※この作品はR-18です。

異世界転移TS美少女召喚士の異種姦逆ハーレムライフ   作:白臼

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狐姦編

 

 

 アレフタウ王国北西部は大陸全体から見た場合においても北の端に位置している。

 春、夏、秋はいずれも短く冬は長く、それ故に緑は少ない。

 あまり農耕に適してはいない土地柄であり税収はあまり見込めない……そのためつい最近までは国からも半ば放置されている寂れた地域だった。

 

 しかしながら転機が訪れたのはこの土地に正式な領主としてテルミナトル辺境伯が赴任してきてからだろう。

 隣国との戦線に立って幾多の武功を上げた若き勇士である彼は、その褒章として広大な領地と王家より降嫁した第三王女を娶るという大きな栄誉を受けた。

 前後して発生した王国内の内乱という一大事こそあったものの、叙勲と婚姻は無事に執り行われ、二人はつつがなく北の大地に降り立ったのである。

 

 しかしながら前述した通り、北西部辺境の大地は寒く乾いた寂しい土地だ。

 面積は広いがその大半は冷たい荒野。点在する集落は相互の交流などほとんどなく、良く言えば質素、悪く言えば原始的な自給自足を営んでいるといった有様。

 辺境伯と言えば国土の外周を守り、いざという時には夷敵の前に立って国の盾となる重要な役所、地位で言うのなら侯爵や公爵にも引けを取らないだけのものがある。

 しかしながら実際に与えられたのがこの侘しい土地というのであれば、内情を知る他の貴族たちが『左遷』、『都落ち』などと揶揄するのもわかろうというものであった。

 

 ――――さりとて、この地を任された若夫婦の顔には悲壮な色は見られなかった。

 彼らにはこの土地を大いに盛り立てるための秘密(?)兵器をこっそりと囲い込んでいたのである。

 

 

******

 

 

「あ、来られましたね」

 

 どこか弾んだ調子で一人の少女が声を上げた。

 実際のところは少女という年齢でもないだろう。つい先日十九の誕生日を迎えた彼女は一人前の淑女(レディ)である。

 しかしながら額に掌をひさしのように添えて遠くの空へと目を凝らす仕草は、闊達な表情と相まってどこかあどけなさを感じる。

 花盛りの女性の美しさをもちながら、お転婆な少女の顔も覗かせる……第二次成長期とは違ってまた一つの年代から一つの年代への過渡期を感じさせる、そんな年頃の女性だ。

 

「こちらですよーっ、アキラさーんっ」

「姫殿下……もとい奥様、はしたのうございますよ」

「あら、そうかしら。――――ふふっ、それにしても奥様っていい響きね。なんだか胸がわくわくしちゃうわ」

「そう思われるのでしたらご夫人らしい振る舞いを心得ていただかなければ……」

 

 御付きの従者たちに苦言を呈されて、女性は怒るでも省みるでもなくころころと鈴を転がすような声で笑った。

 丁寧に切りそろえられた銀のセミロングの髪が揺れる。

 彼女こそがアレフタウ王国の元第三王女にして、現テルミナトル辺境伯夫人のシルヴィアである。

 

 彼女が現在いるのは辺境伯領の施政の中心となる都市の正門に当たる。

 ……いや、都市というには語弊が大きいだろう。何せ今現在も都市は建設中であり、今のところ作り終えているのは最終的に想定している機能の半分以下である。

 都市というよりは都市の雛型と言うべきか。さらに言うなれば建設が終わったところでここがそう呼ばれるにふさわしい賑わいを得られるかは、また別の話となるのだろうが。

 

 シルヴィア一行が立っている正門は都市の玄関口となることもあり、比較的初期に工事が終わった場所である。

 何せ、一番初めに外部からの人間を迎え入れる街の顔ともなる場所だ。人間が物に対して抱く感情は第一印象に大きく左右される以上、入り口部分に手を抜くのは避けるべきことであった。

 

 そして彼女らが此処に立っているのは今回も客人の出迎えの為であった。しかし、その客人は尋常の相手ではない。

 先ほどシルヴィアが来訪を確認した方角には一見すると何もない。疎らな草が生えた荒涼とした大地と出来かけの田畑、速成で均された街道以外に見えるものはなかった。

 だが、見るべきものは地平線まで続く街道ではなく――――その上の、空にこそあった。

 

 そこに見えたものを認識し、夫人の取り巻きのもの達に俄かに緊張が走る。

 のほほんとした表情を浮かべたままなのはシルヴィアただ一人である。

 内心で自分の従者たちに「何度も見ているはずなのにもっとリラックスできないのかしら」などと考えていられるのは彼女の純真さか、はたまた豪胆さか。

 

 ただ同じものを見た人間ならば、そして()()をよく知る人間であればあるほどに、身を強張らせるものを笑えまい。

 むしろ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出さないのを称賛するであろう。

 

 

 ――――空にあるモノは巨大な翼を持っていた。

 ――――空にあるモノは獰猛な牙を持っていた。

 ――――空にあるモノは鋭利な爪を持っていた。

 ――――空にあるモノは真紅の鱗を持っていた。

 ――――空にあるモノは紅玉の瞳を持っていた。

 ――――そしてそれは己こそが空を支配する者であると言わんばかりに大地を睥睨し、颶風が如き音を響かせながら大空を進んでいた。

 

 

 ……それは、紛れもなく『竜』であった。

 

 

 この世界には魔法というべき力は確かに存在するが、人間が行使できるそれはごく僅かなものに過ぎない。

 故にこそ人間にとっては理外とも言える魔法を生態として行使する魔物は古来より大きな脅威として人々に語り継がれてきた。

 その中でも『竜』は別格である。その存在は今は絶滅して久しいものの、幾つもの神話・伝説・歴史、或いは御伽噺の中で天変地異にも等しい最強の魔獣として語られている。

 

 そして、その竜が、伝説の魔物が今――――その翼を羽ばたかせながらシルヴィアたちの前に降り立ったのである。

 

「ぐぅるるるる……」

「…………っ」

 

 赤い竜が喉の奥で岩を転がすような唸りを上げた。

 彼からすれば移動を終えてのちょっとした一息という程度のモノなのだろうが、それは地平の彼方から響き渡る遠雷のような重さを伴う空気の震えだった。

 

 護衛のもの達の顔が皆一様に引きつり、身体が緊張に強張る。

 既に何度かこの竜を目撃し、身近に顔を合わせたことのある彼らは相手が理性的な存在であると十分に知っている。

 だが、それと恐怖を覚えないかは全くの別問題である。

 人は噛まないから、と言い含められているからといって檻や柵も無しに灰色熊(グリズリー)と正面から向き合いたい人間などそうはいないだろう。

 

「シーザーさん、今日もお疲れ様。お元気にされていましましたか?」

 

 そして一行の中でそうした素振りを一切見せていないのはシルヴィアただ一人だった。

 年若い夫人がニコニコと笑いながら恐ろしい巨獣に手を振るのを、護衛のもの達は戦々恐々と見守っていた。

 万一にもその竜の機嫌を損ねれば、背後にある出来かけの街ごと灰になるだろう。一部の者はその事実を()()()として知っていた。

 

「るるる゛ぅ……っ」

 

 赤竜、シーザーはいかにも鷹揚な態度で頷くとその両の前脚に()()()()()()()を地面に下ろした。

 人間に動物の所作というものは解らない。だがそれを見慣れている者――この場でならばシルヴィア――であれば、その荷物を下ろす動作がとても丁寧な、敬意と配慮に溢れたものであることがわかるだろう。

 

 そうして地面に静かにゆっくりと置かれたのは、一台の馬車であった。

 牽くべき馬のない、シンプルな少人数用のこじんまりとした馬車である。

 その側面のドアがやや乱雑に開かれ、そこから顔を出したのは一人の少女だった。

 

「よう、シルヴィア。出迎えご苦労さん、久しぶりだな」

「アキラさんこそ、お久しぶり。皆さんもお元気にされていますか?」

「おぅ、元気も元気。元気が有り余って大変だぜ」

 

 ドアと地面との間の段差を埋める昇降具を使うでもなく、そこから飛び降りた少女がシルヴィアに極めてフランクな挨拶を交わす。

 仮にも辺境伯夫人にして元王族に対して取る態度ではないが、そこにいる者は誰一人として口を挟む余地はなかった。

 シルヴィア自身が気にしていないことが一つ。

 二人の付き合いはとても深く、周囲もそれを知っていることが一つ。

 そして――――その背後の竜をペットのように手懐けている存在に意見できるものなどいないというのが最後に一つ。

 

 王位継承を巡る内乱で第三王女シルヴィアを護り、果ては王国そのものも護った異邦人にして救国の英雄――――女騎士(デイム)、アキラ・アガツマの登場であった。

 

 

******

 

 

「やぁ、アキラ。良く来てくれた。毎度毎度、呼びつけてすまないな」

「おう、アルノーさんも久しぶり。別に気にしちゃいないよ。土地の一部を貰ってる手前、世話になりっぱなしじゃ座りが悪いからな」

 

 辺境伯領、領主館でアキラを出迎えたのは領主であるアルノー・テルミナトルその人だった。

 日照の少ないはずの北方の土地に似つかわしくない、日焼けした褐色の肌をもつ体格の良い男性だ。

 いや、それは「体格が良い」で片付けてしまってよいのか悩む程度には大柄な――――有体に言ってしまえば筋骨隆々の、熊のような益荒男(ますらお)だった。

 貴族用に誂えられたシャツなど、襟元のボタンが胸筋の圧力に負けて今にも弾け飛びそうである。

 少なくとも正装を纏うよりは鎧甲冑の方がよほど相応しいだろう。

 

「あまり君とは身分の上下関係で縛るような間柄にはなりたくないのだがな」

「そう言ってくれるなって、俺は少なくともアルノーさんとシルヴィア以外の連中にはへこへこ頭を下げたくないな。上司に持つなら信頼できて気の置けない仲の人がいい」

「ふっ……。君はやっぱり変わっているな。特に我々のような人間からすれば」

「そうか?」

 

 立ち上った熊のような圧力を見る者に抱かせる巨漢だが、アキラは特に物怖じすることなく和やかに話しかけて見せる。

 これは周囲からすればなんとも奇妙で異質な光景だった。

 アルノーは元々軍団の指揮者としても、一人の騎士としても類まれな武勇を誇る男であった。

 その風聞と、はちきれんばかりの筋肉で覆われた肉体が見る者に与える圧力と相まって、貴族間ではいつでも遠巻きにされていた。

 多大な武功を讃えられながらも誰一人として傍によるもののいない孤独から、その表情は一層険しくなり、それがさらに人を遠ざける悪循環。

 彼の眉間から皺が取れたのは比較的最近の事だった。

 

「うふふ、アキラさんがそうやって親しい友人のように気安く話しかけてくれることが嬉しいのよ。アルノーにとっても……私にとっても、ね?」

「んー……確かにアルノーさんは初見ではビビったけど……。まぁ、ウチの連中に比べればそんなでもないよなぁ、と」

「あっはっは。確かに……いや、確かに!君の所の仲間たちに比べればオレも大したことがないな!」

 

 はっはっは、と快活な笑い声が屋敷の玄関に響く。

 ひとしきり笑ったアルノーはそれから、穏やかな笑みを浮かべてシルヴィアの方に向き直った。

 

「お帰り、シルヴィア。せっかくアキラが来たのに悪いのだが、オレも仕事があるからな。二人でゆっくりしてくれ」

「ただいま。いいのよ、私だって彼女とはお茶のついでにお仕事の話をするのだもの。そっちも頑張ってきて頂戴な……あなた」

 

 かたや褐色の肌に筋骨隆々の大男、かたや銀糸のような髪を靡かせるほっそりとした高貴な女性。

 如何にも対照的な両者だが、互いの体温も感じられそうなほどに近く寄り添い合って見つめ合う姿には心からの信頼と親愛が見受けられた。

 

「シルヴィア……」

「あなた……」

 

 特に夫を見上げる夫人の横顔には仄かな朱色が差している。

 銀細工のように麗しい王族の美しい(かんばせ)には、うっとりと夢見るような――――恋する少女の(かお)があった。

 アルノーという(いわお)の如き男の頑なな心と表情(かお)を解きほぐしたのは、紛れもなく今彼の眼の前にいる女性の、確かな愛情だった。

 

「………………あー……良い所悪いんだけど、お二人さん?そろそろいいかな」

「「……はっ!!」」

 

 いつまで経ってもお互いを見つめ合ったまま微動だにしない友人兼上司2名に痺れを切らし、アキラはパンパンと手を叩いた。

 その音で正気に戻った新婚ホヤホヤの若夫婦は弾かれたような勢いで肩を震わせた。

 二人そろって顔を赤くしてバツの悪そうな顔をした彼らを尻目にアキラは呆れたように口を開いた。

 

「王都にいた頃はこんなだったかなぁ?二人とも」

「あの頃は、その……あくまで婚約という形だったから、まだ一緒には住んでいなかったし……ねぇ?」

「う、うむ。そうだな……。やはり、婚約者という関係でなく、正式に夫婦となるとどうしても嬉しさも一塩でな……」

「やだ、嬉しいだなんて……。アルノーと一緒になれて嬉しいのは私の方なのに……」

「いや、私の方こそ自分には勿体ないほどの良い妻に恵まれた。君に恥じない夫であり続けられるように努力を続けなければ」

「あなた……」

「シルヴィア……」

「その辺にしてもらってもいいかな?二人とも仕事があるんだったよな?俺もその関係で呼ばれたんだよな?」

 

