玲子は、恵とともに食事の支度を整えた二台のワゴンを隠し部屋のプレイルームに運び込もうとしていた。
拘束はされていないものの、一糸もまとっていない。
一方で、隣の恵も服は着ていなかったが、股間に革の下着だけは身に着けている。
このプレイルームに置いてあった調教用の下着であり、縁に金属のワイヤーが入っていて外側から手が入れられないようになっているとともに、後方の基盤で電子ロックをかけるようになっていて、誰かが遠方からリモコンで解除信号を送らなければ、外すことができないというものだ。
「んふっ……」
ワゴンを押す恵の身体が玲子の横で艶めかしく動く。
さっき、真夫から受けた説明によれば、恵のお尻には細いアナルバイブが挿入されているらしい。
それが小さく動き続けていて、恵に淫らな刺激を与え続けているようだ。
恵の肌はすでに真っ赤に染まっている。
「恵さん……。ほら……気をつけないと、がに股になっているわよ……」
玲子はワゴンを押しながら小声でささやいた。
お尻に挿入されている異物が気になるらしく、恵はどうしていも無意識に股間を開き気味にするような歩き方をしてしまうようだ。
ただ、「アナル拡張」の調教は時間をかけるし、その調教が始まった最初の頃は、玲子も秀也から四六時中アナルバイブを入れっぱなしにする生活を強いられた。
だから、できるだけ自然な姿勢ができるように気をつけなければならないのだ。
玲子の忠告は、「奴婢」の先輩としての助言のようなものだ。
「は、はい……。んんっ」
恵が慌てたように脚を閉じる。
そのとき、恵が喉を軽くのけ反らして、甘い息を吐くような仕草をした。
股間やお尻に異物を挿入して歩くときに脚を狭めれば、どうしても穴が収縮して、挿入されている異物を締めつけてしまう。
だから、感じてしまうのだ。
だが、それを耐えて、表に出さないようにするのも、「奴婢」の「たしなみ」のようなものだ。
それにしても、恵はお尻に異物を挿入されたのは、今日が初めてだと言っていた。
最初であれば、アナルバイブには快感などなく、痛みだけがほとんどのはずだ。
しかし、恵は、明らかに欲情しているように色っぽく顔を染めているし、乳首だってしっかりと勃起している。
玲子にはそれが不思議だった。
だから、小さな声で訊ねてみた。
「……ま、真夫ちゃんだからだと思います……。真夫ちゃんがしっかりとクリームを塗ってくれましたし、あ、あたしが受け入れられる程度の太さのものから開始してくれました……。それに、これを入れる前に、真夫ちゃんが一時間以上もかけて指で触ってくれたんです……。だから、いまでも中に入っているのが真夫ちゃんの指のような気がするんです……。真夫ちゃんの指だと思えば、痛くなんてないです……」
恵はうっとりとした表情で答えた。
「は、はあ……」
玲子は自分のときとは、まるで異なる恵の「初アナル調教」に呆気にとられてしまった。
かつて、玲子が秀也から本格的なアナル調教を受けたときは、屈辱と痛みしかなかった。
やがて痛みは消え、そこからしっかりと快楽を覚えるようになったが、やはり排泄器官を男の性欲解消の場所として使われるのは、大きな恥辱だった。
しかし、恵は、それを恍惚とした「マゾ」の悦びで受けとめているようだ。
ともかく、真夫と恵は、今日から恵をアナル調教すると決めたらしい。
とりあえず、今日から少しずつ挿入する張形を太くしていき、真夫のものを問題なく受け入れるとともに、しっかりと快感を覚える器官に変えていくのだと真夫は言っていた。
もっとも、調教役の真夫も、誰かにアナル調教をするのは初めてなので、「あさひ姉ちゃんと一緒に試行錯誤だよ」と笑っていた。
それを教えられたときの玲子の心境は、ふたりの初々しい「調教」に微笑ましい感情に襲われるとともに、嫉妬のような気持ちにもなった。
玲子が一年かけて受けた「マゾ奴隷」としての調教をこれから受けることになるのであろう恵は、嫌悪感の欠片もなく、それを大きな喜びとして受け入れていて、なによりも、とても幸せそうだ。
それにしても、淫具をお尻に入れる前に、一時間も指でほぐした?
