※この作品はR-18です。

淫魔王のいる学園【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 29話 女狐と女狐

「冗談じゃありません。そんなこと承知できるわけがありません」

 

 目の前に座っている白岡かおりは、はっきりと言った。

 玲子は、この女生徒と一対一で面と向かうのは、これが初めてだ。

 これまでの調査で得た評判によれば、この白岡かおりは清楚で性格のいい少女であるということだったが、一方で玲子は調査の中で明らかになる彼女の別の一面に当惑していた。

 だが、これではっきりした。

 やはり、この白岡かおりという女子生徒は女狐だ。

 

 学園の理事長室に隣接する生活指導室である。

 学園内には、このような生活指導室が幾つかあるが、ここはそのひとつだ。

 いまは放課後であり、午後の授業を終えてA級生徒用の女子寮に戻る直前の白岡かおりを玲子は呼び出していた。

 そして、真夫に対する例の冤罪事件のことを突き付けるとともに、その当事者に対する懲罰として、C級生徒への格下げを通告したところだ。

 

 真夫が学園にやって来る日は、明日に迫っていた。

 これまで、かおりに対する直接の対話と通告を引き伸ばしていたのは、この白岡かおりに一筋縄ではいかない「女狐性」を感じたからだ。

 もっとも、それは、あの三人組に付け入られる程度の「狐」にすぎないが、それでも、罪のない少年を警察に突き出して、未だに平気で知らないふりをしている、小狡さとふてぶてしさもある。

 だから、すっかりと外堀も内堀も埋めるまで、このかおりは泳がせていたのだ。

 

 そして、話の当初で、あの三人組のことを持ちだしたときには、すすり泣きをして、白いハンカチでしきりに涙をぬぐう仕草までを示していたくせに、真夫を痴漢の冤罪に陥らせた責任を取り、特別待遇生徒としてやってくる真夫の「侍女生徒」をしろと告げると、途端に豹変した。

 

 これまで大人しく従順そうだった表情が、うって変わって怒ったものになったのだ。

 おそらく、この不貞腐れたような態度こそが、彼女の素なのだろう。

 玲子は、事前調査で感じた自分の勘が正しかったと思った。

 

 確かに、あの三人組に破廉恥な写真で脅され、酷い目に遭っていた点は気の毒とは思うが、元はといえば、このかおりの自業自得といえるところもある。

 

 玲子の調べによれば、あの三人組の評判の悪さは以前からのもので、遊び半分で女生徒を脅したのは初めてではない。

 だから、多くの生徒は彼らには危険なものを感じて接しないようにしていたのだが、この白岡かおりは、三人組のひとりの外見の顔のよさと、作り物の品に騙されて、自ら近づいたのだ。

 そして、最初は普通にひとりと性行為をし、そのときに写真を撮ることを承知して許し、その後、その写真を使って脅されて、ほかのふたりとも関係を持つことを強要されたのだ。

 つまり、かおりは、その程度の身持ちと頭の悪さということだ。

 

 玲子は、清楚で美しい少女が男子生徒の「いじめ」に遭って、性行為を強要された挙句に、かおりを助けようとした真夫を「仕方なく」冤罪に仕立てあげなければならなかったというのは、この事件の「真相」とはかなり異なっているということを改めて認識した。

 

「あなたの意見を求めてはいないわ。わたしは、理事長代理として、理事会の決定を伝えているだけよ。本日より、あなたは、坂本真夫という男子生徒の侍女生徒、すなわち、奴婢よ。真夫君は、明日の昼過ぎに、特別待遇生徒として特別寮に入って来るわ。それまでに、部屋の掃除を完璧に終わらせておきなさい。そして、これはC級生徒の制服よ。これが今日からのあなたの制服になるわ」

 

 玲子は横に置いていた紙袋から、灰色を基調としたC級生徒の制服と靴、さらに下着類の一式を机の上に放り投げた。

 

 この学園は、学園に対する寄付金の額や貢献度などを査定して、生徒を四段階に格付けしていた。

 マグダレナ学園は全寮制であるため、当たり前の修学施設のほか、生活棟や食堂、ジム、診療所、遊戯施設、各種売店などが広大な敷地内に完備している。

 だが、それらについては、生徒であれば、全員がどの施設でも使用していいということにはしておらず、生徒の実家が学園に支払っている寄付金の額などに応じて、使用できる施設などを区分している。