 放っておけば即座に二人だけの空間を構築し始めるバカップルにアキラは頭を抱えた。

 そんな三者を俯瞰しながら生温い視線を向けているのは屋敷の使用人たちと、アキラが連れてきた赤竜(シーザー)九尾の狐(カリギュラ)の二者だった。

 

「なぁ、お前らはどう思う」

『………………羨ましい限りだ』

「そうだな、シーザーは真顔でそう言う所あるよな」

『気に入らぬのなら我が死ぬよりも凄惨な目に遭わせてくれるぞ』

「カリギュラならそう言うと思ったが、それは無しな」

『ぬぅ……』

 

 最終的に物理的に二人を引っぺがして強制的に仕事に向かわせることで事なきを得た。

 元王女と辺境伯を相手にしてのダイナミック不敬だったが、アキラは彼等の侍従長にはむしろ感謝された。

 曰く、放っておくといつまで経ってもイチャイチャし始めるので普段でも誰かによって引き離されない限りあんな調子なのだという。

 使用人であれば畏れ多くて中々踏み切れずにずるずると時間が過ぎることもあるのだが、夫婦にとっての共通の『友人』であるアキラなら多少強引にでも決行できたということである。

 

「でも……だってほら?私達、まだ新婚さんじゃない?だから毎日アルノーと顔を合わせる度にこう……ふわぁ~って幸せな気分になってしまって……」

「結婚してもう半年も過ぎてるだろう。いい加減に慣れろよ……」

「慣れたくないわ。慣れたらこのドキドキがどこかにいっちゃいそうで怖いもの」

「へいへい、ごちそうさん」

「? まだお茶の用意をしたばかりよ?」

「……いや、そういう意味じゃなくて……」

 

 げんなりとした表情のアキラは机の上の紅茶に口を付けて心を落ち着かせた。

 彼女ら二人がいるのは屋敷の一角に用意されたサンルームである。

 言うなればガラスで天井と壁を囲った温室のような場所で、二人が腰を落ち着けている茶会用のテーブルの周りには幾つもの花が栽培されている。

 まだ冬も遠い季節だが、乾いた風に晒される屋外よりはずっと居心地の良い空間だ。

 ガラスの天井から注がれる日の光が部屋の中を温めて、文字通りの陽だまりのような暖かさを演出している。

 

 気温が心地よいのか、移動要員兼護衛役として同行しているシーザーは日当たりの良い床の上に寝そべっていた。

 主人からのマナ供給を絞られて一般的な中型犬程度のサイズに縮小して日向ぼっこをしている姿からは、これが先ほど馬車を抱えて飛んできた竜と同一個体だとは信じられないだろう。

 

「シーザーさんは何か飲まれないの?」

「るぅ……」

「『不要』だとさ。……あいつは肉食だからな。俺らの三時のおやつにステーキが合わないのは解ってるから遠慮してるんだろう」

「ふふっ。彼って口数は少ないけど、やっぱり紳士なのね。昔から」

「まぁな」

 

 シルヴィアはこの世界にやってきた異邦人であるアキラの後見人になった人物だ。

 必然、アキラの召喚獣達とも面識はあり、関係もそれなりに深い。それぞれの気質もある程度知っている程度には。

 

 ……そして、彼等の能力にもまた知悉している。

 今回彼女がアキラを招待したのも、その召喚獣達の能力を頼っての事である。

 

 例えば現在アルノーはロムルスと連れ立って仕事に出向いている。

 彼ら二人……もとい一人と一体は工事現場の視察とこれからの領地開発計画の打ち合わせをしている。

 ロムルスは黄龍という種族の召喚獣(モンスター)であり大地を司る神性を有するとされる。

 人体に血と気の脈があるように、大地にも脈がある。これを理解し、制することで領土そのものを効率的に利用し、発展させることができるのである。

 例えば今アキラ達がいるこの都の地下には太い水脈が流れており、これを発見したのもロムルスの手柄である。

 現在もロムルスは相談役として都市の建築、街道の整備、田畑の開発などなど様々な案件に携わっている。

 

 そして、元王女のシルヴィアにも頼りにしている召喚獣がいる。

 

『……さて、では始めるとするか』

 

 ウゥゥ゛ッ、と獰猛な獣の唸り。穏やかな陽だまりの下の茶会の席の雰囲気にはそぐわない、根の国(地の底)から這いずってくるような黒い声だった。

 シルヴィアとアキラと同じテーブルについているのは九つの尾を持つ狐――――カリギュラであった。

 彼はいつものようにどこか不機嫌そうな鬱々とした雰囲気のまま、尻尾を指先のように器用に動かしながらテーブルの上に並べられた資料を検分していた。

 

「じゃあ、前の続きから始めますけれど……カリギュラさんのおっしゃる通りの要望はなるべく通せたと思いますよ?詳しくはそちらに書いてありますけれど」

『諜報機関の設立要綱。悪くはないが、やはり時間がかかるな。……(ノロマ)め、下地ができていないからだ』

「返す言葉もありませんね。現在の国王陛下……兄上に纏まるまで、この国の上層部は派閥に分かれすぎていて足の引っ張り合いに終始していましたから。国家で統一された情報網が作りにくかったのです」

『それで今までよく保っていたものだ、ほとほと呆れる。だが王位継承の内乱を機に邪魔な諸貴族の粛清ができたのは僥倖である』

「ですから今のうちに王族による、より強固な中央集権体制を確立しておかないと二の舞……ということでしたわね。その為の専門的な諜報機関の設立」

『一通の手紙に記載されている情報は、時として万軍に勝る武器となり得るからだ。……故にその扱いには慎重を期さねばならん。設立される機関の構成員の手綱は王族が厳重に握り続ける必要があるぞ』

「情報は毒のような物ですからね。それを握っているものが叛意を抱いた場合、どのように刺され、どこに垂らされるかわかったものではありませんし」

『左様。構成員には相応の褒章を与えるのは勿論、最大限まで忠誠心を植え付けろ。そ奴らの世界が王族を中心に回るようにすればよい。そして何より内部監査が重要だ。裏切者は決して許すな。一族郎党、血の一滴まで根絶やしにする程度には徹底せよ』

「信賞必罰、飴と鞭」

『然り。だが、鞭の痛みに怯えるあまり飴の甘さを忘れるようなことがないように取り計らえ。見極めが肝心だ。具体的には…………』

 

 シルヴィアとカリギュラが手慣れた様子で互いに意見を突き合わせながら政策談議に没頭する。

 カリギュラの獣らしい唸り声はおよそ人間に理解できるものではないが、その辺りはアキラが逐一翻訳している。

 正直なところついていけない話ではあるので、半ば無意識に耳と口だけを動かしながら彼女は茶菓子を摘まみながら二者の話を聞き流していた。

 

 カリギュラの種族は金毛白面九尾之狐。遊興がてらに幾つもの王朝を滅ぼしてきた、傾国の魔物である。

 故に国を崩壊させる手法など両手の指では足りない数で心得ているし、それを反転させれば国を護り、富ませる方法となるのも自明の理であった。

 シルヴィアは王女であったころから……というかアキラと出会った当初からその政略と謀略の手練手管を頼りにしていた。

 血で血を洗う抗争となった王位継承者問題に伴う内乱を無傷どころか、得るもの多くして潜り抜けられたのもその助力が大きい。

 

『皇国の動きは?』

「慎重に動いているようだけど、やっぱり山向いに『赤竜姫』が住んでいるっていうのはプレッシャーになっているみたいね。常駐兵でも置きそうな雰囲気」

『ふん、無駄な出費をご苦労なことだ。頃合いを見計らって帝国にでもその情報を漏出(リーク)しておけ』

「皇国の兵力が()()()への監視で削れてるなら帝国側も攻めやすいものね。でも、なるべくなら長期で消耗戦をしてくれた方が良いわね。王国(私達)が漁夫の利を取っても、今は内部の再編で忙しいのだし」

『むしろ王国再編に集中するためにも、外野は適度に潰し合ってくれた方が良い。……内乱に乗じて侵攻してきた連中には、散々戦力の差というものを見せてやったが、学ばぬものはいるのでな』

「……いっそのこと、ぱーっと制圧できれば楽なんでしょうけどね」

『我も常々そう具申しているのだがな、主に』

「――――――えっ、オレ?」

 

 特に何も考えるようなこともなく、聞き流しながら翻訳に徹していたアキラは突然自分に話題の矛先が向いたことに気付いて目をぱちくりさせた。

 話は半分以上意識していなかったのでどういう流れだったのか、彼女にはさっぱりわかっていない。

 

『お主が望みさえすれば、すぐにでも国の一つや二つは取れるという話をしておる。山向いの皇国など――――』

「やだよ、面倒くさい」

『…………』

 

 カリギュラの提案に、アキラは即答した。

 即断での、却下である。

 妖狐の眼の(まなじり)が鋭く吊り上がるが、それでも彼女にはどこ吹く風であった。

 

「国とか要らないし、どう考えても手に余るだろ。オレは()()()()()よりも、皆との生活の方がずっと大事だけどな」

『……お主』

「ふっ……あははは……っ!!」

「何笑ってるんだよ、シルヴィアは」

「だって……国一つを指して()()()()()扱いだなんて……っ」

「んー……あー……、機嫌悪くしたならごめん。王女様を前にして言うようなことじゃなかったな……」

「いえいえ、良いのですよ。貴女はそういう方ですから。私はそれが良いと思うのです」

 

 当惑しきりのアキラに対して、シルヴィアはあくまでコロコロと鈴を鳴らすような明るい笑いを漏らすばかりだった。

 彼女にとっては異界から来た友人の、そんな価値観がとても好ましかった。

 可愛らしい見た目なのに男性のようにあけすけなところだとか、身分だとかそんなものに全く頓着しない気安さだとか――――国を興すも滅ぼすも容易い力を持ちながら、ささやかな幸せで満足できる慎ましやかな器だとか。

 

 あまり口の端に乗せたことは無いが、シルヴィアがこうして辺境伯領の開拓に専念できているのもアキラの影響が大きい。

 彼女に()()されていなければ、彼女もまた自らが王たらんと気勢を上げて玉座を巡る争いに最後まで固執していただろう。

 今のように兄に王の仕事を任せて、愛する夫と共に平和に生きる選択肢を取れたかどうかは怪しいものだった。

 

「まぁ、国の事を()()()()()扱いするのだから、アキラさんの領地もとっても良いものに成っているのよね?せっかく良い立地を差し上げたのだし、話が聞きたいわね」

「うちの領地?うちの領地ね……、んー……この辺りだと比較的作物が育てやすい場所だから、もっと農地拡げて輸出しようぜ、って感じの事をアウレリウスが……」

「いいわねぇ。街道もちゃんと引いて行き来を楽にしたいわ。……確か、そちらでは温泉が出たのよね?観光資源にできるんじゃないかしら?」

「温泉かー。確かこっち側でも出そうなところがあるってロムルスが言ってたけどな」

「本当?あらあら、またやることが増えたわね。楽しみ!」

「仕事が増えて楽しいって言えるのは素直にすごいよな……」

 

 自分が何を内に抱えているのか、その辺りは特に見せることもなくシルヴィアは適当なネタを振って雑談に興じた。

 口元に寄せた紅茶の香りを楽しみながら、元王女はその人生でも数少ない対等の友人との話を楽しんだ。

 

『……ふん』

 

 そんな彼女らの横で、九尾の狐が憮然とした表情のままに書類を手繰っていた。

 

 

******

 

 

「やれやれ……しかしなんだってオレがこんなことを……」

「まぁまぁ、これも彼からのたってのお願いですし。この程度のお願いの一つや二つは聞いてあげないとご主人様の威厳というものが問われますよ♡」

「威厳もへったくれもない感じがするけどな、()()()()()だとっ!」

 

 さて、時間は移って場所も変わり――――夜半、アキラの邸宅にて。

 彼ら彼女ら一党にとっての恒例行事、アキラの夜伽権獲得大会はカリギュラが選ばれることになった。

 前回からの期間の空きを考慮したローテーション、及びアキラに対する貢献度を加味した結果になる。

 

 アキラに対して性的な意味も含んだ好意を持っているものと、好意は持っているものの性的な意味を含まない者の比率は丁度半々くらいだろうか。

 主との共寝を許されて実際に手を出すかどうかは召喚獣自身の判断に委ねられているため、その気のない者であれば純粋に添い寝だけして夜を明かすこともある。

 一方でアキラを抱くことに喜びを感じている者は、各々趣向が若干違うので彼女自身の負担もあれこれと違ってくる。

 

「むぅ……」

 

 そして、今夜褥を共にすることになるカリギュラは、割合と()()()部類に入る手合いであった。

 これまでに何度か夜を過ごしたことを思い起こして、アキラは背筋が()()()とする。

 その背中が泡立つような感覚が()()なのか()()なのかは判然としなかったが、彼女は意図的にそこからは目を逸らした。

 答えを出してしまうのは何だかよろしくない気がしたからである。

 代わりに彼女は、自分が来ている服の裾辺りをぴらり、と摘まんで独り言ちた。

 

