ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
台風を間近に控え、強風が吹き付ける小さな家。
古ぼけていて、今は廃屋の風情を見せるそこで、ぼくは歌っていた。
膝の上で寝そべるミサキが、全身を赤く染めてお尻を震わせている。
ミサキも吃驚するぐらい歌が上手いけど、ぼくもそれなりに自信がある。
膣に挿し込んだ指先を鈎状に折り曲げ、上部のざらついた壁を擽ると、ミサキが腰をくねらせて小さな声を上げた。
エーデルワイス。
直訳すると『高貴な白』。ヨーロッパでは純潔を象徴する花といわれている。
ぼくは歌い続け、ミサキは歌に合わせてイき続けた。
ミサキの膣から溢れた血液混じりの粘液が腿を伝い、畳まで濡らしている。
ぼくは歌い続ける。その光景を見守るシオリは顔を赤くして、殆ど瞬きすらせずにお仕置きを受けるミサキを見つめている。
「うあっ! あっあっあっあ……!」
恥辱と快感に、涙と鼻水を垂れ流すミサキがまたお尻を震わせた。――またイった。
歌が終わり――
汗だくになったミサキが嗚咽に声を詰まらせながら言った。
「……ごめんなざいっ、ユキざん、ごめんなざいっ……!」
「ぼくに謝ってどうするの。謝るならシオリでしょ」
眠くなって来て、欠伸したぼくは膣から指を引き抜き、手首の辺りまで汚す血液混じりの愛液をミサキのお尻で拭った。
「シオリ、ごめんなざいっ! 許して下ざいっ!」
「……」
ミサキの涙ながらの謝罪にも、顔を紅潮させたシオリは、ぼんやりするばかりで口をつぐんでいる。
「……シオリは、まだ許せないってさ。もう一曲行こうか……」
「ひいいっ……!」
無慈悲なぼくの宣言にミサキが泣きじゃくり、そこで漸くハッとしたようにシオリが首を振った。
「ゆ、ユキさん! もういい! もう充分ですから、止めて下さい!」
「……そう? 遠慮しなくていいんだよ?」
ぼくの言葉に、シオリはもぞもぞと膝を擦り合わせた。
「し、してません。私は、もう怒ってませんから……」
「……そう」
ぼくは少し疲れてしまった。
今はもう眠りたい。壁際に視線を送ると、ニヤニヤと笑っていたカナメもミサキの恥態に当てられたのか、頬を染めて俯いていた。
エーデルワイスの花言葉は『大切な思い出』『勇気』『忍耐』。
『大切な思い出』は、天使と登山家の叶わぬ恋の物語に由来している。
ある登山家が、地上に舞い降りた天使に恋をした。しかし、その恋が叶わないことを嘆き苦しみ、天に向かって「この苦しみから救ってほしい」と願った。
天使はエーデルワイスの花を地上に残し、天に帰った。
そんなお話。これもいずれ思い出になる。お伽噺になんかなりやしない。
ぼくは退屈になって欠伸した。
◇◇
シオリが泣きじゃくるミサキの肩を抱き、慰めるようにして二人が寝室に使っている離れの方に行ってしまった。
居間に、ぼくとカナメの二人きりになる。
「カナメ、疲れた。膝貸して」
「は、はい」
カナメは何故か怯えているみたいで、びくびくしながらぼくに膝枕をしてくれた。
「……ぼくが怖い?」
「少し……あ、いや、どうでしょう……」
ぼくの問に頷いたカナメだったけど、少し複雑そうな表情で考え込んだ。
「ちょっと、ドキドキしてます。ワタシも……」
頬を赤く染めているカナメは唇を軽く舐め、適した言葉を探している。
「……赤瀬、七回ぐらいイったよね」
「十二回だよ。少し触っただけであの様だ。馬鹿にしてあげればいい……」
疲れたぼくは、笑う気にもなれなくて目を閉じる。少しでいいから眠りたかった。
「神木が、すごく羨ましそうに見てたよ……」
「……気のせいじゃない?」
「だから、二人ともドMなんだって。赤瀬も逃げようと思えば逃げられた筈さ。でも逃げなかった。神木も物欲しそうに見るだけで止めやしない。ワタシが居なきゃ、絶対オナッてたよ」
そう言った声は少し尖っていて、カナメの方が余程羨ましがっているように聞こえた。
「……カナメも、イジメてほしい……?」
カナメは無言だった。
薄目を開けて見上げると、真っ赤になった顔を背け、小さく頷いたのが見えた。
「…………変態」
「……そんなこと言わないでよ。ユキくんのせいなんだから……」
どうやら、ぼくの問い掛けは、カナメの切実な弱点を突いたようだ。
彼女に許されたのは、ぼくだけ。
「可哀想な子……」
憐れんで言うと、カナメは顔をクシャクシャにして笑った。
◇◇
カナメの膝枕で、うとうととしたぼくは夢うつつで嵐の音を聞いていた。
暑くもなく、寒くもなく。カナメの細い指が何度も髪を鋤く感触が気持ちいい。
「ユキくん、寝るかい?」
耳元で、そっと囁き掛けるカナメの声は優しくて、ぼくは黙って頷いた。
「……!」
――そこで強く床を蹴る音が響いて、カナメがビクッと身体を強張らせた。
たんっ、と軽い音がして廊下に繋がる襖が開いた。
その物音に、カナメが酷く腹を立てたような気がして、ぼくは薄く目を開ける。
刺々しい低い声で、カナメは言った。
「もう少し静かにしろ。ユキくん、寝る暇もないだろうが」
