88話 新部員の洗礼予行
「こ、怖いよ、真夫君……。こんなの……」
光太郎は、文化部棟から外に出て、学園内の売店エリアに向かう通りを歩いていた。
すでに陽は落ちて、すでに夕暮れから夜になっているが、学園内の通りは照明塔が充実しているので暗くはない。
ショッピングモールに入っている店が閉じる時間までにはまだ十分に時間があるし、二十四時間営業の売店もあるから、まだ営業もしているということで、光太郎は真夫とかおりに連れられて、その校内のショッピングモール内にある喫茶店で食事をしようということになった。
S級生徒ということで、光太郎も真夫も、また、従者生徒のかおりも、通常は学園内の食堂で食べるのだが、週末については、寮を出て実家に一時帰宅する生徒が多いため、金曜日の夕食分から日曜日にかけては通常の食堂が閉鎖されているのである。
従って、週末を学園内で過ごす生徒は、ショッピングモールに複数入っているレストランか喫茶店で食事をとることになるのだが、光太郎たちもそこに向かっているというわけだ。
光太郎も、祖父から命じられない限り、実家には戻らないので、週末になれば、そこで食事をとることも多いが、今日はかつて味わったこともないような緊張感に包まれていた。
SS研で真夫君たちの罠にかかり、徹底的に弄ばれ、早々に屈服した光太郎だったが、最後には散々に真夫に犯され、「女」としての悦びを繰り返し味わわされたことで、いまや、真夫に抗うという感情はすっかりと消滅してしまっていた。
もう、どうにでもしてくれという気分だ。
なによりも、なんだかんだで、真夫から受けた「プレイ」は大きな充実感があった。
自分の身体が他人とは異なることから、光太郎はずっとそのことに劣等感を抱いていたが、真夫から受けたあの嗜虐的な性愛は、その心の苦悶をなぜか完全に吹っ切らせてくれた気がする。
男であるか、女であるかなど関係ない──。
光太郎は光太郎だ。
そして、真夫の愛人になったという意味では、「女」だろう。
女になることにした。
もうそれでいい……。
光太郎は、真夫に犯され、幾度も女としての絶頂を繰り返して、自分がもう、この真夫なしでは、生きてはいけなくなっているようだということを感じてしまっている。
その証として装着されたのが、首と両手首についている金属製の銀色の細いチョーカーとブレスレッドだ。
これは、外れないようになっているそうであり、ずっと着けたままでいるようにと言われた。真夫の「女」のひとりになった印だそうだ。
光太郎は、それを受け入れた。
それはともかく、いま、夜の学園内の通りを歩いている光太郎の緊張は、真夫たちに強要された「女装」の格好によるものだった。
男子生徒ということになっている光太郎は、学園内ではもちろん、屋敷内の自室であっても、女の子の格好はしたことはない。
金城家の宗家の嫡男として役所には届けられており、光太郎はあくまでも「男」なのだ。
十一歳になって初潮になることで、実は女の身体が混合していることを知るまでは、自分が男であることを疑ったことはなかったし、女の子のように振る舞おうなど夢にも思わなかった。
しかし、初潮を迎えて、だんだんと身体付きが女性っぽくなるにつれて、光太郎の心も、女性の方に傾いてきた。
可愛い格好をしてみたいと思ったし、スカートだってはいてみたかった。
異性は女性ではなく、男性に惹かれたし、性欲を抱いたときには、女として自慰をした。
だが、男としての跡取りを強要している現当主の祖父からが、光太郎の心も身体もだんだんと「女」に傾きかけていることを知れば、烈火のごとく激怒し、その事実をなかったことにするのは間違いない。
金城家として、光太郎が「男」であることは、絶対に必要なことであり、祖父にとっては、光太郎が「女」であることは、到底許すことのできないことなのだ。
だから、女の格好をすることは、一度でいいからやってみたかった夢ではあったが、実際にそうすることは諦めていた。
しかし、真夫は、SS研の部室を出る前に、その光太郎に女の服装をすることを求めたのだ。
与えられたものは、可愛らしい私服とはいかなかったものの、学園の支給する女生徒用の制服だ。
かおりと同じ従者生徒用の灰色のC級生徒用の制服だったが、生まれて初めてのミニスカートに、光太郎はちょっと興奮してしまった。
