ある日、ついに耐えられなくなったスピネルは、昔ノリで買ってしまった、露出の多い、濃い紫紺……夜明け色のイブニングドレスを着た。ワンピースのそれは、上半身は幅広の布を首に巻いたような頼りなさで、胸の谷間どころか真ん中はへその少し上まで丸見え、背中はお尻の割れ目が見えるかどうかという大胆さだ。元はこんな服を兄さまに見せたらどんな反応をしてくれるだろう、という妄想の果ての買い物だった。
せめてもの偽装に、顔を大きな絹のハンカチで作ったベールで隠し、髪型を変える。……生まれて初めて、フォルスからもらった花の髪飾りを寝る前以外の時に外した時、手が震えた。
――兄さまに、してもらえば良いんじゃないの?
その誘惑はとても甘く、何も悪いことは無いように思える。
――兄さまならきっと、どんな私でも優しく受け入れてくれる。
その意見には全面的に賛同するものの、それでもスピネルはフォルスにはこんな自分を知られたくなかった。……たとえ、ここで我を通すことで、更なる知られたくない自分を増やすことになるとしても。
こんな、がつがつとした、むき出しの性欲をぶつけるような初体験だなんて、耐えられなかった。
「そうだよ……兄さまとは、素敵な恋がしたいから……この気持ちは、何より大事なものだから……」
そうやって、己の心を騙していく。
フォルスの中の自分を、清らかな少女のままにしたいと嘯きながら。
しかし娼婦に見えるようにイブニングドレスを殆ど股間が見える位に丈を短く折り、上下とも下着を着けず、つんと突き出した乳首の勃起が月明かりの下でも見えるように、腕を組んでイブニングドレスの布が胸のラインをはっきりと出すポーズを確認する、その表情は。
喜悦にゆがんでいた。舌なめずりさえしそうなほど、これから自分の身に起こるであろう、二度と乙女には戻れない行為を想像し、鼻歌交じりに安物のルージュを引き、男のイチモツを舐るように、ねっとりと唇に馴染ませていく。
モグリの街娼が、月明かりに太ももの内側をてらてらと輝かせながら、暖かな我が家を後にした。
(ああ……におう……この匂い、うっとりしちゃう)
路地裏をうろつく。堂々と売春を行うには度胸が足りないスピネルの、せめてもの言い訳。相手に襲いかかられたから、しょうがないという。
スピネルは、より男らしい……体格が大きくて、野蛮そうな人間の目の前を、腰をくねらせながら歩いて、短すぎる丈のワンピースで太ももの付け根まで見せつけながらほんの一瞬目を合わせる。
「ふふ……♥」
艶然と微笑むと、にたりと男も口をゆがめる。
思い通りに引っかかってくれた相手は、スピネルを手篭めにしようと腰に手を回してくる。フォルス以外の人間に、始めてこんな接近を許したスピネルは、
「あんっ……」
しかし逞しいオスの胸に抱かれて、恋焦がれるような……あるいはフォルスに抱きしめられた時以上の高揚と、性欲の高まりを覚えて、生唾を飲んだのだった。
「へっへ……最近ついてねえと思ってたが、こんな良いビッチに出会えるなんてな」
ついに、初めて男に性器を撫で回される。その瞬間が待ち遠しくて、スピネルは身体が弾けそうだった。
(ああ、早く……早くその指で……私を……)
あっという間に股間に指を這わせられただけで、
「はきゅううううううぅうぅぅぅ♥」
夜の路地裏に、牝の遠吠えが響く。
(ほんのちょっと、触られただけなのに……ぜんぜんちがうぅ……!)
