※この作品はR-18です。

異世界転移TS美少女召喚士の異種姦逆ハーレムライフ   作:白臼

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ポケモンやってました(直球)


竜姦編

 アレフタウ王国テルミナトル辺境伯領の一角に風変わりな家紋の屋敷があった。

 鋭角的に戯画された螺旋状に絡み合う二本の樹と、頂点部に頂かれた車輪……そのようなものを彷彿とさせる独特の紋様は王国内ではあまり見かけられない様式であった。

 それは遥か南方、あるいは東方由来の交易品に描かれている装飾を想起させるデザインだった。

 

 辺境伯領は王国の北西に位置付けられており、長年の仮想敵である皇国と国境を接する位置にある。

 件の屋敷の主はつい数か月ほど前と最近になって騎士爵を叙勲された人物であり、賜わされた領地は小さいものの辺境伯領の隅――――国境線のすぐ近くに存在していた。

 これだけ書くと、いざ有事の際には王国の盾となるべく配されたものと思われるだろうし、事実周囲にはそう喧伝されていた。

 しかしながら、地図をよく見てみれば領地に接する王国と皇国の国境は大きな山脈と深い山林が跨ることで形成されており、このような土地で武力衝突などが起きようはずもないのであった。

 戦略的な価値は殆どなく、北方の寒い気候であるゆえに目立った産業も無く税収もあまり見込めない。

 

 ではなぜ新しく叙勲された騎士はこのように飼い殺しにされるような土地を与えられたのであろうか。

 

 

 ――――つまりは、厄介払いなのである。

 

 

 それは()()が役に立たないからではない。

 むしろ逆、彼女が有能すぎるが故である。

 

 彼女の能力が、より正確には彼女にのみ絶対の忠誠を誓うその手勢が。

 その能力の高さが故に、新たな火種となることを恐れられ――――このような僻地に(うつ)されたのである。

 

 

******

 

 

『……業腹であるな。真に、真に耐え難い。愚劣蒙昧の輩共め……』

 

 座敷に低く押し殺した声が響く。

 岩の下の湿った土から這いずり出る瘴気を彷彿とさせる、怨嗟の声であった。

 そしてその声は人間のものではなく、それを発したものも当然のように人間ではなかった。

 

「どうしタ、カリギュラ。またいつもの文句かヨ」

 

 一方、声に答えたのは人間の言葉だった。

 ただ、それは同時に人間の発声ではなかった。

 人間の喉と口を持たないが、似通った構造を生かして人語を語った……そのような歪な声であった。

 

『どうもこうもあるまいよ。貴様らが斯様な境遇を諾々と受け入れておることの方が我にはわからぬな……』

 

 カリギュラ、とそう呼ばれたモノの声は相変わらず人語には到底聞こえなかった。

 獣の唸り声のような――――いや、まさしく獣そのものの唸り。

 だが、それでも此処に集った多くのモノには話は通じている。

 それは彼ら一人一人に個別に備わった高い知能の故……あるいは彼らを繋ぐ一つの縁が成し得ている神秘の故であった。

 

『中央の連中は都におった頃から気に入らなんだ。我がその気になれば王から臣まで傀儡に変えて国を乗っ取ることも可能であったろうに』

『まぁ、確かに貴方とアウレリウスなら余裕だったでしょうね。ですが、それは我ら主が望まれませんでした。以前にもお話しましたでしょう?』

 

 カリギュラの唸り声に答えたのは――――こちらは何と鳥の(さえず)りであった。

 名工の手によるハープのような清澄な声は、ただ聞くだけで周囲の者の心を落ち着かせる響きがあったが……カリギュラにはどこ吹く風であった。

 むしろこの場にいない同胞の一人、アウレリウスと自らを同列に扱われたことに余計に不機嫌そうな声を上げた。

 

『……その上で、僻地にこうして押し込まれることに同意したのも主であったな。まったく、()()の無欲さと凡俗さにはほとほと呆れるばかりだ』

「ほウ、主を()()呼ばわりか。――――大きく出たな犬畜生ガ」

 

 主に対する敬意を感じられないどころか侮蔑の念さえ込められたその物言いに、俄かに場が殺気立つ。

 カリギュラの言葉を遮った嗄れ声の主、ティトゥスに至っては得物を取り出して立ち上がりかけている。

 そしてカリギュラ当人もそれを見て腰が引けるような胆力の持ち主ではない。低い唸りを上げて歯を剥き、威し返す。

 

 一方でそれを眺める周囲の反応はさまざまであった。

 宴会の場が滅茶苦茶になるのではないかとオロオロする者

 カリギュラの諧謔的な物言いはいつもの事だと無視しているモノ。

 それに突っかかるティトゥスの肩を持って囃し立てるもの。

 

 ……そして、襖の一枚向こうの気配を感じて居住まいを正し、素知らぬ顔をしているもの。

 

「――――皆さん、何をなさっておいでですか?」

 

 その声は至って温和なものであるかのように聞こえた。

 しかし十数人は余裕をもって座れる広さの座敷に響き渡る一声は、温厚な表情の裏にナイフを隠し持っているかのような剣呑な雰囲気を孕んでいた。

 つまり、声の主は笑顔を浮かべながらも露骨に頭に来ていたのである。

 

 カラカラ、と静かに襖を開けて中に入ってきたのはきちんと整えられた礼服を身に纏った青年であった。

 オールバックに撫でつけられた黒髪に端整な容貌。銀縁の眼鏡の奥の切れ長の瞳が鋭利な光を湛えながら座敷の一同を見渡した。

 

『アウレリウス……』

「もしや、また貴方ですかカリギュラ。今度は何をやらかしたのです。()()()()になっても良いのですか?」

『ふん、貴様の手温さを嘆いておっただけの事よ』

「はぁ……何があったかは大体想像はつきました。その上で言わせていただきますが――――そんなだから貴方は主の供回りを許されないのですよ?」

『貴様……』

 

 アウレリウス、とそう呼ばれた青年は「やれやれ」とでも言いたげな態度でいつもの問題児に苦言を呈する

 カリギュラは先程ティトゥスに向けていたそれとは比較にならない念を込めて彼をねめつけた。

 そんなだから貴方は主の供回りを許されない、その言葉はこれ以上なく的確にカリギュラの地雷をぶち抜いていたのである。

 

「我らが主はお優しく、そしてまた多くを望まれません。ささやかな平和、ささやかな生活、そしてささやかな幸福。望みといえばそれでよいと仰られ、我らもまたそれを守るために全霊をかける……そのように合意したはずですが」

『――――それ故に最下の爵位で満足しろと?馬鹿馬鹿しい、騎士爵など有事の際には領土も税も毟られるだけであろうに。真に己の安寧を得るのであれば余人に傅くなど以ての外、自らが頂点に立って傅かせるべきであろう?』

「貴方の言葉には一理ありましょう。しかし、そうして頂点に立ったといえど、一国一城の主には立場相応の危険が伴うもので――――」

『その程度我らであればどのようにもできよう!「高殿の王」とも呼ばれた者が腑抜けたか!』

 

 ぐるるっ、喉奥からの唸りに乗せて苛立ちを隠そうともしない。

 カリギュラとアウレリウスは同胞たちの中でも並び称される智将である。

 しかし如何せん前者は自身の気位の高さと生来の気性故に過激かつ陰惨な策を好んで提案する癖があった。

 故に(カリギュラに比べれば)柔軟性のある思考のアウレリウスの方が珍重され、供回りを許される機会が多かったのである。

 

 本人はあまり、認めたがらないのだろうが――――これはある種の嫉妬の発露であった。

 

『何となれば我が直接主を組み伏せt―――――』

「おーい、どうしたんだー?騒がしいけど、オレはもう入っていいのか?そろそろこっちは腹が減ってきたんだけどー」

『…………』

 

 吠え立てようとしたカリギュラ。

 だが、彼の言葉を遮ったのは衾の向こうから聞こえた声だった。

 決して大きな声ではない。衾を隔てたこともあり聞こえ辛いはずであった。

 しかし此処に集ったもの達にとっては、他の何よりも正確に耳に届く声だった。

 声量云々の問題ではなく、その身その魂が本能で傾聴してしまう――――彼らにとってはそのような声だった。

 

「……いえ、何も問題はございません。どうぞお入りください――――我らが主よ」

「へーい」

 

 アウレリウスが静かに一礼し、襖を開く。

 その瞬間には座敷に集った一同が全員その居住まいを正していた。

 先ほどまで激昂していたカリギュラまでも例外ではない。

 

 果たしてそこに姿を現したのは一人の少女だった。

 生地こそは上等だが簡素な装飾のケープに糊のきいた白のブラウス。活動的な黒のパンツ。

 セミロングの栗色の髪はふんわりと波打っており、歩くのに合わせて優しく靡いていた。

 

 彼女は緑色の髪をしたメイドと桃色の髪をしたメイドの二人を傍に侍らせながら、座敷の上座にドカリ、と座り込んだ。

 なんとものその所作には女性らしい淑やかさのような物とは無縁であったが、それもこれもこの場においてはそのようなものを意識する必要もないという気の抜き様の表れであった。

 

 そしてその少女――――アレフタウ王国より女騎士(デイム)の爵位を賜わされた異邦人、アキラ・アガツマは眼前に集った異形の怪物たちを前にして、小さな笑みを漏らした。

 

 

「そんじゃあ、飯にしようぜ」

 

 

******

 

 

 吾妻(アガツマ)(アキラ)は異世界転生者である。

 

 いや、正確には『生まれ変わった』というわけではないので異世界転移者……と呼ぶのが正しいだろうか。

 なんにせよ、元々現代日本に暮らす一学生だったアキラは朝起きて目が覚めたら見知らぬ世界に飛ばされていた。

 原因も経緯も一切の不明である。どうやって来たのかわからない以上、帰り方もわからない。八方塞がりであった。

 突然、何もかも知らない完全に異邦の世界に放り出されて死を覚悟したアキラだったが、その身には如何なる神の采配か、日本で生きていたころにはなかった在る特別な力が宿っていたのである。

 

 『サマナーズ・クレスト』というゲームが存在する。

 古今東西の神話・伝説に登場する様々なモンスター・怪物を(ガチャを回して)召喚して、育てて戦うオーソドックスなタイプのソーシャルゲームであった。

 このゲームのそこそこコアなユーザーだったアキラは、異世界に転移した拍子に何故かこのゲームの主人公と同じように召喚獣(モンスター)を自在に召喚して戦わせること出来るようになっていたのである。

 

 呼び出せる召喚獣たちは幸いにもアキラがゲーム時代に愛用していた第一線のメンバーが揃っており、かつ記憶も持ち越していたこともあり全幅の信頼を寄せてくれた。

 完全に異邦の土地であっても孤立無援ではない。それを理解した時のアキラの安堵は筆舌に尽くしがたいものがあった。

 

 ただ、何事も良いことばかりというわけでは決してなかった。

 たった一つ――――ただ一つだけ、大きな懸念があったとすれば。

 

 

 アバターが女性だったということである。

 

 

******

 

 

「はいはい、わかったわかった。またどうせ、カリギュラの奴が文句垂れてたんだな。前にも言っただろうが、オレは別に王様とかそう言うのになるのは真っ平御免だって。ただでさえこっちで暮らし始めた矢先に厄介になってた王女様絡みで王位継承争いに巻き込まれててんやわんやだったんだしさー。あの時に思ったけど、やっぱオレは庶民暮らしが性に合ってるってー。ぶっちゃけ騎士爵でも持て余してる感があるってのに」

『ぬぅ……さような雑事にお主を煩わせる我らと思うたか!』

「そりゃ、まぁ、お前らの事は信頼してるけどなー。任せっぱなしだと、いざっつー時に手綱が取れない気がして嫌なんだよな。特にお前だよカリギュラ。お前に任せてたらディストピア一直線だろうが」

『民草など麦と同じであろう』

「はいダウトー!!だからお前には任せられねーんだよ、ボッシュート!!」

 

 座敷の上座に座ったアキラが左腕を掲げた。

 ()()の腕の肘から先には特徴的な紋様の刺青(タトゥー)のような物が刻まれていた。

 二本の幹が互いに絡み合う扶桑樹を彷彿とさせる紋が前腕を覆い、手の甲には車輪かはたまた日輪を思わせる図柄が描かれている。

 これが『召喚者(サマナーズ)の紋(クレスト)』。アキラが此処に居並ぶ召喚獣たちの主たる証である。

 

 アキラが意識を集中すると、自分の召喚獣たちとの繋がりを感じ取ることができた。

 彼女はそのうちの一つを選び取り……繋がりを()()()

 

『ぐあああああぁぁぁっ!!!!』

 

 カリギュラが悲鳴を上げる。

 すると彼の体は見る見るうちに小さくなっていってしまった。

 アキラが絞ったのは召喚獣を呼び出し、活動を維持するために絶えず供給しているエネルギー……ゲーム時代の用語を使えば『マナ』と言うべきものの補給線(ライン)である。

 いつもは最低限の生活を維持するために許されていたその供給を更に絞られた結果――――カリギュラは縮んだ。

 

 カリギュラ――――王朝殺しの大妖獣、金毛白面九尾之狐はその威厳も最早見る影もなく、子犬サイズにまで縮んでしまっていた。

 その憐れな姿に、一同はどっと沸いた。

 

『ぐ、ぐぬぬ……』

「罰ゲームとして当分それな。……ナベリウス、ちょっと()()()

「かしこまりました」

 

 アキラが目配せをすると、傍らに控えていた緑色の髪のメイドが頷いた。

 千変万化の粘体(ショゴス)のナベリウスは人間の姿を取っていた自身の腕を変形させ、縄のように伸ばしてカリギュラを引っ掴んだ。

 さながら親狐に咥えられる子狐のような有様でカリギュラは連行され――――アキラの膝の上に放り出される。

 

「うははははっ。口は悪いけどこうしてちっさくなると可愛いもんだなお前も!」

『ぬ、ぬぅぅっ、やめろ、やめんかっ!我を何と心得るか!』

「もふもふ」

「ぐわあああああっっ!!」

 

 恐るべき大妖狐の威厳は何処へやら、すっかり子犬サイズに縮められたカリギュラは存分にその自慢の九尾をもふられていた。

 白金から黄金の見事なグラデーションを持つ色合いの九つの尻尾は毛の一本一本が天鵞絨(ビロード)のような手触りと綿のような柔らかさを兼ね備えており、アキラは笑いながら彼の全身を撫でくり回していた。

 

 その姿を見てますます一同は笑いの渦に包まれる。

 ……一部、ぬいぐるみのように愛でられる九尾の姿に嫉妬の念を燃やしている輩もいるにはいたが。

 

「よーし、色々とあったがそれはともかく何はともあれ!今日も平穏無事で健康息災の一日を贈れたことに、そしてみんなに感謝しよう!乾杯!飯だ飯!」

「「「「乾杯!!」」」」

 

 狐をわきに抱えた状態でアキラが雑に宴会の開始の音頭を取り、召喚獣たちは思い思いの形でそれに唱和した。そもそも杯を手で持てないもの達もいるのである。

 今回は宴会のように席を組まれているが、別に何か特別な祝い事があったというわけではない。

 ただ単に、こうして座敷で皆そろって食事を摂るのがいつもの風習であるというだけである。

 その上で主が出席するからには形式だけでも大事だ、とこうして宴のような形が取られてしまうのである。

 

「……オレとしてはあんまり持ち上げられ過ぎても困るんだけどな……」

「良いじゃありませんか。みんな、ご主人様の事が大好きなだけなんですから」

「……まぁ、そういうのは別に悪い気はしないんだけど」

 

 ピンク色の髪のメイド、淫魔(サキュバス)のヘリオガバルスの酌を受け取りながら、アキラは眼を細めた。

 彼女の前では思い思いに歓談し、料理に舌鼓を打ち、笑顔を浮かべる仲間たちの姿があった。

 

