秀也がいつもの地下屋敷に入ると、入口で時子が待っていた。
だが、秀也がひとりでやって来たことに気がついて、眉をひそめる。
「秀也さん、外を出歩くときには必ず護衛を連れてもらわないと困りますね」
時子が言った。
秀也はくすりと笑った。
「誰かさんが俺の専属護衛を腑抜けにしたからな。あれはしばらく使い物にならん」
秀也の護衛というのは、
豊藤財閥の総裁の跡目を秀也と争うかたちとなった真夫を敵対視し、竜崎という生徒を真夫の恋人の朝日奈恵にけしかけるなどの暗躍をしていた正人であったが、真夫が大好きな時子の逆鱗に触れ、薬物で強制勃起させられて、ナスターシャに孕ませセックスを強要させられたのは、まだ数日前のことだ。
それから、さらに時子は、ナスターシャを人工授精させるための精液を正人から搾取してから解放したが、あれから、いまだに正人は部屋から出てこない。
正人は同性愛者だ。
それにもかかわらず、女と無理矢理にまぐわいをさせられたのは、相当にショックだったのかもしれない。
あんなに打たれ弱いとは知らなかったが、まあこれで、正人も時子の恐ろしさを理解しただろう。
さすがの秀也も、時子には弱いのだ。
「それでもですよ。ひとりでは出歩かないでください。適当な護衛はあたしが手配しましょう。目立たないように、学生の格好をさせておきます」
「必要ねえよ。一介の学生を狙う者などいねえさ。俺が豊藤の関係者などとは、誰も知りもしねえさ。そもそも、重要人物といえば、真夫の方がそうだろう。だが、あれは、勝手にひとりで動いてるぜ。玲子だって、常についているわけじゃねえ」
「護衛をつけてますよ。ただ、気がつかないようにさせているだけです。あたしがそんな抜かりをするわけないでしょう」
時子は言った。
すでに、真夫に護衛を配置していたとは知らなかったから、秀也はちょっと驚いた。
だが、考えてみれば当然か。
時子にしてみれば、真夫は豊藤の大切な後継者だ。また、龍蔵の子であるということは、時子からすれば、血は繋がっていなくても孫のようなものだ。可愛くて仕方がないのかもしれない。
そのときだった。
内ポケットに入れていたスマホに着信があった。
画面を見ると、正人からだった。
秀也はその場で電話に出た。
「もしもし、おう、正人か……」
電話の内容は、寝込んでいたことに対して謝罪するとともに、すぐに秀也のところに向かうというものだった。
声を聞く限り、いつもと変わらない感じはする。
「無理しなくてもいいぜ。こっちは問題ない」
秀也は告げた。
だが、正人はすでに学園内に来ており、すぐに秀也のところに向かいたいと応じてきた。
「わかったが、俺がいまいるのは、伯父貴のところだ。しかし、お前の大嫌いな時子も隣りにいるぜ」
秀也は笑った。
だが、もう立ち直っており、全て問題はないと繰り返した。
秀也はわかったと言って、通話を終える。
「聞いた通りだ。腑抜けていた護衛が戻るとよ」
秀也は声をあげて笑った。
「じゃあ、丁度いいから、ナスターシャの調教を手伝ってもらおうかしら。龍蔵さんが張り切っていてね。追い込みに入っているんだけど、手が足りないから助手を寄越せと言われているのよね。でも、ここにはおいそれと、余人を入れるわけにはいかないし……」
「じゃあ、正人にさせろ。どっちにしても、俺はしばらくここからは出ねえ」
「いいことね。ここよりも安心な場所はないわ」
時子ととともに、さらに地下に降りて、調教室が並んでいるフロアに行く。
その一室から鞭の音とフランス語による女の悲鳴が聞こえてきた。
秀也がその部屋に入ると、むっとするような汗と女の匂いがした。
「もっと、脚をあげて淫らに歩かんか──。だらだらと歩くのではなくて、一歩ごとにメリハリをつけて雰囲気を出すのだ。それが雌犬の作法ぞ」