「あいつもいい趣味してやがるな、主人にこんな服を着させるとは」

「えぇ、えぇ、大変お似合いですよっ。カリギュラさんも慧眼でいらっしゃいます」

「こっちは皮肉で言ってるんだけどな!」

 

 肩を怒らせて気炎を上げるアキラ。

 彼女が着ているのは――――ずばりメイド服であった。

 

 これは先に寝室で待っているカリギュラからのリクエストである。

 ()に備えて風呂に入っていたアキラは脱衣所で着替えを用意して待っていたヘリオガバルスの手によって、あれよあれよと瞬く間に着せ替えられてしまった。

 その時の淫魔メイドの笑顔ときたら喜色満面を絵に描いたような代物であり、その顔はむしろアキラにとっては腹立たしかった。

 自分の主に敢えて女中(メイド)の格好をさせる――――カリギュラのそんな倒錯的な趣味はヘリオガバルスも大いに支持するところであった。

 予め黙って縫製していた甲斐があったというものである。

 

「でもぉ……そんな怒ってる風なこと仰っても、お似合いなのは事実ですし……♡ ほら、鏡の方をご覧になってください」

「ぅっ……」

「ご主人様、とっても可愛いですよ♡」

 

 ヘリオはアキラを鏡の前に立たせた。

 憮然とした表情を浮かべている主人だが、視線は確かに姿見に映り込んだ自分自身を捉えていた。

 

 全体的なデザインは淑やかさよりも艶やかさを重視したフレンチメイドスタイルである。

 ブラウスの胸元はわざと肌を露出させるデザインになっており、慎ましやかながらも張りがある女性的な膨らみの存在を主張している。

 ミニ丈のスカートはフリルで飾られながら軽く広がって可愛らしいシルエットを描き、白いガーターストッキングに包まれたスラリと健康的な脚を強調している。

 しっとりと濡れた栗色の髪を飾るのはフリルで縁どられたホワイトブリムだ。

 

 湯上りで上気した肌は化粧に頼らずとも仄かに赤く、瑞々しい。

 朱色に色付いた少女の唇。紅桜の花弁のようなそれを細い指先がなぞる。

 いつしかアキラは鏡の中に映る自身の影に指を這わせていた。

 さながら、それに魅入られたように。

 

「お気に召しましたか、ご主人様♡」

「……いっ、いやっ!!べ、べつに……、別にそんなことないっ!!」

「うふふ……っ♡ なら、そういうことにしておきましょうか?でも……」

「……っ」

 

 狼狽えるアキラの背後から、ヘリオガバルスがしなだれかかるように抱き着く。

 その抱擁は綿雲が包み込んでくるように優しく柔らかく、それでいて食虫植物が絡みついてくるように秘めやかで粘ついていた。

 主を抱きしめるほっそりとした腕が、手が、指が、蜜に濡れた蔦のようにメイド服の上からその体を撫で擦る、

 その手触りが、度々彼女に施される前戯を否応なく想起させ、アキラは体の内側に小さな灯がともるような感覚を覚えた。

 蕩けた飴のような、情欲を煽るような甘ったるい吐息交じりの声がアキラの耳元に囁かれる。

 

「でも……カリギュラさんはきっと、これでとても興奮なさるんでしょうね……♡」

「ヘリオ……っ」

「ふふっ♡ たぁっぷり可愛がって来てもらってくださいね、ご主人様……♡」

「ぁっ……」

 

 それだけ言って彼女はあっさりと身を翻してアキラを解放した。

 その時に主の口から漏れた声は安堵のそれだったか、はたまた離れていった感触を惜しむものだったか。

 アキラのそんな心の揺れ動きが余程楽しいのか、ヘリオガバルスはいかにも悪魔らしい蠱惑的で淫蕩な笑みを浮かべていた。

 

「では、カリギュラさんをあまり待たせるのも悪いですから……。参りましょうか♡」

 

 しかしながら、今夜は主人の体の()()()は頼まれていない。

 それだけは残念に思いながら彼女は淫魔らしく、自らの主を先導することにした。

 

 アキラは頬を赤く染めたまま、こくこくと頷いた。

 

 

******

 

 

「よ、用意できたぞ」

『よかろう、入れ』

 

 いつもの畳敷きの寝室、襖の前で声をかける。

 中から聞こえてきた鷹揚な返事はカリギュラのものだ。

 

(何がよかろう、だよ)

 

 これではどちらが主人なのかわかったものではない、とアキラは心の中で悪態を吐いた。

 ……だが、実際に彼女の考えるとおりであるのかもしれない。

 召喚獣達を従わせるべき立場にある主人であるアキラが、今は逆に誰かに傅くべき女中(メイド)の衣装を着させられている。

 さらには敢えて向こうが待つ側に回り、こちらの方が伺う側に回っている。

 

 露骨な、それでいて言外の主従の逆転。

 それが今夜のカリギュラが設けた趣向(コンセプト)なのだ。

 ――――アキラはその事を何とは無しに勘付いていた。

 

『……あぁ、なるほど悪くない。馬子にも衣装というのか、こういうものを』

「誰が馬子だよ……」

 

 事実、いかにも大儀そうな面持ちで布団の上に寝そべっているカリギュラの姿は完全に上位者のそれであった。

 ぼんやりと広い和室を照らす橙の灯篭(ランタン)の明かりに照らしだされているのは九つの尾を持つ狐の姿だ。

 その尾は一本一本が黄金と白金の見事な色合いで、部屋の薄闇の中にゆらゆらと揺れる様は金色の炎のようにも極上の絨毯のようにも見えた。

 肉食動物らしい双眸に宿る、燃える硫黄のような瞳が()()を品定めする目つきでアキラを見つめていた。

 

「…………っ」

 

 その眼に正面から捉えられた彼女は()()()、と背筋を震わせた。

 他の召喚獣達が自らに向ける親愛と情愛と敬愛が混じったそれとは違う……一線を画する眼だ。

 それは正しく捕食者の態度であり、目線だった。

 自らに捧げられた供物の質を品定めしている、神が如きものの双眸()であった。

 

「カリ、ギュラ……」

『……なっておらんぞ、なっておらんなぁ』

 

 硫黄色の瞳に射すくめられたアキラの喉から辛うじて漏れ出たのは喘ぐような微かな声だった。

 それを聞いて九尾の妖狐はあからさまに落胆したような態度を取る。

 よく見るならば笑いを噛み殺しているようにも見えたのだが、その態度を見たアキラは発作的に()()()を覚えてしまった。

 胸に()()()、と小さく鋭く――――それでいて深く抜けない棘のような痛み。

 

『何のために端女の格好をさせておると思っているのだ。我を慰撫するのがお主の()()であるのなら、相応の態度というものがあるであろう……なぁ?』

「相応の……態度……」

 

 にぃ、とカリギュラの口端が吊り上がるように歪む。

 凡そ人間とはかけ離れた狐の容貌(かお)であるが、それは確かに笑い顔だった。

 

 彼の言は一部、欺瞞がある。

 召喚獣達の夜伽権は、褒美であって責務ではない。

 アキラに仕える彼らの働きに対して与えられる褒章であり、主に対して好意を抱くもの達の間を取り持つための制度である。

 しかし――――皆は確かにそのように認識していても、それに対してどのような思いを抱いているかは個々人によって違う。

 

 

(そ、そうだよな……オレは皆の主人なんだから、期待に()()()()()()()()……)

 

 

 アキラは自分自身に自信がない。

 普段の態度がどうであれ、言動がどうであれ――――他ならぬ自分こそが自らを取り巻く環境の中で最も非力であると知っているからだ。

 王女のように政治と謀略に知恵を巡らせることもできないし、辺境伯のように武勇と武勲を誇れるでもない。

 彼女の地位と名声は全て召喚獣達の力を笠に着ての事であり、さらに言えば召喚獣達の力でさえも、ゲームからそのまま引き継いでしまった借りものに過ぎない。

 

 ただ身一つになった場合のアキラには、何もない。

 男性の精神を少女の体に放り込まれただけの、歪で非力なちっぽけな人間が一人残るだけ。

 その事をいつも心のどこかで思い続けているからこそ――――彼女は、自分ができる何かがあればすぐにそれに飛びついてしまう。

 

「お、オレ……いや、()は……今夜はカリギュラの……じゃないカリギュラ()のメイドです……っ」

『あぁ、そうだ。その通りだとも。……そして、我の端女(メイド)は我に何をしてくれるのだ?』

「…………っ……」

 

 たどたどしい言葉でアキラが屈従の言葉を紡ぐ。

 視界がぐらつき、手足が痺れるような錯覚。

 酩酊した時のように脳が熱くなり、()()()()とした震えが体を巡る。

 

 

「……わた、私の体を捧げます……っ。どうか今晩っ、たっぷりとお楽しみください……っ」

 

 

 そう、最後まで言い切ったアキラは息を吐いた。

 熱い息だった。どくん、どくん、と激しく脈打つ心臓の熱が漏れ出したかのような息だった。

 ぶるり、と身が震えるのは(おのの)きのようであり、何かをやりきった達成感のようであった。

 

『………………善哉』

 

 自分の主からの服従宣言を引きずり出したカリギュラは、深く暗い笑みを浮かべた。

 彼はアキラの自己評価の低さを、それに起因する責任感と、そこから派生した奉仕願望めいたものを良く理解していた。

 だからこそ、彼は「慰撫するのが仕事」などとわざとらしく発言して彼女を煽ったのだ。

 弱みを抱えた小娘(あるいは小僧)の心を誘導するなど、赤子の手を捻るよりも容易いことであった。

 

『――――来い』

「は、はい……」

 

 カリギュラの一喝に促され、アキラはふらふらとした足取りで、さながら糸で吊られた人形のように彼が寝そべる褥の近くに歩み寄った。

 その様子を見て彼は内心でほくそ笑む。

 所詮は人間。九尾の妖狐たる自分の手の上で踊り、舌の上で転がされるのが似合いというものである。

 

『どれ、捧げものの具合を確かめさせてもらおうか。――――()()()()()()

「……っ」

『どうした、たくし上げろと言ったのだ。わからぬほどに愚図でも初心(うぶ)でもあるまい?』

 

 妖狐の言葉に少女の肩がびくりと震える。

 何をたくし上げろと言われているのか、その意味は当然わかっている。

 わかっていて、その上で羞恥が行動を躊躇わせる。

 顔が火のように熱くなる。脳がひりひりと焦げるような感覚がする。

 

(でも、これは自分の仕事で、それで、命令されて、仕方なくて、だから)

 

 寸断されたように途切れ途切れの思考がそのような結論を出力する。

 錆びついた機械仕掛けのように、ぎくしゃくとした動きで彼女の手が自身の下半身に伸びて――――スカートの裾を摘まむ。

 

「どう、ぞ……」

 

 掠れるような少女の声。だがその中にはいつからか、はぁはぁ、と荒い息が混ざっている。

 清潔な白い手袋に包まれた細い指が、フリルに縁取られたスカートをゆっくりと持ち上げていく。

 その緩慢さは羞恥の故か葛藤の故だろうが、図らずとも見るものを焦らすような、見るものに見せつけるような所作だった。

 

 スカートの下から脚が覗く。

 少女らしいほっそりとしたシルエットと華奢なラインを描きながらも、確かに存在を主張する肉と脂肪のむしゃぶりつきたくなるような太腿の丸み。

 湯上りで瑞々しくしっとりとした白い肌を覆うのは太腿の半ばまでを覆う、肌よりも尚白い生地のタイツだ。

 レースに飾られたその履物の上端には上から吊り下げるためのガーターの紐が直線を描いている。

 自然と見るものの視線を誘うかのような装身具に導かれれば、そこはスカートの下の秘すべき場所である。

 

 清楚に逃げず下品に落ちず、という繊細なバランスの上でデザインされた白のショーツ。

 華やかなレースの生地と、ワンポイントに付けられた小さな可愛らしいリボンの飾りが目を惹いた。

 スカートに隠された女性の股と下腹を覆う美しくも愛らしい逆三角形の純白の布地。

 そこを曝け出すことを強いられたアキラは眼に見えて顔を赤くした。

 身悶えするほどの羞恥が彼女の意識を焼き、それを証明するように細い脚がもじもじと揺れた。

 

「……っ……」

『俯くな』

 

 知らず知らずのうちに、恥ずかしさに耐えかねたアキラは顔を隠すかのように俯かせていた。

 だがその心の動きを読んでいたかのようにカリギュラが主の態度を叱責する。

 ぴしゃり、と鞭打つかのような有無を言わさない口調であった。

 

『我から目を逸らすな。手を下ろすな。脚を閉じるな』

「は、い……っ」

 

 耳から脳へと焼き付けるような『命令』の言葉。

 それに対してアキラは声を震わせながらも頷きを返した。

 茹で上げられたように赤い顔に泣き出しそうなほどに潤んだ瞳。

 それでも言われた通りに顔を上げて目を逸らさないようにしているその姿は、いっそ健気とさえ言えようか。

 

『……愛い。愛い奴よ』

「ぁっ……」

 

