処女を喪失した日の翌日から、スピネルは自分のさらなる変化を感じていた。
これまで、子宮が疼く快感に良いように翻弄されてきたわけだが、その時期は夜、寝る前の限られた時間だけだった。だからこそ、フォルスには黙って耐えきることを選んだのだ。
だが今、結局は耐え切れずに見ず知らずの男と濃厚に愛を交わし合う、受精快楽に満たされた処女セックスを楽しんだ結果、結局名前を聞くことはなく、顔も覚えてないあの男の精液を子宮に溜め込んだまま、何食わぬ顔でフォルスと仲良く仕事をしている。
昨日もそうだったが、子宮から全身に広がる心地よい快感の波はもはや夜も昼もなくスピネルの心を一日中暖めている。自然と心は前向きになり、笑顔も増える。フォルスに対しても素直に接することができて、今日も腕と腕がぴっとりとくっつくほどに寄り添って見回りをしているせいで、見知った顔に『ついに恋人になったか』と冷やかされても、
「えへへ。そう見えます?」
などと笑って対応していた。笑顔でいられるのが、男の精液を切らしていないからだと、スピネル自身だけが知っていた。こうしている間も、子宮に溜まった精液は、スピネルの卵管に相当数が侵入し、スピネルを孕ませるために必死に泳いでいるはずなのだ。それを忘れたわけではない。だが、フォルス以外の子を孕んでも、おそらくは堕胎するという選択はしないだろう。
(何があったとしても、兄さまは私の赤ちゃんを生まれる前に殺してしまうなんて、賛成するはずがないもの)
スピネルが全幅の信頼を寄せるフォルスが、実際本当のことを全部知った上でどのような判断を下すかは定かではない。スピネルが最もひどい形でフォルスの信頼を裏切って、娼婦でさえない、ただの痴女として男の精を貪った結果の妊娠だからだ。
しかし、それでも、スピネルの心に恐怖や嫌悪の感情は湧いてこなかった。スピネルの母性本能……いや、孕みたがりの淫乱な牝の本性が子宮からの快楽によって増幅され、妊娠することへの忌避感を完全に消滅させてしまっている。
次の瞬間孕むかもしれない状況を全力で賛美する大合唱が体中に渦巻き、これが牝としての幸せなのだとスピネルに刷り込む。
今のスピネルはもう、セックスといえば生で膣と子宮の中に射精を受け入れることであって、避妊具ありなど『本番』なしの耐え難い寸止め行為としか認識していない。
だから、卵管に侵入できずとっくに子宮のなかで息絶えている精子を垂れ流し始めた膣口をナプキンで覆い、少しずつ熱を失っていく現状にあっても、次にすべき行動がはっきりと見えていた。
(はあ……早く精液でおなかをいっぱいにしたいな……これって、全部出してからの方がいいのかな……それとも、ほかの人の精液を混ぜてもいいのかな?)
精液を、混ぜる。つまり、不特定多数の男を、とっかえひっかえして精液を子宮に注ぎ続ける。その想像は、子宮より先に魂を期待に震わせた。心を通じ合わせるセックスの快感に、魂もすっかり味をしめていた。
ここまで背徳的な想像をしておきながら、しかしスピネルはフォルスとセックスする想像を一度もしていなかった。
(兄さまとそんなことをするなんて、まだ早いよね。もっとロマンチックな告白をして、キスをして……それから)
当のフォルスと連れ立って歩きながら、スピネルは花咲くような可憐な笑顔を浮かべる。道行く人がはっと振り返るようなその笑顔が、初恋の人との乙女のような願望を叶えるために、たくさんの見ず知らずの男と妊娠の危険が高いセックスをすることを正当化する想像から来ていることなど、誰にもわからなかった。
一歩踏みしめる度に振動する子宮の感触を確かめながら、フォルスと歩く。最大の元凶が片付いたおかげで街は静かになり、ほとんど見回りや声かけなどの仕事が主になっていたが、しかしスピネルには少々辛い仕事だった。
なぜなら、
(ああ……おなかの中、たぷたぷって揺れるの、気持ちいい……)
子宮に溜め込んだ精液を吐き出さず、時折咀嚼するかのように子宮が収縮して味わう度にメスの本能が満たされ、心ここにあらずの状態になってしまうからだった。
すでに何度かフォルスに、熱でもあるの? と心配させてしまっている。
「だ、大丈夫です。ほ、ほら、今日はあったかいなーと思って、ちょっとウトウトしちゃって。すみません兄さま」
何も嘘は言っていなかった。子宮が暖かいから、男に射精されたときの快感を思い出して恍惚としてしまっている、という本音を解釈できるエスパーはいないだろうが。
スピネルは街を歩きながら、通りをゆく人々を目で追う。
(ステキな男の人、いないかな……)
もはや可憐な乙女なのは表層だけで、道行く男の筋肉や股間の膨らみに注がれる視線は、娼婦が客を見定めるそれだった。
スピネルが誰にも気づかれずにパンティの下のナプキンを精液と愛液で濡らしながら視線をさまよわせていると、不思議な感覚を感じる。
(これ、って……あの時の、繋がり?)
記念すべき処女セックスの相手。
スピネルがペニスで子宮口を刺激されるとどうなってしまうか知っている、今のところ世界でただひとりの男。
あの男と感じた繋がりに似ていて、しかし相手はあの男ではないことをなんとはなしに理解できた。そしてなにより、
(結構多い……)
10、20……いや、もっと。数え切れないほどの、ほつれた糸のようにか細いつながり。この繋がりが実際、どういう理屈なのかはわからない。ただ、確実に言えることがある。
(この先は、全部男の人と繋がってる……あの素敵なセックスを、頭が真っ白になっちゃう射精を、この人たち全員と……できる)
スピネルにとって重要なのは、ただそれだけだった。
ふと見ると、フォルスにもつながっている。他の物より、太く、輝きを放っている。
(この繋がり……響友の繋がりとは、また別にあるんだ。やっぱり、私と兄さまの相性は、抜群なんだ。……うふふ。『いつか』恋人になったら、毎日私とセックスしましょうね、兄さま……早く私を捕まえてくれないと、ほかの男の人の赤ちゃん、産んじゃいますよ?)
