学園の敷地内から小路で繋がった場所に、森に囲まれた一軒の洋館があり、そこが学園の理事長であり、豊藤グループの総帥である豊藤龍蔵の屋敷だ。
学園内とも地下道で繋がっているが、今日については、表の玄関から玲子はやって来た。
時刻は、そろそろ陽が暮れかかっていて、夕方から夜になろうとしている頃だ。
約束の刻限は、もっと前だったが、急いで処置しなければならない案件が起こったため、この時間になってしまった。
学園からの地下通路ではなく車でやって来たのも、案件を処置するために外に出ていたからだ。
玲子の運転する車が洋館の堅牢な鉄門の前に停まると、自動的に門が開いた。
そのまま通過して洋館の前庭に車を置く。
洋館は二階建てであり、地下道に繋がっている地下階を含めて三層になるが、全世界の富を牛耳る豊藤グループの総帥の屋敷としては、こじんまりとしたものだろう。
もともとは、龍蔵の愛人の時子に与えた屋敷であり、龍蔵は半ば隠居状態になってから、この洋館に住まいを移していたのだ。
本来は時子ひとりが暮らしていた住まいなので、屋敷と庭園を管理する者も三人が住み込みでいるだけであり、龍蔵の暮らしぶりは質素なものだ。
玄関の前に立って、玲子であることを告げる。
一見しただけではわからないが、鉄門を通過するときに引き続いて、ここでも厳重なセキュリティチェックが行わていれる。
隠しカメラによる人物確認、声紋及び眼球照合、金属及び火薬探知機による手荷物確認など、そのチェック数は十以上に及ぶ。
透視撮影により服の下についても確認されている。
それをコンピュータ制御で行い、あらかじめ登録された者でなければ絶対に扉は開かない。
「どうぞ」
扉が開いた。
出迎えたのは、意外にも秀也が学園で随行従者として使っている正人だ。
もっとも、これまで学園には、それほど出入りすることのなかった玲子は、正人とは面識があるという程度だ。
秀也が護衛としても使っていて、印象としては、秀也に影のように寄り添う青年というものだ。秀也によれば、女には興味のないゲイであるという話だが、確かに秀也に受ける調教にこの男が同席することはあっても、正人から「男」を感じることはなかった。
その辺りも、秀也がそばに置いている理由かもしれない。
いずれにしても、正人がここにいるということは、秀也が来ているということだろう。
「みなさん、地下でお待ちですよ」
正人がくすくすと笑った。
その笑いには、なんとなく玲子を小馬鹿にするような響きを感じる。
一応玲子は、ずっと龍蔵の秘書の仕事をしてきたので、正人はそれなりの礼節を持って接するが、正人にしてみれば、玲子は、正人が仕える秀也の「奴婢」にすぎない。外面以上の敬意を玲子に示す理由は皆無だろう。
ただ、ふと見ると、正人の股間の部分に、白く変色した染みのようなものがある。玲子がそこに視線をやったのに気がついたのか、さっと正人が顔を赤らめた気がした。
玲子は、この青年がそんな反応をしたのに初めて接したので、ちょっとだけ驚いてしまった。
「わかりました」
とにかく、玲子は正人に先立って、地下に降りる階段に進んだ。
屋敷の地下の大部分は、いわゆる「調教室」だ。
また、この洋館の住人である龍蔵や時子が一日の大部分をすごす居室も、その地下階にある。
地下に降りて廊下を進んでいくと、女の悲鳴が轟いた。
悲鳴が聞こえてきたのは、「プレイルーム」からだ。
玲子が部屋の前に辿り着くと、扉が開いて秀也が出て来た。
「おう、遅かったな。伯父貴は中だ。時子さんの躾が始まっていてな。中で待て」
秀也が言った。
玲子がここにやって来たのは、龍蔵に呼び出しを受けたからだ。
約束の刻限から一時間ほど遅れているので、いつもの面談室ではなく、ここに案内されたのか、あるいは、最初からここに玲子を通すつもりだったのかは知らない。
「あ、あの秀也さん……。報せについては感謝いたします。ありがとうございました」
玲子は頭をさげた。
今日の昼間、あの恵の父親が、恵と真夫を待ち伏せて因縁をつけたと教えられたのは秀也からの連絡だった。
秀也によれば、たまたま通りかかったときに、恵のアパートの前で真夫を脅すように怒鳴っているのを目撃したのだそうだ。偶然に秀也が通りかかったというのは信じられることではないが、いずれにしても、それが事実であることは、すぐにわかった。
その処置をするために遅れたのだ。
いまの玲子には、龍蔵の呼び出しよりも、真夫たちに関する案件処置が優先する。
それで、少し遅れると事前に連絡し、必要な対処をしてきた。
ともかく、真夫も恵も大事には至ってないようだ。
それについては安心した。