 

 その格付けの最高位が、最高級の寮施設とすべての学園施設の使用、そして、最高級の食事、文具、生活用品、衣類の提供、さらに必要により賓客並みのサービスを学園生活中に受けられるという特別待遇生徒、つまり、「S級生徒」だ。

 さらに、S級生徒には、生活の面倒を看るための「従者」や「侍女」の同居帯同を許可していた。

 この従者の衣食住についても、学園が保証している。

 

 ただし、これは五人に限定されていて、いかなる場合でも増員はない。

 特別寮が五人分の部屋しかないからだ。

 そのひとりが秀也であり、もうひとりは学園の生徒会長に無条件に与えられることになっているので、いまは西園寺絹香という女子生徒が双子の侍女生徒とともに使用している。

 残り三部屋は、これまで、加賀豊、金城幸太郎、竜崎康弘という男子生徒が使用していた。

 この三人とも、実家から多額の寄付金を学園で受けている。

 

 ただし、玲子は、坂本真夫を特別待遇生徒として受け入れるため、竜崎康弘という生徒をA級に落とした。

 当然のように、竜崎の実家から抗議の電話があったが、知ったことじゃない。

 玲子にとっては、真夫のことが絶対だ。

 竜崎家には、不満があるなら退学しろと一蹴すると、それで向こうは抗議を取りさげた。

 もっとも、竜崎康弘本人については、まだ不満があるようであり、ぐずぐずと文句を言っている気配ではあるが……。

 

 S級に次ぐ格付けは、「A級生徒」であり、一定の金額を学園に支払っている実家を持つ生徒たちだ。ほとんどが名家か資産家の子弟だ。

 この白岡かおりも、いままではA級生徒だった。

 A級生徒については、従者の同室は認めていないものの、特別な条件を満たせば、生徒従者の入寮も認めている。また、使用できる施設はS級と同じであり、いわば、S級とA級生徒がこの学園における「貴族身分」ということだ。

 

 生徒の格付けは、さらに、一般生徒の「B級生徒」、最下級がS級及びA級生徒の従者生徒の「C級生徒」となる。

 B級生徒は、A級以上に認められている施設については利用できないが、それに準じる施設があり、それらを自由に利用できる。

 ただし、C級生徒は、いかなる理由があろうとも、「主人生徒」と同伴でなければ、修学施設以外の学園施設は利用できないことになっている。

 なにしろ、従者ということで、従者生徒分の授業料等は受け取ってはいないことになっているのだ。

 金を払わないのに、学園施設を使わせるわけにはいかないという建前だ。 

 

 このように、学園としては、格付けに応じて利用できる施設が異なるので、それを管理するために、格付けごとに制服が異なっている。

 S級については、紺と紫と白を基調とした制服、A級については茶系統のブレザー、B級生徒は黒地に白の模様のある制服──。

 そして、C級は、いまかおりに渡した灰色の制服だ。

 

 この灰色の制服を着るというのは、かおりにとって大きな屈辱なのだろう。

 その顔が蒼白になり、身体が小刻みに震えている。

 

「早くしなさい。ここで着替えるのよ。A級生徒として支給したシャツも下着もすべて、ここで没収よ。身に着けていいものは、その制服の入った袋に全部入っているわ。靴もね。とりあえず、いま支給する下着は一組だけだから、着替えのために何枚必要なのかは、主人である真夫君に頼みなさい。今後の学園支給品は、すべて真夫君を通して支給するから、そのつもりでいて」

 

 玲子は言った。

 かおりには、この部屋で素っ裸になって着替えさせるつもりだ。

 もちろん、その姿は、この部屋のあちこちにある隠しカメラで克明に撮影する。

 床にも椅子にも、机にもカメラは仕掛けているので、かおりがどんな姿勢で着替えようとも、それこそ陰部まで撮影できるはずだ。

 真夫が学園にやって来るのは明日だが、今夜には真夫には、かおりの裸の写真を届けようと思っている。

 そのための処置でもある。

 

