※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

134 / 166
第87話

 結局、智の『あと一回』は三回続き、敢えなくぼくはKOされた。

 

 智は強くて優しくて。そして何より、正しくない。それから、うんとスケベ。

 

 とにかくそれを思い知らされたぼくは、再び脱衣場の長椅子に寝転がる羽目になった。

 ぐったりしてボヤける意識の向こうで、半泣きになってぼくを介抱する智の姿が見えた。

 

「……悠ちゃん、ごめん……ごめんな……!」

 

 智の中には、あいのモンスターがいる。底なしの愛で、ぼくを丸呑みにするまで止まらない。

 ぼくはもう、溺れそうだ。でも――

 ここまでされて、まだ彼女の期待に応えたいと思うぼくもいる。

 

「ぼく……とも……」

 

 朦朧とする意識の中、ぼくは智に何かしらの言葉を掛けた。

 

「…………」

 

 すると、半べそだった智の顔が急に素に戻った。

 

「とも……ずっと……」

 

 ぼくは、また『何か』言った。

 

「……………………」

 

 すると智の顔はみるみるうちに赤く染まり、震える唇はだらしなく笑みの形に歪んだ。

 

 出た。あいのモンスター。

 

 こいつとのやり取りは命懸けになる。細心の注意を払え、警戒しろ、油断すると殺される。

 

 智がぼくを見つめる瞳は涙で潤んでいて。

 

「ええよぅ、なんでもしてあげる……」

 

 ぼくの勝利条件は……

 

◇◇

 

 お風呂で散々に打ちのめされたぼくは、ぐったりした状態のまま智に担ぎ出された。

 智は素っ裸のぼくを抱えて移動して、そのままの格好でベッドに押し込んだ。

 

「ええよぅ……ええよぅ……私が、ぜぇんぶするけん……」

 

 智はトロトロに溶けた顔でぼくの全身を拭き上げ、ペニスをしゃぶる。

 ……好き勝手しやがって。

 ぐったりとしたぼくの身体を、智の舌が這い回る。そうすることで回復を図るけだもののようだ。

 

「悠ちゃん……悠ちゃん……」

 

 ぼくの全身を舐め回す智は恍惚とした表情。明らかに暴走している。よく分からないけど、ぼくがこのモンスターを作り出したんだと思う。寒気が走る程の嫌悪感と同時に、強い愛おしさも感じる。そういう種類のモンスター。

 ……いいよ、好きにしな。

 ぼくには支払いの義務がある。

 そこまで考えて、ぼくは完全に意識を手放した。

 

 腹一杯食べるといい。

 

 それが、ぼくの勝利条件。

 

 意識に、眠りの帳が落ちる。

 

◇◇

 

 翌日、ぼくが目を覚ましたとき、虚ろな目付きの智はTシャツ一枚の格好で項垂れ、床に正座していた。

 

「……」

 

 その智を見下ろす形で、制服姿のミサトが腰に手を当てた姿勢で仁王立ち。お化けは止めたのか、この日は髪をアップにしたポニーテール。

 低く尖った声で言った。

 

「……言い訳はありませんか」

 

「ない……」

 

 正座の智は完全脱力。意味は分からないけど、始まる前から勝負を投げているような気がする。

 

 ……何の冗談だろう。少し面白そうだったので、ぼくは寝たフリを続けることにした。

 ミサトが詰問の強い口調で言う。

 

「……それで、エロ岩先輩。昨夜の御影先輩はどうでした? 何回ぐらいイけました?」

「……途中から覚えとらん……」

 

 凄い。何が起こったのか分からないけど、完全に上下関係が逆転している。

 

「……では覚えている所まででいいです」

 

 そう言ったミサトの眉間には深い皺が寄っている。何の冗談かと思ったけど、どうやら本気で智に怒っているようだ。

 エロ岩先輩は自信がなさそうに何やら指折り数えている。

 

「……二十回ぐらいまでは数えた」

 

「え? すみません、聞こえませんでした。もう一度言って下さい」

 

 うわ、ミサトねちっこい。そんなもんじゃねーだろ、って顔に書いてある。

 

「くっ……四十……」

 

 うわ、智汚い! 数誤魔化そうとしてたんだ!

