あさひ姉ちゃんと一緒にやって来たのは、ターミナル駅から三駅ほどの小さな駅だった。
駅そのものはホームを跨ぐ二階にあり、そこから東口と西口と書かれているどちらかの出口に階段で降りれるようになっている。
真夫は、あさひ姉ちゃんに言われて、改札口の前にある待合室の椅子に腰かけて待っていた。
陽は落ちて、夜になっている。
売店もなく、駅員は自動券売機の向こうにいるだけなので、周囲に人影はない。
すると、階段を駆けあがってくる足音がした。
真夫は立ちあがった。
「待った? ごめんね、真夫ちゃん」
どうやら走ってきたようだ。
真夫の前に立ったあさひ姉ちゃんは、少し息が切れていた。
駅から少しある大通りに面したコンビニで、あさひ姉ちゃんはバイトをしているらしい。
それで、今日はバイトに行けないと断りにいってきたのだ。
「どうだったの? 無理しなくてよかったのに」
「無理するわよ。真夫ちゃんが家に来るんだもの。大丈夫よ。掛け持ちしているバイトで急にシフトを代わって欲しいと頼まれたと言ってきたわ。ほらっ、あたしって、親がいない苦学生だから、たくさんバイトしているのを店長も知っているのよ。無理して働きすぎないようにって、同情してくれたわ。あたしの交代に来てくれる人も頼んだし、問題ないのよ」
あさひ姉ちゃんは、明るく笑った。
「でも、交代してくれる人に悪いかもね」
真夫はあさひ姉ちゃんの笑顔に釣られるように微笑んでしまった。
「それも大丈夫よ。いつも彼女が合コンとか、デートとかのたびに代わってあげているんだから。こういうときはふたつ返事よ」
あさひ姉ちゃんは言った。
「その人にも、バイトの掛け持ちって言ったの?」
なんとなく訊ねた。
「ううん。本当のこと言った」
すると、あさひ姉ちゃんは悪戯っぽく笑った。
「本当のこと?」
「うん……。好きな人が家にくるって……」
「えっ?」
真夫は思わず言葉に詰まった。
どきどきした。
「大丈夫よ。恋人とは言わなかったわ。あたしが好きな人って言ったのよ。それだったら、嘘じゃないでしょう。さあ、行きましょう。あたしのアパートは、反対側なの」
真夫は気の効いた言葉でも返さなければと思ったが、そのいとまもなく、あさひ姉ちゃんは歩き出していた。
「ところで、これ見て」
歩き始めるとすぐに、あさひ姉ちゃんは手に持っていたコンビニの袋を見せた。
中には弁当が二個入っている。
「ただよ、ただ。いつもこれで助かっているのよね」
「ただ?」
驚いて訊ねた。
すると、あさひ姉ちゃんは、ちょっとだけ立ち止まって、袋の中の弁当に貼られているシールを見せた。
賞味期限が今日の夕方で終わっている。
「コンビニでは、売れ残った弁当は捨てることになっているの。店員が持って帰るのも禁止。だけど、あたしが貧乏な孤児だと知っているから、店長とかが見て見ぬふりをしてくれるのよ」
なるほどと思った。
確かに、賞味期限切れの弁当を売るわけにはいかない。
売れ残りは捨てるしかないのだろう。
だが、時間が過ぎたからといって、すぐに弁当が悪くなるわけでもない。
それをもらってきたようだ。
「もっとも、こっちはちゃんとお金払ったわ」
あさひ姉ちゃんが見せたのは、もうひとつの小さな袋だ。
中はビールだ。
二本入っている。
「真夫ちゃんは、お酒は大丈夫よね?」
「まあ、少しはね」
真夫は苦笑した。
あさひ姉ちゃんは、真夫が未成年だということを忘れているのではないかと思った。