部屋には、四肢をそれぞれに折り曲げられた状態で革帯を巻かれ、四つん這いでしか歩けない状態にされているナスターシャが「龍蔵」に追い立てられて、部屋の中を歩きまわされていた。
折り曲げた四肢の膝と肘の折り曲げている部分に、革で作った動物の肢先のようなものがついていて、まるで犬そのものに見えるようになっている。
股間には細い革帯の下着を身に着けているが、それ以外は素っ裸だ。
そして、ナスターシャの首に装着された首輪には、天井から伸びる鎖が繋がっていて、その鎖は天井の丸いレールに嵌っている滑車にさらに繋いであり、ぐるぐると部屋を回り動けるようにしてあるのだ。
そんな状態のナスターシャを背後から鞭で追い回しているのが、太った腹を曝け出している下着だけの龍蔵だ。
かなり長い時間をああやって歩かされているのだろう。
ナスターシャは汗びっしょりで、白い肌にはたくさんの鞭の蚯蚓腫れがある。
なによりも圧巻なのは、ナスターシャの巨大な乳房だ。
この龍蔵は、もともとは美しくかたちがよかったナスターシャの乳房を豊乳手術をして、大きなスイカのような巨大な奇形にしてしまったのである。四つん這いになると下に垂れている乳房の先端の乳首が床に着くほどだ。
しかし、なにか仕掛けがあるようだ。
ナスターシャの乳首には、金属の札のようなものをぶら下げられているが、彼女は泣きながら必死で胸を上にあげて、それが床に着かないように歩いているみたいだ。
だが、乳首はぎりぎり床に当たるくらいの位置になるので、ぶら下げられている金属の札が床に着かないためには、かなり不自然な歩き方をしなければならない。
「もっと早く歩かんと、赤い光が追い付くぞ」
龍蔵がナスターシャの内腿にぴしゃりと一本鞭を打ち付ける。
「あぎいいっ──」
ナスターシャが奇声をあげて前に進む。
前と言っても、部屋をぐるぐると回るのだが、秀也はそういえば、そのナスターシャを追うように、床を赤い光がゆっくりと追いかけていることに気がついた。
それだけではなく、ナスターシャが歩く床の部分は、幅一メートルの細長い切れ込みが丸く繋がっていて、その部分の床は周囲とは違って金属の材質になっているみたいだ。ナスターシャはその上を歩かされているのだ。
「あれは電極道か?」
秀也は時子とともに、部屋のひとつの壁に背をつけてある横長のソファに腰掛けながら訊ねた。
多分そうだと思ったのだ。
察するに、あの赤い光が追いついたら、ナスターシャが乳首からぶら下げている金属の板に電撃が流れる仕掛けだろう。
「ご明察です。龍蔵さんの求めで作りました。乳首に電撃が流れるだけじゃありませんよ。あの女にはかせている革の下着のクリトリスのところに電極があって、乳首から流れた電流は、クリトリスに向かって突き抜ける仕掛けにもなってます」
「ほう」
そういえば、ナスターシャは革の下着をはかせられている。
下着といっても、Tバッグであり、こっちから見ると尻たぶが完全に露出している。
あれが電極付きの下着というわけか。
「おう、秀也か」
龍蔵が鞭を床に捨てて、こっちにやってきた。
秀也は、ソファに腰をおろしたまま応じる。
「相変わらず、ナスターシャで遊んでいるのだな。伯父貴への贈り物だったが、気に入ってくれてなによりだ。まあ、その乳房の奇形は、俺の趣味じゃないけどね」
秀也は笑った。
「美しいものをわざと醜く崩すのだよ。その愉しさをお前が学ぶのは、まだまだ先か?」
「先でも後でもわかるものかよ。まあ、伯父貴に譲ったものだから、好きにしてもらっていいけどな」
「当然だ。好きにさせてもらう。あれで、あのフランス女は、まだ堕ち切っておらんのだ。泣くじゃくって悲鳴をあげても、時間が経てば、またわしを軽蔑しきった目で見てくる。多分、心の底から人種差別意識が強いのだろうな。こうやって、日本人に調教されるなど、あれには我慢できないことなのだろう」
