※この作品はR-18です。

淫魔王のいる学園【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 90話 不可思議な和解

「落とし前──? 大袈裟だなあ。ちょっと手を払っただけだろう。そもそも、君が俺に乱暴に触れようとしたせいじゃないかなあ。ひかりちゃんは、俺を守ろうとしたんだと思うよ」

 

 真夫は暢気そうに笑った。

 

「いや、こいつは、俺に暴力を振るった。それをしっかりとさせないとな──。連れていくぜ──。おい──」

 

 加賀が取り巻きたちに声を掛ける。

 取り巻き生徒が光太郎に手を伸ばす。

 加賀の考えは読めている。

 事を大きくして、頑なな態度を崩さない真夫から、後日でも優位な交渉をする材料にするつもりだと思う。

 そういうやり方は上手な男だ。

 それはともかく、加賀の取り巻きたちの手が一斉に光太郎に向かってきた。

 

「ひっ」

 

 光太郎は身体を竦めた。

 かおりが光太郎を守るように抱きしめた。

 

「俺の女に触らないでくれるかい」

 

 真夫が言った。

 すると、いまにも光太郎に飛びかかってくるのかと思った取り巻きの男子生徒たちが動きを直前で制止させた。

 意外だったので、かおりに身体を抱かれながら、彼らを見たが表情が能面のようになっている。

 訝しんだが、今度は当惑したような顔になった。

 ただ、光太郎に手を伸ばそうとはしない。

 光太郎には、その態度の劇的な変化に戸惑った。

 

「おい、捕まえろと言っただろう──」

 

 加賀が怒鳴る。

 

「その指示は取り消す──。俺の女に触るな──」

 

 動きかけた男子生徒が、またしても真夫の声でぴたりと止まった。

 これには、光太郎も唖然とした。

 だが、俺の女……?

 

「どういうことだ? なにかしたのか?」

 

 加賀が怪訝そうに真夫を見た。

 

「なにもしないさ。それよりも、さっきも言ったけど、暴力を振るわれたって、大袈裟だろう。彼女は俺を守ろうとしただけさ」

 

「なら、言い方をかえてやる。俺はその従者に恥をかかされた。従者生徒ごときに、手を叩かれたんだ。恥をかかされたら、それは絶対にそそがなけりゃならない。俺は俺という個人の問題にとどまらない。加賀という家のプライドの話だ。孤児のお前に説明しても、俺たち華族の矜恃は理解できまいがな──」

 

「理解できないね。そもそも、暴力なんて事実はない。ひかりちゃんの引き渡しなんて冗談じゃない」

 

「ほう、いいのか……? それは、この俺を……。この俺の持っている力を敵にするということになるぞ」

 

「もしかして、脅迫しているつもり?」

 

「どうかな。だが、もしも、このまま引き渡さなければ、お前だけじゃない。お前の周りにいる者の全部が、俺の敵となるかもな。俺はなにも言わないけど、忖度する者たちが、あらゆることでお前の女にちょっかいを出すかもなあ。生徒会長とかも困るだろうなあ。全生徒から協力を得られなければ、きっと苦労するかもしれないな」

 

「へえ、結構、ゲスなこと言うんだね、加賀君も」

 

「これが権力というものだ。わかったら……」

 

 真夫と加賀がいよいよ険悪な雰囲気になった。

 

「ちょっと、待って──」

 

 さすがに、光太郎は口を挟んだ。

 これ以上、事を大きくさせるわけにはいかない。

 どうやら、加賀も頭に血が昇っているようだが、あとで冷静になれば、こんな馬鹿馬鹿しいことで、息のかかっている生徒たちをけしかけて動かすようなことはしないだろう。

 そんなことをすれば、逆に加賀の資質が疑われる。

 頭を鎮めるためなら、光太郎が前に出ればいい。加賀も金城家がついている光太郎にはなにも言わない。

 光太郎はウイッグを外そうとした。

 

「ひんっ」

 

 そのとき、股間のディルドが一斉に激しい振動を開始した。

 ちょっと間合いを置かれていただけに、その刺激は強烈だった。

 

