ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
皆川優樹菜が警察に出頭して、48時間以上が経過していた。
警察での取り調べは念入り、かつ執拗で、優樹菜の神経をごりごりと削って行った。繰返し同じ事を訊かれ、先の証言と少しでも食い違いがあれば、その点を執拗に責め立てられる。
長時間に及ぶ取り調べが終わり、へとへとになって向かった先の留置場では更に優樹菜の神経を削る現実が待っている。出された食事はお粗末な代物で、おかずらしい物は焼き魚が一切れに少しの漬物。ご飯は冷えていて糠臭い。それに塩素臭がする味噌汁が付いていた。
とてもでないが食べる気になれず、優樹菜は狭い房内を見回す。
「…………」
隅にある棚には僅かばかりの本があるが、読み回されてボロボロになっていて、読む気になれない。テレビなんてないし、スマホも取り上げられたままだ。気を紛らわせるような娯楽は一切ない。同房の者も居ない為、会話もない。
新聞は各房回し読みになっている。看守に差し出されたそれを何となく捲ると、ハラリと落ちた一枚の紙片には、
――チクったのは皆川。
と書いてあって、優樹菜は激しく動揺した。
取り調べが終わり、悠希の下に戻れたとしてもその後が無事である可能性は低い。紙片を握り潰し、優樹菜は涙を浮かべて唇を噛み締めた。
現在、優樹菜の置かれた立場は微妙だ。はっきりと罪状を告げられた訳ではないが、今後の成り行きによってはどうなるか分からない。何かの罪に問われれば、死者を出した事件だけにただでは済まないだろう。
――チクったのは皆川。
確認した訳ではないが、優樹菜の証言を元に、既に『逮捕』された者がいる。
『パッパラパー子』が『知っている』事を洗いざらい喋ったのだ。そうならない方がおかしい。
霧島沙織の事。ライフスタイルや性格は勿論、友人関係も全て警察に話した。沙織の死とは関係なく、御用になったヤツもいるだろう。そこから更に芋蔓式に捕まったヤツもいるだろう。『パッパラパー子』が社会に投げ掛けた波紋は大きい。
――全部、警察に売れ。
悠希の指示だ。警察の取り調べは執拗で詳細に及び、この国の警察機構が十全に機能していることを優樹菜は痛感している。
悠希は言っていた。
『いいかい、ユキナ。仲良くするって事と、ナメられるってのは凄く似てて混同しやすい。ユキナの『友人』は切り捨てた方がいい』
それは優樹菜もよく分かった。『彼ら』は友人のふりをしてすり寄り、実際は優樹菜を利用し、見下している。
――全部、警察に売れ。
胸は痛まない。優樹菜はつまらなそうに鼻を鳴らした後、看守を呼び出して房内に回っていた伝言の紙片を押し付けた。
悠希なら、きっとこうする。浮かんだ涙はもう、引っ込んでいた。
看守は黙ったまま厳しい面差しで優樹菜と紙片とを見比べ、廊下の向こうへ去って行った。
取り調べはなるべく長く、キツい方がいい。殴ってくれると最高だ。ここで支払う犠牲が大きい程、悠希が優樹菜に与える見返りは大きい。房内の畳の上に寝転んで、優樹菜はそんな風に考える。
だが一方で――
早くここから出たい。悠希の元に帰りたい。まだ膣出ししてもらってない。もっと舐めてあげたいし、今度は悠希にも舐めて貰いたい。
ここから出たら、悠希(ユッキー)&優樹菜(ユッキーナ)。Y&Yのコンビで行こう。
てへっ、と優樹菜は笑った。
「やばい、マジテレるし……」
苦境だが、悠希を思えばパッパラパー子は通常運転。まだ戦える。目を閉じると、疲れきった身体に直ぐ様眠気がやって来た。
優樹菜は不幸な結末を望まない。マッチ売りの少女はいらない。残ったマッチは全て自分が貰い受けるつもりでいる。
好き、という感情とは違う。恋愛感情じゃない。そんな安い気持ちじゃない。守りたい。ガムみたいにくっついて、四六時中一緒に居たい。そうすれば、優樹菜の胸に灯ったこの気持ちが、いつかきっと形を持つようになる。その確信がある。
微睡みながら優樹菜は、悠希と別れた際に交わしたキスの事を思い出した。
『お仕事抜き……』
子供のように無垢で、あどけない笑顔だった。
よく考えれば、自分から行ったキスはあれが初めてだ。そう思うと、自分のファーストキスはあれなのかもしれない。
幸せだ。奪われたのではなく、自ら与えたのだから。
もっと与えたい。
そうすれば、きっと悠希は対価を差し出す。それは優樹菜が与えた物以上に価値がある代物だろう。
処女を与える事はもうできないが、後ろの方は未使用だ。眠りに落ちる寸前、優樹菜は呟いた。
「今度は、アナルでもしようね……」
全ての友人と、その後ろめたい秘密の全てを警察に売り飛ばした優樹菜だが、悠希の事は話していない。
秘密は守られたままだ。