ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
晩御飯が終わり、その後の洗い物はトウコと一緒にした。
ぼくが洗う。トウコが拭く。
「……今日は、素晴らしい一日です」
「そう」
シンクの水を流しっぱなしにしたまま、ぼくはトウコにキスをした。
なんとなく、そうする方がいいような気がしたから。
トウコは少し驚いて、でも嬉しそうにキスを受け入れた。
◇◇
◇◇
洗い物が終わったあと、リビングでトウコが土下座した。
「……今度はなに?」
トウコには、何をするか分からないところがある。
シュウの顔にジュースをぶっかけたり、カオルが怖い癖に、ぼくに手を出したり。深山を挑発したり、下着姿で警察に捕まったり。
そんなトウコが突然土下座したからといって、ぼくは特に驚かなかった。
「そろそろ、お風呂に入ろうか」
土下座したままのトウコが、ビクッと震えた。
「悠希さん、その事でお話があります」
「うん……」
やれやれ、とぼくは向き直る。
トウコと居るのは、凄く疲れる。何をするか分からないし、はしゃぐし、エッチをするのもカオルの倍は疲れる。
……最後のは何故か分からないけど。
トウコの土下座は、ぴしっとして、何だか胴に入っている。慣れてるのかもしれない。
(謝男(シャーマン)直伝……?)
トウコが言った。
「悠希さん、自分とお風呂に入って下さい。お願いします」
「うん、いいよ」
「……へ? いいんですか?」
トウコは顔を上げ、意外そうに言った。
「あの、お風呂って裸で入るんですよ?」
「それくらい知ってるよ。馬鹿だね、トウコは」
今日は泊まりでフルコース。分かっていたことだ。
でも、やっぱりセックスって不思議。繋がった後だと、あんまり怖くない。見せても大丈夫な気がする。
トウコが、また深々と頭を下げた。
「自分、以前に覗きやらかしたんで、悠希さんの傷のことは知ってます」
「……あれ? そうだったんだ」
まあ、トウコのやりそうなことだ。ぼくは驚かなかった。
「申し訳ありませんでした!」
分かっていてぼくに手を出すんだから、トウコも本当に物好きだと思う。
でも、本当にセックスって不思議。
深山のときは、少し見られただけであんなに気分が悪くなったのに。
……やばい。ぼくって、好き者の素質があるのかも。
「いいよ、もう。早くお風呂に入ろう」
「…………」
トウコは眉を寄せ、ちょっとムッとした表情になった。
「……悠希さん、ちょっとユルくないですか? 簡単に許さないで下さいよ」
「あ……そう、かも……」
カオルもそうたけど、ぼくはエッチした相手に、無意識の内に気を許しているのかも。
深山や……シュウとも、エッチしたら変わるんだろうか……。
そんなことを考えた。
◇◇
◇◇
葛城邸のお風呂は、間取りの広いシステムバスで、ジャグジーが付いていた。
トウコが照明を少し落としてしまったので、浴室内は薄暗い。
背後で、トウコが息を飲む音が聞こえた。
「こ、これって……」
トウコは瞬きすら忘れ、裸のぼくに見入っている。
「こんなの……こんなのって……!」
たちまち、トウコの黒曜石の瞳に涙が溢れる。
ぼくは、ソッと指先でトウコの唇に触れた。それ以上はNGの合図。
同情されたくもないし、詮索もされたくない。
「す、すみません! 取り乱しました……」
トウコは、ぐしぐしと手で涙を拭って、それから鼻を啜った。
ぼくの意思を汲んでくれたのか、それ以上に傷を気にする素振りを見せることはなかった。
お風呂の中でトウコは、ぼくに触れることもなければ、求めて来ることもなかった。
やらしいことされると思ってたから、ちょっと意外。
トウコがおずおずと、機嫌を伺うようにぼくを覗き込んで来る。
「その、悠希さん。新城センパイとは……一緒に、お風呂入ったりしてるんですか……?」
「いいや。カオルは、ぼくとお風呂に入らないよ」
誘えば一緒に入ってくれるだろうけど、まだやってない。おそらく、それは『ルール』に関係してる。
誘ったら、カオルは喜んでくれるだろうか?
ぎゅっ、とトウコの眉が寄った。
「自分が一番最初なのは嬉しいですけど……やっぱり、悠希さんはユルいとこあります。寝てる女だからって、油断しないで下さい」
「あ……うん、気を付ける……」
トウコの言うことは正しい。ぼくは素直に頷いた。
「……新城センパイには、もっとユルいんですか?」
トウコはちょっと怒っているみたいだった。
「気付かない内に、色々やらされてるかもしれません。しっかりして下さい」
大変だ。トウコなんかに説教されてしまった。