そんなことを考えながらフォルスに寄り添うスピネルは、一瞬だけ少女の仮面から牝の笑みを覗かせるのだった。
その後も同じ調子で見回りを続けるうちに分かったことは、スピネルのセックスパートナー候補はなにも人間に限らないということだった。ロレイラル、シルターン、メイトルパ……サプレスの天使には肉の体がないので、反応を見つけることはできなかった。
ビッチそのもののスピネルでもさすがに驚いたのは、
(えっ……馬?)
完全に人外の相手でも、セックスの対象になりうるということだった。大型の犬、馬、豚……当たり前だが一糸まとわぬ姿で、ぶらつくペニスを誇示しながら闊歩する野生の雄との交尾は、経験の浅いスピネルには完全に想像の外の世界だった。
サイズも、持久力も、人間とは比べ物にならない破壊力を秘めているであろうケダモノのペニスに、目が吸い寄せられる。何より、言葉の通じない種族なら、誰にバレる心配もない。
馬のペニスに馴らされるほどセックスを繰り返せば、二度と人間の……フォルスのペニスを受け入れるサイズに戻らないかもしれないのに、スピネルは色とりどりのスイーツを前にした時のように目を輝かせた。
しかし、さすがに言葉の通じない家畜とは、繋がりが弱い。この繋がりの強さと快感がどういう関係にあるかまだ確証はないが、心を通じ合わせる力の強さであるなら、やはり強い方が気持ちいい気はする。
なかなかの相性だった初めての男の精液で、妊娠してもいいと思っているのがその証拠だろう。
(ううん……まあ、人型の男の人を相手にすることにしよ……)
ちなみに……言葉の通じない相手ならばフォルスにバレる心配はないが、リィンバウムとそれを取り巻く4つの界のオスとメスは、基本的に無節操に子作りができる。もし妊娠して、出産すれば……何と交尾したかは丸分かりだ。
が、さすがに馬や犬と天使のあいだで子供が出来たという話は聞いたことがない。身近な例では、人間の雌と狐の雄のあいだの子供(の子孫)であるソウケンがいるが、あれは知能の高い妖狐であって、人間がケダモノのように動物と交尾した例とは言えないだろう。
(でも、あの体格だし、相当おちんちん大きかったんだろうなあ……ソウケンさんのご先祖、気持ちよかったんだろうなあ……)
子供が作れると言っても、もちろん響界種(アロザイド)を孕む確率はかなり低い。同じ人間型でない場合は、さらに落ちるだろう。であれば、相当な回数ケダモノセックスをして、その果てに懐妊したに違いない。
そんな想像をしていると、スピネルも早くセックスをして、精子を溢れるくらい注いでもらいたくなってきた。
どうせ孕みにくいから、ではなく……むしろ、せっかくたくさん注いでもらうんだから、受精しないかな等と、とんでもないことを考えていた。
下腹部に手を当てて、ほかの男とのセックスを夢想しながら、フォルスとの通常業務は和やかに過ぎていった。
その日の夜。シャワーを浴びたスピネルは、珍しくソファに座って何か読んでいるフォルスの横に、パジャマの一番上のボタンを外して座った。
自然に腕を絡め、胸を横から押し付けて、むにゅりと谷間を作る。
「兄さま、何を読んでるんですか?」
「わわっ、スピネル!? ……コホンッ、これはほら、冥土の事件の
報告書だよ。僕たちの供述を、ソウケンがまとめてくれたんだ」
なるほど、確かにフォルスとスピネルの供述という項目があって、その中の文章も自分が喋った覚えがある。……男を知らなかった時の自分の言葉を、どこか遠い人のように思いながら、スピネルは声のトーンを落としてさみしげに微笑むフォルスにそっと寄りかかった。
「元気を出してください、兄さま……兄さまには、私がいますから。どんな時でも……何があっても、一生そばにいます」
たとえ、ほかの男を喜んでくわえ込むビッチになっても、スピネルはフォルスの響友だ。この愛だけは、捨てることはしないと改めて心に決めたのだった。
「うん……ありがとう、スピネル。……っ!」
フォルスが息を呑むのが伝わってくる。熱い視線が、ボタンを外したパジャマの襟から覗く胸の谷間に注がれているのを感じて、スピネルはノーブラの乳首を硬く勃起させた。
顔を上げて、赤くなったフォルスの瞳を覗き込む。
ふい、とフォルスが視線をそらした。
「どうしました、兄さま? ……ふふ、こっちを見てください?」
ほんのりと頬が紅潮しているのは、シャワー上がりのせいばかりではない。聖母のような……というには色気の有りすぎる、柔らかい笑みを向けて、絡めた腕に少し力を入れ、より胸を押し付けて谷間を強調する。フォルスの腕に乳首が圧される感触で、スピネルは既に愛液を滴らせていた。
「ん、うん……あ、いや、僕はほら、報告書を読まないと……」
耳まで赤くしながら、報告書に目を落とす。
「じゃあ、私も兄さまと一緒に読んでいますね」
フォルスの肩に頬を乗せて、スピネルも報告書に目を向けた。それから数十分ほど、スピネルの幸せな時間は続いたのだった。
「さて、それじゃあ今日はそろそろ寝ようか」
まだほのかに赤い顔で、フォルスがそう言った。
「はい、兄さま。おやすみなさい」
スピネルも、にっこりと笑って、二人はそれぞれの部屋に入っていった。パタン、と扉を閉じて、スピネルもベッドで横になる。
フォルスが寝入るまで先ほどの感触を思い出しながら、にこにこと無垢な少女の笑みを浮かべていた。
腹時計ならぬ、胎時計とでも言うべきか。スピネルは子宮が男の精を欲する感覚で、閉じていた目を開いた。
「ん、兄さまは……もう眠っちゃったよね」
むくりと体を起こし、ベッドを降りて化粧台の椅子に座る。鏡に映った、ウェーブのかかった自分の髪を見やる。
(髪型で、もっと印象を変えたほうがいいかなあ?)