「へっ、お前の落ち度だぞ。詰めが甘いからそうなるんだ。それで、あのろくでなしはどうした? コンクリートにでも埋め込んで、海にでも沈めてきたか?」
秀也が笑った。
「仮にも恵さんの父親ですから、そんなことはしません……。ただ、彼には二度と日本に戻って来れないように処置します。今夜中には旅立たせます」
「まあ、俺にはどうでもいいか……。それにしても、あの小僧が恵の父親に脅されるような事態を許したのは、お前のミスだ。きっちりとお仕置きを受けろや」
確かにそうだ。
玲子の失敗に間違いない。
この後、真夫たちに会うことにもなっているので、そのときに、今回の処置について説明し、ふたりへ謝罪をするつもりだ。
同時に、お仕置きという言葉に、玲子は先日の糸吊りの罰のことを思い出していた。
あんなに壮絶で苦しい思いをさせられたのに、玲子にはあれについては、甘美で砕けるような悦びの記憶しかない。
今回はどんな罰なのだろう。
玲子は不謹慎だと思いながら、真夫の「罰」を待ち望むような自分の気持ちに気がついていた。
「はっ、あの玲子も変われば変わるものだな。あの小僧の罰が、そんなににこにこするほど嬉しいかい。呆れたな」
秀也が吐き捨てるように言った。
どうやら、顔に感情が出ていたようだ。
玲子は慌てて、表情を隠した。
「正人はここで待て」
秀也は玲子だけを促して、プレイルームの中に入れた。
「ひぎゃあああ」
部屋に入ると、あのナスターシャが股間を押さえて、床でのたうち回っていた。
ナスターシャは素っ裸だ。
ただ、首に赤い首輪が嵌められている。
そして、そのナスターシャがうずくまっている正面には、並んだ革椅子に腰かけている龍蔵と時子がいる。
浴衣姿の龍蔵は、にこにことナスターシャが苦しむ様子を眺めており、その隣に座っている時子は、ナスターシャに向かって、スマートフォンを思わせる器具を向けている。
その時子が操る器具がなんであるかは、玲子にはすぐにわかった。
クリリングの操作具だ。
時子は、ナスターシャの股間に埋め込んだクリリングを使って、股間に電撃を浴びさせているのだ。
やはり、ナスターシャもまた、騙されて陰核の真下の股間にクリリングを埋められたようだ。
「ひぎいいいっ、ぐああああっ」
ナスターシャが獣のような声を出し続ける。
しかし、床で暴れまわるナスターシャに対し、龍蔵も時子も鬼畜な笑みを注ぐだけだ。
それにしても長い……。
一瞬だけでも怖気を覚える股間への電撃を玲子が入って来てからだけでも、すでにずっと流しっぱなしだ。
玲子は無意識のうちに、自分の股間をスカートの上からぎゅっと押さえていた。
すると、横で秀也が喉の奥で笑った。
「心配するな。もう、ここには、お前に手を出すのはいねえよ。」
秀也が笑った。
龍蔵と時子が座る椅子の横に同じような革椅子がひとつある。また、その隣には、さらに横長のソファーがあった。
秀也は龍蔵の横の革椅子に座り、玲子にソファーに座るように示した。
そのあいだも、ナスターシャの悲鳴は続いている。
あまりもの長い電撃に、ナスターシャの目は白目を剥き、口からは泡のようなものが出てきた。
ナスターシャの股間から尿の水たまりが拡がった。
すると、やっとナスターシャががくりと脱力した。
「今度は堪えただろう、ナスターシャ。さあ、ちんちんのポーズだ。これから、生意気なお前の奴隷の挨拶は、ちんちんのポーズにしてやるよ。あたしか龍蔵様に会ったら、例外なく、そのポーズをしな」
時子は言った。
ナスターシャがよろよろと立ちあがり、尿の水たまりを避けるように、その前に両脚を左右に拡げて腰を床すれすれに落とした。
いわゆるM字開脚のポーズだ。
そして、両手はヴァギナの襞を掴んで左右にぐいと引っ張った。
正面に腰かけている玲子には、ナスターシャの股間に、まったく陰毛がないことがわかった。
おそらく、クリリングを埋められる手術の前に、全部抜かれて永久脱毛処置をされたのだろう。
玲子もそうだった。
産婦人科の開脚椅子みたいなものに脚を拡げて拘束され、服従の誓いを強要されながらも、一本一本、龍蔵と秀也と時子に抜かれたのだ。
あれが最初の洗礼だった。
服従を誓って、クリリングを埋めてくれと口にすれば、痛くないように抜いてやると繰り返しささやかれ、玲子が屈服するまで、毛抜きで一本ずつ抜かれた。
玲子が服従の言葉を口にしたのは、たしか半分ほど抜かれたときだったと思う。
「もう伯父貴に話しかけていいぜ。いま、ナスターシャには、お前と俺が知覚できないように、操心術で擦り込んだ」
秀也が言った。
「擦り込み?」
思わず玲子は口にした。
いま、玲子の存在が認識できないようにしたと秀也は言ったか?
