※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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第24話

 朝になり、青白い朝陽が窓越しに射して来る。

 よく眠っているトウコの栗色の髪を陽光が透過して、金色に輝いていた。

 トウコの髪は、細く柔らか。ボーイッシュな短い髪の毛が少し乱れていて、昨夜の情事を連想させる。

 朝陽を受け、トウコの瞼がひくひくと動いた。

 ゆっくりと目が開く。

 

「…………」

 

「おはようさん」

 

 シーツにくるまったトウコの裸身を撫でる。

 

「……悠希さん、寝なかったんですか?」

「今、起きたとこだよ」

 

 ウソ。すぐ帰って家の布団で寝直したい。

 

 その後は、キッチンでシリアルとトーストの簡素な朝食を作った。少し寂しい感じがしたので、昨夜のサラダも小皿に盛って出しておく。

 

 トウコは、やっぱりはしゃいでいた。

 誰かが泊まるのは始めてらしい。

 

「お父さんとお母さんは?」

「えっと……」

 

 この質問に、トウコはあからさまに目を泳がせた。

 

「ごめん、答えなくていいよ」

「あ、いえ……ちょっと説明が面倒なだけで、隠すようなことでもないんです」

「でも、自分から言って回るようなことでもない。食べよう?」

 

 トウコは軽く息を吐いて、少し微笑んだあと、食事に戻った。

 淡々と食事が進む。

 時刻はまだ7時前。なんとなく手持ち無沙汰になり、テレビの電源を入れる。

 トウコが、ぽつりと言った。

 

「悠希さんは、こういうことしてていい人じゃないと思います」

 

 ぼくは聞こえないふりをした。

 

 ――お前に言われたくないんだよ。

 

 今日は快晴。

 雲一つない洗濯日和になるでしょう。

 

◇◇

 

 トウコの家を出て、目覚め始めた街の中を抜けて行く。

 人影はまばら。朝の喧騒までは、まだ少し時間がある。

 父さんより早く帰って、少しでいいから寝直したい。そんなことを考えながら、大通りに出る。

 開店準備前のスーパーや薬局、定食屋の並ぶ商店街を抜けて――

 

「あ、少年ビッチじゃん」

 

 ぼくは自転車を止め、声のした方に振り返った。

 

「おっす。少年ビッチ」

 

 どこかで見た顔だったけど、思い出せない。

 身長は165cmくらい。ショートパンツに、上はシンプルなトップス。何より目を引くのは、抜けるような白い髪の毛。――白髪。

 

「だれ?」

 

 その問いに、がくっと膝を折りながら、白髪の娘が答える。

 

「あたしだよ、皆川」

 

 皆川優樹菜。ヤンキーどもはパッパラパーのパー子って呼んでいる。陸上部の部室で何度か見た顔。たまに口を利くくらい。ぼくと同い年で、カオルとは――どうなんだろう、喋っているのを見たことない。

 

「ああ……パー子か。少し見ない間に、すっかり老けたね……」

 

 パー子は、へらへらと嬉しそうに笑った。

 

「パー子って言うんじゃねーよ。この頭も、夏休みだから気合い入れてるだけだっつの」

「そう」

 

 興味なかった。

 

「んで、少年ビッチは朝帰りなんだ?」

「そんなとこ」

「相変わらず売ってんの?」

「そっちは、ぼちぼち」

「新城以外に売っていいの?」

 

 ――ユキの客はアタシ一人でいいんだ。

 

「相変わらず、2000円?」

 

 ――自分も新城センパイと一緒で、悠希さんはもう、客取らない方がいいと思います。

 

 ぼくは、にっこり笑った。

 

「今から、する?」

 

 要するに。

 今日はそういう一日だってこと。

 ホント、そんだけ。

 

◇◇

◇◇

 

 父さんより先に家に帰った。

 真っ直ぐ浴室に向かう。

 熱いシャワーに身体を打たせながら、壁に背を凭れ掛けた。

 未だに残る。絡み付くような、女の匂い――。

 

 

 ――悠希さんは、こういうことしてていい人じゃないと思います 。

 

 

 皆川とは24時間営業のネットカフェで別れた。そのまま寝るんだと言っていた。

 プチ家出中らしい。

 

「――ったく」

 

 カオルのことは、なるべく考えないように、した。

 

 その後は、少しでもいいから眠ることにして布団に入った。

 夏休み中だし、父さんは起こさないだろう。

 昼過ぎまで寝て、それから図書館に行きたい。午後からなら深山と鉢合わせになることもない。

 ぼくの受験は、そんなに大変じゃないけど、今の水準を保たないといけない。それから……

 

 ……

 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………

 

 眠気に霞む意識の向こうに、父さんの顔があった。

 目尻に小皺が寄っていて、髪の毛にも白いものが目立つようになっている。

 

 この何年かで、すっかり老け込んでしまった。皆川とは違う、はったりじゃない白髪頭。

 もう、還暦が近い、ぼくのお父さん。

 

 もっと、もっともっと……ぼくが頑張らないと……この人は、きっと無理をしてしまうから……ぼくは……

 

◇◇

◇◇

 

 目を覚ますと、心配そうな父さんの顔があった。

 

「悠くん、大丈夫? 熱はないみたいだけど、酷い顔色だよ?」

「うん、平気。エアコンで少し寝冷えしたのかも」

 

 壁に掛けてある時計を見ると、もう15時になろうとしていた。

 寝過ごした。

 ぼくは軽く息を吐く。自分で思っていたより、ずっと疲れていたようだ。

 父さんが言った。

 

「なあ、悠くん。ちょっと父さんの方、見て」

「ん……」

 

 真剣な表情の父さんと見つめ合う。

 

「……ひょっとして、昔の夢とか、見た……?」

 

「夢は見ないよ」

 

「そっか、悠くん、夢は見ないか……」

 

 父さんは鼻を啜って、ぼくから目を反らしてしまった。

 

「そっか……そっかあ……」

 

「…………」

 

 カオルを、迎えに行く準備をしないといけない。

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