玲子は目を覚ました。
途端に全身の気怠さが襲いかかってきた。
はっとした。
ブラジャーとショーツだけの下着姿になっている。
身体の下に柔らかい絨毯を感じた。
そして、くすくすという笑い声がした。
「真夫様」
身体を起こす。
ここは、真夫たちの暮らす学園内の特別寮の一室だ。
どうやら、あまりの連続絶頂で、玲子はいつの間にか意識を飛ばしてしまったようである。
なにしろ、真夫はただ手を叩くだけで、玲子が絶頂に達するという暗示をかけ、手を叩き続けて玲子に連続絶頂をさせたのだ。
真夫にそんなことができるとは驚きだが、真夫はあの豊藤龍蔵の血が繋がっている息子である。
ならば、操心術を駆使する能力が備わっているということは、十分に予想していた。
龍蔵もまた、それを期待していた気配はある。
だが、玲子が見つけた真夫は、操心術の能力を持っている兆しさえなかった。
しかし、それがついに覚醒したようだ。
おそらく、恵が竜崎に襲われるという衝撃をきっかけにして、なにかが真夫に起こったのだと思うが、いまや、真夫が龍蔵や秀也と同じように、豊藤家の男のひとりとしての能力を使えるようになったのは間違いない事実だ。
そして、玲子はその洗礼を受けた。
その結果、玲子は激しい連続絶頂責めで失神してしまったようである。
いまだに身体は火照って熱いし、身体が脱力しているようになっているのはそのためだろう。
「随分、気持ちよさそうでしたね。ところで、決めたことをお話しします。俺はあさひ姉ちゃんと一緒に、この学園を出ていくことに決めました。玲子さんには、随分と世話をしてもらったのですが、やっぱり、俺たちのような出自の者が、こんな家柄の人ばかり集まる場所で生きるというのは無理があると思います。いままでお世話になりました」
ソファに座っていた真夫が床に座ったままの玲子に向かって、がばりと頭をさげた。
玲子は驚愕した。
「ど、どうして、そんなことになるんですか? ちょっと待ってください」
たったいままで、そんな話はしていなかった。
少なくとも、真夫がおかしな術を玲子に使い始める直前まではだ。
確かに、真夫は学園を出ていくことを口にしていはしたが、それは竜崎たちに暴力をふるって再起不能にしたことで、学園が真夫に懲罰を与えざるを得なくなった場合のことであり、それは玲子に解決可能なことだ。
しかし、いま突然に、真夫はやっぱり学園を去るという。
なぜ、そんなことを言い出したのかわからない。
そもそも、真夫が豊藤家の男の象徴である「操心術」を駆使することができるようになったということは、真夫はもう、孤児でもなんでもなく、それどころか、世界有数の豊藤財閥の後継者となるべき人間だということでもある。
出ていく必要などない。
「いえ、決めました。あさひ姉ちゃんも承知してくれましたからね。とめても無駄ですよ。暗示をかけました。玲子さんには俺たちが出ていくのをとめられません。それをしようとすると、身体が硬直して動けなくなり、舌さえも口に貼りついたように喋れなくなります」
そんな馬鹿な……。
真夫に抗議しようとして、はっとした。
本当に身体も硬直し、声が出なくなったのだ。
驚いてしまった。
操心術……。
確信した。
まさに、秀也や龍蔵が駆使するのと同じ力だ。
あるいは、この力を身につけたことがわかったからこそ、もはや、学園に頼らなくても生きていけると悟ったのかもしれない。
それとも、これもプレイ?
そう思わせるほどの唐突さだ。
いずれにしても、もはや、真夫が龍蔵の血を引いていることを告げることで解決することだ。
玲子は口を開こうとした。
だが、駄目だった。
真夫に操心術によって、引きとめるという行為の一切を禁止されているというのもあるが、もともと、玲子は龍蔵によって、真夫が龍蔵の血を引いていることを告げることをできなくされている。
その二重の縛りによって、玲子には真夫に真実を伝えることが不可能だった。
真夫がすっと立ちあがった。
奥の部屋から恵が出てきたのだ。
恵は大きな鞄二個に荷をまとめている。
本当に出ていくつもり……?
