ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
朝になり、青白い朝陽が窓越しに射して来る。
よく眠っているトウコの栗色の髪を陽光が透過して、金色に輝いていた。
トウコの髪は、細く柔らか。ボーイッシュな短い髪の毛が少し乱れていて、昨夜の情事を連想させる。
朝陽を受け、トウコの瞼がひくひくと動いた。
ゆっくりと目が開く。
「…………」
「おはようさん」
シーツにくるまったトウコの裸身を撫でる。
「……悠希さん、寝なかったんですか?」
「今、起きたとこだよ」
ウソ。すぐ帰って家の布団で寝直したい。
その後は、キッチンでシリアルとトーストの簡素な朝食を作った。少し寂しい感じがしたので、昨夜のサラダも小皿に盛って出しておく。
トウコは、やっぱりはしゃいでいた。
誰かが泊まるのは始めてらしい。
「お父さんとお母さんは?」
「えっと……」
この質問に、トウコはあからさまに目を泳がせた。
「ごめん、答えなくていいよ」
「あ、いえ……ちょっと説明が面倒なだけで、隠すようなことでもないんです」
「でも、自分から言って回るようなことでもない。食べよう?」
トウコは軽く息を吐いて、少し微笑んだあと、食事に戻った。
淡々と食事が進む。
時刻はまだ7時前。なんとなく手持ち無沙汰になり、テレビの電源を入れる。
トウコが、ぽつりと言った。
「悠希さんは、こういうことしてていい人じゃないと思います」
ぼくは聞こえないふりをした。
――お前に言われたくないんだよ。
今日は快晴。
雲一つない洗濯日和になるでしょう。
◇◇
トウコの家を出て、目覚め始めた街の中を抜けて行く。
人影はまばら。朝の喧騒までは、まだ少し時間がある。
父さんより早く帰って、少しでいいから寝直したい。そんなことを考えながら、大通りに出る。
開店準備前のスーパーや薬局、定食屋の並ぶ商店街を抜けて――
「あ、少年ビッチじゃん」
ぼくは自転車を止め、声のした方に振り返った。
「おっす。少年ビッチ」
どこかで見た顔だったけど、思い出せない。
身長は165cmくらい。ショートパンツに、上はシンプルなトップス。何より目を引くのは、抜けるような白い髪の毛。――白髪。
「だれ?」
その問いに、がくっと膝を折りながら、白髪の娘が答える。
「あたしだよ、皆川」
皆川優樹菜。ヤンキーどもはパッパラパーのパー子って呼んでいる。陸上部の部室で何度か見た顔。たまに口を利くくらい。ぼくと同い年で、カオルとは――どうなんだろう、喋っているのを見たことない。
「ああ……パー子か。少し見ない間に、すっかり老けたね……」
パー子は、へらへらと嬉しそうに笑った。
「パー子って言うんじゃねーよ。この頭も、夏休みだから気合い入れてるだけだっつの」
「そう」
興味なかった。
「んで、少年ビッチは朝帰りなんだ?」
「そんなとこ」
「相変わらず売ってんの?」
「そっちは、ぼちぼち」
「新城以外に売っていいの?」
――ユキの客はアタシ一人でいいんだ。
「相変わらず、2000円?」
――自分も新城センパイと一緒で、悠希さんはもう、客取らない方がいいと思います。
ぼくは、にっこり笑った。
「今から、する?」
要するに。
今日はそういう一日だってこと。
ホント、そんだけ。
◇◇
◇◇
父さんより先に家に帰った。
真っ直ぐ浴室に向かう。
熱いシャワーに身体を打たせながら、壁に背を凭れ掛けた。
未だに残る。絡み付くような、女の匂い――。
――悠希さんは、こういうことしてていい人じゃないと思います 。
皆川とは24時間営業のネットカフェで別れた。そのまま寝るんだと言っていた。
プチ家出中らしい。
「――ったく」
カオルのことは、なるべく考えないように、した。
その後は、少しでもいいから眠ることにして布団に入った。
夏休み中だし、父さんは起こさないだろう。
昼過ぎまで寝て、それから図書館に行きたい。午後からなら深山と鉢合わせになることもない。
ぼくの受験は、そんなに大変じゃないけど、今の水準を保たないといけない。それから……
……
…………
………………
……………………
…………………………
眠気に霞む意識の向こうに、父さんの顔があった。
目尻に小皺が寄っていて、髪の毛にも白いものが目立つようになっている。
この何年かで、すっかり老け込んでしまった。皆川とは違う、はったりじゃない白髪頭。
もう、還暦が近い、ぼくのお父さん。
もっと、もっともっと……ぼくが頑張らないと……この人は、きっと無理をしてしまうから……ぼくは……
◇◇
◇◇
目を覚ますと、心配そうな父さんの顔があった。
「悠くん、大丈夫? 熱はないみたいだけど、酷い顔色だよ?」
「うん、平気。エアコンで少し寝冷えしたのかも」
壁に掛けてある時計を見ると、もう15時になろうとしていた。
寝過ごした。
ぼくは軽く息を吐く。自分で思っていたより、ずっと疲れていたようだ。
父さんが言った。
「なあ、悠くん。ちょっと父さんの方、見て」
「ん……」
真剣な表情の父さんと見つめ合う。
「……ひょっとして、昔の夢とか、見た……?」
「夢は見ないよ」
「そっか、悠くん、夢は見ないか……」
父さんは鼻を啜って、ぼくから目を反らしてしまった。
「そっか……そっかあ……」
「…………」
カオルを、迎えに行く準備をしないといけない。