かおりがテーブルの上にあった一枚の紙を真夫に突きつけてきた。
「な、なんだ?」
そのとき、真夫は思わず声をあげた。
かおりがかざした紙切れに対してではない。
そんなものはどうでもいいのだが、いきなり、強い突風にあおられたような衝撃を感じたのだ。
しかし、すぐにそれが錯覚だとわかった。
ここは部屋の中だ。
かすかな風の流れもありはしない。
感じたのは、かおりそのものだ……。
真夫の前に一枚の紙を突き付けてきたかおりから、不可思議な衝撃を感じた。
強い力……。
いや、虚勢……?
大きな自尊心……。
負けるものかという意地……。
それでいて、なにかにすがりたいという依存心……。
目の前にあるものに対する反感……。
大きな屈辱感……。
真夫たちに向けられる悪意……。
「な、なんだ、これ……?」
真夫は呆然と呟いた。
しかし、すぐに少し前にも同じことが起きたことを思い出した。
あれは、あさひ姉ちゃんのアパートに荷物を取りに来たときだった……。
突然にあさひ姉ちゃんのお父さんが出現して、真夫に金銭を要求したときのことだ……。
真夫は怒りのあまり、あさひ姉ちゃんのお父さんを殴りそうになったが、あさひ姉ちゃんのお父さんは、真夫がその怒りを表に出す前に、急に怯えて逃げていった。
そのことも不思議だったが、もっと不思議なことは、その後で起こった。
心を傷つけたあさひ姉ちゃんとアパートで抱き合っているときに、突如としてあさひ姉ちゃんの感情のようなものが、真夫に流れ込んできたのだ。
あのときと同じだ。
つまり、いま、真夫は、目の前の白岡かおりの心の感情に触れた……?
いや、まさに触れている……。
それがわかった。
真夫は唖然としていた。
「なによ、それ、あんた?」
あさひ姉ちゃんが怒ったような声をあげた。
おそらく、真夫の驚きの叫びと、その後の沈黙をかおりに対して絶句するほど怒っていると勘違いしたに違いない。
真夫は、あさひ姉ちゃんがかおりに当てようとしたペン型スタンガンを慌てて制した。
「真夫ちゃん?」
あさひ姉ちゃんが怪訝な表情になった。
しかし、真夫は、いまは、あさひ姉ちゃんよりも、かおりに注視している。
かおりから感じるのは、真夫やあさひ姉ちゃんに対する「壁」だ。
この壁を崩せば……。
あるいは、なにも暴力を使わずとも、目の前のかおりに、真夫のことを受け入れさせることができるのではないか……。
かおりを服従させることが、この学園の理事長である龍蔵という人の要求でも、必ずしも、暴力や脅迫を使うことは求められてないないはずだ。
ならば……。
「いいから、あさひ姉ちゃん……」
真夫はもう一度、あさひ姉ちゃんを制してから、とりあえず、かおりが差し出した紙を見た。
“物品要求書”──。
それには表題がそうあった。
紙には、物品のリストがあり、寸法や数量が羅列されている。
文房具の類いのものから、私服品。下着、制服の予備、細々な日用品の名があり、さらに生理用品までリストされている。
「これ、なに?」
真夫は言った。
「これに承諾のサインをして──。聞いているでしょう? 従者生徒の物品要求は、すべて主人生徒の承諾サインが必要なのよ。わたしをここに送り込んだ玲子は、あたしに下着さえも渡さなかったのよ。身につけるものも、この制服だけ。運動着さえないわ。さあ、あんたが、わたしの主人だというなら、サインしなさい。これは主人の義務よ」
かおりがまくしたてた。
声にはかなり激昂したような響きがあったが、真夫は、かおりが言葉ほど、心に真夫に対する反抗心を抱いていないことを悟った。