男はスピネルの反応のよさに気を良くしたか、突然の大声にも笑みを深くしただけだった。
「おいおい、撫でただけでどろどろじゃねえか……ちょっと弄るつもりが、手がどろどろになっちまったぜ。おら、しゃぶって綺麗にしな」
ねっとりと、白く泡立つ本気汁の混じった愛液を手のひらに溜まるほど眼前に示し、そのままスピネルの小さな口に差し込んでくる。
「あぅ、んむぅ……っ、ちゅ、んふぅ……」
においはなんとなく知ってはいても、自分の愛液など進んで口に入れるような性知識はスピネルの持ち合わせには無い。にがじょっぱい、とでもいうか、チーズのような饐えた臭いがする自分の分泌物は素直に不味いと思ったが、しかし
(これ……男の人の指、咥えてしゃぶるのって……いい……♥)
欲しかったものを、今の自分に絶対的に欠かせないものを連想する行為で、スピネルの身体はますます蕩けていった。
唐突に指が引き抜かれ、とん、と肩を押される。今まで誰にも向けたことが無いほど熱っぽい視線を目の前の男に向けたスピネルは、相手の意図を正確に察した。
「どうぞ……私を、……好きにしてください」
股間から滴るほどに愛液で濡れそぼらせながら、スピネルは、誰がくるともしれない路地裏の壁に手をついて、ガニ股になるのも構わず、名前も知らない男に性器を差し出した。
やはり期待通りに大きいペニスが、遠慮なしにスピネルの処女膜を破る。圧倒的な異物感に、スピネルの胎内が痙攣し、息が乱れる。
「はっ……! あっ、あっ、はあぁぁぁぁぁん♥」
しかし、出血はあっという間に白濁したスピネルの本気汁によって薄められ、ピンク色のシミとなって路地裏の地面に消えていった。
「うあっ、あーっ! はあっ、んんんーーっ!」
男も、一気に突き刺したのでは膜を破る感覚も実感できなかった。闇夜にまぎれたスピネルの処女喪失は、誰にも……本人にさえ省みられることなく、あっけなく過ぎ去っていった。
フォルス以外の……名前もなにも知らない、普段なら忌避するような、好みでもない男に処女を捧げて、しかしスピネルの裡には純粋に悦びしかなかった。
子宮の欲求はとっくに魂にまで刻みつけられ、今や発情した体は魂と完全に意見を同じくしている。気が狂うほどに我慢してきた男が手に入った喜びに、スピネルは感動の涙を流した。
……欲しくない、という意味で我慢してきたはずが、いつの間にか欲しくてたまらないものが手に入らない、という我慢にすり替わっていた。
「はっ、はっ、はっ、あっ、んぅっ」
男は我が物顔でスピネルの腰を掴み、早速腰を降り始めた。スピネルも、人生で初めて味わう男の律動を、じっくりと体中で受け止める。
(凄い……これが、男の人……兄さまは……兄さまも、こんな風に、太くて、硬いので……ずん、ずん、って、するのかな……?)
処女を捧げた剛直を、味わうように下の口でしゃぶりつく。男にとってはたまらない、うねるような締め付けで、耐えるので精一杯の男はピストン運動を止めてしまった。
(あは、ぷくって膨らんでる……気持ち良いんですね……)
スピネルはその男の様子に、満足げに笑みを漏らす。
性器で1つに交わることによって、男が自分に向ける、欲望……この女を屈服させたいという支配欲、自分の子供を目の前のメスに孕ませたいという生殖本能、自分が快感を得たいという性欲、それらがないまぜとなってスピネルに突き刺さった性器から、スピネルの魂に響いてくる。
(分かります……あなたの気持ち)
ギリギリで射精を踏みとどまっている男は可愛いとスピネルは思ったが、それはそれとして、スピネルもペニスから与えられる快感に従順だった。自分からゆるゆると腰を振り、つい数分前まで処女だった自分の膣内が、どの場所が一番気持ちいいのかをじっくりと暴き出していく。
入口側すぐの腹の方……クリトリスの裏側のあたりと、やはり一番奥、子宮口を責められるのが一番気持ちいいようだった。とはいえ、まだ加減がわからないスピネルは、男が動かないのをいいことに、くいくいと腰を小刻みに振って子宮口をくすぐるように愛撫していく。
(ああ、本当、すごい……こんなの、全然知らなかった……私のなか、おちんちんでかき回されるの……夢中になっちゃう……♥)
目は開いていても何も映しておらず、ただ男のペニスの感触にだけ没頭していた。性欲によってとろけ切ったその表情は、男のペニスをさらに硬くさせ、スピネルの腰の振りも段々と大胆になっていく。