言うまでもないが、ユクロスの職員であり、フォルスともどもそれなりに顔が知られているスピネルが売春にはまっているなど、スキャンダルもいいところだ。バレればフォルスに迷惑がかかるのは明白だった。
(もっと、こう……ストレートにして……もしもの時に備えて、髪で顔の横を隠す感じ?)
そもそもが、フォルスに正直に事を話して、抱いてもらえばいい。
(下ろしたほうが大人っぽいかな? 先の方を一つにくくって、前に垂らして……うん、ふふっ、結構いいかも♪)
スピネルは、嬉々として身支度を進める。うっとりと微笑むその表情は、先ほどとは別人のように淫らで、そして数段に生き生きとしていた。
(そうだ、前はバタバタしてたけど、今度はちゃんとお化粧しよう)
リィンバウムには、例えばフローテのような肌色が根本から違う人種がたくさんいるため、ファンデーションから全部、それぞれに合わせた色の化粧品が求められる。といってもセイヴァール以外だと品揃えは完璧とまではいかないが……スピネルの肌はリィンバウムの人間と同じだし、髪などの体毛の色もサプレスの天使には珍しくはない紫系の色だ。
外歩きが多い仕事柄であるのと、そもそも化粧の必要などないくらいきめ細かく美しい肌を持つスピネルは、フォルスに
「化粧なんかしなくても十分可愛いよ」
とおだてられたこともあって、普段は化粧をしない。だが、淑女のたしなみということで、フォルスの母親から定期的に手紙で化粧用品が送られてきていて、学生時代の長期休暇の時には、里帰りして手ほどきをしてもらったこともある。なので、一応一般的な化粧品のたぐいは持っていた。
最近、男を知ったせいかさらに艶とハリが出てきた肌に、あっという間に化粧下地とファンデーションが乗っていく。外見的にはまだあまり変わらないとスピネルは思うのだが、しかし肌の色を変えることは正体を隠すことに一役かってくれるだろうと思い、少し地肌より濃い目のファンデーションを選んだ。
クレシアあたりが見たら嫉妬しそうなほど、綺麗に化粧がのっていた。
(そうだ、念のため、眉毛も書いておこうかな。私の眉毛って結構特徴的みたいだし。兄さまは可愛いって言ってくれるけど……それでバレちゃうのはヤダな)
鼻歌を歌いながら、自分の眉色に合わせたラインを引く。
(口紅……どうしようかな。あんまり特徴的過ぎてもダメだし、前と同じで紅にしておこっと)
んーっ、と口を開けながら、口紅を引くスピネル。誰かがこの光景を見ていたら、それだけでスピネルが売春をしていることがバレてしまうような、まるでフェラをしているときのようないやらしい表情で、口紅をなじませていく。
(あとは、香水……バニラのやつが……ん、まだ残ってる。私を食べて、なんて……ふふっ)
ニヤニヤしながら、首筋に軽く香水を吹きかけた。
「んっ、これでよし♪」
遠足に行く直前の子供のように上機嫌で、スピネルは立ち上がり、スルスルとパジャマを脱ぎ捨てる。
(パンツは穿いたほうがいいのかなあ? あんまり大人っぽいやつって持ってないんだけど……)
今つけているものは、無地の白い綿パンツだ。色気もそっけもなく、まさに家用、寝るときに楽な一品だった。
普段の仕事の時は、フリルのいっぱい付いた可愛らしい白のパンツを履いている。もちろん誰かに見せるわけではないのだが、自分に対する気合の入れ方というか、見えないおしゃれだ。
そう思うと、『せっかく』娼婦をするのに、いつもノーパンというのは、なんというか……しまりがないというか、恥ずべき事のように思えてくる。
(お給料は貯金してるし、家賃があるからあまり無駄遣いは……でも、うーん……)
金遣いが荒くなってフォルスにバレるのも、やはり宜しくない。
(はあ。今日のところはノーパンで行こうかな。……あっ、そうだ、男の人からお金を貰えばいいんだ。そのお金で、必要なものを買えばいいよね)
セックスすることが主目的であるため、売春という行為で得られる当然の報酬のことを失念していたスピネルは、なーんだ、とおかしげに笑って、例のイブニングドレスをさっと着た。これも昨日、フォルスに隠れて洗い、乾かしたものだ。デザインは大胆だが、割と安物で化繊製なので、乾くのが早くて助かった。
(そうなるとお金を入れるお財布が必要なんだけど……ドレスにポケットなんかないし、うーん……いいやつが見つからないなあ。こういう時薄着って困っちゃう)
シックな色合いの、ちょうどいい小さなバッグの持ち合わせがない。
(現金をむき出しで持ちたくないんだけど……今日は仕方ないかな)
安物でもいいから早く買おう、と決めた。そして、そのほかに必要なものを指折り確認する。
(んー、ドレスと、口紅と、パンツ……ブラは必要かなあ? 胸元の開いたのを着るならいらないよね。ふふっ、それでそれでぇ、色は統一したいな♪ パンツはレースの薄くてスケスケしたやつで、うんと色っぽいのを穿いて……♪ アクセサリも買おうかな? あまり買いすぎたら怪しまれるし、ひとつだけ……イヤリングか、ネックレス? 指輪はいつか兄さまにプレゼントしてもらいたいからやめといて……髪留め……うん、髪留めに、しようかな……)
フォルスの響友としての自分。
娼婦としての自分。
髪留めを変えることで、すべてを切り替えられるような気がした。
男を漁り、精液をすする行為に、もっと没頭できる、そう思った。