 そして、その健気さを讃えるかのような呟きと共に、カリギュラの尾が伸ばされた。

 天鵞絨(ビロード)のような美しい毛並みの尾が、さながら彼の指先であるかのようにアキラへと伸ばされてその(おとがい)をくすぐる。

 つつ、と顎先に添えられる微かなくすぐったさを伴う感触。

 極上の毛を選んで束ねた筆先のようなそれが顎から頬を撫でる感触にアキラは小さな息を吐いた。

 

 共にかけられた言葉も相まって、誉めそやされているかのような面映ゆさ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、という侍従の、或いは端女の――――また或いは奴隷のような、心の動き。

 自ら頭を垂れて膝を屈し、その態度をこそ褒められるということ。

 それは()()()から()()()に対する躾のような行いであり、無意識のうちにアキラはその立場を受け入れていた。

 

 奉仕することの悦び。言いつけを守れたことの歓び。役に立てたことの喜び。

 それをじっとりと塗り込むかのように、カリギュラは尾の先でゆっくりとアキラの顔を、頭を撫で擦ってやった。

 

「ふ、ぁっ」

『動くな……』

 

 少女の喉から、喘ぐような小さな声が漏れる。

 九つの尾が妖狐の背後から揺らめく炎のように立ち上がり、しゅるりと衣擦れの音を立てながらその体に纏わりつき始めたからである。

 

 驚くほどに滑らかな毛並みを持つ尾がアキラの細い脚に絡む。

 タイツにの絹の手触りと乙女の脚線の艶めかしさを味わうかのように足首から膝へと、膝から太腿へと。

 また別の尾は胴にもその毛先を伸ばす。女らしい体を強調するようなメイド服は細かなところで露出度が高い。

 胸元を見せるデコルテの隙間、白い肌を見せる背中の開き。そこをくすぐるかのような絶妙な力加減で狐の尾が滑る。

 細かな筆で肌を突つかれ、なぞられるような感覚が走るたびにアキラはびくっ、と背を振るわせた。

 

「ん、くっ♡」

 

 噛み殺せたようで抑えきれていない小さな喘ぎ。

 首筋をなぞる尾の感触が()()()()()、という官能的な震えをもたらした。

 

 官能――――そう、官能である。

 カリギュラはアキラの性感帯が首筋や耳周りであることを良く知っている。

 ()()()()()、褥の上で何度も嬲って哭かせてやった部位であるのだから。

 そして今も彼の尾の先端が焦らすように、甚振るように、細やかな動きでそこを撫で擦る。

 

 ()()()()、と或いは()()()()、と。

 それはさながら米の上に字を綴るかのような繊細かつ執拗な尻尾捌きであった。

 少女の玉の肌に浮いた小さな汗の粒を、細かな産毛を掬うような細やかさ。

 

「ふっ、ぅっ……っく♡」

 

 白く形の良い、それでいて赤らんだ耳朶(みみたぶ)

 その輪郭を尻尾の先端が何度も何度もなぞりあげ、表面を舐めるように擦る。

 或いは毛先をさながら耳かきにでもするかのようにそっと先端を耳穴に入り口に滑らせて、しゅるしゅると擽るのであった。

 耳元で肌と毛が擦れ合う音が直接耳から脳へと響き渡り、くすぐったさにアキラは身を捩らせた。

 ()()()()()()、という感覚が首から胴へと火花が散るように、電流が走るように飛び火する。

 

 漏れ出る吐息は荒く、栗色の瞳は涙を溜めているかのように潤む。

 それでもアキラは言われた通り、スカートをたくし上げたまま目の前のカリギュラから目を離すことなく立っていた。

 メイド服を着た主のそんな健気な様が愉快で、カリギュラは硫黄色の眼を細めた。

 芸を褒めて貰おうと足元に縋りつく子犬。そんなものを想起させる。

 その様がいじましい程に、はたまたいじらしい程に加虐心がそそられる。

 涙目で自分に情けを請い願う姿がもっともっと見たいと、それがカリギュラにとっての嘘偽らざる本音であった。

 

 妖狐。金毛白面九尾之狐。王を誑かすもの。王国を腐らせるもの。王朝を食い物にするもの。

 人とは尾の先で突ついて弄び、最後にはその涙ごとぺろりと平らげてしまう――――そのようなものなのだ。

 今もこうしているように。

 

『どうした?腰が引けているぞ?』

 

 口元を歪ませながらカリギュラが指摘する。

 彼が言うようにアキラの細い腰は何かから逃げるように時折揺れ動いていた。

 見てみるならば、少女の脚に蔦のように絡みながら伸び上がっている彼の尻尾は太腿を超えてその先へと手を伸ばしつつあった。

 ねっとりと舐めるように瑞々しい太腿を這いあがり、ついには純白のショーツへと。

 そして金毛を束ねた尾の先端がその下着の表面を撫で回している。

 

 激しい動きではない。

さわさわと美麗な下着とその布地の手触りを確かめるようなゆっくりとしたそれだ。

 だが時折、尾の先端が何食わぬ顔をして白い逆三角地帯の下の方を撫で上げるのだ。

 しゅるり、という下着のレースと白金色の毛束が擦れ合う小さな音。

 その度にアキラはひくん、と身を震わせた。指摘されたように、細い腰が逃げるように後ろに退ける。

 

「……っ」

 

 助けを請うような、或いは恨みがましいような何とも言えない眼でアキラはカリギュラの方へと視線を向けた。

 睨むというには弱々しいその眼で見られることが、却って彼の心を浮つくような優越感で満たす。

 

 今度は尾の先端が、脚の間に差し込まれて撫で擦る。

 ショーツのクロッチ部分をしゅるり、と撫でられ、反射的にアキラの脚が縮こまろうとする。

 だが、「脚を開け」と命令されている以上は閉じることはできないし、そもそも両脚が尾に巻き付かれている以上は元から無理な話だった。

 会陰部から込み上げてくる熱い感覚に、アキラは息を呑んだ。

 

「ふぅっ、ぅっ♡ んっ、ぅ、くっ……♡」

 

 それをきっかけに纏わりついていた九つの尾が改めて動き出す。

 服の隙間に入り込んだものが肌を撫で上げて、舐めしゃぶるかのように肢体をなぞる。

 アキラの体から官能を引き出そうとする意図を隠そうともしない妖狐の指は本格的な性感帯へとその矛先を伸ばした。

 胸元に伸びたものが服と下着越しにゆるゆるとそこにある膨らみを撫で、女体の弾力を楽しむかのように力を加えた。

 そしてその先端部に尾先が添えられて、筆で遊ぶかのようにくりゅくりゅと最も敏感な部位を弄るのである。

 

 そして当然、耳やうなじ、首筋などを嬲る手が止むこともない。

 体中から肌の下へと侵食していくような官能が、じわりじわりとアキラの中へと溜まっていく。

 少しずつ少しずつ、不意に溢れださないよう水を杯の中へと慎重に注いでいくかのような――――恐ろしく繊細で、じれったい愛撫。

 そしてその熱は少しずつ体の中でも特に敏感な場所へと蓄積されていき、表面に染み出してくるのであった。

 

『なんだ、これは?』

「ぁ、ぅ……っ」

 

 カリギュラの尾が一本、アキラの顔の前まで掲げられその頬を撫でた。

 その先端は僅かに……ほんの僅かに濡れており、湿った水滴が一条の線を赤い頬の上に残した。

 その尾は今まで少女の股間をゆるゆると撫でていたものであり、その水滴は下着のその部分から染み出してきたものであった。

 

『はては漏らしたか?我の端女は随分とまぁ、みっともないものだ。赤子という歳でもあるまいに』

「ぁ、ちがっ……」

『ではなんだ?尿でもないというのならば言ってみよ。――――何で股を濡らしたのか』

「…………っ……」

 

 威圧的な、加虐的な――――たっぷりと滴るほどの悪意と愉悦を込めた眼でカリギュラが煽る。

 メイド服を着た少女の股座、幾度も妖狐の尾で擦られたそこにはうっすらとした染みができている。

 ぴったりと浮き出たかのような縦一文字の水気の痕はそのすぐ下にあるもの――――女性器の存在を知らしめるには十分に過ぎた。

 そして、その今の状態も。

 

『答えられぬのなら、直接検めるしかなかろうな?――――脱げ』

 

 ぱくぱく、と口を震わせることしかできないアキラに対し、

 カリギュラはそれこそ喜色満面という言葉が似合うような笑みでそう告げた。

 

 

******

 

 

 纏わりついていた尾が離れていったあと、アキラは布団の上に仰臥していた。

 白く清潔なシーツという背景に白黒のメイド服と仄かに赤らんだ乙女の肌が映える。

 それはさながら膳の上に乗せられた美食のようでもあった。

 まずは見た目で楽しみ、香りで楽しみ、そして当然のように次は――――舌で楽しむ。

 

「…………っ」

『早うせい。――――まぁ、それともわざと我を焦らしておるのか?』

「ぬ、脱ぎます……」

 

 糾弾するような口調のカリギュラに対してアキラは無意識のうちに敬語でそう返していた。

 敢えてへりくだった態度で、その不興を買うことを恐れるように。

 その衣装がそのままに表しているような端女(メイド)らしい、どこか卑屈で媚を売るような様だった。

 

『見ておいてやる。四の五の言わずに脱げ』

「はい……」

 

 アキラは羞恥心に脳を焼かれるような感覚を味わっていた。心臓の音がバクバクとうるさくて体が熱い。

 今も自分を高圧的に、傲慢に見下ろすカリギュラの視線を意識するとそれらが一層激しくなる。

 

 だが――――その一方でその要望に応えなくては、という気持ちが湧いてくる。

 それは、こんなに恥ずかしいことをしなくてはいけないというのもそもそもカリギュラが命じたからではないか――――というような転嫁の思考でもあった。

 カリギュラのためだから、カリギュラのせいだから……と心の中で唱えながら、アキラはいよいよ自分のスカートの中に手を伸ばした。

 

 先ほど既に散々弄られたショーツの両脇に指をかけて摘まみ、少し腰を浮かせてずり下ろしていく。

 しゅるしゅる、というささやかな衣擦れの音が無音の夜の寝室ではいやに大きく響く。

 

 それがなおの事アキラの心の中で恥ずかしさを煽る。

 特段に恥ずかしいのは股座からクロッチが離れていく瞬間に感じた、濡れた布が剥がれていく感触と音だった。

 にちゅ……、という微かな音が自身の脚の間、スカートの中で立った。

 叶うのならそれを聞いたのが自分一人であってくれれば、とアキラは思ったがそれは無理な相談だった。

 

『あぁ……濡れた音がしおったな……。それに、匂う……。女の匂い。雌の匂い。発情して濡れそぼった、女陰(ほと)の匂いだ』

 

 やがてアキラが下着を脱ぎ終えたと共にカリギュラはそう呟いた。

 布団の上に打ち捨てられた下着、そこについた染みとそこから香り立つ臭いは獣には誤魔化せない。

 仄かに甘く、酸っぱく、鼻腔の奥に重く溜まるような――――むせるような女の匂い。

 

 わざとらしくカリギュラが鼻先を鳴らしてみれば、アキラは恥ずかしさに打ち震えた。

 自分の体臭を指摘される、というのはそれだけの羞恥を伴うものだった。

 

『さて、肝心の()()がどうなっているのかを検めねばな。次は、股を開け』

「ひぅ……っ」

『もっとだ』

「ぅ……」

『もっとだ!』

 

 仰向けで膝を閉じたままのアキラ。彼女の脚は命令されても遅々として開かない。

 全身をまさぐられながら濡れていることを指摘され、目の前で下着を脱がすことを強要され、あまつさえその臭いまで指摘され、既に彼女はいっぱいいっぱいになっていた。

 心臓がバクバクと音を立て、酸素を欲しがる肺がはぁはぁと喘ぐ。

 掌で覆っているその顔は茹蛸のように真っ赤になっていた。

 その姿に庇護欲を沸き立たせるか加虐心を湧き上がらせるかは人にもよるのだろうが――――当然ながら、カリギュラは後者だった。

 

『なるほど……お主は強引にされる方が好きであったか』

 

 口吻を横に裂いたような口を喜悦に歪めてカリギュラはそう呟いた。

 唾液に濡れた牙を舌がべろり、と這う――――文字通りの舌なめずりさえ見せながら。

 

 彼の言葉と共にざわり、と九つの尾がアキラの体に殺到し絡みつく。

 有無を言わさず、抵抗を許さず、彼の尾が腕よりも荒々しく彼女を暴き立てる。

 

「ぁっ、いやぁ……っ!」

 

 咄嗟にアキラの口から漏れたのは生娘のような悲鳴だった。

 目元に涙を滲ませて訴える姿は痛ましく――――同時に、酷く婀娜っぽい。

 獲物の活きが良い程にそれを組み伏せる行為に熱が入るのは肉食動物としての本能であり、それは妖狐であるカリギュラにとっても同じことであった。

 

 力弱く、細い少女の手足のなけなしの抵抗をねじ伏せて、彼の尾が巻き付いた両の脚を強引に左右に開いた。

 スカートは既に捲れ上がってそこを覆う機能を果たすことはできず、咄嗟に隠そうとする両手もまた尾によって縛り上げられて抑え込まれた。

 がばり、とM字に開かれた股間をカリギュラがしげしげと眺めまわす。

 