もっとも、真夫もビールくらいなら寮の仲間とこっそりと飲んだことがある。
「よかった。あたしも普段は飲まないんだけど、今夜はお祝いだから……」
「お祝い?」
「真夫ちゃんと再会したお祝い……」
あさひ姉ちゃんは、そう言って、嬉しそうにまた歩き始めた。
しばらく、小さな防犯灯に照らされるだけの暗い住宅街を進みながら、他愛のない会話をした。
語ったのは、施設を出てからのお互いの近況とかだ。
あさひ姉ちゃんも、頑張っているようだが、未成年でたったひとりで生きるというのは、やっぱりそれなりに苦労もあったらしい。
でも、あさひ姉ちゃんは、相変わらず明るくて陽気だった。
親がいないということで不公平を感じることも多いようだが、この人柄のおかげか、周りにはいろいろと助けてくれる人もいるみたいだ。
真夫は安心した。
「……ねえ、あさひ姉ちゃんは、恋人いないの?」
しばらくして、なんとなく訊ねた。
中学生のあさひ姉ちゃんもきれいだったが、いまのあさひ姉ちゃんは、その十倍もきれいだ。
こうやって話をしていてもすごく愉しい。
絶対にもてるだろうと思った。
実のところ、今夜泊まっていけという、あさひ姉ちゃんにどう接していいか迷っていた。
もちろん、真夫はあさひ姉ちゃんに対して、とても淫らな気持ちを抱いている。
こうやって、平静を装って歩いていても、考えているのは、中学生のあさひ姉ちゃんと愛し合ったときのことばかりだ。
アパートに泊めてくれるというのは、またあさひ姉ちゃんを抱いてもいいということだろうか……?
あのときもきれいだったけど、遥かにきれいになった大人のあさひ姉ちゃん……。
だけど、あれは子供の頃だけの悪戯のようなものであり、あさひ姉ちゃんは、いまさら、真夫のことなど、男として相手にはしてくれないのではないか。
それくらい、あさひ姉ちゃんは大人に見える。
逆にいえば、もう男としては見ていないので、気安く家に誘うんじゃないかだろうか……?
だいたい、いまのあさひ姉ちゃんに恋人がいないわけがない。
とにかく、あさひ姉ちゃんにとって、真夫はどういう存在なのだろう。
真夫は、ずっと当惑の気持ちのままでいたのだ。
「……男の人とつき合ったことはないわ……」
すると、あさひ姉ちゃんは急に真顔になって呟くように言った。
「そ、そうなの……?」
ちょっと、ほっとした。
「……うん……。男の人が怖いの……」
「えっ?」
思わず聞き返した。
男が怖い?
「……普通に話をするとか、近くに寄るのはなんともないの……。でも、手を繋ぐとか、肌と肌を接するとかはだめ……。全身が凍えるように寒くなって、どうしようもなく身体が震えてくる。全身が恐怖に包まれるのよ……。だから、演技をする……。あたしでないあたしになるのよ。一生懸命に喋って明るい女の子を演じるの……。そうすると喋れる……。でも、だめね。一対一で喋るなんて、いまでもだめ」
驚いた。
歩きながら横顔を見るが、冗談を口にしている雰囲気ではない。
「でも……」
真夫は首を傾げた。
真夫の知っているあさひ姉ちゃんは、男であろうと、女であろうと、いつも屈託なく明るく話す元気な女の子だった。
そもそも、真夫も男だ。
それにもかかわらず、男が怖いというのはどういう意味だろう。
「だめなの……。昔からそう。一度、診てもらったこともあるのよ……。男性恐怖症というんだって……。つまり男の人に接すると、心が小さい頃に受けたトラウマを呼び戻しちゃうんだって」
小さい頃に受けたトラウマ……?