玲子は愕然とした。
「待って」
玲子は口を開いた。
真夫が一度恵に向けた視線を玲子に向け直した。
「とめても無駄だと言ったでしょう。俺もあさひ姉ちゃんも、もうあんな目に遇うのはご免なんです」
真夫は言った。
玲子は、そのときの真夫の顔から、これは本気の話なのだということを悟った。
理由はないが、突如としてそれがわかったのだ。
「とめません。でも、付いていきます。真夫様はまだ未成年です。恵さんだって大学生でしょう。ふたりで生きていくといっても不自由だと思います。その点、わたしは役に立ちます。連れていってください」
すらすらと言葉が出た。
真夫たちを引き留める言葉ではないからだろう。
ふたりが出ていくなら、玲子も出ていく。
それを決めた。
その決心をするのは簡単なことだった。
これが龍蔵の意に沿うことなのか、怒らせることなのかわからない。
だが、もはや玲子にとっては、真夫のことが最優先なのだ。
もう、真夫から離れて生きるつもりはない。
「まさか本気ではないですよね。嬉しいですけど、こんな大きな学園の理事長代理までやっている玲子さんが、それを捨てて、俺たちのような者と一緒に行くなんてあり得ないでしょう? これまで、玲子さんが俺によくしてくれたことは覚えています。でも、それは、地位や名誉までを捨ててまでということではなかったはずですよね?」
真夫が首を横に振った。
なんだか腹がたった。
そもそも、豊藤財閥の庇護を棒に振って、学園を出ていくにしても、恵は連れていくのに、玲子のことは最初から置いていくつもりなのだというのが腹立たしい。
それは、同じ施設で育った恵と真夫ほどの心の結びつきはないかもしれないけど、玲子はこの短い期間で、十分に真夫に心を通わせたつもりになっていた。
それなのに、端から玲子は、一緒には来ないと決めてかかっていることが不本意だ。
「地位も名誉もいくらでも捨ててみせます。どうか、一緒に……」
玲子は訴えた。
すると、真夫がにやりと笑った。
「じゃあ、玲子さんの覚悟を試していいですか? 本当に俺たちと一緒に来る気があるなら、別にもうこの学園で仕事ができなくなっても平気ですよね?」
真夫が言った。
玲子は戸惑ったが、真夫は玲子の返事を待たずに、恵に視線を向けた。
「……ちょっと、玲子さんと散歩をしてくるよ。待っててくれる、あさひ姉ちゃん」
真夫が言った。
「どうぞ……。だけど、やっぱり、玲子さんは、一緒に来てくれると言ったでしょう、真夫ちゃん」
恵が意味ありげに言う。
「そうだね。じゃあ、玲子さんの覚悟を見せてね」
真夫がなにかを持って、玲子にすっと近づいてきた。
それは、いつの間にか手にしていたプレイ用の首輪だ。
首輪には鎖がついている。
真夫はそれを玲子の首に嵌めて、がちゃりと鍵をした。
「ま、真夫様……。む、向こうには人が……」
思わず、玲子は言った。
恥ずかしさは尋常なものではない。
学園の中を走る道路である。
その歩道を玲子は、真夫とともに歩いていた。
ただし、下着姿だ。
しかも、四つん這いである。
「だったら、立ちあがって逃げればいいでしょう。それとも、大声で助けを呼んでもいいですよ。俺はなんの拘束もしていません。ただ、首輪に繋がった鎖を持っているだけです。それを振り切って逃げるなんて、造作もないはずです。ただし、逃げれば、それで終わりです。それだけのことです」
「い、意地悪を言わないでください……」
玲子は遠くに見える人影に怯える思いをしながら、真夫に鎖をひかれるまま、四つん這いで懸命に歩道を進んだ。
どうしてこうなったのか……。
玲子はいまだに夢うつつの気分であった。
竜崎との暴力事件を起こした真夫と会いに、真夫のいる特別寮に行き、そこで真夫に出ていくことに決めたと言われた。
真夫の決意は固く、玲子には翻意させることができないような気がした。
それならば、玲子も一緒に連れていけと申し出たのだ。
すると、真夫は玲子の心を試すのだと言って、下着姿で寮の外に連れ出し、四つん這いで着いて来るように命じたのである。
驚愕もしたし、恐怖も感じたが、真夫の言葉にはなぜか逆らうことができないものがあった。