玲子は、そんなことはしてもらえなかった。
真夫に一時間も……。
本当に羨ましい……。
「おいしそうだね。じゃあ、玲子さんはテーブルの上に乗って」
プレイルームに到着すると、待っていた真夫が真っ白いテーブルクロスを敷いた卓を指さして、玲子に言った。
人ひとりが楽に寝ることのできる長方形のテーブルだ。
特に拘束をするものはない。
玲子は真夫が準備してくれていた椅子を使って、テーブルに乗った。
そして真夫の指示で両手を体側に添わせて、やや脚を開き気味にして仰向けに横になった。
「じゃあ、あさひ姉ちゃん、ワゴンの料理を玲子さんの身体に置いていってよ。玲子さんを皿だと思って、じかに盛りつけるんだよ」
真夫が笑った。
真夫はTシャツと短パンというラフな姿であるものの、この三人の中ではしっかりと服を着ている。
裸身の真夫も好きだが、玲子は服を着ている真夫の前で裸で辱められるという状況が実は好きだ。
相手がちゃんと服を着ているのに、こっちはまったくの全裸……。
それが、まさに「調教」という気持ちになるからだ。
これが、今日、恵の父親が恵に接触することを許してしまった玲子に対する真夫の懲罰だ。
つまり、「女体盛り」の「皿」になるということだ。
それにしても、これが本当に「懲罰」なのだろうか……。
玲子は疑問に思ってしまう。
玲子は、真夫や恵が食する食事の女体盛りにされると言われて、むしろ興奮している自分を発見していた。
これでは、むしろ懲罰を望むようになるのではないか……。
真夫が相手だと、どうしても自分の感情をコントロールできない玲子は、真剣にそれが心配になりそうだ。
「懲罰」と言われて、玲子の頭に浮かぶのは、学園に隣接する龍蔵の屋敷で惨めに股間に電撃を流されて七転八倒していたナスターシャの姿だ。
あれは、まさに一年前の玲子自身の姿であり、そして、それから一年間、ずっと続けられた秀也から懲罰を受ける玲子そのものだ。
そして、ふと思った。
そういえば、真夫は、一度もクリリングを操作するリモコンを玲子に対して使っていない……。
リモコンそのものは、真夫は大切に保管している気配であるが、振動や電撃で玲子の身体を操作しようという様子はない。
真夫が好色で、さらにSM趣味があり、だから、クリリングのような淫具で女を嗜虐することに興味がないわけでもないとは思うが、なにか理由があるのだろうか……。
機会があれば、訊ねてみたい……。
それに、真夫になら……。
「の、乗せますね……」
恵が声をかけたので、玲子は思念をやめた。
真夫と恵が二つのワゴンに準備した料理を次々に玲子の裸身に移し替えていく。
料理によっては、冷たかったり、あるいは、少々熱かったりする。
どうしても、身体を揺すりそうになり、玲子は懸命に身じろぎしないように我慢しなければならなかった。
「……お臍には刺身用の醤油をいれようか……。玲子さんはお臍もいい感じにへこんでいるから、十分に醤油が入ると思うよ……。それから……」
真夫が指図をして、あっという間に玲子の身体には、さまざまな料理でいっぱいになった。
「もう乗らないかな……。じゃあ、玲子さん、静かに脚を閉じてくれますか……。ただし、お股にこれを咥えてからね」
すると、真夫がくすくすと笑いながら、長さが十五センチほどの一本の太いソーセージを手に取った。さらに、そのソーセージの表面にたっぷりとマヨネーズをたっぷりと塗った。
「こんな料理を乗せられただけで済むとは思いませんでしたよね、玲子さん。さあ、これを股に入れて脚を閉じるんです。もちろん、ソーセージも後でみんなで食べるからね」
驚いたが、もちろん拒否することなどできないし、その気もない。
真夫はゆっくりとマヨネーズをまぶした太いソーセージを玲子の股間に埋めていく。
「ん……あっ……んは……」
玲子は身体を反らしたいのを我慢して、声だけで喘いだ。
太いソーセージがマヨネーズを潤滑油替わりにして、膣の奥に入って来る。
「……勝手に外に出したら駄目ですよ、玲子さん……。そうしたら、本当の罰だよ……」
真夫が小声で耳元でささやいた。
玲子はぐっと股間を締めつけて、脚を閉じた。
真夫は恵に指示して、閉じた玲子の股間にも料理を並べさせた。
