「さすがに、君だな、
工藤玲子は、報告書を読み終えた「魔王」が満足気に微笑んだのを確認して、安堵の気持ちが全身に拡がるのを感じた。
「主」に仕事を評価してもらえた。
その悦びは、性感の刺激によるエクスタシーにも似ている。
無論、セックスにより得られる絶頂ほどの衝撃はないが、それでも褒められるだけで、軽い酔いのようなものは感じる。
玲子は、スーツのミニスカートの内側に嵌められている革の下着に包まれた股間からじわりと樹液が滲むのがわかった。
「恐れ入ります」
玲子は頭をさげた。
聖マグダレナ学園の理事長室である。
玲子は学園の顧問弁護士という肩書であり、いまここで、「魔王」こと、学園の理事長に対して、一週間前に命じられた「ある調査」について報告をしているところだ。
時刻は、すでに夜の十時を過ぎている。
寄宿舎制のこの学園では、夜でも人がいなくなるということはないが、さすがにこの時間はほとんどが寄宿舎側にいて、こっちの校舎側にはいない。
それに、今日は金曜日であり、職員も生徒も学園を離れている者が多い。
おそらく、いま校舎に残っているのは、理事長と玲子のふたりきりだろう。
「う、うあっ」
次の瞬間、玲子は股間を両手で押さえて、がくりと膝を折りかけた。
玲子のクリトリスには、超精密機器を埋め込んだ特殊なリングが根元に食い込まされている。
玲子に対する「調教」の一環なのだが、それは「理事長」の手元にある機器で自在に振動をさせることができる。
それがいきなり強い振動で動き出したのだ。
ふと見ると、操作具を理事長が握っている。
玲子の股間の「クリリング」を理事長が作動させたようだ。
「あはあ、あっ、はあっ」
玲子は声をあげて、太腿をすり寄せたまま、手を股間にあてがうようにしゃがみ込みそうになった。
だが、それは禁止されていた。
もしも、勝手に座り込めば、破廉恥な罰が待っているだろう。
これまでの「調教」で受けた数々の仕打ちを思い出して、玲子は歯を喰い縛って耐えようとした。
満員電車の中……。
大勢の人間が歩いている白昼の歩行者天国の真ん中……。
あるいは、打ち合わせの最中……。
衆人の視線のある場所で、何度も気をやらされる屈辱と羞恥は、いくらやらされても慣れるということはない。
玲子は懸命に脚を踏ん張った。
この男に捕らわれてから、ありとあらゆる「調教」を受けたが、このリングの調教が玲子の最後の抵抗心を砕いたと言っていい。
このリングは、手術により皮膚の内側に埋め込まれて一体化され、外れないようにされているだけでなく、特殊な周波数帯の電波を使用することにより、玲子がどこで、なにをしていようとも、この男の好きなときに、好きなように振動を与えることができるのだ。
電流さえも、遠隔操作で流せる。
これで四六時中、苛まれることによって、玲子は完全にこの男の与える肉欲の調教に屈した。
いまは、逆らう気にもなれない。
司法試験に大学の在学中に合格したほどの若い優秀な女弁護士の玲子だったが、もはや、すっかりと「洗脳」されて、目の前の男の奴隷だ。
高い自尊心も有能な弁護士としての誇りも完全に砕かれた。
いまの玲子は、この男に与えられる調教に悦びを覚える破廉恥な雌犬でしかない。
「いい仕事をしてくれたご褒美だ。気をやらせてやる。ただし、学園の顧問弁護士らしく、身体を真っ直ぐにしろ。行儀よく直立不動のまま達してみせろ」
理事長が笑った。
「は、はいっ……あっ……ああっ……あっ、あううっ……」
玲子は身体を起こそうとした。
しかし、脳天まで突き抜ける衝撃に、なかなか腰を真っ直ぐにできない。
「だ、だめええっ」
そして、激しい衝撃が襲い、玲子は耐えられずに、ついに膝を落としてしまった。
慌てて立とうとするが、脚にまったく力が入らない。
目の前の机の向こう側の理事長が、にやにやといやらしく笑っているのがわかる。
だが、我慢できない。
「あはああっ」
玲子は跪いたまま、身体を弓なりにして、ぶるぶると身体を震わせた。