(あ、そだ、ベールをもっといいやつ買わないと! おっきい絹のハンカチじゃいくらなんでも……あと靴も。ハイヒールは一応持ってるんだけど、白いのしかないし……ストッキングまで全部色を統一しちゃお。太ももまでのストッキングで、 ガーターベルトで留めて……♪)
凝り固った情欲を思わせる笑みはすぐに消え、娼婦としてのこれからの予定を嬉々として立てながら、身支度をてきぱきと済ませていく。
布のベールで目元までを隠した一人の初々しい娼婦が、キョロキョロと自宅近くの住人に見つからないように気をつけながら、逞しい男のペニスを夢見る淫らな笑みを口元に浮かべて、足取りも軽く夜の街に消えていった。
セイヴァールの夜は、実は結構な監視社会だ。
なぜなら、街を照らす街灯には、シルターンの住人であるオニビの発光を利用しているからである。重労働に見えて、実は寝て光るだけで賃金がもらえるのでものぐさな性格のオニビには人気があり、声をかければ夜道を送ってくれるサービスもやっているので、女性と知り合いたいナンパなオニビもたまに志願する。まあ、大抵は酔っ払ったおじさんのサラリーマンを送ることになるのだが。
そんな事情から、スピネルはオニビの街灯がある通りを徹底して避けて通った。個体の識別方法など、リィンバウム人のように外見が主になるとは限らないのだから。メイトルパならば匂いで、ロレイラルならばより詳細なスキャニングで、サプレスならば魂の色で、シルターンは統一されていないが、達人ならば生体が発する『気』というものを感じることができるらしい。
そういう事情から、スピネルの『お相手』にはリィンバウム人、中でも直感とかいった力が低いらしいニッポン人の末裔が一番好ましい。もちろん響界種でないのならリィンバウム人やシルターンの一般人も候補に入る。
(だれにしようかな……♪)
いずれにせよ、スピネルのやることは単純だ。新しいスキルのおかげで自分と相性のいい人間を、ピンポイントで見つけることが出来るので、今日の気分に合わせて咥えたいペニスを選ぶだけである。
昼間は全方位から感じたセックスパートナー候補達とのつながりは、期待通りというべきか、スピネルの進行方向に3割くらいは集まっていた。色町で定期的に女を抱いている、『上手』な男達だ。独り裏路地を歩きながら、舌なめずりをする。この角を曲がれば、最初の候補の男がいるはずだ。高鳴る胸を抑えながら、スピネルは暗がりから顔だけ出して、向こうを伺った。
はたして、スピネルの視線はすぐにお目当ての男を見つけた。そわそわと、娼館から少し離れたところをうろついている。
背格好は……フォルスと同じくらいだろうか。一目見てわかるくらい、場馴れしていない、純朴そうな青年だ。ますますフォルスを思わせる。
(兄さまも、えっちなお店に行くとしたらあんな感じになるかも)
そんなお店に行くなんて私が許しませんけどね、と忍び笑いをして、スピネルはさっさと角のむこうに歩き出した。こつ、こつとヒールの音が響くと、スピネルもさすがに緊張してくる。
(ああ、……これから、あの人にセックスしてください、って頼みに行くんだ……♪)
忌避感ではなく、完全に期待の色で瞳を潤ませて、ゆったりと歩いて近づいていく。
青年はかなり神経質になっていたのか、後ろから近づく足音に気づき、あと3メートル程のところでスピネルの方を向いた。ごくり、と喉が鳴るのが聞こえ、スピネルの露出した胸元と、輝くようなむき出しの太ももに鋭く視線が突き刺さる。
(うふ、なんだかかわいい……)
奇しくも、寝る前にいちゃついたフォルスと同じような反応だ。
(ん……この人が、いいな……)
輝きは常人並といったところだが、みずみずしい色の魂だと思う。激しくも、優しそうな性欲の全てを、スピネルが受け止めてあげたくなった。
「あの……」
近くで声をあげると、青年がびくりと震える。
「なっ、なん、でしょうか?」
どうみても娼婦という相手にも、思わず敬語が出てしまう、その初々しさは、ほかの商売女がどう思うか知らないが、スピネルには好印象だった。
「私を……買ってくれませんか?」
何気ない動作で、スピネルはもう一歩青年に歩み寄り、そっと青年の手を取った。恋人にする以上に、いやらしく指を絡める。青年の顔が一気に紅潮し、目が見開かれる。
「ごくっ……はっ、はい、よろしくお願いします」
絡められた指をギュッと握り返すその力も優しく、スピネルは顔をほころばせた。ぎくしゃくとした動きで、手を引かれながら歩く。その腕を引き寄せて、男にしなだれかかるように腕を絡めた。数時間前にフォルスと腕を組んでいた時より、さらに大胆に胸を押し付ける。横目で見ると、もう青年の股間はパンパンに膨らんでいた。 自分の魅力を証明できたようなその膨らみを、撫でさすってあげたい衝動をこらえながら、フォルスより筋肉の少ない腕の感触を感じて歩く。
その方向は路地裏とは逆だ。どこに行くのかな、とワクワクしていると、以外にすぐ目的地はしれた。
(あ、ラブホテル……そっか、普通は外でしないよね)
初体験を路地裏で済ませたスピネルは、娼婦としての初の客に、始めて入るラブホテルで抱かれる数分後の自分を想像して、熱いため息をついた。
入ってみると、ラブホテルというものは、いかにもセックスをするための空間なんだと思った。
シャワー室はマジックミラーで丸見え、ベッドの枕元にはコンドームの箱、ピンク色の光をミラーボールがキラキラと反射している。
ほー、とスピネルが見上げていると、青年が上ずった声でしゃべりだした。
「こ、こういう雰囲気って、嫌いだったかな?
