脂汗が流れては全身を伝い落ち、そして、つま先立ちをしている玲子の足の指の下に溜まっていく……。
眼には見えないが、すでにかなりの大きさの水たまりになっているはずだ。
その汗だまりが、ただでさえ力を失って崩れそうなつま先と床とのあいだに入り込み、足をとる。
だが、脚を滑らせることは許されない。
また、ただの一瞬も足先から力を緩めることも許されない。
なにしろ……。
「んぎいいっ、ひぎいいいっ」
玲子は悲鳴をあげた。
身体の芯を抉るような激痛が股間から迸ったのだ。
どうやら、真っ直ぐに保っているつもりだった身体がいつの間にか、斜めに傾いてしまったようだ。
玲子の視界は目隠しで塞がれていて失われている。だから、姿勢の安定を保ちにくいのだ。
そして、叫んでしまったことで身体が揺れ、それによりもう一度激しい痛みが加わる。
玲子は泣き叫びながら、懸命に吊られている身体を安定させようとした。
残っていた全身の力を振り絞ることで、なんとか股間への針を刺されたような痛みをじわじわと捩じり続けられるような疼痛に変化させることができた。
「はあ、はあ、はあ……」
玲子は激しく息をした。
つまりは、いま玲子は、両手を後手に拘束され、一本の硬い糸によってクリトリスの根元を縛られて、さらに、その一本の糸だけで天井から陰核そのものを吊られているのだ。
しかも、玲子がつま先立ちするまで、酷く糸を吊りあげている状態で……。
それをしたのは真夫だ。
そして、真夫はさらに目隠しをして、玲子を放置した。
真夫たちがこっちのプレイルーム側にいないことはわかっている。
真夫は狼狽える恵を強引に連れて、隠し扉の向こう側に出ていった。
目隠しをされていたので、その光景を見たわけではないが、玲子ははっきりと扉の向こうに人が消えていく気配を感じた。
それからどれくらいの時間が経ったのか……。
一時間……?
二時間……?
わからない。
もはや、時間の感覚は玲子から消えている。
ただただ、陰核を糸で抉りあげられる激痛と、つま先立ちを続けなければならない筋肉の疲労の苦痛があるだけだ。
だが、それを抗議することは許されない。
その気もない。
これは罰なのだ。
当然に玲子が甘受しなければならない、当たり前の懲罰なのだ。
事の発端は、玲子が真夫の奴婢になって二日目、一日動き回った玲子が、夕方よりも少し早い時間に、真夫と恵のいるホテルの部屋に戻って、一日の報告をしたことから始まった。
まず説明したのは、恵の父親に関して、二度と問題が起きることはないだろうということだ。
借金は支払い、同時に闇金融屋については、二度と、恵にも恵の父親にも近づかないことを誓わせた。裏社会においては、表社会以上に豊藤財閥の恐ろしさは浸透していて、恵に豊藤の後ろ盾がついたことをはっきりと明言したので、もはや、彼らが恵の周辺に関わることはあり得ない。
仮になんらかのやり方で恵に関与しようとしても、今度は違うやり方で事を鎮めるだけだ。
暴力団のひとつやふたつくらい、豊藤財閥が本気でかかれば、いくらでも消滅させることができる。
次に、学園のバックボーンである豊藤グループの総帥である龍蔵とその周辺のことを説明した。
学園の理事長が豊藤龍蔵という「魔王」と称されるグループの総帥であり、学園がその道楽であることは事前に説明していたが、それをもう少し補足するとともに、秀也という龍蔵の親族の若者のことや、時子という龍蔵の愛人頭のことも言った。
真夫も恵も注意深くそれを聞いていたし、自分たちとは別世界の世界だねえと笑ったりもしていた。
もっとも、真夫が龍蔵の子である可能性が極めて高いということは口にしなかった。
できないのだ……。
それを喋ろうとすれば、まるで頭が痴呆にでもなったかのようにぼうっとして、なにも考えられなくなる。
一族に伝承すると言われる操心術についても同じだ。
語ろうとすると、一種の脳の停止状態に陥る。
