※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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カオル6

 股間を押さえ、悶絶する瞳子を見下ろして、アタシは言った。

 

「で、テメーはいったいどうしたいんだ?」

 

 瞳子に関して思うことは、それに尽きる。殴ってほしい、というのも本気だろうけど、瞳子の切実な希望はもっと他の所にある。

 瞳子が呻いた。

 

「……な、膣(なか)に入っちゃいました……」

 

「しらねえよ」

 

 とっとこカム太郎くんの無惨な最期はユキには言えない。言いたくない。

 

「……で、何かあったのか?」

 

 未だ玄関で股間を押さえ、踞る瞳子の目に涙が滲んだ。

 

「……漸く電話が繋がったと思ったら、切られました……」

 

 多分ユキは、瞳子のことは可愛らしい程度には思っているけど、それだけだ。葉桐が連れてきた男達から守ったって言っても、真剣に『これから』を考える相手とは思ってない。

 

「まぁ、テメーは金だけは持ってたからな。それが必要なくなりゃ、その扱いが関の山だろうよ」

 

 実際は、『切られた』。アタシなら、ユキに電話に出ないでくれって『お願い』する。

 

「……テメーは本当に自分本位だな。だから、そんなことも分かんねえんだよ」

 

 詳しいことを教えてやる義理はない。瞳子が何を考えようが、アタシには関係ない。

 

「前から思ってだけど、テメー、アタシのことナメてるだろ?」

 

 アタシだけじゃない。秋月蛍や皆川優樹菜。あの黒岩智のこともそう。瞳子は何も分かってない。一番腹が立つのは――

 

「ユキのこともナメてるよな?」

 

「……!」

 

 これには瞳子も言いたいことがあるようだ。眉間に皺を寄せ、見上げるようにしてアタシを睨み付けて来る。

 

「まぁ、見た目小さいし、実際子供っぽいとこあるから勘違いしそうになるけど……ユキは、すげえ大人だぞ?」

 

 ユキは、アタシに色々な話をしてくれた。

 

 面白いこと。難しいこと。世の中の摂理。アタシがこんなにユキにハマっちゃった理由は、Hが上手いからとか、可愛いからとか、そういう理由じゃない。

 

 一つの個性として、アタシは『御影悠希』を気に入ってる。

 

 眠れない夜、ユキはアタシに問題提起して、自分の考え方を聞かせてくれて、アタシも同じように考えて意見を言った。

 ……大人になるって、どういうことだ?

 その会話の中でアタシが知った大人っていうのは、対処する生き物のことだ。食べるもの、着るもの、住む場所に始まり、何をしなきゃならないか。仕事、税金、法律……。探せばクソほどある生臭い『リアル』。それに対処し続ける生き物。夢見る暇なんてない。目の前のリアルに対処し続ける生き物。

 

「テメーはガキなんだよ。すっこんでろ」

 

 そこでアタシは面倒臭くなった。なんだって、瞳子に説教かまさなきゃいけないんだ。

 

「帰れ。テメーがユキに手、出したこと、アタシがなんとも思ってないとでも思ってんのか?」

 

「……」

 

 途端に口をへの字に曲げ、涙目になって俯いた瞳子を見下ろし、アタシはユキの言ったことを考える。

 

 ――カオルの、一番カッコいいとこが見たい。

 

 瞳子と遊んでいる時間なんてない。あの大魔王はアタシのものにするんだ。

 

「ま、待って下さいっ!」

 

 そう叫んだ瞳子のヤツが足にすがりついて、アタシは呆れて首を振った。

 

「離せ。テメーに何かしてやる義理なんてない」

 

「待って下さいっ。もう、どうしたらいいか分かんないんです……」

 

「知るかよ。葉桐、ぶっ飛ばして来るんだろ? さっさと行け」

 

「それはもういい! あんなヤツ、どうだっていいんです!!」

 

 そこに行き着くのが遅いんだよ。その言葉を飲み込んで、やっぱり首を振るアタシの足元で、瞳子が土下座した。

 

「お願いします。どうしたら、悠希さんに見直してもらえるんですか? 教えて下さい……」

 

 大人になる。自分の身の丈に合わないことはしない。社会のルールを守る。自分を大切にする。そうしたら、周りもアタシを大切にしてくれるから。それが、ユキから教わったこと。

 

「お願いします! お願いします……!」

 

 形振り構わず土下座する瞳子を見て、アタシは少し悲しい気分になった。

 

(テメーもかよ……)

 

 多分、瞳子はこれから大人になって行くんだろう。

 

 アタシは小さく舌打ちした。

 

「……分かったよ。んじゃ、貸しっつうことで少し教えてやる」

 

 瞳子が涙の滲んだ顔を上げて、アタシを見つめる。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 ……瞳子が好きになったのが、ユキじゃなかったら良かったのに。

 

「瞳子、お前ってスポーツは一通りこなせたよな」

 

 アオイに頼もうと思っていたけど、ことスポーツに限っていえば瞳子の方が上だ。

 

「……スポーツ、ですか?」

 

 訝しそうにアタシを見つめ返す瞳子は首を傾げている。

 

「あぁ、ビーチバレーやるんだよ」

 

「はあ……ビーチバレーですか……」

 

「ユキにカッコいいとこ見せてやるって約束したんだ。テメーも手伝え」

 

 気のない返事をしていた瞳子だったけど、ユキの名前を出した途端に目の色が変わった。

 

「……! はい!」

 

 黒岩智には、一人の人間として張り合わなきゃいけない。そうじゃないと、ユキは絶対アタシを認めない。

 

「よし。葉桐シメるより、よっぽど大変だからナメて掛かるんじゃねーぞ?」

 

 そう。まともに行く方が、世の中よっぽど難しい。そしてユキは、そういうことに重い価値を置いている。

 

「瞳子、テメーは暫くアタシと一緒に行動しろ。ユキにも会えるし、分かることもあるだろ」

 

「はい……!」

 

 瞳子が強く頷き、アタシも強く頷き返した。

 

 これからだ。

 アタシは、真っ直ぐいい女になってユキを奪りに行く。

 カッコいいアタシがユキを手に入れるんだ。

 

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