「そりゃあ、よかった。じゃあ、ぶっ毀れるまで苛めてやりな。毀れれば、また次の玩具を探してきてやるぜ」
「さすがは秀也だ」
龍蔵が相好を崩した。
そのとき、ナスターシャの絶叫が部屋に轟いた。
赤い光がいつの間にか、ナスターシャの胸の位置に追いついている。
のたうち回っているところを見ると、いまは電撃がナスターシャの身体を流れまくっている状態なのだろう。
ただ、赤い光は移動することなく、そのままとどまっている。
つまりは、そのあいだ、ずっと電撃が流れ続けているということに違いない。
『ナスターシャ──。そこで転がってたって、いつまで経っても電撃は終わらないよ。お前が四つん這いで移動しないと、赤い光は動かない。そして、また追いかけてくる。さっさと起きて、お歩き──』
時子が大きな声で怒鳴りつけた。
しかも、フランス語だ。
ナスターシャの母国語である。
ここで、フランス語ができないのは龍蔵だけだ。
見ると、やっとナスターシャが姿勢を戻して歩き出した。すでに泣きじゃくっている。
また、しばらくすると、再び床の赤い光が彼女を追いかけだした。
「どれ、次はあたしが見てやろうかねえ」
入れ替わるように時子が立ちあがる。
たったいま、時子が座っていた場所に、龍蔵が腰かける。ふたりで並んで座るかたちになる。
「しばらくだったな」
「ああ」
特に話すことなどなく、ふたりで時子がナスターシャを責めるのを眺めていた。
時子はなぜか、ナスターシャの母国の国旗の手旗をひとつ持ってきて、丸い経路のぎりぎり外側の一箇所に台座を使って立てた。
そして、赤い光の動きがとまった。
ナスターシャがその場に崩れ落ちるように蹲った。
「ナスターシャ、今度はさっきの逆だよ。赤い光が当たるから、その中にいれば、電撃は流れない。しかし、そこから身体がずれれば、また電撃だ。そして、旗があるだろう。そこに辿り着くと、一旦光の動きもとまるから、脚をあげて小便をかけるんだ。一度に全部出すと、次に出なくなるから、ちょっとずつ出すように気をつけるんだよ。もしも、旗を小便で三秒以内に濡らせなければ、一分間の電撃だ。理解できたかい? じゃあ、はじめ──」
赤い光がナスターシャがいる場所に当たる。
再びゆっくりと動き出した。
ナスターシャが悲鳴をあげ、泣きながら赤い光から外に出ないように、再び四つん這いで歩き出す。
すぐに旗の位置に着く。
母国の旗に小便を掛けるのは屈辱なのか、ナスターシャの顔は悔しそうに歪んでいる。
そのナスターシャが、片脚を大きく上げて、ほんのちょっとだけおしっこを飛ばした。
だが、すぐに脚を戻し、光の動きに合わせて進みだす。
やがてひと回りして、再び旗に位置に戻った。再びさっきと同じように片脚上げ小便をする。
最初のときのときにはよくわからなかったが、ナスターシャが身につけさせられている革のTバッグは、彼女の尿道の部分に丸い穴があるようだ。
それで、おしっこをそこから出せるみたいだ。
「ほう、器用だな」
秀也は感心した。
「調教したからな。いまのナスターシャは、小便を溜めておいて、ああやってちょっとずつ小出しに出すということもできる。まるで本物の犬みたいであろう」
龍蔵は言った。
「まあな。だが、いくら小出しにしても、すぐに小便も尽きんじゃねえか、伯父貴?」
「だから、必死で小出しにしないとならないということだ。出なくなれば、一周に一度の電撃責めが待っている」
「なるほどなあ」
秀也は笑った。
「ところで丁度いい。別室に行くぞ。久しぶりに、秀也の身体を点検してやろう。このところ、なにかと理由をつけて、わしを避けるしな」
龍蔵が秀也に視線を向ける。
「忙しいんだよ。それよりも、点検するってなんだ? また、俺と遊びたいのか? 男色もいける俺だが、また伯父貴の尻を犯してやってもいいぜ。昔みたいにな」
秀也は揶揄った。
だが、龍蔵が爛々と目を輝かせた。