また、女性でいえば、ベリーショートで耳の出ている髪型の光太郎のために準備してあったのは、胸の後ろまで髪が届くセミロングのウィッグだ。
かおりが軽い化粧も施してくれ、これが自分だろうかと、鏡を見て唖然となるほどに、可愛らしい女生徒の姿に変身した。
光太郎は有頂天になったほどだ。
しかし、真夫は、それだけで終わらせてはくれなかった。
真夫は、光太郎が女の下着を身に着ける前に、黒い革の下着を身につけさせたのだ。
しかも、ラバー部分の内側には、二本のディルドがにょっきりと生えていた。
それにローションを塗って、股間とお尻に挿入して装着されたのである。
さらに、それだけではなく、光太郎にある小さなペニスに似た器官についても、革袋のようなものを被されて、革の下着の内側に密着させられてしまった。強引に勃起させられ、根元にあの金属の環を嵌められて、勃起状態の強制保持の処置をされてからだ。
また、丁度のそのペニスの突起が当たる下着の内側にはくぼみがあり、ぴったりの大きさで嵌るようにもなっていた。
最後にベルトを腰の位置でフックさせると、かちゃりと音がして金具が内側で施錠したのがわかった。
真夫によれば、真夫の持っている操作具で信号を送らない限り、これを外すことはできないそうだ。
そして、その上に白い下着をはいて、光太郎は真夫とかおりととも、ショッピングモールに向かって歩くことになったということだ。
学園内は、無料のシャトルバスが巡回移動しているので、こうやって徒歩で移動する者は少ない。
光太郎たち三人のほかには、こうやって通りを歩いている者はまだ見かけてないものの、そんな淫具を挿入して学園内とはいえ外に出るなど、光太郎は緊張で死んでしまいそうになっている。
「怖いだけ、ひかりちゃん?」
光太郎に左腕を貸している真夫がくすくすと笑う。
真夫は、光太郎のことを“ひかりちゃん”と呼ぶ。それも受け入れた。
そして、通りを進む光太郎は、両手で真夫の左腕に掴まるようにして歩いていた。
掴むものがなければ、とてもじゃないが、股間とアナルの異物感が気になって、身体を真っ直ぐにすることさえできそうになったのだ。
「……あ、熱い……。な、なんか疼くというか……。あのディルドに塗ったローションって、ただのオイルかい?」
ディルドが挿入してある股間とお尻が異常なほどに熱く疼いている。すでに、股間からはおびただしいほどの蜜が流れ出ていて、びっしりと喰い込んでいる革帯の隙間から内腿に伝い出ているほどだ。
多分、あれは、ただのローションではないと思った。
「大丈夫だよ。最初に塗った痒みをもたらすような効果はないから。ただ、ひかりちゃんの性器をとても敏感にして疼かせるだけだよ。ペニス袋の内側にも塗ってあるよ。だから、勃起が収まらないでしょう?」
「や、やっぱり……。ひ、酷いよ……」
「そういう酷いことをするのが調教だよ。ところで、もう少し速く歩こうか。こんなにゆっくりと歩ていたら、喫茶店も閉まってしまいそうだ」
「ぼ、ぼくが速く歩けないのは知っているくせに……」
光太郎は真夫の腕に掴まったまま、顔をあげて真夫を睨んだ。
「ははは、それを無理矢理に歩かせるのが、調教というものだよ」
すると、いきなり真夫が倍くらいの速度で歩き出した。
真夫の腕に掴まっている光太郎は、当然に一緒に進むことになる。
「あっ、いやっ、やめてよ──。あ、ああっ」
ディルドが光太郎の股間とアナルの中で上下左右に激しく揺れる。
光太郎は悲鳴をあげてしまった。
そして、ついに耐えきれずに、手を離してその場にしゃがみ込んでしまう。
「ふふふ、自分がやられるのは嫌だけど、こうやって他の女が真夫に苛められるのを眺めるのは新鮮でいいわね。いっつも、わたしだけ一緒に苛められるんだもの」
後ろから声を掛けてきたのは、真夫の従者生徒のかおりだ。
いまの光太郎と同様の灰色ベースのC級生徒用の女生徒の制服を身に着けている。
「これくらいの刺激に参ってたら、店の中ではもたないよ、ひかりちゃん。こういうものもあるからね」
その瞬間、ペニスを包んでいる革袋が突然に蠕動運動を開始した。
いかも、かなり激しい。
「ひんっ」