むしろ、かおりから流れてくるのは、大きな不安だ。
それが、かおりの大きな自尊心を通すことで、怒りのような表現に近くなっているようだ。
もっとも、それは、真夫に流れてくる心の感情の動きが、本当にかおりのものだとした場合の話だが……。
しかし、間違いない……。
真夫は確信した。
自分はかおりの心に触れている……。
「あ、あんた、自分の義務も果たさないで、要求だけはするの?」
あさひ姉ちゃんが怒鳴った。
そして、再びペン型スタンガンを握り直す。
かおりがそれに気がついて、あさひ姉ちゃんを負けじとばかりに睨んだ。
だが、面白いのは、かおりの心だ。
スタンガンを振りかざすあさひ姉ちゃんに対して、かおりは一片の恐怖も抱いていなかった。真夫には怯えや不安のようなものを抱くくせに、実際に暴力を使っているあさひ姉ちゃんには、怒りそのものしか抱いていない。
真夫は笑ってしまった。
「な、なに?」
「どうしたの、真夫ちゃん?」
にらみ合っていたあさひ姉ちゃんとかおりが、きょとんとした。
そうだろう。
なにしろ、これだけ険悪な状況の中で、不意に真夫が理由なく笑いだしたのだ。
ふたりが呆気にとられているのがわかる。
だが、ふたりの心の感情のようなものが、真夫に伝わって来る。
さっきよりも、はっきりとわかる……。
この状況に緊張しているのは、かおりだけではない。
あさひ姉ちゃんも同じだ。
ふたりの心からは、言い知れない不安が伝わって来る。
不思議だが、受け入れるしかない……。
真夫は、その気になれば、相手の心の動き、すなわち、感情の動きがわかるのだ……。
「これにサインをすればいいんだね?」
真夫はかおりから用紙をとりあげて、胸ポケットから電子ペンを抜いた。
玲子さんから与えられていたものであり、事前に使い方も教わっている。用紙の右上のサイン欄に電子ペンの先を触れさせて、登録している動きをする。実際に線が描かれるわけでないが、電子ペン側から小さな電子音が鳴った。
サインが用紙に埋め込まれてあるタグに登録されたのだ。
これで、サインは完了だ。
「さあ、これでいい、かおりちゃん? このサインがタップに入力されている用紙があれば、売店に入れるし、書かれている品物はすべて手に入る。代金は俺持ちでね……。そういう仕組みなんだろう?」
真夫は用紙を返した。
「か、かおり……“ちゃん”?」
だが、かおりは、真夫があっさりとサインしたことよりも、“ちゃん”付けで呼ばれたことに驚いたようだ。
あさひ姉ちゃんも、ちょっと当惑した表情になった。
しかし、真夫には確信するものがあった。
このかおりには、脅迫よりも、普通に語った方が案外抵抗なく、話を受け入れる感じがした。
怒鳴ったり、脅したりしたときに感じた大きな「壁」は、真夫が普通の口調になったときには、すっと低くなる感じがする。
思ったよりも素直な性質なのだと思った。
「ねえ、かおりちゃん、取り引きしないか?」
真夫はにっこりと笑った。
「取り引き?」
かおりから驚きの感情が流れてくる。
やはり、そうだ……。
このかおりは、やっぱり素直だ。
きちんと話せば、真夫の言葉を真っ向から拒みはしない。
そして、なぜ、自分がそれがわかるのかという疑念のようなものも、次第に薄らぐ気がした。
できるものはできる──。
真夫の頭は、それを受け入れかけている……。
しかも、それだけではない……。
真夫は、かおりの感情に触れるような気がした。
心に感じる相手の心の糸を解く……?