ニッポン式、らしいんだけど……」
ふと気づいて振り返り、スピネルは正直に答えた。
「いえ……こういうの初めて見たから、面白いなって思います」
普段なかなかこんなことを考える機会はないが、確かにピンク色のキラキラが視界いっぱいに広がっていると、不思議なもので、なんとなくいやらしい印象がした。
まあ、それと関係なくスピネルは家を出た時からずっと出来上がっていたのだが。
「ふふ……早速、しますか?」
待ちに待ったセックスを前にして、スピネルは笑みがこらえきれなかった。
「あ、ごめん、最初に聞かせてくれ」
そのスピネルの出鼻をくじくように、青年が待ったをかける。
(もう、マイペースなところまで兄さまに似てなくていいのに)
相手に気付かれない程度に唇を尖らせて、きつくならないように、小首をかしげて声を上げる。
「なんですか?」
うん、と青年は鼻をちょっとかきながら言った。
「ぼ、僕はその……あまり慣れてなくて……あの……値段って、どのくらいになるのかな? あっ、もちろん、出せる額なら文句なくださせてもらうよ」
つっかえつっかえ話す青年の言葉に、
(あっ、どうしよ)
スピネルもまた戸惑っていた。
(こういうのって、男の人がこう……終わったあとにお札をパンツにねじ込んで、『取っとけ』みたいな……)
かなりヤクザな、偏ったイメージを想像していたスピネルは、自分が何をするのか、完全にノープランであることを痛感した。
(前みたいに目と目があったらぐわーっとセックスが始まって、ずぽずぽしてもらって、全部出し終わったらお金をもらって……ってなるとばかり……)
セックスのことしか考えない弊害が出たようだ。今はまだ少し子宮に余裕があるから、思考できなくなるほど発情しているわけでもないのに、考えなしだった。
黙ってしまったスピネルに、青年はしどろもどろになりながら続ける。
「あっ、ぷ、プレイとか時間ごとに料金が細かく決まっているなら、それも全部言ってくれていいから!」
(プレイごとの料金! そういうのもあるんだ……ますます悩んじゃう……というかどんなプレイが一般的なのかも全然わからない……どのくらいの時間が一般的なんだろ? 2、3時間位かけてたっぷり注いで欲しいんだけど……困ったなあ……)
だが、これ以上黙っているわけにも行かない。青年を慌てさせるのも気の毒だし、いい加減怪しまれるだろう。
「んっ、その……貴方の、好きなようにしてくれていいですよ?」
「えっ」
まくし立てていた青年の、動きが止まる。
「して欲しいことがあったら……あんまり痛いこと以外は、なんでもしますし……時間も、夜が明けるまででなければ、満足するまでいくらでも……料金は……全部終わったあと、貴方が好きにつけてくれて、構いません」
「…………」
青年は目を見張り、押し黙った。スピネルは、まずいことを言ったのか、内心ビクビクしながらも、表面上は口元の笑みを絶やさずに、次の言葉を発した。
「あ、でもふたつだけ……お願いがあります。私のベールを剥いで顔を見ないことと、射精する時は、なるべく膣の中に注いでもらえると、その……嬉しいです」
ぱくぱくと口を開いたり閉じたりする青年と、スピネルはベール越しに視線を交わしあった。
スピネルのあずかり知らぬことだが、この時青年は、本気で美人局の可能性を疑っていたのだ。
美しい声、みずみずしい肌、体格から想像するに、まだ少女と呼んでいいほどに若々しい感じがする、極上の娼婦だ。大枚叩いてさっき入るかどうか迷っていた店に行っても、これ以上が出てくるかどうか。
セイヴァールの性産業は世界的に有名で、齢数百歳の幼女のような外見の娼婦とか、悪魔や天使、各種獣人、セクサロイドに妖怪娘などなんでもござれの美人ぞろい……というのは、青天井の料金と引換である。『通』ならばモグリの街娼に掘り出し物を探すのだとか、怪しげなガイドブックに書いてあった。
――だからって、これは信じていいのか!?
ちょんと小さい鼻がベールのギリギリ下にあるのが見える。スマートでありながらもぷにぷにと柔らかそうな頬、可愛らしい、と言っていい小ささのプリプリとした唇、控えめながらハリのある前を向いた乳房の頂点には、ドレスの上からわかるほどテントを張っていて、完全に『やる気』なのがわかる。それでいてどこか清楚さを感じさせ、先ほどのやり取りも、娼婦とは思えない柔らかく、世間ずれしていない素直さだ。
数瞬、逡巡してから……青年は決断した。
「わ、わかり、ました。お願いします」
お願いします、とスピネルも頭を下げ、ラブホテルのベッドの前で頭を下げ合う奇妙な図が生まれた。
「さあ……それじゃ、どうしますか?」
とさ、と浅くベッドに腰掛けて、スピネルは徐々に脚を開いていく。
(はあ……こんなはしたない格好、こんな時じゃなきゃ絶対できないよ……)
セックスをするための空間の雰囲気に背中を押され、ビッチらしく男を誘いながら、スピネルは自分の魂の色が部屋のピンクと同じ輝きを放っているような気になった。
裾を極端に短くしたドレスは、すでに青年に、スピネルの股間の茂みといやらしく糸を引いたとろとろと愛液を溢れさせる膣口を見せつけている。
