※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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カオル

「ありがとうございましたー!」

 

 カオルは口角を持ち上げ、にっこり笑った。

 

◇◇

 

 コンビニの仕事内容はレジ打ちだけではない。

 品だし。宅急便、メール便。荷物の受け取り。

 公共料金代行収納。携帯、スマホの料金代行収納。ATM 、コピー機等の取り扱い。

 切手や収入印紙の販売。

 おでん等の仕込みや焼鳥、中華まんの調理。

 

 他にも上げればきりがない。カオルが楽をしたのは、煙草の銘柄を覚えることだけだ。

 たかがコンビニとなめて掛かったカオルだが、アルバイトを始めて3週間、到底一人前とはいえない状況だ。

 

「カオルちゃん、レジ打ちいいから駐車場の掃除してきてよ」

「あ、はい」

 

 叔父が店長でなかったら、カオルは三回は辞めて帰ったという自信がある。

 それなりに面識のある関係だったからこそ、厳しい指導にも何とか我慢できた。

 思い出したように、店長が言った。

 

「あ、裏の勝手口もお願い」

「了解」

 

 カウンターから箒とチリトリを引っ張りだし、表の駐車場に向かう。

 山盛りになった灰皿を掃除しようとしたところで、長い影法師が差し、ん? とそちらに視線を向ける。

 

 オフショルダーのトップスに、ひらひらしたガウチョパンツ。踵の高いパンプスを履いて――秋月蛍(アキツキ ケイ)。

 

「へぇ……」

 

 カオルは、感心したように眉を釣り上げた。

 

「キメてるじゃん」

 

 蛍の格好は、何処から見ても『こっち側』。濃い目のファンデーションにきつめのアイライン。血のように紅いルージュを引いて。

 蛍は、眉間に険しい皺を寄せている。

 

「裏で待つ」

 

 短く言って、蛍は踵を返した。

 

 あの高身長で外連味(けれんみ)もなくヒールの高いパンプスを履いている。美人であるし、注目は集めるだろうが、男は尻込みして寄り付かないだろう。

 カオルには真似出来そうにない。

 鼻を鳴らして言った。

 

「カッコいいね」

 

◇◇

 

 勝手口のある細い路地裏で、蛍は煙草を燻らせて待っていた。

 

 カオルは腕時計をチラリ。

 仕事が終わるまであと一時間を切っている。早めに片付けないと、蛍と悠希が鉢合わせる危険があった。

 

 蛍が煙草を勧めて来る。

 今日はケンカしに来た訳じゃないという意思表示だ。

 カオルもそういうつもりはない。素直に受け取った。

 

「…………」

 

 紫煙を吐き出しながら、カオルは壁にもたれ掛かった。

 

「メンソールなかったの? 匂い、ユキが嫌がるから変えたんだ」

 

 蛍の眉間に寄った皺が深くなる。言った。

 

「口を慎め、この泥棒が」

 

 カオルは、くつくつと笑った。

 学校での蛍とは別人だ。でもこれがA特待の優等生の仮面を脱ぎ捨てた素顔。

 

 ――欲しいものは、力ずくでも。

 

 やっと視線が並んだ。そう思うと、こんなに愉快なことはない。だが、口に出してはこう言った。

 

「アタシはケンカしないんだ。そういうことしたいなら、バイト中だから帰ってくれない?」

 

「…………」

 

 蛍は舌打ちして黙り込む。

 対するカオルは満面の笑顔だ。

 

「アタシは女だから、ケンカしないでいいってユキが言ったんだ。そんなこと言われたの、始めてだった」

 

「……」

 

「オマエのことが心底キライだよ。でも、オマエだけがアタシの気持ちを理解できる」

 

 馨と蛍。二人の共通点は無視できないほど多すぎる。

 蛍の顔が苦しそうに歪んだ。

 

「……やめてくれないか。今日はそういう話に来たんじゃない」

 

 カオルは笑みを浮かべたまま腕組みして、もう一口煙草を吸った。

 蛍もそれに倣う。

 一息吐いて、それから言った。

 

「御影のことについて聞きたい」

 

 カオルは本当に可笑しそうに笑った。

 

「そうだよな。オマエはアタシに聞くしかないんだ。わかってたよ」

 

 修学旅行に始まり、幾つもの学校行事。昼食、休み時間。授業の間にも積み重なる思い出。

 カオルが指をくわえて見ているしかなかった二人の時間のなんと多いことか。

 

「ユキのことに関しては言えない。べらべら喋っていいことじゃないからな」

 

 攻守交代。今度は蛍が見ている時間だ。――最後まで。

 

「どんどんユルくなるよ。ほとんど毎日ヤってる。お金もいらないってさ」

 

「……!!」

 

 迸る悪意の奔流を受け、蛍の顔色は真っ青になった。唇は赫怒にぶるぶると震え、壮絶なまでの憎悪を表現している。

 だがそれでも――

 

「……頼む。御影のことを教えてほしい。何をどう間違えてしまったのか、私には分からないんだ……」

 

 カオルは残酷に言った。

 

「知るか、よくもユキを殴りやがったな。許せるかよ」

 

 許せない。

 秋月蛍が許せない。

 ルールを破っておきながら、尚も悠希が気にかける秋月蛍という女が許せない。

 

 

 シュウ……ごめんね……

 

 

 その親しげな呼称も許せない。

 カオルは思う。

 ルールを破ったのがカオルなら、あっさり捨てられたろう。

 妬ましい。

 カオルはどうしようもなく愛しているのに。

 自信がない。蛍との間の差が、それほどあると思えない。肌を重ねても、熱が冷めれば不安になる。

 

 最後に言った。

 

「オマエみたいな女は、地虫みたいに地べた這いずり回ってりゃいいんだ」

 

 




短いので12時にもう一話投稿します。
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