ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
『悪』でいる事は、能力の証明である。
薄っぺらい『善』に、価値を置かない葉桐要という少女。
◇◇
依子や愛美とは中学生からの付き合い。二人とも家族に恵まれず、クラスでも孤立していたから引き込むのは容易かった。何をするにしてもそうだが、一人より二人。二人より三人。幅広くやるにはそれなりに数が必要だった。
悪でいる事は能力の証明である。だからこそ、人は悪事に惹かれる。化粧品やアクセサリの窃盗。援助交際の斡旋。単純なところでは恐喝や暴行。
悪の理屈は単純明解。思い付いたからやる。やれそうだからやった。良くない知り合いが増えると、益々やり易くなった。
その年、要はヘマをやった。
ちょっとばかり生意気な手合を締め上げたところ、良くない連中が出て来た。
ストリートギャングといえば聞こえはいいが、実際は暴力団の準構成員だ。
瞬く間に追い詰められ、依子と愛美が輪姦された。
現場には要もいた。しかし……
「……なんだ、コイツ。キメぇ、チンコ付いてんじゃねえか……」
素っ裸に衣服を剥かれ、最早これまでと観念した要だったが、その部分を見た男たちは手を出そうとしなかった。
依子と愛美は輪姦された。要の目の前で、望まない行為を何度も強要された。
この日の事は、死んでも忘れない。
女としての自分が否定されたことを、葉桐要は永遠に忘れない。
◇◇
「なんだ、勿体振りやがって。普通の女の子じゃないか」
◇◇
異形の二人。
一人は傷だらけの天使。
「……カナメのここ……少し小さいから、痛いよ……」
もう一人は悪魔。歪んだ器に見合う片割れを探して永遠にさ迷う。……はずだった。
「あぁ……うんと痛くしていいよ……」
二人は、互いに合わせて歪んでいる。
だから、きっと上手く行く。
悠希が入って来ると、身を裂く激痛に要は悲鳴を上げた。
「……ほら、力抜いて。ぼくを見て……」
汗に濡れた肌と肌が張り付いて、要は奇妙な一体感を覚えた。男女の交わり。身体の奥深くまで杭を打ち込まれ、そこから噴き出す激痛に顔を歪ませて、それでも安らぎを感じる。
この瞬間、要の性は確定した。
血と粘液が混ざり合い、交合部分が淫らな騒音を撒き散らす。痛みと快感とが交錯する。瞼の裏で火花が飛んで、要はこれまでに出した事のない高い声で嬌声を上げた。
「ぅぁあぁぁあんっ♡」
悠希の腰に足を巻き付け、引き寄せて交合部分を擦り合わせるとぷちぷちと更に身体の奥底が引き裂かれる音がする。
強く抱き合うと、深い一体感を覚え、要の意識は何度も弾けた。
「そう……流れに全て任せて……」
天使の囁きは悪魔の誘惑に似て――
「あは、すごいよ……」
ともすれば弾け飛びそうな意識の中、視界を下げると、ぬらぬらと滑りを帯びた赤い肉の芽が天を衝く勢いで屹立している。
「――ぅぁあぁぁっ♡」
絶頂して気を飛ばすと、淫らな肉の芽がペニスさながらに律動して、膣から夥しい量の白濁を吐き出す。
「あんっ、あんっ、あんっ♡」
その部分がこなれて来ると痛みは鳴りを潜め、抑えきれない情欲の炎が燃え盛り、要は一匹の雌になって喘ぎを上げた。
気持ちいい。
今頃は激しく輪姦されているだろう依子と愛美を思っても掻き消す事の出来ない激情が胸を焦がし、要は深いエクスタシーに至る。
小さく悠希が呟いた。
「なるほど、ここか……」
「……?」
右の手のひらを要の下腹部に押し当て、ぐっと押し込んだ。その瞬間、限界まで入り込んでいると思われた肉茎を未知の領域にまで打ち込まれ――
「くぅうぅうぅうぅうん!」
おとがいを反らし、要は激しく絶頂した。
僅かに透かした窓から温い風が吹き込み、奇跡的な程深い男女の交合を果たした要の意識を拐って消えていく。
「あ、う……」
微かに呻きを上げた要の火照る身体に、熱い汗の雫が流れて消えて行った。
◇◇