実際には、そんな感じだ。
複雑に絡んでいる糸を解き、真夫が望む感情の線を刺激して太くし、望まない感情は静かに抑えるようにする……。
真夫はやってみた。
呆気なく、実際にそれをやっている感覚が返ってくる。
心に触れる……。
そして、刺激し、あるいは、なだめる……。
それをする。
かおりの心を緩める……。
抵抗の心を削いでいく……。
真夫は、心の中でそれをしながら、一方でかおりに語りかけていく。
かおりは、口説くような物言いに弱い……。
なんとなく、それがわかってきた。
優しい物言いをしている限り、かおりの心の抵抗は最小限でしかない。
ただ、強い物言いをすれば、あっという間に、かおりは心の壁を作りあげてしまう。
面白い子だ……。
真夫は、かおりのことがわかるにつれ、だんだんと自分の頬が緩むのがわかった。
この子の心に触れるのは、決して強い態度に出ないこと……。
強い態度には無条件な壁を作る……。
だが、柔らかい接触には……。
「……取引きが不満なら、お願いという言葉に変えてもいい……。あんたは、俺の奴婢として、俺の調教を受け入れるんだ。面倒なやり取りはなしにしよう。どうして、そんなことをしなければならないかという質問もなしだ。調教を受け入れて、俺に身体を自由にさせることを承知してくれれば、俺ができることなら望むものをしてあげるよ。いまみたいに、物品要求書のようなものには無条件にサインする。A級生徒に復帰させる権限はないけど、俺に与えられるもので、事実上、それに匹敵する待遇を約束してもいい。俺を受け入れればだけどね」
真夫は言ってみた。
「は、はああっ?」
かおりが眉間に皺を寄せた。
当然だろう。
真夫が言ったのは、かおりを真夫が好きなように犯すことを承知しろということだ。そんなことを要求すれば、怒るのは当たり前のはずだ。
しかし、思ったよりも、「壁」が強くないことに、真夫は気がついた。
やはり……。
真夫が下手に出た態度をとることで、かおりの中に存在した「心の壁」のようなものが、すっと薄くなったのを感じた。
要求しているのが、かおりの身体を好きなように弄ばせろということに等しい内容にも関わらずである。
強い言葉や追い詰める態度をとらないこと……。
それさえ守っていれば、かおりは落ちる……。
真夫は思った。
真夫の要求など、この年代の女生徒には、受け入れることなどできないはずのないものだ。
なにしろ、かおりの身体を好きなようにさせろと言っているのだ。
だが、真夫が態度を改めたことだけで、かおりは内心の壁をむしろ低くした。
それは真夫には、とても意外だった。
最初にあさひ姉ちゃんが、スタンガンで痛めつけ、真夫が脅迫的な物言いで、かおりの破廉恥な写真をばら撒いた。
そのときには、かおりからは絶対的な反抗心しか感じなかったのに、いまは、むしろ、真夫の話を少なくとも聞いてみようというリラックスした心を感じる。
不思議だが、それが、このかおりの性質のひとつなのだろう。
かおりの心を探る……。
その理由もすぐにわかった。
かおりは、すでに真夫に性的なことを強要されることを覚悟しているようだ。
それは、すでに玲子さんが、かおりに引導を渡しているせいかもしれないし、しばらくのあいだ、三人の不良生徒に脅迫されて、凌辱されていたという事実があるからかもしれない。
いずれにしても、かおりは、すでに真夫に犯されるということは覚悟している気配だ。
なぜ……?
なぜ、かおりはすでに、真夫を受け入れてもいいと思っている?
真夫は再び、かおりの感情を深く探った。
大きさは小さいが強い感情……。
それが引っかかった……。
なに……?
