※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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第5話

 シュウを振り切ったぼくは、葛城に連れられて『奥の部屋』に向かった。

 

 葛城とよろしくヤるのでなく、新城の頼みらしい。そもそも、食堂でぼくを捕まえたのも新城の指示なんだと。

 奥の部屋で待っててほしい。狙いが見え見えなのが腹が立つ。

 

 新城……金もないのに厄介な。

 ぼくにハマり切った新城が、そのうち犯罪を犯しても、ぼくは全然不思議とは思わない。なんとかする必要がある。

 

 元陸上部室に行くと、暇なヤンキーたちが5人ほどたむろして煙草を吸っていた。

 

「よぉ、ビッチ」

 

 部室に入るなり、ご挨拶。

 

「やぁ、お邪魔するよ」

 

 ヤンキーどもとは付かず離れず。無視するのも関わるのも、ろくな結果に繋がらない。

 

「奥、誰か使ってる?」

「いんや、まだ。新城か?」

「まぁね。先に入らせてもらうけど、他の人が来たら出るから」

 

 新城がやって来るまでの間は奥の部屋で待つ。ヤンキーどもも、ぼくが煙草を嫌っているのは知ってるので、特に何も言われなかった。

 

 一人でボンヤリと考えた。

 葛城……ちょっと癖がある。自分よりも上背がある相手……シュウにもびびらない。流石は新城の取り巻きというところか。

 そして。

 新城は厄介だけど顔は利く。ここにたむろするヤンキーも、新城には一目置いている。

 それなりにやるつもりなら、多少のハッタリは利いた方がいい。女が相手なら、同じ女の新城の方が抑止力があるだろう。

 

 金を巻き上げる以外の、新城の使い道。利用価値……。

 

 そんなことを考え込んでいるとノック音がして、扉の間から葛城が顔を出した。

 

「失礼していいですか?」

「いいよ」

 

 考え事も一段落したところだった。話し相手がいるのは素直に嬉しい。

 葛城は、ぼくの為に『よいこ』を買って来てくれた。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 葛城はクスクス笑った。

 

「御影さんは、自分らの回りには居ないタイプの人ですね」

「そうなんだ」

「はい。新城センパイの相手なんて、どんなゴリラなんだろって思ってましたので」

 

 まあ、女子相手に売春する男子は珍しいだろうと思う。

 葛城がぼくの手を取った。

 

「ホント、ちみっちゃい手ですね。肌もきめ細かくて、赤ちゃんみたいです」

 

 好きでそうなった訳じゃない。そんな誉め言葉は嬉しくないけど、積極的なのは手間が省けて嬉しい。

 

「早速ですけど、今晩、会えますか?」

「……いいよ」

 

 葛城。やっぱり癖がある。新城に従順なようでいて、それでも自分のやりたいことはしっかりやる。

 危険か? 売りをやる以上、そこはキチンと見定めないと厄介なことになる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 その後、葛城は聞きもしないことをよく喋った。

 

 葛城の初体験は中学生の頃所属していたバスケ部の先輩だったらしい。

 初体験の感想は悲惨の一言に尽きた。

 葛城の処女喪失の場所は、なんと合宿所のトイレだそうだ。痛いだけで何の感慨もなく、おまけに膣に出された。その後の交渉も乱暴で、前戯なしの挿入が殆んど。

 飽きたとフラれたとき、心底ホッとしたらしい。

 それ以来、男は苦手。

 葛城は話している間に盛り上がってしまったのか、少し涙ぐんでいた。

 

「不思議です。御影さんには何でも話せます」

 

 お金の力は偉大だ。

 葛城が割り切れる理由は、金の介入で行為と感情を分けてしまえるからだ。それ以外には、ぼくの無害そうな見た目か。シュウにやったデモンストレーションがもたらした予想外の結果でもある。

 言った。

 

「大丈夫、ぼくは無理しないから。嫌になったら、すぐ止めるから言ってね?」

 

「は、はい……」

 

 瞬間、なんだか葛城の肩から力が抜けたような気がした。

 

