ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
寝起きの感触は、心地いいぬるま湯のようにやって来た。
「……あむ……んん……」
ぼくに馬乗りになった智が唇を合わせ、口腔内に舌を差し込んでくる。少し息苦しい感じからして、智の夢中のキスは始まって結構経っているような気がした。
鼻を衝いたのは噎せ返るような女の匂い。智の身体は全身にしっとりと汗が浮かんでいて、密着した肌は吸い付くような感じがした。
……嫌な感じはしない。
不思議な感じ。これがトウコやユキナだったら突き飛ばしてたと思う。一番慣れてるカオルでも、ちょっと嫌だ。
腰に、そっと手を置くと、智は熱い溜め息を吐き出して、のろのろと真っ赤になった顔を上げた。
「……あぁ、おはよぅ……ごめんなぁ……イヤやったぁ?」
「ううん、そうでもない」
「そうかぁ……なら、もうちょっと……」
溜め息混じりに耳元で囁く智は、もう出来上がっているみたいでトロトロだった。
天井を見上げる。
耳を衝くのは雨が窓を叩く音。カーテンを閉めきった部屋の中は真っ暗だった。
「ふぅ、っ……ちゅ……」
ねっとりとしたキスのあと、智が熱く湿った吐息を吹きかけてくる。
「なぁ、調子どう? できそう?」
体調は60%といったところ。少し熱っぽいけど、ぼんやりするほどじゃない。
馬乗りの智の手が、いやらしくぼくの股間を撫で上げた。
「……口でして、ええ?」
アッチの方は元気なし。それでも、我慢が癖になってる智をなるべく楽にさせてあげたいし、ぼくは小さく頷く。
「やたっ!」
智の目は眦が垂れ下がっていて、すっかり発情中。嬉しそうに笑って、するするとシーツの中に潜り込んで行った。
壁に掛かった時計の針は午前10時になろうとしている。
股間に生温い感触があって、シーツ越しに粘る水音が聞こえた。ゆっくりと、確かめるようにスローな舌使い。熱い吐息が下腹に当たって擽ったい。ぼくの言ったことをよく覚えているみたいで、智は焦らず、しかし執拗に『ぼく』を攻め立てる。
裏筋を舐め上げた舌がカリ首を伝い、ねっとりと口中深く飲み込まれる。
「……う」
ぼくがレクチャーしたこともあるんだろうけど、昨日まで処女だった娘の舌遣いとは思えない。ぐっすり眠ったお陰か、『ぼく』はムクリと立ち上がり――
その瞬間、がばっとシーツを跳ね上げて智が身体を起こした。
「す、するけどええやろ? な? な? ここまで来て駄目とか言わんよな?」
少し呆れて、ぼくは小さく息を吐く。
「うん……いいよ、智」
「~~~~!」
智は目を潤ませ頷くと、それからまた、ぼくに馬乗りになった。
視線を下げると、智のそこは準備万端。Iゾーンを整えた陰毛は愛液に濡れ、ぺったりと土手の部分に張り付いている。膝立ちで腰を浮かせ、濡れた襞に亀頭を宛がう。
「……っと、あれ……?」
智は腰をくねらせて挿入を試みるけど、上手くいかない。腰を下ろす度にぺニスが滑った膣口からつるりと逃げ出す。
そんな初々しい智を抱き寄せ、同時にぼくも腰を浮かせて亀頭部分を秘裂に埋めて行く。
「つっ……」
初体験は昨日のこと。やはり智には痛みがあるようで、一瞬腰が引けたところで動きを止めた。半ばほどまで、ぼくは智に埋り、引き締まったお尻を撫でる。
「あっ、今の違う。痛くない。違うんよ。やけん――」
焦ったように腰を落とそうとする智を制止して、言った。
「……智、ちょっとお喋りしようか……」
「え、今? あっ、と、えと……」
戸惑った様子の智を引き寄せ、ぼくの方からキスをねだる。舌を絡ませ、唾液を交換する。雨の音を聞きながら、暫くそうしているうちに――
智の中に、奥深くまで入り込んだぼくがいた。
◇◇
「……智は可愛いね。もっと顔、見せて」
「……いやや、あんまり見んといてぇや……」
泣きそうな掠れ声で言う智は、羞恥に赤く染まった顔でイヤイヤと首を横に振る。
「じゃあ、もう一回キスしてくれる?」
「あんまりイジメんといてぇや、なぁ……」
智は四つん這いの姿勢。ぼくが腰を捕まえているせいで動けない。しっぽりとぼくを飲み込んだそこは、新しい愛液を吐き出しながら、緩やかに蠕動している。
普段、飄々としていて、ちょっと惚けた感じの智は何処にも居ない。