青年の食い入るような視線の熱が映ったように、スピネルはますます体中が火照っていく。
鼻息も荒く、青年は無言でスピネルの前にひざまずき、ヌメつくヴァギナにしゃぶりついてきた。
「ふああああああぁぁっぁぁっ♥」
二人目の男。前の時には発情しすぎて訳がわからなくなっていたから、はっきりと自分の意思を持ってくわえ込む最初の男でもある。
まだまだ経験が浅く、毒のせいで感度ばかりが最高に高いスピネルは、慣れない青年のクンニでも面白いように快楽を与えられていく。演技かどうかなど考えるまでもなく、透明だった愛液が白く濁り、
味が濃くなっていくのを青年は鼻息あらく飲み下した。
しゃぶりついた直後から、部屋中にスピネルの甘い声が響く。野外でやっていたらたちまち取り囲まれて視姦されることだろう。この照明の下ではわからないが、スピネルの外陰は薄いピンク色だった。その周りを包む肉はまるでマシュマロのように柔らかく、青年は頬ずりするように顔をこすりつけ、新品に近い極上の恥丘のやわらかさを味わう。スピネルにとっても快感であるらしく、早くもガクガクと脚を痙攣させながら、一層高い声をあげ、
喉を晒してのけぞり、さっそく絶頂しているようだった。
ぱっかりと開いたスピネルの両脚を、下から青年の腕が尻のすぐそばに絡められる。ぐい、と力を入れて、スピネルの脚を強引に閉じさせた。青年の両肩に、スピネルの太ももが乗る形になり、スピネルの細い太ももが青年の顔を挟む。
全方面をスピネルの柔肉で包まれた青年は、ますます激しくその感触を味わいながら、ぢう、と音が出るほどに膣を吸い上げた。
「うあっ、あああーーーっ! ひゃひぃいぃぃぃっ!」
ペニスの挿入で感じる大きなうねりのような快感とは違った、子宮口を突かれるのにも似た鋭い快楽がスピネルをおそう。
(おっ、おまんこしゃぶられるの、すごいっ! こんなの初めて……♥)
やがて青年は口を話すと、今度は少し上に口を持ってくる。
「あっ、そこっ、そこだめ♥」
オナニーをしないスピネルでも知っている、女の急所……ぴんと硬く勃起して、しかし皮をかぶったままのそこを、青年の舌がそっと包み、唾液でベトベトにしてから完全に口の中に隠れてしまう。
「ひあぁっ!? あっ、あーーーーーっ!」
バチバチと、あるいは衝撃だけならセックス以上かもしれない強力な快楽が、スピネルの意識を灼いた。すでに嬌声は絶叫となり、青年の舌の動きに合わせて奏でられるその淫らな音楽は、ラブホテルの一室にはピッタリだった。
息もできない程の快楽にはふはふと息継ぎをしながら、スピネルは、心の中に物足りなさが募っていくのが分かった。
(この、感じ……前の……我慢に我慢を重ねた時の、真っ白になっちゃうのと、同じ……)
子宮が激しく疼き、男が欲しくてたまらないと叫ぶように膣口がパクパクともの欲しげに震える。
7回絶頂した時、ようやく青年は口を話してくれた。何か言われる前にスピネルはするりとドレスを脱ぎ去り、靴を脱ぐ。ストッキングは今日は穿いていないから、ベールを除いて一糸まとわぬ姿だ。
尻餅を付くようにベッドに腰掛けて、肉の花が開くように惜しげもなく股を開き、太ももを抱えるように下から回した両手で、むにゅうぅとやわらかな股間の肉を両方から引っ張って、とろとろと白いよだれを垂らす膣を青年に見せつけた。
青年も待ちきれないというように急いで全裸になりはじめる。ぼろりと飛び出たペニスは、昨日の男よりも小さいが、平均よりやや上だろうか。しかしスピネルは多少小さいからといって落胆などしなかった。
(ああ……早く、あなたと繋がりたい……)
あの、魂までとろけるような、セックスならではの一体感。見知らぬ男の体温と匂いに包まれ、女としてすべてを委ねる安心感と、その果てに精を注がれる、最高の多幸感。
理性を飛ばしていた前回とは違う、もはや自分のはっきりとした意思で、スピネルは男に抱かれたかった。あの感覚を、じっくりと味わいたかった。
男が脱ぐ間の時間も、興奮を高めるスパイスのようにスピネルの気分を昂ぶらせてくれる。口元が緩み、よだれがキラキラとピンク色の照明を浴びて輝いた。
ついに脱ぎ終わった青年が、ペニスをビンビンに勃起させて、スピネルにのしかかった。こわばった表情をみて、スピネルはふわりと両手で青年の頬を包むように触れ、柔らかく微笑む。照れくさそうに青年も微笑み返し、勃起もさらに強くなった。左手をスピネルの脇の下につき、右手でペニスを支えて、濡れそぼったスピネルの膣にくちゅりと押し当てる。亀頭で嬲るように膣口を探るその動きに、スピネルの鼓動が早鐘をうつ。目の前の男にすべてを委ねる証を立てるように、先程まで青年の頭を挟んでいた両脚を、腰に絡ませた。
「い、いきます……!」
探り当てた愛液の湧き出す泉が、青年のペニスによって栓をされ、ぶしゅ、と水音を立てる。
「うあぁっ!!」
