ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
あの日――。
深山に追い詰められたこと。
カオルを快楽で拷問したこと。
成り行きでシュウと寝たこと。
それらの経緯には触れず、話は皆川に助けを求められたことから始まって。
「……で、カラオケボックスに行ったら、霧島はもう死んでた」
その夜、ぼくがどうしようもなく混乱していたことは言わなかった。
「……霧島、か。確か深山と同じクラスやったな……」
ぼくの胸に頬を擦り寄せる智は、難しい表情で何かを考え込むようだった。
「……霧島? ああ、あの……」
だらりと下がった前髪の間から、ミサトは上目遣いにぼくを睨み付けてくる。言外に、この馬鹿、って言われてるような気がして、気まずくなったぼくは視線を逸らした。
「皆川と組んで援交やっとる。有名人やな」
「そうなの?」
霧島のことについては詳しくない。ぼくが聞き直すと、智は静かに頷いた。
「……運動部の男連中も、何人か関係持っとるわ」
智の言葉に、眉を寄せたミサトが嫌悪感剥き出しで頷いた。
「三度も体育倉庫でヤってるとこに出会(でくわ)したことがあります。見る度に相手が変わっていて…………不潔な女です」
「……そうなんだ」
なるほど、ミサトも嫌がる訳だ。
「……それで、アホの皆川を事情説明で出頭させた訳か……」
「その場にぼくが居合わせたことだけは秘密で、ね……」
そう付け加えても、智は少し浮かない表情。
「……それ、大丈夫なんですか? アホの皆川って、あのパッパラパー子ですよね?」
ミサトは不快感も露に吐き捨てる。
「あいつ、少しおかしいですよ。体育倉庫で霧島がヤってるとき、あいつも一緒に居ましたけど、ヘラヘラ笑ってましたからね」
「……」
流されるまま、そこに居たんだろう。で、ミサトに見られて笑って誤魔化した。優樹菜らしい。パッパラパー子の渾名は伊達じゃない。
ミサトの言葉に、智が頷きながら言った。
「まぁ、皆川とは私が話すわ」
「……って、智、ちょっと待っ――」
智の『お話』は、優樹菜には苛烈なものになるだろう。制止の言葉をかけようとして――
ぼくは、言葉に詰まった。
「…………」
智は変わらずぼくの胸に頬を擦り寄せている。でも、ぼくの腰に回した手には万力のような力強さがある。
「……コレ、悠ちゃんには切れんやろう? 私の出番やん」
「……」
ぼくは黙っていた。
見透かされてる。そして、それは我慢できない。ある意味では真っ当な、智の女の子としての感情。
「……分かった」
この件は後回しだ。手を退かせるにしても、今は不味い。そんな思惑から、ぼくは頷いて見せた。
「黒岩先輩が行くんなら、安心できますね。私も付いていきます」
そんな相槌を打つミサトは二番狙い。悪い意味でぶれてない。ぼくは泣きたい気持ちになった。
智に見えない角度で、すりすりとぼくの足を擦るミサトは笑ってるけど、前髪に隠れた視線は笑ってない。
「……それで、御影先輩はパッパラパー子とヤったんですか?」
――ミサトのキラーパス!
「……つっ!」
ミサトは、ぼくを困らせるという一点に於いて、他の女の子たちの追随を許さない。
「それ、私も気になるな……」
ぼくを見つめる智から表情が消える。光の消えた瞳は底なしの深淵を思わせた。
「……悠ちゃん。私、誰とでもいうんは好かん」
「…………」
ごもっとも。気まずさのあまり、ぼくは視線を伏せた。
ミサトが泣き出しそうな鼻声で言った。
「……私だけ除け者なの、ずるいです。私ともして下さい……」
「……!」
この馬鹿! 智が居ないときにしろって言ったのに!! よりによって、こんな時に!