「わ、わたしは承服できません……。お、お断りします……」

 

 かおりが玲子をきっと睨んだ。

 手は震えているが、それは恐怖ではなく、怒りのようだ。

 かおりの顔には、玲子に対するはっきりとした憎しみの色がある。

 

「物分かりが悪いわねえ……。これは決定事項の伝達だと告げたはずよ。あなたに選択権はないわ。早く着替えなさい。わたしも忙しいのよ。とにかく、テーブルの上に身につけているものを載せなさい。そうすれば、このC級生徒用の制服を渡すわ」

 

 玲子は冷たく言って、一度、さっきの灰色の制服の包み一式を引きあげた。

 だが、かおりは動こうとはしなかった。

 そして、大きく息を吐いた。

 すると、また表情が一変した。

 今度は、顔に不敵な笑みを浮かべている。

 玲子は訝しんだ。

 

「そんなことしていいんですか、理事長代理……。理事長代理に就任したてで張り切るのはいいですけど、わたしは、これでも白岡家の娘なんですよ。わたしの実家にこのことが伝われば、大変な騒ぎになるんですからね。どうなっても知りませんよ」

 

 かおりは玲子を見て、にやりと微笑んだ。

 どうやら、これがかおりの切り札のつもりのようだ。

 確かに、白岡家といえば、日本全国に名が轟いている大手電機販売企業であり、かおりはその会長の孫娘だ。

 学園に納めている寄付金も半端じゃなく、その総額はS級生徒に匹敵する。

 かおりとしては、最終的にはそれを仄めかせば、なんとかなると考えているのだろう。

 

 もっとも、かおりは、この学園の創始者が豊藤龍蔵という豊藤財閥の総帥であることは知らない。もともと、この学園の運営資金は、龍蔵の老後の道楽として財閥から供出されており、生徒たちからの授業料や寮費、そして、寄付金などは本来は不要のものだ。

 

 実際のところ、白岡家にも、既にかおりをC級に降格させることを納得させており、寄付金も全額返金している。白岡家としても、豊藤財閥としての圧力を仄めかした玲子に対しては、それを承知せざる得ず、この小娘がなにを言おうとも、すでに決着はついている。

 

 ただ、玲子は、無実の少年を冤罪に落とした罪を自ら悔いる気持ちを抱いて欲しいからと説明して、実家からこの件でかおりになにかを言うことは制限していた。

 だから、かおりは、すでに玲子が実家と話がついていることは知らないのだろう。

 

 そのことを説明して、かおりを諦めさせてもいいが、玲子は別のやり方を使うことにした。

 玲子が出したのは、ハンドバックに入れていた大きな茶封筒だ。

 その中からあった二十枚ほどの写真を出し、テーブルの上にぶちまけた。

 出したのは、見るのも恥ずかしいかおりの様々な恥態の写真だ。あの三人組が持っていたデータを取りあげたものだ。

 

「あっ、いやああ」

 

 かおりの顔が真っ赤になり、慌てたようにテーブルに身体を伏せて写真を隠した。

 そして、その写真を懸命に集め始める。

 

「……全部、あなたにあげるわ。こっちには、データがあるから、いくらでも作れるし、他にも写真はあるしね。映像だって押さえているわ。あんたが犬の首輪をつけて片脚でおしっこしている映像だけどね。ほかにも、顔の映っていない男子生徒の股間を舐めて、Vサインしている映像もあったわね。あなたって、随分と恥ずかしい姿を男友達に撮影させる趣味があるのね」

 

 玲子はわざとらしく笑った。

 

「そ、それは……さ、さっきも言いましたが、わたしは脅迫されたんです。それで、あんな写真や映像を撮られたんです」

 

「だったら、わたしも脅迫するわ、早く制服を脱いで、C級生徒の制服に着替えなさい。さもなければ、写真と映像を全校にばらまくわ。一瞬にして、あなたはこの学校で知らぬ者のない有名人よ」

 

「そ、そんなの犯罪よ。許されることじゃないわ」

 

 かおりが怒鳴った。

 しかし、玲子はできるだけ冷淡に見えるように、肩を竦めた。

 