なにが起きたのか理解もできずに、光太郎はしゃがみ込んだまま股間をスカートの上から両手で押えた。
「こんなのもある」
さらに、股間を貫いているディルドが振動を開始した。
「な、なんだよ、これ──。ひあああっ」
まさかリモコンで動くなど想像もしなかった。
光太郎は、がくがくと膝を揺らしながら、しゃがんだまま顔をのけぞらせた。
初めて味わう刺激だったが、その衝撃はすごかった。
ディルドの振動が鋭い快感になって、脳天に向かって突き抜ける。
「と、とめて──。とめてよ──。お願いだから──」
光太郎は声をあげた。
「でも、ひかりちゃんは、これを装着したまま、しばらくは授業にも出るんだから、少しでも慣れないと」
「じゅ、授業? 冗談じゃないよ──」
光太郎は耳を疑った。
「あれ、じゃあ、月曜日まで外してあげないよ。絹香も、かおりちゃんも全員がその洗礼を受けているんだから、ひかりちゃんだけ例外はないよ。わかったね?」
さらに振動が強くなる。
「ひあああっ、わ、わかったああ──。わかったからああ──」
光太郎は両脚を擦り合わせながら叫んだ。
やっとペニス袋と二本のディルドの振動が停止した。
「じゃあ、行こうか」
真夫が笑いながら、光太郎の腕を掴んで強引に立たせる。
そして、恋人同士のように、腰に腕を回して歩くことを促す。
「こ、この鬼畜──」
光太郎は言った。
「ありがとう。誉め言葉だと思っておくよ」
「鬼畜のどこか、誉め言葉なのよ──」
すると、後ろを着いてくるかおりが呆れた声をあげた。
ショッピングモールに近づくと、生徒の人影も多くなる。
この一帯は、店や食事場所だけではなく、小さなボーリング場やゲームセンターなどの遊戯施設やカラオケなどもあるのだ。
それを目的に生徒が集まっているのである。
学園内でいる限り、代金を直接支払うことはなく、すべて特別な支払装置による指紋認証システムで支払いをする。
そして、後日、代金が保護者に請求されるというシステムだ。
それはともかく、やっとここまで辿り着いたときには、光太郎もすっかりと真夫の悪戯にたじたじになってしまっていた。
なんだかんだで、真夫は「慣れる」ためという理由で、幾度もディルドやペニス袋を振動させてきたし、そうでなくても、二本のディルドが前後の穴を深々と貫いていることには変わりなく、それは光太郎に淫らな刺激を送り続けているのだ。
「も、もう十分に慣れたから……、そろそろ悪戯は許してくれないか……」
光太郎はささやくような声で真夫に哀願した。
すでに、モールエリアに集まっている生徒たちと、頻繁にすれ違うようになっている。
光太郎の緊張感は、否応なしに増幅されている。
「そうかなあ。だけど、もう少し訓練した方がいいと思うよ。授業中に変な声を出してしまって恥ずかしい思いをするのは、ひかりちゃんだしね」
真夫が微笑む。
優しそうで柔和な笑みなのに、喋っていることは鬼畜そのものだ。
光太郎は自分の顔が引きつるのがわかった。
「それにしても、あんたも容赦ないはねえ。金城家の御曹司よ。だけど、関係なく羞恥調教?」
かおりだ。
「当然だよ。この洗礼は、あさひ姉ちゃんも、玲子さんも、絹香もかおりちゃんも例外なく受けたんだ。早速、週明けには、ひかりちゃんも、このSS研の新規部員としての洗礼を受けてもらう。まあ、予定では週明けまでに、もうひとり増える予定だけどね」
すると、真夫が立ちどまって、後ろのかおりに向かって振り返った。
丁度、ショッピングモールの入り口前であり、光太郎たちはその前に立ち止まる感じになった。
周りには、ベンチやテーブルなどもあり、それなりに生徒でいっぱいになっている。
「もうひとり? 誰のこと?」
かおりが首を傾げた。
「絹香たち三人が仕込みをしている。多分、日曜日の夕方までには決着がつくと思うから、そのときに受け取りに行くよ」
「受け取りって……。それで、次のターゲットは誰なのよ? この金じょ……いえ、ひかりと一緒に、やたらにSS研の展示絵を見に来ていたあの子?」
「いや、そっちは、玲子さんの調査でちょっと複雑な事情を抱えていることがわかって保留中かな。でも、それも二週間のうちには……。いま、絹香たちが動いているのは、SS研の幽霊部員の方」