「新城センパイ、遅いですね……」

「補習は6時までだから。後少しかかるよ」

「…………」

 

 葛城は頬を上気させてこちらを見ているが、まだぼくの『お客さん』じゃない。

 理想は、生かさず殺さず。

 ぼくはビッチだけど悪魔じゃない。資金力を見極め、そこそこに搾り取るのがベスト。

 これは新城で学んだことだ。負債がある程度を超えると、どうでもよくなってしまう。

 葛城がジリジリとにじり寄って来る。猫のようにパッチリした瞳は潤んでいて……

 

「御影、さん。キス、していいですか……?」

 

「ごめんなさい。それはNGでお願い」

 

 最初が肝心。きっぱりと断る。

 

「そんな! 新城センパイとはして――」

 

 ――そのとき。

 

 薄い木製の扉一枚を隔て、机をひっくり返したような物音が響き渡った。

 魔法が解けたように、ハッとした葛城と目が合った。

 

「見てきます!」

 

 素早く立ち上がり、葛城が扉を開いたのとほぼ同時に、一人の女子生徒が突っ込んで来た。

 女子生徒はぼくの前でつんのめるように膝を折った。

 茶髪。鼻血を垂らしているけど、この陸上部室で何度か見たことがある顔だ。

 

 続いて顔を現したのは――新城。

 顔を赤くして、激しく息を荒げている。

 激怒。それも何故かぼくを見て、更にヒートアップした。

 

「死ねや!!」

 

 新城は声を張り上げ、よろよろと立ち上がろうとした女子の尻を思い切り蹴飛ばした。

 

 ヤバい。

 これは事件になるレベルだ。新城は猛烈に興奮していて、矛を収めるつもりなんてない。女子生徒の茶髪を引っ掴み、無理矢理引き起こすと渾身の平手打ちを見舞った。

 

 元バレー部特待生のビンタ。威力は想像したくない。

 

 新城に殴打された女子がピンポン玉みたいに飛んで、ぱぱっと音を立てて血飛沫が散った。

 葛城はビビりまくり、壁に張り付いて固まっている。

 

「新城、やめるんだ!!」

 

 その制止の声に、一瞬新城は動きを停め、ぼくと視線を合わせた。

 

 くしゃくしゃ、と新城の顔が悲痛に歪んだ。それで悟った。――ぼくが関係している。

 だから止まらない。

 

「新城! もういい! もういい!!」

 

 決死の覚悟で新城に飛び付いた。

 

「うーーっ、うーーっ……!」

 

 新城はぼくを背中に張り付けたまま、獣のような呻きを上げた。

 首筋まで赤黒く染まり、全身がブルブルと緊張している。

 

「離せ! 離せええ!!」

 

 新城の中で破壊衝動とぼくの制止とが猛烈に綱引きしている。

 

「だからもういい! 葛城! ボーッとしないでその娘を何処かに連れてけ!!」

 

 ぼくが原因の暴力事件なんて冗談じゃない!

 必死で新城の頭を抱え込み、胸に押さえ付ける。殴られないと分かっていなければ出来ることじゃない。

 

「葛城!!」

 

「……!」

 

 そこで葛城の金縛りが解けた。殴り飛ばされ倒れ込んだ女子生徒に駆け寄る。

 

「早く! 早く!!」

「はいいっ! はいいいっ!!」

 

 ぼくも葛城も馬鹿みたいだけど、これ以上ないくらい大真面目だ。

 葛城が完全にのびた女子を引き摺るようにして奥の部屋から前面の部屋に移動する。

 

「扉閉めて、早く!!」

 

 それにしても葛城。お互い、このタイミングでヤグらないで本当に良かったね。

 チョロいチョロいと思ってた新城さんはこれもんだ。全力死寸前だったよ。

 

 我慢。超我慢の新城。理性と衝動がまだ綱引きを続けてるのか、ぼくにガッチリ抱き付いて嵐が過ぎるのを待ってる。

 

 そこで漸く、扉が閉じた。

 

 室内は一気に静まり返り、新城の荒い吐息だけになる。

 

 ぼくは新城を固く抱き締めて、暫く、そうしていた。

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