『なんだ、思ったより濡れておるな――――興奮したのか、()()()()()()()()?』

「ちが、ちがぅ……そんなこと……っ」

『何を言うておる。今もまだ、我がお主を()()()()()()()()()のが証拠よ』

「ぁっ……」

 

 露に濡れたように、しっとりと少女の秘所。

 けぶる程度の陰毛を添えた桃色の貝の肉のようなそこに視線を注ぎながら、カリギュラはそう口にした。

 そもそも口でどう上位者として振る舞おうと、彼がアキラの召喚獣であることは事実でありそれは変えられないことだ。

 だからアキラが()()()()()()()()()()()()()()彼を現界させているマナの供給は勝手に絞られて無力化されるのである。

 

 そう、故にカリギュラが彼女を組み伏せることができている時点で――――そういう事なのだ。

 

『確か、現代(いま)風であればお主のような手合いをこう言うのであったな―――被虐趣味者(マゾ)と』

「ぅ、ぁ……っ」

 

 カリギュラがそう口にした瞬間、アキラの背筋が()()()、と跳ねた。

 その言葉は毒をたっぷりと塗り込めたナイフのようだった。

 体の芯が凍るほどに冷たく鋭く、それでいて総身が熱く爛れて腐るような致命的な一刺し。

 

()()されることが嬉しいのだろう?端女の格好をさせられて、褥の上で股を開かされて、押さえつけられて……』

「……っ!」

『だんまりを決め込んでも無駄だ。今もこうして……ほれ、股が濡れてきた。体は正直と見えるな?」

 

 彼の言う通りであった。

 尾が縄のように絡みついて開かされる姿勢を強制されている両の脚、その中心に据えられている女の園。

 心持ち、ふんわりと膨らんだ肉の土手の真ん中に走る亀裂のような陰唇は、先程からずっと潤みを抱えて雫を吹き零しそうになっている。朝露に濡れた花弁のようだ。

 

 じぃ、とカリギュラは視線をそこに集中している。

 互いの吐息だけが微かな音を生み出す沈黙が続く中――――とぷり、と一滴の愛液が少女の股座から零れ落ちた。

 

 アキラは視線を意識すればするほどに見られている()()が熱くなっていくのを感じていた。

 まるで強い光を発するライトに焙られているように、じわりと白い肌に甘酸っぱい汗が滲む。

 だが今その瞬間、彼女の股の間を伝った雫は明らかに汗ではなかった。

 もっと粘っこく、淫らでいやらしい、雌の汁。

 

 彼女がこうして恥ずかしい姿勢で股座を開くことを強要されて、それをじろじろと視姦されることで感じてしまったという――――浅ましい被虐的な性の証だ。

 

「や、め……」

 

 やめて、見ないで、と啜り泣くようなか細い声がする。

 だが主のそんな哀願するような声は却ってカリギュラの嗜虐的な欲望を煽って悦ばせるばかりだった。

 いや、男であるのなら、或いは雄であるのならば誰であっても()()()光景であっただろう。

 肌も露なメイド服を着こんだ少女が触手めいた狐の尾に全身を絡みつかれて局部を晒すように脚を大股開きにされ、羞恥のあまり涙を浮かべているのである。

 あまつさえ視線から逃れようとでも言うのか、細い腰がくねくねと揺れる様は尚更に煽情的な代物であった。

 

 そして、今こうしている間にもとろとろ、と股座から流れ出す愛液は増えるばかりであった。

 慎ましやかであった女陰は今や花が綻ぶように、陰唇の内側の細やかな襞を曝け出そうとしている。

 アキラの腰がもじもじとむずがるように捩られるとその度にその間に満ちていた雫がとぷとぷと会陰を伝って流れ落ち、布団の上に小さな染みを作った。

 

『おぉ、おぉ。溢れておる、溢れておる。勿体ない』

「あっ、ひゃぁぅっ!?」

 

 股座を襲った感触にアキラは思わず喉を晒して声を上げた。

 べろり、としたその感触は紛れもなくカリギュラの舌であった。

 

「うぁっ、だめぇ……、そこ汚い……っ!」

『ふん。何を言うかと思えば』

 

 陰部を舐められている、と理解した瞬間アキラはそう口走っていた。

 元は男だったアキラだが女の体での生活がそれなりに長くなってきた以上、放尿した後にそこを拭くという習慣は身についている。

 カリギュラの舌の感触は思わずその時の感覚を想起させるものだった。

 

 自分の召喚獣(従者)に股を舐めさせて洗わせているような、そんな背徳感。

 ――――だが、当のカリギュラは彼女のそんな言葉を鼻で笑った。

 

『今のお前は我に捧げられた供物である。供物の何処を如何に賞味するかなどは我の決めることである。――――それとも、何か?今のお前は我に何かを命令できる立場か?』

「い、いや違くて……そういうわけじゃ、あぁ……っ!!」

『ふむ、然らば多少の躾は必要だな……?』

 

 にやにや、と不機嫌どころか上機嫌そうな様子で反駁しながらカリギュラは絡ませている自分の尾に少し力を込めた。

 左右に広げるように開かれていたアキラの両の脚が、奥の方へとぐいっと倒される。

 軽く腰が浮くように調整されたその体勢は、さながら赤ん坊がおしめを変えられるときのようなそれだった。

 女陰から会陰部、肛門まで晒しものにされるような姿勢にアキラは脳味噌が沸騰するような心地を覚えた。

 

「あっ、ぎぃうぅ……っ!!!?」

 

 羞恥に身悶えする間もなく、鮮烈な刺激が股間を襲う。陰核にいきなり電流を流し込まれたかのようだった。

 意識が白滅(ホワイトアウト)しそうな強烈な痛み――――そして、痛み交じりの快感。

 

 見ればカリギュラがクリトリスにその牙を突き立てていた。

 勿論、噛み千切るような力は籠めていない、歯と歯の間で挟んで甘噛みしている程度のものだ。

 しかし鋭い歯の先端を押し当てられて上下から噛み締められるのは、敏感な部位が千切れるような壮絶な感覚を伴った。

 きぃん、と硬質で鋭い痛み……それと隣り合わせの快感が股座から背筋を伝って彼女の思考を焼いた。

 

()い、()い。その調子でもっと蜜を出せ』

「ふぅ、ぁっ、ぁ゛♡」

 

 陰核を虐められた女体はそれがスイッチだったかのように一際激しく愛液を分泌した。

 中の肉の圧力にでも押されたのかぷぴゅっ、と可愛らしい音と共に飛沫(しぶ)く。

 それに機嫌を良くカリギュラは自身の舌をアキラの女陰にねじ込んだ。

 

 イヌ科の生物の舌は長く筋肉に富み、繊細かつ力強い。

 それは唾液に濡れて良くくねる、柔軟性に富んだ(へら)を突き込むかのようだった。

 愛液に潤んだ女の肉は泥濘のようで、カリギュラの舌はそこを容赦なく掘り返した。

 

「はぁっ、ぁ゛っ♡ んぅ、ゃぁ……っ♡」

 

 にゅるり、と(はら)の中に入り込んできた舌の感触に身震いしてアキラは嬌声を上げた。

 弾力のある肉の(へら)はそのザラザラとした表面で少女の膣肉をぞりぞりと擦りあげる。

 そして中から溢れ出た熱い液体を、舌で掬うようにして口の中へと運ぶ。

 その際に立つ、べちゃべちゃ、という品のない水音は紛れもなく女の秘所が妖狐の()()()として扱われている証だった。

 

 こんこんと湧き出る雫を膣肉という皿から飲み干されていく。

 そしてその量には際限がないのだ。

 何せそうやって掬い取る舌の動き自体が刺激になって、少女の体はより一層の汁を体の内に溜め込むのだから。

 

「んゃっ、ぁっ、ぁっ♡ はぁっ、あ……っ!!」

『――――――ふむ、悪くない。むしろ良い。果実の如き、甘露であるな……』

「……っ」

 

 一度顔を上げたカリギュラは舌なめずりをしながらそう呟いた。

 いかにも満足そうなその表情に、アキラの中で一瞬面映ゆいような心地が芽生える。

 カリギュラはやや古風な言葉遣いと傲慢な態度が相まって真意が解りづらいが要約すれば先ほどの言葉は「美味い」と言っていたのである。

 

 その事を理解したアキラは、なんとなく嬉しい気持ちになってしまった。

 それがどのような形であれ、彼女にとって自分の召喚獣が満足してもらえるのならそれに勝る歓びはないのである。特にそれが自分の成果であるのならば――――より一層。

 無力なはずの自分でもできる何かがあるというのが、アキラの卑屈な自尊心を慰撫するのである。

 

「ん゛っ……♡♡」

 

 ぐじゅり、ともう一度カリギュラの舌が彼女の膣内(なか)にねじ込まれる。

 その時にアキラの口の端から漏れた喘ぎは先程のよりも一段と大きく、濁った色を含んでいた。

 美味しいと思ってくれることが嬉しい、という心の動きが体から余計な強張りを取り除き、与えられる快楽を甘受する。

 

 カリギュラの舌は下手な人間の手や指よりも余程繊細であり、柔軟であった。

 柔らかいその舌の肉はにゅるり、と膣肉の締め付けの間隙に滑り込み、襞と襞の隙間を擦り上げるように舐め上げていく。

 こんこんと湧き出す愛液がかき混ぜられて、くちゅくちゅと淫らな音を立て――――それが匙で掬われるかのように啜りあげられる。

 

 舌は柔らかいだけでなく、逞しく力強い。

 きゅっ、きゅっ、と健気な収縮を繰り返す媚肉の動きに逆らうように、乙女の胎を掘り返す。

 子種を恵んでくれる男根を奥へと迎え入れるためのその動きを小癪なものだと嘲笑うように、生意気であると叱りつけるように、ぞりぞりと逆向きに抉っていく。

 細かな舌の表面のざらつきが膣の襞と擦れ合って()()()()とした震えがアキラの背筋を駆け巡る。

 

「んん……っ♡ んぁ、はぁ、あっ♡ ぁっ……♡」

『なんだ斯様に腰を揺すりおって、()()がそんなに気持ち良いのか?』

「ぁっ、ん゛っ♡ いわ、ないで……っ、はずかし……っ♡♡」

『くははは……っ、そのような物言いではすでに白状しておるようなものではないか。愛い奴、愛い奴よ』

「ん゛ぁぁっ!!」

 

 またもカリギュラの牙が陰核に突き立てられる。

 その瞬間のかりっ、という音が脳内に響くとともにアキラは声を上げて哭いた。

 そしてそのような機構が成立しているかのように、ぷぴゅ、ぶぴゅっ、と気泡交じりの音を立てながら愛液が股座から吹いてカリギュラの顔まで飛ぶ。

 すんすん、と鼻先でその濃く甘酸っぱい香りを堪能してから彼はべろりと女陰の表面を一舐めしてから、手慣れた様子でその()を味わうのであった。

 

 べちゃべちゃ、ぐちゅぐちゅ、と粘液を掻き回す音が寝室に響く。

 羞恥に身悶えしながらも自分が求められることの充足感と性器を舐めしゃぶられることの快楽に溺れるアキラは、今や自分がカリギュラの口元に陰部を押し付けるように腰を浮かせていることにも気づいていなかった。

 大股を開かされたおしめ換えのポーズのまま、へこへこと腰を揺する様は滑稽で、はしたなく、それ故に淫らであった。

 

(もっと、食べて……っ)

 

 そんな思考がアキラの脳裏を過ぎる。

 自分自身が食べられる、貪られる。そんな倒錯感が快感を加速させる。

 カリギュラの舌がうねるごとに()()()()()()、と膣襞ごと自我が削られるような気がした。

 余計な理性も削ぎ落とされて舐め取られ、文字通りに忘我の心地に墜ちていく。

 

「はぁっ゛♡ ぁっ、く、んんっ♡♡」

『ふぅ、よく汁の出る雌穴(あな)だ。果実を絞ったようではないか』

 

 妖狐の舌が、ずろぉっ、という重たい音と引き抜かれる。

 舌先から愛液の飛沫が跳ねてアキラの下腹や会陰に垂れ落ちた。

 カリギュラの舌や鼻先は彼女の体が吐き出した愛液で汚れており、それは彼の言う通り汁気の多い果物に口を突っ込んだかのような有様であった。

 

『だが悪くない、褒めて遣わそう』

「ぁ、ありがとう…………ございます」

 

 カリギュラは口周りについた汁を舌で拭い取りながら、ニヤニヤ笑いでそう言った。

 これは敢えてアキラの自尊心を擽ることで()()()にさせるための甘言である。

 絡みつかせた尾で軽く頬や頭を撫でてやりながら言えば効果は覿面であり、アキラは戸惑いながらも感謝の言葉を述べるのだった。

 端女(メイド)が主人に対してするように、敬いながら、へりくだりながら。

 

 ……なお、カリギュラが世辞ではなく実際に気を良くしているというのは紛れもない事実である。

 ただ本人は指摘されても首を縦には降らないだろうが。

 口から出るのは全て甘言であり、奸言であると……そういう自己認識こそが傾国の魔物としての彼の誇りなのだから。

 

『さて……前菜も堪能したことだ。主菜にも手を付けるとするか』

 

