「うっ……ふっ、うう……」
柔道部の倉庫でボールギャグ越しに女の呻き声が続いていた。
すごい汗だ。
皮膚注射による媚薬の影響が出ているのだとも思うが、あれだけの重しで引っ張られる脚を必死になって抵抗しているためでもあるだろう。
すでに、媚薬はすっかりと身体に溶け込んでしまって、力などほとんど出ないはずなのだが、大した気力だ。
もっとも、それも時間の問題だと思う。
さっきまで、地面にしっかりとついていた右足がほんのかすかに宙に浮いてる。
おそらく、頑張りもここまでだ。
このあとは、あっという間に脚が引っ張られて、足首が頭の上まで跳ねあがる。
そうなれば、当然、下着をはいていないミニスカートは股の付け根までまくれ、露わになった秘所を竜崎たちが、好きなだけなぶる態勢が整うということだ。
「竜崎さん、そろそろですよ。やっと脚が浮きましたから」
女の周りにたかっている竜崎の手下の生徒たちも揶揄の声をあげた。
確かに、女の太腿が激しく痙攣している。
無理もない。
右足首に繋がれた縄を天井の滑車を通してバーベルの重しで引っ張られているのだ。
しかも、あれだけの強力な媚薬を打たれている。
これまで頑張れたのが、奇跡のようなものだ。
竜崎がやらせたことであり、竜崎を目当てに近づいて来る女は、いつもこうやって仲間内で辱めて廻すのを習慣にしている。
輪姦したあとは、それなりの金を与えて追い払う。
大抵は、それで落ち着くのだが、それでも承知しなければ、竜崎家の権力を使って黙らせる。
竜崎たちが相手をするのは、この学園に通うような力を持っている実家の子女ではなく、その辺の普通の家庭の女子高生や女子中学生などだ。
竜崎家の息のかかっている者が脅せば、庶民など泣き寝入りするしかない。
「頑張るな、女。ここまで頑張ったのはお前が初めてだぜ」
竜崎はせせら笑った。
この女に恨みはないが、竜崎がS級から蹴り落とされるきっかけとなった坂本真夫とかいう小僧の恋人だったことが運の尽きだ。
しかも、真夫にしても、この女にしても、実家の後ろ盾どころか、身寄りもない孤児出身だという。
だったら、相当のことをしても問題はない。
かなりのいい女だから、一回きりというだけじゃなく、しばらく「便器」として飼ってやるのもいいかもしれねえ。
どうせ、あの真夫とかいう小僧には、なんにもできない。
絶対に、竜崎家の力には逆らえない。
泣き寝入りした挙句に、学園を出ていくしかないだろう。
まあ、ぜいぜい、一介の庶民がこの学園に入ろうとした愚かさを悔いるがいいのだ。
「んふうっ、ふううっ、ふううっ」
竜崎が女の前に行くと、すごい形相で女が睨んだ。
余程に気の強い女のようだ。
竜崎は嬉しくなった。
「ほら、もっと頑張れよ。恋人がいるのに、俺たちに犯されたくねえだろう? 脚がすっかりとあがったら、さっそく始めるからな」
竜崎は両手を吊りあげられて引きあがっている胸の膨らみを服越しにぐいと掴んだ。
「んぐうっ」
女の身体が弾かれたように動いた。
媚薬の影響なのだが、やった竜崎がたじろぐほどの感じようだ。
「んふうっ」
そのとき、ボールギャグの下から、女の泣くような声がした。
胸をいたぶられて、一瞬脱力してしまい、それで一気に右足があがったのだ。
「おっ?」
手下の生徒たちのひとりが嬉しそうな声をあげた。
「ぐううっ」
そのとき、女が吠えるような声を出した。
見ると、足首は膝から上にあがったものの、膝が降り曲がったところで女が辛うじて、それ以上脚があがるのを堪えている。
ここまで耐えた女も少なかったと思うが、途中で耐えたのは本当に最初だ。
竜崎は感嘆した。
そのとき、なにかが砕けるような音がしたと思った。
「ぷはあっ」
女がなにかを口から吐き出したと思った。
次の瞬間、眼に尖ったなにかの破片を吹きつけられた。
「いてえっ」
竜崎は思わず、眼を押さえて顔を屈める。
「あっ、竜崎さん」
「なにすんだ、女──?」
手下たちが一斉に声をあげた。
どうやら、目の前の女は、ボールギャグを噛み砕いてしまったようだ。
それを顔に吹き付けられたらしい。
「こなくそっ」
すると、衝撃が鼻で起こった。