「はっ、うっ」

 

 立っていられなくて、かおりにしがみつく。

 かおりは、くすくすと笑って、光太郎を抱き支えた。

 

「んっ、どうしたんだ?」

 

 加賀が光太郎を覗き込むような仕草をする。

 

「加賀君──」

 

 その加賀に真夫が声をかけた。

 次の瞬間、加賀がふと能面に近い表情になる。

 そして、一瞬の間のあと、きょとんとした顔になった。

 さっきと一緒だ──。

 光太郎ははっとした。

 

「お互いに大人げないことはやめようよ、加賀君。ほら、握手──。文化部発表会のときには、是非、SS研を見に来てよ。結構、エロチックな展示もあるし、多分、愉しめると思うよ」

 

 そして、真夫が不自然なくらいににこやかに加賀に話しかけた。

 加賀のことだから、逆に馬鹿にされていると怒るだろうと思った。

 しかし、意外にも、真夫の言葉に加賀がにっこりと微笑む。

 一方で、股間の振動がとまった。

 光太郎は脱力した。

 

「へえ、エロチックか……。やっぱり面白いな、お前は。そんなものを堂々と学園で展示するとはなあ……。まあ、どの程度のエロさなのは知らんけど」

 

「ちゃんと許可は受けてる。期待しててよ」

 

「わかった。じゃあ、何人が連れて遊びにいくぜ。ほかの者にも宣伝はしておいてやるよ」

 

 さっきまでの険悪さが嘘のように、加賀が真夫の差し出した手をしっかりと握って握手を交わす。

 唖然とするほどの変わり様だ。

 周りを見る。

 それは、加賀本人たちだけでなく、周りの取り巻きもそうだ。

 たったいままでの喧噪がなかったかのように笑っている。

 そして、加賀たちは何事もなかったかのように立ち去っていった。

 

「えっ? えっ? えっ いまのなんなのよ? あんた、なにかしたの?」

 

 かおりだ。

 光太郎も同じ疑念を持っている。

 絶対に、いまのはおかしい──。

 

「なにもしてないよ。ただ、俺は人よりも説得力があるんだ。いまみたいにね」

 

「説得力ってもんじゃないでしょう──。なんなのよ──?」

 

「まあまあ、いいから、いいから……」

 

「まったく、説明する気はないのね……。まあ、いいけど……」

 

 かおりが光太郎を離して、肩を竦める仕草をした。

 そして、ふと、そういえば、加賀を始め誰ひとりとして、目の前にいるのが光太郎だと気がつく者もいなかったかとも思った。

 そんなものなのかもしれないが、もしかして、なにかの記憶操作をされているということはないだろうか?

 それくらいの不可思議さだったのだが……。

 いや、まさかねえ……。

 光太郎は、自分の考えに苦笑してしまった。

 

「じゃあ、そういうことだから、ひかりちゃんは続きだ。ここから先はひかりちゃんがひとりで、テイクアウトの弁当を三個買ってくる。それでゲームは終わりだ。指紋認証のときには、左の人差し指を使ってね。それで玲子さんには、俺の従者生徒の小椋ひかりで登録してもらっているから。間違えないでね。右の指だと金城家に請求がいっちゃう」

 

 三人だけになると真夫が言った。

 ゲームというのが意味がわからなかったが、それよりも、いま言われたことが気になった。

 

「ま、待って──、待って。いまのはどういう意味なの、真夫君? 小椋ひかりで登録してあるっていうのは……?」

 

 光太郎は訊ねた。

 

「そのままの意味だよ。ひかりちゃんは、SS研に入ってもらった以上、女生徒のひかりちゃんとして扱うけど、でも、男子生徒の金城光太郎としての存在がまるっきりいなくなっても困るよねえ。だから、小椋ひかりという架空の女生徒を作ってもらったんだ。生徒登録だけだけどね。だから、小椋ひかりという女生徒を作ってもらったということさ。男の光太郎でも、女の子のひかりちゃんでも、この学園においては、まったく問題ないということだね」

 

 真夫が微笑む。

 光太郎は耳を疑った。

 架空の生徒登録──?

