵がナスターシャに操心術を使わないのは、そんなことをしなくても、ナスターシャは完全に堕ちているからだと思っている。あの龍蔵が本物でないということなど、あり得ない──。

 

『……時を待て。ただし、いつでも実行できるように……。そして、言っておくが、秀也を殺すのはお前だ。失敗するな』

 

『わかってます……』

 

『それと、真夫につけている少女奴婢だが、一度も人を殺したことがなければ、暗示をかけて支配しているといっても、殺人に躊躇う可能性もある。適当な人間を数名殺させて、殺人に慣れさせておけ』

 

『近日中に手配します』

 

 正人は頷いた。

 

『じゃあ、今日の指示は終わりだ……。“イワンの王の名物は金で買えない肌色の豆。ウォッカは窓に立って、月の女神に乾杯”』

 

 スカーレットがそう唇だけで呟くと、表に出ていた正人の意識は、もうひとりの正人の人格の中に隠れていった。

 もうひとりの秀也に従順に忠誠を尽くし、秀也という少年を心から愛するようになった男人格の中に……。

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