「ぐあっ」
目の前で火花のようなものを感じて、そのままうずくまってしまった。
「こいつ、なんてことを」
手下のひとりが女を捕まえている。
竜崎の顔に女が思い切り頭突きをしたらしい。
「あ、あたしにこれ以上触ったら、ただで置かないよ、この卑怯者──」
女がすごい剣幕で怒鳴りあげた。
ボールギャグは、球体の部分が砕けて口から外れている。
竜崎は、呆然と女を見てしまった。
そして、かっと心が熱くなった。
「お、面白れえ。こんな女、初めてだぜ」
竜崎は言った。
怒りよりも興奮が上回っている。
「あ、ああっ、いやあ」
そのとき、女の悲鳴が部屋に轟いた。
右足が完全に上にあがり、頭の上まで引きあがったのだ。
スカートはまくれあがり、ほとんど股間が剥き出しになっている。
両手を吊られているので、女の身体は斜めに傾いた状態になっている。脚があがっている側からは、女の股が剥き出しだ。
「竜崎さん、さっそく犯しましょう」
手下の生徒が嬉しそうに言った。
竜崎もまた、その気になって、女に近づく。
最初は竜崎だ。
それは決まり事なので、手下たちが遠慮するように、女から離れる。
竜崎が、このまま女を片脚で立たせたまま犯すのが常であるのを知っているのだ。
巨漢の竜崎だからこそできることであり、それが終われば、改めて女を縛り直して、全員で犯すことになる。
「いやあっ……」
女が泣き叫んだ。
必死で、足をおろそうとしているようだが、一度上がり切った足首をもう一度さげる力は残っていないようだ。
とにかく、竜崎は嬉しくなった。
気の強い女が泣くのはいい。
竜崎は股間が硬く勃起するのが、はっきりとわかった。
そのとき、竜崎の心になにか引っ掛かるものを感じた。
引っ掛かるというよりは、不思議な啓示のようなものだ。
犯してはならない……。
辱めるだけで、最終的には犯さずに終わらす……。
不思議な声が頭の中でささやいた気がした。
「そ、そんな馬鹿な……」
竜崎はつぶやいた。
ここまで来て、女を犯さないなど……。
「どうしたんです、竜崎さん」
手下のひとりが、じっと止まってしまった竜崎に怪訝そうな声をかけてきた。
「な、なんでもねえ……」
竜崎は片脚を大きく上げたまま、どうしようもできない女の股間に手を伸ばした。
「んぐうっ、だ、だめえっ。ああっ、だ、誰か……、誰か助けて──」
竜崎の指が秘所に触れてびくりと反応するとともに、女が助けを求める悲鳴を絶叫した。
反応が激しいのは、媚薬を使っているからだ。
女の股間はまるで小便でも洩らしたかのように蜜で溢れていた。
「りゅ、竜崎さん、騒がれるとやばいですよ」
手下が慌てたように言った。
竜崎は、ポケットに入れていた女の下着を掴むと、嫌がる女の口をこじ開けて捩じり込んだ。改めて縄で口の上から縛り、口から布片が出ないようにする。
すると、媚薬の容赦のない効き目で顔を真っ赤にしている女が、ぼろぼろと涙をこぼしだした。
泣いている女を犯すのはいい。
竜崎は改めて、ズボンから怒張を出そうとした。
すでに臨戦態勢だ。
あとは、嵌めてよがらすだけだ。
しかし、またもや不可思議な感情に襲われた。
どうしても、直接に犯すのは躊躇った。
なぜ、そんな気持ちになるのかわからないが、そんな感情になるのだ。
竜崎は舌打ちした。
「……いや、もう少しいたぶってやる。お前ら、女を愛撫していかせ続けろ。媚薬で狂っているような身体だ。この気の強い女がすっかりと雌の顔になるまで嬲り尽せ。ただし、本番は駄目だ。それはもう少し後だ」
竜崎が告げると、手下たちが歓声をあげて女に群がる。
女は悲痛な悲鳴をあげた。
だが、身体のあちこちをまさぐられて、望まない快感に悶え始める。
これでいい……。
とにかく、犯さないわけじゃない。
後にするだけだ。
これなら、感情の矛盾に応じられる。
一方で竜崎は、この期に及んで、どうしても犯すことを躊躇う自分の気持ちに首を傾げていた。
「んふう、んんんっ」
そのとき、四人ほどの男に一斉に愛撫を受けている女が、口惜し涙を流しながら、さっそく最初の絶頂に身体を震わせた。
「とにかく、そこにいるんだ、かおりちゃん。命令だ。絶対に動くんじゃない」