スピネルではなく、むしろ青年の方が堪えられないといった風に声を上げる。経験人数一人、生娘同然のスピネルの膣は本人の意思に関わりなくまだぴったりと閉じていて、みずみずしい肉壁は青年のペニスを容赦なく圧迫し、押し出そうとする。それと矛盾するように全方位からキスの雨を降らせるかのように吸い付き、奥へ奥へと飲み込もうと淫らな蠕動を初め、青年の想像を超えた快楽を惜しげもなく与えていた。
ここで情けないところは見せられない、と男の意地で歯を食いしばってスピネルの膣を割り開いていく青年をふと不思議な感覚が襲った。目の前の女から……暖かくも淫らに粘つく、情愛とでも呼べばいいのか、そんな感情が、ダイレクトに感じられるような錯覚を覚える。 錯覚だと思ってはいても、目の前の不思議な女が、本気で自分のことをセックスの相手として求めていることが真実のように感じられて、青年は無性に嬉しくなった。ベール越しにキラキラとセックスへの期待に輝く少女の双眸を見た気がして、場違いな感動と、この美しく淫らな少女がとても愛おしくなってくる。
ぬぷぬぷと奥深くへ侵入しながら、青年はスピネルと、そっと唇を重ねた。初めて恋に落ちた少年少女が交わすような、触れ合うためのキス。お互いの愛を確かめ合うためのそのキスに、スピネルはベールを挟んで青年としっかりと目を合わせ、ちゅ、と自分から軽く唇を吸うことでその求愛に応じた。
スピネルが応えたことで青年の緊張がすっと溶けてなくなった。両腕で優しくスピネルを抱きしめ、二人は完全にお互いしか見えていない、セックスに没頭するための体勢になった。
ずん、と一息に青年が根元までペニスを沈めると、ちょうどスピネルの子宮口とふれあい、鈴口と子宮口が、唇よりも濃厚なキスを交わす。
(ふあぁ……貴方のおちんちん、私のおまんこのサイズピッタリ……)
前回のような、奥を突き上げてさらに食い込んでくるような巨根ではないが、切ない恋心のような愛を交わすセックスにはふさわしく、スピネルの魂をとろけさせる。
青年はぎゅっとスピネルの肩を掴んで、ゆっくりと腰を引いていく。全身を優しく愛撫されるような、暖かいセックスに、スピネルの膣が切なく震える。
こうしている間にも、青年のなかの獣欲は膨らみ続け、それを必死に抑えているのが伝わってくる。それをこらえることができているのは、
――好きだ。
という、強い意思。
本気でスピネルに心奪われ、切ない恋心を一心に目の前の少女にぶつけ、体だけでなく心も欲しいと求愛している。それに対してスピネルは。
――私も、貴方のことが好きです。
なんの躊躇もなく、真っ直ぐに青年に愛を注ぐ。フォルスのことももはや遠い彼方の出来事に感じ、今は目の前の青年だけを本気で愛していた。……それがセックスの間だけだと言う事も、うっすらと理解していた。
それでも、純粋に心と体で繋がった愛を少しでも永く引き伸ばそうと、二人は浅くキスをして、ゆったりと、膣壁とペニスがくっついて動くほどじれったい、スローなピストンを続けた。
スピネルの極上の膣のうねりは、青年の忍耐をつき崩し、本能的に射精に誘っていく。だんだんと膨らみ、限界が近いことをはっきりと感じさせるペニスを待ちに待ったと揉みほぐす膣と子宮に対して、スピネルの魂は名残惜しささえ感じていた。
(全部、私の中に注ぎ込んでくださいね……♥)
ちゅ、と射精を促す挨拶のように唇を吸い、首に絡めていた両手を解いて青年の腕をくぐり、腰の裏に回す。脚に少し力を入れて、尻を持ち上げてから青年の尻の少し上を怪しくも優しいタッチで撫で回すと、それが最後の堤防を決壊させたように、びゅくびゅくと射精が始まった。
(とっても濃い……溜めてたんですね……何回でも、全部、私の子宮に吐き出してください……)
愛を誓いあった二人は、当然のようにペニスを真下近くに向け、膣口が上を向くように尻を上げて、しかし唇は優しく重ねたままで、一番奥にぴったりと鈴口と子宮口をくっつけて、身じろぎもせず射精に集中していた。ぷりぷりとゼリー状の精子が重力にひかれ、子宮口をぬめるように通過する。先客である、スピネルの処女を奪った男の精液と混ざり合い、どちらもスピネルの子宮を悦ばせる糧となった。
何分そうやって精液を注がれていただろうか、やがて射精を終えた青年は、力尽きたようにぶるぶると震えて、
「ぷはっ!」
のけぞるようにスピネルから体を離し、ぬぽんっ、と半勃起にまで縮んだペニスを引き抜きながらベッドに尻餅を付いた。そのまま天井を仰いで荒い息を繰り返している。スピネルも、それから1分ほど、夢見心地でまんぐり返しの体勢で余韻を味わっていたが、ふと目覚めて青年を見やる。
(お疲れ様、です)
だらりと垂れ下がり、スピネルの愛液でヌメる青年のペニスを見つめた。体を起こし、四つん這いで青年に近づくと、あぐらをかくような姿勢の青年の両膝に両手をつき、顔だけを突き出して、
「んっ、ちゅうぅ♥」
舌先でペニスを持ち上げて、吸い付いた。
「うああっ!」
たまらず声を上げる青年だが、もちろん制止などしない。スピネルの愛の籠った後戯を息を荒くして享受する。
ちゅぷ、ちゅぷ、とスピネルはあくまでもゆっくり、労わるように青年のペニスを舌で、頬の内側で、愛撫する。
(お疲れ様です……でも……もうちょっと、できますよね?)