真夫が言うには、本当に一緒にこの学園を去る気があるのであれば、学園の理事長代理などできないような破廉恥なことをしても、問題はないだろうというのだ。
嫌ならやめればいい。
そのときは、真夫は恵だけを連れて、そのまま逃避行をすると口にした。
玲子は覚悟を決めた。
だが、いざとなれば、その恐怖は並大抵のものではない。
数日前には、夜の街で真夫と「プレイ」をしたが、あれは暗闇の中だったし、見知らぬ者しかいない雑踏や電車の中だった。
しかし、いまは違う。
ここは、玲子が龍蔵から預かっている学園であり、自分でいうのもなんだが、美貌の理事長代理として、玲子は職員どころか、生徒たちにもかなり顔を知られている。
そこをこんな格好で進むのだ。
恥ずかしさで心臓が爆発しそうではあるが、逆らえば、玲子を捨てると告げられれば、逃げることは許されない。
真夫の命令は、どんな拘束具よりも、玲子の心を縛っている。
幸いだったのは、まだ陽の照りつける真っ昼間だが、まだ学園の生徒たちは午後の授業をしている時間だったことである。
特別寮のある場所は学生や職員の生活棟のある一画であり、この時間はほとんど人がいない。
だから、歩いてしばらくは、誰にもすれ違わなかった。
だが、真夫はどんどんと人のいる方向に向かっている。
商店や喫茶室などが入っている学園内のいくつかある厚生棟の方向に進んでいるのだ。
さすがに、そっちには人がいる。
「大丈夫ですよ。堂々としていれば、案外に大騒ぎにはならないものです」
真夫はあっけらかんと言った。
そして、ぐいぐいと首輪を引っ張る。
玲子は、もうなにも考えられずに、そのまま進んでいった。
やがて、周りが喧噪に包まれるようになった。
厚生棟に着いたのだ。
学生はいないが、外来者や学園内で働く雇用者、もちろん、厚生棟で働く職員がいる。
彼らが下着だけの半裸姿で、鎖に繋がれて四つん這いで歩いて来る玲子の姿に、奇異の視線を向けているのだ。
「ほらね。案外と騒ぎにならないでしょう?」
真夫は平気な顔をして、厚生棟の前までそのままやって来た。
そして、棟の中には入らなかったが、テラス式の喫茶店がある場所に向かう。
玲子はただひたすらに顔を伏せて、せめて玲子のことがわからないようにしようと思った。
だが一方で玲子は、もしも騒ぎになった場合のことを懸命に考えていた。
そのときは、玲子が矢面に立ち、真夫のことは守り切るつもりだ。
真夫に絶対に被害が被らないようにする。
そのためなら、玲子自身が破廉恥な色情狂呼ばわりされても構わない。
やがて、喫茶店に着いた。
真夫は室内側には入らずに、樹木の枝の下側になる外の席に着くと、玲子の首輪に繋がった鎖をテーブルの脚に結び付けた。
ここまで四つん這いで進ませられて、両腕と肩、そして両膝に疲労がたまっていた。玲子はその場に座り込んでしまった。
いつの間にか、玲子は自分が汗びっしょりになっていて、ぽたぽたと汗が地面に滴り落ちてもいた。
喫茶店には、ほとんど客はいなかったが、皆無というわけではなかった。もちろん、店員もいる。
また、玲子と真夫に驚愕して遠巻きに見物している者が出てきたことに、玲子は気がついていた。
「あ、あのう……」
そのとき、女の店員がやって来た。
テーブルの下の玲子の姿をちらりと見て、困惑顔を向けている。
彼女はテーブルに水をふたつ置いたものの、「いらっしゃいませ」とも言わずに、立ち竦んでいるような状態になった。
「アイスカフェオレをひとつ。それと小皿を持って来てくれますか」
真夫がまったく気にしていない口調で言った。
玲子はそのとき、カウンターにいる店長がどこかに連絡をしようとしていることに気がついた。
「り、理事長代理の工藤玲子です──。店長にどこにも連絡しないでと伝えて──。それと、この人の言うとおりに」
とっさに言った。
比較的大きな声をあげたので、店の中の店長の耳にも届いたと思う。
その代わり、周囲の圧倒的な注目を浴びてしまった。
玲子は羞恥でがくがくと身体が震えるのがわかった。
「さすがですね、玲子さん」
女の店員が逃げるように立ち去ると、真夫が玲子の頭をそっと撫ぜた。
真夫に褒められる……。
ただ、それだけのことが、こんなに嬉しくなるとは思わなかった。