男は背を仰け反らせ必死で耐えており、スピネルがだらしない笑みを浮かべて大きく腰を振り、ぐっぽ、じゅっぽ、と粘着質な音を立てている。粘つき、泡立った本気汁が次々と滴り、真下の石畳を濡らし、スピネルの太ももを月明かりでぬらぬらと輝かせていた。
ようやく射精感の波を乗り切った男は、スピネルの腰をがっしりと掴んで固定し、今までの失態とかき消そうとするかのように、乱暴にペニスを突っ込んでくる。
「はひっ……! ん、あんっ! あんっ! あひっ!?」
さっきから自分で腰を振っていたスピネルの膣と子宮口はすでに受け入れる準備が整っており、掴まれて腰を動かせない代わりに、ぎゅうっと相手のペニスを膣で締め付ける。
いつもフォルスに抱きつく時のように、その行為には愛がこもっていた。フォルスと二人きりの時、抱きしめた後頬ずりする時のように、膣をうねらせて、処女を捧げたペニスの形を、硬さを、魂に刻み込んでいく。
(なんて……たくましいの……)
その、オスの象徴とも言える立派さに、スピネルは魂の底から心酔した。 どっちゅ、どっちゅ、と男の亀頭が、スピネルの子宮口に直接ぶつかってくる。なんの遠慮もなく、殴るような勢いのそれは、常人なら痛みしか感じられないだろうが、スピネルには体中に響く衝撃が、魂をも揺さぶる情熱的な求愛に思えた。
同時に、さっきよりも強く、相手の魂を感じ取れるようになっていく。先ほどよりも純化され、ただひたすらにスピネルと一つになりたいという強い意思が輝いている。スピネルもそれに応えて、膣と子宮で感じる男の感触にだけ集中する。自分の出生も、響友という立場も、フォルスのこともすべて投げ打って、今ペニスを受け入れている男と、ただのつがいになっていく。
その時、自分の中に新たなる鼓動が芽生えた。
懐かしく、暖かな光。それは、産まれてすぐに感じた、あの日の光。
他の物をすべて捨て去って、セックスのパートナーのことを感じ合うことで、擬似的な響友のようなつながりが生まれたのを、恐らくスピネルと男が同時に感じた。
(ああ、素敵……心が響きあって……貴方に惹かれてる……)
これまでの快感が上っ面でしかなかったかのように、深く、深く、自分の魂が膣に、相手の魂がペニスに変わったかのように、一つに交わって、ドロドロにとろけていく。
名も知らず、顔も見せず、ろくに言葉も交わさずに、スピネルと男は長年連れ添った夫婦をも超えた、濃厚な愛を見るものに印象づけさせるだろうセックスをした。
不意に、男がスピネルの腰から手を離し、上半身に抱きついてくる。そのまま身を起こし、傍から見ればスピネルは立ったまま男に後ろから抱きしめられた体勢になった。しかし身長差から男の方が脚が長く、男の両腕と、ペニスだけで体重を支えることになり、ゴリゴリと子宮にペニスが突き刺さる。スピネルは思わずのけぞって、甘ったるい声で快感を示した。
(うん……私も、貴方と一つになりたいです……もっと触れ合いたい……)
のけぞったことで、スピネルのフードがはだけ、顔がまともに見えるようになる。心を通じ合わせた二人は、示し合わせたように目を閉じ、スピネルは左に首をかしげるようにして、頭の向きを合わせて躊躇なく唇を重ねた。
「んっ……ちゅ……」
スピネルの、ファーストキス。しかし、愛し合うスピネルには、拒むことなど微塵も思い浮かばなかった。グリグリと子宮をにじるペニスの、激しい快楽に灼かれて痙攣を繰り返していた全身が、キスによって安らかな気持ちになることで、リラックスしていく。柔軟さと無防備さを取り戻した膣は、男のペニスを根元まで飲み込んで、さっきよりも一層大きな快感をスピネルにもたらしてくれた。
(頭がおかしくなりそうなくらい、気持ちいい……貴方も、なんですね……)
お礼を言うように、スピネルから相手の唇を割って舌を差し込む。むっとしたタバコの匂い、フォルスとは全く違う口臭。普通ならば顔をしかめて立ち去るような人種のそれを感じて、むしろスピネルは、始めてペニス以外の男の個性に触れた気がして、気恥ずかしく、くすぐったいような感じがした。
こちらの口内を男の舌が撫で回し、スピネルの可愛らしい舌に巻き付き、並びのいい歯を、根元の歯茎をくすぐるように舐め回された。
上あごをそっと舌で撫でられたとき、頭に直接電流を流されたように快感が走り、自分でさえ思いもよらぬようなところに性感のスイッチがあることを男に暴かれたことに、スピネルは恋と同じ種類の、切ない胸のたかなりを感じた。
今のふたりは、この世にたった二人きりのセックスのパートナーなのだから。
(あはっ……兄さまもしらない、私の秘密……貴方が初めて、知ったんですよ?)