まあ、とにかく、犯されることを覚悟しているのであれば、そっちの方向にゆっくりと押してやることだ。
それでかおりは屈服する……。
「……こう考えてもいいんじゃないかな、かおりちゃん……。かおりちゃんは、俺を受け入れず、あくまでも抵抗することもできる。そのときは、俺はかおりちゃんを痛めつけ、無理矢理に犯し、絶対に公開されたくないような映像や写真を撮るよ……」
「ど、どういう意味よ……?」
かおりが気丈に真夫を睨んだが、それは口先だけなのはわかった。
内心に明らかにたじろぎの感情が発生している。
信じられない気持ちだったが、確かに、かおりの感情を読むことができるのは間違いない。
ただ、考えていることがわかるわけではない。
感じるのはかおりの精神の揺れだ。
真夫は懸命にそれを手繰っている。
かおりの中に感じる真夫に対する好奇心、親しみ……。
そういうものを探していた。
そして……。
……見つけた。
それは大きなものでも太いものでもなかったが、確かに強く存在していた。
さっきから感じる「恐怖」の感情のようなものと複雑に絡んでいて判別しにくかったが、真夫に対するささやかな「同情」と「後悔」の感情のようなだった。
かおりの中に存在している真夫への「悔悟」の感情……。
それを刺激した。
「……どういう意味もないさ……。俺たちは、そこにある写真などとは、比べ物にならないような写真や映像を撮って、かおりちゃんを脅迫するだろう。残念ながら、かおりちゃんは、それをどこにも訴えることなどできない。誰かに相談しても無駄だ。そんなことをすれば、かおりちゃんは破滅するだろうけど、俺たちは大して失うものはない。なにしろ、知っている通り、俺たちは家族もいない孤児だしね」
「ひ、卑怯よ」
かおりが蒼くなった。
真夫はにやりと笑った。
かおりの中の精神の紐ががっしりと引っ掛かるのを感じたからだ。
そして、それは、かおりの中の恐怖心が拡大するにつれて、真夫に対するその「悔悟」の引っ掛かりも大きくなった。
「もちろん、卑怯だよ、かおりちゃん」
真夫はできるだけ穏やかな口調で言った。
「そ、そんな……」
かおりの口調が明らかに変化した。
一方で、隠れていたかなりの部分を表側に出すことに成功した。
真夫は、言葉を続けた。
「……喩え話だよ。そうするとは言っていない。あくまでも仮定のことさ。だけど、それは簡単なことなんだよ。試しに、部屋の外に出ようとしてごらん。すでに電子ロックがかかっていて、かおりちゃんには開けられなくなっているからね」
「わ、わたしになにかしたら、大声を出すわよ。わたしがなにもできないと思ってるんじゃないでしょうね──」
かおりが叫ぶように言った。
もう少し……。
掴んだ紐を手繰り寄せる……。
「いいよ。大声で悲鳴をあげるといい……。ここの部屋の物音は外には漏れない。漏れたところで、誰も助けに来ないことは保証する。かおりちゃんが拒否すれば、俺は無理矢理に、かおりちゃんを犯す。渡した書類は破って捨てるし、かおりちゃんは、もうこの部屋から出ることはできない。俺が卒業するまで、ここに閉じ込める。誰も文句は言わないはずさ」
「そ、そんなことできるわけないわ」
かおりは叫んだ。
だが、かおりの心にある恐怖心が際限なく拡大するのがわかった。
なぜかわからないが、かおりは真夫にはそれだけの力があると感じているようだ。
真夫の脅しとハッタリは、かおりにとっては、真実に近い重みがあるらしい。
玲子さんが事前にさんざんに脅しているはずなので、それも効いているのだと思う。
「……すでに詰んでいるということを教えているだけさ。俺はかおりちゃんの返事に関わらず、かおりちゃんを好きなように扱うことができる……。だけど、いまは、お願いをしている……。かおりちゃんが俺を受け入れれば、少なくとも、大切には扱う。欲しいものは与えるし、監禁のようなこともしない……」
真夫は言った。
かおりが怪訝な表情になった。
「……真夫ちゃん、こんな子に、お願いなんてしなくてもいいわよ──。わたしがやってあげる」