玲子は羞恥の震えが、瞬時に喜悦の震えに変化するのを感じた。
だが、学園本部に通報されることを防いだ代償は大きかった。
一気に遠目に見ている者たちのざわめきが大きくなったのだ。
カメラ機能付きの携帯電話やスマートフォンが玲子と真夫の姿に集中するのもわかった。
しかし、真夫は素知らぬ顔だ。
「あ、あの……小皿です」
さっきの若い女店員がやってきた。
皿をテーブルの上に置いて、逃げるように立ち去っていく。
「ほら、水ですよ、玲子さん」
真夫がテーブルの下にしゃがみ込んでいる玲子の前に、その小皿を置く。
そして、水を注いだ。
さすがに躊躇した。
遠巻きとはいえ、いつの間にかかなりの者が玲子の姿に注目している。
さっき名乗ってしまったため、自分が理事長代理であることは、すでに周囲には知れ渡ってるであろうし、あるいは、店長以外にも誰かが学園本部に通報した可能性もある。
「あ、あの真夫様……。かなり注目されています……。だ、誰かが通報をしている可能性も……」
ここに学園の警備部がやって来る可能性を言及したつもりだ。
もはや、玲子はどうなってもいいが、このままでは真夫もただでは済まない。
そのとき、いきなり頭の上に圧力を感じて、顔が地面に押しつけられた。
真夫の靴に頭を踏んづけられたとわかったのは、悲鳴のような声があちこちから聞こえて来たときだ。
「そんなことをどうでもいいでしょう、玲子さん。俺は水を飲めと命じているんですよ。だったら、飲めばいいでしょう。玲子さんは俺のなんなんです。何者なんです、工藤玲子さん」
真夫が足をどけて言った。
玲子は思わず顔をあげた。
そこには、地面に這いつくばっている玲子を見下ろしている真夫の酷薄そうな顔があった。
「わ、わたしは……真夫様の奴婢です……」
そう言った。
その瞬間に、得体の知れない愉悦が身体に拡がった。
たったいままで存在した不安や心配……。
なにかに追い詰められるような恐怖心も消えた。
奴隷だ。
真夫の奴隷……。
奴婢……。
それだけの存在なのだ。
玲子は小皿に舌を伸ばした。
今度は躊躇いもない。
周囲からの視線のことも気にならなくなった。
奴婢……。
そうだ。
奴婢なのだ。
命じるままに「主人」に仕える奴婢……。
いつもは若い理事長代理として……。
その前は、世界的な大財閥の謎の支配者である豊藤龍蔵に仕える唯一の秘書として、常になにかと戦い、神経を使い、精神を疲労させて生きてきたが、いまは下着姿で犬のように振る舞う姿を晒されるただの奴婢だ。
そして、これからもずっと……。
「お、お待ちどうさまでした」
どうやら真夫の頼んだものが運ばれてきたようだ。
女店員に代わって、運んで来たのは男の店長だった。
だが、玲子にはどうでもいいことだった。
玲子は憑かれたように、一心不乱に舌だけで皿の水を舐め続けた。
「ところで、玲子さん、おしっこはいいんですか? さっき、利尿剤入りの水を飲んでから、かなり経っていますよね。トイレに行きたくないですか?」
しばらくしてから、真夫が言った。
玲子は顔をあげて、真夫を見る。
「い、行きたいです……」
小声で返す。
実は、寮のある建物を出る前に、大量の水を飲まされていた。
それに利尿剤が入っていたということは、たったいま知ったが、この喫茶店にやって来る頃に込みあがった、猛烈で急激な尿意は、確かに利尿剤によるものとしか思えない。
「そうですか。だったら。カフェオレを飲み終えるまで待ってください。そうしたら、トイレに連れていきます。それまで我慢するんです。玲子さんは、俺の飼う奴婢……。今日は犬です。犬にはトイレに自由に行く権利などないんです。それを味わってください」
真夫は言った。
「は、はい……」
そう言うしかなかった。
自分はトイレに行く自由もない奴隷……。
真夫の飼う犬……。
さっき感じた得体の知れない愉悦が、再び込みあがってきた。
しかも、一段と激しく、身体に突きあげてくる。
そして、はっとした。
玲子は、無意識のうちに太腿を淫らにすり寄せて、腰をもじもじと動かしていたのだ。
しかも、下着の中の股間は、触らなくてもわかるくらいにびっしょり濡れている。
だが、時間が経つにつれて、その愉悦も激しい尿意に置き換わっていく。
