「えっ?」
作っていた笑顔を消して怪訝そうにあさひ姉ちゃんの方を見たのは、真夫の呼び出しでこの個室にやってきた若い女性店員だ。
明らかに淫情のこもったあさひ姉ちゃんの声に反応してしまったのだろう。
だが、すかさず真夫は、その女性店員の精神の線に触れ、あさひ姉ちゃんからの興味を失わせる。彼女はほんの一瞬だけ能面な表情になったが、すぐに元の笑顔に戻る。
そもそも、どうしてこんなことができるのかわからないが、いつの間にかやろうと思ったらできるようになっていた。多分、切っ掛けは玲子さんを野外で羞恥責めにしたときだと思うが、そんなことで淫魔術が駆使できるようになるのだから、おそらく自分は人よりも淫乱で嗜虐癖が強いのかもしれない。
実の父親であるらしい龍蔵も、同じような性癖らしいので、なんだかんだで、血が繋がっているのは本当なのだろうと思う。
「かしこまりました。では準備でき次第にお持ちいたします。こちらはお下げしますね」
真夫に向かって会釈し、食事が終わって空になっている皿を片付け始めた。
一方であさひ姉ちゃんは、両手を股間に当てたまま、真っ赤になっている顔をうつむけさせ、身体を小刻みに震わせている。
なにしろ、真夫はこうやって話しながらも、あさひ姉ちゃんのクリトリスに感覚を共鳴させていると「錯覚」させている水入りのグラスを触り続けているのだ。優しく縁を擦り、あるいは、グラスの部分をくすぐるように触り、さらに指先を水で濡らしてから内側から撫であげる。
それをかなりの速度で繰り返している。
グラスを刺激するたびに、真っ赤な顔になってよがり声を我慢するあさひ姉ちゃんが可愛い。
真夫は、手でグラスを動かしてちょっとだけ強めに中の水を回転させて揺する。こぼれはしなかったが、軽くしずくを吹き上げた水がグラスの中に戻り、小さな波紋が水面に拡がる。
「あんっ、んんっ」
今度は我慢できなったのか、あさひ姉ちゃんが股間に置いていた手を自分の口に持っていって強く押さえる。
同時に上半身を前に曲げてテーブルに突っ伏すような格好になった。
しかも、小さく痙攣をして身体を突っ張らせている。
軽く気をやったみたいだ。
反応しすぎだろう。
それじゃあ、ちっとも隠してない。
まあ、あるいは、隠すつもりもないのかもしれない。
いったん、スイッチが入ってしまえば、あさひ姉ちゃんは、ちょっとばかり欲望に忠実になりすぎてしまうところがある。
マゾの欲望だ。
真夫は苦笑した。
「ま、真夫ちゃん……」
すると、あさひ姉ちゃんが顔だけをあげて、真夫にすがるような視線を向けてきた。
口に手を当てたまま、眼は涙目だ。
だけど、すっかりと欲情している。
真夫は肩を竦めた。
「……やはり、デザートは取り消します。その代わり、水差しをここに置いていってください」
女店員は入ってきたときに、グラスに水を注ぐための水差しを持ってきていたのだが、それは使われることなく、個室の入口近くにある小テーブルに置いたままだったのだ。
店員は真夫の指示に従い、水差しをテーブルの上に置き個室を出て行く。
再びふたりきりになる。
真夫はやっとグラスから手を離した。
あさひ姉ちゃんがまだ小刻みに身体を震わせたまま上体を起こす。
「あ、あんなの狡いわ、真夫ちゃん」
あさひ姉ちゃんが恨めしそうに言った。
真夫は噴き出した。
「なにが狡いの、あさひ姉ちゃん?」
真夫は内ポケットから、銀色の楕円球型の金属球をグラスの中にそっと沈めた。
グラスに入れる直前に強い振動をさせてからだ。
プレイ用に時子婆ちゃんに作成を頼んだものであり、無音式であるが、女性に与える快感は強烈らしい。
グラスの中で激しく振動して、グラスの表面に波面を作って水を大きく揺り動かしだす。
「くあっ、ひああっ」
あさひ姉ちゃんががくんと上半身を折る。
無理もない。
さすがに堪らないだろう。
なにしろ、いまグラスの水の中に振動具を入れて振動させたということは、その刺激を淫魔術で下腹部に送られているあさひ姉ちゃんにとっては、胎内のクリトリスを内側から激しく振動されているのと同じなのだ。
しかも、ただの振動じゃない。
時子婆ちゃんにお願いして、女性がもっとも快感を覚える周波数帯を微弱な電流とともに放出する仕掛けになっている。
女性である限り、この快感から逃れる手段は存在しないと、時子婆ちゃんは笑っていた。
「んはあっ、あんっ」
再びがくんと身体を前に倒したあさひ姉ちゃんががくがくと身体を震わせだす。
その身体が硬直して背中が反り返った。
また、達しそうだ。
だが、真夫はすかさず意地悪をして、淫魔術であさひ姉ちゃんの頭の中に入りこむ。一気に膨張して、他の多数の線を絡めながら大きくなっている線を淫魔術で捕獲する。
あさひ姉ちゃんの中にある快楽の塊だ。
これを膜のようなイメージで包み込む。拡大はしてもほかの線とは離して接触を遮断してしまう。