革の下着に包まれた股間からどっと潮が吹き出るのがわかる。
ふと見ると、密着した革の下着でも阻めなかった蜜液がスーツの股間に大きな染みを作っている。
振動がとまった。
玲子はがっくりと脱力した。
「すっかりと気をやるたびに潮を噴く体質になったな、玲子……。帰りはシャワーを浴びた方がいいだろうね。新しいスーツ代を今回の報酬に足しておくよ」
理事長が笑いながら言った。
ほっとした。
許可なく座り込んだことへの「お咎め」は、勘弁してくれるようだ。
「あ、ありがとうございます」
玲子は言った。
股間に嵌まっている「クリリング」だけでなく、この革の下着も、玲子を管理している「調教手段」のひとつだ。
この革の下着は、縁の部分に金属のワイヤーが組み込んであり、指を差し入れたりすることもできない。
また、腰の部分の留め具が電子ロックされていて、解除信号を送ってもらわなければ脱げないのだ。
無論、その解除信号も、理事長が手にしている操作具でしか送れない仕掛けである。
クリリングと同様にロックも遠隔操作可能だ。
しかも、この革の下着は外部からの直接の刺激は、ほとんど内部には伝えない材質になっている。
だから、焦らし責めにも、悶え耐える以外のことはできない。
つまりは、玲子は、排便も排尿も快感も、すべてを理事長に下半身を完全に支配されてしまっているということだ。
いま、理事長がシャワーを浴びていいと言ったのは、その間、下着を外してもらえるということを意味する。
だから、お礼を言ったのだ。
もっとも、それが終われば、再び、玲子の股間は「封印」される。
逃亡の試みは無意味だ。
下着の封印を免れたところで、玲子の股間には、あの忌々しい「クリリング」がある。
遠くに逃げても、クリリングを振動させられて、絶頂地獄が待っているに過ぎない。
警察に訴えることもできない。
なにしろ、この男の持っている影響力と財力は、国家権力くらい簡単に動かせる。
それは、顧問弁護士である玲子が、誰よりも知っている。
私立学園の理事長など、途方もない財力を持っているこの男の道楽のようなものだ。
もっとも、それほどの人物でありながら、この男は絶対に表に出ることはない。注意深く正体を隠して、影の人物であり続けている。
通称、「魔王」──。
政財界でも、知らぬ者のない存在でありながら、その正体を知っている者はほとんどいない。
玲子は、「魔王」を知る数少ない人間のひとりだ。
「すっきりしたところで、報告の続きだ、玲子。つまりは、その真夫という少年は、俺の血が繋がっている可能性が高いということだな?」
理事長が訊ねた。
玲子は身体の気だるさと、股間の気持ち悪さに耐えて、身体を立ちあがらせる。
「ひそかに手に入れた血液の検査分析によれば、理事長と血縁関係にある可能性は九十五パーセントです。限られた調査期間による結果ですので現段階ではと申し上げます……。ただ細部調査をしても、この数値が上がることはあっても、下がることはありません」
玲子は、精一杯の気丈さを装って応じた。
理事長が嘆息した。
「なるほどな。いまとなっては、子を宿しながら、なぜあの女が逃亡してしまったかわからないが、まさか妊娠していたとはなあ……。そうと知っておれば、俺の全能力を費やして探し出したのだがな。あの頃は、逃亡したといっても、大勢の愛人のひとりがしばらく顔を見ないというくらいにしか考えなかったしなあ」
理事長が苦笑した。
いまでこそ、これでも、ある程度の「常識」をもって愛人たちに接しているこの男であるが、かつて、この男の女扱いが相当に惨いものだったというのは耳にしている。
ただ、その女性はそもそも、どうやって、「魔王」の「支配」から逃げることができたのだろう?
謎だ。
考えられるのは?「魔王」から逃亡したという女は、もしかしたら、心を病んでいたのかもしれないということだ。
だから、「魔王」の「支配」から逃れられた?