「智は本当に可愛いねえ……」
「……」
そこに居るのは羞恥に頬を赤くして、目を潤ませた女の子。リップサービスにとことん弱い女の子。
腰を動かすより、こうして適当なお喋りをしていた方が楽なんて、口が裂けても言えない。
全然動いていないから、脇腹も痛くない。ぼくは尖った智のおっぱいに吸い付いたり、形のいいお尻をさすったりしながら、時折甘い言葉を囁く。
「なんでそんなに可愛いの?」
「……」
「その顔、ぼく以外に見せちゃ駄目だよ?」
智は目元を赤くして、小さく頷いた。
「……いじめていい?」
智は四つん這いの姿勢で動かないまま。泣きべそを掻いて、ずっと喋らない。ぼくを咥えたままでいるそこは熱く泥濘んで震えている。異変が起こり出したのは10分ほど経ってからだった。
「あ、あれ……?」
智は落ち着かない様子で視線をさ迷わせ、下腹の辺りを気にしだした。
「な、なんかした?」
膣の奥が熱くなり、何度も収縮を繰り返す。膣肉が全体でぺニスを握り締めては弛み、緩めては締め付ける。その間隔が徐々に短くなって行く。
この感覚は知ってる。
……イキそうなんだ。
動かないことで却って身体が敏感に反応してしまう。そして鋭敏になった身体の感覚に、経験の浅い心が追いつかない。
ぼくは、優しく智の下腹部を撫でた。
「ここで、ぼくの『かたち』が分かるよね」
智の喉が、ゴクリと鳴った。心が追い付く。ぼくが教えた。結合部分に温い感触があって、新しく湧き出した粘液は少し白く濁っていた。
「……しょっ、と」
智の尻肉を引き寄せるようにして、ぼくは更に奥の奥に侵入した。ぺニスの先が固くしこった子宮口を抉った。
「――ぁうっ!」
その瞬間、智は絶頂した。
うねる膣肉が激しく収縮し、夥しい量の粘液を吐き出す。
「ぁぐっ! くっ! くぅぅぅっ!!」
それでも絶頂は収まらず、智は身体をくの字に折って何度も絶頂を繰り返した。
◇◇
智は眠った。
昨夜、色々あったことを思えば無理もない。男二人を叩きのめし、純潔を失った。心も身体も休息を必要としている。
ぼくはベッドから抜け出して、バスルームでシャワーを浴びた。
額の傷は気にしないことにした。ぼくは男だし、この程度の傷を気にして身体を洗えないのは馬鹿馬鹿しい。シャンプーの時は少し傷口に滲みたけど問題ない。脇腹には大きな青痣が浮かんでいて、少し熱を持っていた。
さっぱりした後はバスタオルを肩に掛け、パンツ一枚で寝室兼居間に戻った。
部屋の中はまだ女の子の濃密な匂いが漂っている。
壁際にある机の上に放置したままの携帯電話を確認すると着信は88件、メールが55件。
父さんが3件、カオルが30件、トウコが27件、シュウが28件の着信履歴。メールの方は確認する気にもなれない。
やれやれ、と息を吐き、ぼくは父さんに電話した。
数回のコールのあと――
『――悠くん?』
「うん、ぼく。昨日はごめんなさい。ちょっと寝込んじゃって……」
『ああ、いいよ。それより、もう大丈夫?』
「少し熱っぽいけど、もう落ち着いたから平気。父さんは?」
その後、父さんは昏睡状態のお祖父さんの容体について話した。
お祖父さんの容体は一進一退。意識が戻ることはなく、呼吸が止まることもあるらしいけれど、何とか踏ん張っている。限界は近く、今はもう待つだけらしい。
それらの状況を語って、父さんは咳払いして話を改めた。
『悠くん、もう察しが着いてるかもしれないけど、父さん、お祖父さんの財産相続することになる』
「……うん」
『じいさん、無駄に土地持ってるって言ったよね? その……言いづらいんだけど、悠くんにも少し考えて欲しいことがある』
ぼくは机の前にある椅子を引き腰掛け、携帯はスピーカーにした状態で会話を続ける。
『……父さん、家とか土地の管理のこと考えたら、こっちに引っ越した方がいいと思うんだ』
「……だろうね」
分かっていた。バスタオルで頭を拭きながら答える。
『今までごめんね、悠くん。もうお金の心配はいらないから、進学は東京の大学を含めて広く考えて』
「……」
『それで、ここから先は、あくまでもお願いなんだけど、悠くんの進学先に、父さんの地元の大学も含めて検討して欲しいんだ』
――こうなることは、全部分かっていた。