 猿神(ハヌマーン)のティトゥスは近隣の農家で採れた果実を齧りながら農業の進展について語っていた。

 それに相槌を打っているのは五本の爪を器用に使ってお猪口を傾ける黄龍のロムルスである。

 ネメアの獅子であるアウグストゥスと魔王パズズたるコンモドゥスはライオンの大顎でもって猪肉の塊を骨ごと喰らっていた。

 巨大な(ハマグリ)の妖怪である(しん)のカラカラは膳の上に自身の食事と一緒に載せられているため、傍から見れば料理の一部にしか見えなかった。

 不死鳥(フェニックス)のハドリアヌスは美しい囀りで麦の出来栄えを品評しながら、残像が見えるほどのヘッドバンギングで皿の中身を啄んでいた。

 一角獣(ユニコーン)のユスティアヌスは一心不乱に人参に齧りつき、時折思い出したかのようにヒヒン、と満足げな嘶きを零していた。

 赤竜(レッドドラゴン)のシーザーは鉈のような大きい爪を生やした手で何とか箸を使おうとして、無言で溜息を吐いている。その度にロムルスが爪を器用に使っているのを見て渋面を作っていた。

 人間の姿に変化している高殿の王(バアルゼブル)のアウレリウスは、その容貌に違わない洗練された所作で膳を戴いていた。その立ち振る舞いはアキラなどよりは余程貴族然としている。

 

 賑やかで喧しく、十人十色という言葉では片付けられない異形の面々による晩餐。

 だが、それを眺めるアキラの胸中はこの上なく安らいだ、穏やかなものだった。

 

(みんなのお陰だしな……)

 

 見知らぬ土地に、自分のモノではなくなった新しい体。

 右も左も、何もかもわからない世界に放り出されて頭がおかしくなりそうだった彼女を救ってくれたのは間違いなく此処にいる仲間たちだった。

 かつてはゲームの画面を通してのみ眺めるだけのデータの塊でしかなかった。

 その頃には確かに愛着というものは持っていたが――――今、こうして生身の体を通して触れ合って、様々な事件を共に潜り抜けて感じるのはこの上ない信頼と親愛だった。

 

「ふっ……」

「どうかされましたか?」

 

 微笑みを零すと、仲間たちが声をかけてきた。

 こちらの些細な変化も見逃さないその気遣いは少々むず痒い所もあるが、同時に有り難いものだとも感じられるのだった。

 

「いやぁ、平和でいいもんだなぁ、と」

「えぇ、ご主人様にそう言っていただけるのが私たちの幸いです」

「ん、こっちからも……ありがとな」

 

 少し気恥しくなって、アキラは杯に注いだ葡萄酒(ワイン)で唇を湿らせた。

 酒精(アルコール)が熱い存在感を伴って喉を滑り落ちていく。

 

 宴もたけなわ。姦しくも夜は更けていくのであった。

 

 

******

 

 

「――――さぁて、皆さまそろそろお食事も一段落致しましたでしょうし……こちらにご注目下さ~~~い♪」

 

 パンパン、と拍手の音が座敷に響く。

 その音を聞きつけた召喚獣たちの視線が一斉に上座に集中する。

 号令をかけたヘリオガバルスが見計らったように、一同は大方が食事を終えており、ものによっては食後酒に手をつけていたりもしていた。

 カラカラなどは未だにゆっくりと主菜の焼き魚を咀嚼していたが。

 

 そして、視線が注がれている上座のアキラはと言えばバツが悪そうな表情をしていた。

 いや、正確には――――恥ずかしがっていたというべきか。

 これからヘリオガバルスが何を発表するのかを察した彼女は頬を赤くして、何かに耐えるように自分の頭をガシガシと掻き毟った。

 無論、乱れた髪の毛は即座にメイドのナベリウスが整えてしまうが、それにはされるに任せてアキラは口を開いた。

 

「あー、あー、ヘリオ。前々から言ってるんだけどさぁ……これ、こうしてみんなの前で大々的に発表する必要あるのか……?」

「大ありです!!」

 

 ヘリオガバルスがむん、と自信満々に胸を張る。

 胸元を強調する煽情的なデザインのメイド服の胸が、たゆん、とアキラの目の前で揺れる。

 主人に向かって不敬な乳だ、はたいてやろうか――――などと文句の一つも言いくなったアキラだが、そこはぐっと堪えて続きを促した。

 

「何故なら毎回発表の際のご主人様の反応が面白い―――――からではなくてっ!!みんなにわかりやすい形で公表することで、『次は自分も……!!』という皆さんのやる気を引き出すためですよ!!いうなれば表彰のようなものなんですから、受け取る側だってみんなの前で自慢したいものでしょう?」

「うん?いや、まぁ、そうかもしれないけどさぁ……。っていうか、最初のはなんだ……明らかに私情が入ってるだろう……」

「――――さて、ご主人様も納得されたようですので改めて発表させていただきたいと思いまーすっ!!」

 

 頭を傾けてブツブツと呟くアキラを尻目に、ヘリオガバルスが一同の方へと向き直る。

 その瞬間、居並ぶ異形たちは見るからに前のめりになった。それほどまでにここで賜わされる褒章は彼等にとって価値あるものなのである。

 

 

「えー、本日の『()()()()()()()()』を勝ち取ったのは……シーザーさんでーすっ!!!!」

 

 

 大声での発表の直後、一瞬の静寂があり――――どよめきが起こった。

 

『また貴様かっ!!!!』

「あァ~、先越されたカ。いヤ……だが普通の順番的にもそろそろだったカ……?」

『ふむ、まぁ、そういうこともあろうな』

『ぬぅ……羨まs……小癪な。小癪なるぞ、赤トカゲめっ!!』

『ヒューっ!!今夜はシーザーかぁっ!!愛されてんねぇ、この色男っ!!』

『あらあら……シーザーさんは激しいお方ですからね……。ご主人様ののお身体が心配です』

「ヒヒンっ!!」

 

 それは怒りであったり、納得であったり、下世話な賑やかしであったり、心配であったり、悲痛な嘶きであったりした。

 悲喜交々のざわめきが巻き起こる中、指名を受けた赤竜(レッドドラゴン)のシーザーは、食事中と変わらず黙って杯を傾けていた。

 

『………………』

 

 黙々として多くは語らず、泰然自若。

 鎧のような赤い鱗が座敷の灯篭の明かりを反射して光沢を放っている。

 周囲からやっかみと好奇の念が混じった視線に晒されながらも、その姿に動じたところは見受けられない。

 

 ただ、手元に持ったままの杯をぐいっと呷り、中身を飲み干した。

 そして黙ったまま、煌々と光るルビーのような瞳を己の主に向ける。

 

『………………』

「……言うなら、何か言えよ」

『……………………………光栄だ』

「……あ、そう……。うん、そうか……」

 

 アキラはぼそぼそと呟いて、目を逸らした。

 そっぽを向いた彼女の顔が耳まで赤く染まっているのが、周囲の面々には良く見えていた。

 カラカラなどはそれを目ざとく見つけて『ヒューっ!!お熱いねぇー!!』などと、自身の頭上に幻像を文字で浮かべていた。

 

『ぬぅ……っ。赤竜め、随分と貴様は褒美に与る機会が多いではないか』

『左様左様っ!!貴様、我らが主を己一人のモノとする腹積もりではなかろうなっ!!』

『………………口先だけでよく吠える。大仰な言葉を使わねば嫉妬の一つも口に出せんか』

『何をっ!!!!』

 

 幾体かの獣たちが露骨に不満を露にする。

 言い方は仰々しかったが、彼等の言わんとしていることはシンプルである。要は「シーザーばかり依怙贔屓されているのではないか」ということである。

 彼らの言葉には自分が選ばれなかった私怨も幾分か込みであったが、事実としてシーザーが今回のように『褒美』に与る機会は多かった。

 そして、そんな反応に対して常に余裕の表情を崩さず、売り言葉に買い言葉を返すのだから座敷は一触即発の空気が流れ始めていた。

 

「は~~い、皆さんそこまでそこまで。ご主人様の前で喧嘩は駄目ですよ。ぬいぐるみサイズにされちゃいますからね~~。……まぁ、ぬいぐるみになっても啖呵を切っている悪い子もいますけれど」

『誰がぬいぐるみかっ!!!!』

 

 未だにアキラの腕に抱きかかえられているカリギュラが吠える。

 互いに険悪なムードになったとしても召喚獣同士で殺し合いになるような事態は基本的にない。

 何故なら主であるアキラが供給しているマナの量は彼等が形を保つための必要最小限であり、戦闘力を行使する際には主人の許可の上で供給量を増やしてもらう必要があるからである。

 それでも喧嘩に発展しそうなときはカリギュラがされているように、さらに削減されて縮められるのだったが。

 尚、一部そうやってぬいぐるみサイズにされて抱きかかえられている彼にも嫉妬している輩がいるということも明記しておく。

 

「えー、今回の結果に不服を申し立てられている方々もおられるようですが、これは私『ご主人様逆ハーレム運営委員』であるヘリオガバルスが厳正な審査に基づいて決定したものです。不正は一切ございません、と神に誓いましょう!」

淫魔(サキュバス)が神に誓ってどうすんだよ……」

「ご主人様に誓います!」

「あと逆ハーレムとか堂々と言うのやめろ……恥ずい……」

「それは事実ですので変えられません♪あと、カラカラさん。今回の功績ポイントについて解説しますのでプロジェクターよろしくお願いします」

『はいよー』

 

 真っ赤になって俯いてしまっているアキラを尻目にヘリオガバルスによる今回の裁定についての説明が始まる。

 予め用意しておいた資料をカラカラに渡すと、彼の頭上に蜃気楼のように資料の内容が投影された。

 蜃という幻術を操る妖怪であるカラカラはこのようにして幻を空中に投影する能力を生かし、しばしばプロジェクター代わりに使われる。

 

 映し出されたのは召喚獣一同の主に対する貢献度を数値化したものである。

 個々人の総獲得点、点数の内訳、評価基準などがずらずらと列記され、それらが褒章を与る基準になっていた。

 そして前回までの夜伽の順序なども細かく勘案した結果、今宵はシーザーが選ばれた……ということが理路整然と目に分かる形で皆に示されたのである。

 

「…………はぁ」

 

 なるべく周囲に聞こえないようにアキラは溜息を吐いた。

 逆ハーレム。その言葉に偽りは無い。アキラは現在女性の体であるし、自身の周囲に侍っているのはほぼ全員が()であった。

 

 そして――――できれば、その多くが性的な意味でもアキラと絆を深めたがっているのは偽りであってほしかった、というのが正直なところであった。

 

 発端は数か月前、この領地と屋敷にアキラたちが住み始めてしばらくたった頃――――強姦未遂事件が起きたのである。

 下手人は一行の中の一人である処女厨を拗らせた一頭の駄馬だった。

 彼は仲間たちの一部が雄としての好意を主に向けているということに気付いており、「主がいつか誰かに処女を奪われるくらいならいっそ自分が……」と思い詰めて犯行に及んだのだった。

 

 その場で角を圧し折られて、馬刺しにされかかった駄馬だが、アキラ自身のとりなしによって処刑は免れることになった。

 だが、この一件で何体かの召喚獣が性的な意味でも自分に親愛の念を抱いていることをアキラは知ってしまった。

 激しく煩悶した彼女に助け舟を出したのは――――何を隠そう淫魔(サキュバス)のヘリオガバルスであった。

 

 ―――――無理に抑え込ませて暴発するくらいなら、適度に息抜きをさせるべきなのです。

 ―――――なるべく平等に、角が立たないように調整を……。えぇ、調整は私が差せていただきます。

 ―――――忠実な従僕にはご主人様のご褒美があってしかるべきなのではないでしょうか?そうです、これも主としてのお仕事の一環、責任なのです……。

 ―――――そもそも……ご主人様だって、皆さんのことを憎からず思っておいででしょう……?

 

 と、そのようにアキラに吹き込んだ彼女は主人からのお墨付きを得たと公言し、あれよあれよと逆ハーレムを組織立ったものとして運営し始めたのである。

 そして……逆ハーレムの運営が始まってアキラと最初の夜を共にしたのが、

 

『………………』

 

 赤竜(レッドドラゴン)のシーザー。

 彼は黙したままプロジェクターの解説に視線を注いでいる。

 余人には表情を伺えない、竜の横顔。 

 精悍、とも表現できるその顔をこっそりと覗き見ていたアキラは、ややあってから目を逸らした。

 

「…………っ」

 

 思い出すのは初夜の交わり。そしてそれ以降も幾度か褥で過ごした二人の夜。

 それらが脳裏に去来し、アキラは俯きがちの顔を一層赤くした。

 体を抱きしめる逞しく、雄々しい体躯と熱。自身の奥を深々と抉られ、ほじくり返される激しい腰遣い……。

 

「~~~~~~っっ!!」

 

 アキラは無言の悲鳴を上げながら頭をぶんぶんと振るった。淡い栗色の髪が右に左に乱れる。

 なんとも淫靡な記憶の反芻で頭を茹で上げたその横顔は見るからに真っ赤になっていた。

 

「…………ふん」

 

 

 ……そして、主のそんな有様を面白くなさそうにカリギュラが見上げていた。

 

 

「――――さて、これで本日の解説を終わらせていただきますが皆さまも納得いただけたでしょうか?」

 

 やがてヘリオガバルスがプレゼンテーションの終了を告げる声が座敷に響く。

 座してそれに聴き入っていた一同の反応は様々であったが、基本的に全員内容に肯定の意を示した。

 心情としてはまだ文句の一つも言いたいものも数名残ってはいる。

 だが、そうした反論を牽制するためにこそ今回のように綿密な資料作りが行われているのである。

 

 文句があるなら皆が納得できるだけの根拠を示すように、とはアキラが仲間たちと集団生活をするようになってから宣言した言葉である。

 ここで気に入らないから、というだけで声を荒げて反論し――――仮にその意見が通ってしまったのなら、文句の声がでかいモノだけが優遇されるだろう。そしてそれではあまりに集団としての秩序に欠けるのである。

 故にアキラ達はこうして、誰にでも説明できる形で、誰にでも理解できる論拠を示して賛同を得るという形式を重要視している。

 

「あーっ……と、最後に一応、俺から話をしておこうか」

 

 プレゼンが終了したタイミングを見計らって、おずおずとアキラが手を挙げて発言する。

 その瞬間に座敷の一同が揃って居住まいを正して向き直るのは一種異様な迫力があった。それだけ彼らにとって主の言葉は傾聴に値するものなのである。

 一斉に集中した視線に対し若干委縮しながらも、彼女はごほんごほん、と軽く咳払いをしてから話し始めた。

 当初は異形威容の面々が発する圧力に気圧されてはいたが、仮にも皆に主として崇められている以上、あまり無様を晒すようなことはしたくなかった。

 立場が人を作る――――というやつである。

 

「まぁ、なんだ……。ちょっとシーザーが贔屓されているんじゃないか、って言うやつがいるのもわかるにはわかる。これに関してはなんというか……実際に俺が個人的にシーザーを頼る機会が多いし、その分だけシーザーが手柄を立てる機会が多いからだ。その辺の不平等、偏りがあるとしたら俺のせいだ。その辺に関しては……すまん。謝る」

「滅相もございません!全ては主の采配ゆえの事、貴方が頭を下げられるようなことでは……」

「いいってアウレリウス。これは皆を平等に活躍させられない俺のせいでもあるんだし」

 

 軽く皆に頭を下げるアキラ。

 彼女の言う通り、シーザーはアキラの中では殊更に贔屓にされている召喚獣であるのは紛れもない事実だった。

 ゲーム時代、赤竜(レッドドラゴン)はアキラが初めて手に入れた最上位レアリティの召喚獣(モンスター)であり、その事もあって一際強い思い入れがあった。

 レベルの上限解放も限定アイテムを使用して限界まで上げており、各種特殊ボーナスも可能な限り解禁している。

 間違いなく此処にいるメンバーの中で最も手を掛けられている一体であり、それ故に最も強い一体であるのだ。

 