彼女が生来の病弱だったということまではわかっている。
身体の弱い者が心も病みやすいというのはよくある。
いずれにしても、その女性が、どうやって、また、なぜ、この男から逃亡したのかはわからない。
わかっているのは、この男が自分の前から去ったその女を無理に探すことをしなかったということだ。
しかし、その女性は驚いたことに、男の子を宿していた。
そして、子を産んだ直後に、彼女は突然の心臓麻痺で死んでしまった。
もともと、身体が弱かったのが、出産でさらに弱くしたのかもしれない。
身元を特定する物を持っていなかった彼女は、身元不明のまま死亡処置され、遺った男の子は孤児として養護施設で育てられた。
男の子の名は、「坂本
姓名は、養護施設に保護されてから付けられたものだが、「真夫」は、その女性が道端で倒れたとき、「まおうへ」と書きかけたメモを所持していたことによるらしい。
このメモが、彼女が「魔王」に子の誕生を教えようとしたものであったのか、あるいは、単なる日記のようなものだったのかも、いまとなってはわからない。
とにかく、真夫は、自分の親を知らぬまま十八歳になり、国や自治体の援助金を頼りながら、高校三年生にまでなっていた。
いまは、この学園の理事長である「魔王」もまた、息子の存在は知らなかった。
もしも、本学園の生徒とのトラブルがなければ、目の前の理事長と血が繋がっている少年だということも気づくことなく、ふたりの関係は、人の海の中に埋もれて終わっただろう。
だが、たまたま本校の生徒がひとりの高校生を痴漢の冤罪に陥れたという事件があったことが発覚し、それについてひそかに調査していくうちに、その被害者が理事長の息子かもしれない可能性にぶつかった。
そして、さらに調査をした結果、その可能性がかなり高いことがわかった。
玲子としては、ほぼ間違いない事実だと思っている。
「……俺の血筋は、子を作りにくい体質でな。実際のところ、女を妊娠させる能力はほとんど無いに等しいのだ。代々の父祖が多くの女を愛人にしたのも、それが理由でもある。数多く試さなければ、子を産んでくれる対象を見つけることができないのだ。この俺自身、これだけの女と関わりながら、いまだ子を成すには至っていない……。この真夫という少年を除けばな」
理事長は言った。
「お指図のとおりに、真夫様については、現在の高校を退学させられるように工作しました。本日付で暮らしていた寮も退寮になっています」
玲子は言った。
「当然だ。俺の息子である可能性のある者があんな二流の学校の生徒であるということなど許されん。この学園で教育を受けさせる。そのように処置せよ、玲子」
「かしこまりました……。ところで、もしも、ご子息だと確信に至った場合は、認知なさいますか? つまり、その真夫様に父親の存在を教えるのかどうかということですが……」
玲子は訊ねた。
すると、理事長は大声で笑った。
「俺が父親だと言ったところで、相手は戸惑うだけであろうよ。無論、息子ならば、俺の持っているものはすべてを与えたい。ただ俺の息子に引き継がせるべき遺産は、本来、この血に備わる能力そのものだ。それで、調査書には書かれていなかったが、真夫は“能力”に開眼しているのだろうか? もしも、いまだに“力”が眠ったままであるならば、それを解放してやりたい。それこそが、父としての役目だろう……。それで、どうなのだ?」
「まだ、わかりません。ただ、養護施設においては、数多くの女の子が彼と関係を持ったという事実はあります」
玲子の言葉に、理事長は満足気に頷いた。
「さもあろう……。女を自然と惹きつける血なのだ。女を支配する力──。それはわが一族に備わる能力のひとつだ。真夫が、本当に俺の血を継ぐ者であるならば、まるで磁石が鉄をひきつけるように、女は自然と真夫に引き寄せられるはずだ……。まあいい。ところで、真夫は、いまはどこにおるのだ? いままでの二流校の寮は追い出されたのであろう。育った養護施設とやらに戻ったのか?」
「ところが、今夜は施設には戻らず、ひとりの若い女のアパートに向かったと報告を受けています。
「どういう女だ?」
「調査中です。明日の朝には、まとまった報告ができるものと思います。ただ、ちょっとわけありということまではわかっています。真夫様の養護施設時代の女のひとりのようですが……」
「わかった……。それにしても、寮を出て、すぐに女のところに泊まりに行ったか。ますますわが血を受け継ぐ一族に間違いないように思えてきたな」
理事長は嬉しそうに笑った。
「明日、真夫様に会います。学園への編入については、そのときに承諾を得るつもりです。先ほど、理事長のご意向は確認いたしましたので、真夫様には、理事長との関係については、一切教えずに処置を進めます」