真夫はスマホを通じて叫んだ。
胸騒ぎがした。
電話の向こうのかおりは、明らかに様子がおかしい。
自分は真夫を裏切ったと繰り返すが、なにをどうしたのかと訊ねても、同じ言葉を人形のように繰り返すだけだ。
とっさに頭にひらめいたのは、秀也のことだ。
まだ一度も会ったことはないが、玲子さんの調教係だったという男子生徒が、真夫と同じような能力を持っているという予感があった。
つまり、人の心を操る力だ。
少し以前の真夫なら、その可能性すら想像しなかったと思うが、数日前から真夫にも他人の感情を読む力と、それを動かす不思議な力が覚醒している……。
おそらく、秀也はそれを駆使するのではないかと思う。
そうすると、辻褄の合うことがあるのだ。
まずは、玲子さんが不思議なくらいに、秀也のことを真夫に教えないし、言及もしないのだ。
秀也という男子生徒に調教をされることを余儀なくされたことを口にしたくないという感情もあるのだとは思うが、学園の中で秀也という男子生徒は、異常な力を持っているのはなんとなくわかる。
それにも関わらず、秀也という生徒のことを真夫にまったく語らないのは不自然だ。
ほかのS級生徒のことは、ある程度の詳しいことを真夫に事前に説明したにも関わらずだ。
真夫にはそれは不自然な沈黙のように感じた。
不自然な沈黙はほかにもある。
昨日、S級用の寮でほかのS級生徒と会話をしたとき、彼らの誰もが、秀也のことについて、ぽっかりと記憶が抜けたようになっていた。
秀也のことが思い出せないということではない。
言われれば思い出すが、自分からは頭に思い浮かばないという様子のようだった。
特に、生徒会長の絹香にしてからも、同じ生徒会の副会長の秀也については、「そんな人もいたかもしれない」という態度だった。
会話の中で秀也とはどんな生徒なのかと、何度か訊ねたが、あそこにいた誰もが、特に印象はないと応じた。
あまりにも不自然な沈黙と忘却……。
真夫はなんらかの思考制限を彼らがされているという予感がしていた。
根拠も低く、荒唐無稽だとは思う。
だが、数日前から、その荒唐無稽な力がほかならぬ真夫にも備わりつつあるのだ。
真夫としては、自分にできることであれば、その秀也にもできないことはないと思うしかなかった。
そしてまた、真夫と同じような能力を秀也という見知らぬ生徒も駆使できるとすれば、それは偶然とも思わなかった。
いずれにしても、数日中に自分なりに調べてみよう……。
そう思っていた矢先の今回の事象だ。
かおりは、なんらかの操りをされている……。
真夫はとっさに思った。
「真夫様、どうかしましたか?」
玲子さんが怪訝そうに言った。
真夫はかおりの様子がおかしいと首を捻りながら言った。
玲子さんが真顔になった。
「玲子さん、監視システムを使わせてよ──。かおりちゃんがどこにいるかを見つけて」
真夫は言った。
その口調で、ただごとでないということを玲子さんも悟ったのだろう。
たったいままで、真夫の悪戯によがっていたとは思えないような引き締まった顔になるとともに、さっと素早く理事長室の奥の本棚の横の壁に走る。
「こっちに」
玲子さんが真夫を促した。
そのときには、なにもなかった壁に、さらに奥の部屋に進む入口ができていた。
「おお……」
真夫は思わず声をあげてしまった。
奥はちょっとした広めの空間だ。
部屋全体は薄暗くなっており、片側一面には十数個のモニターがあり、それらが大きなモニターを囲んでいる。
その反対側の一面の壁には、ロッカーのような大きさのコンピューターがびっしりと隙間なく並んでいた。
「お待ちください」
玲子さんはモニターに面する制御盤をすごい早業で動かしだす。
すぐに、中央のモニターに一個の映像が映った。
正門に近い学園の外郭部のようだ。
携帯電話を握りしめたかおりが、呆然と立っている。
その横には、一台の軽自動車があった。
「真夫様、あれは今日、恵さんにお貸しした学園の車です」
玲子さんが慌てたように言った。
真夫も見た。
そして、車両の中には誰もいないということを確認した。
あさひ姉ちゃんになにかが起きた……?