「ああ、あの突然に怒鳴ってきたあいつね……。ふふ、それは愉しみだわ。そいつを最初に落とすときには絶対に参加させてよね。あんたのこと孤児だって馬鹿にしたんだもの。絶対に謝らせたいわ」
「孤児だって馬鹿にしてたのは、かおりちゃんも同じじゃなかったか?」
真夫が苦笑するような表情になる。
「だから、存分にわたしのこと苛めていいのよ……。その代わりに、一生、妾として面倒見てくれればね」
「奴婢としてだろ。一生なのは変わりないけど」
真夫が笑った。
ふたりの会話の意味はほとんど理解できなかったが、光太郎はいまの二人の話でちょっと気になったことがあったので訊ねることにした。
「妾って……。妾扱いなのかい? 白岡家の令嬢が?」
従者生徒になったとはいえ、このかおりはれっきとした白岡家の令嬢だ。しかも、兄のない長女だったはずだ。
金城家ほどの名家ではないが、それなりの家であり、やがては婿どりをして、白岡家を支えないとならないのではないかと思ったのだ。
「残念ながら、すでにわたしの親は豊藤にわたしを売り渡したわ。もう、こいつに飼ってもらわないと、生きていけない立場なのよ。まあ、それで十分勝ち組だと思っているけど」
「えっ、売り渡した?」
光太郎はびっくりした。
また、豊藤というのは、あの幻の巨大財閥の豊藤グループだ。いまだに、この真夫がその後継者候補というのは信じられないが、多分、本当なのだろう。
それを確信するような不思議な魅力と威圧のようなものも、この真夫にはあるし……。
「そんなことはないよ。ただ、ちょっと玲子さんが説得しただけだ。そのうちに、折り合いはつけてやるから」
真夫だ。
「へえ、折り合いってなによ。もしかして、正妻にでもしてくれる? もちろんかたちだけでいいわ。多分、恵も、正妻の地位にはこだわらないと思うし……。ああ、でもこいつが正妻でもいいかもね。金城家の跡継ぎだし」
かおりが光太郎の顔の見てきた。
「せ、正妻──?」
光太郎はどきりとした。
「うーん、でも、確か戸籍上は嫡男で届けてあるんじゃないのかなあ?」
「そんなのは、あの玲子はなんでもするわよ。あいつだったら、白いものでも黒にしてしまうわ。あんたの命令なら」
「確かにね」
真夫は冗談っぽく笑った。
しかし、光太郎はたとえ冗談だとしても、この真夫の正妻と言われて、顔が熱くなる感じになってしまった。
それにしても、さっきから名前が出ている玲子というのは、やっぱり理事長代理として最近やって来た工藤玲子のことだろう。
理事長代理、工藤玲子──。
生徒会長にして、西園寺家の西園寺絹香──。
そして、資産家である白岡家の令嬢の目の前の白岡かおり──。
この真夫のところに集まっている女たちは、考えてみればなかなかのメンバーだ。
光太郎は、少し前から真夫の周りにいる複数の女性たちとの濃厚な関係には気がついているが、ほかにもいる。
侍女として一緒に学園にやって来た朝比奈恵という女子大生もかなりの美女である。
「ところで、ひかり、あんた、立ち方に気をつけなさい。いまは女の格好してるんだから、立つときに股を開いているとみっともないわよ、そもそも、股から太腿まで蜜が垂れているのが見えてるし……」
そのとき、かおりが光太郎の耳元に口を近づけてささやいてきた。
はっとして、足元を見る。
ずっと男として振る舞っているので、仕草も男っぽくなっていたらしい。
慌てて脚をぴったりと揃える。
「ふふふ、まあ、これから色々と教えてあげるわね。同じ男の愛人になったよしみでね。お化粧の仕方とかも……」
かおりが笑った。
「あ、ありがとう……」
光太郎は頭をさげた。
そして、ふと見ると、真夫がにこにこと微笑んでいた。
でも、嬉しい……。
これからも、こうやって女の子の格好をすることができるのだろうか……。いや、きっとさせてくれるのだろう。
そう思うとわくわくする。
光太郎はちょっと得体の知れない恥ずかしさを感じて、顔を俯むかせてしまった。
そのときだった。
「おい、坂本──」
男子生徒の声がした。
声の方向に視線をやると、男女七人ほどの取り巻き生徒を連れた加賀豊だ──。
光太郎や真夫と同じS級生徒で、寮部屋も隣室の男子生徒である。
金城家の嫡男の光太郎とは、学園の双璧と称されている立場でもあった。
光太郎は、慌てて、もう一度顔を俯かせ直した。