机の上に置いてある鏡を見ると、身体を起こしてこちらを見ている智と目が合った。
父さんは言った。
『悠くんの好きにしていいよ。何をしても、父さん全力で応援するから。でも、父さんの希望を言うと……悠くんにも、一緒に来て欲しいかな……』
「うん」
スピーカーは全ての情報を駄々漏れにしているけど、問題ない。
それから、父さんは今後の見通しについて話した。
お祖父さんは頑張っているけど、下手な延命措置は考えていないこと。成り行き次第だけど、暫く家に帰れそうにないこと。
『カードの場所分かってるよね? ちょっとくらいなら贅沢していいよ』
「うん、ありがとう」
無駄遣いは趣味じゃないんだけど。ああ、でもマルガリータのピッツァが食べたいかも……。
『……それじゃ、もう切るね。今度は悠くんから電話してくれると嬉しい』
「…………分かった」
電話を切った。
……妙な間があった。
父さんが何か気付いた。余計なことを言わず、ぼくから電話してくれって言ったのがその証拠。
鏡に映る智は、ベッドの上で膝を抱え、何か考え込む様子。それを横目に、続いてぼくはシュウに電話をかけた。
きっかり2コールの後――
『――悠希!?』
殆ど悲鳴のような叫びが上がり、鼓膜がビリビリ鳴った。
ぼくは堪らず携帯を遠ざけた。
『……! ……!! ……』
突き放すように距離を取った携帯の通話口からは、何やら大声で喚き散らすシュウの声が聞こえる。ぼくは、通話を切ってしまうかどうかたっぷり30秒ほど考え、結局はシュウと話すことに決めた。
「おはようさん」
『悠希、今何処にいるんだ!? 昨夜は家には帰らなかったよな! 誰と一緒だ! 何故答えない!!』
「またかけ直すね」
通話を切った。
続いてトウコに電話をかけた。背後で、ぼくの様子を窺う智は放っておく。彼女には何をどうしたってバレる。不信感を買うくらいなら堂々とやった方がいい。
トウコの場合、ワンコール。
『――悠希さんっ!』
「はい、おはようさん」
トウコもシュウに負けないくらいハイテンションだったけど、こちらは怒っているんじゃなくて、声色から漂う雰囲気は不安と怖れ。
『ああ、悠希さん悠希さん、よかった! お電話、ありがとうございます! 今何処ですか!? すぐ迎えに行きますから場所教えて下さい!』
「……あのねえ、トウコ。ぼくは誘拐された訳じゃないし、監禁されてる訳でもないから大袈裟だよ」
呆れたように言うと、トウコが大きく鼻を啜る音が聞こえた。
『……じゃあ、今から会ってくださいよぅ……』
「泣いたら切るよ。シャンとしな」
『……無理ですぅ……』
宣言通り、ぼくは通話を切った。
その直後、着信があって発信者はシュウ。
少しイラッとした。
「なに?」
『何で切る! 少し話すくらいいいだろ!』
「ぼくにだって都合があるんだ。馬鹿みたいに電話してくれたお陰で、携帯のバッテリーが切れそうだ」
今の状況とは全く関係なく、シュウとやり合うことは珍しくない。
『私と寝たのは、そんなに昔の話じゃないよね!? 好きだって何度も言ったよね!? 何でそんなに冷たいの!』
「一回ヤったくらいで、彼女面するな」
『……』
ハッキリ言うと、シュウは静かになった。
「それで、何か用?」
シュウは、ぐすっと鼻を啜った。
『酷いよ……』
「メソメソしない。らしくないね。泣いたら切るよ」
『……避妊、しなかったよね。子供ができたらどうするつもりなの……』
通話口から漏れたシュウの声は陰に籠った恨みがましさがあって、ちょっと怖い。
「責任取るけど……」
『え? そ、そうなの?』
意外そうに言うシュウだけど、その可能性については考えない方がおかしいし、結論はもう出ている。
「当たり前のことだよ。まあ、シュウがよければだけど……」
そうなったとき、カオルもトウコも泣くだろうけど、納得してもらうしかない。父さんは呆れるだろうけど、協力してくれると思う。
「そう言うシュウはどうなの? ぼくで構わない?」
『えっ? えっ? そそそれは、うん。悠希となら理想の家庭が築けると思う』
父さんは真剣にぼくを育ててくれた。そのぼくが『父親』になるとして、逃げ出すなんてことがあっちゃ行けない。
「あ、でも……」
『えっと、えっと、な、なに?』