 そして転移後の世界においてもその信頼の深さは変わらない。いや、一層深くなったと言っても過言ではないだろう。

 屈強なる赤い竜鱗は盾として、勇壮な赤い竜翼は足として、赫奕たる赤い竜炎は矛として、常にアキラの力になってきた。

 現在も彼女が属することになっている王国の首都界隈ではアキラは『赤竜姫』なる仇名で呼ばれており、その(あざな)の由来は言うまでもなくシーザーの活躍が大きかった。

 

「ただ……その、な。それでもシーザーだけじゃなくて、みんなの事も大切に思っているし……その……その……す、好きなのは本当なんだ」

 

 好き、という言葉につっかえながらもアキラはそう言った。

 その言葉に嘘偽りはない。

 

 シーザーが彼女の中で最も頼りに()()()()()()存在なのは動かしようのない事実である。

 だが、それは他の面々を蔑ろにしているということとは決して等号(イコール)ではない。

 

 アキラが思い出すのはこの世界に最初に転移してきた時の事。

 自分が知るものなど何一つとしてない世界。それどころか自分自身の肉体すら自分のものではない異常事態。

 そんな時に自分を無条件で信じ、共に悩み、共に考え、共に歩んでくれた仲間たちの事がどれだけ有難かったか……その感謝は言葉にして語りきれないほどにあった。

 

「だから、まぁ……不満の在る奴は、とりあえずこれで許せ」

 

 その瞬間、「あっ」と声を上げたのは誰だったか。

 アキラは手の中に抱えていたカリギュラをひょい、と目線の高さにまで持ち上げその鼻先に口付けを落としたのである。

 ちゅ、と小鳥の囀りのような軽い音を立てて主の淡い桜色の唇が子犬サイズの妖狐にキスをするのを一同が驚きと、その一拍遅れてやってきた羨望と共に見つめていた。

 

『……このようなことで慰みになるとは思わんことだ』

「何だ、可愛げのない奴……」

 

 そして当のカリギュラは憮然とした表情を作り、ぷい、と視線を逸らした。

 アキラはそんな彼を再度ぬいぐるみのように腕に抱えて苦笑した。

 一同の前でキスを披露したのが余程恥ずかしかったのか、彼女の頬は熱い桃色に色付いていた。

 

 

******

 

 

 かぽーん、とくぐもった……それでいて大きな音が木霊する。

 女騎士アキラ・アガツマの邸宅は基本的な構造は多くの屋敷と同じようなものとなっているが、宴会用の座敷のように一部東洋の様式を取り入れているものも存在している。

 それは屋敷に併設されている露天風呂も同じことであった。

 

 石組みの浴槽に鹿(しし)(おど)しも備え付けられた小庭園を望み、頭上には月を見上げる中々に立派な作りの風呂である。

 制作に当たっては黄龍のロムルスが大地の『脈』を読み取ることで温泉が掘れる場所を選び、その上に屋敷が立てられた。

 日本人の性質(サガ)として毎日風呂に入りたいと願ったアキラが、温泉の湧く場所に居を構えたいという要望を出したが故の事であった。

 

 そして従者思いであるアキラの計らいもあり、召喚獣の一同にもこの風呂場は解放されている。

 そういうこともあり現在、この露天風呂には二人――――否、二体の姿があった。

 

「はい、それではお背中洗いますのでじっとしていてくださいねー」

『…………かたじけない』

 

 ショゴスのナベリウスが風呂桶を掲げ、温かな湯を赤竜のシーザーにかけていく。

 ざばぁ、という音と共に白い湯気を上げる湯が赤い鱗の表面を流れ、その熱が体に染み入る。

 その気になれば鉄をも蒸散させる灼熱の息吹を放つこともできるシーザーにとって40度前後の温水など脅威ではない。

 だが火で焙られるような熱とは違い、こうやってじんわりと体に染み入る温かい熱は何とも言えない感慨があるのもまた事実であった。

 

 行儀よく頑丈な風呂場用の木製の椅子に腰かけた竜。

 その背後から緑色の粘体(スライム)が石鹸の泡を纏ったタオルを触手の先に掴んでその体を洗い始める。

 事情を知らない人間から見ればある種のシュールレアリズムを感じる光景であったが、ことアガツマ邸にあってはごく普通の日常の一コマに過ぎなかった。

 

「シーザーさん、何かお悩みですか?」

『………………何故、そう思う?』

 

 普段は人間のメイドに擬態しているナベリウスだが、今回は風呂場ということもあり衣服を脱ぎ捨てて本来の姿――――ライムグリーンの巨大な粘体の形態をとっていた。

 そんな彼女(?)は器用に人間の声帯だけを模倣し、いつもと変わらない声でシーザーに疑問を投げかけた。

 甘んじてナベリウスに体を洗われるがまま済ましているシーザーはその紅玉のような瞳を背後に向けた。

 

「いえ、なんだかピリピリしてらっしゃるようでしたから」

『……………………』

 

 ナベリウスの言葉にシーザーは沈黙を返すのみだった。

 元々彼は言葉少ななタイプの竜である。不言実行、泰然自若。

 それ故にあまり胸の内を他人に打ち明けない姿は周りから見れば悠然としているとも見えるし、協調性がないようにも見えるし、あるいは気取っているようにも見えた。

 

 だが、それでも付き合いも長いものが注意深く観察していれば、いつもと()()()違うというのは感じ取れるものだった。

 特にメイドとして皆の世話に当たることの多いナベリウスは真っ先にそれに勘付いた。

 その上で彼をこう評したのである――――ピリピリしている、と。

 

『……………………(オレ)は、弱いな』

「弱い、ですか。……それはつまり、どういうことでしょう?」

『……………………』

 

 しばらくの長い沈黙があり、シーザーはそう呟いた。

 客観的に見た場合の彼の戦力は一同の中でも随一であり、それは皆が認めるところである。

 だが、彼が言う『弱い』とはそう言うことではないのだろう、とナベリウスはそう思った。

 常々シーザーは言葉が端的に過ぎる。彼は寡黙であるが故に、自分の言おうとしていることを一言に要約しすぎるきらいがあった。

 

 なのでナベリウスは続きを促しつつも、辛抱強く彼が口を開くのを待った。

 両者の間には沈黙と、泡立ったタオルが鱗を洗うシャカシャカという音のみが広がっていた。

 

『………………手先が、器用でない』

「えぇ、確かに。あなたの指は細かい作業に不向きでしょう」

『………………もう少し、器用であれたら、と思うが……。欠点を克服できないのは、弱さだ』

「適材適所、という言葉もあるでしょう」

『………………ふむ、だろうがな……』

 

 シーザーは自分の手――――あるいは前足を見下ろした。

 今はこうして椅子に腰かけている彼だが、その本来の在り方は四足獣である。

 二本の脚で立って歩くことも可能だが、それは尻尾を用いて器用にバランスを保っているからである。

 故に、彼の両の手の本来の役割は二足歩行の人や獣のように物を掴むことではなく、地面について体を支えるためにある。

 

 視界の中で彼は指を何度か折り曲げる。

 だがその指の構造は何かを握り、掴むことには甚だ不向きだった。せいぜいが両の掌で何かを挟むくらいことだろう。

 

 加えて獲物を引き裂くために誂えられたと言わんばかりの、頑強な十の爪。

 武器としては強靭なそれは、細やかな動作には尚更に適していなかった。

 自分で自分の体を洗おうとしてタオルを取れば、洗い終わる頃には襤褸にしてしまっているだろう……そのために彼はナベリウスに風呂場の世話を任せているのである。

 

『………………この前足と爪が、もう少し器用であれば……主にも優しく触れられたものを……』

「……なるほど……」

 

 嘆息交じりに吐き出されたその言葉には万感の思いが込められていた。

 それは主に己の無力への嘆きや、隠し切れない苛立ち、あるいは()()といったものであった。

 

 シーザーの手と爪は、人の体を撫でるのには向いていない。

 つまり――――主の体を愛撫するのには適していないということに他ならない。

 

 無論、彼の他にも愛撫に適していない手先の構造をした召喚獣は多い。

 だが女体を昂らせていない状態で夜伽を行うのは苦痛を伴うのは避けようのない事実である。

 故に、手先が不器用なものが夜伽を務める際には――――淫魔のヘリオガバルスが前戯だけを済ませておくという手筈になっていた。

 これは淫魔の明らかな職権乱用ではないかという意見もあったが、淫魔の手練手管で蕩かされた主の姿が愛らしいという意見が提出されてからは賛成多数で可決された。

 

 だが、賛成多数だったとはいえ心情として納得してはいない者もいる。

 シーザーもその一人だった。

 

『………………(オレ)は無力だ。妬ましいという思いが、消し去れない。今も、(オレ)以外の誰かに主が抱かれていると思うと、火を噴きたくなる』

「…………」

 

 彼の言葉は沸き立つ溶岩のようであった。

 常に悠然と構える、アキラ・アガツマの懐刀。

 主の一番のお気に入りであり最も目に掛けられている相棒(パートナー)

 周りからはそのように見られている彼だが、その心の内は他の面々と同じ思いを抱いているのだ。

 

 本当は、主を独占したい。

 自分だけの主人でいて欲しい、他の誰かではなく己のみをこそ目にかけて欲しい――――。

 

「ふふっ、僕からしてみれば貴方の立場の方がよほど羨ましいですよ」

『…………だから、言っているのだ。(オレ)は、弱い。誰よりも恵まれている自覚があるのに、些細なことで嫉妬を抱いてしまう……』

 

 ギギギ、と握り込んだ前足の中で鱗と爪が軋むような音を立てる。

 彼が思い出したのは先程の晩餐会である。罰として子犬サイズに縮められ、ぬいぐるみのようにされていたカリギュラ。

 そんな姿にも嫉妬と苛立ちを抱いてしまっていたのが他ならぬシーザーだった。

 

 

 ――――嗚呼、叶うのなら腕に抱いてくれるのは己一匹だけであってくれ。

 

 

 そう彼は思わずにはいられなかった。

 

 ……そしてその自覚が彼を尚更に苛むのである。

 主の一番の重臣として目をかけられているにも関わらず、それ以上を願ってしまう。

 自分にとっての唯一無二が主であるように、主にとっての唯一無二が自分であって欲しい、と。

 

「ええ、きっとそうなのでしょう。――――心配なさらずとも、主にとっての唯一無二は、きっと貴方ですよ」

『…………ナベリウス』

「いえ、本当は皆がそうなのです。皆が一人一人、主のとってかけがえのない唯一無二なのですよ」

 

 切実な胸の内を吐露したシーザーに対し、あくまでナベリウスは微笑んでいた。

 いや、顔はその粘体の表面には浮かんでいないのだが――――その声音は微笑みながら話していることを彷彿とさせるものなのは確かである。

 

「貴方の悩みは主も同じことだと僕は思うのです。皆大切で、愛しておられますが――――残念ながらあの方のお身体は一つしかございません。その事を歯がゆく感じておられることでしょう。宴席で仰られていたのはそういうことではないかと」

『…………それは主の落ち度ではない』

「えぇ、貴方の悩みを主が聞かれたら同じように仰るのでは?他の者が羨ましいのはお前の落ち度ではない、と」

『………………』

 

 ナベリウスの言葉にシーザーは口を噤んだ。

 いかにもそれは主の言いそうなことではあったからだ。

 事実、一同から見て主は自分たちに対して()()()のような物を感じている節があった。

 報いきれないだけ恩がある、言葉にできないだけの感謝がある、と主はことあるごとに彼らにそう言うのである。

 だから今日の晩餐会で語ったように、きっと一人一人が小さな不満を抱いていることにも引け目を感じるのだろう。

 ただでさえ大恩のある仲間たちに不満を抱かせる自分の無力さを嘆いて。

 

『…………同じ、か』

 

 嫉妬させるのは主の無力か。

 嫉妬を止められないのは己の無力か。

 

 シーザーはそれらは同じことなのだろうか、と思考を転がした。

 アウレリウスやカリギュラあたりであれば何か良い結論を導き出せたのかもしれないが、生憎と彼は戦いが専門の武人であった。

 思考だけで結論を導き出せるほどに己が優れているとは考えてもいなかったし、自惚れてもいなかった。

 

『…………主も、そう思っておられるだろうか』

「聞けばいいじゃないですか」

 

 神妙な面持ちでそう呟く彼の頭の上から、ナベリウスがお湯をぶっかけた。

 何でもないことのように彼女は、笑いながら口にした。

 

「セックスはコミュニケーションですよ。夜通し語らえばいいじゃないですか」

 

 

******

 

 

 ペタペタ、と平たい足音を鳴らしながらシーザーは屋敷の廊下を歩いている。

 竜が履くことを想定した上履きなどはないので素足のままだ。

 上体を起こして尻尾を上手く使いながらの二足歩行。尾を廊下の上に引きずる形になっているのは致し方ないことだが、埃が付かないかどうかだけが彼の気にかかることであった。

 折角主の為に身を清めてきたというのに、また汚れたのでは本末転倒である。

 

 彼は蜥蜴めいた顔をつい、と窓へと向けた。

 窓ガラスに映っている彼の鱗は綺麗に磨き上げられ、周囲の景色が映り込みそうなほどに美しい色艶を湛えている。

 そっと前足で撫でた首筋には香料をまぶしており、鼻孔を擽る柑橘系の香りを纏っていた。

 

『…………ふむ』

 

 身だしなみを確認してから改めて彼は主の部屋へと歩を進める。

 既に日の落ちきった夜半の屋敷に彼の足裏が床を叩く音と尾を擦る音だけが響いた。

 

 同胞たちとすれ違うようなことはない。

 普段は何かと騒がしい面々だが、こと夜伽の場においては選ばれた従者と主との間に水を差すような真似はしなかった。

 それはあのカリギュラでさえも例外ではない。

 

 唯一、例外があるとすれば――――前戯を任されているヘリオガバルスくらいなものか。

 

『…………るるる……っ』

 

 彼の喉奥から岩が転がるような低い音が漏れた。威嚇音だ。

 あの淫魔が先んじて主の『下ごしらえ』を済ませている必要の理屈は理解しているが、感情が納得できるかはまた別だった。

 その事を思うとつい反射的に、こうして喉から威圧するような低い唸りが漏れ出るのであった。

 それは妬みであり、無力感であり、それらがないまぜになった怒りであった。

 

 やがてそうこうしているうちに主の部屋の前に辿り着いた。

 部屋の扉は簡素な引き戸式になっている。物を掴むのが苦手な者のための細やかな気配りであった。

 

 ふぅ、とシーザーは軽く息を吐いて整えた。

 こうして主の部屋の前に立つ度、内心では大きな緊張に襲われる。

 だが、それを面に出すような真似はしない。元々口数も少なく表情もわかりづらい竜だが、彼はその上で動揺を悟られないように振る舞っている。

 いつも揺れない態度を貫く自分だからこそ主からの信頼も頂けているのだと、そう考えているがゆえに。

 

『………………失礼する』

「はぁーい♡ どうぞー♡」

『…………』

 

 戸の奥から聞こえたのはヘリオガバルスの声だ。

 その声音は熱した飴を耳元に垂らされるような、甘くぬめった響きだった。

 普通の人間であれば聞いただけで腰砕けになるような淫らな気に満ちたそれには一切頓着せず、シーザーは取っ手を横に引く。

 かららっ、と乾いた音を共に戸が開く。

 

 

 ――――そこには、花が咲いていた

 

 

 最初に感じたのは部屋の奥から吹き込んできた甘い空気。

 梅雨の夜のような湿気に満ちた重い空気は煮詰めた果実を彷彿とさせる香気に満ちている。

 部屋の中で炊かれているお香の匂いだ。部屋に置かれた屋内用ランタンの明かりが、夜の薄闇に尾を引く香煙をうっすらと照らし出している。

 

 部屋の作りは宴会用の座敷と同じく和風をイメージした造りになっている。時折郷愁の念に駆られる主の為に誂えられたものだ。

 広々とした作りの和室は灯篭(ランタン)の薄ぼんやりとした明かりによって曖昧模糊とした明暗のコントラストを描いている。

 