料理を玲子さんの裸体に乗せ終わると、真夫は恵に両手を背中に回すように命令した。
恵は、気を抜けば、呆けてしまいそうになる気を引き締めて、言われたとおりにした。
背中でがちゃりと音がして、両手首に手錠がかけられたのがわかった。
それにしても……。
なんともいやらしいお尻の淫具だった。
今日の夕食前にホテルに戻って来て、真夫に挿入されたものだ。
決して太くはないし、蠕動運動も小さなものだったが、その代わりに、ずっとバイブは静かな振動を続けていて、休むことなく、恵のお尻の中で動き続けている。
それが恵を悩ましていた。
痛くはない……。
むしろ、気持ちいい……。
なにしろ、これを挿入する前に、真夫はかなり長い時間をかけて、潤滑油を塗った指で、恵のお尻の穴をほぐしていたし、それだけじゃなくて、いま動いている淫具の動きは、その前に真夫が延々と恵のお尻をほぐすためにしていた指の動きそのものなのだ。
おそらく、真夫は後で淫具を挿入するつもりで、その動きに慣れさせようと、同じ動きで恵のお尻をほぐしたのだと思うが、そのために、この淫具の動きは、まるで真夫が、相変わらず恵のお尻を弄ってくれているような錯覚をさせてしまうのだ。
だから、ともすれば、恵はアナルバイブに気を取られて、ぼうっとなってしまう。
「さあ、あさひ姉ちゃん、食事にしよう」
真夫が玲子さんが皿になっているテーブルの前に準備した椅子に腰かけ、さらに恵を自分の膝の上に招き寄せた。
「ああっ」
真夫が恵の胸に顔を埋めると、音が鳴るくらいに強く恵の胸を吸ってきた。
「あっ、ま、真夫ちゃん、か、感じちゃう……」
恵は喘ぎながら真夫の膝の上で顔をのけぞらせた。
そして真夫は、さらに恵がはかされている革の下着の股間の上に手を置き、革の内側を恵の股間に押しつけるようにぐいぐいと回してきた。
「あんっ」
革越しに与えられる刺激は大したものでないはずなのだが、真夫の愛撫だと思うと、もうそれだけで、あっという間に革の下着の中で恵の果肉が弾けて、自分でも恥ずかしいくらいに蜜が漏れ出る。
本当に真夫が相手だと、恵の身体は狂ったように反応してしまう……。
恵は真夫の膝の上でひたすらに悶え続けた。
しばらく、恵の口から甘い嬌声を引き出させてから、真夫は玲子さんの腹の上から刺身を摘まむと、臍の醤油だまりにつけてから、ぺろりと食べた。
「うん、おいしい……。玲子さんの汗がよく染みている。こっちはどうかな?」
真夫は今度は乳房あいだにあるステーキ肉を手で取り、玲子さんの乳首に擦りつけるようにした。
ステーキ用にソースを乳首にたっぷりとつけていて、そのソースを肉に移したのだ。
「んんっ」
玲子さんがくすぐったそうに身体を軽くひねった。
それで身体の端にあった食べ物が幾つか落ちた。
玲子さんは、真夫にたしなめられて、慌てたように身体を硬直させ直していた。
「あさひ姉ちゃんにもあげるね」
真夫は、ステーキをもうひと切れ摘まんで、ソースを乳首から取り、口に放り込んでから数回噛み、恵の口に唇を重ねてきた。
「んぐ」
口を開くと、真夫の唾液とともに、咀嚼された肉が恵の口に入って来る。
肉は美味しかった。
一流ホテルのルームサービス用の上等な肉であるということもあるが、なによりも、真夫の匂いのこもっているものだと思ったら、ぞくぞくするような快感を覚えた。
「さあ、今度は、玲子さんにも食べさせてあげて、あさひ姉ちゃん。俺たちばかり、食べてちゃあ可哀想だよ」
真夫が再び恵の口の中に咀嚼した肉を入れて来た。
恵はそれを二回くらい噛み、真夫の膝から下りて、玲子さんの顔に口を近づける。
「あ、ありがとう、恵さん……」
玲子さんも三人で口移しで食べ物を分け合うという状況にうっとりとなっているように見えた。
「今度はミネラルウォーターだ。今度はあさひ姉ちゃんが最初だよ」
真夫がミネラルウォーターの瓶を手に取り、恵の口に入れる。
恵は、それをまずは真夫に口移しで移動させ、真夫が玲子さんに移動させた。次には、真夫はそれを自分で飲み干し、今度は自らの口に入れたものを恵の口に注ぎ込む。
そうやって、皿になっている玲子さんも含んで、真夫と恵は飲み物と玲子さんの身体の上にある料理を三人で口移しで食べさせ合い続けた。
