ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
楽しかったドライブが終わり、家に帰って来た。
父さんは、もう仕事に行っている。外泊のことも、帰りが遅くなることも説明しているので全然問題ない。
ぼくくらいの歳の男が、女の子との間に武勇伝の一つ二つなくてどうする。というのが父さんの持論なので、むしろ頑張れとすら言われた。
カオルは近所の公園に車を停めて。
「……今日も泊まって、いいよな……?」
ぼくはカオルに侵食されている。
「いいよ……今日も泊まって行って……」
カオルのは、あくまでも『お願い』だ。でも、断れない。その事実にぼくは困惑している。
すっかり陽の落ちた公園の駐車場で、ぼくとカオルはキスをした。
舌を絡め、唾液を交換して、カオルが荒い息を吐きながら、ぼくの身体をまさぐって来る。
お昼は遠くのゲレンデでバーベキューを食べた。
美味しかった。
帰りは高速道路のサービスエリアで買い物もした。
今は、真っ暗な車中で、カオルにアレを舐められている。
「カオル……家に帰ってからにして……」
カオルは答えず、ぼくの股間に顔を埋めて、ぴちゃぴちゃと音を立てて口淫に夢中になっている。
茶色の髪を撫でる。
カオルは袋の部分に舌を這わせながら、唾液にねとつくペニスを扱き、うっとりした表情で笑っていた。
携帯が鳴った。
ぼくのは電源を落としてあるから、必然的にカオルのものということになる。
カオルは着信をガン無視で、フェラに没頭している。
「カオル、鳴ってるよ?」
「んん……ちゅ……っ」
向かいの通りを、車が走り抜けて行く。
ヘッドライトの光が照らすカオルの顔は頬が紅潮していて、琥珀の瞳は目尻が下がっていた。
やれやれ、と身を起こし、ダッシュボードの上に置いてあるカオルのスマホを手に取った。発信者は――
――葛城瞳子――
その着信音は、ぼくを責めているように聞こえた。
「…………葛城からだ」
カオルは後れ毛をかき上げながら、
「ごめん……ちょっと出て……」
ついでみたいに言って、またぼくの股間に顔を埋める。
トウコからの着信は、益々怒り狂って聞こえる。出る。
「はい、カオルの携帯だけど……」
『……!!』
沈黙。
『……なんで、悠希さんが出るんですか……?』
無視。
トウコにも聞こえるように、フェラに夢中のカオルに言った。
「葛城が代わりたいって」
「出らんなぃよぉ……」
ペニスを頬張ったままのカオルの声は情欲に蕩け切っている。これは確かに出れそうにない。
「カオルは出られないから、ぼくで良ければ聞くけど……」
『……』
また沈黙。
携帯の向こうから、とてつもない怒りの波動を感じた。
トウコが、言った。
『……見つけた。新城センパイにそう伝えて下さい。それで全部分かりますから』
見つけた? 何を?
余計なことは尋ねず、情報を咀嚼しながらカオルの頭を撫でる。
「カオル? 葛城が見つけたってさ」
「……!」
カオルは真っ赤になった顔を上げ、涎まみれの口元を拭うと、ぼくからスマホを受け取った。
「トウコ? アタシだ」
凄い変化。
さっきまで色ボケてたはずなのに、もう素面に戻ってる。
「うん……うん……そうか。ソイツはアタシが――」
そこまで言ってカオルは止まり、ハッとしてぼくを見つめ、素早く抱き寄せて額にキスしてから車の外に出て行った。
ぼくに聞かれたくない内容。
車はエンジンが掛かったままになっていて、エアコンも動いているため、カオルの声は聞こえない。
こちらに背を向け、カオルは腰に手を当てた姿勢で話を続けている。
暫くして、通話を切った。
振り返ったカオルの表情は、唇の端が残忍につり上がっていて――
ぼくは、ゾッとした。
カオルは車の外で煙草を一本吸った。
ここでワンクッション置くのは、今の心理状況を多少なりとも落ち着けるためだろう。
ぼくを近付けたくない、ささくれ立った状況。
最近は、すっかり丸くなったカオルだけど、少し前までは荒れていて、運動部の連中とよくやり合っていた。
暴力的で、喧嘩っ早く、ところ構わず唾を吐く。何時だって苛々としていたカオルを思い出した。
怖い新城馨を思い出した。
◇◇
家に帰ってからのカオルは、冗談ばかり言っていた。
「……実はアタシってさ、24時間以上エッチしないと処女に戻っちゃう病気なんだ。だからこれから……」
少し呆れて、ぼくは言った。
「何を企んでいるのかしらないけど、その理屈じゃあ、今のカオルは処女じゃないから安心だね」
「ああ!」
カオルは驚いて、指折りして何やら計算している。ああ! じゃないよ。本当に馬鹿なんだから。
それから、ゆっくりして。
ぼくたちは一緒にご飯を食べて、お風呂に入る。
カオルは働いているし、外泊で疲れが溜まったのか、少し眠たそうだった。
「大丈夫、カオル? しんどそうだよ?」
カオルは、にっこり笑ってご機嫌。
「……へへ、これから一晩中でも出来るっての」
「だからさ、すぐそっちの方向に行くのやめようよ……」
バスタブの中で、カオルは長い足を組み、その間にぼくを座らせた。
こうすると一緒に入れるから、カオルのお気に入りのポーズ。
カオルは言った。
「……ユキ、ちょっと聞いていい?」
「なに、改まって」
「クロイワ トモって、知ってるか?」
黒岩智。ぼくにとっては懐かしい名前。
「ああ、うん。同じ中学校だったけど……」
「ソイツのこと、全部教えて」
「……うん、いいよ」
トモのことは別に隠すようなことじゃない。だから、ぼくは全部、喋った。
同じ中学校。父子家庭。告白されて断ったこと。それから口を利いてないこと。そして、今はもう何も思っていないこと。
ぼくにとって、黒岩智は昔のクラスメイトだった人。それだけ。
全てを話し終えたとき、カオルは意外そうな表情だった。
「……ありがと、ユキ」
「何が?」
「……いや、アタシはてっきり、嘘吐かれるって……」
「おかしなこと言うね」
都合が悪いことならともかく、無意味な嘘は言いたくない。
嘘は真実に混ぜて使う。
それが効果的な嘘の使い方。
しかし何故、今、トモの名前が……
「ああ、なるほど……葛城にそれを探らせていたのか」
「……」
カオルは湯船のお湯を掬って、ぼくの肩に掛ける。身体を冷やさないように、そういう気遣い。
少し考えて、それから言った。
「カオル……ぼくを試したの?」
これに、カオルは反応した。ビクッと震えた。
「ちがっ、違う! あぅ……ちょっと、うぅ……そうかも……ごめん……」
なるほど、大体分かった。
つまらない嫉妬だけじゃない。
カオルは、トモについて重大な何かを隠している。