とっさに思った。
「玲子さん、あさひ姉ちゃんを探して──。もしかして、誰かに連れていかれたのかも」
「ま、まさか……」
玲子さんは驚いたように言ったが、すぐにシステムを動かし始める。
モニターには、学園内の監視カメラのあちこちの映像と思われる画面が、次々に入れ替わっては映り始める。
真夫は、まだ手に持っていたスマホを使って、こっちから、かおりに電話を掛ける。
「かおりちゃん、あさひ姉ちゃんはどうしたの? どうしたの?」
携帯に出た叫んだ。
かおりは泣いているようだ。
やはり、判然としない。
真夫を裏切ったのだと喋るだけだ。
「おかしいわ……。恵さんの居場所がわからない……。学園内にいる者は、このシステムですぐに居場所がわかるようになっているのに……」
玲子さんが焦ったように呟くのが聞こえた。
「どういうこと、玲子さん? そのシステムでは、本当は学園にいる者はすぐに居場所がわかるようになっているのに、いま、あさひ姉ちゃんがどこにいるのか、システムで捜せないということ?」
真夫が訊ねると、玲子さんはその通りだと言った。
実のところ、学園内に入っている者については、生徒や教師などに限らず、出入りの業者に至るまで、入門の際の指紋登録の際に、マイクロチップを皮膚の下にひそかに埋め込み、居場所だけでなく、身体の状態や行動内容などを追跡できるようになっているらしい。
もちろん、真夫もあさひ姉ちゃんも、一昨日学園にやって来たとき、登録完了していたとのことだ。
それにも関わらず、たったいま、あさひ姉ちゃんがどこにいるかを検索しようとしても、エラーが出るだけで、わからないという。
こんなことはあり得ないと玲子さんが途方に暮れた顔になった。
ほとんど存在を知られていないはずの学園の監視システムを誰かが不正操作した……?
考えられるのは、そういうことだろう。
ただの故障とは考えなかった。
真夫の勘だが、なにかの人為的なものを真夫は感じる。
そして、学園の監視システムを操作できる者となれば、おのずとその人物は特定できる……。
「玲子さん、もしかして、いま、この瞬間に起動していない監視カメラがあるんじゃない? なんらかの理由で動作が停止しているものが──」
真夫はふと閃いて言った。
あさひ姉ちゃんの居場所をシステムで検索できないように操作したとすれば、もしかしたら、あさひ姉ちゃんが連れていかれた場所も、監視カメラを切断するように制御しているのではないかと考えたのだ。
玲子さんが制御盤を叩き始める。
「あります。十数個の監視カメラが、理由なく動作停止をしています」
玲子さんが興奮したように叫んだ。
「地図に投影して」
真夫は声をあげた。
中央のモニターがどこかの映像画面から、学園の地図画面に切り替わる。
その地図上に赤い点が浮かんでいる。
それが、動作停止をしている隠しカメラなのだろう。
赤い点は、学園の一部の一角を囲むようになっていた。
真夫は、それがこの理事長室がある棟から、さほど離れていない場所だということがわかった。
「ここは、どこ?」
「柔道部の倉庫……だと思います」
柔道部……。
確か、真夫が入って来たことでS級生徒からA級に降格した男子生徒は、竜崎という柔道部の主将……。
「竜崎──。ねえ、竜崎という生徒の居場所は?」
真夫の言葉で玲子さんがシステムを動かす。
「その倉庫の中よ。ほかにも、五人の生徒がいます」
そのとき、突然に電話の着信を知らせる音が鳴り響いた。
真夫ではなく、玲子さんのものだった。
「秀也さん?」
玲子さんが驚愕した声を出した。
真夫は、それを無視して、監視システムのある隠し部屋を駆け出ていた。
秀也がなんの目的で玲子さんに電話をかけてきたのかわからない。
だが、まだ、真夫があさひ姉ちゃんの居場所を特定したことは知らないはずだ。
秀也の目的は不明だが、こっちが先手を打つのだ。
後ろで玲子さんが、慌てたように、真夫になにかを叫ぶのが聞こえたと思った。
しかし、そのときには、すでに真夫は理事長室から廊下に飛び出していた。