のけぞり、濃厚なキスを交わしながら、スピネルは右手を上げて、男の頭に絡みつかせた。背中がのけぞる体勢になり、胸が無防備にさらけ出される。薄く露出の多い、さらには下着を全く付けていない衣装が、スピネルの乳首の勃起を強調するかのように、いやらしいテントを形作っていた。
男が薄目を開ける気配がしたので、目を閉じたままスピネルは上半身を左右に揺らし、ふるん、と胸を揺らしてみせる。決して大きくはないが、十分に女らしい谷間を持つスピネルの、つんと張った男好きのする胸を主張した。
(どうですか……? 私の胸、そんなに大きくないけど……喜んでくれますか……?)
男は両手を離し、完全にペニスだけでスピネルを支える。限界を超えて突き刺さるペニスに、しかしスピネルは深い満足の吐息を漏らした。
くりっ、と勃起乳首を服の上からつままれた瞬間、
「ふあぁっ♥」
今まで留めてきた絶頂の波がほんの少し漏れ出して、目を閉じたままのスピネルの視界が、ちかちかと瞬く。足の先からつむじまでが心地よい電流に包まれ、全身が火照り出す。さらなる大きな絶頂の呼び水になることを感じて、スピネルの乳首は痛いほどに硬く勃起していた。
その反応に気をよくした男は、円を描くように腰をグラインドさせながら、服の下に手を潜り込ませて、スピネルの乳首を嬲り出す。
「ひぅ、あひっ、ひぃんっ!」
たちまち、スピネルは小さな絶頂を繰り返し、その度に感度が上昇するので絶頂状態から降りてこられなくなる。絶頂時に意識が空白になるスピネルはもはや考える能力もなく、惰性だけで男の口を貪り、ビクビクと痙攣する肉人形に成り下がった。
男は乳首をいじれるようにスピネルの上半身を腕ごと抱きしめて、腰を使ったピストンを再開する。いい加減はちきれそうになったペニスからスピネルの一番奥へと精液を吐き出そうと、子宮口をどすんどすんと乱暴につき崩していく。絶頂しっぱなしのスピネルは、乳首から与えられる浅い絶頂から、膣がメインの深い絶頂にシフトするあいだも、うめき声のような意味のない音を喉から出すばかりで、無防備に、貪欲に快楽を貪っていた。
お互いに服を着て、直立している状態でスピネルが後ろから抱きつかれているという体勢なので、動かなければただの恋人どうしに見えるような状況だったが、スピネルの発情したメスの鳴き声と、淫らな上下動、そして男のズボンまでをぐっしょりとぬらすスピネルの愛液が奏でる水音が路地裏に響き渡っている。何人かの出歯亀が既に二人の痴態を曲がり角から凝視し、自慰にふけっている
のを、スピネルも男も、全く気付いて居なかった。
たとえ気付いていてもセックスに没頭するほどに、今お互いのことしか考えて居なかったのだった。
やがて男は、乳首から手を離し、スピネルも重ねた唇を離した。セックスの一つのクライマックスに向けて、性器以外の感覚を取り除いたのだった。再びスピネルの足が地面を踏み、壁に手を付いた。男がスピネルの尻に手を載せて、すばやく腰を振り始める。響きあい、通じ合った二人は、お互いが最高の快感を得られるセックスをして、最大の絶頂へと力を合わせて上り詰めていく。やがて、男のペニスが膨張し、それと同時にスピネルは膣を収縮させた。一瞬の後、すさまじい勢いでスピネルの子宮口に精液が叩きつけられる。
「お゛ーーーーーー、あぁーーーー♥」
可愛らしい声色で、発情した獣さながらに受精を受け入れるスピネルの姿に、出歯亀の何人かが息を荒くし、果てる。
ずるずると、脱力したようにスピネルは壁についた手を上半身ごと下げ、殆ど頭を下にするような体勢になった。最高の絶頂で力が抜けたのは確かだが、それ以上に、精子を子宮に流し込むための体勢だった。毒で受け入れ準備が整った子宮はてぐすね引いて精液を待ちわびている。自分の子宮が喜んで口を開き、未だに脈動を繰り返し膣の奥に精液を吐き出しているペニスから直に子宮に滴り落ちるたび、燃えるような熱さを感じ、魂が性交の果ての報酬に歓喜する。ひとしきり射精が終わって、子宮に重みを感じるほどに精液を蓄えると、イキの良い精子が子宮を弄っているかのように、スピネルに重い快楽が溜まっていった。だが、その感覚がはじけるようにすぅ、と消える。
と同時に、スピネルは毒の支配から解放された。
(………………………………えっ?)