 ――――故にこの昂りまた、自身の嗜虐性と加虐性の発露でしかないと彼はそう考えている。

 沸々と胸の内に湧いてくる熱情と、腰奥から突き上げてくる劣情も――――九尾の狐という人間(ヒト)慰み者(食い物)にする化生としての本能の発露でしかないのだと。

 

『馳走であることを期待しているぞ、アキラ』

 

 王や皇帝(人の上に立つ者)を誑かせ、堕落させる……(いつも)の行いと同じであると。

 

 彼は、そう考えている。

 

 

******

 

 

 イヌ科の生物の生殖器の作りは人間……ホモ・サピエンスのそれとは造りが随分と違う。

 内部には陰茎骨という骨が通っているのもそうだが、始めて見た人はその外観にも驚くだろう。

 なにせ、勃起した際に体外に露出する部位は全て人間でいう所の亀頭に当たるのである。

 血管が表面を走る赤らんだ竿は、皮を剥がれた肉の棒のようでありグロテスクとさえ言える。

 

 だが、既に多種多様な異種生物……もとい幻想生物の性器を見慣れているアキラにとってはもう驚くようなものではない。

 ――――そして何より()()によって与えられる快感を幾度か味わったことの在る彼女にとっては、まさしく垂涎の対象だった。

 思わずごくり、と喉が鳴るほどに。

 

「ふっ、ふぅ……っ♡」

 

 荒い息の中に上ずるものがあるのが隠しきれていない。

 そんなアキラは今、拘束を解かれて布団の上に膝を突いていた。

 

 恥ずかしい、どうしよう、とそんな思いが脳裏を過ぎる。

 羞恥と逡巡とが混じり合った葛藤を示すように白い手がメイド服のスカートをぎゅう、と握り締める。

 ()()()()、と響く重たい音は脈打つ血管が鼓膜の裏を叩く音だ。

 拍動が早くなるに合わせて、呼吸が早くなる。

 

『………………』

 

 アキラに『提案』を出した後のカリギュラは何も言わずにただそこに佇んでいるだけだったが、その口元と目元は愉悦に歪んでいる。

 彼女のその心の内の惑いでさえも彼には手に取るようにわかるし、それもまた見物であると――――そのような面持ちだった。

 

 後ろ脚を折り畳んで座ったままのカリギュラの股座からは赤い肉の棒がこれ見よがしに屹立している。

 黄金と白金の美しい毛並みの中にあって、剥き出しの血と肉の色を纏ったその性器は殊更に禍々しい。

 だが、その醜悪ささえ感じるモノの先端に粘った雫のような物が伝うのを見た瞬間、アキラはごくり(・・・)と生唾を呑んだ。

 

(しょ、しょうがないよな?その……カリギュラに、言われたことだし)

 

 ()()()()、と逸る心臓が脳に血を巡らせる。

 熱い血が頭蓋の内側にぐるぐると渦巻いていく、頭が茹るような感覚。

 それに突き動かされるようにアキラの思考は「しょうがない」という言葉を幾度も出力する。

 

(しょうがないことだろう?元々自分の仕事でもあるし……それに、あんなにバキバキに勃起してるんだから、処理、してあげないと……。だから、あいつ自身のリクエストにもこたえてあげないとな……。うん、しょうがない、しょうがない……)

 

 そんなことを考えながら、アキラの体は勝手に動き出していた。

 意識と身体がずれていることを示すように、微かにぐらぐらとふらつきながら――――それでいて確実に、迷うことのないように。

 

 白い手袋を嵌めた両手をシーツの上に揃えて置く。

 ホワイトブリムで飾られた頭をその間に付くほどに深々と下げる。

 土下座の姿勢だった。

 

「オ……じゃなくて、わ、私はっ……、カリギュラ様の為の、卑しい卑しい雌奴隷メイドです……っ!すぐに発情して汁をだらだら垂れ流しながら濡れてしまう私のっ、いやらしい、おま、おまんこでっ、ご奉仕させてくださいっ!あ、アキラの、淫乱オナホ穴で勃起おチンポを使って、たっぷり精液扱き棄ててください……っ!!」

 

 それはこの上ない屈服宣言だった。

 栗色の髪の乙女は頭を布団の上に擦り付けて、惨めにも獣に対して屈従を誓わされていた。

 

 所詮これは役割演技(ロールプレイ)だ、その事はアキラもわかってはいる。

 だが頭で理解していることと、心がそれをどう感じるかは話が別だ。

 本来ならば自分が主でありカリギュラが従者だ。しかし、その役割を反転させて、あまつさえ奴隷か、それ以下の精液排泄雌肉穴(オナホ)とまで自分を蔑んで諂うという行いは――――酩酊してしまうほどに倒錯的で、官能的だった。

 自分自身を手放して、貶める。その行為はそれだけで全身がドロドロに蕩け落ちてしまうというのではないかというほどの悦楽だった。

 

 ……まるで、()()()()()()かのような解放感。

 

『では、誓え』

「……っ」

 

 自分で自分の言葉にぶるぶると身を震わせているアキラ。

 彼女の前にカリギュラがすり寄っていた。

 視線を上げれば、そこには先ほども見たグロテスクな肉の棒が突き付けられていた。

 仰角を描いてそそり立つそれを眼前に突き出されて、その意味が解らないアキラではなかった。

 

「んっ♡」

 

 上体を伏せた体勢のまま、顔だけを上げて――――その先端にキスをする。

 少女らしい桜色の唇と皮を剥がれたような肉隗が触れ合う光景は何とも悍ましく、淫らであった。

 

『……()い、実に()い。我は従順で物わかりの良い者を好む。特にお前は()い』

「ありがとう、ございます……♡」

 

 いかにも上機嫌な風に声音を装ったカリギュラが誉めそやしてやれば、アキラは媚びるような笑みを浮かべた。

 これではどちらが()()かわかったものではない。……だが、今のアキラに尻尾が生えていれば間違いなくそれを振っていただろうことは想像に難くない。

 

 陰茎に口付けをした時に唇に付いた粘液――――先走りの汁を彼女の舌がちろり、と舐め取った。

 潮っぽく生臭い、その風味が口から鼻腔へと抜けて頭がくらくらする。

 屈服の官能と屈従の倒錯は、心臓が腐り落ちて腐汁が滴るような快楽だった。

 けたたましく鼓動の音が肋骨の裏を叩き、毒に犯された血が全身に巡る。

 

「はっ、はっ、はぁっ……♡」

 

 息が荒い。

 シーツに伏せた顔は赤く、桜色の唇は潤んでいる。

 酩酊したようにぼやけた視線は手元を見下ろしたまま何処かを彷徨っている。

 自虐と被虐の味がアキラの身も心も、ぐずぐずに擦り潰しながら蕩かしていった。

 

『くははは……っ、これは随分と良く濡らしたものだ。まさに雌奴隷と言った風情だな』

「ごめん、なさい……♡ ぃ、いやらしい体でっ、ごめんなさい……っ♡♡」

 

 布団の上に頭を下げて突っ伏しているアキラの背後にカリッギュラが回り込みながらそう言った。

 尻を上に掲げるような土下座姿勢であるからには当然のことだが、既に彼女が着ているメイド服のスカート部分は捲れ上がっている。

 それを後ろから覗き込んでみれば股座から染み出た愛液が垂れ落ちて、既に白いストッキングを汚しているのが目に見えた。

 

 先ほどまでよりもずっとずっと多い汁気である。

 とぷとぷ、と零れ出るそれはアキラが自らを貶める言動をするほどに量を増す、彼女の屈服の証だった。

 今も「ごめんなさい、ごめんなさい」と自らのいやらしさを詫びる言葉を吐くごとに、酷く下腹が疼くのを彼女は感じていた。

 それは自涜の傷口から滲み出る血のようでもあり、涙のようでもあった。

 

『構わぬ構わぬ。扱き穴(オナホ)であるならば相応に濡れていて然るべきであるからな』

「ありがとう……ございます……っ♡」

 

 そしてその傷口を、舐めて癒してやるようなカリギュラの言葉が甘く染み渡る。

 飴と鞭の関係であった。自虐の傷が深く痛むからこそ、癒しの味が一層際立つ。

 ()()によく使われる対比関係であった。

 

 既にカリギュラに対して屈服しているアキラは無意識のうちに緩く腰を揺すっていた。

 スカートを飾るフリルがゆらゆらと揺れて、形の良い(ヒップ)がくねくねと捩じれる。

 腰の奥にじんじんと(わだかま)る熱を堪えようとして堪え切れない、いっそ掻き毟りたいという葛藤が透けて見えるような腰振り。

 

 だが、それは結果としては背後の雄を誘うための求愛行動にしか見えなかった。

 捧げるように後ろに上げられた臀部、その中心に据えられた雌の花が淫らな香りを放ってその蜜を啜るものを待ちわびている。

 どうぞ食べてください、どうか摘み取ってください、と捕食者に媚びるような浅ましくいじらしい誘惑。

 

『ふん……っ』

「ぁっ……♡」

 

 舌なめずりをしたカリギュラは敢えてそれに乗ってやることにした。

 憐れな種請いをするアキラ()の上に、のそりと覆いかぶさったのである。

 

 カリギュラの体躯は既に彼女より一回りは大きい。

 四足獣の前足がドン、という重たい音と共に布団の上に突き立つ。

 大きな体に背後からのしかかられ、その体躯と熱量にすっぽりと包み込まれてしまう。

 俯いて下を向いているアキラは視界が通らないからこそ自分の背に乗るカリギュラの存在感をまざまざと感じていた。

 

 禍々しい様相に反して九尾の狐の体温は陽だまりのように温かく、その毛皮からは香を焚き染めたような柔らかな香りと絹を束ねた反物のような手触りがした。

 だがそれは一度それに包み込まれて寝入ってしまえば二度と目が覚めないのではと思わせるような――――堕落と退廃の気配でもあった。

 

 はぁ、はぁ、と荒い息が部屋の中に木霊している。

 露が下りる程に湿った、蒸気のようなその息はアキラのものであり、カリギュラのものでもあった。

 

「ひゃぁ……っ♡」

『――――(ねだ)れ』

 

 じっとりとした甘酸っぱい汗がアキラの首筋に浮いていた。

 体の内側から興奮がそのままに沸々と湧いてきたような汗だった。

 栗色の髪の後れ毛が映えるその白いうなじに、カリギュラが()()()と舌を這わせて、そう言った。

 

 何をねだれ、とそう言っているのかわからないアキラではなかった。

 彼女の腰には極上の帯のような肌触りの長い尾が絡んでその動きをがっちりと縫い留めていた。

 手で固定されているようなその腰に、妖狐の腰がそっと擦りつけられていた。

 

 感じるのは灼けた鉄杭のような熱さ。

 その感触が先ほど口付けた肉竿の姿と味をフラッシュバックさせる。

 求めてやまないものがすぐ近くにあることを理解したか体が発情して熱を孕む。

 

「い、入れて……」

『何をだ?』

「……ぉ、おちんちん」

『何処にだ?』

「私の、おまん、こ、に……♡」

『どのようにだ?』

「………………っ♡♡」

 

 アキラは少し後ろを向いて恨みがましい目をカリギュラに向けた。

 そこまで言わせるなんて酷い、と言いたげなその視線は――――同時に被虐の悦びに濡れていた。

 恥ずべき願望(もの)を口にさせられる。恥ずべき欲望(もの)を隠すことも許されずに暴かれる。

 そんな倒錯的で退廃的な、被虐の悦び。

 

「カリギュラ様の逞しくてぶっといおちんぽでっ♡私のいやらしいぐちょ濡れおまんこをめちゃくちゃにしてください……っ♡♡♡」

 

 アキラの下腹がきゅん♡と甘く疼いた。

 ()の体の中心がきゅうきゅう♡と空腹を訴えるように哭く。

 涎のような愛液がだばぁ、とはしたなく溢れて股座を汚した。

 

『――――よう言った』

「ぁっ♡♡♡」

 

 だからこそ、その一刺しをこの上ない程の()()としてその体は受け取った。

 飢えて渇いた臓腑に染み渡る、たっぷりの水のようであった。

 

 ()()()、と果実の塊を太い刃物で刺し貫くような重たい手応えがあった。

 カリギュラは覆いかぶさっている主の体に向かって、勢いよく自分の腰を送り出したのである。

 陰茎骨の支えによって確かな硬度を保つ彼の陰茎は、過たずアキラの膣肉を奥の奥まで抉り抜いた。

 魚が職人に活〆(いけじめ)されるように、一拍の吐息と共にアキラはその体を硬直させた。

 

「……っっ♡♡♡ ~~~~~~―――っっっ♡♡♡♡」

 

 強張って固まる少女の細い体の表面に、()()()と鳥肌が立つ。

 ()()()()()()、と断続的な電流が走るかのような震えが全身を末端まで走り抜けていくのがわかるようだった。

 アキラは咄嗟に顔を伏せて、シーツにぐりぐりと顔を押し付けながら声にならない嬌声を上げた。

 それはどうしようもない快感を堪えるような仕草であると同時に、快楽の奔流に屈服したかのようなそれでもあった。

 

「あ゛っ、は、ぁ゛っ♡ あ゛…………っ♡♡♡」

 

 桜色の唇から濁った喘ぎが漏れ出し、ぽたぽたと唾液が滴った。

 例えるならば痒くてたまらない瘡蓋を引っ()がして、生えかけの肉ごと掻き毟るような悦楽だった。

 ずっとずっと焦らされていた媚肉に打ち込まれた陰茎の熱さ、硬さ、長さは突き立てられる爪のよう。

 愛液という膿にぬかるんだ雌肉が――――深々と、抉られる。

 

「ん゛っ♡ っぐ♡♡」

 

 イヌ科の生物の陰茎は膣に挿入する部分全体が人間でいう所の亀頭に当たるため、雁首が無い。

 しかし逆向きの鉤のようなエラで膣襞を引っ掻かれるような感覚こそないものの、陰茎骨という芯を持っているが故の硬質な手ごたえは全体の細長さと相まって槍のようであった。

 雌の子宮口を刺し貫くことを最初から想定しているような、鋭利さを感じ察せる先端部がアキラの膣洞の最奥部を小突きあげた。

 

 ――――パンっ、パンっ、パンっ、パンっ!!