 そしてその中心に広げられた布団の上、そこにシーザーにとっての花があった。

 

「ほら、ご主人様。シーザーさんがいらっしゃいましたよ……♡」

「あっ……。シー、ザー…………」

 

 白い敷布団の上に身を横たえているのは彼の主であるアキラその人であった。

 だがその表情は宴席で見せたようなからりとした笑みではなく、半ば夢に耽っているように蕩けた(かお)だった。

 細く華奢な肢体は茹で上げられたような朱色に染まり、栗色の髪は乱れて汗に濡れた額に張り付いていた。

 桜色の唇は濡れて艶めき、力も抜けたような口からは声のない吐息が零れていた。

 

 そして、蕩けていた瞳はシーザーを認識した瞬間、夢から醒めたようにはっと焦点を結んだ。

 

「……ぅっ……」

 

 ヘリオガバルスから長くねちっこく愛撫されていたのだろう、呆けていたアキラの思考が、第三者を認識してようやく現実へと立ち返ってくる。

 そうして認識と共に戻ってきたのは羞恥心である。

 はしたなくも火照った生まれたままの姿を晒している、その事を意識してアキラはかぁっと頬を赤くした。

 

「そんな……ジロジロ見るなって……!」

『………………すまない。見惚れていた』

「……お、おまえ……っ」

 

 照れなど一切ない、シーザーの本心からの言葉だった。このような美しく、愛おしく、艶やかなものを前にして心を偽った言葉を並べるなど非礼であるとさえ思った。

 一方的に狼狽えるのはアキラの方だった。目を逸らしながらもその顔は耳元まで赤くなっている。

 見惚れていた、とっそう語ったシーザーの視線の熱さが突き刺さりとくとく、と心臓の鼓動が逸るのを感じた。

 

「では、改めましてシーザーさん。……ちゃあんと、準備の方は済ませてありますよ♡ ほーら……♡」

「あっ、ヘリオ、やめっ……」

 

 裸身を晒す主にヘリオガバルスがすり寄った。

 煽情的なデザインのメイド服を纏ったままの淫魔の女は艶然とした笑みを浮かべ、アキラの上体を起こして背後から支えた。

 それは決して甲斐甲斐しさからくる行いというわけではなかった。彼女は後ろに回り込むと、目の前にいるシーザーに対して見せつけるように主の両脚を開いたのである。

 突然のことに狼狽するアキラだが、既に快感で骨抜きにされている身ではまともな抵抗の一つもできなかった。

 せいぜいが恥じらいから手で顔を覆うくらいのものであった。

 

「ねぇ……ご主人様のおまんこ、見えますか?奥の奥までトロットロに蕩けて……愛液だって蜜みたいに甘ぁくなっちゃってますよ……♡」

「うわっ……、だから、やめ……見ないで……っ」

「…………うふふっ、どうされたんですかご主人様?今、奥の方がきゅってなりましたよね……?……見られて、感じちゃったんですかぁ……?」

「……っ」

 

 淫魔の囁きは這い寄る蛇のようにアキラの脳に滑り込む。

 耳朶に息を吹き込むような声音、羞恥心を責め苛むような物言い。

 そして彼女の指先が主の股座に伸びその中心にある花弁をまさぐる。

 ぬちゅり、と粘った音がそこが如何に濡れそぼっているかを知らしめる。

 

 いつの間にか扉から布団のすぐそばまで歩み寄っていた赤竜はその光景に熱い視線を注いでいた。

 にこり、と淫蕩な笑みを浮かべた淫魔が指を添えてアキラの秘所を割開く。

 淡くけぶる陰毛の下に口を開いた秘めやかな場所が寝所の薄暗がりの中でもはっきりとわかる生々しい桃色の肉と粘膜を晒した。

 アキラの呼吸に合わせるように、狭隘な穴が緩やかに口を開けては窄まるのを繰り返すのが見える。

 そしてその都度、ぽたりぽたり、と熱い雫が布団の生地の上に垂れ落ちて染みを作るのであった。

 

「……っ、…………っ」

 

 ――――見られている。

 

 その自覚が、体が芯から灼けるような羞恥でアキラを責め苛む。

 秘すべき女の園。その内側の粘膜までをまじまじと見られ、あまつさえドロドロと淫らな汁を垂れ流して如何に自分が発情しているのかを晒される。

 まるで開かれた股の間の孔から火を吹き込まれているかのように全身が熱くなる感覚に、アキラは何も言えずに荒い息を吐くしかできなかった。

 

「隠さなくてもいいですよ……?シーザーさんに見られてると、濡れちゃうんですよね……?――――()()()()()()

「それ、は…………っ」

 

 艶然と微笑みながら、ヘリオガバルスはそう囁いた。

 そしてその言葉は実に致命的な一刺しだった。

 ぞくり、とアキラの背筋が戦慄く――――背徳感だ。

 

「私は淫魔ですから、ちゃんとわかるんですよ?ご主人様は元々は男の子だったんですけど……今は女の子だから、シーザーさんみたいな格好いい()()に求められると嬉しくってお(なか)がきゅんきゅんしちゃうんですよね……♡」

「――――っ!……っ!!」

「うふふっ、首をぶんぶん振っても全然説得力ないですよー♡ ほら、だって、ご主人様の女の子の所、ぐずぐずのびしょびしょじゃないですか。ほら、体が言ってるんですよ。おちんちんを奥まで()()()()と突き刺してもらってぐっちゃぐちゃに掻き回して欲しいって、ドロドロのザーメンをいーっぱい出してもらって子宮でごくごくしたいって……」

 

 ヘリオガバルスの言葉はまるで悪魔のささやきであった。いや、実際に彼女は淫魔なのだから真実そうであった。

 アキラはかつては男性だったが今は女性の体だ。その上で、これまで幾度か配下の召喚獣たちと情を交わしている。

 男の精神を持ちながら、女の悦びを知っている。その矛盾をヘリオガバルスは嬉々として責め嬲る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()からである。

 

「ほぉら……見てください。シーザーさんだって、もうあんなに……」

「…………ぁっ……」

「ご主人様の中に入りたいって、言ってますよ」

 

 べろり、と蛭のような舌でアキラの耳元を舐めまわしながらヘリオガバルスが前を見るように促す。

 泣き出す寸前の童女のように瞳を潤ませながら彼女が向けた視線の先にはシーザーが立ちはだかっていた。

 赤い鱗に覆われた竜、その腹面の鱗だけは象牙を彷彿とさせる乳白色だ。

 そして、その乳白色の鱗の中から前方へと飛び出している赤黒い突起がある。

 

 下腹部のスリットを内側から割開いて屹立する――――竜の生殖器である。

 

「――――ぅ、ぁ」

 

 感嘆か、驚愕か。

 アキラの喉から掠れた声が漏れる。

 

 竜の生殖器は凡そ既存の生物とは、ましてや人間のそれとは大きくかけ離れていた。それ自体がマグマの海から首を出す一匹の竜を彷彿とさせる。

 その肉の幹を覆う皮膚は生殖器でありながら鱗状になっており、その表皮に複雑な凹凸を刻んでいた。

 亀頭の先端部は赤黒い色を除けば茹で卵のようなつるりとした外観だが、大きく張り出した雁首は逆棘のような肉突起が二重の段を作るように生えた何とも恐ろしい造形である。

 この凸凹の鱗と、雁首に生え揃った()()()はまさに雌の膣肉を掻き抉り、掘り返す肉の凶器であった。

 下腹に収納されていたその雄魔羅は、腹部を覆う滑らかな美しさを見せる乳白色の鱗の中にあって一際禍々しく見えた。

 

 そして――――その恐ろしさを、アキラは既に知っているし、これからも思い知らされることになるのである。

 今から、この褥の上で。

 

「あらぁ……?ふふふっ、シーザーさんってば()()()なってますね?これは興奮してらっしゃるんですねぇ、()()()()()

 

 ヘリオガバルスの淫蕩な笑みがにやり、と深くなる。

 召喚獣達が活動するために必要なエネルギーは主であるアキラから制限を受けている。

 その制限の影響は彼等の戦闘能力のみではなく大きさ(サイズ)にも影響を与えるのはカリギュラの件を見れば明らかである。

 

 そして今、明らかにシーザーは大きくなっていた。股間の逸物のみではなく彼自身の体格全てが――――である。

 直立した大型犬ほどだった彼の体は、今やアキラよりも頭一つは上を行っている。

 このことはすなわちアキラから流入するマナの量が増大していることを意味している。

 

 それは彼女の意識が強くシーザーに向けられているからか。

 それとも、或いは。

 

「そうですよねぇ……ご主人様もおっきな体のシーザーさんに押し倒されるのがお好きですものねぇ?おっきくてゴツゴツした逞しいドラゴンの体に組み伏せられて、逃げ場も無く、抵抗もできずに、ぶっといおチンポでゴリゴリとおマンコをほじくり返されながら種付けしてもらうのがだーい好きなんですものねぇ?」

「ち、ちがう……ちがうぅ…………」

 

 ヘリオガバルスの言葉はたっぷりと嗜虐的な毒が塗りたくられた刃物の様だ。

 淫欲、姦淫の悪魔である彼女から隠し通せる情欲など存在しない。

 シーザーの体が大きくなっているのは、()()()()()()だ。

 

 彼女の主は望んでいるのである――――自分の最も信頼する従者にこそ、その大きく逞しい体躯で自分を抱き潰して欲しいと。

 

 無論、そのようなはしたない願望を自分が抱いていることなどアキラ自身にとってはこの上なく認めがたいことであった。

 ましてや男性として生きていた自意識を強く持っている身としては猶更。

 恥ずべき願望を暴き立てられて力なく首を振る彼女の眼からはぽろぽろと涙が零れていた。

 

『………………そこまでにしてはどうだ、ヘリオガバルス』

「むっ……」

 

 沈黙を保っていたシーザーがようやく口を開く。

 地鳴りめいたその低い声を聞いてヘリオガバルスは動きを止めた。

 紅玉(ルビー)色の竜の瞳と、ショッキングピンクの淫魔の瞳が交錯する。

 

 数秒ほどの沈黙が両者の間に下り……淫魔は微笑とも苦笑ともつかない何とも形容しがたい表情を浮かべて立ち上がった。

 

「確かに、少し遊び過ぎましたか。――――それでは、お二人ともごゆっくり……♡」

 

 去り際に彼女は主の頬にキスをした。()()()()()()、ちゅっ、というリップ音を立てて。

 ついでに頬を伝っていた涙の雫を舐め取って、その塩っぽい味を堪能した。

 

「ヘリオ……」

 

 いきなり立ち去っていったヘリオガバルスをアキラは呆気にとられたような表情で見送った。

 今まで自分を抱きしめていた彼女の人肌の温度が無くなり、一抹の寂寥感を覚える。

 

 ……だが、その寂しさについて頓着しているような暇は既にない。

 ヘリオガバルスの背中を追っていた彼女の視線を遮るように立ちはだかるのは、今や見上げるほどの体躯を持つに至った、彼女の一の重臣であった。

 

『………………主よ』

「シー、ザー……」

 

 燃える火を閉じ込めたような、竜の瞳がアキラを正面から見下ろす。

 爬虫類を彷彿とさせるその容貌から表情を捉えるのは難しい。

 だが、アキラは彼からじりじりと焦げ付くような強い感情の熱を感じていた。

 

 

 ――――彼女の下腹が、酷く疼いていた。

 

 

******

 

 

「~~~~♡♡」

 

 襖を背後でぱたん、と閉じたヘリオガバルスは上機嫌だった。

 ただ、彼女は概ねいつも上機嫌なので平常運転とも言えたが。

 

 騎士の屋敷よりは娼館の方が似合いそうな煽情的なメイド服の裾、食虫植物の蜜のような甘い香りを纏う髪が靡く。

 鼻歌を歌いながら廊下を歩く彼女は主と自身を繋ぐ経路(パス)から流れ込む、特有の力の流れのようなものを感じてほくそ笑んだ。

 甘い香りと味を付けたジュースのような味わいのそれは名付けるならば『淫気』とも言える、マナとはまた別の――――彼女のみが感じて、摂取できるエネルギーだった。

 

 ヘリオガバルスは淫魔である。

 故に彼女にとっての主食は契約者が抱く性欲と愛欲、そしてそこから生まれる性の快感なのである。

 

「いやぁ、甘露甘露……♡」

 

 ヘリオガバルスに二心はない。

 主を言葉で虐めるのも、それを()()()見せつけてその腹心の嫉妬心を煽るのも、実益と趣味を兼ねての事である。

 両者の夜が熱く燃え上がれば燃え上がるほど、二人の絆も深まり、()()()()も解消され、その上で淫魔にとっての御馳走も流れ込んでくる。

 いいことづくめである。

 

「太らないようにだけはしないといけませんねぇ~~♡」

 

 ふんふん、とスキップしそうな足取りで彼女は夜の廊下を歩いていく。

 少なくとも彼女にとってアキラの下は理想的な職場であった。

 

 

******

 

 

「…………」

 

 ぼんやりと明るい寝室に、微かに早く荒い吐息が響いている。はっ、はっ、というその音は息を切らした犬のよう。

 白い肌を湯上りのように赤く染めたアキラは一糸まとわぬ姿で布団の上にぺたんと座り込んでいた。

 どことなく霞がかったように揺れる彼女の瞳は目の前に仁王立ちしているシーザーに注がれていた。

 

 彼女の眼の先にはそそり立つ赤竜の生殖器。

 鱗に覆われた幹と逆棘のような雁首を持つその造形はさながら肉で出来た棍棒(メイス)のようだ。

 それを見上げるアキラは酷く喉が渇くような心地を覚えた。知らず、喉がこくりと動いて唾液を飲み下した。

 

(……触って、あげないと)

 

 桃色に溶ける思考の中で彼女の頭に浮かんできたのはそのような言葉だった。

 目の前に剛直を勃起させている従者がいる。――――だから、それを処理してあげるのは主人である自分の仕事だ、と自身の脳裏に刻み付けた責務が反射的にそのような思考を生むのである。

 

 布団の上でその体を動かしてアキラはシーザーの前で膝立ちになった。

 こうして彼女が見上げるとその体格の差は歴然である。

 彼女からの追加での魔力の供給によって肥大化した彼の体は、立った時のアキラよりも更に頭一つ分は高いだろう。

 その上に鎧めいた鱗とその下に包まれたがっしりした筋肉による横幅の差異まで含めるならまさに大人と子供といったところだ。

 

――――そうですよねぇ……ご主人様もおっきな体のシーザーさんに押し倒されるのがお好きですものねぇ?