これまでとは一転、冷や汗が流れた。自分が何をやっていたのかは、はっきり覚えている。行きずりの男に処女を捧げ、唇を捧げ、あまつさえ子供ができるような……いやそれ以上に淫らな、子宮で精子をすするようなマネをした。
「あっ……あああぁぁぁ……」
全てフォルスに捧げるつもりだった。にいさまと呼び、生まれた時からずっと一緒だった、最高のパートナー。それを……自分の気持ちを裏切り、毒のせいとはいえセックスがしたいという欲望に流されて、肉欲だけで相手と響友のように心を通じ合わせすらして、太く、長く、硬く、たくましい男のペニスに……そんな感想を抱く所からして、自分が根本から変わってしまったことに、スピネルは恐怖した。身体が震え、身体はセックスの余韻に燃え上がっているのに顔が青ざめていく。今まさに泣き声を上げる、というところで、性器で繋がったまま脱力したスピネルの身体を抱えて、男が近くにあった木箱に腰を下ろした。
「んんぁあぁっ!」
そのままスピネルを性器を中心にぐるりと半回転させ、正面から向かいあう格好になった。対面座位だ。
(わ、わたし……なんてこと、っあ、おちんち、いや、兄さまが、でも、)
混乱したスピネルの頭は状況を飲み込めず、しかし、先ほどまでの恐慌状態は、男のがちがちに勃起したペニスを膣にくわえ込んだまま体勢を動かしたことでこすれる快感によって吹き散らされてしまった。
「んぅっ!?」
男はスピネルを正面から抱きすくめ、再び唇を奪う。今度は反射的に身をよじり、腕を突っ張らせて逃れようとするスピネルだったが、いかに日ごろから実戦を繰り返したスピネルでも、先ほどまで絶頂で頭を真っ白にしていた名残から来る脱力した状態では、男を突き飛ばすことはできなかった。それ以上に、スピネルを困惑させたのは、理屈の分からない響友もどきの関係にある男から伝わってくる、気遣い、慈しみ……スピネルに対する愛の心だった。
(なんなの……やめて……やめてよ……)
ペニスと子宮口でディープキスをしながら、たくましい腕と胸板に抱きすくめられ、全身に残る、事後の甘い余韻がぶり返し、スピネルの心から嫌悪や恐怖という感情を奪い去っていく。
(だめ……私から……私の心から……兄さまを奪わないで!!)
自分のそんな心の移り変わりにスピネルはフォルスを強く思い浮かべて、拒絶しなきゃ、と念仏のように繰り返すものの、口内を蹂躙する男の舌がそっとスピネルの上あごを愛撫すると、強い電撃と共に、スピネルの中でフォルスの面影が遠のいていくように感じた。
んっ、と抑えていた艶めいた声が上がり、スピネルは悲しみの涙を流したい、と強く願ったが、リズミカルなペニスの突き上げを感じる下半身は、既に両脚を男の腰に絡みつけ、足首をくの字にまげてがっしりとホールドし、スピネルの意思に反してセックスパートナーをとっくの昔に受け入れていた。
(ちがう……ちがうの、これは……兄さま……ああ、このおちんちんが、気持ちよすぎるの……!)