「悪かった。私がユキさんと寝室に入るから」
急いで帰って来たシオリの呼吸は少し荒れていた。そして謝っているけど、声色に謝罪の色が一切ない。
カナメの指が、くしゃりとぼくの髪を撫でた。
「テメーはユキくんとヤりたいだけだろう。メス猫が。弁えろよ」
その声は怒りに満ち満ちている。
「お前こそ、だらしなく目尻下げて盛ってんじゃねえよ。薄汚いドブ鼠の分際で」
シオリも全然負けてない。静かに返した言葉に強い嫌悪を感じる。
――君に血道上げるんはウチの娘だけやない。興味持ったが最後、釘付けや。誰も目を逸らせんようになる――
ぼくが頼んだ訳じゃない。疲れに霞む目を擦りながら、身体を起こそうとする。
そんなぼくを押し留め、カナメはシオリと激しく睨み合った。
まず、カナメが言った。
「テメーが吉川に何したか、ユキくんに言ってやろうか?」
「……ヨシカワ?」
初めて聞く名前だ。ぼくが聞き直すと、シオリは、さーっと真っ青な顔色になった。
「……っ!」
普段、すましていてクールな印象のあるシオリの顔が見る見るうちに歪み、ぎりっと歯を噛み鳴らした。
「お前こそ、岡田と望月をどうしたんだよ。ええ?」
「オカダ? モチヅキ?」
また知らない名前が出て来て、首を傾げるぼくに、シオリが嫌悪感たっぷりに言った。
「葉桐が連れてる一年の二人ですよ、ユキさん」
「……ああ、双子か。そう言えば見ないね。何処にいるの?」
「…………」
カナメは俯いて黙り込み、それを見たシオリは勝ち誇ったように口元を釣り上げた。
「ええ、ユキさん。よく聞いてくれました。あの二人は差し出されたんですよ」
「……差し出された? ごめん、よく分からない」
シオリは唇を軽く舐め、残酷に笑った。
「ユキさんと瞳子を殴った、あの二人組の男ですよ」
「…………え?」
瞳子を殴った酷薄そうなガテン系の黒髪の男と、ぼくの額に大きな傷を付けた金髪の男。
「岡田も望月も、今頃どうしてるだろうなぁ。あ?」
「……」
カナメは口を閉ざして答えない。このやり取りはシオリに分がある。そしてヨシカワは知らないけど、双子とあの二人組の男の事は知っている。双子は……
「……カナメ。双子は、今何処でどうしてるの?」
「……」
気まずそうに俯いて答えないカナメの様子を見て、シオリが嘲笑った。
「今頃は、ボロクソに
「……え?」
「ユキさん、こいつはクズです。本当は、瞳子か私とミサキを突き出すつもりで、でも下手打って上手く行かなかったから、あの二人を差し出すしかなかったんです」
「…………」
その瞬間は、思い切り殴られたような感じがして、一瞬意識が白くなった。
ぼくだって馬鹿じゃない。
金髪に殴られたあのとき、ぼくが下がれば瞳子がどうなるか。それが怖かったから、ぼくは必死で抵抗した。
「カナメ……二人は……」
「……」
目を逸らし、気まずそうに俯いていたままのカナメの様子に、かっと頭が熱くなって、ぼくは立ち上がった。
胸がざわつく。
ぼくは優しくないし、善人でもない。でも、双子が気になる。もしかしたら瞳子が。シオリやミサキが。そう思うと……
「カナメ、双子は何処だ!」
ぼくは叫んだ。
「この馬鹿! なんて事をしたんだ!!」
カオルは言っていた。
女の身体は、そんなに雑に出来てない。男よりずっと不利だから大切にしろって口を酸っぱくして言っていた。
ぼくもそう思う。
沢山の女の子と経験したけど、初めは、皆、痛そうにしたし出血した。シュウも智もそうだったし、美里だって少し痛そうだった。
ぼくの剣幕が意外だったのか、カナメは少し惚けたように上目遣いの視線を向けてくる。
そのカナメの横っ面を、ぼくは思い切り引っ叩いた。
「……っ!」
叩いたのはぼくだ。でも、泣いてしまったのもぼくだ。
「カナメ、何をしているの、ねえ!」
情けなくて、悔しくて、怖くて、ぼくは泣いた。
もしも……瞳子が、ユキナが、ミサキが、シオリが、シュウが、カオルが……そう思うと、頭がおかしくなりそうだった。
「ゆ、ユキさん、落ち着いて……!」
「これが落ち着けるか! ふざけるな! ふざけるな!!」
ぼくは善人じゃない。でも悪人でもないつもりだ。超えちゃ行けないラインは知ってるつもり。
ぼくは誰のものにもならない。
でも、受け取ったものに対しては真摯でいたいと思う。
「行かなきゃ……」
他人事のように思えない。ここで双子を助けないぼくに、優しさを受け取る資格はない。生きている資格がない。そこまで考えて――
ぼくは、ぶっ倒れた。
酷く弱っていたところに、激しく興奮したのが原因だろう。貧血を起こした。
「――ユキさんっ!」
テーブルに頭を打ち付けそうになりそうだったのを、すんでの所でシオリに抱き留められた。
「あああ! ユキさん、ウソウソ……どうしよう……!」
シオリの胸が柔らかくて気持ちいい。行かなきゃいけないのに、いつまでもこうしていたいぐらいだ。
でも、死んだって行く。殺されたって構わない。
ぼくは女の子たちから借りている。そうじゃなきゃ、負債が増える一方だ。
ぼくは、女の子たちに大きな負債がある。
休んでいる訳にはいかなかった。