 

 改めて脳裏に過ぎるのは耳元で囁かれたヘリオガバルスの言葉。

 大きくて逞しい雄の体に組み伏せられて精を注がれて屈服したいのだろう、というアキラの心を深々と抉る言葉のナイフ。

 アキラ自身、頭を振って否定したいと理性では思っている。だがこうして見上げるほどの体躯に育った竜を見上げていると、さざめきのような疼き(・・)が肌をざわざわと走り抜けていくのがわかるのだった。

 

「じゃ、じゃあ……触るから、痛かったら、言ってくれ……」

 

 ざわめく自身の心と体を努めて無視しながら、おずおず、とアキラはそう切り出した。

 シーザーが頷くのを確認すると彼女はそっと手を伸ばした。

 白魚のような指先が首を覗かせた竜の頭のような勃起に触れる。

 華奢で細く白い少女の手が赤黒くそそり立つ雄のペニスを握るその()は、酷く生々しく鮮烈なコントラストを描き出していた。

 

 竜の性器は下腹部にある縦に入った一本線のようなスリットの中に格納されている。

 性的に興奮し、血液が流れ込んで勃起するとそこを割るようにして内部から飛び出てくる構造だ。

 一日中肉の割れ目の中に収められていたにもかかわらず、シーザーのペニスは綺麗なものだった。尿のような匂いもしないし、不快な垢がこびりついていたりもしない。

 これは主を不快にさせないようにするためのエチケットの一つとして、風呂場でちゃんと洗ってきたからである。

 無論、こればっかりはナベリウスには任せられないため四苦八苦しながら自分で孔から引っ張り出して丸洗いしたのであった。健気な努力である。

 

 その甲斐あって黒い色艶を見せる竿の表面の鱗をそっとアキラの指がなぞる。

 板金工が丁寧に配置したかのような鱗は見た目の物々しさに反して滑らかな手触りをしている。

 だが、その一枚下に感じるどくんどくんという血の脈動は紛れもなくこれが雄の生殖器であると雄弁に語っていた。

 握り込んだ時、アキラの小さな手では指が余らないほどの太さと相まってまさしく凶器染みた外観であった。

 

 主の白い手がしゅるしゅる、と優しく雄竿の表面を扱く。

 これから行う愛撫の刺激に慣れさせるための準備段階。生卵を扱うようなゆるりとした握り方のまま、硬く立ち上っているペニスの上を前後させる。

 しかし、ただのそれだけでシーザーにとっては天にも昇る心地であった。

 敬愛する主人が、ただ一人の愛する(ひと)が己の欲棒に奉仕する姿を見て心を震わせない雄などいようはずもないのである。

 

『………………っ』

 

 じわり、とシーザーは股座とその奥から沸き立ってくるかのような官能の火を感じていた。

 哺乳類と違って体内に存在している精巣が目覚め、その機能を呼び起こし始めたのである。

 性の刺激に反応して精液を生産し始める。目の前の雌に種を植え付けろと本能が囁いている。

 その衝動はさながら地の底から滲みだすマグマのようであった。

 

「……気持ちいい、か……?」

『………………この上なく』

「そ、そうか」

 

 シーザーが心地よさを覚えていることを示すように彼の性器の先端、鈴口から透明な液が滲み始める。

 物々しい亀頭(この場合は()()と言うべきかもしれないが)の造形と相まってそれは得物を前に涎を垂らす悪竜の顎を彷彿とさせる。

 

 じわり、と湧いてきた先走りの汁は微かに潮っぽく生臭い香りがする。

 微かに生魚を連想させる臭気だが、無意識のうちにアキラは呼吸を深くしてその匂いを吸い込んでいた。

 普通ならあまり快いとは思えないはずのそれをなぜか怖いもの見たさで吸い込んでしまいたくなるのである。

 すぅ、はぁ、と雄の汁の香りを吸い込むと胸の奥がざわつく。心臓の鼓動が早くなる。

 その事実が気恥ずかしく、そして気恥ずかしさが胸の奥を優しく掻かれるようなむず痒い気持ちを生み出してアキラは無言のうちに煩悶した。

 

(うわ、すごい……)

 

 ぬちゅり、と指先で我慢汁を掬い亀頭の表面に塗し、ローション代わりに使って雁首ごと扱く。

 雄の性器でも特に敏感な部分への刺激は殊更に勃起を後押しする。

 掌の中でビキビキと張りつめていく雄の剛直に、アキラは心の中で感嘆の声を漏らしてしまっていた。

 その逞しさを間近で見せつけられるほどにドキドキと胸が高鳴っていた。

 

 亀頭を扱きあげて感じるのは特に雁首を構成する棘のような返し(・・)である。

 逆向きに生えるそれは棘とは言っても本質は亀頭と同じく充血して張りつめた肉であり、決して引っ掛けたものに出血を強いるようなものではない。

 だが四、五本と鉤のような肉突起が二段にも連なって雁首を構成しているというその物々しい構造はこれが人間とはかけ離れた異種の性器であると見るものに知らしめるには十分である。

 そして、アキラはこの返し(・・)がどのように雌の膣肉を掘り返すのか――――どれほどの女泣かせの凶器なのかを、よく理解していた。

 

「――――ふ、ぅっ……♡」

 

 アキラの吐息が上ずる。シーザーがどうかしたのかと訝し気な視線を向けてくるが、頭を振って何でもないとアピールする。

 言えるはずもなかった――――自身の下腹の奥がきゅん♡、と疼いて体が強張ったなどと。

 

 それを誤魔化すようにアキラは、今度は口先をペニスに寄せた。

 普段ものを食べるときに使う口を仮にも排泄の孔に触れさせることに対する葛藤は未だに彼女の中にある。

 だが、それでもやる価値のあることだとも思っていた。

 

『…………………っ』

 

 唇が亀頭に触れた瞬間、シーザーが息を呑む。

 主の桜色の唇が己の赤黒い肉棒に捧げられ、やがてゆっくりと開いて口に含んでいく。

 温かくぬめった口腔が敏感な粘膜を包み込む。抱擁されるような安息感と股座が疼く性の快感。

 

 上目づかいで彼のそんな反応を確かめたアキラは目元を細めて小さく笑った。

 男が気持ちよくなっているときの反応など、種族が違ってもよくわかる。ましてや最も重用する従者の事だ。

 自分が彼を気持ちよくさせているのだと――――気持ちよくさせて()()()()()いるのだという実感は何よりも温かく彼女の胸の内を満たした。

 その事が一層、口淫と手淫に熱を入れさせる。

 

 ちゅぷ、ちゅぷっ、と細かな水音が立つ。アキラは唇を前後させてシーザーの雁首を責め立てた。

 ここを痛くならない程度に擦りあげられるのが最もシンプルに気持ち良い刺激だという事実は雄である以上変わりないと彼女は良く知っている。

 それが正解だと示すように、シーザーが悶えるように微かに腰を震わせる。鈴口から漏れる潮気の味も増してきた。先走りが更に湧き出してきた証拠である。

 

 ただシーザーの陰茎は大きく太く、アキラの小さな口では先端を含むだけで精いっぱいである。

 唇で雁首を擦りあげる傍ら、口の中に溜めた唾液を舌で亀頭全体に塗り込んでから彼女は一旦口を離した。

 塗り込められた唾液で亀頭はねっとりと濡れ光っている。こんこんと湧き出るカウパーの汁と相まってむわり、とした何とも言えない性臭が香り立つ。

 

 それをすん、と一息吸い込んでからアキラは手の平を剛直の先端に添えて撫でまわした。

 唾液と先走りの混合汁を竿全体に塗り広げながら、先程よりもより強さを増した手淫を加える。

 ローション代わりの汁のお陰でその手技には痛みはない。より圧力を増やした快感が陰茎に襲い掛かる。

 びくん、とシーザーの腰がまた震えたのを確かめるとアキラは今度は舌を伸ばした。

 桃紅色の舌が竜の陰竿の表面を踊る。鈴口をその先端で擽るようにチロチロと舐めたかと思えば、亀頭の表面をねっとりと這い回り唾液の痕を残し、あるいは雁首と竿の境の溝を削ぐように前後する。

 その間もその白い指は鱗の浮いた幹の部分を擦りあげ、あるいは陰茎のさらに根元の部分を優しく按摩していた。

 雄のツボを心得た手捌きと口捌きは熟練の技――――というよりは元男性だからこその技と言えるだろうか。

 

『………………っ、ふっ……』

 

 熱心に丹念に己の欲棒に奉仕する主の姿を見下ろしてシーザーの胸に熱いものが込み上げてくる。

 己の肉体の不浄の部位に主人を口付けさせているという背徳感ももちろんある。

 そして何よりも、多くの臣下に平等に愛を振りまこうと腐心している主が、今はこの瞬間ただ己を愛するためだけに骨を折ってくれているという堪らない充足感。

 主のためにこそ呼び出され使役される召喚獣にとって、これはまさに危険な……麻薬的な快感だった。

 

 彼の前足()がおもむろに伸ばされる。ただ単に手持無沙汰だったからか、それとも純然たる意味があったのかは判然としないが。

 シーザーの掌がそっとアキラの頭の上に置かれ、その髪を優しく撫でた。

 彼の掌の皮膚は地面を踏みしめるためにあるということもあり人間の踵のように硬い。

 指先が精密な動きに向かないこともありその手つきは置いて前後左右に動かすというレベルの単調な代物だった。

 

「……♡」

 

 だが、それだけでアキラにとってはどんな優しく繊細な愛撫よりも心擽るものだった。

 

 褒められている。

 認められている。

 役に立っている。

 何よりも――――愛されている。

 

 その事が、何よりも嬉しい。

 

「ひおひいい……?」

『………………素晴らしい。この上ない心地よさだ。身に余る光栄だ』

「……よあっふぁ……♡」

 

 もごもごと口に雄の勃起を含みながら、アキラはうっとりと蕩けるような笑みを浮かべた。

 きゅうきゅう、と子犬が鳴くような切なくも甘い心地が体の奥で込み上げてくる。

 その気持ちに掻き立てられるようにアキラの奉仕に一層の熱が入る。

 

 唾液を絡めたフェラチオはじゅぷじゅぷ、と激しい水音を立ててまるでむしゃぶりつくよう。

 ビキビキと血を漲らせて鉄棍のようにそそり立つ竿を幾度も擦りあげる白い手は、今や二人の粘液に濡れそぼってべったりと汚れている。

 膝立ちになっていた筈のその体勢も今やシーザーの腰に縋りつくよう。それも仕方がないことだろう、アキラの腰も抜けそうになっているのだ。

 無意識のうちにもじもじと少女の細腰が震える。ぎゅっと閉じられた内股の間を幾筋もの愛液が垂れ落ちて布団の上に染みを作っていた。

 失禁しているかのようにしとどに濡れたそこ(・・)は雌の肉がどれほど発情しているのかを無言のうちに主張している。

 ひくひく、と赤竜の鼻先が聡くそれを捉えて雄の本能を滾らせる。

 

『………………主よ。そろそろ……』

「っ、ひゃぅ……っ!」

 

 一心不乱に己の勃起をしゃぶる主をシーザーは制止した。

 その時に言葉に気付かせる意味合いも込めて爪先でそっと彼女の耳元を掻いたのだが、その反応は劇的だった。

 びくん、と背筋を震わせた彼女は耳まで真っ赤に染めながら亀頭から口を離した。

 

『………………傷つけただろうか、すまない』

「いや、ちがう。違くて、怪我したとかそういうのじゃなくて……」

『………………』

「……耳、よわい、から」

『………………ふむ、そういえば。首筋も弱かったが、耳も、か』

「……そうだよ」

 

 アキラは片手で先ほど触れられた耳元を庇いながらぼそぼそと呟いた。

 これまでの夜伽でも首筋を舐められたり甘噛みされたりということは多かった。

 ……というか人間の体の作りをしていない召喚獣が愛撫で何を使えるかと言うと自身の舌と口くらいしかないので、必然的に首周りを責められるようになったというのが原因か。

 そう言う事情もあってアキラはすっかり首筋が敏感になっていたし、最近はそれに連動して耳の方も同じくそうなっていた。

 耳の裏をシーザーの爪先で掻かれるだけで思わず体が仰け反る程度には。

 

「……んっ♡」

 

 触れて良いか、というシーザーからの確認を承諾してアキラはもう一度彼に触れさせた。

 獲物を引き裂くためだけにあるかのような無骨な爪先が恐る恐るというように少女の赤くなった白い耳を掻く。

 かり、かり、と産毛を削ぐような力加減。傷がつくほどのモノではなく、さりとて無視できるほどのモノでもない細やかな刺激。一掻きごとに神経が敏感になり意識がそこに向けさせられる感覚。

 ぞわぞわ、と背筋をかける小さな火花のような疼きが彼女の背を震わせた。

 爪先はやがて白い耳朶を下りて栗色の髪と肌が混じるうなじを擦りあげ、その刺激もまたアキラに小さな喘ぎを上げさせた。

 

「……ん、ふ……♡ シーザー……、」

 

 シーザーを見上げるアキラの眼がとろん、と蕩ける。

 夢を見るように焦点は朧気で、鮮やかな明茶色(ライトブラウン)の瞳は水面のように潤む。

 微かな喘ぎを漏らす唇は艶めかしい桜色。口淫の際に滴った唾液が顎先までを濡らしている。

 柔らかな頬から耳までを上気させた主の姿は、従者にはこれ以上ないほどの媚毒であった。

 そっと前足の掌で頭を撫でるとそこにすり寄ってくる仕草ですら劣情を煽る。

 

『………………心地良いか?』

「ん♡」

 

 あどけない表情でアキラはこくん、と頷く。

 だが、その一瞬後にはっとしたような表情になってシーザーの手を押さえた。

 

「あ、いや……、もう、オレは良いから」

『………………む』

「……勘違いしないでくれ、き、気持よくなかったとか、そういうのじゃなくて……。――――今夜は、シーザーに気持ちよくなって欲しいから」

 

 アキラは名残惜しそうにしながらもその手をどけた。

 代わりに竜の前足を取って、自身はおずおずと布団の上に横たわる。

 寝具はいずれも上等な造りであり柔らかく彼女の体を受け止める。

 改めて相手に裸体を晒すことに強い羞恥を感じながらも、アキラはシーザーを招いた。

 

「……ど、どうぞ……」

『………………良いのだな?主よ』

「い、良いって言ってるだろ」

 

 こっちも恥ずかしいんだから何度も言わせるな……、とそうアキラはぶつぶつと独り言ちる。

 確かにその通りだ、とシーザーは納得した。そして何より彼自身の劣情もまた臨界点を迎えていた。

 ぐつぐつと煮えたぎるような劣情は今や股座から陰茎までを突き上げて今や噴火寸前であった。

 

 そこで彼はゆっくりと前足を下ろした。

 音を立てぬようにゆっくりと脚が畳の上につけられ、代わりにずしりという重みが床に伝わる。

 四足歩行。彼にとっては本来の歩き方。最も()()()()()()()体勢でもある。

 

 のし、のし、と重量を感じさせる歩みと共に赤竜がアキラに寄ってくる。

 まさしく獣に捕食されるかのような本能的な恐怖を煽る構図。だが、ドクンドクンと激しく、胸を打つ鼓動の原因は恐怖だけではなかった。

 そこには確かに血が熱くなるような期待と、心臓が甘く煮崩れるような情愛があった。

 

『………………くるるっ……』

 

 二人の顔が目と鼻の先に近づいて――――シーザーの喉奥から胡桃を転がすような鳴き声が漏れる。

 その鳴き方の意味をアキラは良く知っている。

 

 ――――求愛の声だ。

 

「……うん」

 

 アキラは柔らかく微笑んだ。

 春の日差しのように温かな笑みだった。

 

 彼女は目の前にまでやってきたシーザーの顔にそっと手を添えて撫でた。

 戦士の面覆い(バイザー)めいた頑丈な鱗に覆われた厳つい顔立ちも、彼女にすれば精悍な、そして愛おしいものだった。

 そしてアキラは先程の声に答えるように、その鼻先にキスをした。

 

「……いいよ」

『……………光栄だ』

 

 シーザーの紅玉の瞳が情熱的に主を見据える。

 その視線を受けた彼女は改めて身を横たえて枕に頭を沈めた。

 仰向けになった彼女の上に赤竜が更に覆いかぶさる。

 頭の横の布団の上に彼の太い前足が載り、改めてアキラは彼の体の大きさを知らしめられた。

 

『………………股を開いてくれ』

「……っ、わ、わかった……」

 

 人型であるならいざ知らず、四足歩行が前提の竜のみでは仰向けになっている女の脚を開かせることはできない。

 故に交わるにはアキラが自分の意志で脚を開かなくてはいけないのだが――――それはことのほか羞恥を煽る行いだった。

 秘されているべき場所を、あえて晒す。交尾をせがむように脚を開いたはしたない体勢。

 雄の下に組み伏せられて種付けしていただくことを懇願するような――――自分が雌であることを主張するかのような格好が、アキラの中にある男としての感性をぎしぎしと軋ませる。

 

「は……っ♡」

 