 

 カリギュラの腰が幾度となくアキラに打ち付けられる音が響く。肉と肉がぶつかり合う乾いた拍打音。

 いや、『ぶつかり合う』というのは語弊があるのかもしれない。片方は一方的に打擲し、もう片方は一方的に耐えるのみの不公平な関係でしかない。

 ガーターベルトの白いラインが際立つ白桃のようなヒップを懲らしめるように、毛むくじゃらな獣がその腰を執拗に執拗に叩きつける。

 露出過多なメイド服を着こんだ少女が項垂れて突っ伏して、背後から巨大な狐の怪物にのしかかられて()()()()いる姿は陰惨で、それ故に淫靡であった。

 

「はぁ゛っ、ぁっ♡♡ ん゛ぁっ、は、あ゛ぁっっ♡♡」

『何だ?もう、善がっておるのか。この淫乱め』

「ひもっ、ちぃ♡ きもちっ♡ きもちいい、ですっ、ぅ゛っっ♡♡♡」

 

 小馬鹿にするようなカリギュラの言葉にアキラは喘ぎながら答えた。

 獣のような体位で、獣に犯されながらも、その表情は既に快楽に蕩け切っている。

 見てみるならば両者の肉が混じり合う場所、少女の股座からは吹きこぼれるほどの女蜜がシーツへと滴り落ちていた。

 その愛液の潤みの程を示すように、腰と腰がぶつかり合う音に混じってぐちゃぐちゃ、と湿った水音が鳴っている。

 膣洞に妖狐の雄竿を咥え込み中身を撹拌される音は、半端に乾いた(のり)を幾度もこね回すような粘った質感を伴っていた。

 肉棒がピストン機械のように激しく前後するのに合わせて、蜜液が空気を孕んで混ぜ返される。気泡が潰れるような、ぷちゅぷちゅ、ぶちゅぶちゅ、という音が堪らなく淫らであった。

 

 アキラの腰を支えていたもの以外の尾がカリギュラの背でざわめいた。

 焔のように揺らめく幾本もの尾が、先だってそうしていたようにアキラの体中へと絡みついていく。

 天鵞絨(ビロード)のように、或いは束ねた絹のような手触りの尾が衣服の内側にまで潜り込んで肌を撫で回す。

 既に少女の汗がじわりと染みていた毛並みは皮膚と溶け合うようでさえあった。

 無数の手が自分という人間の中に入り込んで撫で擦り、肉と心を捏ね繰り回していくような、そんな錯覚に落ちていく。

 

『そうかそうか、気持ち良いか。気持ち良いか。――――()()()()()()()()()

「ぁっ…………!!」

 

 快楽に蕩け落ちて、酩酊していたアキラの瞳が揺れる。

 カリギュラのその言葉は背筋に垂らされる毒の蜜のようであった。

 灼けるように冷たく、震えるほどに熱い。脊髄から脳までが腐り落ちるような、猛毒の味。

 

『お主も(かつ)ては(おのこ)であったはずだろうにな。このように我の魔羅を捻じ込まれて、女のように喘いで……恥ずかしくはないのか?ん?』

「ぁっ♡♡ あっ♡♡ いわっ、ないでっ♡ それは……っ♡♡」

『何を一丁前に否定しおるか、先程も自分で自分の事を言っておったであろうが……卑しい雌奴隷メイド、淫乱オナホ穴……。そのような分際で隠し事が許されるとでも?』

「ご、ごめんなさ、ぃぃ……っ♡♡」

 

 たっぷりと嗜虐という名の毒を塗りこめた言葉がアキラの耳から脳を犯す。

 カリギュラの舌が耳をべっとりと舐め上げ、湿った吐息を耳穴に吹き込む。

 整然と並んだ牙が、少女の――――()少年であった少女の汗に濡れた首筋とうなじを甘噛みする。

 どちらが捕食者で、どちらが獲物であるかを教え込むように――――どちらが上で、どちらが下かを知らしめるように。

 

『言うてみよ。前のお主は何で、今は何だ?』

「ぉ、オレっ♡ じゃなくて、わたしはっ♡♡ ぉと、おとこでした、ぁ゛っ♡♡ でもっ、いまは、ぃまっ、はっ♡♡ おんなのこっ、おんなのこですぅ゛っ♡♡♡」

『そうだ、今のお主は(おんな)だ。我の(おんな)だ。――――して、我の(おんな)であるお主は今、何で、どうされて、どうなっている?』

「おちんぽ……っっ♡♡♡ カリギュラ、さまのっ♡♡ ぉっ、おちんぽでっ、ずぽずぽしていただいてっ♡♡♡ きもちよくなってますっ♡♡♡」

 

 アキラは蕩けた思考で促されるままに言葉を吐き出した。

 自分の尊厳を踏みにじるようなことを口走るのは怖気が走るような心地よさを伴った。

 自らの人間性が溶け落ちるような、堕落の快楽。自分を自分足らしめているものを投げ捨てて、打ち捨てて――――獣に、それ以下の雌畜生に墜ちていく。

 

()い、()い返事だ。この変態め。雄を捨てろ、雌になれ。そうすればこの淫乱な雌穴を幾らでも使ってやるぞ、有難かろう?』

「ありがとうございますぅっ♡♡♡ つかって♡ わたしのおまんこつかってくだしゃいっ♡♡ きもちよくなって♡♡ きもちよくしてぇっ♡♡♡」

 

 ぐずぐずに腐ってぼやけていく思考とは裏腹に感覚だけは何処までも鮮明になっていく。

 舐めしゃぶられて甘噛みされる首筋、器用で繊細な尾に絡みつかれて愛撫される全身の肌、そして剛直に貫かれる(はら)

 下腹は地獄の釜を煮詰めたように、ぐずぐずに煮崩れながら熱を孕んで汁を吹き零す。

 それを骨ばった芯を持つ肉竿で掻き回されるのが堪らなかった。

 

 咀嚼され、貪られ、食べられる。

 噛み千切られて、食い千切られて、飲み込まれる。

 無くなっていくのは肉か、或いは自我か。

 なんにせよ、その暴虐こそが心地よかった。

 

 余計なものが、余分なものが剥ぎ取られて無くなっていくような爽快感、解放感。

 そして自分が与えられるものがあると、自分から望まれているものがあるという――――充足感、満足感。

 アキラの被虐の快感は、そのような味がした。

 

『――――なぁ、アキラよ。この際だ、我にその身を最後まで捧げる気はあるか?』

「ぇ?ぁっ……♡♡」

 

 主の膣肉にぐいぐいと己の陰茎を捻じ込みながら、カリギュラはそう囁いた。

 快感に溶けて胡乱になった彼女の頭は何を言われたのかが理解できず、呆けたような表情(かお)のままだ。

 ()()()()()、と彼は考える。

 

『我の、我の為だけの寵姫(とりこ)になれ。他の者のことなど忘れよ。我がこうして、こうやって、いつまでもお前を愛でてやろう』

「っ♡♡」

『お前は何を思い患うこともない。ただ何も考えずに玉座に座っておればよい。我ただ一人居れば、この世界を牛耳ることなど造作もない……。

 この世の全てをお前にくれてやるぞ。金銀玉石を愛でる喜びも、白亜の城を庭にする優越感も、高みから下々の民を見下ろす悦楽も、全て、全てだ』

「ぁ……っ♡♡」

 

 囁きかけながらも、カリギュラは腰の律動を止めない。

 ビキビキと血管が浮き出るほどに膨張した雄勃起で執拗に雌肉を抉り抜く。

 突き立てる角度、腰を振るう速さ、擦り上げる場所。それらを変えるごとに細かく違った反応が返ってくるのが愉快であった。

 きゅっ♡ きゅっ♡ と膣肉がしゃぶりつくように健気に収縮し、あるいは胎の奥から溢れ出た汁が撹拌されて淫らな音を立てる。

 女は楽器というのであればカリギュラは演奏の名手であり、その楽しさを良く知るモノであった。

 

 細い女体を撫で回すように尾を絡ませ、その味を確かめるように首筋に舌を這わせて軽く歯を立てる。

 びくびく、と震えるアキラの体が甘酸っぱい汗を肌に滲ませ、その香りをわざとらしく花を鳴らして堪能した。

 

「ぁり、ゅら……っ♡♡♡」

『そうだ。何も考えずとも良い。――――ただ頷け。それだけで良い』

 

 茫洋とした視線を宙に彷徨わせるアキラを見下ろしながらカリギュラはほくそ笑んだ。

 快楽に思考が蕩けている最中に何かを誓わせるなど公平性に欠けると言わざるを得ないが、この程度の非道は彼にとっては実に甘口(マイルド)なものである。

 

 所詮は褥の上での口約束のようなもの。法的な、または呪術的な拘束力も存在しない。

 だが重要なのは「カリギュラに屈服してその要求を呑んだ」という実績を積み重ねることである。

 今のように余計な思考が剥がれているうちに行うならば、その刷り込みは無意識のうちにまで浸透するだろう。

 すぐに確認できるような直接的な効果が無くても構わない。

 最終的に、アキラが普段からカリギュラに対して頭が上がらなくなるように仕向けられれば、それで良い。

 

 彼……幾人もの時代(とき)の権力者に取り入って骨抜きにし、その意を(ほしいまま)にしてきた化生にとっては簡単な計略だった。

 ただ自分の言葉に頷かせるだけ、それだけの話だ。

 

 だが成功を確信して笑みを浮かべていたカリギュラは――――、

 

 

「悪い、カリギュラ。お前の頼みは聞いてやれない」

 

 

 そんな言葉と共に頭を撫でられて、困惑する以外になかった。

 目を見開いて凝視すればアキラの瞳には確かな理性の光が戻っていた。

 彼女は布団の上に付いていた片手をそっと伸ばして、自身の背後から覆い被さる妖狐の頭を撫でていた。

 ……まるでやんちゃな子供を窘めるように。

 

「これに関してはずっと悪いと思ってるんだけど……オレはやっぱり、()()()召喚士(主人)だから……。誰か一人だけのものには、なれないよ」

『……っ。何故だ……っ!!』

 

 そう口走ったカリギュラは、自身の声に例えようのない()が籠っているのを感じていた。

 胸の内から漏れ出た、溢れ出たようなそれは『怒り』と名付けられる感情だった。

 彼は自分の中からそんな感情が思わず吹き出してきたことに強く当惑していた。

 

 金毛白面九尾は世の陰の気が寄り集まって生まれた、この世で最も邪悪な獣。

 負の感情というものは生来の付き合い……竹馬の友よりも尚親しんだものであるはずだ。

 だからこそそれを自分が御するのは当然の事であり、()()()()()()()()()()()()である。

 その筈、である。

 

『何故だ!!お主はいつも、いつも、そうだ!!何故、我の思い通りにならん!!何故、我の言うことを聴かん!!我に全ての采配を任せておれば――――世界の全てが、お主の思いのままぞ!!』

 

 それは言うなれば暴発のようなものだった。

 このように声を荒げて、感情のままに口を走らせるなど――――大化生の名が(すた)る。

 そう思いながらもカリギュラは吐露することを止められなかった。自分の誇りが傷ついていくような恥ずかしさを感じながら。

 

『王位継承の内乱に乗じて権力を牛耳ることもできた!!その気になれば諸国を平定することもできる!!今でもそうだ、山向いの皇国程度であればいつでも我の、お主の物にできる!!権力も財宝も、酒池肉林も思いのままだ!!