「ああ」
理事長が頷く。
玲子は頭をさげた。
退出するためだ。
とりあえず、当面必要な事項は確認できたと思う。
とにかく、一刻も早く、このいまいましい革の下着を脱いで身体を洗いたい。
いつもの通りであれば、玲子が学園のシャワー室に着いたところで、下着のロックが解除されると思う。
この男は、学園内に監視網を張り巡らせているらしく、なぜか、その場にいなくても、学園内の出来事をすべて把握するのだ。
「……そういえば、そもそもの原因となった生徒についての処置がまだだったな。真夫を陥れた三人の男子生徒と女子生徒だ。男はともかく、女子生徒はどんな女だ?」
玲子は、理事長を見た。
「魔王」の鬼畜の血が、その顔に浮かんだ気がする。
「容姿は特Aですね。資産家の子女です。名は、白岡かおりといい、あの白岡家のひとり娘です……」
玲子は説明した。
しかし、理事長には、その女子生徒が、真夫という少年と同学年の三年生であると言及したときに話をとめられてしまった。
「わかった。同学年であれば丁度よい。真夫専用の奴婢に落とせ。もっとも、明日の確認で俺の息子であるという確認ができたらの話だがな。ただ、これまでの報告であれば、ほぼ間違いあるまい。それにしても嬉しいものだ。俺にも、力を受け継がせるべき相手ができた。早速、その女子生徒を使って、“教育”をしていくとしよう」
理事長は言った。
だが、玲子はちょっと驚いた。
「……でも、その女子生徒の実家は、資産家の白岡家ですよ。我が学園にも多額の寄付をしており……」
「それがどうした。この学園など、俺の道楽のひとつのようなものだ。どうでもいい。とにかく、明日の面談のときに、真夫に条件をつけろ。自分を陥れた女子生徒を調教レイプしろとな。それが学園編入の条件だといえ」
理事長は玲子の言葉を遮った。
「……でも、女子生徒を調教レイプなど、真夫様が承知するでしょうか?」
「なぜ、承知しないのだ? 自分を冤罪に陥れた恨みがあるだろう。段取りはしてやるから犯せといえば、犯すさ。別に断る理由もあるまい」
しかし、玲子は首を捻った。
これまでの調査で得られた限りにおいて、この真夫という少年は、特有の能力こそ、目の前の鬼畜理事長の血を引いている可能性は極めて高いが、性格は異なる。
いきなり、ある女子生徒をレイプしろと言われても、無条件に応じるようなタイプではない。
まあ、確認できた限りでは、鬼畜の片鱗は、その性癖に現れているようだが……。
ただ、この真夫という少年は、中学時代に同じ養護施設の同世代の女の子とかなり頻繁な性接触をしながら、男子校の寮で暮らすようになってからは、それが嘘のように、慎みのある生活を続けていた様子だ。
それひとつを取っても、真夫と目の前の理事長とかなり性格の異なる人間だということはわかる。
だが、この理事長に「常識」を唱えたところで無駄だろう。
玲子の役割は、理事長がその真夫にその女子生徒をレイプさせたいのであれば、手段を尽くして、それを承知させることだ。
その説得方法を明日までに考えて、処置を済ませなければならない。
間に合うだろうか?
玲子は小さく嘆息した。
「そういえば、そもそも、なぜ白岡家の娘が三人の男子生徒の言いなりになり、真夫を嘘の痴漢に陥れたのだ?」
玲子は調査結果を説明した。
「魔王」こと理事長は、不快な表情になった。
「わかった。じゃあ、三人の男子生徒の処置だが……」
理事長が口を開いた。
玲子は視線を向け直す。
「……三人とも退学。ただし、痴漢事件そのものは隠せ。そして、俺の息子にちょっかいを出したことにに対する相応しい罰を与えよ。息のかかっている暴力団に命じて、たまたま出くわしたチンピラを装って襲わせろ。殺す必要はないが一箇月以上は病院に入らなければならないくらいには痛めつけろ。顔も潰せ。見せしめだ」
「処置します」
玲子は頭をさげた。
「……それと、明日、その真夫が俺の息子という確信に至った場合だが……」
さらに理事長が言葉を足した。
「はい」
「……お前は真夫に与えることにする。俺の息子を主として仕えよ。真夫を新しい主人として、支えてやってくれ」
理事長がなんでもないことのように言った。
玲子は驚愕した。
だが、抗議をしようとした玲子が口を開く前に、理事長の瞳が大きく開いて、呪文のような言葉が口から呟かれた。
なんと言ったのか、玲子には聞き取れなかった。
突然にかすみのようなものが頭を覆って、なにも考えられなくなったのだ。
だが、戸惑いは一瞬だ。
すぐに、頭ははっきりとしてきた。
明日、真夫という少年に会える──。
玲子は嬉しくて、浮き立つような気分で心が一杯になるのを感じた。