そんなことも操心術で可能なのか……。
玲子は改めて、それを悟った。
「なんだ、すっとぼけたような顔をしやがって。お前自身、何度も経験しているだろう……。まあ、もっとも、操心術にかけられていた側じゃあ、なんにもわからねえか……。じゃあ、折角だから、教えておいてやる。お前が伯父貴に調教を受けていたときの大部分は、俺も同席していた。だけど、ちっとも覚えてないだろう。操心術の擦り込みというのはそういうもんだ。記憶を操作するんだ」
玲子の不審顔に気がついたのか、秀也が横から声をかけた。
だが、玲子はその内容に驚いてしまった。
龍蔵からの調教はかなりの回数になるが、そのほとんどについて、秀也が一緒にいたという記憶はない。
本当だろうか……。
まあ、嘘の多い秀也だけに、どこまでが真実で、どこからが出鱈目なのかわからないが……。
「……玲子」
そのとき、龍蔵がこっちを向いた。
「は、はい──」
玲子は慌てて立ちあがって、直立不動の姿勢になった。
龍蔵はにこやかに笑って、座れという合図をした。
玲子は迷ったが、秀也にも声をかけられて、とりあえず座った。
だが、龍蔵には、礼を言わなければならないことがたくさんある。
──玲子を龍蔵と秀也から解放して、真夫の奴婢として仕えるように命令してくれたこと……。
──真夫と恵の窮状を救ってくれたこと……。
──ふたりに温情を与え、自由にグループの資金や施設を使用することを許してくれていること……。
──なによりも、玲子を信頼して、真夫をサポートする役割を与えてくれたこと……。
ほかにも……。
玲子はとりあえず、まずは真夫の奴婢にしてくれたことに対して、礼を言った。そして、続いて感謝の気持ちを伝えようとしたところで、龍蔵から「もう、わかった」というように手で合図された。
玲子は口をつぐんだ。
「……時子から聞いていると思うが、お前が真夫の忠実な家臣としてやってくれるということを理解したので、お前のこれまでの職を解き、学園の理事長代理の職を準備した。これからは、学園の切り盛りはお前に任せる。ただし、勘違いするな。お前の本来の役割は、学園の管理ではない。それは、あくまでも二の次だ。それよりも、真夫をしっかりと育てろ。あれを支えて指導しろ。とにかく、真夫が学ぶべきなのは、まずは自分自身の力量によって、他人を支配することを覚えることだ。それまでは、豊藤龍蔵の血を引いていることは、本人のみならず、誰にも口にしてはならん。豊藤の後継者とわかれば、誰もが真夫にひれ伏すのはわかっている。だが、真夫には己の力のみで、他人を支配する力量を身に着けてもらいたいのだ」
「承知しました、龍蔵様」
玲子は頭をさげた。
いずれにしても、玲子には、まだ龍蔵の操心術が効いていて、真夫の血については、余人はおろか、真夫自身にも教えることができない。
教えようとすると、頭が白痴にでもなったように、ぼうっとしてなにも考えられなくなるのだ。
「また、今後は、お前とは直接会わん。用件があるときは、ほかの企業主たちと同様に、まずは秀也を通せ。指示が必要だと思えば、秀也を通して伝える。今度、この屋敷に出入りすることも許さん」
「わかりました」
これまで玲子がやっていた龍蔵の「秘書」の役割は、秀也が務めることになる。実際には、秀也というよりは、このナスターシャなのだろう。
そのために、秀也の部下として連れて来られたはずだ。
玲子はナスターシャに目をやった。
ナスターシャは、M字開脚をしたまま自分の手で股間を開くという行為をずっと強要され続けている。本当に玲子のことは認識できないようだ。
もしも、玲子のことがわかるのであれば、自分が調教を受ける光景を玲子に見物されることに、あの気性のナスターシャが反応しないわけがない。
そのとき、ナスターシャが小さな声でなにかを呟いた。
フランス語だ。
ナスターシャが、母国語で時子に対する侮蔑的な言葉を口にしたのだ。
「ひぎゃあああ」
次の瞬間、ナスターシャがひっくり返った。
時子が電撃をオンにしたようだ。
ナスターシャは、さっき尿を漏らした場所の前で姿勢を取っていたので、真後ろにひっくり返ることで、身体を自分の尿まみれにしてしまった。
そのナスターシャに、時子がフランス語で罵倒している。
馬鹿な女だ。
フランス語なら、老婆の時子には意味がわからないと思ったのだろう。