手酷く痛め付けられた後だけに発熱が懸念されたが、解熱剤と抗生物質がよく効いている。真夜中を過ぎ、悠希はよく眠っていた。
要は、そっとベッドから抜け出すと、悠希が眠る部屋を出た。
「♪」
軽い足取りで玄関先に向かい、下駄箱の上に置いてあった煙草を取り出して火を点ける。
咥え煙草のまま、スマホを確認すると着信が八件。全て赤瀬岬からの着信だった。
「粘着しやがって、クソアマが……」
行為の真っ最中に着信音が鳴り響いた時の事を想像し、要は眉間に皺を寄せる。
それでも着信拒否に設定してしまわないのは、現在の要にとって、おそらくは脅迫の連絡であろう赤瀬岬の電話ですらも情報源の一つであるからだ。
古く黴臭い、今はもう廃屋と呼んでしまっても何の抵抗もない仮宿の黴臭い空気に混じり、流れて行く紫の煙をぼんやりと眺める要はその場に胡座をかいて考える。
……よかった。
痛みも出血もあったが、要の切なる欲求は満たされた。これからは御影悠希がいる。醜い自らの性に落胆する事もない。性的な欲求不満に苛立ちを募らせる事もない。
「フフフ……」
思わず笑いが漏れ、要は自身を訝しく思う。
あの傷だらけの堕天使だけが、要を『女』と見下す事ができる。それがなんとも愉快だ。四つん這いで尻を突き出し、
葉桐要は満たされたのだ。
「ククク……」
いつか――
◇◇
いつか。いつの日か。小さい店を持ちたいと思っている。
愛美がいて依子がいて要がいる。
小さいが、そこに全てを詰め込んでいる。生活の基盤。家族と呼べる者。暖かみを感じるもの、全部。
御影悠希が微笑いながら言う。
――カナメ、おかえりなさい。
「うふふふふ……」
ささやかで下らない夢だ。しかし――それが全てで構わない。そう思う要がいる。
自ら進んで『悪』でいる。葉桐要という少女。
◇◇
御影悠希は何処に行った? 御影悠希は、今、何をしている? その疑問に答えられない全てを要は鼻で嘲笑っている。再び赤瀬岬からの着信を告げ、オレンジのランプを点滅させるスマホを見ながら思う。
御影悠希はどうなった?
これに答えられないのが一般人の限界だ。自ら進んで悪でいる要の限界は、それよりずっと高い場所に設定されている。
スクリーンをスワイプして、スマホを耳に当てる。
『……やっと出やがった。今、いいか?』
先の一件で赤瀬岬や神木栞との関係は破綻している。この時も会話らしいものが出来るとは期待してなかった要だが、その声のトーンの低さに肩透かしを食った思いだった。
「……今日は、えらく大人しいじゃないか。で、何か用かい?」
『……チッ、そんな場合じゃねーんだよ。休戦だ』
「あ?」
黒岩智が動き、沈黙を続けていたカオルにも動きがあったのだ。その可能性に思い至り、要は煙草を揉み消した。
『黒岩が全部認めた。秋月も、あと深山とかいうヤツも出て来て……』
「あ? ちょ、待って……何? 何があったらそんな事に……」
スマホの向こうから深い溜め息が聞こえ、赤瀬岬は考え込む様子だった。
『御影くんがいなくなった。黒岩は白旗上げて助けてくれってよ』
「……」
絶句し、新しい煙草を咥えながら要は目まぐるしく考える。
『あたしもよく分かんねえけど、御影くん、大怪我してるみたいだ。んで、総出で街に出て探してる。秋月、深山、あと剣道部の二年から川村ってのが来て……コイツが瞳子を無茶苦茶嫌ってて――まぁそりゃいい。とにかく、スクランブルだ』
赤瀬岬がもたらした情報は、衝撃的なものだった。
まず、黒岩智が『動画』の一件に於いて自らの関与を認めた。
続いて剣道部から主将の秋月。副主将の深山。他に川村とかいう二年を中心に八人が出張ってきて悠希の行方を追っている。
『カオルさん、人手が足りねえから、テメーも来いってよ』
(何それ。すげー……)
全員揃ってスカタン引かせてやった。そう思うと、要は込み上げる笑いを堪えるのに必死だった。
――ざまあみろ!