 そして、四つん這いになっているシーザーに合わせるためには、ある程度腰が高い位置に来ていることが理想だった。

 なのでアキラはただ単に脚を広げるだけでなく、尻を布団から浮かせるようにして位置を調整する必要があった。

 自分の股座を杯のようにして相手に捧げるような体勢。男根を突き入れられ、精を注がれることを請う淫らな杯。

 自分の姿勢を意識すると羞恥で呼吸が逸った。

 

『………………主よ、すまないが』

「それも、わかってるから……っ」

 

 シーザーの申し訳なさそうな声に、微かに声を上ずらせながらもアキラは頷いた。

 彼女の手がごそごそと探るように伸び――――彼の陰茎を捉えた。

 お互いに結合部が見えづらい体位の関係上、スムーズに交わるためには手を使えるアキラが導いた方が都合がよいのである。

 そうして改めてガチガチに勃ち上っている彼の性器を手に取った彼女は「はっ、はっ」と荒い息を零した。

 

 いよいよ、という機運が高まる。気が昂る。

 彼女にも愛撫は既にいらなかった。女陰から溢れ出た女の蜜が尻を伝って雫を滴らせているのを見れば、それは明らかであった。

 

「……ふ、ぅ……っ」

 

 気を落ち着かせようと吐いた息が上ずる。

 ドキドキと機関車のように逸る心臓と肺の鼓動に身を震わせながら、アキラはシーザーの逸物の先端を股座に押し当てた。

 敏感な、それでいて濡れそぼった粘膜の表面に熱く硬い雄の肉の感触を捉えた瞬間、酷く腰の奥が疼いた。

 下腹の奥で果肉が絞られ、甘い汁が漏れ出るような錯覚がする。

 

『………………良いか?』

「うん……」

 

 求めていた秘肉の感触を亀頭の先に捉えたシーザーは熱いものが込み上げてくるのを感じた。

 今すぐにでも腰を突き下ろして肉を貪ろうという暴力的なまでの欲の奔流を感じる。

 だが、彼はそれを牙の奥で噛み殺して己の下にいるアキラに問い正した。

 愛らしく白い頬を林檎のように紅潮させながら何処かあどけなささえ感じる、夢見るような表情で彼の主はこくん、と頷いた。

 

 であれば、もう彼に遠慮はいらなかった。

 (シーザー)(アキラ)も互いの肉を求め合っていた。

 はしたなくも涎を垂らして、喉を鳴らして。

 

『………………ふ――っ!!』

「ん……っ!!」

 

 

 牙を食いしばって、シーザーがその腰を繰り出した。

 鉄棍(メイス)のような亀頭の先端が、熱く濡れた陰唇を掻き分け――――その奥の膣孔に食い込む。

 一息に奥まで捻じ込むような無体はしない。例えどれだけよく潤んでいようともアキラとシーザーの体格差は歴然であり、その上で勢いよく挿入すれば体を痛める危険があった。

 故に最初の一刺しは極めて慎重なものだった。

 

『………………っ………!!』

 

 シーザーは眼を閉じて逸物の感覚に集中する。

 主の胎の中は極上の感触だった。狭隘な膣洞は彼の男根を全周囲からギチギチと力強く締め上げてくる上に、ぷるぷると弾力のある襞はその隙間に甘い果汁のような愛蜜を湛えながら彼を奥へ奥へと誘うように蠢いている。

 呼吸に合わせて「きゅ……、きゅっ……♡」と弛緩と収縮を繰り返しながら竿に絡んでくる様子は健気とさえ言えた。

 パンパンに腫れ上がった亀頭と雁首が愛らしい桃色の膣肉襞にしゃぶられ、シーザーは快楽の電流が腰を貫くのを感じた。

 

 だが、ここで暴発するような無様を晒すつもりは毛頭なかった。

 彼はアキラの最も信頼厚い従者、最も強き召喚獣の一体としてのプライドがあった。

 主に奉仕するものとして彼女より先に果てるなど己を許せるはずもない。

 

 故に彼は腰の奥からビリビリと脳髄まで駆け巡る快感を味わいつつも、一層己の気を引き締め――――まずは主の胎を柔らかく開くことに専念した。

 

「は、ぁっ……んん……っ♡」

 

 一方のアキラは息を殺して喘いでいた。

 股を開き、その真ん中に空いている孔に棍棒を彷彿とさせる硬い肉の棒を捻じ込まれているのである。

 冷静に考えればこれはとてつもない負担であり、アキラ自身も自分が女体になってからはそう思っていた。

 だが、いざこうやってシーザーに組み伏せられ、彼を受け入れて感じるのは――――強烈な拡張感とそれに伴う()()()()()()()()心地よさだった。

 

 ぐずぐずに蕩けてぬめった膣の肉が熱く硬く太い雄の肉に掻き分けられ、割開かれて、穿たれていく。

 その感触はさながら痛痒を感じている部分の肉を引っ掻く……ではなく引っ張ったり引き延ばして感じられるような心地よさに似通っていた。

 痛み交じりの拡張感、それでいて痛さと紙一重の快さ。

 

 シーザーの腰が、押しピンをモルタルの壁に縫い留めるような緩慢かつ力強い動きで、膣に陰茎を捻じ込んでいく。

 ミチミチ……、と膣の肉が割開かれていく感触をじっくりと味わわされながら、アキラは何度も力を抜こうとして息を吐いた。

 そしてその度に何処か甘く、声が上ずる。

 

「ふぅ、ぅ……っ♡ あっ、ぁ……っ♡」

『………………ぬ、ぅ……』

 

 そして、二人にとっては長い時間をかけてシーザーの逸物が行き止まりを捉えた。

 先端部が肉を掻き分ける感覚がなくなり、代わりに何か柔らかく濡れた温かいものに包まれるような感覚であった。

 膣洞の最奥まで掘り進んだことを確信したシーザーはそこで慎重に力を抜いて腰を留めた。

 電流の様に腰を焼く快感ではない、温かく濡れそぼった蠢く肉に包み込まれるじんわりとした快さに身を委ねる。

 

「ふぅ……っ、ぅっ……ん♡ シー、ザー……♡」

 

 アキラは喘ぐような息を吐きながら、シーザーの首に腕を回す。

 ぎゅ、と白い細腕で赤い鱗で覆われた竜の首に抱き着く彼女の表情はどこか幼い。甘えん坊の少女が大事な家族に抱擁を求めるようないじらしささえ感じられた。

 竜の雄肉を受け入れるために開いていた両足も彼の腰に回して体全体でしがみつく。

 布団に前足を付くシーザーからはそれに応えるように回せる腕というものはなかったが、代わりにより体を沈めてアキラに身を寄せた。

 竜の体と布団との間で潰してしまわないように、慎重に。

 

「く、ぅっ、ぅぅん゛…………っ♡」

 

 アキラが鼻にかかった甘い声を漏らす。

 シーザーが体を沈めたときに、より一層深く彼の陰茎が彼女の膣奥に食い込んだからである。

雄の肉に杭のように体の奥深くまで穿たれ、更には布団との間に隙間なく押し付けられる。

 その一体感と密着感はアキラにとっては堪らないものがあった。

 

(からだ、おっきい……)

 

 桃色に霞がかった思考の中でアキラはそんなことを思い、目の前の相手により強くしがみついた。

 鎧のように硬くそれでいて艶やかな鱗、その下に確かに存在する針金を結い上げた様な逞しい筋肉の手触り。内臓の奥に火を噴く火山のような脈動を感じる熱い体。

 その力強い存在感に体全体でひしと抱き着く安心感は彼女の胸の内を陽だまりのような暖かさで満たすのであった。

 すりすりと抱き着いた首筋に頬を寄せると芳しい香りが鼻を擽った。

 

「んっ♡♡」

 

 ちゅ、ちゅ、とアキラは甘えるように彼の首筋にキスをした。本能的な口寂しさか、あるいは無償の愛情の表現か。

 縋りついた赤竜の炎を封じたような赤い瞳、荒々しく岩から削り出したような相貌が彼女には堪らなく魅力的で格好良いものに見えて仕方がなかった。

 見つめれば見つめるほどにきゅん、と心臓が甘酸っぱく打ち震える。

 すっかり自分が男であることを忘れたような、夢見るように蕩けた少女の表情で竜の顔に接吻の雨を降らせた。

 

「あっ♡ シーザー、ぁっ、ぁ……っ♡ 」

 

 それにお返しとばかりにシーザーも舌を伸ばして主の首筋や耳元を舐めしゃぶった。

 ちろちろ、と蛇のように動く真っ赤な舌が燻るようにアキラの敏感な肌を這いまわる。

 舌先に感じる主の汗は甘酸っぱい花蜜の香りがした。

 

 そして同時に彼の腰が動き始める。

 決して大きな動きではない、あくまで腰全体を揺らすようなゆったりしたものである。

 アキラの膣奥に押し付けた陰茎を静かに前後させるその律動は、さながら揺り篭を揺らすようだった。

 粘膜を擦れ合わせるような激しいものではなく、優しく熱が生まれるような温かな心地よさが二人の体に染み入る。

水飴が入った壺を泡立てないように杵で撹拌するような、くちゅ……、くちゅ……、と静かな音が寝室に木霊した。

 

「ふぅ……っ、ぁっ、んぁ……っ♡♡」

 

 胎奥を揺さぶられながらアキラは陶然とした息を零した。

 熱く硬い雄の肉棒が子宮口に押し付けられ、何度も優しく体の奥深くをノックする。

 その度に体の芯からじゅわり、と温かいものが全身へと広がっていく。多幸感に酔いしれる。

 

 その幸福は相手を受け入れていることへの肯定感であり、相手に求められていることの充足感だった。

 

「しー、ざー……♡」

 

 甘ったるい、甘えたような声でアキラが囁く。

 すっかり情愛に濡れた(おんな)の顔をしてシーザーを誘う。

 

「もっと、はげしく、していいよ……♡ シーザー、に……きもちよくなって、ほしい……♡♡」

 

 彼の首筋に頬を摺り寄せながらアキラは媚びるような声を出した。

 彼女の細い腰が誘うように揺れる。くちゅり、くちゅり、と擦れ合う粘膜が蜜の音を立て、二人の腰骨に痺れるような快感を走らせる。

 雄の逞しい男根を咥え込んだ膣がうねり、襞が涎を垂らすように濡れながらガチガチの竿を甘噛みする。

 この雌の媚肉を思う存分味わってみませんか、と言わんばかりに婀娜っぽい雄肉へのおねだりだった。

 

 だが――――、

 

「ふっ、ぐっ……?」

『………………いや、暫し待ってくれ』

 

 だがしかし、シーザーはそんな主のはしたないおねだりを諫めるように腰を打ち込んだ。

 さながら布団の上にアキラの子宮を縫い留めるように体重をかけて押さえこむ。

 内臓の奥を軽く叩かれたような衝撃と、その後に襲い掛かってきた押圧による快感にアキラは目を白黒させた。

 ぐちゅうぅ……、とゆっくりと下腹の奥で果実を押し潰されるような感覚に身を震わせながら、彼女はシーザーの眼を覗き込んだ。

 

「なん、で……?」

『………………(オレ)は、主にこそ気持ちよくなってもらいたい』

 

 体の重みと、胎奥に打ち込んだ陰茎で主の体を抑え込みながらシーザーはそう言った。

 むずがるようにアキラは体を動かそうとしたが力の差は歴然であり彼女の細腰はビクリとも動かなかった。

 代わりに彼の首を抱きながらアキラは潤んだ目で訴えかけた。

 

「でも……今回の、夜伽(これ)は……おまえへのご褒美なんだから……オレが気持ちよくさせてあげないと……」

『………………主よ………』

「だって、だって……それくらいしか、オレはみんなに()()()()()()()()……」

 

 ぎゅ、とシーザーの首に抱き着くアキラの腕に力が入る――――縋りつくように。

 

 

 ――――アキラ自身に力はない。

 彼女は所詮ゲームのアバターで異世界へと飛ばされただけの一般人であり、特別な才能や特別な技能はない。

 強力無比な召喚獣を呼び出し、使役することはできるだろう。

 だが、それはアキラにとってはある日突然勝手に付随してきたものでしかなく、()()()()()()とは言い難かった。

 彼女の身には神算鬼謀の叡智も、現代知識の蓄積も、古今無双の武芸もない。所詮は一般人に過ぎないのである。

 男から女の体に――――まったく使い慣れない体に変わってしまったことも踏まえれば日本にいた頃より弱くなっていると言えるかもしれない。

 しかし、それでも召喚獣たちは彼女に付き従う。それが彼ら彼女らにとっての本能であり、()()()()()()()主に対しての変わらない忠義があるからである。

 

 そして、だからこそアキラはひそかに苦しんでいる。

 生身で生きていたころの自分とゲームのアバターとしての自分が重なっているという違和感。

 何も大した能力も持っていない自分が「主だから」という理由だけで忠を捧げられていることへの重圧。

 無力なはずの自分が主という立場にのうのうと胡坐をかいているだけの自分の為に身を粉にして働いてくれる皆へのいたたまれなさ……。

 

 だから、アキラの内面はいつも不安が燻っている。

 自分に何かできることがあるのなら、皆のために何か出来ることがあるのなら、即座にそれに飛びついてしまうくらいには。

 

 

 そして、

 だからこそ、

 

 

『………………良い、良いのだ主よ。返せるものなどなくとも。貴方が()()()()()()()()だけでも幸福なのが、(オレ)達なのだ』

「……シーザー」

『………………(オレ)もそうだ。……主に相応しい(オレ)でいれているのかどうか、いつも不安でしょうがない』

 

 だからこそ、シーザーは真っ直ぐにアキラの眼を覗き込んだ。

 涙滴に潤む愛おしい主の眦に、そっと長い舌を這わせて拭う。

 

 不安があるのはシーザーとて同じである。

 常に主の傍に侍らせるのは自分のみであって欲しいという消せない欲があり、

 自分以外に主に愛される誰かへの嫉妬があり、

 優しく主に触れることができない己への苛立ちがあり、

 それらをひっくるめた鬱屈した思いがある。

 

 それでも愛おしい主に捧げたい想いがある。

 だからこそ捧げた想いが報われるときに無上の有難さがあるのである。

 

「そんな、ことない……。シーザーはいつだって、オレのいちばんだから……」

『………………主よ』

「でも、みんな、やっぱり大切な仲間だから……おまえだけ、ひいきしてあげられなくて、悪いなぁ、とはおもってる……ごめん」

『………………貴方が謝られることなど、ないのだ』

 

 ――――その言葉でどれほど己が救われるのか貴方にはわからないだろう、とそう言ってシーザーは口先をアキラの唇に寄せた。

 何分唇という器官をもたない竜のそれである。キスというにはあまりに不格好な、口に口先を押し当てるようなつたない触れ合いであった。

 ただ、それだけでも伝わるものがあった。

 アキラはふわり、と恋に落ちてしまいそうな笑みを浮かべて言葉を零した。

 

 

「――――ありがとう。大好き」

 

 

 耳元で囁かれたその言葉はシーザーにとってこの上ない賜り物だった。

 ただの一言。されどその一言は砂漠で受け取った一掬いの水のように彼の胸を潤した。

 

 ……アキラが勘違いしていることがある。

 誰かが誰かを慕うのにその者が何か自分の利益になるだとか、特別な力があるだとか、そういったものは究極的には必要なものではない。

 そういった利益に端を発する忠誠もあるかもしれない、だが、絶対の条件ではない。

 人は(人でなくとも)、相手がただその相手であるという理由だけで慕うことができる。

 ただの一遍の報いなどなくともその身を捧げることができるし、もしも仮に報われることがあるのならばその喜びまでも捧げてしまえるような心は、確かに存在するのである。

 

 

 それを――――敢えて言葉にするのならば、それこそが『愛』と言えるものなのかもしれない。

 

 

「手、握ってもらっていいか……?」

『………………心得た』

 

 目の前の大きな首を抱きしめていた腕を下ろして、アキラは布団の上に手を投げ出した。

 その上から判を押すように下ろされたシーザーの前脚に、白魚のような指を絡めて握ったアキラはふにゃり、と幸福そうな笑みを浮かべた。

 大地を踏みしめるための分厚い皮膚と鉄も引き裂く頑丈な爪を生やした竜の指。

 物々しいことこの上ない竜の前足も、彼女にとっては心から身を預けられる大きな掌だった。

 