だが、時子は長年にわたり、龍蔵に認められて、性生活でも、仕事でも、ずっと龍蔵のパートナーを務めた女だ。有能さでは並みの女ではない。
電撃が止まった。
時子に怒鳴られて、ナスターシャは再び、さっきの「ちんちん」のポーズになった。
「ふあっ、はああっ」
開脚をしているナスターシャの身体ががくりと揺れた。
その身体がぶるぶると震えだし、あっという間に赤色に染まっていく。
「姿勢を崩すんじゃないよ、ナスターシャ。理由なく姿勢を解けば、また電撃でのたうち回ることになるからね」
時子がクリリングの操作具を手に持って笑っている。
今度は電撃ではなく、振動を開始する信号を送ったのだろう。
ナスターシャは、泣きそうな顔を淫情に染めながら、身体をがくがくと震わせている。
手で開いている股間からは、ナスターシャの愛液がどろりと流れてきた。
「……なかなか、頑張るじゃないか。だったら、これはどうだい?」
時子がリモコンを操作した。
ナスターシャが絶叫して、そのまま再びひっくり返った。
振動を「強」にしたに違いない。
クリリングの「強」振動は、絶対に妨げることのできない強制絶頂だ。
倒れたナスターシャは、大きな嬌声をあげて悶絶した。
絶頂したのだろう。
次の瞬間、またもや股間を押さえて暴れ始める。
時子が電撃を流したのだ。
自分ではないとはいえ、一年前を思い起こさせる容赦のない時子の責めに、玲子は自分の身体に、どうしようもない恐怖が帯びるのを感じた。
さらに時子は、今度はリモコンではなく、椅子にある操作具に手を触れた。
すると、床から一本のバイブレーターが出現した。
色が黒いことを除けば、グロテスクなくらいに本物そっくりの形状であり、さらにクリトリスに当たる部分に小枝が出て、刺激を追加するようになっている。
それが床から生えて、しかもすでに激しく振動をしている。
「ナスターシャ、これを根元まで挿すんだ。さっきのちんちんのポーズでね。そうすれば、電撃がとまる。ただし、ちょっとでも、根元から股が離れれば、そのクリリングが電撃を再開するからね」
時子の言葉に、電撃を浴び続けているナスターシャが、懸命に張形を股で咥えようと這いつくばって進んだ。
やがて、なんとか股間まで挿入することに成功し、ナスターシャがほっと脱力する。
ただ、すぐに振動が与える快感にM字開脚の姿勢で悶えだす。
「じゃあ、龍蔵様に挨拶だ。そのまま、いいというまで龍蔵様のお道具を奉仕するんだ。精を飲めば、今日の調教は終わりにしてやるよ。そのまま明日の朝まですごしていい。ただし、根元から張形を離せば、電撃が発生することにはかわりないけどね……。生意気なお前へのご褒美にバイブの振動は強めにしておいてやるよ。朝までそうやっていれば、かなり素直になっていることだろうよ」
時子が笑った。
あのまま、朝まで……。
玲子はぞっとした。
そういえば、玲子も同じことをさせられた。
ああやって股間にバイブを挿入したまま、本当に朝までいさせられるのだ。
玲子がやられたままの責めをナスターシャも受けるとすれば、彼女も、これから三日間、一睡もすることを許されずに、快楽調教を続けさせられるのだろう。
玲子も、それですっかりと逆らう気持ちを奪われてしまった。
龍蔵が浴衣を左右にめくりながら立ちあがった。
だが、思い出したように玲子に振り返った。
「……そうだ。お前の個人口座にとりあえず二億振り込んだ。お前については、これからは真夫に仕えてもらうので、手切金というわけではないが、これまでの貢献料だと思ってくれ。真夫を頼むぞ」
龍蔵は言った。
その金額に驚愕した。
とにかく、玲子はお礼を言った。
すると龍蔵は、玲子にもう行っていいという仕草をした。
玲子は立ちあがった。
「じゃあな、玲子──。小僧に躾けられろよ」
部屋を出るとき、秀也が声をかけてきた。
玲子は苦笑した。
そして、扉の前に移動して、振り返る。
ちょうど龍蔵が、ナスターシャの口に浴衣の下の一物を咥えさせようとしているところだった。
龍蔵の股間はしっかりと勃起していた。
そういえば、数日前、秀也が龍蔵はもう不能だと話したことを思い出した。
だが、見たところ、その感じはない。
しっかりと龍蔵の股間の一物は大きくなっている。
やっぱり、嘘の多い少年だ。
玲子は秀也のことをそう思った。
「本当に、お世話になりました、龍蔵様」
玲子は、心からの感謝の気持ちを込めて、龍蔵に頭を深々とさげた。