突っ張っていたつもりの腕も形だけの抵抗をやめて、単に男の胸に手を添えて居るだけになっている。
(ちがう、私は、兄さまのことだけが、こういうことをするのは兄さまだけで……)
もし自分を外側から見ることができれば、スピネル自身さえ否定するくらいに、スピネルと男は愛し合っているようにしか見えなかった。
抱きすくめられた身体はもはや動かすこともできず、突き上げられるにしたがって溜まっていく快感に、スピネルは意識の表層でだけ恐怖した。
毒の影響のない今、この感覚を認めてしまったら、兄さまを思う自分は完全に壊れてしまうと思った。しかし、セックスを覚えたての若い身体、しかも先ほどまで激しく快楽をむさぼっていた状態でとめられるはずもなく、一突きごとに甘い痺れが全身に奔り、目の前のパートナーと一つになりたいという衝動が芽生えてくる。スピネルはそれを必死に否定したが、押さえ込むほどに快楽の圧力は高まり、背骨から頭にかけて、断続的にジンジンとした痺れに満たされていく。
その全てがはじめての経験だった。
その全てが、たとえようも無く甘美な快楽であることを、魂も肉体も認めていた。
それでも、目の前のフォルスとは違う男に膣で、両脚で抱きつきながらも、スピネルの意思は否定を続けていた。
(ちがうの。こんなの、ちがう……)
男の射精が近いことが、手に取るように分かる。そして、その射精と同時に自分が深く絶頂することも。
意思だけを置き去りに、スピネルの腕が男の背中にまわされ、ついに完全に抱きつく格好になった。目を閉じて、男の唾液を喉を鳴らして飲み込みながら、膣を締めて、男の形を覚えこませるようにわずかに腰を揺らめかせる。
(ちがうの、兄さま……この人の、おちんちんが……すごくて……でも、悪い人じゃなくって。最近はたまたま、良くないことが続いているだけで……)
訳のわからない、知るはずのない弁明を心の中でだけ並べる。現実のスピネルの口は、男の唾液を嚥下するのに忙しかった。
(ああ、くる……一番好いの、とろとろにとけちゃうの、くる……)
先ほどとは違い、静かに射精が始まった。どく、どく、と男の心臓の鼓動と精液を送り込む脈動を感じながら、スピネルの肉体は搾り出すように膣をうねらせて、両脚はそれを補佐するように男の腰をきつく締める。もはや表面上は二人は身じろぎすることさえなく、路地裏には一対のつがいの、荒い息遣いしか響いていなかった。
(満た、される……さい、こぉ…………♥)
抵抗していたはずの意思は、射精による絶頂で簡単に吹き散らされて、残ったのは肉欲に素直になった魂と肉体だけだった。
そのまま、愛し合う二人は射精したままピストンを再開した。絶頂から戻ってこられないスピネルは、もはや抵抗することも無く、たらふく男の精を子宮に詰め込んだ。
そんな調子で4回ほど射精を受け入れたあと、ようやく男のペニスが力をなくし、ぬぽっと音を立ててスピネルの中から抜ける。
スピネルもその衝撃でようやく気を取り戻し、自分の腕と脚が男に絡み付いていること、そして何より、子宮をずっしりと満たす熱い精液の重みを自覚して、取り返しの付かないことをしてしまったことを悟り、ようやく涙を流すことができた。
やりきった、というように脱力している男の、スピネルを抱きしめる暖かな腕はもはやスピネルを拘束していない。
このまま目の前の男に寄りかかって、無防備にセックスの余韻を楽しんでいたいという欲求を踏み潰して、力いっぱいに腕で男を突き飛ばす。
といっても、力の入らない腕では男はほんの少しのけぞっただけだった。スピネルは反動を利用して、先ほどまで世界で一番安らぐ場所だった男の膝の上から飛びのき、愛液と精液で濡れそぼった脚が夜風にふれる冷たさを感じながら、全力で走ってその場から逃げた。
「あ゛っ、う、うううぅぅぅぅぅ」