小一時間ほど、そうやっていたが、やがて、やっと玲子さんの身体の上のものが、ほとんどなくなった。
玲子さんの身体は、食べ散らかした食事の残りや、あるいは醤油やソースやマヨネーズなどで汚れた状態になっている。
「最後の片付けは、あさひ姉ちゃんにお願いするよ。残り物は俺が引き受けるから、ここまで運んできてよ。ソース類は舌で舐めあげてあげてよね」
真夫が言った。
両手を後手に拘束されている恵は、犬のように直接に口で食べ物を咥えると、数回咀嚼してから、それを真夫のもとに届けるということを繰り返した。
また、舌で玲子さんの肌の上に残ったものを舐めあげていく。
「あっ……いっ……く、くすぐったい……ああっ……」
しばらくすると玲子さんが身体を真っ赤にして身悶えをするようになった。
その鼻から出る甘い声は、玲子さんが恵の舌で快感の疼きを覚えている証拠に間違いない。
「……最後はとっておきのソーセージだね。じゃあ、脚を開いてください、玲子さん……。少しずつ出してね。俺も貰うよ」
真夫は立ちあがって、脚を開いた玲子さんの股間に横から顔を埋めるように近づけた。
「ああ、そ、そんなところ舐められたら、玲子はいってしまいます。だ、出します。出しますから、舐めないでください」
玲子さんは身体を硬直させるように伸ばして、狼狽えた声をあげた。
どうやら、真夫は舌を伸ばして、玲子さんの陰核をぺろぺろと舐めているようだ。
玲子さんの慌てぶりは、潮吹き体質であることからの焦りだろう。
その姿がいつもの凛々しい玲子さんとは違っていて、とても可愛いと恵は感じた。
そんな玲子さんのギャップが真夫が気に入っている面でもあるのだろうと思う。
実のところ、恵も、玲子の二面性はとても可愛いと思っている。
とにかく、玲子さんは、身悶えしながらも、膣の動きだけで、挿入されたソーセージを少しずつ出してみせた。
恵は密かに感嘆した。
そして、自分もいつか、あんな技ができるようになるのだろうかと思った。
「じゃあ、次はあたしです、玲子さん」
恵は真夫と交代すると、真夫の真似をして、ぺろぺろと玲子さんの陰核を舌で刺激する。
そのあいだも、恵のお尻では、真夫が操作している細いバイブがうねうねと動き続けている。
恵は自分の感じている淫情をぶつけるように、玲子さんの股間を念入りに舐める。
玲子さんが悲鳴をあげた。
恵だけではない。真夫も玲子さんの股間を舐めているのだ。
いま、恵と真夫はほどんど顔を密着させるように、左右からふたりで舌を恵の股間に這わせていた。
舌と舌がぶつかり、お互いに舌を舐め合いながら、さらに玲子さんの股間を舐めている状態だ。
玲子さんは狂乱している。
恵には、感じやすい玲子さんが、もう達しそうであることがわかる。
この数日、恵も玲子もお互いが絶頂する姿を何十回と見ている。
だから、わかる。
その玲子さんの股間から、うにうにとソーセージが出てきた。
恵はそのソーセージに口をつけた。
「ロシアンルーレットだね。どっちが食べているときに、玲子さんが潮を吹くかな」
真夫が笑って、舌を内腿に移動させて今度は擦るように舌を動かした。
あそこは玲子さんの隠れていた性感帯のひとつだ。
そこを局部とともに刺激されると、いつも玲子さんはあっという間に達してしまう。
恵は、玲子さんの潮吹きが顔にかかるのを予感しつつ、膣から出てくるソーセージを口に入れ続けた。
「ほら、ペースが落ちたぞ、雌犬」
正人がナスターシャの後ろから、その白い尻に向かって九尾鞭を放った。
「んぎゅう」
四つん這いの姿勢で動く床を走らされているナスターシャが悲鳴をあげた。
ただし、ナスターシャの口には穴の開いたボールギャグを嵌めている。だから、言葉は発することはできず、ただ声が迸っただけだ。
そのナスターシャの悲鳴とともに、たくさんの涎が小さな穴から飛び出し、糸を引いて床に垂れる。
秀也はその光景をテーブルに準備させた夕食をとりながら眺めていた。
ナスターシャへの「懲罰」は、食事の余興だ。
ナスターシャにやらせているのは、床の一部がルームランナーのように動くトレーニング設備の上で、四つん這いになって、ひたすらに進み、一定の場所を保持するという「拷問」だ。