 そんなことができるのか──?

 いや、やろうと思えば、やれるのだろうが……。

 

「はああ? あんた、あの玲子にそんなことさせてたの? すでに──? 事前に?」

 

 かおりだ。

 

「そういうことになるねえ」

 

 真夫が微笑む。

 

「あ、あのう、玲子って……?」

 

 光太郎は口を挟んだ。

 

「工藤玲子よ──。この学園に最近やってきた理事長代理のあの女よ。すぐに顔を合わせるだろうから教えとくけど、そいつも、真夫の奴婢よ。こいつのためなら、殺人でもやりかねない気狂い女よ」

 

 かおりが言った。

 工藤玲子って、新四菩薩筆頭で、理事長代理の──?

 

「ええええ──?」

 

 かおりの言葉に、光太郎は声をあげてしまった。

 

「びっくりするのは、まだまだ早いわよ。あいつに接するようになれば、本当にとんでもないというのがだんだんとわかってくるから……。だいだい、あんたがしている貞操帯だって、寸法がぴったりでしょう。ディルドだけじゃなくて、勃起しているペニスに合わせてペニス袋を作って、それに合う窪みを貞操帯側に作って、しかも、最高技術のセンサーとかを使って、快感を制御しているのよ。多分、事前に、あんたの部屋に潜入とかして、寸法まで計測したりしてるのよ」

 

 かおりが言った。

 

「ぼ、ぼくの部屋に侵入? 嘘だよねえ?」

 

 光太郎は真夫の顔に振り返ったが、真夫の表情はかおりの言葉を否定していなかった。

 まさか……。

 光太郎は唖然とした。

 

「わかった? こいつらはこういう連中なのよ。多分、その淫具だって、億単位の金がかかっているかもしれないわよ」

 

「そこまではかかってはないんじゃないかな……。もっとも、時子婆ちゃんにアイデアを出してお願いしている新しい淫具は、それくらいかかるかもって言ってたかもしれない」

 

 真夫が笑う。

 時子婆ちゃんというのがわからないが、淫具に億単位──?

 さすがに、光太郎も鼻白んだ。

 

「……まあいいわ……。それはともかく、そういえば、こいつの偽名の“ひかり”はわかるんだけど、“小椋(おぐら)”って、どこから持ってきたのよ? 適当?」

 

 かおりが真夫に訊ねた。

 

「適当といえば適当だけど、俺の名字って、坂本竜馬から来てるんだ。俺の名前をつけるとき、市長さんが坂本竜馬のファンだということで……」

 

 そうなのだと思った。

 だが、豊藤の後継者ということではなかったのだろうか?

 孤児だというのは、身元を隠すための嘘なのかと思っていたが、いまの言葉だと孤児だったというのも事実なのかと思った。

 なんとなく、複雑な事情がありそうだ。

 

「それで?」

 

 かおりだ。

 

「それで、玲子さんとひかりちゃんの偽名を決めるときに、坂本竜馬の奥さんで、確か、“おりょう”だねって、いうことになって……」

 

「“おりょう”……? ああ、だからなの? “小椋(おぐら)”って、“おりょう”とも読めるから。くっだらない──」

 

 かおりがけらけらと笑った。

 

「まあ、そんなものだよ、偽名なんて。俺の坂本真夫という名前だって、適当なものさ」

 

「そうかなあ。まあ、結構いい名前だと思うけどね」

 

 かおりが笑い続けながら言った。

 かなり仲がいいのだなあと、光太郎は思った。

 すると、真夫が光太郎に改めて視線を向けた。

 

「じゃあ、さっき言ったとおりだよ、ひかりちゃん。ゲームの開始だ。ひとりで買い物ができるかなゲームだ。終われば、ゲームを終了して、ベンチで食事をして寮に帰ろう」

 

 次の瞬間、またもや、股間のディルドが激しく動き出した。

 

「ひああっ、あっ、いやっ」

 

 今度は支えてくれるかおりもいない。

 光太郎はしゃがみ込みかけた。

 