絶対零度の空気が流れる。智が許す訳なんてない。でも……
「……あんた、普通、私の前で言うか?」
呆れたように言う智は、意外なことに怒った様子はない。困ったように口を噤み、深く考え込むふうだった。
暫くの沈黙を挟み……
「…………ええよ」
無表情で、智は頷いた。
「悠ちゃん、気に掛けとるみたいやし、陰でこそこそされるよりよっぽどええわ」
「なっ……」
想像を超えた展開に絶句するぼくを見つめる智の目尻は下がっていて、困り顔。
「……悠ちゃん、堪忍な? 私、一人しか居らんのが弱点なんよ……」
「……」
「私、色んなことから悠ちゃんのこと守りたい」
その為に智は強くなった。ぼくの為なら幾らでも優しくなれるし、残酷にもなれる。そんな彼女が考える自らの最大の欠点は、一人しかいないこと。
これが、智の本気。自分を殺し、三年間待ち続けた智の本気。何が何でも、ぼくを守ると決めた智の本気。
智は完璧(フローレス)。
「川村、あんた凄いわ。そんなに真っ直ぐ二番取りに来るとか思わんし……」
自分を過大評価しない。ぼくを守る為に、手が足りなければ増やすまでのこと。
「悠ちゃんは、川村のこと嫌いか?」
「き、嫌いじゃないけど……でも、それは……」
ミサトは、ぼくにとって恋愛の対象足り得ない。それを見越した上で許容した。これはつまり――
智が言った。
「川村、脱ぎや?」
「はい」
弱みそミサトは立ち上がり、迷うことなく制服のネクタイを引き抜いた。
陰でこそこそされるよりいい、というのは智の本音だろう。ミサトが本気を出せば、ぼくは押し切られる可能性が高い。そのぼくの甘さまで見越した上での許容もある。智は――
最終的に、ミサトを使い潰すつもりだ。
シーツ越しにぺニスを撫でながら、首筋に舌を這わせる智がミサトに手招きした。
「早うしや。あんた、これ狙ってたんやろ?」
「……」
ミサトは、ぼくと智とを見比べたあと、口元を歪ませて、卑屈な笑みを浮かべた。
「ご、ごめんなさい……御影先輩、ごめんなさい……」
謝罪の言葉を呟きながら、ミサトは半袖のブラウスとスカートを脱ぎ捨てた。
「ミサト……」
続いてブラジャーを脱ぎ去り、小振りなAカップの胸を露にしたミサトは泣き笑いの表情を浮かべている。
「ごめんなさい、ごめんなさい御影先輩。でもこうしなきゃ、チャンスなんてないんです」
隙を見せるほど、智は甘くない。それがミサトの心境なんだろう。確かにそうかもしれない。でも……
「ホント、馬鹿な子だよ……」
「……はい」
歪んだ笑みを浮かべて頷いたミサトのパンティは、クロッチの部分が漏らしたみたいに濡れていた。
ミサトは止まらない。
躊躇いなく最後の一枚まで脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。高い確率で純潔の襞は、ぴったり閉じたままで透明の愛液が淡い陰毛を濡らしている。
キスしたり、肌を見せたりと煽りすぎた。
ミサトは止まらない。この娘はもう、どんな形でもいいから、ぼくと『ヤりたい』と思っている。それが最悪の判断だったとしても。
値踏みするようにミサトの裸に視線を走らせ、智が小さく鼻を鳴らした。
「あんた、胸ちっさ。肋も浮いてガリガリやん」
「……はい」
殆ど泣き出しそうな顔で頷くミサトのバストはAカップ。ささやかなお椀型。この一年、剣道部で鍛えた身体は引き締まっている。
「お尻も角張って……もうちょっと肉付けや?」
スレンダーな体型を酷評する智の声は、少し尖っていて強い苛立ちを感じた。
「貧相な身体やな、処女やろ?」
「…………はい」
肌を隠すことはせず、ミサトは腰の後ろで手を組み、足を僅かに開いた『休め』の姿勢。
あまりにも明確な上下関係を見せ付けられ、ぼくは強い目眩を感じた。
どうしてこうなるんだ?
嘆息するぼくの前で、サイズの大きなTシャツを脱ぎ捨て、智も裸になった。
「……教えたるわ。来や」
健康美に溢れた肉感的な身体の智と、清潔感があり、未熟さの中に清らかさがあるミサトの身体。
ビッチをやるようになって、色々経験を積んだつもりでいたけど、『二人同時』っていうのは初めてだ。
そこまで考えて、ぼくは肝心なことを思い出した。
いつだって女の子たちは、全員想像の斜め上を行っていて、誰一人、思惑通りに運んだ娘なんていない。
ぼくにとって、Hは便利で不思議な魔法。でも、その魔法で、ぼくは殺されるかもしれない。
ビッチをやるようになって、初めて思った。
……バチが当たった。