ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
「……うん、今晩は自分の家でちゃんと寝て。……何言ってんの、カオル、夏休みになってから、一日も家に帰ってないじゃん……大丈夫? そんな訳ないでしょ。……なら、ぼくがカオルの家に泊まる」
『ダメだッ! あんなバカ共のるつぼにユキを放り込める訳ないだろッ!!』
「でも、そろそろ一晩くらいは帰らないと……」
ホンの少し、困ったように言うのがポイント。
『うがっ……! ぐぅぅぅ……』
携帯電話の向こう。
カオルは暫く唸り続けていたけれど。
『……わかった……ユキの言ってることも分かるし……今日は帰る……』
がっくりとしなだれて、カオルは、まるでお葬式みたいに声のトーンを下げた。
しょうがないな……。
「明日、コンビニまで迎えに行くし」
『…………』
一泊の間があって――
『……しゃあッ! ヤバい、アタシら超ラブラブ……』
状況終了。
◇◇
◇◇
テーブルの上に携帯電話を投げ出して、ぼくは溜め息混じりに肩を撫で下ろす。
今日は一日、泊まりありで葛城とフルコース。
この前の資料室では失態だったことを思い出し、ぼくはもう一度溜め息を吐く。
(葛城の膣に出しちゃったもんな……)
念のために薬を持ってなかったら大変なことになるところだった。
そこまで考えたとき、携帯に着信があった。
掛けて来たのは――
――深山楓――
あれから5日ほど連絡がなかったから、終わったと思っていたけど、もう立ち直ったんだろうか。
ぼくは一度携帯の電源を切り、深山を着信拒否に設定した。
「小銭稼ぎするほど暇じゃないんだ。残念だったね」
今は葛城に集中したい。もう一日、後か先なら電話に出たかもしれない。
これも運命。
メールも、きっちりブロックする。未練がましいのは嫌いだ。これでもう深山のことを考えないで済むと思うと、清々しい気持ちすらする。
――バイバイ、小銭女。
◇◇
寝ている父さんに、ご飯はいらないと書き置きをしたため、お昼前に家を出た。
ぼくは少し考え、葛城に電話を掛けることにした。
普通ならメールの一つも入れてから電話するところだけど、クソ度胸の葛城には必要ないだろう。
登録だけしてあった番号に電話する。
『はい、葛城』
ホントにすぐ出た!
「あ、葛城? 御影だけど……」
『…………』
「今、家出たんで、それだけ。30分くらいで着くから、じゃあね」
『ウソっ! みか――』
携帯の電源を切った。
これで葛城にも電話番号を知られてしまった訳だけど、特に問題ない。彼女の重要性を考えれば、むしろ遅すぎるくらいだ。
葛城の家は、街の中央部にある大きな駅を挟んで向こうにある。
取り合えず繁華街の方へ自転車を走らせる。商店街を抜け、大通りに出て、後はひたすら北に向かった。
既に住所は分かっているので、携帯のナビを頼りに進む。
「あった……」
閑静な住宅地の奥にある白い一軒家。『葛城』の標札が掛かっている。
家格はミドルアッパーといったところ。これからは、ちょくちょく来ることになるだろう。
そんなことを考えながら門戸を抜け、玄関のインターホンを鳴らした。
ドアの奥から駆ける音がして、扉が開いたとき。
――あの下級生の子は、すごく悪い子です――
何故か、深山の言葉を思い出した。
「御影さんっ、いらっしゃいませっ!」
満面の笑みで飛び出して来た葛城が、ぼくの顔を見るなり抱き付いてくる。
「電話、ありがとうございましたっ!」
「いいよ」
実は比較的簡単に教えていることは黙っておく。
葛城はスパッツにタンクトップというラフな格好だ。猫のようにぱっちりとした瞳は黒曜石。ご機嫌で言った。
「ヨシコさんには、ご飯作ったあと上がってもらったんで、二人きりですよ!」
「ヨシコさん?」
「ヨシコさんはヨシコさんです!」
よく分からない返事をする葛城に促され、家の奥に進む。
システムキッチンと繋がった広いリビングに、二人分の食事が用意されてあった。
葛城は……生意気だけど、ぼくに良くしてくれる。それは初対面の時から変わらない。
「葛城、ありがとう」
「……はい」
後ろに手を組んだ姿勢で、葛城は照れ臭そうに笑った。
言った。
「葛城は、ぼくのことが好きなの?」
「す、ストレートですね……」
「ごめんね。実はぼく、そういうの、よく分からないんだ」
「……はい」
頷いた葛城は、何故か嬉しそうだった。
「御影さんは、綺麗なんですよ」
「ぼくが? とても汚れていると思うけど……」
葛城は首を振った。
「……部室に来た頃の御影さん、全然、笑いませんでした。でも新城センパイは浮かれていて……」
「……」
「御影さんが好きで売ってるんじゃないって、みんな知ってます」
「……そう見えるんだ」
「はい。どうしようもない事情があるんじゃないかって……」
ぼくは首を振った。
「自分を切り売りしてる馬鹿なだけだよ」
「……だから、あなたは綺麗なんですよ」
「ごめん、よく分かんない」
「キスしますよ」
唐突に、葛城が唇を重ねて来る。
このとき交わしたキスは、何故か、嫌な気分がしなかった。