ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
結局、智の『あと一回』は三回続き、敢えなくぼくはKOされた。
智は強くて優しくて。そして何より、正しくない。それから、うんとスケベ。
とにかくそれを思い知らされたぼくは、再び脱衣場の長椅子に寝転がる羽目になった。
ぐったりしてボヤける意識の向こうで、半泣きになってぼくを介抱する智の姿が見えた。
「……悠ちゃん、ごめん……ごめんな……!」
智の中には、あいのモンスターがいる。底なしの愛で、ぼくを丸呑みにするまで止まらない。
ぼくはもう、溺れそうだ。でも――
ここまでされて、まだ彼女の期待に応えたいと思うぼくもいる。
「ぼく……とも……」
朦朧とする意識の中、ぼくは智に何かしらの言葉を掛けた。
「…………」
すると、半べそだった智の顔が急に素に戻った。
「とも……ずっと……」
ぼくは、また『何か』言った。
「……………………」
すると智の顔はみるみるうちに赤く染まり、震える唇はだらしなく笑みの形に歪んだ。
出た。あいのモンスター。
こいつとのやり取りは命懸けになる。細心の注意を払え、警戒しろ、油断すると殺される。
智がぼくを見つめる瞳は涙で潤んでいて。
「ええよぅ、なんでもしてあげる……」
ぼくの勝利条件は……
◇◇
お風呂で散々に打ちのめされたぼくは、ぐったりした状態のまま智に担ぎ出された。
智は素っ裸のぼくを抱えて移動して、そのままの格好でベッドに押し込んだ。
「ええよぅ……ええよぅ……私が、ぜぇんぶするけん……」
智はトロトロに溶けた顔でぼくの全身を拭き上げ、ペニスをしゃぶる。
……好き勝手しやがって。
ぐったりとしたぼくの身体を、智の舌が這い回る。そうすることで回復を図るけだもののようだ。
「悠ちゃん……悠ちゃん……」
ぼくの全身を舐め回す智は恍惚とした表情。明らかに暴走している。よく分からないけど、ぼくがこのモンスターを作り出したんだと思う。寒気が走る程の嫌悪感と同時に、強い愛おしさも感じる。そういう種類のモンスター。
……いいよ、好きにしな。
ぼくには支払いの義務がある。
そこまで考えて、ぼくは完全に意識を手放した。
腹一杯食べるといい。
それが、ぼくの勝利条件。
意識に、眠りの帳が落ちる。
◇◇
翌日、ぼくが目を覚ましたとき、虚ろな目付きの智はTシャツ一枚の格好で項垂れ、床に正座していた。
「……」
その智を見下ろす形で、制服姿のミサトが腰に手を当てた姿勢で仁王立ち。お化けは止めたのか、この日は髪をアップにしたポニーテール。
低く尖った声で言った。
「……言い訳はありませんか」
「ない……」
正座の智は完全脱力。意味は分からないけど、始まる前から勝負を投げているような気がする。
……何の冗談だろう。少し面白そうだったので、ぼくは寝たフリを続けることにした。
ミサトが詰問の強い口調で言う。
「……それで、エロ岩先輩。昨夜の御影先輩はどうでした? 何回ぐらいイけました?」
「……途中から覚えとらん……」
凄い。何が起こったのか分からないけど、完全に上下関係が逆転している。
「……では覚えている所まででいいです」
そう言ったミサトの眉間には深い皺が寄っている。何の冗談かと思ったけど、どうやら本気で智に怒っているようだ。
エロ岩先輩は自信がなさそうに何やら指折り数えている。
「……二十回ぐらいまでは数えた」
「え? すみません、聞こえませんでした。もう一度言って下さい」
うわ、ミサトねちっこい。そんなもんじゃねーだろ、って顔に書いてある。
「くっ……四十……」
うわ、智汚い! 数誤魔化そうとしてたんだ!
「え!?」
ミサトは、くわっと目を見開き得体の知れない怪物を見るように智を見つめ、眉間の皺を益々深くした。
「……怪我をして衰弱著しい御影先輩を力の限り犯し抜いたと!?」
「……力の限りって、あんまりやろ……」
「違うんですか?」
軽蔑の色を隠さないミサトを上目遣いに見つめた智は、少し納得行かないのか口を尖らせた。
「……まぁ、大体そうやけど……」
「大体って何ですか? 御影先輩が、ふしだらなのは充分承知していたはずですよね」
とばっちりだ。ぼくが、ふしだらって何だ……。
「……あんたの言うとおりや……」
再び項垂れたエロ岩先輩に、ミサトがきっぱりと言った。
「人間とは思えない所業です!」
でもまあ……昨日のご立派な智の態度を思えば、ミサトが怒るのも無理ない。
呆れたように言った。
「……こんなこと、新城や秋月だってしませんよ」
「……」
カオルとシュウを引き合いに出され、智はぎゅっと眉を寄せたけど、何も言い返す事はしなかった。
「もう昼過ぎです。御影先輩、半日以上寝込んでますけど、大丈夫ですか?」
そこで、ぼくは目を開いた。
◇◇
身体を起こすと軽い頭痛と目眩を感じた。
壁に掛かっている時計の針は午後二時になろうとしている。
「……っ!」
ハッとして固まるミサトと目が合い、ぼくは肩を竦めて言った。
「……おはようさん」
「…………」
ミサトの視線はぼくに釘付けで、瞬きすらせず、ぼくを見つめている。
次の瞬間、智が怒鳴った。
「じろじろ見るなや、コラッ!」
「……す、すみません!」
ミサトは慌てて目を逸らし、智は大きく鼻を鳴らして立ち上がった。
「悠ちゃん……!」
智は泣きそうな顔で駆け寄ると、シーツを引き上げてぼくの身体を隠した。
「…………」
昨夜は裸のままベッドに押し込まれたことを思い出し、ずきずきと痛むこめかみの辺りを強く揉んだ。
「……えっと、ミサト。今見たものは誰にも言わないで」
ミサトは視線を逸らしたまま、何度も頷いた。その様子に、智がギリギリと歯を噛み鳴らした。
「帰れ……!」
ぼくが傷だらけの裸をミサトに見られてしまったことは、とてつもなく智の気に障ったようだ。
「二度と来るなや」
ぼくは智を引き寄せて、小さく息を吐く。
「智はオラつかない。少し落ち着いて」
ミサトは智の後輩だし、油断していた。眦を釣り上げる智の頭をお腹に抱え、髪を撫でながら少し考える。
沈黙。
智の頭を撫でているうちに脳裡を巡るのは、関係を持った女の子たちのこと。
いつも苛立っていたカオル。
いつだって買ってあげると言ったシュウ。
トウコの凶相。
そのトウコをボコボコにしたユキナの鬼面。
『あいのモンスター』たち。
――百点取れなきゃ、ここから出してあげない。
心の中で、そんな声が聞こえた。
意地悪な神さまに、これまでの事を試されているような気がして、ぼくは凄く嫌な感じになった。
でも、こんな風にも考えた。
本当に百点取ったら、智はどうなるんだろう。
それはそれで、とても大変なことになるような気がした。