玲子は、いまだに龍蔵の操心術は、しっかりと玲子に影響を与え続けていることを自覚しなければならなかった。
玲子自身が、秀也や時子から、調教されていたことも説明した。
真夫は黙って受け入れてくれた。
だが、真夫の形相が変わったのは、今日の朝、時子に命じられ、秀也の前で下着を身に着けていないスカートをまくりあげて、股間を晒したことを白状したときだ。
真夫は明らかに機嫌が悪くなった。
「別に玲子さんの過去のことはなにも気にしない。だけど、玲子さんが俺の奴婢になると誓いながら、自ら局部を他人に晒すなど許せない」
真夫はそう怒鳴った。
昨夜の「プレイ」のときだって、終始余裕のある笑みを絶やさず、大きな声ひとつ出すわけでもなかった真夫が、感情を激したようになったのはびっくりした。
玲子は慌てて、その場に土下座をした。
これについては、当の時子にも叱られたし、自分には真夫の女になったことの自覚が足らなかったのだと思う。
そう言った。
しかし、真夫はそれが奴婢が謝る恰好なのかと冷たく言った。
玲子は慌てて身に着けていたスーツを脱ぎ捨て、下着もとって全裸になった。
そして、もう一度、土下座をして謝った。
だが、真夫は不機嫌だった。
玲子の髪の毛を掴んで、プレイルームに連れ込むと、懲罰だといって、後手に拘束し、いまやっているような陰核吊りをして、玲子を部屋に放置して立ち去ったのだ。
恵は懸命に真夫をなだめるようとして、あいだに入ろうとしてくれたが、真夫は聞く耳をもたなかった。
そして、いまに至っている……。
あれから、どれくらいの時間が経ったのか不明だ。
夥しい汗が流れ続け、永遠とも思える時間がすぎていく。
「あっ、ぎっ」
糸で陰核が引っ張られる激痛で玲子は呻き声を迸らせた。
長時間の豆吊りで、感覚は痺れ切っている。
少しでも身をよじらせれば、情け容赦なくぴんと張っている糸がクリトリスを抉るのだが、筋肉の震えが止まらなくなり、身体を静止しておくことができなくなってきたのだ。
だが、身体を崩せば終わりだ。
結ばれた糸は硬い。
真夫は何気なく使ったかもしれないが、このプレイルームにあったこの糸は、絶対に切断されることはない。
玲子が倒れれば、切断されるのは糸ではなく、クリトリスそのものだろう。
それを知っているだけに、玲子は恐怖に包まれ続けている。
「ああ、んぐうっ、はあ……ああっ……」
耐えようと思うのだが、口から悲鳴が漏れ続ける。
身体が揺れる。
そのたびに鋭い痛みが走り、糸に抉られる。
慌てて身動きを止めようとするが、もはやがくがくと震える身体を止めることは不可能だ。
怖い……。
そのとき、身体が大きく揺れた。
いや、揺れたと思った。
実際にはどうなっているのかわからない。
急に身体の平衡感覚がなくなったのだ。
「い、いやあっ」
一度感覚を失うと、どっちが上で、どっちが下かもわからなくなってきた。
身体を真っ直ぐにしようとするのだが、それがどの方向なのかがわからない。
身体が倒れる……。
駄目だ……。
「た、助けて」
玲子は初めて助けを求めた。
しかし、このプレイルームは完全防音だ。
声が真夫に届くことはない。
玲子はクリトリスが切断されるのを覚悟した。
その瞬間、がっしりと身体を支えられた。
「えっ?」
驚愕した。
誰──?
こっちのプレイルームには、誰もいないはず……。
だが、この温かい手は……。
そして、股間を引っ張る糸の痛みが急に消滅した。糸が緩んだのだ。
砕け落ちようとしていた玲子の身体がゆっくりと倒されて、誰かの胡坐の上に乗せられる。
でも、玲子には、すでにそれが誰であるかがわかっている。
目隠しが外された。
「玲子さん、よく頑張りましたね」
そこには、にっこりと微笑んでいる真夫がいた。
玲子はもうなにも考えれずに、ただただ泣きじゃくった。
どうして、ここに真夫がいるのか……?
もしかして、ずっと見守っていた……?