「ね、シーザー……。……んっ♡ 」

『………………どうした、主よ』

「その、さっきも言ったけど……。オレ、シーザーに気持ちよくなって欲しいから、その……」

 

 何処かバツが悪そうに、或いは恥じらうようにアキラはもごもごと口を動かした。

 焦れるように肉杭に縫い留められた細い腰がもじもじと揺れる。

 シーザーは寡黙ではあるが無神経なわけでも察しが悪いわけでもない。彼女の言わんとすることはなんとなく理解した上で返答した。

 

『……………しかし、快くなって欲しいのは(オレ)の方も同じだ』

「それも、知ってるけど……っ♡ んっ……でも……っ♡」

 

 シーザーは先ほどまでと同じように深く打ち込んだ陰茎をゆったりと動かした。

 途方もない存在感を誇る熱い肉竿がぐにぐに、とアキラの胎の奥を捏ねまわす。

 内臓を直接餅のように捏ねられるのは自我を直接撹拌されるような忘我の悦びだった。

 ぐちゅり、と幸福感が果汁となって舌腹の奥から絞り出されるよう。

 

 子宮口と亀頭で口づけを交わすような、甘く優しい交合。

 シーザーが敢えてそうしているのは主に対してかける負担を鑑みての事である。愛する主人には純粋に心地よさだけを味わってほしいという彼なりの気遣い。

 だが、それでもアキラはそれを理解した上で何かを訴えるように身を捩らせる。

 

「でもっ、その……っ♡ それでもシーザーだって、いっぱい動かしたいんじゃないかって……オレも、元は男だから……そういうのわかるし……」

『………………ふむ、』

 

 声を上ずらせながらそう言うアキラを見下ろしながら、シーザーは少しの間考えた。

 こうしてゆったりとしたグラインドを続けているだけでも幸福なのは確かだ。

 だが、彼女の言うように思いっきり粘膜を擦りあげて射精したいという動物的な欲求が湧いてきているのもまた確かなことであった。

 そして何より、

 

『………………主は、激しくされるのが、望みか』

「……う、ぁ、」

 

 シーザーがそう囁くとアキラはただでさえ赤い頬を真っ赤に染めてそっぽを向いた。

 しかし、言葉での返答はなくともその体はより雄弁であった。

 

 ――――肉杭を締め付ける膣襞が、きゅう♡、と慄く。

 

『………………なるほど、女人にそこまで言わせるのは不作法であった』

「ぁっ、ちが、その、そういうわけじゃ……♡ オレは、純粋に、その……っ」

『………………みなまで言わずとも構わない。……主の意を汲むのは従者として当然のことだ』

 

 シーザーは酷く生真面目な表情で呟いた。

 従者に気持ちよくなって欲しい、とアキラのその気持ちに嘘偽りはないのだろう。

 だが同時に「激しく()()()()()」などという何とも卑しく、倒錯的な願いが彼女の奥底にあったのも事実だ。

 (シーザー)の為、という大義名分を盾にしてその密やかな欲望を叶えたいというのであれば兼ねさせてやるべきだと彼は考えた。

 故に、これ以上言葉で彼女の本心を暴くような真似をするのは無粋であった。

 

『………………ではな、主よ。これからは激しくするぞ……いや、こう言うのが正解か』

「……?」

『――――――()()()

「……ぁ、」

 

 その時のアキラの表情についてどう表現するのが適切であっただろうか。

 竜の暴力的な蹂躙宣言を正面から聞かされた彼女の(かお)は、恐怖とも、驚愕とも――――あるいは歓喜とも、陶然とも、あるいはそのどれにも取れるような蕩け(くずれ)たものであった。

 

 シーザーは主の片手を布団の上に下げさせ、もう片方の手と同じように重ね合わせた。

 睦み合う恋人のように絡ませ合い、握り合う両者の手。それは同時に獲物が逃げられないように(はりつけ)にする楔でもあった。

 頭の横で両の手を磔にされたアキラは隠すことのできない(かんばせ)に朱色を浮かべてシーザーを見上げた。

 

「なか、おっきく……っ♡」

『………………そろそろ、こちらも動きたかったところなのは事実だからな。――――主がそれを良しとするのなら是非もない……』

「んっ―――――ぎゅっっ♡♡」

 

 既に硬く勃ち上っていた筈の陰茎が膣内(なか)を内側から膨張させるかのようにその強度を増す。

 その存在感にアキラが声を震わせた瞬間――――シーザーが動き出す。

 

 さして大層なことはしていない。

 今まで奥深くに押し付けたまま緩やかに前後させていた動きとは違い、一旦引き抜くかのように大きく後ろに腰を引かせただけだ。

 だが、ただそれだけでアキラは息が絶えるような声を絞り出された。

 

「――――――っっ!!」

 

 先ほどまでずっと胎奥まで差し込んでいたこともあってアキラの膣肉はこなれ、ぴったりとシーザーの肉幹に張り付き纏わりついていた。

 突如それを引き剥がすように幹を動かされたのだから彼女にはたまったものではなかった。

 肺から息が零れて声のない声になり、衝撃が股座から腰骨を伝い背筋から脳を叩く。

 

 しかもシーザーのペニスの作りはおよそ人間のそれではない。

 雁首を構成する肉鉤が、大胆な凹凸を作る幹の鱗が、その他表面を走る細かな襞と鰭のような隆起が、その全てが一斉に密着していた膣の肉を抉り、引っ掛け、掻き毟るのである。

 アキラの膣はその強い締め付けとぴったりとした密着感が故、その肉棒を引き抜かれたと同時に、外陰唇から引きずり出されるのかと錯覚してしまうほどだった。。

 彼女の細腰が一瞬浮くほどの強烈な引き抜きは、ただの一度だけで魂までも抜いてしまうかのようだった。

 

 ――――そして、これはあくまでも一動作に過ぎない。

 抜いたからには入れるのが道理である。

 

「あっ、ぁっ、あぁ――――――っ!!」

 

 身も世もない声を上げてアキラは哭いた。

 入り口付近まで戻っていった竿が再び奥まで舞い戻ってくる。

 最初の挿入のような少しずつ押し広げて掘り進むような慎重さなどない、胎の奥まで抉り抜くかのような突貫。

 股座から内臓を一息に串刺しにされる蹂躙感がアキラの脳を打ち貫く。

 

 ぐちゅん、とその勢いのままに子宮口に食い込まれた瞬間、彼女の体はビクンと跳ねた。

 布団の上に覆いかぶさる赤竜の横から覗くほっそりとした脚が爪先までぴんと伸びる。

 

「んん――――っ♡♡ ひぅっ、ぅんっ、んぅぅ―――――っ♡♡」

 

 ただの一度のピストンでアキラの頭はズタズタに引き裂かれたようだった。

 だが当然それで終わりなわけはなく、二度、三度、四度――――幾度となく同じ運動が繰り返される。

 その度にアキラは嬌声を上げて咽び泣いた。

 

「ああ゛ぁぁ―――――っ!! そこだめっ!! いりぐちのところじゅぽじゅぽするのだめぇ…………っっ♡♡♡」

 

 シーザーの腰遣いは逞しいだけでなく、また巧みであった。

 彼の陰茎が膣の浅い部分を小刻みに擦りあげるとアキラはポロポロと涙さえ浮かべて身を震わせた。

 陰核と尿道の裏当たり、恥骨にほど近い膣前庭の僅かに腫れぼったい部分――――Gスポットとも言われる性感帯に雁首が何度も擦りつけられる。

 とりわけシーザーの雁首は柔らかさと強さを兼ね備える肉の逆棘が幾つも連なって構成された凶悪な造りである。

 一際感じやすい場所をそのような肉凶器で執拗に擦りあげられるのは暴力的な快感を伴った。

 

 痒い部分の皮膚を爪で掻くどころか、彫刻刀で削り取られるかのよう。

 ぷっくりと腫れた桃色の肉に逆棘が食い込んで容赦なくガリガリと掻き毟り、抉る。

 乱暴な雄に嬲られる雌の肉が泣くように、あるいは媚びるように愛蜜を滲ませるが竜の幹は一切の容赦をしない。果汁を絞り出すときに果実の果肉に気を遣わないのと同じことだ。

 膣洞の入り口を亀頭が小刻みに出入りするたびにぶちょぶちょ、と汁が空気と撹拌されながら飛沫を散かす。

 陰部から掻き出された恥液が少女の股座と尻の間を伝って布団に卑猥な染みを作った。

 

「んゃ、やぁぁ――――っ♡♡ おくっ、おくふかいぃぃ…………っっ♡♡♡」

 

 入り口を擦られるのに慣れる前に、今度は最深まで掘り進まれる。

 最奥部へのアプローチは最初の優しい律動がどれほど手加減していたのか思い知らされる程度の代物だった。

 畳と亀頭で子宮を挟み潰してしまおうとしているのかと思うほどの強烈な押圧。

 そうやって抑え込みながら赤竜は人外の頑丈さを持つ足腰を十全に生かし、亀頭をてこ(・・)にでもするかのようにグリグリとそこを責め苛むのである。

 まるで臼を使って硬い木の実を擦り潰しているかのような力強いグラインドだが、この場合擦り潰されているのはアキラの精神だった。

 

 女体の()の部分にぐっぷりと食い込んだ逆棘付きの亀頭が3Dスティックじみた動きをもって胎の中で踊る。

 膣肉が捩れる度に、膣襞に容赦なく凸凹がぐりぐり、ごりごりと食い込むのである。

 その奥の方で子宮口に守られている子宮もまるで餅のように捏ねられる。その度にお腹の奥から溶けてなくなってしまうのではないかと思うほどの快感がアキラを侵していく。

 

「――――っ、…………っ!! イ、っ、イく、ぅっ……♡ イく、イくっ、イく、う゛ぅぅ……っ♡♡」

 

 自我をぐちゅぐちゅに撹拌されるかのような快感の中で、アキラは()()()絶頂を迎えた。

 その喘ぎ声は断末魔めいていた。陸に打ち上げられた魚のようにびたんびたん、と無様に細い体を跳ねさせ、脚が引きつるほどに伸ばされて宙を泳ぐ。

 

『………………』

「あ、やだっ……みちゃ、ゃぁぁ……っ♡」

 

 だが、それでも逃げられないし、逃げることは許されない。

 竜の前足に両掌を押さえつけられて万歳のような姿勢を()()()()()いるアキラの顔を正面からシーザーが見据えていた。

 だらしなく蕩けた口の端から喘ぎを漏らし、眦から玉のような涙を零し、汗みずくの額に前髪を張り付けて頬を赤く染めた痴態を――――真正面から雄に視られている。

 顔を隠すこともできずはしたないイキ顔を晒すアキラはぐずぐずに溶けた意識の(よずが)を求めるようにシーザーの手をぎゅうっ、と握り締めた。

 

「んんああぁぁぁぁ――――――っっ♡♡♡ だめだめだめ、だめぇ……っ!!!! イってる♡ イってるからっ♡ イってるところにずぽずぽしたらだめぇ…………っっ♡♡♡♡」

 

 そして、絶頂の衝撃も冷めやらぬうちにシーザーは再びの抽送を開始した。

 びくびくと引きつるかのように締め付けてくる膣肉と膣襞を引きはがす、重機のように力強い腰遣いのピストン運動。

 高みに放られた余韻を味わう暇もなく、暴力的な肉の蹂躙にアキラは絶叫した。

 

 赤く膨張した肉の杭が奥から入り口までを堀り返す。

 膣の奥深くから肉と襞を掻き出すように亀頭が入り口まで後退する。膣洞を一斉に掻き抉られる衝撃は女を咽び泣かせるには余りあった。

 送りだされる一突きもまた強烈であり、それはさながら女体を串刺し刑に処しているかのようだった。十分に潤っている雌肉でなければ身が裂けていただろうと思わせるほどである。

 ダイナミズムさえ感じる逞しい腰遣いで、竜が乙女を蹂躙し、貪りつくす。

 

「ぁっ、ぁっ、あっ、あ゛――――っ!!!! だめっ♡ やだっ♡ イっちゃうっ♡ またイく、ぅ……!!!!!!」

 

 抗うように、或いは拒むように(かぶり)を振りながらアキラはまた絶頂に飛ばされる。

 しかし、口では否定しながらもその嬌声と表情は何処か甘く、婀娜っぽい。

 

 それもそうかもしれない。

 ――――何せ、()()()()()ことは嬉しいことだからだ。

 

 重ね重ね語ることになるが、アキラは常に自分が彼らの主に相応しいかどうか不安に思っている。

 たまたまゲームのアバターの姿で転移したから、たまたま彼らがその頃の親愛度なども引き継いでいたから……アキラは今の自分たちの関係がそういった多数の『たまたま』の上にあると、そう考えている。

 だから『たまたま』何らかの原因で失望されてしまうかのしれない、見限られてしまうかもしれない……()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とそんな疑念が心の隅から拭えない。

 

 故に彼女はいつも心のどこかで求めている。

 自分が彼等の役に立てるのだという証を、

 役に立てなくても信頼してくれるのだという証を、

 たとえ何がなくとも――――愛してくれているのだという証を。

 

「あんっ、ゃ、ぁ゛ん♡♡ はげしいっ、もっと……っっ♡♡」

 

 アキラは従者に向かって媚びるように甘えた声を上げた。

 もっと激しく貪って欲しいと、もっと乱暴に犯して欲しいと。

 その荒々しさこそが――――自分が求めら(愛さ)れていると教えてくれるのだと言うように。

 

『………………ぬぅ、んっ……!!!!』

「んぅ……っ♡♡♡♡」

 

 そしてそれはシーザーにとっても望むところであった。

 この浅ましいほどの獣欲こそが、醜いほどの情欲こそが主を満たすというのであれば喜んで捧げるのだと。そう言わんばかりに、杭打機が如く腰を振るう。

 パンパンパンパン!!と鱗に包まれた竜の下腹部が少女の細腰を蹂躙するかのように打擲する。

 壊れた噴水のように秘部から濁った愛液が吹きこぼれ、赤黒く膨張した禍々しい肉棒が健気に絡みつく乙女の秘肉を挽き潰した。

 

『………………ふぅ……っ、ふぅぅ……っ!!!!』

 

 今やシーザーもアキラを悦ばそうというだけの意識はなかった。既に彼の射精本能の忍耐は限界に近づいてきていたのである。

 ぷりぷりとした健康的な肉襞がきつく絡みついては溢れるほどに果汁を滲ませる蜜壺。

 自分に組み失せられて、愛らしく頬を染めて喘ぐ尊い主。

 その全てが彼の生殖本能を掻き立て、「この雌に種付けろ」と囁いてくる。

 

 ――――無論、不可能だ。人と竜の間では子を為せない。

 

 だが、得られぬものでも夢想するのは自由だ。

 故にシーザーは心の隅の方で呟いた――――孕め、と。

 

『………………ぬっ、ふ、ぅ…………っ!!!!』

「あ……っっっ!!!!!! ああ゛ぁぁぁぁぁぁ―――――――っっ♡♡♡♡」

 

 その瞬間、シーザーのペニスが白い火を噴いた。

 マグマのように溜め込まれ、沸々と煮えたぎっていた情欲が解き放たれたその瞬間はまさしく火山の噴火にも近しい。

 彼の性器の根元で煮詰められ、濃縮されたスペルマは怒涛の奔流となってアキラの胎を殴りつけた。

 

 アキラもまたその射精を受けた瞬間、したたかに絶頂した。

 竜の精液はともすれば人間の深部体温よりも熱い。

 そんな精を体の奥深くに吐き出された彼女は自分の体が内側から焼き焦げていくのを幻視した。

 白く、熱い、体の内側にへばりついていくマグマのような粘度のある炎が体に詰め込まれていくイメージ。

 体の芯から血管と神経の末端まで熱が吹き込まれ、アキラは全身を強張らせて深い絶頂を表現した。

 