『……あたしも先の一件じゃ迷惑掛けたから、御影くんの事が心配だ。テメーはクソだけど、今はいがみ合ってる場合じゃない』
――ざまあみやがれ!
「……話は分かった。ワタシも街に出て探すよ……」
『……そうしてくれたら助かる。御影くん、財布も携帯も持ってないみたいだから……』
赤瀬岬の声は沈んでいて、言っている事に嘘はないようだ。要は益々可笑しくなってきて、腿をつねって笑いを噛み殺した。
◇◇
赤瀬岬との通話を終え、要は鼻唄混じりに向かった洗面所で口を濯いだ。
(煙草臭いと、御影くん、すげー嫌そうにすっからな……)
でも、禁煙しようとまでは思わない。
明日は街に出て、買い物ついでに駆けずり回る馬鹿共がどんな無茶をやらかすか見学しに行こう。そんな事を考える。しかし……
分からないのは黒岩智だ。
おそらく、黒岩智は悠希の身の上に起こったことを理解している。まぁ、全うな手段ではないだろうがそれはいい。だが心配のあまりとはいえ、秋月蛍や深山楓に助けを乞うたのは理解できない。
(トチ狂いやがって……)
寝室の襖を開ける。
点けっぱなしにしたオレンジの棗球が照らす薄暗い寝室。悠希は、べっとりと多量の寝汗をかき、早く浅い呼吸に胸を上下させて眠っていた。
「――!」
その瞬間、要はぶん殴られたような気すらした。
薬は効いたはず。場を離れたのはほんの三十分程の事だ。しかし、容態が急変した。
「――御影くんッ!」
呼び掛けるが、悠希に反応はない。脳裏に過ったのは、いつの日か叔父が浮かべた悲しい笑顔だ。
そういう運命だった。
今は、そう思う。昏倒している悠希にそれと同じ影を見て、要は悲鳴を上げそうになった。
「御影くん! 御影くんッ!!」
ほんの僅か、目を離した隙に、要が漸く得た半身は見るも無惨な姿になった。
黒岩智が狂った訳を、要は一瞬で理解した。
――全て捨てて行かないのは、ウソだ。
馬鹿にしていた。軽く見ていた。捨てて行かなければならない物の中に、自分すらも含まれているという事を、要は理解した。
人を愛するということは……
熱を測ると、悠希の体温は四十度を越えてまだ上がろうとしていた。
要は滅茶苦茶に混乱して救急箱を引っくり返し、中からありったけの薬を取り出した。
「御影くん、薬! 薬、飲んで……」
「…………」
悠希に反応はない。固く瞳を閉じ、額に巻いた包帯にはじんわりと赤い血が滲み出している。もし、敗血症や破傷風等の感染症なら命に関わる。
迷ってはいけない。
叔父にはなかったが、生きてさえいれば、いつかやり直しのチャンスがあるかもしれない。全て捨てて行かないのはウソだ。
今が、そのとき。
要は迷わずスマホを手に取った。
馬鹿なことをしている。ほんの数分前は、見下して嘲笑っていた、進んで『悪』でいる葉桐要という少女。
ぼろぼろと涙が溢れる。黒岩智は、きっとこんな気持ちで助けを乞うたのだ。
通話に出た相手が応答するよりも先に、要は叫んだ。
「助けて……御影くん死んじゃう! 何でもするから、助けて……!」
人を愛するということは、悪をして困難な命題であるようだ。