そのとき、あさひ姉ちゃんが怒ったように言った。
「大丈夫だよ、あさひ姉ちゃん。多分、かおりちゃんは説得に応じると思うよ……。かおりちゃんは、頭がいいんだ。真摯に説明すれば、きっと損になることじゃないことがわかるさ……」
口でなだめることを言いながら、真夫は、さっきから、かおりにやっていることと同じことをあさひ姉ちゃんにやってみた。
あさひ姉ちゃんの中に感じる精神の中で、激情的なものを選んで抑え込む。
すると、目の前のあさひ姉ちゃんが急に落ち着いた感じになり、表情を和らげた。
「……真夫ちゃんがそう言うんなら……」
あさひ姉ちゃんが、そう言って再び口をつぐんだ。
やはり真夫は、他人の感情を動かせる……。
真夫は驚いたが、それを確信した。
「……ねえ、かおりちゃん、頭のいいかおりちゃんなら理解するはずだよ。まずは、俺を受け入れてよ。逆らっても、かおりちゃんには拒む方法はない……。だが、受け入れるふりをすれば、俺は可能な限り親切にすると誓うよ。ふりをすればいいんだ……。心の中はどうでもいい……」
真夫はさらに受け入れやすい条件をつけた。
屈服するのではなく、屈服するふりをすればいいというのは、かおりの自尊心の辛うじて範囲内に収まってくれるかもしれない。
手応えのようなものを感じた。
一瞬だけだったが、かおりが心を緩めたのだ。
真夫はそれを見逃さなかった。
かおりの心に浮かんだものを引っ掛けて手繰り寄せる。
そして、完全に鷲掴みにした感触を得た。
かおりの顔に諦めのような色が浮かぶ。
「い、いいわ……。受け入れる。た、ただし、口先だけよ……。ふ、ふりだからね」
かおりは不貞腐れたように言った。
「なにを?」
「なにをって?」
真夫の質問に、かおりは怪訝な顔になった。
「なにを受け入れるのかを口にしてよ」
真夫は言った。
すると、かおりの顔が真っ赤になった。
感情の起伏は激しいんだな。
顔はおかしくなった。
だが、最初とは異なり、真夫はがっしりとかおりの精神の紐のようなものを握っている。
すぐに、感情を鎮めることに成功した。
「わ、わかっているでしょう──。わたしは受け入れると言ったのよ──」
かおりが怒ったように叫んだ。
「なにを受け入れるかを口にするんだ。それで言葉が心に刻まれる。そんなものなんだ」
どこかで聞いたセリフだと思ったが、すぐに真夫は自分自身の言葉だったということを思い出した。
よくわからないが、真夫はそれを確信していた。
口にすることで言葉が身体に刻まれて、その通りになる……。
そういうものなのだ……。
「だ、だから、あんたの調教を受け入れると言っているのよ──」
かおりがはっきりと言った。
真夫はにやりと笑った。
落ちた……。
真夫は立ちあがった。
「じゃあ、行こう」
「い、行くってどこに……?」
かおりの心に急に怯えが走るのがわかった。
「地下室だよ」
真夫は言った。
「地下室? この部屋には地下があるの?」
かおりは知らなかったようだ。
まあ、当然だろう。
真夫とあさひ姉ちゃんは、事前に玲子さんから知らされていたが、地下への入口は、完全な隠し扉になっている。
かおりにわかるわけがない。
「あるのさ。さあ……」
真夫は、さすがに不安そうな顔になったかおりの腕を引っ張って立たせて、壁の本棚に向かう。
「あさひ姉ちゃん、頼むよ」
真夫が言うと、あさひ姉ちゃんは、玲子さんの教えられていた本の操作をする。
すると、がらがらと本棚が左右に開いて、地下に下る階段が出現した。
かおりが目を丸くした。
「……ね、ねえ、なにかしたの? どうして、あいつは急に態度を改めたの……?」
地階に進む階段を降りながら、あさひ姉ちゃんがささやいてきた。
かおりについては、真夫たちよりも先に進ませて、その退路を真夫とあさひ姉ちゃんが阻むような態勢だ。
あさひ姉ちゃんには、かおりが急に真夫の調教を受け入れると口にしたことが、不思議でたまらないようだ。
「見ていた通りだよ……。ただ説得しただけさ」