そんな気持ちが青年に伝わったのだろう、早速硬度を取り戻しつつある青年のペニスは、尿道に残った精液をスピネルの口内にあふれさせた。
(これが……お口で味わう精液なんですね……)
あくまでも、精液を欲しているのは子宮だ。だが、愛しい男のペニスをほおばり、さっき注いでもらったのと同じ精液をすすっていると、魂の深い部分が満たされるようにスピネルには感じられた。
(美味しい……精液、美味しい……)
下でも上でも精液の味を覚え、ちゅうちゅうと頬をすぼめて吸い出すスピネル。すぐに青年のペニスは先ほどの最大硬度を取り戻した。
四つん這いになったスピネルの肩を抱き、背中を向けて寝そべらせる。ぺたりとおなかをつけて寝そべったスピネルに、青年が同じ体勢で上から覆いかぶさり、ぴったり密着しながら挿入した。
先ほどの、体を絡め合う正常位も良かったが、寝そべって後ろから犯されるのもまた違った快楽をスピネルに与えた。
(貴方のあったかさ、全身に感じます……♥)
青年は首筋や耳にキスの雨を降らせ、抱きしめた両手でベッドのマットに押し付けられたスピネルの乳首を転がしてくる。対してスピネルは、うつ伏せに寝転んでいるためほとんど何もできない。青年が一方的に、スピネルに奉仕している。
(さっきのお返し、ですね……嬉しいです)
お掃除フェラの返礼としての、奉仕セックスを、力を抜いて受け入れることにした。寝そべったスピネルに、青年があの手この手で快楽を与える、その一つ一つを無防備に味わい、何度も絶頂を繰り返す。意識を真っ白に飛ばして、寝入ってしまいそうな快楽の海をたゆたう。
やがて、青年の二度目の射精を受け、うっとりと目を閉じて精液を子宮に収めると、スピネルは肘をついて身を起こし、猫のように自然な四つん這いで振り返り、もう一度……今度はまだ天を向いている青年のペニスにしゃぶりついた。
先ほどと変化をつけて、口いっぱいにためた唾液を利用して、頭ごと上下動させてぬるぬると、唇のリングでペニスをしごき立てる。尿道に残った精液をまず搾り取るための動きだ。喉を鳴らして精液を飲み込むと、亀頭を咥えたままで動きをとめ、口内でゆっくりと舌を使った愛撫を行う。
絶頂のあとで敏感になった粘膜を労わる愛の籠ったフェラに、青年は身をゆだねた。もちろん再度硬さを取り戻し、無言のままにセックスを再開する。今度はもう一度正常位で、青年は直前までペニスをしゃぶっていたスピネルの
唇に躊躇なく吸い付き、今度は舌を割り入れてきた。スピネルも目を閉じて
ディープキスを受け入れ、ずん、ずんとさっきより早いペースの突き上げに
身を任せ、膣をもみくちゃにされる感触を愉しんだ。
愛に満ちたそのセックスは、6回目の射精の脈動の時、青年のペニスからもはや精液がでなくなり、今度こそ本当のお疲れ様というスピネルのお掃除フェラが10分ほど続いた時、ようやく終わった。
今、スピネルは青年の腕の中でベッドに寝そべっている。心地よい疲労と子宮を包む満足感が全身に広がり、このまま眠りたいと思った。
しかし、それは出来ないことだ。
「……あの、」
「あっ……うん、ごめんね。仕事……なんだよね」
心はまだ、繋がっている。スピネルの魂の揺れが、青年にも理解できたようだった。
「えっと……ああ、そうだ。お金、だね……うん」
青年は未練がましく、スピネルを腕で抱いたまま財布に手を伸ばした。スピネルも青年に協力して、裸の胸を押し付けるように青年に抱きつき、共に移動する。
「じゃあ……これで、いいかな」
財布から出した金額は、かなりの額だった。
恐らく、青年の帰りの交通費を残した、ほとんど財布の中身すべてだ。それを目にして、スピネルの心の中に、受け取りたくない、という気持ちが芽生えた。
(このお金を受け取ることは。さっきのセックスをお金に替えてしまったってことで……)
狂おしいほどに愛を交わしあったひと時が、すべて嘘に消えてしまいそうで。いや、それを言うのなら最初から嘘だったのだ。もとよりスピネルは、フォルス以外を生涯のパートナーとすることなど考えていない。
――私も、貴方のことが好きです。
なんと空虚で、不誠実なんだろう。目の前の男に対しても、フォルスに対しても。でも、セックスの味を知ったスピネルは止められないし、止めたくないし、止めない。
「ん……ありがとう、ございます……とっても、嬉しいです」
うつむきがちに応えるスピネルに、青年は心の中をかきむしられるような切なさを覚えていた。
結局、目の前の少女はベールを取り去ることはしなかった。プレイ自由、時間無制限、料金後払い、ベールを剥ぐことと傷の残るような行為は禁止。射精は膣へ。並べ立てると信じられないが、自分も彼女も、ルールから一歩もはみ出していない。
――なんて巧い商売女だ。
精液どころか、心まで奪われてしまった。しばらく……もしかしたらずっと、彼女のことが頭から離れないだろうな……と、アフターサービスのつもりなのだろう、裸で抱きしめられるに任せてくれているやわらかな体の感触を、体いっぱいに感じ、脳裏に焼き付ける。不意にその腕が自分の首に回され、ちゅ、と唇が一瞬触れ合った。商売の終わったあとの、素の少女に触れたような高揚を感じるが、それは自分の苦悩をより深めるだけだ。
「また、いつか遭ったら……たっぷりしましょうね」
泣き笑いで頷くことしか、できなかった。
あれほど愛し合った後だというのに、恥ずかしそうに裸の上にイブニングドレス一枚を着ると、ラブホテルに入った時と同じ商売女がそこにいた。靴を履き、未だ力なくベッドに腰掛ける青年にペコリと一礼すると、背筋を伸ばした綺麗な姿勢で歩き、少女の性臭、ベッドに残した大きなシミ……愛し合った名残の残る部屋から出て行った。
青年に残った不思議なつながりが、一定の速度で遠ざかっていく少女の姿を幻視させるが、それもラブホテルを出るあたりで完全に消えてしまった。未練がましくベッドにうつぶせて、少女の匂いの残滓を胸いっぱいに吸い込む。あの少女のように甘ったるい、バニラの匂いが残っていた。
「もっと頑張って、働こう」
ポツリとつぶやいた。
もっと頑張って、あのひとを、毎日この腕に抱いて眠れる位に。
色欲の悪魔の如き行いをした、天使の少女は……しかし、やはり天使なのだと証明するかのように、青年の心に前向きな炎を灯したのだった。
こうして、スピネルの初めての売春行為は終わりを告げた。
初めてのラブホテル。
初めてのクンニ。
初めてのスローなセックス。
初めてのフェラチオ。
初めて実った恋。
初めて、不誠実な理由で振った男。
フォルスの知らないところでまた一歩大人の階段を登り、女になったスピネルは、子宮に残された初めての恋人の精子の感触を切なく感じながら、月を見上げて家路を歩いて行った。