「そういう可能性のある娘、シュウだけじゃないから、その時は、ごめん」
その場の流れみたいなもので避妊せずしてしまった娘もいる。昨日の智や、膣では射精してないけど、ユキナなんかもそう。普段は薬を使って避妊を心掛けているつもりだけど、100%確実な方法じゃない。カオルもトウコも生派だし、この二人の場合、その気になれば気合いで何とかしそうな気がする。
振り返ってみると、ぼくって結構危ない橋を渡ってる。
『なっ……そ、それは何人くらい居るんだ?』
シュウの声は、少し震えていた。
「四人」
指折り数えて、その可能性がある娘の人数を告げると、シュウはまた黙り込んでしまった。
ここ二、三ヶ月くらいでのアベレージだから、ぼくもちょっとしたもんだと思う。
沸騰したシュウが叫んだ。
『悠希、お前は最低だよ!』
ぼくは小さく溜め息を吐く。
シュウはいつもそう。何だかんだ言って、自分の言い分は曲げない。
「……大きな声出すなら切るね。怪我してるし、少し熱っぽいんだ」
『喧しい! それで今は何処にいるんだ!? どうせ、新城か葛城と一緒にいるんだろ! イヤらしいヤツだ! 父親の為とか言い訳しているが、本当は望んでやってるんじゃないのか!?』
酷いことを言われたけど、それはお互い様だし、聞かなかったことにする。シュウは完全に頭に血が昇ったみたいだ。それでも何とか抑えようという意思だけはあるようで、携帯の向こうで呼吸を整えている。
『ああ、もう……! こんなことを言いたいんじゃない。ちょっと待って……』
深呼吸して、幾分落ち着きを取り戻してから言った。
『……武田を行かせるから、場所教えて』
シュウの家の運転手をやっている武田さん。何度か車で送ってもらったことがある。美人さんで優しい。この人の名前を聞くのは一年ぶりになる。
「あ、シンゲン懐かしい。そういえば、シンゲンが持ってるチョコバーって何処で売ってるの?」
『……チョコバー?』
「うん、お話しするとくれるんだ。情報一つにつき一本。何処にも売ってなくて……」
『……情報って?』
「ぼくの身長とか体重。あと血液型と誕生日に……趣味と……って、シュウ聞いてる?」
『…………』
シンゲンが持ってるチョコバーは一本300円もする高いやつで、ボリュームも味も最高。ぼくのお気に入り。
『……悠希、やっぱりお前には隙がある。そういうことは簡単に教えちゃダメなんだ。私は常々注意していたよね? それが彼女らの常套手段なんだ。甘いものに釣られるなんて以ての外だよ。てんで話にならない』
「……」
しくじった。
藪蛇だ。うっかりしてるいつものぼくと、お説教モードに突入したシュウ。
『武田には私から言って聞かせよう。個人的なことを教えてはいけない』
「シンゲンは悪い人じゃないよ」
『いいや、あいつは悪人だ』
きっぱりと決めつけて――
シュウは、深く長い溜め息を吐き出した。
沈黙。
シュウと話していると、時々、ピリッとする。
『悠希、やっぱり私たちは一緒にいるべきだと思う』
変わった。声の質や、気の持ちよう。考え方。シュウはとてつもなく閃きが鋭い。何かの答が出たんだと思う。
『話しているだけで、これだって分かるんだ。私たちはよく衝突するけど、それは別の個人である以上当然のことで、お互いの理解を深める為には必要なことなんだ』
こうなったシュウは凄く手強い。理路整然としていて反撃しづらい。
『一緒にいよう。私たちの間には、まだ誤解や行き違いがある。でも二人一緒なら乗り越えられる。何があっても大丈夫――』
――そこで背後から伸びてきた手に携帯電話を取り上げられた。
「!?」
吃驚して顔を上げると、笑顔の智が、そっとぼくの唇に人差し指を当てて頷いた。
智が携帯を耳に当てる。
「私の目の前で、何を堂々と御影のこと口説きよん?」
『……! ………!? ………!!』
携帯の向こうから悲痛に満ちた叫びが聞こえるけど、何を言っているかまでは分からない。
智が笑って言った。
「もー手遅れです。残念でした」
そして携帯の電源を切る。
「…………」
一気に沈黙の帳が下り、部屋中を冷たい静寂が支配する。
雨が強くなる。
カーテンの隙間から覗くモノトーンの空は、何処にも行けないぼくを見つめ、雨という名の涙を流していた。