時子による躾のあと、精根尽きたようになったナスターシャだったが、体力が回復すると、今度は秀也に悪態をつき始めた。
秀也のことをただの十八歳の少年だと思っているので、脅せば屈するとでも考えたのかもしれない。
時子と龍蔵がいなくなってから、これからは秀也がナスターシャの「調教係」だと伝えると、ナスターシャが、ものすごい剣幕で怒鳴り始めたのだ。
それは、日本語とフランス語の混じったものだったが、要するに、こんなことは許されるものではなく、ナスターシャをすぐに解放しなければ、日本の警察に秀也は逮捕されて、その人生は終わるだろうという内容だった。
秀也は、その返答として、小一時間ばかり、クリリングの電撃で痛めつけ、ナスターシャに逆らう気持ちを消滅させてから、学園内にあるこのトレーニングルームに連れ込んだ。
そして、ボールギャグを嵌め、手首と足首と首に特殊な器具を装着させて、動く床を四つん這いで走るように強要したのだ。
手首と足首に嵌めたのは、特殊なセンサーを内蔵した人間を「犬」にしてしまう器具であり、四つん這いの姿勢を崩すと首に嵌めた首輪に強い電撃が流れるようになっている。故意に外そうとしても同じだ。
それを装着されたナスターシャは、数回の電撃で四つん這いの姿勢を崩すことはできないのだと悟り、いまのように犬のように四肢で這う姿になった。
そして、この動く床だ。
それほどの速さではないが、動き続けて一定の場所を保たなければ、正人の構えている鞭がナスターシャに浴びせられる。
もう結構な時間になるので、ナスターシャは汗だくだし、かなり息も荒い。
「ほら、また下がったよ。もっと、前だ。前──」
正人の鞭がナスターシャの白い肌に飛んだ。
先端が九個に分かれている九尾の鞭は、一本鞭よりも傷はつきにくいが、正人には容赦なく叩けと指示しているので、ナスターシャの白い肌は、無数の蚯蚓腫れでいっぱいだ。
あの美貌で勝気のナスターシャの服の下に、消えることのない鞭痕をたくさん残す……。
それも面白いかもしれない。
秀也は料理を口にしながら思った。
そして、気まぐれにクリリングに「微弱」の振動を送り込んだ。
「んぐうっ」
ナスターシャの背中が一瞬のけぞり、すっと身体が後ろに下がった。
正人が激しく鞭を連発する。
ナスターシャは、奇声をあげて、懸命に前に戻った。
その慌てぶりに秀也は大笑いした。
それをしばらく続けさせる。
ちょうど食事も終わって、時間も三十分を越えると、目に見えてナスターシャの動きが鈍くなり、よたよたと、何度も躓くようになってきた。
「よし、休憩だ。十分後に再開だ。ナスターシャ、そのあいだに体力を戻しておけ」
秀也はそう言った。
正人が操作して、動いている床が止まる。
ナスターシャは、体力を使い尽したように、その場にへたり込んだ。
さすがに、悪態をつく気力もないようだ。
かなり、ナスターシャが屈しているというのは、手が自由でありながらも、ボールギャグをむしりとらないということでもわかる。
そして、もちろん、秀也はナスターシャに休息などさせるつもりなど微塵もない。
クリリングの振動を「弱」から「強」にした。
「んぎゃああ、ああああ」
ナスターシャがのたうち回り始める。
だが、四つん這いの恰好を崩せば、センサーが反応して首輪から電撃も走るので、よがるのも犬のように這いつくばったままだ。
なかなかに愉快な光景だ。
とにかく、クリリングで「強」の信号を送れば、そのあいだは、ナスターシャは短い時間で強制絶頂を繰り返す。ナスターシャの身体の反応を感知して、クリリングに内臓されているコンピュータチップがもっとも効果的な振動を与えるように制御するのだ。
クリリングの振動から逃れることは不可能だ。
おそらく、十分もあれば、少なくともナスターシャは五回は絶頂する。
それが終われば、また動く床で運動だ。
秀也は、生意気な奴婢をいたぶる快感に酔いしれる気持ちになった。
「……秀也様、あの小僧について提案があるのですが……」
秀也の前にあった食事の終わった食器を片付けながら正人が声をかけてきた。
