※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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第30話

 ラボラトリーで深山をやっつけたあと、ぼくは個人の閲覧スペースに戻った。

 

 エアコンが利いていて、静かなこの環境は悪くない。参考書や問題集の類いも揃っている。

 12時まで受験勉強をしたあと、携帯をチェックすると、皆川からメールが入っている。

 昼過ぎからカラオケボックスで会えないか、という誘いのメールだった。

 カオルからはラブメール。

 トウコからは昼食の誘い。

 

 ぼくは少し考えて、皆川の誘いに乗ることにした。

 トウコの誘いには明日ならOKと返信。

 カオルには……

 カオルには…………

 

 カオルには、なんて返信したらいいんだろう?

 

 ――ユキ、愛してるよ!

 

 ぼくも同じように返すべきなのだろうか……。

 どうしたらいいんだろう。

 

「…………」

 

 考え込んでいると、突然、マナーモードの携帯が震え、ぼくは携帯を落としてしまいそうになった。

 カオルからの着信。出る。

 

『あ、ユキ? 今どこ?』

 

 ぼくは小さく溜め息を吐く。

 

「今、図書館。受験勉強してたとこ」

『そっか。あのさ、明日のことなんだけど……』

「ああ、うん。泊まりに来るでしょ?」

『いや、うん、そうなんだけどさ……外泊ダメかな~~っと思ってさ』

「いいよ? それだけ?」

 

 今更、何を改まって……ぼくが呆れていると、カオルは少し怒り出した。

 

『……んだよ! そうだよ! 緊張してたアタシの時間を返せ!!』

 

「あはは、はいはい」

 

 ……

 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………

 

 通話を切り、ぼくは一つ息を吐く。

 視線を流した先にあるガラスに映った、笑顔のぼくと目が合った。

 

◇◇

◇◇

 

 皆川のいるカラオケボックスは、商店街の外れにある。

 この皆川をどうにかして、友人を紹介してもらう。……というより、紹介させる。

 そして搾り取れるヤツからは容赦なく搾り取る。

 

 

 このときのぼくは、何一つ分かっちゃいなかった。

 皆川優樹菜が、何で『パッパラパー』って呼ばれているか、てんで理解していなかった。

 

 

 通りから少し逸れた大きな駐車場に、キャンピングカーが何台も並んでいる。

 

 一本メールを入れてから、皆川がいる8号車に向かった。

 

 扉を開けてすぐ、そのカラオケボックスは、ぼくの目に新鮮に映った。

 キャンピングカーは防音設備がなされ、車中にカラオケ機材が置かれている。

 いい環境だと思った。

 受付は別の場所にあるので、相手に任せれば余計な人に会うこともないし、車中は外から窺えないよう窓にスモークが貼ってある。

 

 そして――

 ぼくはとんでもない失敗をしでかしたことを悟った。

 

 ハードロックのメロディが鳴り響く奥の座席で、皆川がゲタゲタ笑いながら手拍子を打っている。

 一昨日と同じ格好なのも不潔で苛ついたけど、それより更に不快だったのは、皆川の横にいる金髪の女だ。

 知り合いがいること自体はいい。それだけなら、ぼくはチャンスと考える。

 しかし――

 その女は、ぼくの目に、やけにハイになっているように見えた。

 一発で分かった。

 

 ――躁状態。

 

 ドラッグだ!!

 

 皆川が陽気に笑いながら、ぼくに手招きしている。

 

「おー、少年ビッチ! こっちこっち!!」

 

 ぼくは目をすがめ、金髪の女を観察する。

 

 髪の毛を振り乱し、大声で歌い、踊り狂うさまは異様だった。はしゃぐにしても少し――かなり度が過ぎている。デカイだけの歌声は、音程が殆ど外れている。

 一番、気になるのは、目付きだ。薄暗い車中で、瞳孔が開いているように見えた。

 

 皆川が、ぼくの側までやって来た。

 

「どったの? 少年ビッチ。早くおいでよ」

 

「――嫌だ」

 

 ぼくは皆川の手を掴んで車外に引っ張り出した。

 

「なになに!?」

 

 皆川が後ろ手に扉を閉め、メロディが遠くなる。

 ぼくは、皆川の耳元で囁いた。

 

「あの女の子、誰?」

 

 皆川は笑いながら言った。

 

「名前? 知らねっつの。ゲーセンで会っただけ。すっげえノリよくてさぁ」

 

 昔、病院であれと同じ症状の患者を見たことがある。でも、パッパラパーの皆川は、そうは見えない。ドラッグはやってない。

 警告を発する。

 

「あの子、ドラッグやってる」

「――え?」

 

 ヘラヘラ笑っていた皆川の表情が素に戻った。やっぱり気付いてなかった。

 

「ぼくは帰るから。パー子も早く逃げな」

「……って、マジ?」

「マジ。それじゃ」

 

 ぼくは小走りで逃げ出した。

 パッパラパーの皆川がその後を尾けてくる。

 

「――じゃあさ、今夜パーティーに誘われてんだけど行かない方がいい!?」

 

 走りながら答えた。

 

「それって乱交パーティーとか!? 好きにしなよ! バイバイ、パー子!」

 

 ぼくはスピードを上げて、そのまま皆川を振り切った。

 敷地外に停めてあった自転車に飛び乗ってそのまま走り去る。後ろは見なかった。

 

 馬鹿やってりゃ、こんなこともある。そう思った。逃げ切ったとも。関係ないとも。

 このときは、パッパラパーの皆川が、あんな事件に巻き込まれるなんて思いもしなかった。

 

◇◇

 

◇◇

 

◇◇

 

 夜。

 家の近所の回転寿司屋でのことだ。

 テーブルの座席に向かい合って座り、久し振りのお寿司に舌鼓を打つぼくらだけど、父さんの様子がなんだかおかしい。

 考え込むように顎を擦り、ぼくを訝しむように見ている。言った。

 

「なあ、悠くん。ちょっと、聞いていいかな……?」

「いいけど、なに?」

 

 悪いことってのは続く。ぼくは嫌な胸騒ぎがした。

 

「……悠くんって、二人彼女いるの?」

「え?」

 

 稲妻に撃たれたみたいにカオルの顔が頭に浮かんだぼくだけど、父さんのその言葉にハッとなった。

 

「二人? なんで?」

 

 心臓が嫌な鼓動を打つ。

 じわっと額に汗が吹き出る。

 普段、賑やかで明るい父さんだけど、決して馬鹿じゃないし、鈍感でもない。

 

「いや……そうじゃないと辻褄が合わない気がしてさ……んん……」

 

「…………」

 

 カラオケボックスで別れた皆川のことは頭から吹き飛んで消えた。

 

「……あ、そういうことなのか? でも……」

 

 父さんは頻りに首を捻って考え込んでいる。

 思った。

 

 誰だ……。

 ぼくの留守中に父さんに会ったバカ女は、誰だ……!!

 

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