男の戸惑いが、未だに伝わってくる。体中に残る絶頂の余韻が、引き返してもう一度あの腕に抱かれたいと叫びだす。涙と共にあふれ出る嗚咽が、一体何を惜しんでのことなのかも分からず、全てを振り切って、スピネルは家まで全力で走り続けた。
家をでたのはまだ日付が変わる前だったが、とっくに零時を回っていた。
シャワーを浴びたかった。
さっきまで起こっていたことを、全て無かったことにしたかった。
脱衣所で乱れた着衣を脱ぎ捨てていると、あっという間に部屋の中がセックスの時の匂いでいっぱいになる。自分の本気汁の饐えた臭い。そして男の体臭。タバコの臭い。それらの臭いを、すう、と鼻から吸い込んで、
(……良い匂い)
と心からの感想が浮き出てしまった自分を、否定したかった。
頭から強めにシャワーを浴びる。火照った肌にまだ冷たいシャワーが刺さる。肌の表面が冷たくなっても、体の内側は煮えたぎるように熱いままだった。特に、下腹部……子宮の中の熱さは、目を瞑っているとそれのことしか考えられなくなるくらいに、心地よい熱さを放っている。
腰をゆすれば、たぷたぷと精液が子宮の壁にぶつかって、気持ちよくなれる。直感でスピネルはそう理解する。
パートナーとなるオスもなく、膣にも何も入っていない状態で、子宮を揺らすためだけに独りで腰をふる。どれほど惨めで、滑稽で、無様だろうか。しかし今のスピネルには、そんな誘惑を払いのけるのにも多大なる精神力を使わなければならなかった。
いつの間にかあの男の唾液でぬめって、噛みあとまで付いていた胸を洗い流し、次は自分の性器に指を突っ込む。先ほどとは違って、意思の無いただの性感は、ただの神経に走る電流で、苦痛でしかなかった。そんな感覚でも、未だに興奮の醒めない身体はまた燃え上がろうとする。それを顔をしかめながら無視して、スピネルは膣に挿入した指二本を広げ、精液をかき出そうとした。
(にいさま以外の子供なんて、いや……絶対にいや……!)
子宮の心地よい熱を手放すのか、という心と身体の声を、意地だけで押しのけて、くちゅ、くちゅと自分の膣をかき回す。じっとりと性感で汗をかき、シャワーがようやく熱くなってきてスピネルの身体を温める。しばらくかき回していると、もう精液は出なくなった。
(指じゃダメ……長さが足りない……もっと長くて、太くて、硬くて……)
自分で自慰のようなことをしていたせいで、意思さえも肉欲に冒されていくのを自覚し、はっと膣から指を抜く。結局、どうやっても精液は子宮から掻きだせそうに無いので、あとは普通に頭と身体を洗い、シャワーを終えた。もう、男とのつながりは残滓しか感じられなかった。
脱衣籠の中にあるイブニングドレスから立ち上る匂いをかぐと、先ほどまでの自分に引き戻されてしまう気がして、体を拭いたあとの裸の状態で、足早に自分の部屋に戻る。部屋のクロゼットの奥深くにそのイブニングドレスを押し込んで、さっさとパンティを穿き、パジャマを来て、そのままベッドに入って目を閉じた。
子宮からの熱で心まで暖かくなり、今までに無いくらいに熟睡することができた。
翌日、スピネルの体調は絶好調だった。自分の出自のことも、すとんと腑に落ちるように納得できて、自分の『唯一無二の』パートナーであるフォルスを一生支えていこうと、決意を新たにしたのだった。
そして、それと同時に……スピネルには一つのクセができた。
それは、目を閉じて、自分の下腹部にそっと手を当てるという、なんてことの無い動作だった。もちろんだれにも怪しまれることは無く、フォルスなどはおなかがすいたのかと素で聞いて来て、顔を赤くしたスピネルに違いますー! と否定されていた。
昨日より弱まった子宮の中の熱が、完全に消えるのは……明日の夜ごろだろうか。その時に自分がどういう行動に出るのかに思いを馳せたスピネルは、じゅわりと湧き出てきたよだれを飲み込み、内腿をこすり合わせた。