やがて、尿意はいよいよ切羽詰まったものになってきた。
「あ、あの、真夫様……」
玲子は小さな声で訴えた。
もはや、尿意が限界に達している。
「まだ、半分も飲んでいません。声をかけないでください。飲み終われば、寮に戻ります。そうすれば、トイレでさせてあげます」
真夫は玲子を見ることなく言った。
それは絶望的な宣告だった。
もう一分だって我慢できない。
いや、数秒しか……。
それが、このまま待たされて、しかも、寮まで戻るまでトイレはないという……。
そんなに我慢するなど不可能だ。
「で、でも」
玲子はさらに訴えた。
「仕方ないですね。じゃあ戻りましょうか。帰りは、立って歩いていいですよ」
突然にぐいと鎖が引かれた。
真夫が立ちあがって、玲子の首輪の鎖を引っ張ったのだ。
「あうっ」
慌てて立ちあがったものの、よろけてしまった。
その刹那、ほんの一瞬緩んだ股間から、尿意が崩壊した。
「あ、ああっ」
漏れ出した尿は、もはや自分の意思ではどうすることもできなかった。
堰を切ったような激しい奔流となって、両脚のあいだの地面に降り注ぐ。
周囲から大きなどよめきが起きた。
玲子はなにも考えることができずに、両手で顔を覆った。
「玲子さん」
その手首が強い力で握られた。
真夫だ。
唇が塞がれる。
真夫が玲子にキスをしてきたのだ。
しかし、いまだに玲子の放尿は続いている。
自分の尿が真夫の脚を汚すことに躊躇い、玲子は離れようとしたが、真夫の力は強くて離れられなかった。
それに、これだけの辱めを受けながらも、真夫に口づけをされたことで、玲子は途方もない愉悦に見舞われてしまい、まるで桃源郷にでも誘われたような、うっとりとした心地になっていった。
もうどうでもいい……。
なにもかも、どうでもいい……。
真夫に辱められ、いじめられ、そして、愛される悦びさえあれば、もうなにも必要ない……。
真夫……。
玲子のご主人様……。
周囲にある一切のものが、玲子の心の中にあったもやもやとしたものとともに消滅していく。
玲子は真夫の奴婢……。
いまこそ、わかった。
それだけが、確かなものであり、ほかにはなにも必要ない。
そして、はっとした。
周囲が変わっていたのだ。
気がつくと、部屋の中にいる。
どうやら、特別寮の真夫の部屋のようだ。
玲子はその部屋の中で、下着姿のまま真夫に口づけをされていた。
脚のあいだからは、おびただしい放尿が流れ続けている。
「派手なおもらしですね、玲子さん……。ありがとうございます。玲子さんの心にあった封印を解くために、幻想をみてもらいました。偽物の出来事とはいえ、玲子さんがすべてを捨てて、俺に着いて来る選択をしてくれたのは嬉しかったです。ありがとうございます」
真夫が玲子から口を離して言った。
玲子は呆気にとられた。
幻想……。?
操心術だったのか……?
秀也から、幾度となく幻を見させられて「調教」されたから、操心術を解かれれば、あれが作り物の出来事だったということはわかる。
どうやら、真夫はやはり、あの秀也の操心術と遜色のない力を駆使することができるようになったのだ。
やっとおしっこが止まった。
部屋の中も、玲子も真夫も放尿でびしょびしょだ。
だが、真夫は気にする様子もなく、にこにこして玲子を抱き締めたままだ。
また、玲子もまた、憑き物が落ちたようなすっきりとした気分になっていた。
「幻想をかけているあいだに、玲子さんのかかっていた操心術の暗示は解かせてもらいました。気分はいかがですか? いま、玲子さんからは、いかなる暗示も消滅しているはずです」
真夫がそう言ったが、なにかが変化しているという感じはない。
それよりも、おしっこまみれで真夫に抱き締められているという気恥ずかしさでいっぱいだ。
そして、どきどきしていた。
なぜだかわからないが、この少年が途方もなく頼もしく感じる。
いや、本当に頼もしい……。
そのとき、玲子は、真夫に伝えるべきことを思い出した。
いまこそ、教えるべきだろう。
「真夫様、聞いてください──。真夫様は、実は豊藤グループの総帥、増応院様こと、豊藤龍蔵様の本当のお子様です。豊藤グループの後継者たるべきお方なのです」
玲子は声をあげた。
真夫が大きく目を見開いた。