それで、真夫はふと頭に浮かんだことがあった。
養護施設にやって来たばかりの頃、あさひ姉ちゃんのことを親から虐待を受けた子供だと養護施設の先生が言っていたのを……。
当時はわからなかったが、親からの虐待というのはなにも暴力とは限らない。
性的虐待……。
もしかしたら……。
そういえば、まだ施設にいた頃、一度だけ、あさひ姉ちゃんと親の話をしたことがある。
親がいて施設に預けられる子は、時折は親が面会にやって来る。
時には、限られた時間だけ一緒に外出したりもする。
親のいない真夫は当然として、親がいるはずのあさひ姉ちゃんにも親がやって来るということはなかった。
それで訊ねたのだ。
すると、当時のあさひ姉ちゃんは、母親はあさひ姉ちゃんが九歳のときに死んだと教えられた。
でも、お父さんのことを訊ねても喋らなかった。
だが、少なくとも、あさひ姉ちゃんのお父さんは生きていたはずだ。もしかしたら、いまでも生存しているかもしれない。
だけど、あさひ姉ちゃんの父親は一度も来なかった。
つまり、あさひ姉ちゃんのトラウマというのは……。
「施設にいたときもそうだったのよ。あたし、真夫ちゃん以外に、男の子とふたりきりになったことなかったでしょう?」
あさひ姉ちゃんは言った。
そう言われればそうかもしれないが、あさひ姉ちゃんの周りには、男の子でも女の子でも、いつもいっぱいいたから、男の子とふたりきりになるのを避けていたと言われても、よくわからない。
それに、腑に落ちないこともある。
真夫は男だ。
「秘密の行為」をしていたから、あさひ姉ちゃんとふたりきりなるのは、しょっちゅうだった。
ましてや、限られた期間とはいえ、真夫とあさひ姉ちゃんは、男と女になったのだ。
すると、真夫の疑問を悟ったのか、あさひ姉ちゃんが口を開いた。
「真夫ちゃんは別なのよ。なぜか平気。だから不思議なの……。だけど、ほかの人はだめ……。施設を出てからは、特にだめ。それを何度も思い知ったわ。多分、あたしは、真夫ちゃん以外の男の人とはだめだと思う……」
そのとき、あさひ姉ちゃんが開いている手で、すっと真夫の手を握ってきた。
「……やっぱり……」
あさひ姉ちゃんは、ほっとしたように笑った。
「やっぱり、真夫ちゃんだと大丈夫……。不思議な手……」
あさひ姉ちゃんの手はとても温かかった。
そして、薄っすらと汗をかいていた。
真夫はぎゅっとあさひ姉ちゃんの手を握った。
すると、あさひ姉ちゃんも握り返してくる。
しばらく、手を繋いだまま無言で歩いた。
「あっ」
しかし、あさひ姉ちゃんが突然になにかを思い出したように声をあげた。
「どうしたの、あさひ姉ちゃん?」
「買い忘れた。こっち側にはコンビニなんてないのに……。でも、いまさら駅に戻るなんて……」
「買い忘れたって、なにが?」
真夫はきょとんとした。
「な、なにって……。あれよ。あれ……」
すると、あさひ姉ちゃんが顔を赤らめたのが、夜目でもわかった。
「あれって?」
「ス、スキン……。真夫ちゃんは持ってないよねえ?」
あさひ姉ちゃんがちらりと見た。
「ああ、あれか……。ごめん、持ってない」
仕方なく言った。
この二年、女性と付き合ったことなどない。
避妊具など不要だったのだ。
だが、二年間、女と付き合っていないというと、あさひ姉ちゃんは、目を丸くした。
「うそうっ? 真夫ちゃんが二年間も我慢できるわけないじゃない。だって、あんなに……」
「俺を淫乱男みたいに言わないでよ。別に女をいつもいつも抱いてないと我慢できないわけじゃないよ」
「嘘、嘘──。真夫ちゃんはすごくエッチよ。あたしは知っているんだから」
あさひ姉ちゃんはからかうような口調で言った。
そして、けらけらと笑いだした。
真夫は苦笑した。
しばらく笑ってから、再び真顔になったあさひ姉ちゃんは、なにかを指で折って数え始めた。
