※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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第17話

 深山からメールが入った。

 

 ――今日の午前中、一緒に図書館で勉強しませんか?

 

 受験生にとって、夏休みは遊んでいていい時間じゃない。OKの返信をしておいた。

 

 恥女葛城は相変わらず電話番号を教えろとしつこい。嫌だ、と返信しておいた。でも、週末の誘いは断ることができない。

 しかも泊まりでと来た。

 ぼくは少し考えて、yesと返信した。

 

 朝早くカオルを送り出して、それと入れ替わりで父さんが帰って来た。

 

「ただいま、悠くん」

「お帰りなさい、父さん」

 

 家に入るなり、父さんは訝しむように辺りを見回した。

 

「ねえ、悠くん。昨夜、誰か泊まった?」

「うん、駄目だった?」

 

 父さんは、ぼくの敵じゃない。だから正直に話す。駄目ならやめる。それだけ。

 父さんは、考え込むように無精髭の浮いた顎を擦っている。

 

「それって、女の子とか?」

「うん、そう。よくわかったね」

「そりゃ、父さんくらいの達人になれば若い娘の気配くらい分かるよ」

 

 ぼくは噴き出した。

 

「達人って……」

「いわゆる一つのプロ? ……それって、悠くんとそういう関係ってことでいいのかなあ」

 

 ぼくとカオル……。

 

 父さんは、にこにこ笑っている。

 ぼくは反抗的な息子じゃないし、父さんは父さんだ。叱られるときもあるけど、話して分からない人じゃない。

 

「悠くんも18だもんな。そうかあ……」

 

 感心したように。ちょっと嬉しそうに。そこら辺は男同士、通じるものがある。

 ぼくの返事を待たず、父さんが言った。

 

「まぁ細かく聞かないけど、避妊はしないと駄目だぞ?」

 

 親指を立て、父さんはサムズアップして頷いた。

 無駄に男前な仕草だった。

 

◇◇

 

◇◇

 

 深山とは図書館で待ち合わせた。

 彼女は白のブラウスに紺のシックなスカート。シンプルだけど、大人っぽい深山にはよく似合う。清楚系。

 開館時間に待ち合わせ。

 

「おはよう、深山さん」

 

「おはようございます」

 

 ぺこっ、と頭を下げ、深山はずれた眼鏡の位置を直した。

 開館直後の図書館に人影は少なく、ぼくらは連れ立って2階にある閲覧スペースに向かった。

 そこは長机や二人掛けの小さなテーブルがあり、調べものをしたり、読書をしたりするのに向いたスペースだ。

 

「ここにしましょう」

 

 深山が選んだのは、窓際にある、おむすび型の小さなテーブルで二人掛けのものだ。

 ぼくは頷いた。

 

「悪くないね」

 

 にこりと微笑む深山と向かい合って座り、先ずは個人的な情報を交換する。

 得意科目、苦手科目、お互いの志望大学……色々。

 確認の結果、ぼくらの学力は同じ程度で、深山がやや上ということがわかった。

 深山が言った。

 

「御影くんは、塾とかに行ってないんですよね?」

「そういう余裕はウチにないし、基本的に、ぼくは人の多いところが苦手なんだ」

「独力ですか……。実は、結構頭いいんじゃないですか?」

「比べたことないから、分からないよ」

「人が嫌いなんですね……」

「…………」

 

 探られるのは大嫌いだ。

 思えば、深山は初対面から……それ以前のメールの段階から探る気配があった。

 ぼくは言った。

 

「さて、勉強しようか」

「少し、お話ししませんか?」

「……」

 

 ……こいつ。

 

「夏なのに、長袖なんですね」

「……」

 

 ぼくは左腕の袖を捲り、ちょっとだけ見せてやった。

 瞬間、深山は目を剥いて固まった。

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

 やっぱり深山は苦手だ。この女は、ぼくを哀れんでいる。

 

 

 

 ――先生、御影くんは可哀想です――

 

 

 

 ヘドが出る。

 上から目線の、ボランティア。

 

 冗談じゃない!

 

 言った。

 

「深山。不用意に探るんじゃない」

 

 もっとマシな女かと思っていたけど、こいつはそんなんじゃない。

 ただのおせっかいだ。

 シュウに向かって行ったときは、あんなに激しくて、あんなに――魅力的だったのに。

 

「…………」

 

 黙り込み、俯いた深山の目尻に、じわっと涙の粒が盛り上がった。

 ぼくは深山の反応を待たず、参考書や資料が並ぶブースに向かった。

 目当ての参考書を何冊かほじくり出した後は、個人の閲覧席で一人で勉強した。

 

◇◇

 

 最初のうちはカリカリして、なかなか捗らなかったけど、ほぼ無音でエアコンの効いた環境は悪くない。徐々に調子が上がって来た。

 気に入った。

 今度は一人で来よう。

 

 途中、席を立ち、エントランスホールの自販機でスポーツドリンクを買った。

 窓際の閲覧席に視線を飛ばすと、深山は悲しそうな表情で、ずっと俯いたままだった。

 

 ――つまらない女。

 

 かっきり12時で席を立ち、積み上がった参考書の山を元のブースに返却する。

 受験勉強は長くやればいいってもんじゃない。だらだらやるくらいなら、しっかり休んだ方がいい。

 何事もメリハリが大事。

 やるならヤる。やらないならヤらない。

 

 昼食は家で父さんと摂ろう。

 

 深山はインターハイを控え、午後練の予定。

 ぼくは荷物を抱え、飲みかけのスポーツドリンクを持って深山の元へ向かった。

 この関係もここが潮時。

 帰り支度を済ませ、やって来たぼくと目が合った。

 読み掛けの参考書を伏せ、深山が腰を浮かせる。

 

「御影くん、今日は――」

 

 ぼくは黙ったまま、飲みかけのスポーツドリンクを深山の頭にぶっかけた。

 

「…………」

 

 髪の毛から夥しい量の水滴を滴らせ、初めてぼくを見たように驚き、言葉もない深山に言った。

 

「おまえは退屈な女だね」

 

 シュウとやりあった時のように、もっと本気でおいでよ。そうしたら、今度は本気で遊んであげるから。

 

「遊び相手は他で探すんだ。この――」

 

 素の表情で固まる深山は、本当に滑稽で、ぼくは思わず笑ってしまう。

 

「――この、小銭女」

 

 ペットボトルを放り捨て、テーブルの上に、これまでに深山から貰った小銭を全てぶちまけた。

 

 じゃらん、じゃらんと音がして、大小様々な硬貨が散らばる。

 

 ボランティアはお断りだよ――。

 

「サヨウナラ」

 

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