※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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第39話

 遠くで蝉が鳴いている。

 パンツ一枚だけのボクは、今朝も庭で水だけの朝食を済ませ、ジクジクと痛むお腹の傷を見つめる。

 

 三日前、母さんに切りつけられたお腹の傷は、ぱっくりと裂けていて、ピンク色の肉を覗かせている。

 一向に塞がる気配がない。

 このままじゃまずいことだけは分かるから、ボクは西部劇で見た格好いい俳優の真似をして、傷口を縫い付けることにした。

 

 遠くで蝉が鳴いている。

 

 ボクの家は、斜向かいが教会になっている。

 この日もあの歌が聞こえて、酷く嫌な気持ちになった。

 馬鹿なボクに教えてやると母さんが言っていたけど、何でも、神様がやって来てそれを誉め称える歌らしい。

 

 でも、本当は、神様なんていないんだ。ボクだけは騙されない。

 

 針と糸を勝手に使ったので、母さんは怒るだろうと思っていたけど、あまり怒らなかった。

 不格好に縫い付けたボクのお腹の傷を指差して笑った。

 ボクも一緒に笑ったら、気持ち悪いと殴られた。

 

 やっぱり、神様はいない。

 ボクを助けてはくれない。

 

 ボクは、ぼく、は……

 

◇◇

◇◇

◇◇

 

 ぼくの生活には、妙な空隙がある。

 カオルが出勤してしまい、父さんが帰って来るまでの一時間、ぼくにはやることがない。

 

 遠くで蝉が鳴いている。

 

 ぼくは台所で突っ立って、ずっと蝉の声を聞いていた。

 

 頭の奥がじんじんと痛い。昔の夢を見た後は鬱な気分になる。

 

 カオルを呼び出そうかと思ったけど、昨夜のちょっと怖い馨が来たら困るのでやめた。

 携帯が震え、画面に目を落とすとメール。

 皆川からだった。

 

 ――今から少し会えない?

 

 素っ気ない内容が気にかかり、ぼくは皆川の誘いに乗ることにした。

 台所の椅子に、カオルの大きなシャツが掛かったままになっていたので、それに袖を通した。

 

 自転車に乗って、朝の街を行く。

 皆川は商店街の入り口にあるコンビニの駐車場で、膝を抱えるようにして座り込み、ぼくを待っていた。

 

「あ……」

 

 今朝の皆川は、何だかおかしな表情。ぼくを見て、ちょっと苦しそうに眉を下げた。

 

「……大丈夫?」

「何が?」

「ごめん、あたしも分かんない」

 

 ちょっとおかしな皆川は、コーヒーを奢ってくれたので、ぼくも一緒に駐車場に座り込んだ。

 皆川はぼくのシャツを引っ張った。

 

「このシャツ、新城の?」

「あ、分かる?」

「だぼだぼじゃん。分かるって」

「変かな?」

「よく分かんないけど、何だか優しい気持ちになるね」

「ふうん……」

 

 コーヒーを啜るぼくに寄り添うように、皆川がぴったりとくっついて来た。

 

「なに?」

「なんとなく」

 

 皆川は、えへへと照れ臭そうに笑った。

 

「この前は、マジで助かった」

 

 コーヒーを啜る。

 

「あいつに付いてったあたしのツレ、連絡が取れないんだ」

「……」

 

 ぼくは言った。

 

「皆川、くさい。ちゃんとお風呂に入ってる?」

 

 皆川は、ちょっと疲れた笑顔。

 

「あはは、夏休みになって帰ってない。新記録更新してる」

「ちゃんと帰りなよ」

「親父がうるさくてヤなんだ。すぐ殴るし……」

「……」

 

 なんと言っていいか分からなかったので、ぼくは皆川の腰を抱いた。

 皆川は、ちょっと嬉しそうに、えへへと笑った。

 

「おっ、少年……御影、積極的じゃん……」

 

 小さいぼくより、やっぱり大きい皆川は165㎝くらい。ぼくが腰を抱いても、なんか締まらない。

 

「……お金とか、大丈夫? 幾らか貸そうか?」

 

 ぼくが言うと、皆川は、ぱっと笑った。

 

「マジで? 助かるわ~」

 

 取り合えず、ぼくはポケットの中のお金を全部、皆川に渡した。

 少し使ったから減ってるけど、それでも一万円くらいはあると思う。

 

「……」

 

 皆川は、お金を手にとって黙り込んでしまった。

 

「……どうしたの?」

「くしゃくしゃじゃん……」

「ごめん」

 

 皆川は、また苦しそうな顔になった。

 

「ねえ、あんた、これどうやって稼いだ? どんな気持ちで稼いだんだよ……ねえ……!」

 

 それが分からない皆川じゃない。詳しい説明はいらないだろう。

 ぼくは笑ってごまかした。

 

「……大したことじゃないよ」

 

 結局、皆川はお金を受け取らなかった。

 

 それから、皆川は家に帰ると言って、カオルの文句をさんざん言った。

 

「新城のやつは何やってんだよ……」

「……今はアルバイトしてるけど……」

「そんな話じゃない!」

「カオルは良くしてくれるよ」

 

 その後はパッパラパーの皆川に説教されてしまった。騙されてる、とか、ちゃんと相手を見ろ、とか。ノリでジャンキーを連れ回していたやつに言われたくない。

 

「あんたは、いい子だよ」

 

 皆川が偉そうに大人ぶって頭を撫でたので、ぼくは、ちょっとイラっとした。

 

「また会える?」

「それはいいけど……」

 

 皆川には期待している。

 ぼくは都合のいい時間帯を告げ、その後は、携帯の番号を交換して別れた。

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