「小僧」というのは、真夫のことに違いなかった。
なにか考えがあるようだ。
秀也は、話すように促した。
「……俺に考えがあります。必ず、すぐに学園から追い出してみせます。やらせてくれませんか?」
「真夫は伯父貴が目をかけている息子だぞ。下手なことをすると、そのとばっちりは俺になる。伯父貴はあの真夫に帝王学を施して、後継者にするつもりなんだ。真夫に手を出せば、伯父貴はそいつを許さんだろう。それは、俺も例外にはならん」
「わかっています。だから、あの小僧には、自分から学園を去るようにさせます。絶対に、こっちで裏で糸を引いたことは悟らせません」
正人はにやりと笑った。
「どうするのだ? あの小僧には、活性化してないとはいえ、操心術もある。昼間のことを覚えているだろう?」
恵の父親をけしかけたとき、恵の父親が急に恐怖を覚えて逃亡してしまったのは、間違いなく豊藤家の嫡男のみに伝わる強力な「操心術」だ。
真夫がしっかりと豊藤家の力を受け継ぐ存在であることには間違いないのだ。
「……あの小僧のウィークポイントは、あのとき一緒にいた娘です。それを攻めます。任せてください。真夫が学園に入ることが気に入らない者がいます。そいつを使います」
秀也には、その言葉で正人が誰を利用しようとしているのがわかった。
なるほど、真夫を気に食わない者か……。
実は、この学園内には、生徒たちによる派閥のようなグループが三つ存在していた。
それは、五人組と呼ばれる「当別待遇生徒」たちを頂点にしている三個の徒党だ。
この学園は、事実上の「階級」構成制度を敷いていた。
即ち、その最高位が、「特別待遇生徒」と称する五人の生徒だ。
次いで、学園に多額の寄付をしている名家の子弟の「A級生徒」となり、一般生徒は「B級」、最下層は特別生徒やA級生徒の従者生徒たちであり「C級生徒」となる。
この差は厳然としていて、はっきりとした待遇の違いがあり、与えられる調度品や生活用品、利用できる施設などまったく異なる。
しかも、特別待遇生徒の許可により、使用設備などを下級階級の生徒に一時的に使わせることもできる。一般生徒は、それを「恩恵」と表現しているようだ。
だから、特別待遇生徒の権限は強大だ。
そうしていると、生徒たちは、いつの間にか、特別待遇生徒を頂点とするそれぞれのグループを作ってしまったのだ。
特別待遇生徒の枠は五人だ。
五人のうち、ひとりは秀也であり、もうひとりが西園寺絹香という生徒会長の女子生徒だ。
秀也は一度も「恩恵」を与えたことはない。学園の授業や行事に加わることさえ珍しく、普通の生徒たちからすれば、ほとんど面識のない存在だと思う。従って、秀也を中心とした派閥は存在していない。
また、絹香については、生徒会長として一般生徒とは一線を布いた行動しかしていない。会長として必要な活動以外に「恩恵」を与えることもない。
だから、会長として慕われているわりには、絹香を中心とする人のまとまりはない。
従って、事実上の枠は残りの特別待遇生徒の三人であり、その三人の生徒がそれぞれのグループの頂点になっている。
しかし、玲子は真夫を特別待遇生徒にするために、そのうちのひとりを特別待遇生徒から「A級生徒」に落としたのだ。
その男子生徒が真夫に不当な恨みを抱いているというのは、耳にしていた。
あんな生徒間の派閥など、いずれ消してしまおうと思っていたが、残しておいてよかったと、いまは思っている。
正人の提案に従い、そいつをけしかけるというのは、悪いアイデアではない。
真夫がどう対処するかという愉しみもある。
「よかろう、やってみろ……」
秀也は正人に微笑みかけた。
正人は満足したように頭をさげ、食器を片付けるために離れた。
秀也は、ふと離れた床で悶え続けている白人の女に視線をやった。
どうやら、もう三回目の気をやったようだ。
「無様だな、ナスターシャ。まだ、大人ではない俺に嗜虐される気分はどうだ? まだまだ、終わらないぞ。お前が心の底から俺に屈服するまで、この懲罰は続く。俺に逆らう気持ちがあることが、お前には許されない罪なのだ」
秀也はナスターシャに言った。
すると、ナスターシャは、悶え狂いながらも、秀也にはっきりとした憎しみの視線を向けた。