「わしの相手をしてくれるのか? 本当か? 久しぶりだ──」
思いのほか喜んでいる。
秀也は肩を竦めた。
本気で相手をするつもりは皆無だったが、まあいいか……。
「伯父貴も慎みがねえなあ……。じゃあ、俺が伯父貴の尻を犯してやろう。その代わり、豊藤の後継者のことは、今後とも俺の言ったとおりに動いてもらうぜ」
「もとよりお前に任せている。この前も、十人の奴婢という条件だったのを、わしが認めた十人の奴婢という条件に変更してふたり分を削った。だから、あと四人だったのが、あと六人になった。それでいいのだろう?」
「あと五人だ。金城家の嫡男を真夫は奴婢にした。これで西園寺家の双子侍女を抜いても奴婢は五人だ。いや、あの孤児の娘も、適当に理由をつけて数から抜くか? 豊藤の後継者の妾には相応しくないってな──。いずれにしても、十人と言ったが、認めなければいくら頑張っても十人を満たすことはできねえ。期限は半年だしな」
「恵ちゃんは、数に入れるわよ。あの娘は真夫の大切な女性よ。それを含ませないなんて言わせないわよ。真夫ちゃんがいじけるわ」
だが、時子が戻ってきて口を挟んできた。
ナスターシャは、いまだに一周ごとの小便かけを続けている。
そもそも、下に垂らすのではなく、器用に尿道から外側に小便を飛ばしているのだ。
大したものだと思った。
「お前はぶれねえなあ」
それはともかく、あくまでも真夫が一番の時子の言葉に、秀也は声をあげて笑った。
「ところで、あの真夫の五人目の奴婢が金城家の嫡男と言ったか? 知らなかったが、真夫も両刀使いか?」
「真夫のことは俺に任せて、伯父貴はあの毛唐で遊んでてくれ」
「おう、じゃあ、そうさせてもらおう」
龍蔵が相好を崩した。
「……まあ、いずれにしても、真夫が十人を揃えるのは時間の問題か……。そろそろ、俺も動かねえとな……」
秀也は呟くように言った。
「六人目は、あの生徒会長の親友の娘ね。スポーツ特待生で入っている女子サッカー部の主将をしている娘よ。SS研に秀也さんが入れた子ね」
時子が言った。
「ああ、明日香か……。まあ、あれは、俺がSS研に入れたというよりは、絹香の付録だしな。絹香を引っ張ったら勝手についてきた。俺は手を出したことはねえぞ」
「多分、週明けまでには片付くのでしょう。それで六人……。双子を除いてもね」
「七人目は、真夫が餌として撒いてたSS研の展示物に興味を抱いていた女子高生モデルをしているあれか? そっちも真夫は準備中か?」
「さあ……。ただ、ちょっと、所属している芸能事務所と契約でもめていることがわかって、玲子が調べてるわ。場合によっては様子見にするんじゃないかしら。いずれにしても、最終的には真夫ちゃんは手を伸ばすと思うけど……。ほかには、九条家の娘とかかしら……」
「九条家の娘? なんだそれは? 学園にそんなのがいたか? 九条家というのは、あの九条家だろう?」
「その九条家ね。金城家繋がりよ。あの金城家の嫡男の許嫁ね。玲子はある取引を申し込まれたみたいだわ」
時子が笑った。
「おいおい、随分と具体的なことになっておるのだな。ならば、真夫が十人を集めるのは時間の問題ではないのか? 多少の妨害はするだけ無駄という感じもするのう。なかなか頼もしい女たらしではないか。豊藤の跡継ぎに相応しい」
龍蔵が大笑いした。
そのときだった。
時子が屋敷の制御器に繋がっているスマホを取り出して、屋敷の出入口のセンサーに、正人が到着したという反応があったことを告げた。
「なら、秀也、行こうか……。そして、時子はここを頼む」
「わかりましたわ。徹底的に躾けておきます、龍蔵さん」
時子が頷いた。
一方で、龍蔵が秀也の手を取って、秀也を立ちあがらせる。
その顔には、秀也に対する情欲がはっきりと浮かんでいた。
秀也は苦笑した。
*
次章は前田明日香の章になる予定です。