疑念はあるが、そんなことは、もうどうでもよかった。
感情が激しく迸り、玲子は号泣していた。
真夫は、玲子が落ち着くのを待つように、しばらくのあいだ後手縛りの玲子の裸身をぎゅっと抱き続けていてくれた。
「ど、どうして……。わ、わたしは、真夫様に放置されて……。そ、そして……」
やっと玲子が口を開いたのは、たっぷりと数分は泣き続けてからだ。
思い浮かべた疑問を口にはしたものの、やっぱり実際には、そんなことはどうでもいいと感じていた。
絶望を感じたときに真夫が玲子を支えてくれ、いまこうやって抱っこしてくれている。
ほかになにも要らない。
まるで赤子でもなったような安心感に包まれ、玲子は大きな恍惚感に陥っていた。
「外に出たのは、あさひ姉ちゃんだけですよ……。それよりも、頑張ったね、玲子さん。まさか三時間も耐え続けるとは思いませんでした……。玲子さんの罰は終わりです。さあ、脚を開いて。糸を外しますから……」
真夫が言った。
「ああ……」
また安堵の涙が出た。
やっぱり、真夫は優しい……。
玲子は慟哭をしながら思った。
真夫はすっかりと玲子を見限ったように放置したように見せかけておいて、ずっとすぐそばに息を殺して見守っていてくれたのだ。
玲子が真夫の気配を一切感じなかったということは、真夫もまた身じろぎせずにじっと息を殺していたということだ。
それはそれで、結構大変だったろう。
いずれにしても、とにかく嬉しかった……。
とてつもなく、嬉しかった……。
また、嬉しかったのは、実は、真夫は玲子を見守ってくれていて、最後には救いを与えてくれたことだけではない。
こうやって、ちゃんと罰を与えてくれたことだ。
服従を約束したくせに、平気で他人に恥部を晒す……。
ある意味では、真夫にとっては、それは玲子の裏切りも同然だろう。
もしも、真夫がそれになにも反応しなかったら、玲子はもしかしたら、失望したかもしれない。
だが、真夫は玲子に厳しい罰を与えてくれた。
つまりは、それは、真夫自身が、自分が玲子の「ご主人様」であることを認めてくれたということに違いない。
ご主人様……。
玲子のご主人様……。
玲子は何度も心の中で繰り返していた。
ご主人様に支配され、罰を受け、許され、そして、愛される……。
その悦びと安心感に、玲子は震え続けていた。
ご主人様……。
玲子のご主人様……。
「さあ、糸は外れましたよ。でも、ちょっと赤くなっているかな……。あとであさひ姉ちゃんに薬を塗ってもらいましょう……。だけど、苦しんでいる玲子さんをずっと見続けていたら、俺もすっかりと欲情しちゃいました。あんまりきれいだから……。だから、犯すよ」
「は、はい」
玲子は床に横たえられた。
すぐに、真夫が玲子を犯しやすいように、膝を曲げて脚を開いた。
自分が興奮しきっていることに、玲子自身が気がついている。
真夫に犯される。
それを思うだけで、すっかりと媚肉が蕩けてしまい、蜜が垂れ流れてきていた。
「すごいね。やっぱり、玲子さんは変態だ。俺やあさひ姉ちゃんと同じように……」
真夫が玲子の秘部の状態に気がついてくすりと笑った。
「も、もちろんです。わたしも、おふたりと同じ……。いえ、わたしこそ、変態です」
自分は一体全体どうしてしまったのか……。
秀也からは、屈辱として受けた蔑みの言葉を、相手が真夫なら甘美な響きとして感じる。
変態……。
真夫や恵と同じ……。
それは、まったく侮蔑の言葉ではない。
玲子にとっては、真夫が玲子を受け入れてくれたというありがたい称賛の言葉のようにさえ思える。
玲子は自分がこれほどに他人を愛することができるとは思いもよらなかった。
打算的で計算高く、決して感情的にならず、かなり酷いことでも淡々と処置できる。
自分はそんな女だと思っていた。
しかし、真夫に対しては違う。
この少年が豊藤の後継者候補だということと関係なく、玲子は真夫に惹かれている。
もしも、真夫が豊藤龍蔵の後継者にならなくても、躊躇なく玲子は、真夫と運命をともにするだろう。
打算などという忌まわしいものと無関係でいられる唯一の存在が真夫だ。
真夫に愛されたい……。
罰せられたい……。
翻弄されたい。