「わたしに言わせれば、罪のない男子生徒を冤罪にすることこそ、許されない罪よ」

 

 すると、かおりは、きっと玲子を睨んだ。

 

「……だって、あの坂本真夫って子、孤児院の出身じゃないですか……。そもそも、なんで、あの子が特別待遇生徒なんですか? おかしいでしょう。いくらなんでも、そんなのみんな認めませんよ。しかも、その侍女生徒なんて冗談じゃないです」

 

「あ、あなた、真夫さ……、いえ、真夫君が孤児院出身って知っていたのね」

 

 玲子は思わず声をあげた。

 

「もちろん、知ってましたよ……。それにわたしが逃げたから、警察には補導されてないこともわかってます……。そもそも、迷惑かけたっていっても、その孤児院出身の子が退学になったくらいじゃないですか。だったら、お父さんに頼んで、その子を就職させてあげます。孤児院出身の子なら、いくら学校を出ても、就職は大変なはずです。うちの企業の系列に入れるなら、あんな学校を卒業するよりましだと思います。実はすでにお父さんに頼んでもあります。慰謝料だって、わたしが二十万くらい払ってあげますよ。それでいいでしょう?」

 

 かおりは捲したてた。

 玲子は唖然とした。

 

 どうやら、この白岡かおりは、自分なりに、自分が冤罪にした真夫のことを調べていたようだ。

 そして、あるいは、流石にあの冤罪事件のことは気にして、かおりなりに償いのことを考えていたのかもしれない。

 それが、白鳥系列の企業に就職だの、慰謝料だのと、突然表明した内容なのだろう。

 

 その中身は、真夫をかなり馬鹿にしたものだが、玲子がなによりも気に入らないのは、その償いについても、かおりが真夫が孤児だと知って、すべて放置することに決めた気配のあることだ。

 かおりが、彼女の準備した「和解内容」を口にしたのは、真夫の奴碑になれと、玲子が言ってからのことだ。

 

 玲子はそのことで、かおりに対する同情的な気持ちが完全に消失してしまったのを感じた。

 

「……それに、本当にわたしをあの孤児の侍女にするなら、考えがありますからね……」

 

「考え?」

 

 玲子は眉をひそめた。

 かおりは、さらに不適な笑みを玲子に向けた。

 

「ええ、そうです。もしも、そんなことになれば、わたしは、新しい特別生徒が本当は孤児だと言い触らします。そうなれば、結局のところ、坂本という子は学園になんかいれなくなります」

 

 玲子は嘆息した。

 色々なことを考えて、次々に喋る娘だ。

 あの三人組は、よくも、このかおりを言いなりにできたものだ。

 

 もっとも、調べた限りに置いては、この白岡かおりは、自分よりも弱い格下相手にはどこまでも態度が大きい反面、強い相手には逆に逆らえなくなってしまうようだ。

 つまり、差別意識が強いのだ。

 そもそも、あの三人組のひとりは、白岡家以上に大きな財閥系の子弟だった。

 そうやって、かおりは、あの三人組に支配されてしまったのだろう。

 

「もういいわ。話し合いは終わりよ」

 

 玲子はスマホを操作すると、それを机の上に置いて、かおりに示した。

 スマホの画面には大きく数字が出て、百からのカウントダウンが始まっている。

 もう、九十だ。

 

「な、なんです、これ?」

 

 かおりが不審そうな声をあげた。

 

「この数字が零になれば、さっきのあんたの裸の写真のデータがネットに流出するわ。そのプログラムを作動させたわ。止めて欲しければ、零になる前に着ているものを全部脱いで机の上に置きなさい。下着も靴も、なにもかも全部よ。あんたは、もうそのA級生徒の制服や下着を身につける資格はないんだから」

 

「ひ、卑怯です、そんなの」

 

 かおりは顔色を変えて、悲鳴をあげた。

 

「あと七十ね。言っておくけど、そのスマホには触らないでね。下手なことをすれば、零になるまでもなく、さっきの写真があなたのプロフィール付きで流れてしまうわよ……。おや、もう六十よ」

 

 玲子は微笑んだ。

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