「……多分、大丈夫かな……。いえ、大丈夫ね……。うん、大丈夫、大丈夫……。大丈夫よ」
よくわからないが、呪文のように大丈夫という言葉を繰り返している。
「大丈夫よ、真夫ちゃん。今日は大丈夫の日──」
そして、顔をあげて、勢いよく真夫に言った。
その表情がなんだか不思議に面白くて、真夫は噴き出してしまった。
あさひ姉ちゃんの顔が、我に返ったように真っ赤になった。
「ご、ごめん……。あたし、馬鹿みたいに興奮して……。あ、あたし、真夫ちゃんに会って嬉しくて……」
あさひ姉ちゃんは、恥ずかしそうにうつむいた。
真夫は、さっきまで、あさひ姉ちゃんのことを大人の女であり、真夫なんかが、手を出してはいけない人のように感じていたのだが、その感情がすっと小さくなるのがわかった。
そうすると、あさひ姉ちゃんのことが、とても可愛らしく思えてきた。
優しいあさひ姉ちゃん。
きれいで……。
可愛いくて……。
そして、ちょっと……いや、とてもエッチなあさひ姉ちゃん……。
ほっとした。
あさひ姉ちゃんは、真夫とエッチなことをしてくれるつもり満々だったのだ。
真夫があさひ姉ちゃんを犯したいと思ってしまうのと同様に、あさひ姉ちゃんも真夫を男として受け入れてくれる気があったのだ。
なんだか、急にむらむらとした気持ちになってきた。
真夫は握ったままだったあさひ姉ちゃんの手をまた少し強く握った。
すると、あさひ姉ちゃんの手がかっと熱くなった。
「……ねえ、真夫ちゃん……」
あさひ姉ちゃんが歩きながらぽつりと言った。
「なに?」
「あたし、本当はとてもエッチな女よ。知っているでしょう?」
あさひ姉ちゃんは小さな声で言った。
「うん、知っている。あさひ姉ちゃんも知っているよね? 俺もとてもエッチだって……。そして、変態だって……」
真夫は自分がおかしな性癖ということがもうわかっている。
相手の女を縛ったり、苛めたりすると、ものすごく興奮するのだ。
普通に抱くよりも、十倍くらい欲情する。
自分は変態だ。
「あ、あたしも変態……。本当はエッチなことが大好きな悪い子なの……」
「あさひ姉ちゃんは、悪い子じゃないよ。エッチだけどね」
真夫はくすくすと笑った。
すると、あさひ姉ちゃんも同じように笑った。
「……そうよ、あたしはエッチなの。でも、そんなことは誰も知らない……。あたしのこと、男を近づけない潔癖な女だとみんなは思っている……。でも、本当はエッチなこと好き……」
あさひ姉ちゃんは、不意に感極まったように立ちどまった。
真夫は、街頭と街頭のあいだくらいの少し薄暗いところで、あさひ姉ちゃんと向かい合うかたちになる。
「あさひ姉ちゃん?」
「でも、男の人は怖い……。怖いけど、エッチだけは好き……。ねえ、真夫ちゃん、お願い。あたしにエッチなことして……。真夫ちゃんと別れてから、あたし、おかしくなしそうだった。エッチなことばかり考えるの……。真夫ちゃんは、あたしのこと知っているから、真夫ちゃんだけ言うね……」
あさひ姉ちゃんがぐっと真夫に近づく。
ほとんど、真夫の耳に口を密着させる。
「えっ……」
「あたしって、いつもエッチなことしか考えていない。多分、淫乱なんだと思う。だけど、男の人は怖い……。とても、怖いの……。でも、真夫ちゃんだけは大丈夫……。この数年間、ずっとそれで悩んでた。あたしは、自分でも嫌になるくらいに淫乱なの」
あさひ姉ちゃんが心の中をさらけ出すように言った。
性欲は男だけのものであり、女にはない──などというのがくだらない戯言だということは、真夫は知っている。
男に性欲があるように、女にも性欲がある。
あさひ姉ちゃんが、ほかの女の人よりも、性欲が強いというのは、なんとなく感じている。
でも、あさひ姉ちゃんが、それを悩んでいたのだということは、初めて知った。
そして、あさひ姉ちゃんは、それを恥ずかしいと思っていたのだ。