 

「え!?」

 

 ミサトは、くわっと目を見開き得体の知れない怪物を見るように智を見つめ、眉間の皺を益々深くした。

 

「……怪我をして衰弱著しい御影先輩を力の限り犯し抜いたと!?」

 

「……力の限りって、あんまりやろ……」

 

「違うんですか?」

 

 軽蔑の色を隠さないミサトを上目遣いに見つめた智は、少し納得行かないのか口を尖らせた。

 

「……まぁ、大体そうやけど……」

 

「大体って何ですか? 御影先輩が、ふしだらなのは充分承知していたはずですよね」

 

 とばっちりだ。ぼくが、ふしだらって何だ……。

 

「……あんたの言うとおりや……」

 

 再び項垂れたエロ岩先輩に、ミサトがきっぱりと言った。

 

「人間とは思えない所業です!」

 

 でもまあ……昨日のご立派な智の態度を思えば、ミサトが怒るのも無理ない。

 呆れたように言った。

 

「……こんなこと、新城や秋月だってしませんよ」

 

「……」

 

 カオルとシュウを引き合いに出され、智はぎゅっと眉を寄せたけど、何も言い返す事はしなかった。

 

「もう昼過ぎです。御影先輩、半日以上寝込んでますけど、大丈夫ですか?」

 

 そこで、ぼくは目を開いた。

 

◇◇

 

 身体を起こすと軽い頭痛と目眩を感じた。

 壁に掛かっている時計の針は午後二時になろうとしている。

 

「……っ!」

 

 ハッとして固まるミサトと目が合い、ぼくは肩を竦めて言った。

 

「……おはようさん」

 

「…………」

 

 ミサトの視線はぼくに釘付けで、瞬きすらせず、ぼくを見つめている。

 次の瞬間、智が怒鳴った。

 

「じろじろ見るなや、コラッ!」

「……す、すみません!」

 

 ミサトは慌てて目を逸らし、智は大きく鼻を鳴らして立ち上がった。

 

「悠ちゃん……!」

 

 智は泣きそうな顔で駆け寄ると、シーツを引き上げてぼくの身体を隠した。

 

「…………」

 

 昨夜は裸のままベッドに押し込まれたことを思い出し、ずきずきと痛むこめかみの辺りを強く揉んだ。

 

「……えっと、ミサト。今見たものは誰にも言わないで」

 

 ミサトは視線を逸らしたまま、何度も頷いた。その様子に、智がギリギリと歯を噛み鳴らした。

 

「帰れ……!」

 

 ぼくが傷だらけの裸をミサトに見られてしまったことは、とてつもなく智の気に障ったようだ。

 

「二度と来るなや」

 

 ぼくは智を引き寄せて、小さく息を吐く。

 

「智はオラつかない。少し落ち着いて」

 

 ミサトは智の後輩だし、油断していた。眦を釣り上げる智の頭をお腹に抱え、髪を撫でながら少し考える。

 沈黙。

 智の頭を撫でているうちに脳裡を巡るのは、関係を持った女の子たちのこと。

 

 いつも苛立っていたカオル。

 いつだって買ってあげると言ったシュウ。

 トウコの凶相。

 そのトウコをボコボコにしたユキナの鬼面。

 

 『あいのモンスター』たち。

 

 ――百点取れなきゃ、ここから出してあげない。

 

 心の中で、そんな声が聞こえた。

 

 意地悪な神さまに、これまでの事を試されているような気がして、ぼくは凄く嫌な感じになった。

 でも、こんな風にも考えた。

 

 本当に百点取ったら、智はどうなるんだろう。

 

 それはそれで、とても大変なことになるような気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。