 ふぅ、ふぅ、と荒い息を吐きながらシーザーはぴったりと腰をアキラに押し付け、最後の一滴に至るまで精を少女の胎に注ぎ込むことに集中する。

 種の根源的な本能……生殖欲求を満たす悦びは魂が抜け落ちるほどの快感を伴った。

 例えこの()を孕ますことが叶わなくとも、この一瞬の一体感だけは本物であった。

 

「シーザー……、シーザー……♡♡」

 

 腰から下が消えそうな快感が少しずつ波のように消えていくのを感じながら目を閉じていたシーザーに、名を呼ぶ声が聞こえた。

 目を開けば視界一杯に広がるのはこの上ない幸福そうな蕩けた顔で己の名を口にしている主の姿だった。

 

 何を語ることも無く、言葉を覚えたばかりの幼子か親の事を呼ぶような無邪気な声音で「シーザー」とだけ言葉を転がすそのあどけない笑みは忘我の幸せに満ちていた。

 彼は堪らない愛おしさが胸に込み上げ、主に口付けをした。舌を差し出して頬を耳を唇を舐め、首筋に甘噛みをして微かな痕を付ける。

 そんな竜の愛情表現に、アキラも精一杯のキスで答えた。

 

「あっ……。また、おっきく……♡♡」

 

 ぴくん、と少女の腰が敏感に跳ねる。

 腰の奥深くまで咥え込まされた雄の肉が再び硬さを取り戻しつつあることに気付いたからである。

 一度勢いづけばその再勃起は極めて迅速であった。黄色がかった白濁色のマグマのような精液がべったりとへばりついた膣孔を、我が物と言わんばかりに竜の剛直が埋めていく。 

 

『………………すまない主よ。……一度や、二度では収まりが付きそうにない』

「ん…………っ♡♡」

 

 再び強度を取り戻したペニスの感触を胎で感じ取りながら、アキラはこくん、と頷いた。

 そのくらいのことはシーザーに抱かれることが決まってから承知の上であった。

 

 

 昔から、竜は強欲で貪欲だと相場が決まっている。

 

 

******

 

 

 カンカンカンカン、と甲高い音が幾度も木霊する。

 細くて硬い物で木を叩いているような――――有体に言えば鳥が嘴で木の板を何度も叩いているような、そんな音だった。

 

「んー……、わかった。起きる。起きるって……」

 

 ぼんやりと寝ぼけて霞がかかった頭の中で、何とか思考の焦点を結ばせて――――アキラ・アガツマは目を覚ました。

 全身が酷く気怠くへとへとに疲れているし、声も何だか掠れ気味だった。

 率直な話本調子ではない……こういう時にはもう一度布団をかぶって二度寝するに限る。

 そう思った彼女はぼやけ気味の脳で布団をひっかぶろうとして――――体が上手く動かないことに気が付いた。

 

「――――――んん?」

 

 怪訝な声を上げた彼女は酷く息苦しいことに気が付いた。

 何か温かくて……あるいは熱いものに覆いかぶさられて、うつぶせになっている自分はそれと布団の間に挟み込まれているのである。

 体の上のそれ(・・)は掛け布団の感触や重さではなかった。それ(・・)を咄嗟にはねのけようとしたアキラだが――――彼女の細腕ではびくともしなかった。

 

「…………こ、こいつは……っ!!」

 

 異常事態に際して思考が急速に覚醒していく。

 首をひねって後ろを振り向いたアキラはそこでようやく理解した。

 彼女の上に覆いかぶさっているのはシーザーだった。

 主人よりも頭一つは大きいサイズにまで巨大化している赤竜は暢気にくうくう、と寝息を立てながら主を下敷きにしていた。

 

「こ、の……っ! ……んっ」

 

 どうにかこの眠れる竜を起こそうとしたものの彼女の体は完全に萎え切っていた。

 そこで思い出したのは記憶が殆ど吹っ飛ぶまでヤり続けた昨晩の激しすぎる情事だった。

 体力を使い果たして寝落ちしたアキラは今や、生まれたての鹿よりも無力な有様だった。

 ついでに言うと後背位、というか寝バックの態勢のまま二人とも寝入ってしまったのだろう、シーザーのペニスは未だにアキラの中に突き込まれたままであり、更には朝の生理現象で大きくなっていた。

 うつぶせに寝そべった状態で体の奥に楔をぶち込まれているアキラは縫い留められた昆虫の標本も同然であった。

 無理に動くと刺さったままの男根が内臓をゴリゴリと抉って変な声が出そうになる。

 気分が昂っていない現在、愛しい竜の陰竿は腹の中のでかい異物でしかなった。悲しいことに。

 

「おま、シーザー……早く起きろっ」

『………………愛している。主よ……』

「寝言でときめくこと言ってんじゃねぇよ……っ!!」

 

 起こそうと試みるも、シーザーの反応は純粋な寝言のみであった。

 アキラは上手く声が出せない状況で何とか彼を叱咤する。

 ことは一刻を争うのである。

 

 何せ、目覚まし係が来ている。

 

『――――さて、ご主人様方もお寝坊のようですね。まぁ、シーザーさんの事ですから無理もありませんが……』

 

 やがてコンコンコンコンというリズミカルな音が止み、扉の向こうからそのような独り言が聞こえた。

 正しくはそのように認識できるというだけであり、人間の声ではなく――――その声は水晶の弦を弾いたような、鳥の囀りであった。

 それを聞いたアキラは「げっ」と苦い表情で呻いた。

 

「お、おーいっ、起きる。起きるからもう大丈夫だって――――」

『では失礼いたしますよ――――』

 

 喉が掠れているうえに、上からの重量で胸が押しつぶされている以上、アキラは大声を出すことは叶わなかった。

 故に主の必死の訴えも空しく、嘴を器用に使って部屋の衾を開いたのは不死鳥(フェニックス)のハドリアヌスだった。

 

『―――――――――』

「…………」

 

 朝の主人の寝室に沈黙が下りる。

 窓の外、庭か森のどこかで鳴いているのだろう小鳥のちゅんちゅん、という囀りが何処か空しく響いた。

 アキラの方からは角度の関係でハドリアヌスの方は見えない。見えたとしてもいたたまれなさで目を合わせることはできなかっただろう。

 そしてしばらくの沈黙の後、てちてち、と鳥の脚が畳を踏む音が聞こえ始め……それはアキラの目の前で停止した。

 

「……お、おはよう」

『………………おはようございます、ご主人様』

 

 普段のシーザーばりに長い沈黙を隔ててハドリアヌスが口を開いた。

 バツの悪さを誤魔化すアキラの半笑いに対し、彼の鳥顔は何処までも渋い。

 やれやれです、とそんな声が聞こえてきそうだった。

 

『……供給されているマナを絞ればよろしいのでは?』

「あっ」

 

 一切の説明抜きで事情を把握したハドリアヌスは溜息交じりにそう進言した。

 シンプルかつ確実な解決方法を完全に忘れていたアキラは呆気にとられた表情のまま――――意識の端にあるマナの蛇口を捻った。

 すると彼女の背中から覆いかぶさってきていたシーザーはたちまちのうちにぬいぐるみサイズにまで縮まっていた。

 そしてそこでようやく布団の上の惨状が明らかになった。

 

 一言でいえばイカ臭い。

 

 一晩中ドバドバと景気よくシーザーがぶちまけた精液が布団の上に白濁色の液だまりを作っている。生乾きの体液で生地がバリバリになっているところもある。

 下敷きになっていたアキラもよろよろと身を起こし、自分の体を見下ろして呻いた。

 体の面も裏も、気が付いていなかったが髪も顔もべったりとした精液がへばりついている。

 特に()の方は酷いもので、胎の奥の方までどっぷりと重たい感触があり、シーザーが縮小したことで露になった膣孔はぽっかりと開いたまま滝のようにドボドボと精液を滴らせていた。

 睦み合っている最中は興奮を煽るものだったが、一晩経って冷静になってみると何とも頭が痛くなるような精液臭さが辺りに立ち込めていた。

 

「――――頼める?」

『……仕事ですので』

 

 ちらり、とアキラが目配せするとハドリアヌスは憮然とした表情で翼を広げ――――周囲を炎で包み込んだ。

 布団も畳もアキラ自身も煌々と燃える橙色の火の海に呑まれるが……その炎が燃え広がっていくことは無かった。

 その身を炎に撒かれているアキラにも苦しみは無い。まるで全身を熱いお湯の奔流が駆け巡っていくような、なんとも心地よい感覚だけがそこにある。

 

『ふむ、これでよいでしょう』

「ん、サンキュー」

『お安い御用です』

 

 たっぷり数秒間焔を周囲に放ち、ハドリアヌスが翼を翻せば日はたちまち掻き消えた。

 何も焼き焦げているものはない――――代わりに布団の上にあれだけこびりついていた汚穢や、アキラの体を蝕んでいた疲れがきれいさっぱり()()()()()()()いた。

 穢れや傷病を打ち掃う不死鳥の炎を朝のシャワー代わりに使う、なんとも贅沢な話であった。

 

『ご主人様の身はとても大切なものです。――――いくら御寵愛を賜っているとはいえ、羽目をあまり外されないようにお願いしますね。聞いていますか、シーザー?』

『………………む、朝か……。ハドリアヌス、息災で何よりだ。ところで(オレ)は何故縮んでいるのだろう……』

『……』

 

 ついでに先ほどの炎でようやく目が覚めたと思しきシーザーはきょとんとした表情を浮かべていた。

 ぬいぐるみサイズで布団の上に這う姿は何とも愛らしいものがあったが、ハドリアヌスはそれを見て心の中で額に青筋を浮かべ、無言になった。

 彼は怒ると無口になるタイプであった。

 

「まぁまぁ、たまにはこういうこともあるって……。ここはオレからもよく言って聞かせるし……」

『いいえ、ご主人様はなんだかんだでシーザーに甘いと思っております。ここは一度、皆の前で今回の一件について討議すべきではと――――』

『………………その前に主よ、服を着られては如何か』

「あ、そうだ。そういえば素っ裸だったわ、オレ。そっちのクローゼットに服が――――」

「へーい!!ご主人様の着替えと聞いて淫魔メイドのヘリオガバルスちゃんが即・惨・状!!濃厚な淫気を一晩中啜って元気溌剌アリナミンV-SEX!!ちょっとダイエットしないとヤバいかも!!」

「チェンジで」

「あ、どうも。おはようごさいますご主人様。服のご用意はこちらで既にさせていただいております。ヘリオはこちらで回収したします」

「ナベリウス、有能」

「勿体ないお言葉です。では身だしなみを整えましたら朝食にいたしましょう。皆さまご主人様との一日を今日も楽しみにしておられますので――――」

 

 やいのやいの、とやりあっているうちに寝室には闖入者が増えている。

 やたらと朝からテンションの高い淫魔(サキュバス)に、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる粘体(ショゴス)

 赤竜(レッドドラゴン)は相変わらず状況が読めずに憮然とした顔を浮かべ、不死鳥(フェニックス)は説教の言葉を脳裏で選んでいる。

 やがて、早朝の仕事帰りの猿神(ハヌマーン)が朝の挨拶に訪れ、騒ぎを聞きつけた高殿の王(バアルゼブル)が戸を叩くだろう。

 そして朝食の席に付けば九尾之狐が自分と同じように縮められた竜の姿を見て珍しく上機嫌に笑うのだろう。

 

 

 こうやってアキラ・アガツマの邸宅の朝は始まる。

 いつものように、これからも。

 

 彼らの日常が始まる。

 

 

 

 




登場人物紹介
吾妻(アガツマ)(アキラ)
主人公。ごく普通の一般的な日本人の学生だったが、何の前触れもなく異世界に転移する。
愛好していたゲーム『サマナーズ・クレスト』で使役していた召喚獣をそのまま呼び出せる。ただしアバターが女性だったのでそのまま女体化していた。
本編の一年前くらいにこの世界にやってきて、自分を拾ってくれたアレフタウ王国の王女様にまつわる王位継承問題とその周りのゴタゴタを片付けるのに尽力。功績を評価されて田舎に小さな領地と女騎士(デイム)の爵位を賜って静かに暮らしている。
最初から好感度マックスで自分を慕ってくれる召喚獣達には感謝しているし心から信頼しているが、同時に彼らの主人として相応しく在れるのだろうかと心のどこかで常に不安に思っている。
なので皆から求められれば喜んで応えるし、なんなら少し強引に求められるくらいの方が気持ちが満たされるまである。
要するにMい。
総受け。


シーザー:
種族・赤竜(レッドドラゴン)
アキラにとって最も思い入れの深い召喚獣。最終上限解放してるし聖杯ぶっこんでるしLB開放しているしスキルマしてある感じ。
一番目をかけられているので重用されるし、結果として一番ご褒美に与る機会が多い。正妻ポジ。
寡黙で誠実な武人タイプだが、根っこの部分では主人の事が好きすぎて稀にポンコツになる。
チンコの形が結構えぐい。


ヘリオガバルス:
種族・淫魔(サキュバス)
実用性と機能性を無視したエロいメイド服を着こなすピンク髪でピンク脳なエロいねーちゃん。
ゲーム時代は「見た目が可愛かったから」という一点だけでなんとなく育てられたままベンチに甘んじていたが、転移後世界では逆ハーレム運営委員代表として生き生きとしている。
手先が不器用な召喚獣の為に前戯を済ませてあげたり、淫気を夜食代わりにつまんでいたりと、一番いい空気を吸って生きているやつ。


ナベリウス:
種族・千変万化の粘体(ショゴス)
緑色の髪をしているメイド。僕っ娘。メイドさんの姿をしているのはその方が都合がよいというだけであり、正体はライムグリーンのでかいスライム。
体をどんな形態にでも変化させられる柔軟性の高さから様々な仕事をこなすことができる万能選手であり、アキラからの信頼も厚い。
その気になれば主人を孕ませられるが黙っている。


カリギュラ:
種族・金毛白面九尾之狐。
メンバー屈指の頭脳を持つ参謀格。ただし陰惨かつ残酷な策を嬉々として使うサディストぶりもあってやや不遇。
口も悪いし、性格も悪いし、目つきも悪いが、主人に対する愛情……というか執着は本物。表現方法が若干ねじくれているだけである。
ベッドの上ではドSの権化になるため、実はM気質のアキラとは相性が良かったりする。


アウレリウス:
種族・高殿の王(バアルゼブル)。特殊条件を満たして『蠅の王(ベルゼバブ)』から変化している。
見た目はインテリ貴族っぽい青年。人間形態を取れる、頭が良い、舌が回る、などなどの様々な要因から執事・摂政として重用されている。
頭脳に優れる参謀ポジションであり、S気質という点でカリギュラと被っており互いにライバル視し合っている。


ハドリアヌス:
種族・不死鳥(フェニックス)
朝のシャワー担当。


ティトゥス:
種族・猿神(ハヌマーン)
何とか人間の言葉が喋れるお猿さん。
初めは主人の事を性的な眼で見ていたわけではなかったが、据え膳喰わぬは男の恥ということで頂いてしまった経緯がある。


カラカラ:
種族・蜃。
でかいハマグリ。映写機(プロジェクター)担当。
一切言葉を発することができないが、幻術で投影される書き文字でよくしゃべる。


ユスティアヌス:
種族・一角獣(ユニコーン)
拗らせた処女厨。馬刺しにされてないだけマシと思え。


アウグストゥス:
種族・ネメアの獅子。
もふもふしている。別にアキラの事は性的な眼では見ていない。


コンモドゥス:
種族・魔王パズズ。
顔が怖い。アキラの事はとても性的な眼で見ているし、その身は自分に捧げられるべきであると考えている魔王様。ただしカリギュラよりはこじれていない。


ロムルス:
種族・黄龍。
皆から一歩引いた目線で全体を温かく見守っている。おとん。


ネロ:
種族・?????
出禁枠。召喚禁止令が出ている危険存在。
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