「もう、ゲームオーバーかな? もっとも、このゲームに途中棄権はないけどね」

 

「……あ、ああっ、お、お願いだよ……。こ、こんなんじゃあ、歩けない……。まさか、このまま買い物って……」

 

「そんな弱音は受け付けない。それがSS研に入るということさ。とりあえず、そこのテーブルベンチまで頑張ろうか」

 

 真夫がかおりを伴って、三十メートルほど離れている木製のテーブルとベンチがある場所に行って腰掛けた。

 ショッピングモールのあるこの厚生エリアの野外には、たくさんのテーブルやベンチがあり、自由に座ったりすることができるようになっている。

 光太郎は、スカートを手で押さえながら、必死に足を前に進ませ、少しずつ真夫たちのいるテーブルに向かった。

 

 幸いなのは、すでに夜であることと、週末ということであまり人影がないことだ。

 それでも、離れたところには、歩いたりテーブルに座ったりしている生徒たちが結構いる。

 光太郎は、不自然にならないように、できるだけ背筋を真っ直ぐにして進んだ。

 やっとのこと、真夫とかおりのいるテーブルに着く。

 すると、振動が停止した。

 光太郎はほっと一息ついた。

 

「よし、じゃあ、次はショッピングモールの入口まで行こう」

 

 真夫が座ったまま、さらに二十メートルくらいの距離があるモールの入口を指さした。

 弁当をテイクアウトできる店は、そこからさらに中だ。

 

「ね、ねえ……。本当に……。ひんっ」

 

 すぐに振動が股間に襲いかかった。

 光太郎は声をあげ、その場にしゃがんでしまった。

 とにかく、耐えられないような性感に突き抜ける快感だった。

 すると、振動がとまる。

 

 光太郎はよろよろとふらつきながら、なんとか立ちあがった。

 すると、また、振動が開始する。

 

「はああっ」

 

 光太郎はまたもや跪いてしまった。

 そして、振動が止まる。

 

「この調子じゃあ、ひとりで買い物はまだ無理か。仕方ない。着いていこう。その代わりに頑張るんだ。頑張ればご褒美をあげるから」

 

 真夫が立ちあがった。

 

「やっぱり、あんたは鬼畜ねえ……。本当は女だったとしても、こいつが金城家の跡取りなのは変わりないのよ」

 

 かおりだ。

 さっきのように、片側から腕を抱えて立ちあがらせてくれる。しかも、そのまま腕を支えてくれるようだ。

 ちょっとほっとする。

 これから、なんとか多少は歩けるかも……。

 

「とりあえず、ここまで歩いたご褒美だ」

 

 すると、真夫が光太郎の顔を覗き込むようにして口づけをしてきた。

 繰り返しの翻弄に、すでに光太郎の頭は朦朧となりかけていたが、真夫との口づけは気持ちよかった。

 舌を吸いあげられると、身体の芯が蕩けていくような甘美な心地に包まれた。

 

「次のご褒美は、あの入口だよ」

 

 真夫が先に歩いて行く。

 

「ほら、行くわよ。あいつはこういうことでは手は抜かないし、抜けさせてももらえないわ。やると言ったらやるし、諦めて従うしかないわね……。さあ……」

 

 かおりが腕を持って引く。

 光太郎は足を前に出した。

 すぐに、ディルドとペニスを包む袋が淫らに動きだす。

 口づけで身体が蕩けていて、一瞬で力が抜ける。

 

「ひんっ、いやあっ」

 

「声を我慢することも覚えなさいって──。これから店の中にも行くのよ──」

 

 光太郎がしゃがみ込むことを腕を持って阻止したかおりが半分呆れた口調で叱咤した。

 とにかく、必死に腰に力を入れようと踏ん張る。

 

「う、うん……。くっ、ううっ……」

 

 だが、やっぱり厳しい──。

 腰が抜ける……。

 かおりが腕を持って支えてくれる。

 光太郎は、香りの腕にしがみつきつつ、動き続ける振動に耐えて、なんとか必死に足を進めさせた。

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