※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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第32話

 早朝、皆川からメールが一件入っていた。

 着信時間は午前4時。今は6時だから、既に2時間経っていることになる。

 

 ――昨日はマジ助かった。ありがと! 今から会える?

 

 しかし、パッパラパーの皆川は常識がない。朝の4時に誘って、ぼくがのこのこ行くとでも思っているのだろうか。

 後でフォローのメールをすることにして、無視することにした。皆川の方でも期待してないだろう。

 

 今朝はカオルに、行ってらっしゃいのメールをして、それから父さんと朝食を摂った。

 

「悠くん、今日も図書館?」

「そのつもり」

 

 あれだけ惨めな思いをさせてやれば、お節介の深山も、ぼくを見離すだろう。嫌悪されるくらいで丁度いい。

 ぼくと彼女は違いすぎる。

 だから、お互い別の道に行く。それだけ。

 

◇◇

◇◇

 

 リュックサックに荷物をまとめ、自転車に乗って図書館に向かう。

 そして――

 図書館の正面玄関に、今朝も深山楓が立っていた。

 

 今日の深山は学生服。半袖のブラウスに、学校指定の紺のスカートを履いている。

 そしてやっぱり、あっちキョロキョロ、こっちキョロキョロ。時計を見たり、眼鏡を直したりと忙しない。

 

 深山は布に包んだ竹刀を肩に掛けている。

 図書館で勉強した後、そのまま午後の練習に行くつもりだろう。でなければ、ぼくを叩きのめすつもりか。

 後者なら逃げる訳には行かない。

 ぼくは駐輪場に自転車を放り込み、堂々と正面玄関に向かって歩いた。

 

 キョロキョロとしていた深山と目が合った。

 

「おはよう、小銭女」

 

 深山は、にこっと笑って肩の竹刀を手に取った。

 

「やりなよ」

「はい」

 

 深山が頷いて布の袋から取り出したのは――

 棒状に丸めた新聞紙だった。

 

 ぼくは頭を抱えた。

 

 やられた……。

 

◇◇

 

 棒状に丸めた新聞紙を、ペコペコと指で折り曲げながら、深山は得意そうに笑みを浮かべている。

 

「あなたのことが、ちょっとだけ分かって来ました」

「…………」

「とても誇り高いんですね」

「…………」

 

 深山に思考を読まれるなんて、ぼくもまだまだだ。

 気を取り直して言った。

 

「それで、なに? また気持ちよくして欲しいの?」

「またそんな憎まれ口を……」

 

 深山は新聞紙の棒を捨て去ると、ぼくの方に歩み寄って来た。

 

「あの程度で私をどうにかしたつもりになるなんて、まだ早いんじゃないですか?」

 

 

 ――そんなことだから、あんな厄介なのに目を付けられるんですよ。

 

 

 一瞬、何故かトウコの顔を思い出した。きっと分かっていたんだと思う。

 

 目の前で、深山が身体を折ってぼくに口付けた。

 

「……!」

 

 驚き、固まるぼくの唇を割って、深山が舌を挿し込んで来る。

 この前やったのと同じやり方でぼくの口腔内を凌辱する。場所なんて関係ない。舌を絡め、大量の唾液を流し込んで侵食する。

 

 ぼくの喉が、ごくりと鳴ったのを確認してから、深山は漸く距離を取った。

 満足げに笑みすら浮かべ、口の回りを舐め取る。言った。

 

「なめないで下さいよ、御影悠希」

 

 あの深山。修羅の女。虎も逃げ出す――覚悟の女。

 

 最初から、深山に覚悟があったとすれば、あれに何の痛痒も感じないだろう。その覚悟を瞬時に固められるから、深山楓は怖い女。シュウだって逃げ出すはずだ。

 ぼくは理解した。

 

 遊ばない女が遊ぶとき、それは『本気』って言うんだ。

 

 頬を上気させた深山が、財布から千円取り出してぼくのポケットに押し込んだ。

 

「これは、あなたのです」

 

 おさわり千円。確かに言った。

 

「…………」

 

 ぼくは言葉もなく、深山の顔を見上げた。

 深山は、頬を染めながらも不思議そうに見つめ返す。

 

「意外そうにしています」

「なんで……?」

「あなたは売ると言って、私は買うと言いましたよね」

 

 確かに言った。あのシュウにすら、存在の一筋もやらないとも。

 ぽつりと呟いた。

 

「……小箱の宝石……」

「……え?」

「あなたは綺麗なんですよ」

 

 深山はトウコと同じことを言った。

 ぼくは、とてつもなく不吉な予感を覚えた。二人はまるで違うようでいて――

 

 修羅、二人。

 

 底なしの泥沼に、片足を突っ込んだ気がした。

 

「今日はこれから練習なので、もう帰ります」

「うん……」

 

 それは良かった。

 

「携帯のブロックは解除しておいて下さいね」

「……わかった」

 

 深山は眼鏡を押し上げて、おっとりとした眼差しでぼくを見つめる。

 

「明日は、2000円の方でよろしくお願いします」

「……」

 

 やっぱり、深山は苦手だ。トウコもそうだけど、この二人は、ぼくの思う通りには動かない。

 

 ぺこりと頭を下げ、踵を返す深山の背中を見送りながら、もう一人の方と昼食の約束をしていたのを思い出し、ぼくは――

 

 頭が、割れそうに痛んだ。

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