――――我は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!』

「うん、ありがとう。――――でもオレは()()()()()より、皆と一緒にいられることの方がずっといいよ」

『……っ!!!!』

 

 それは、残酷なまでの価値観の相違だった。

 金毛白面九尾之狐、王朝殺しの妖狐、傾国の大化生――――そのような存在として確立された召喚獣(モンスター)であるカリギュラはその気になればあらゆる謀略を駆使して権力を簒奪し、どのような国であっても平らげてしまうだろう。

 王に、貴族に、その時代の権力者を誑かせるにはそれで十分だった。肉の快楽、忘我のままに欲を貪る堕落、権力に財力。

 人など理性の皮を被っただけの獣、欲には逆らえない……故に躍らせるのは簡単なことだと彼はずっとずっとそう考えている。

 

 

 そして、だからこそ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「オレが欲しいものはもう手に入ってる。これ以上は手に余るよ」

『お主は……っ!!』

「お前だってその中の一人だよ、カリギュラ」

 

 ――――皆がいてくれるだけで満ち足りている。

 ――――そして勿論その中にはカリギュラのことだって入っている。

 ――――だから、お前がいてくれればそれでいい。

 

 そう示すように、アキラは白金色の毛に覆われた妖狐の頭部を優しく撫でた。掌に伝わる絹糸のような毛並みが肌に心地よい。

 だがそれは却って逆効果だったのかもしれない。カリギュラの喉奥からぐるるる……っ、という低い唸り声が漏れる。

 威嚇音だ。

 

()()()()()()()()()()()()は知ってるし、嬉しいけど……。お前だけの主人にはなれないし、世界とか、そういうのも受け取れないよ。ごめんな」

『……っ!!思いっ、上がるな……!!!!』

 

 アキラの一言は端的に言えば地雷(・・)を踏んだようだった。

 ガヂン、と火打石を強くぶつけ合うような音がした。カリギュラが自身の牙を強くかみ合わせた音だ。

 喉の奥から地鳴りのような威嚇音を響かせながら――――挿入しっぱなしになっているペニスを全力で胎内に打ち付けた。

 

「ぎぃ、ゅ……っっ♡♡♡」

『お主の事など、お主の事などっ……!!お主など、我の玩具(おもちゃ)でしかないわっ!!雌穴だっ!!我の無聊を慰めるための肉奴隷だっ!!……喘いで、哭いて、我を興じさせろ……っ!!』

 

 屠殺されるような声がアキラの喉から絞り出される。

 思考が僅かばかりに戻っていたとはいえ、身体が()()()()()()のは変えられない事実である。

 子宮を串刺しにするような肉竿の一刺しが昂っていた性感を呼び覚ます。

 体の芯を抉り抜かれる、自我を直接掘削されるような冒涜的な快感に再び呑まれていく。

 

「それでいいっ、から……っ♡♡ オレの、私のこと好きにしていいからっ♡♡♡ いっぱいきもちよくなって……っっ♡♡♡」

 

 譫言の様にアキラがそう口走る。

 彼女だってカリギュラの好意の形を直接受け取ってやれない事には申し訳なく思っている。

 だからこそ、せめてもの詫びの代わりに自分の体を差し出そうと――――そんな健気で殊勝な態度が尚更にカリギュラの癪に障った。

 

『よかろう……、ならば望み通りにしてやる!犯し尽くしてやるぞ、今宵はまともに眠れると思うな……っ!!』

「ぅん……っ♡♡♡」

 

 アキラのその声はただ息を呑んだだけのようにも見えたが、肯定を表したようにも見えた。

 涙に濡れた睫毛をそっと伏せて、彼女はカリギュラを受け入れた。

 

 そして彼女の体に絡みついていたカリギュラの幾本もの尾が踊り狂う。

 愛撫の為に纏わりついては体をまさぐっていた尾に力強さが加わり、より強固にアキラの体を固定する。

 帯のようなそれらがメイド服を纏った少女の細い体を縛り上げて拘束していく。

 布団の上にかろうじて突いていた両手も捻りあげられ、背中で一纏めにされてしまった。

 

「んん……っ!! んぅぅ……――っ♡♡♡」

『なんだ……?今膣内(なか)がきゅうきゅう、と締まり寄ったぞ。縛られて感じておるのか、救いようのない淫売め……っ!!』

「んぅ゛っ……♡♡♡」

 

 詰るような彼の言葉に反論することはできない。猿轡をするように尾の一本が回ってアキラの口を塞いでいたからである。

 だが、カリギュラの指摘は正しい。

 彼の尾により暴力的なまでの締め上げが、拘束が、アキラにとっては心地よいものに感じられていた。

 不自由であることの被虐感。完全に抵抗できない状態で彼に一方的に組み伏せられることへの淫らな期待。

 不甲斐ない自分だからこそ罰せられるように犯されることによる()()()

 

 そして――――総身を締め付ける尾の温かさが、まるで全身を抱きしめられているようで。

 

『ふぅっ……!!ふぅっ、うぅっ!!』

「……――――っっ♡♡ ……っ゛♡♡♡♡」

 

 最早お互いに言葉もない。

 微かな灯篭の明かりに照らされた寝室には発情した雄と雌の交わりの音が響くだけである。

 大きな狐の腰が少女の丸みを帯びた臀部を仕置きするように執拗に打つ。

 獣の陰茎に犯される乙女の園はその蹂躙にこそ媚びるように、濡れそぼつほどの愛蜜を垂れ流していた。

 掘削機のように激しく執拗に出入りする肉色の竿がその汁を掻き回して泡立てる。白く濁った愛液の中で気泡が弾けるような卑猥な音がする。

 妖狐の腰が引くとそれに合わせて少女の膣肉が微かに捲れあがって充血した肉ビラを外気に晒す。奥から溢れ出してきた汁がごぽり、と音を立てて両者の結合部の間で糸を引く。

 緩く開いた膝立ちのままの少女の脚、その間のシーツの上にぼたぼたと重たい雫が垂れ落ちて染みを作った。

 

「ん゛っ♡♡♡♡ ぃっ、ぎゅ……っ♡♡♡♡」

『まだだ、ぞ……っ!!まだまだこの程度で済むと思うなよ……!!』

 

 パンパンパンパン!!と激しい抽送の音が響く中でアキラが全身を強張らせる。

 快感の火が全身を駆け巡り、内側から彼女の体を焼き尽くしていく。

 縛られた体を芋虫のようにビクビクと蠢かせながら、轡を噛まされた口元から濁った声を絞り上げる姿は紛れもなく絶頂の証左(サイン)だった。

 それは耐えきれない快感に身を悶えさせているようにも、全身をきつく締め付ける尾の感触を味わっているようにも見えた。

 

 だが絶頂の余韻を味わう間も、それを冷ませるような猶予もなく、カリギュラが今までよりも一層深く腰を沈め始め、アキラは目を剥いた。

 

「んぉ゛っ、ぉっ、ぉ゛♡♡♡ んんぅぉぁ゛……っ♡♡♡」

『ふぅ……っ!!ふぅっ……!!』

 

 ひくん、と体が跳ねる。絶頂後の敏感な女体に更なる快楽が打ち込まれて悶絶する。

 カリギュラが荒い息を吐きながら太いモノを彼女の膣内に捻じ込んでくる。

 膣口がみちみちと広がっていく。平時であれば裂けてしまうかもしれなかったその拡張にも、すっかり潤んで解れ切っている今のアキラの体は易々と受け入れてしまう。

 むしろその強引なまでの拡張感が心地よいとさえ感じられてしまう。

 敏感な部分の肉が強引に押し広げられていくのは意識が熱く白んでいくような独特の快感を伴った。

 

 その感覚の正体は『亀頭球』という物体である。

 イヌ科の生物の男根、その挿入部全体は人間でいう所の亀頭に相当することは前述したが、亀頭球はその根元部分に位置する瘤のような器官である。

 犬の雄は交尾するときにこれを雌の膣孔に捩じ込む。

 

 その理由は単純(シンプル)で――――精液を零さずに中へと注ぐためである。

 

「あぁぁぁ゛っっ♡♡♡ ぁ゛ぁうぅ゛……っ♡♡♡♡」

 

 どぶっ、どぶっ、どぶっ、どぶぅ……っ!!と静かに、そして確かにカリギュラの射精が始まった。

 その精液は女体の深部体温よりもほんのりと高い。だがその温度差は敏感な膣内では殊更に激しく感じられる。

 アキラからしてみれば大量のお湯を注入されているようにも錯覚した。

 熱い精液がどくどくどくどく、と絶え間なく注ぎ込まれる。

 絶頂に伴ってその本能的な機能を昂らせている彼女の子宮は歓喜さえ覚えながらそれを飲み干していった。

 その本分を果たす悦びに目覚めた雌の生殖器が喜んでいる。下腹がきゅん♡きゅん♡と甘く鳴きながら雄の白濁液を受け止める。

 

『ふ……っ、ぬぅっ……!!』

「んっ゛♡♡♡♡ ん゛――――っっっ♡♡♡♡♡♡」

 

 だがカリギュラの射精はそこで終わりではなかった。

 アキラの胎に精液を注入しながら、その背中に覆いかぶさった状態から()()する。

 彼女の膣に陰茎を挿入したまま、自分の体の前後を()()()()()()()のである。

 ちょうど四つん這いになっている両者の尻が向かい合うような状態。これは『尾結合』と言われる、イヌ科の生物の()()時によく見られる体勢であった。

 

 カリギュラが体勢を変えた瞬間、アキラはくぐもった声で悲鳴のような喘ぎを漏らした。

 彼女の膣内に打ち込まれていた陰茎が膨らんだ亀頭球ごと、自身の体の中で180°反転したのである。

 肉瘤がごりりっ、と凄まじい手応えと共に膣前庭に食い込む。

 股座から下腹までが詰りあげられるような衝撃が再度アキラを打ちのめした。

 

「ふっ、ぅっ゛、う゛ぅ――――……っっっ♡♡♡♡♡」

 

 ぎりぎり、と塞がれた口でカリギュラの尾を食い締めながら絶頂する。

 妖狐の亀頭球は正確に彼女のGスポットと言われる性感帯を捉えていた。

 裏側から押し上げられるクリトリスがビンと硬くそそり勃ち、陰茎を埋め込まれた膣洞から濃い愛液がしぶく。

 ぎゅっ、ぎゅっ♡と反射的に膣肉が締まる。陰茎と肉瘤の雄々しい程の硬さに自分から縋りつく。

 より一層明瞭な雄肉の感触が脳裏に浮かびあがって更なる性感を呼び起し、アキラは悦楽の涙を零した。

 

『ふー……っ、ふぅ……っっ!!』

「――――……っっ♡♡♡ ……っ♡♡♡♡」

 

 その媚びるような締め付けは、より一層カリギュラの射精を促した。

 瑞々しくも柔らかな膣襞が彼の長大な亀頭を甘く食い締めて精液を催促するようだった。

 金玉から込み上げてくる熱い性感に逆らうことなく、カリギュラは遠慮なく全てを解き放った。

 暴力的な獣欲を余すところなく白濁した雄汁に変えて雌の体に注ぎ込む快楽に耽溺する。

 

 ――――そして、その射精は途切れることがなかった。

 イヌ科の動物が性交時に雌と結合体勢になる時間は極めて長い。

 通常の犬でも数分から数十分に及び、種によっては一時間にも及ぶ。

 カリギュラ――――九尾の狐である彼もまたそれに倣うのは当然であった。

 

「んっ♡ ん゛っ♡♡ ん゛ぅぅ――――っっ♡♡♡♡♡」

 

 そしてその間も絶え間なく亀頭球はアキラのGスポットを責め苛み、断続的に噴き出す精液がその膣内に流し込まれ続ける。

 糖蜜で全身を煮込むように熱く甘く、そして限りなく、快感の火が彼女の全身を焼き尽くす。

 ひと時も緩めることなく全身を焙り続ける快楽に悶える。

 軽い絶頂から降りてこられないままに昂り続け、その波が体の中でぶつかり合って一際強烈な絶頂を生み出して――――それでもまた戻ってこられない。

 すっかり着崩れたメイド服を汗みずくにしながら長い長い()()にイキ狂う。

 

『ふ、ぅ゛……っ!!』

 

 そうやってアキラの女体を悶絶させながら、カリギュラは鼻息を荒くして結合に没頭していた。

 軽く腰を揺すって膣肉の感触を味わいながら人間とは比べ物にならない量の精液を少女の子宮に注ぎ込む。

 獣としての生態と言えばそこまでだが、その執拗なまでの種付けには一種の執念さえ感じられた。

 この雌の子宮を、身体の中心にある尊い女の宮を己の欲望で汚して穢して――――染め上げたいという独占欲とも征服欲とも言える感情。

 

 そう――――これは欲望だ、とカリギュラは心中で独り言ちた。

 己は金毛白面九尾之狐。仕えるべきものをこそ誑かして、堕落させ、国を食らう大化生。

 故にこれも同じこと、アキラを手中に収めようとするのも同じこと――――。

 そのように、彼は改めて自分の心の中で呟いた。

 

「んっ♡ ん゛ん――――……っ♡♡♡♡♡」

 

 そう唱えながら、彼はアキラに纏わりつかせた自身の尾にぎゅう……っ、と力を込めた。

 

 

縛るように、捕らえるように――――抱きしめるように。

 

 

 

 

 







この世界における魔法について:
転移後異世界においても魔法というものは存在するが、これらは先天的な才覚によるものが多く、また効果も微弱なものが大半である。
アルノー辺境伯は『持ち物の重量を半分から二倍までに加減する魔法』を駆使して戦場で武勲を立てた。
『動物に言うことをきかせる魔法』も存在するが、対象の知能や能力が高くなるほどに難易度が増す傾向にあり、元から人に慣れやすい馬や犬に対して行うのが一般的とされる。
アキラとアキラの召喚獣一行はこの世界においてはド級のバランスブレイカーであり、戦力が非常識すぎるせいで却ってその脅威度を正しく認識しているものが少ない。
中世ヨーロッパの戦場に原子力空母が殴り込みをかけてくるくらいにはバランスがおかしいのである。
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