だが、そんな恥ずかしい悩みを真夫に打ち明けてくれたことは嬉しかった。
だから、あさひ姉ちゃんだけに、恥ずかしい思いをさせてはいけない……。
そう思った。
「ねえ、あさひ姉ちゃん」
真夫はあさひ姉ちゃんから手を離して、身体を真っ直ぐに向けた。
「なに、真夫ちゃん?」
あさひ姉ちゃんがきょとんとした表情になる。
「俺、あさひ姉ちゃんとエッチがしたい。すごく変態なことがしたい。ねえ、いいでしょう。俺はあさひ姉ちゃんとしたい。あさひ姉ちゃんと変態なことをして、犯したい。ねえ、させて」
真夫は言った。
あさひ姉ちゃんはくすりと笑った。
「……ふふ、やっぱり真夫ちゃんね。とても勘が良くて、人の考えていることがわかって……。そして、優しいの……。ねえ、知ってる? 施設で真夫ちゃんのことが大好きだった女の子は、あたしだけじゃなかったんだよ。だけど、ほかの子には、取っちゃだめって言っていたの。だから、ほかの子は真夫ちゃんには近づけなかったのよ……」
「えっ?」
知らなかった。
真夫は、あさひ姉ちゃんとの「秘密の行為」のことは、誰にも喋らなかったので、あさひ姉ちゃんも、真夫との「関係」のことは内緒にしていると考えていた。
だが、そうでもなかったようだ。
「その代わり、あたしが施設を出るときには、真夫ちゃんのことが大好きな子に真夫ちゃんの相手をするように託したのよ……。真夫ちゃんって、不思議な能力があるよね。女の子をみんな好きにさせちゃう。そして、真夫ちゃんとのエッチはもっと不思議……。とても落ち着く……。あたし、セックスが怖かったの」
「怖い?」
「うん。矛盾しているようだけど、エッチで淫乱のくせに、セックスがとても怖いの。でも、真夫ちゃんとは自然にできた。とても気持ちよかった……。うん、あたしも真夫ちゃんとしたい。ねえ、あたしに変態なことやって」
あさひ姉ちゃんが言った。
そういえば、あさひ姉ちゃんが出ていく前の日に、真夫は明日から相手をしてくれる女の子だといって、次に最年長になる女の子を紹介してから去った。
それを機会に、なんとなく女の子に不自由のない日々が続いた。特定の子だけでなく、時にはほかの子を抱くこともあった。
男女の営みのことは、大抵のことは、施設ですごした時間で覚えた。
でも、やっぱり、あさひ姉ちゃんと愛し合ったときが一番どきどきした。
真夫は、あさひ姉ちゃんが持っていた弁当とビールの入った袋──。さらに、大学の講義のための勉強道具などが入った鞄をとりあげた。
「な、なに?」
「ねえ、SMしようよ」
「えっ?」
あさひ姉ちゃんが焦ったような、期待しているような複雑な表情をした。
「SMだよSM。一度でいいから、本気のSMしたかったんだ……。手を後ろで組んでよ。右手で左手首を握ってくれない」
真夫は言った。
あさひ姉ちゃんは困惑した顔になる。
「で、でも、ここで?」
あさひ姉ちゃんは、驚いているようだ。
周囲に歩いている人はいないとはいえ、ここは外だ。
しかも、あさひ姉ちゃんが暮らしている場所のすぐ近くのはずだ。
「そう、ここでだよ」
真夫はきっぱりと言った。
すると、あさひ姉ちゃんは周りをきょろきょと見回した。
そして、大きく息をしてから、ぺろりと口の周りを舌で舐めた。
「い、いいよ……。なんでもしていいよ……。その代わりに条件があるわ……」
「条件?」
「うん。さっきから使っている“あさひ姉ちゃん”という呼び方やめて……。“恵”って呼び捨てにして。呼び捨てで命令して……」
あさひ姉ちゃんの声は緊張でかすれていた。
「わかった……。恵、手を後ろに回せ。その手を見えない紐で縛る。もう、どんなことがあっても、恵の手は解けない」
あさひ姉ちゃんが甘い溜息を吐きながら、手を後ろに回した。
真夫は、持っていた荷を横に置くと、あさひ姉ちゃんのスカートの中にすっと両手を差し入れた。