この真夫と会ったのが、たった一日前のことだなんて、本当に信じられない。
だが、玲子は恋に落ちた。
それは間違いない……。
「入れますね。クリの根元が擦り剥けているかもしれないので、ちょっと痛いかもしれませんよ」
「か、構いません。むしろ、痛い方が気持ちいいかもしれません。真夫様の罰ですから」
玲子は言った。
「罰は終わりだと言ったでしょう……」
真夫が苦笑した。
「……でも、すっかりと、マゾっぽくなってきましたね」
「マゾです。真夫様専用のマゾです」
玲子ははっきりと言った。
すると、真夫がにっこりと笑った。
その微笑みで全身がぞくぞくとなった。
自分は本当に真夫のことが心から好きなのだと自覚した。
その玲子自身の感情が嬉しかった……。
真夫の熱い怒張が挿入を開始した。
すぐに腰が震えた。
全身の毛穴という毛穴が一斉に反応する。
そして、玲子の膣の最奥の一番気持ちいい場所に、真夫の亀頭が届いて、ぐりぐりと擦られる。
「ああっ、き、気持ちいいです。そ、そこ、気持ちいい──」
玲子は縛られた身体をのけ反らせながら叫んだ。
「玲子さんもエッチですね」
真夫がにこにこと微笑んだ。
違う──。
玲子は叫ぼうとした。
こんなに赤裸々になるのは、真夫に対してだけだ。
秀也にも、時子にも、こんな感情にはならなかった。
だが、激しい甘美感が玲子の思念を消失させる。
律動が始まったのだ。
玲子は歓喜の声をあげていた。
唇を震わせて悶えた。
「き、気持ちいいです、真夫様……ああっ……」
なにも考えられない。
馬鹿みたいに同じことばかり言っている。
だが、本当に、ただ気持ちよかった。
ほかになにもない。
それ以外の一切の感情や思考がなくなる。
ただ、気持ちいい……。
それだけだ。
玲子は、真夫に身を任せ、そして、子宮の痺れるままに声をあげた。
真夫の怒張が玲子の媚肉を掻き分けるたびに、電撃でも浴びたような全身の痺れが襲う。
玲子は津波のような連続の愉悦に泣き叫んだ。
「ま、真夫様、真夫様……、玲子は……あっ、ああっ、も、もう真夫様のもの……。はっ、はあっ、に、二度と、二度と……あ、あんなことはしません──。ああ、ああっ……」
自分でもなにを言っているのかわからなかった。
真夫がストロークをするたびに、腰骨が砕けるのかと思うほどの快感が襲う。
「秀也と……いう人には……会う……。礼儀も……尽くす……。でも、玲子さんの……男だったことは……聞きたくない……。それは……わかっているけど、それを……秀也と……いう人が……口に出すのは……我慢できない……。俺も嫉妬深いですね」
真夫が律動しながら言った。
嬉しい。
嬉しい……。
玲子のことで真夫が嫉妬してくれるなど……。
嬉しい……。
「ああ、んはあっ、しゅ、秀也……さ、さんが……れ、玲子の……お、男だったことは……あ、ああっ、あ、ありません。彼は……調教係……。わ、わたしは……ま、真夫様だけ……ああ、ああっ」
全身の感覚のすべてが快感に変わる。
肌に当たる真夫の汗……。
真夫の声……。
その息の音……。
そのすべてが気持ちいい……。
快感が怒涛の激流となって全身を駆けあがる。
「で、でも、しゅ、秀也には……い、言っておきます……。で、でも、か、彼には……こ、こんな感情……い、抱いたこと……ああっ、な、無いんです……。ああっ、い、いきそうです。も、もういっちゃいます」
「いっていいですよ、玲子さん……。玲子さんが好きです。俺も大好きです」
真夫が激しく玲子を突き立てながら言った。
もう、なにも考えられない。
玲子を好きだと言ってくれた真夫の言葉だけが、頭で繰り返している。
なにか途方もないものが込みあがり、弾け、砕けて、散った。
飛翔している……。
どこまでも、どこまでも……。
玲子は絶頂していた。
「ああっ、はぐうっ、ああっ、真夫様、真夫様、ああ、真夫様──」
玲子は痴呆のように、真夫の名を繰り返し呼び続けていた。
その真夫がしっかりと緊縛されている玲子を抱き包む。
真夫が精を玲子の子宮に注ぎ込んだのがわかった。
目の前の景色が消え、玲子は押し寄せる快感と疲労感にすべてを飲み込まれていった。
その瞬間に、尿のようなものが迸ったような気がしたが……。