真夫は言った。
感情を読み、それを操作したなどと説明しても、あさひ姉ちゃんが信じるわけないし、そもそも、真夫も信じられない。
だが、確かにそれをやった気がする。
ほとんど、意識してのことじゃなく、感情が突然に流れ込んできたので、試しに触れてみたら操作できたので、都合のいいように動かしてみた。
そんな感じだ。
とにかく、かおりは、真夫の調教を受け入れるということを口にして、いまこうやって地下に向かっている。
真夫自身ですら半信半疑だ。
「な、なによ、ここ──」
階段を降りて、かおりが扉を開くと、自動的に照明がついたのだが、そこに拡がった光景にかおりが驚愕している。
後ろからやって来た真夫とあさひ姉ちゃんも感嘆の声をあげた。
今朝までいたホテルの「特別調教室」を思わせる部屋だ。
天井には無数の鉄パイプと金具があり、そこから数十本の鎖やロープが床に垂れ下がっている。部屋の入口に向かって左右は鏡張りであり、その鏡の前には、十字架や三角木馬、ほかにも拷問具を思わせる責め具が所狭しと置かれている。
奥には棚もあり、たくさんのSM具が並べられているし、さらには、入り口の反対側には、一段高い場所に設置されて透明のガラス張りの壁に囲まれている透明の和式便所まで備えていた。
玲子さんが手配したものだろう。
真夫はほくそ笑んでしまった。
「す、すごい……」
あさひ姉ちゃんも目を丸くしている。
そして、部屋の中央には、玲子さんではなく、時子婆ちゃんに頼んでおいたものも置かれている。
二台の革張りの椅子だ。
椅子といっても、普通の椅子ではなく、足置きの台や肘掛けなどがあるものだ。それには、椅子本体だけでなく、足置きや肘掛けのいたるところに、電子ロック式の固定用の革ベルトがついている。
つまりは、調教椅子だ。
「こ、こんなの信じられない……。な、なんなのよ、この部屋……」
部屋の異様な光景に、かおりが制服の上から、自分の身体を抱き締めるようにしながら、後ずさりを始める。
「受け入れると約束したよね、かおりちゃん……。さあ、あの椅子に座ってくれる」
真夫はすかさず、あさひ姉ちゃんとともに背後を塞ぐ。
かおりは当惑したような表情になり、一度大きく嘆息した。
「わ、わかったわよ……」
諦めたように前に進んでいき、大人しく椅子に腰かける。
真夫は、あさひ姉ちゃんとともに、手首足首のみならず、膝、太腿、腰、肘、肩とどんどんと革ベルトで固定していく。
かおりがだんだんと恐怖心を拡大していくのがわかった。
「じゃあ、始めようかな」
真夫は椅子の側面にあったリモコンを取り外して手に取ると、かおりの座る椅子に向かってスイッチを押した。
操作方法には迷うことはなかった。
初めてでもわかるように、液晶画面に操作方法が表示されている。
「きゃっ」
モーター音がして、かおりの両足を固定している足置きが左右に割れて開き始めた。
「い、いやっ、ちょ、ちょっと待って、あんた……。ね、ねえ、待ってたら──」
かおりにはスカート越しではなく、直接にお尻が椅子の革に触れるように座れと命じていたので、短いスカートは、足置きが左右に分かれても、かおりの脚を大きく開かせる邪魔にはならない。
かおりは、内股に必死に力を込めて、開いていく脚を止めようとするような仕草をしたが、機械の力にかてるはずもなく、ゆっくりと脚は開いていった。
同時に背もたれも倒す。
かおりはまるで産婦人科の椅子に仰向けに腰かけているような恰好になる。はいていた短い制服のスカートは股間の付け根近くまでまくれ、下着を身に着けていないかおりの股間が露出しそうになってしまった。
「や、やっぱり、嫌よ──。は、離して、離してよ」
かおりが拘束された身体をばたつかせ始める。
しかし、こうなったら、かおりにはどうしようもない。
真夫は、あさひ姉ちゃんに振り返った。
「じゃあ、とりあえず、一度、絶頂させてみようか。棚の道具を使って、かおりちゃんをほぐしてあげてよ、あさひ姉ちゃん」
真夫はにやりと笑った。