「だめだよ、あさひ姉ちゃん。これは操心術を使ったレイプだからね、操られながらしか絶頂できないよ。あさひ姉ちゃんは、俺の三つ数えるまで達することができないからね」
さらに、真夫の言葉そのままをあさひ姉ちゃんの身体に精神操作で結んでしまう。
あさひ姉ちゃんの思念や心、そして、神経のひとつひとつに真夫の操心術が絡みつく。その感覚が真夫の中にはっきりと沸き起こる。
あさひ姉ちゃんが味わっている快感が明瞭にわかる。
淫魔術で絶頂を寸前で遮断されたあさひ姉ちゃんは、いくにいけないもどかしさで、その顔が苦悶のものに変化もした。
「……ひとつ」
真夫は絶頂感覚だけを封じたまま、あさひ姉ちゃんの快楽の神経を一気に飛翔させる。
三つ数え終わったら絶頂できるというのは嘘じゃない。そういう暗示をかけたのだ。その状態で一時的に停止した快感の拡大を解除したというわけだ。
「んぐううっ、ひぎいいいっ」
あさひ姉ちゃんががくがくと身体を震わせて、全身を突っ張らせる。
すでに絶頂するには十分な快感を味わっているあさひ姉ちゃんだ。グラスの水の中にはいまだに激しく淫具が振動を継続している。
「あっ、ああっ、だ、だめえ──。こ、こんなのだめえ──」
あさひ姉ちゃんが悲鳴をあげた。
真夫は苦笑しながら、さらに口を開いた。
「さすがにもっと静かにしないとね。驚いて店員が駆けつけてきちゃうよ……。ふたつ……と半分……」
「いやあっ、許して、真夫ちゃん──」
声が大きいというのが聞こえなかったのか、それとも、聞こえたけど我慢できる状態ではないのか、あさひ姉ちゃんの悲鳴はますます大きくなる。
「……命令だよ。声を我慢するんだ、あさひ姉ちゃん」
わざと冷たい声で告げる。
あさひ姉ちゃんがはっとしたように顔だけをあげた。
慌てたように再び手で口を押さえる。
だが、その顔は追い詰められた絶望とともに、明らかな欲情が浮かんでいた。
なんだかんだで、あさひ姉ちゃんは苛められるのが大好きなのだ。
「……二……点……六……七……八……九……」
そこまで数えてやめる。
真夫が“三”を告げれば絶頂できると淫魔術で暗示を掛けられているあさひ姉ちゃんは、これでほとんど絶頂しているのと同じになった。
だけど、いけない。
絶頂寸前のもどかしさのまま、あさひ姉ちゃんの快感は寸止めされている。
「んぐううっ、んんんんっ、んふううっ」
あさひ姉ちゃんが激しくがくがくと震えている。
だけど、絶頂だけはできない。
それはぎりぎりでとまっている。
「さあ、続きは部屋に行ってからだよ。その状態にまま、歩いて上まであがるんだよ。そうしたら、暗示を解いて絶頂させてあげるからね。俺があさひ姉ちゃんの中で射精してからね」
真夫はずっと振動をさせていた水の中の淫具の振動をとめて内ポケットにしまう。
そして、立ちあがって、向かい側のあさひ姉ちゃんの腕を掴んで立たせた。
あさひ姉ちゃんのスカートはまるでおしっこを漏らしたかのように、前側がべっとりと濡れていた。
季節柄、スカートの布は薄手だけど、その布を通り越してこれだけ染み出るのだから、それだけ身体は興奮仕切っているということだろう。
「……こ、こんなの……あ、歩けない……。む、無理……」
あさひ姉ちゃんは腰に力が入らないのか、腰をぶるぶると震わせながら、両手で真夫の片腕を掴んで身体をくの字に曲げたままである。
真夫はあさひ姉ちゃんの身体を引っ張り、強引に真っ直ぐにさせる。
「だったら中止にする? その代わりに、もうあさひ姉ちゃんをマゾ調教するのはやめにしうようかなあ。だって、もう無理なんだものね」
そして、わざと突き放すような物言いをする。
あさひ姉ちゃんが眼に涙を溜めたまま、小さく首を横に振る。
「ま、真夫ちゃんの意地悪……。あ、あたしが真夫ちゃんにちょ、調教……さ、されるのが……好きなこと……知ってるのに……。そ、それをもう……し、しないだなんて……」
あさひ姉ちゃんは喋るのも苦しそうだ。
だけど、必死にそれだけは訴えてきた。
真夫はほくそ笑んだ。
「だったら、マゾのあさひ姉ちゃんはもっと苦しまないとね……。もうひとつのグラスを見るんだ。これと同じだけ尿意が迫るよ。最上階の部屋に着くまで、爆発寸前の寸止め状態だけじゃなく、尿意とも戦ってね」
真夫はそう言うと、さっき女店員に置いていかせた水差しを手に取り、もうひとつのグラスに水を注ぐ。
たっぷりと……。
縁から水がこぼれるまで……。
「ひいんっ、ひっ」
あさひ姉ちゃんが奇声をあげて、片手で股間を押さえた。
「さあ、行くよ、あさひ姉ちゃん」
真夫はにっこりと微笑みながら、強引にあさひ姉ちゃんの腕を引っ張り、個室の外に押し出す。
さて、最上階に到着するまで、さらにどんな意地悪をして、あさひ姉ちゃんを苦しめてあげようか。
お愉しみはこれからだ。